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2005/05/05

  • その人

      僕のコードナンバーは 08004500 だとその人に教えられた。これからは名前ではなくその番号を名乗らなければならない。そしてその人の番号は何番だったろう。その人の名前を知っている。でも僕はその人の名前を忘れなければならない。「その人」や「あの人」と呼ぶことも、記述することも許されない。   ...

  • 警官

      僕たちがそんな話をしているところに警官がやってきた。「警官が来たぞ」と僕は思った。口に出してしまったかも知れない。一緒にいた友達が僕を見た。  警官は友達に用事があるようだった。友達は警官を無視して誰かに電話をかけた。「警官が来たぞ」とからかうような口調で話している。そして僕には同じ口調で違うことを言う。   ...

  • 砥石

      アクセルを踏み込もうとすると車道を逆走してくる白い商用車が見えた。慌ててブレーキをかけ、ぎりぎりのところで避けた。そんなことがあって僕は遅れた。仲間たちは先に行ってしまった。  そこで場面転換。白い商用車に乗っていたのは僕だった。運転者はわからない。「着いたよ」と彼は言った。だが車は走りつづけている。ひどく寂れた地区を‥‥  最終的に車が停止したのはガス欠のせいだった。粗大ゴミの集積...

  • アイドル

      僕はその部屋で僕のアイドルがやってくるのを待ちました。刑務所のようなホテルでした。廊下は既に消灯していました。闇の中をロボットが巡回しています。彼女は本当に来てくれるだろうかと思いました。でも来てくれたのです。  僕は扉の影から急に飛び出して、アイドルの腕を掴み、驚かせようとしました。彼女はちっとも驚かなかったですが。部屋に招き入れました。そして「当然のことだ」という態度でキスしたのです...

  • 大統領の首

      僕たち暗殺専門の特殊部隊が突入したときには既に大統領の首はなかった。僕たちは大統領の体に尋問した(紳士的に)、「あなたの首はどこへ逃げたんですか?」  左手の指と右手の指が違う方向を指した。ばたばたする両足は無視して僕たちは二手に分かれた。僕が向った方角に大統領の首は転がっていた。目を開けたまま眠っていた。眠ったまま笑っているようだった。その笑い声は違う方向から聞こえてきた。   ...

  • 会えない人

      エレベーターに、2階のボタンはなかった。僕は5階まで上がってから、階段で下りた。  そこは本屋だった。僕の友人は先に来ていた。本が棚から床に落ちていた。友人は床に座り込んで本を探していた。  突然向こうから大男がやって来た。大男は僕の友人を睨みつけた。 「もうすぐここに人が来る」と大男は言った。「お前はその人と会ってはいけない」  それを聞いて友人は姿を消した。  そして...

  • 三角関係

      さっきから雨が降っていた。傘をさすほどではないが、酔いは醒めた。  女のコ2人と、道を歩いていた。2人とも、僕を好きだった。どちらとつき合うか、選ばなければならなかった。  向こう側に走って渡ろう。突然、僕は言った。車道を、僕たちは横切った。誰かを、車が撥ねてくれる。だが3人とも、無事だった。   ...

  • 熱帯夜

      目覚めると夜のファミレスで、金髪を見かけた。無視しようと思ったが、向こうから声をかけてきた。 「何してるんですか?」 「勉強」 お前と話す気はない、という意味で言ったつもりだった。 「私も勉強してるんです」 「ファミレスで?」 「明日も同じ時間に来ます。勉強教えてください」 「うん、いいよ、わかった。一緒に勉強しよう」  厚底の靴を履いた背の高い女のコだった。 ...

  • パチンコ屋

      パチンコ屋の前に、バスが到着した。ホテル前のはずだった。僕はそびえ立つ前衛的な建築を見上げた。看板にはかわいい女のコの顔。店の地下に通じる階段を、その写真のコが上がってきた。服装は違うが、道行く人も、みな同じ顔をしている。   ...

  • 朝刊

      午前4時、1階の広い和室に、直接新聞が配達されていた。みんなまだ寝ている。僕は朝刊を拾い上げ、読んだ。先月の1日に起きた事件だ。それが今報道されている。  家人が起き出してくるころには、そのニュースは消えていた。紙面は、書き換えられていた。僕は和室の畳の上で、制服を着たまま、眠っていたらしい。   ...

  • 照明

      暗闇の中に漂う白い霧が闇の色をグレーにする。僕は目が見えないのに部屋の明かりを点けているのはなぜか。みんなの言う通りだ。電気代がもったいないじゃないか。  けど真っ暗な部屋では何かに躓くのだ。床に何が落ちているのだろう? 手でそれに触れてみる。匂いを嗅いでみる。でも何だかわからない。   ...

  •   役所に行った。バスに何時間も揺られて、やっと辿り着いた。持ってきた書類を受付で渡した。  次は健康診断だった。次はそうだと言われたわけではないが。‥‥健康診断の会場にたくさんの人が並んでいた。    待合室に問診票の記入の仕方を解説するおばあさんが1人いた。僕も自分の問診票を見せて質問した。「あんたのは少し違うねぇ」と彼女は答えた。 「こんなのは見たことがないよ」  おば...

  • 犬と猫

      僕の首筋に、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と猫が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に行った方がいいな」と別の猫が言った。 「人間の病院に?」 「おもしろいことを言うね、君は」   ...

  • 3台のピアノ

      その部屋には、大きなグランドピアノと、中くらいのグランドピアノ、小さなグランドピアノの、3台があった。  若い政治家は、大きなピアノ、その友人が、小さなピアノを選んだ。  大きなピアノの上には、サングラスをかけた人形が何体も乗っている。針金でできた人形だ(僕は人形のサングラスを外し、その茶色い瞳を見た)。  僕の選んだ中くらいのピアノの上には、貝殻が乗っていた(ヴィーナスが爆誕し...

  • レーザー光

      ルビー色の蜘蛛の糸のような、レーザー光線の上を、小人が渡ってきた。まっすぐ僕のところにやってきた。何の用だろう。用事はないのかも知れない。   老人と孫がいる。「写真を見せて」と孫が言う。老人は見当外れの答えを返す、「父からの電話を待ってるんだ」。満足しきった薄ら笑いを浮かべ。   ...

  • 駐車場

      僕の白いベンツを追い抜いて行ったセダンが、僕の停めようとした区画に駐車し、中から7人くらい降りてきた。みんな若者だった。僕は駐車場をもう半周して、停める場所を探した。  偶然かも知れないが、駐車中の車は、全部同じ、白いセダンだった。車種は様々で、古い車もあれば、新車もある。そして全部の車が、サランラップで包まれていた。  僕が悪戯心から、1台のラップを剥がすと、空気より軽い素材ででき...

  • 2人

      2人はいつも一緒、超仲良しだったが、その日は、一方の姿が見えなかった。 「もう1人のコは、今日はどうしたの?」  僕がそう訊くと、彼女は相方に電話をかけた。僕たちは2人でバスに乗っている。電話で、なぜか僕は怒られた。 「このバスは、どこへ行くの?」  その電話の後で、僕は訊ねた。彼女がもういちど相方にかけるのを見て、僕はまた怒られるんだなと思った。   ...

  • ぷかぷか

      君の声に呼ばれて、目が覚めた。あたりを見回したが、誰もいなかった。僕は、何もない部屋にいた。広い部屋に、ソファだけがあり、僕は、服を着たまま寝ていた。  重力が、ひどく弱かった。空気が、軽くなっていた。空気が、いくつかの泡のようになり、部屋の天井付近にプカプカと浮いていた。僕もときどき空気を吸いに、浮かび上がった。   ...

  • 日本展

      スクランブル交差点を渡って、まっすぐ前、大きな公園に見えるのは、野生動植物の保護区だ。左に行くと、商業地区に出る。日本文化を紹介する「日本展」のポスターが見えた。  車道の幅は、何キロもある。歩行者用の信号は、いつまでも青。僕たちは人混みに紛れて、ゆっくり歩いた。雲の上を行くように、ふわふわと。縦横数百メートルはある、巨大な3Dポスターの前で、記念写真を撮った。   ...

  • 伴奏

      それはミュージカルのような、手品ショーのような、前衛的な舞台で、観客席も、ステージの一部だった。青いドレスを着たソプラノ歌手が、口を閉じたまま歌う。ピアノで伴奏をしているのが、君だ。僕は呼ばれて、ピアノの脇に立った。それは右に行くほど、低い音が出るようになっているピアノだ。鍵盤のいちばん右端で、ト長調の和音を押さえた。すると、僕たちの体は膨らみ、宙に浮いた。   ...

  • 赤いボタン

      彼の背中にはフタがついていた。フタを開けると赤いボタンがあった。僕は訊いた、「このボタンを押すとどうなるの?」 「死ぬよ」別の人が答えた。 「あなたには訊いてないよ」  僕はもういちど同じ質問をした。  しかし彼は永久に答えてくれなかった。   ...

  • ロボットの息子

      母親は暑がりだ。息子はロボット。息子は暑さ寒さを感じない。そんなわけで息子の経営するカフェに冷房は入ってない。異常に暑かった。客として訪れた母は冷房を入れてほしいと思った。  息子は応じない。母親は息子のスイッチを切ることにした。リモコンで操作したが息子はなかなか停止しない。「時間がかかるんです」と僕は説明した。「緊急停止ボタンを押しますか?」 「アンタ誰?」 「それよりもブライ...

  • 短い髪

      君は、先に出た。後から行くよ、と僕は言った。  歌を歌いながら。  ホテルの浴室で、君が長い髪を洗っている隣で、僕も髪を洗っている。  僕の短い髪の方が、乾くまでに長い時間がかかるのは、なぜだか知らない。  大理石の床が、水面のように煌めいて反射する。   ...

  • ドアノブの絵

      僕の家のドアは薄い1枚の紙でできている。ドアにはドアノブの絵が描かれている。ドアノブには鍵穴が描かれている。鍵の絵はまだ描けてない。ドアに鍵をかけることはできない。  家の中にはたくさんの人がいる。昼だ。1人がこれから出かけると言うので、僕はドアの絵をドア枠から外した。彼は車に乗ると言う。乗る直前まで風呂に入っていたい、と言う。外は寒いからな。   ...

  • 赤い服

      赤い服が踊っていた。透明人間が服を着て踊っていたのか。  服自体が踊っていたのか、透明人間なしで。  踊りが終ると服は元の場所に帰った。透明人間が服を脱いで返したのだろうか。   ...

  • 呼び出し

      呼ばれた名前は、僕のものではない。それでも僕は立ち上がり、前に進み出る。名前は、小学校の同級生のものだ。とても珍しい名字。彼に会いたかった。  彼を呼び出した男が、僕を見て言う。「お前も、違うな?」  違います。  後から次々と、人は集まって来る。舞台に上がったみんな、彼ではない。席に1人残っている男も、彼ではない。   ...

  • 不死鳥

      地獄で僕はたくさんの嘘をついた。  僕は不死鳥、自殺が趣味。噴火する火山にダイブするタイプ。この間も活火山の火口で、それを試みた。それでも死なない。今日復活した。   ...

  • 来客

      はっと目を覚ますと、ベッドの周りに、僕を見下ろす、複数の顔が。「来たよ」「来たよ」「来たよ」「来たよ」と順番に、同じ言葉を言った。  そして、‥‥僕の番になったようだ。「来たんだね」。僕は言った。来客たちは満足そうに頷き、1人、また1人と消えていった。   昨日見た夢の話です。来客があり、僕は部屋に掃除機をかけていました。床は埃だらけでした。 と思ったら違いました。埃の塊だと思っ...

  • 注文の多い自動販売機

      機械の音声は、まず最初に、クレジットカードを入れるように言った。僕がそうすると、次に銀行のキャッシュカード。そしてスマホを持っているなら、スマホも入れろと言い、口を開けた。僕は入れたくなかった。長い時間ためらった。その間機械は、沈黙した。僕のうしろに並んでいる人たちが、ざわつき始めた。   ...

  • 中止

      地下鉄の駅前、頭にタオルを乗せている人たちが列をつくって何かを待っていた。  雨が降ってきた。列の先頭にいた男が、「中止だ」と叫んだ。しかし彼の言葉に反応する者は誰もいなかった。 「中止だ、中止だ」男は繰り返した。彼が繰り返すたびに、雨は強くなった。同じロゴの入った白いタオル。   ...

  • ゴミ

      掃除機で吸い取っていく。床に落ちているゴミは、美しい花の形をしていた。掃除すればするほど、部屋は汚くなった。  部屋の主が帰宅した。花束を持っていた。花瓶に活けた。僕はすかさず、掃除機で吸い取った。  ちゃんと確認はしたのだ、「これはゴミですよね?」 「そうよ」と彼女は言った。   ...

  • 通路

      席の間に通路がなかった。僕たちは椅子の背を乗り越えて進んだ。  椅子は普通と比べてかなり立派なものだった。靴で踏んづけられてもいいように頑丈につくられているのだ。  背もたれの部分に僕の名前が書いた紙が貼りつけてあったので自分の席がわかった。  他のみんなはどうやって見つけたんだろう、自分の席を。   ...

  • 蜘蛛の巣

      煙も出なかった。灰も残らなかった。巣に捕えられた小さな虫たちが逃げ出した。僕はライターで火をつけていく。蜘蛛の巣は燃えた。ボワッ、ボワッと。僕は蜘蛛たちと一緒に、燃える蜘蛛の巣を見ていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。   ...

  • 夜警

      手に大きなキャベツの葉を持ち、ゆったりと扇ぐ。冷房はなかった。あるのは大きすぎるキャベツの葉だけだ。暑がりの君に風を送った。 「それキャベツでしょ? 食べるものでしょう?」  君は問うたが、僕は返事をしなかった。    気づくと朝だった。詰所の夜警さんが、僕たちに言う。「もう1人の夜警と話し合ったんだがね、俺たちは、もう眠らないことにしたよ、1日中起きてるんだ、ずっとね」 ...

  • 洗濯バサミ

      学校なのか仕事なのかはっきりしないが、休みたくて、布団の中から電話をしている。体調は良いわけではないが、寝てなければならないほど悪くもない。むしろ精神的なストレスからくる何かが、僕にそうさせるのだ。  無意識の内に僕は、自分の頬を洗濯バサミでつまんでいた。痛くはない。ちょっと違和感を感じるくらいだ。頬に何個か洗濯バサミをつけている。2階のバルコニーに立っている。手に色落ちした白っぽいジー...

  • コルセット

      トイレには3人の若者がいて、鏡の前で、髪を梳かしていた。  1人、凝った髪型をした男の頭蓋骨には、紐がついていた。仲間が2人、その紐を引っ張っていた。コルセットの紐を引っ張るようにして。   ...

  •   僕の首筋には、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と大人が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に連れて行った方がいいな」と別の大人が言った。 「誰を連れて行くんだ?」ここからは大人同士の会話だ。大人の話を聞いていると眠くなる。   ...

  • 行列

      雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。   ...

  • 雲の上

     「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。  中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。  僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。    そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。  雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。   ...

  • 無口な男

      いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。  途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。  後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...

  • 沸騰

      僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。  匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。  鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...

  • 熱と光

      光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。   ...

  • 音の形

      音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。  僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。    僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...

  • キッス・オン・マイ・リスト

      僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。  その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。   ...

  • ロレックス

      テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。  暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。   ...

  • 幽霊

      雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。   ...

  • フランス料理店

      ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。  僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。  駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。   ...

  • 昼のアンテナ

      僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。    店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...

  • 自伝

      友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。  そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。   ...

  • 訓練

      韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。  虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...

  • 雪道

      さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。  君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。   ...

  • 三角

      男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。   ...

  •   寺で女の子が雑巾掛けをしながら僕に言う。「おならが出そうなの」 「出せば?」と僕は答える。そして僕も屁をこく。  ...

  • 盗み

      電話の声が、僕に盗みをするように促す。「盗めって、何を?」僕はペットボトルの水を盗んだ。  すると「段ボールごと盗みなさい」  僕はトラックを借りて、荷台に段ボールを積み込む。在庫を全部。誰が通報した。パトカーが何台もやってきた。そのうちの1台に、君が乗っていた。  君と、3人の偽警官。その車に乗って、僕は走り出した。   ...

  • 하駅のスタバ

      濁った水の中を歩いているようだ。いつの間にか地下鉄の하駅に来ている(実在しません)。スターバックスに行きたい。見つけた。僕らは従業員専用の入り口の前に立つ。出入り口はそれしかない。  駅の構内は冬の植物園のようでむっとする。霧が出ている。日本車が展示してあった。車内には草木が生い茂っていた。霧はさらに濃くなった。何も見えなくなった。   ...

  • ショール

      僕は君に本を読んだ。朗読しながら、町中を歩き回った。カフェのテラス席で、ランチの間も読んだ。  ショーウインドーの中の、ショールを見ている。肌寒くなってきた。背中から君を抱きしめた。雨が降り出した。君は下着をつけていなかった。  海岸に出た。海水は砂浜と同じ色だった。彼方まで砂浜がつづいているように見える。足元に海水が来ているようにも見える。木の椅子に老人が腰掛けている。その隣に僕た...

  • お見舞い

      暗殺者が僕を撃った。頭を狙った弾は外れて肩に当たった。スマホのカメラを構えた通行人が一斉に倒れた僕の写真を撮る、動画を撮る‥‥  血の海の中で僕は気の利いた最期のセリフを考えている‥‥  救急車は僕が気を失う直前に到着した。    アニメの登場人物のような青い髪をした男が病院から君に電話した。君はやってきた。お見舞いにたくさんの本を持って。  青い髪の男は、まだ電話中。...

  • 飛躍

      子供が僕に笑いかけてきた。その子は本来は、とてもシャイなのだろう、自分がなぜ知らない大人に笑いかけているのか、説明を始めた。  彼女の説明は長く、飛躍が多く、そしてわかりづらかった。(というかワケがわからなかった。)  全部話し終えると、彼女はもう笑顔ではなかった。その真剣な目は、少し怒っているように見えた。「友達になってあげようか」とその子は僕に言った。   ...

  • リモコン

      自動ドアの前に足を置いた。僕の体重は軽すぎて扉は開いてくれなかった。店の従業員が出てきて、僕にリモコンを手渡す。次からはこれで開けてくださいと言う。  僕はリモコンを手に町の通りを見て回った。いちばん大きな店に入ろうと思って。だが店は全部同じ大きさだ。(リモコンをあっちこちに向けて、開くのボタンを押した。)   ...

  • デパート前

      食事をするために僕はそのデパートへ向った。だがどうしても辿り着けなかった。最初は徒歩で向った。次は路面電車で。「デパート前」という停留所で降りればいいはずだった。  海外からの観光客がいた。彼らもそのデパートへ向うようだ。僕は後をついて行った。それでも辿り着けなかった。   ...

  • 食料品店

     舞台は2〜30年前のフランス、パリではない地方都市。エピスリーと呼ばれる小さな食料品店。コンサートに行く、君が演奏する。(食料品店の中で行われる演奏会)紙のチケットを持った人たちが並んでいる。予約はしたが僕はまだ発券してもらってない。「チケットは持ってる?」「持ってない」君との会話は英語。君は茶色いツーピース(セットアップ)のスーツを着ている。肩にかけた大きな、重そうなバッグ...

  • Tシャツにヒゲ

      レストランの案内された席についたとき、何の脈絡もなく僕はヒゲを抜きたくなった(しかし鏡がない)。  すると1人のおばさんが目の前に立った。おばさんのTシャツにはヒゲが生えていた。僕はそれを抜くことで自分の欲求を満足させたのである。      ...

  • 動物園

      小雨の中、動物園まで駆けた。  結局使う機会はなかったレインコートがポケットの中にあった。走っている内に雨は上がった。そもそも小雨だった。  動物園の中からたくさんの人が出てきて駐車場へ向う。今から入ろうとするのは僕だけのようだ。動物たちの匂いがする。動物たちの鳴き声が聞こえる。僕を呼んでいるみたいだ。   ...

  • レーニン

      彼はイクときに「レーニン」と叫ぶ癖があった。隣の部屋にいてもその声は聞こえた。「誰?」と後で僕が質問すると、彼は恥ずかしそうに顔を伏せた。そして「知らないのか?」と逆に訊いた。   ...

  • 頷く

      彼はテレビを見るのが好きだ。いつも頷きながら見ている。彼は本を読むのが好きだ。いつも頷きながら読んでる。  彼は僕の話を聞くのが好きだろうか。僕の話を聞くときには絶対に頷かない。    彼の手足は細い。昆虫の手足のように細い。僕は話をしながらその手足に生えた毛を見る。   ...

  • 硫酸

      何でも溶かしてしまう硫酸のプールにその人が両足を浸したとき悪魔がやってきたので僕は逃げた。  その人は悪魔につかまってしまうだろう。両足はもう溶けているだろう。逃げられないだろう。  だけど悪魔は言うのだ、「あのコの足は溶けないよ」 「お前の足はどうだい? 逃げられるのかい?」  僕は逃げた。「綺麗な足だね」。ここは地獄だ。エレベーターで地上に帰ろうと思いボタンを押した。 ...

  • 前向き

      子供を連れた若い母親が後ろ向きに歩いていた。 「あなた、後ろ向きに歩いてますよ」と教えてあげた。「子供もです」 「こっちが前ですよ」僕は母親と子供の向きを直してあげた。  すると母親はものすごい勢いで前に進み出した。子供は置き去りになってしまった。   ...

  • ウェスト

      ウェストが細い人形が好きだと、その人は僕に宣言した。突然のことだった。  手に「ウェストが細い人形」を持っている。 「ウェストが細い人間には興味はないんだ」 「ウェストが太い人間は?」  その質問には答えず「ウェストが太い人形は嫌いさ」   ...

  • 使者

      使者がやってきた。僕は「それ」を手に使者につづいた。「それ」は僕の手の中で形を変える。「それ」が元々何であったかはわからない。  今僕が手にしているのは銃だ。僕はスーパーにいた。真っ昼間なのに店は閉まっている。日曜日なのかも知れない。使者はもういない。僕も何でここにいるのかわからない。(銃を早く捨ててしまおう。)   ...

  • 強盗

      みんなが体操服を着て体育館で体育座りをしている最中に、僕は2人の女子と抜け出して拳銃を手に、スーパーに盗みに入った。  僕たちは拳銃で店の人たちを脅したくさんのお菓子を盗るつもりでいたが店内には誰もいなくて拍子抜け‥‥  もう拳銃は使わない。僕はそれを分解してポケットの中に入れた。結局何も盗らずに外に出た。女子2人はいなくなっていた。僕は自分が靴を履いていないことに気づいた‥‥ ...

  • 透明

      僕らが乗り込んだ車は、ドアもシートも、すべて透明だった。  後席に、君と腰掛けた。すると僕らの着ていた服も、透明になった。  しかし君はまるで表情を変えなかった。それで僕は、(僕の目にだけそう見えるのだろう)と思い込もうとした。    しばらくして目が慣れてくると、君の、ブラジャーなどの下着が見えてきた。見えたような、気がした。   ...

  • デュエット

      ステージに向う通路で、僕は僕とデェエットする歌手のキワドい衣装を初めて見た。  別に何も着なくてもいいのよ、と彼女は言った。誰も見てないから。  あなたも着なくていいのよ。観客はいない。  僕は言い返した。この服気に入ってるんだ。  あっそう。    僕たちは舞台に上がった。彼女の言うとおり誰もいなかった。バックバンドさえいなかったが、構わず僕は熱唱した。  彼女...

  • 天国

      天使が落した爆弾は、爆発するときも音を立てなかった。光も熱も発しなかった。それはただ炸裂し、そして景色が変わった。天国に人がいなくなった。   ...

  •   町は奇妙だった。何が奇妙なのか最初はわからなかった。今やっとわかった。影が長いのだ。日が傾いているわけでもないのに、ありえないほど、地平線の彼方まで伸びる影を引き摺って、人々は歩いている。  日は、永遠に高いまま。そしてなぜか、人々の歩くスピードは、全員同じ、秒速5センチメートル、みんなゆっくりだ。気づいたのだが、彼らは、ノロノロと、僕を追いかけているのだ。      ...

  • 配給のパン

      配給のパンをもらうために並んだ。その列の隣に並んでいるのは金を払って買いたい人たちだ。 「同じパンなんでしょ?」と疑問に思って僕は訊いた。 「同じじゃないわ」金持ちのおばさんたちは反論した。 「食べ比べてみようよ」僕が配給のパンを一欠片渡そうとすると、 「あなたからもらうわけにはいかない」おばさんたちは断った。  そしておばさんたちは配給の列に並んだ。財布を手に持っている...

  • 口紅の色

    「最近はこんな店で遊んでいるのね」、そこはどう見ても学校の教室だったが。  そのちょっと派手な女の人は、記憶を失った僕のところにやってきて、そう言った。 「その男、彼氏?」  女のもっと派手な友人たちが彼女をからかう。 「そうよ」と女は言った。  そしてピンク色の唇を僕に突き出し、クラスのみんなの前でキスしてと言った。その口紅の色に見覚えがあった。   ...

  • ゴミと靴

      店内で手に取ったブーツの中には、たくさんのゴミが入っていた。紙屑の他に、生ゴミもあった。僕の手持ちのゴミをそこに加えると、それ以上何も入らなくなった。  僕はそのブーツを、陳列されている他の靴の奥に戻した。  そしてまた違う靴を手に取り、とてもいい靴だねと褒めてから、試着していいかと店員に訊いた。すると店員は、裏からゴミを持ってきて、これをお使いくださいと僕に手渡した。   ...

  • 野球

      僕たちが2人で野球を始めると、見ていた人が「何をしているんですか?」と訊いた。 「野球です」と僕たちは答えた。 「一緒にやってもいいですか?」 「いえ、そのまま見ていて下さい」    その人はまだ僕たちを見ている。  通りかかった人に「何をしているんですか?」と訊かれると「野球です」と嘘を答え、 「あなたも一緒にやりませんか?」   ...

  • 獣の眠り

      目覚めると僕は毛皮のある動物になっていた。本能に従い自分の体をあちこち舐める。そうするとなぜか眠くなった。寝て起きたばかりなのに。  となりには自分と同じような動物が寝ていた。もぞもぞと体を動かし始め、‥‥彼(彼女)は目を覚ましそうだ。僕はそいつの手足を軽く舐めた。そうするとそいつはまた深い眠りに落ちる。   ...

  • 昨日

      難病の子供を手術した。治ってすぐに退院した。毎日同じ手術をしている。まるで日本中の子供がこの病気に罹るようだ。手術しても治らない者もいる。手術の順番を待っている間に手遅れになる子もいる。  「僕は治るの?」と昨日の子は訊いていた。「治るよ」と僕は答えた。「治ったらどうなるの?」「退院して家に帰って遊ぶんだろ?」「そっか」  「治らなかったらどうなるの?」「それは難しい質問...

  • 炊飯器

      炊飯器で、ご飯が炊きあがった。炊きあがってすぐに食べなかったので、それは水になってしまった。気をつけていたのだが、また米を無駄にしてしまった。もうお腹はすいてなかった。僕はその水を一口飲んだ。   ...

  • ゲームのルール

      床の青いタイルだけを踏んで移動していた。それは僕がルールを決めたゲームだった。宮殿のような家だった。1人で住んでいた。たくさんの部屋があったが、青いタイルがないせいで、僕には入れない部屋が多かった。   ...

  • 完璧な俺の

      その女性がお団子にまとめていた長い髪をほどくと、彼女に対して歌が歌われた。  完璧な俺の、俺の、俺の‥‥  という歌だ(歌詞はもう思い出せない)。   夏の海辺だった。男たちが順番にその歌を歌った。その女性の気を引くためだが、彼女は誰にもなびかなかった。  最後に僕の番になった。知らない歌だったが、何度か聞いているうちに歌詞とメロディは覚えた。  ほんとに歌わなければな...

  • 花びら運搬車

      そこ。そこには高いビルがあって、地下には地下鉄が走っている。僕は徒歩でそこへ向っている。そこは都市だ。 「時間がかかるんじゃない?」心の声が君の声色を真似して懸念を僕に伝える。 「かかるかもね」   途中、僕は川辺で桜を目にする。花は半分以上散ってしまっている‥‥   そこから僕は急ぐことにして、車に乗る。助手席に、桜の花びらが積んである。振り返ると後席も、ピンク色の花び...

  • 白い鞄

      ホテルにチェックインした。フロントの女性は僕の持っていた白い鞄に向って、「いつもありがとうございます」と言った。  鞄は「今回もお世話になります」と応えた。  僕に対しては威張り腐って「ルームのキーを受け取っておいてくれたまえ」  僕はフロント係からキーを受け取り、鞄を部屋まで運んだ。    排便中、なかなか尻を離れていかないウンコに向って、僕が「降りてね、降りてねぇ」と...

  • 草原

      大木をくり抜いてつくった家に僕たちは住んでいて、外に出ることは滅多にない。出たところで、家の周りには何もなかったし。  そこは草の生えていない草原のようなところ。地面に穴が開いていて、木でできたマンホールのようなフタがしてある。  ときどき、僕たちは、フタを開ける。すると決まって、大雨が降ってくる。わけもわからず、僕は大笑いする。びしょ濡れになって、君は踊り出す。   ...

  • 透明

      飛ぶ。だがある高さ以上に昇ることができない。空に透明な天井がある。それがおもしろくない。僕は地面を歩くことにした。動物のように四つん這いで。羽根はもうなくなっていた。  見えない雨が降っている。僕は透明な傘をさしている。傘をささないで歩いているように見える。それがすごく格好いい。   ...

  • 白い紙

      台の上に置かれた小さな紙を、みんなが覗き込んでいる。何か文字が書いてあるが、誰も読めない。僕もそれを見てみた。  そこは空港だった。けれど飛行機に乗るために来たわけじゃない。たくさんの人がいた。誰もが小さな、白い紙を手に持っている。紙には文字が一文字書かれている。僕はそれをつづけて読んでいく。(意味の通らない文章になる。)  ...

  • ゴールポスト

      僕はネットのないゴールポストを見た。ゴールポストは1つしかなかった。その女子サッカーチームの本拠地は北海道にあった。グランドは冬の間雪に埋もれて使えなかった。チームは試合も練習も一切やらなかった。  この間やっと春になった。また試合をすると連絡があった。僕は飛行機に乗って北海道まで行った。応援に行った。しかし試合には選手も観客も来なかった。   ...

  • スタート

      君の服は鏡のような素材でできている。ロングスカートに僕の全身が映る。僕のコートも鏡でできている。昼の12時にその2つが合わせ鏡になると、映り込みの奥から誰か出てくる。男とも女ともつかないそいつが、午後の始まりを告げる。  鉄が夜になると錆びて、昼になると輝く、ということを繰り返している。   ...

  • 一時停止

      夢の中で僕は、カタカナとハングルの合いの子のような文字を読んで、発音しようとしているが、うまくできない。  その間も動きのない目の前の光景は、写真というよりも、一時停止状態のビデオ映像に似ていた。  君がその一時停止を解除するボタンを押す。すると僕の口から、日本語でも韓国語でもない、その聞いたことのない言葉が流れ出して、  僕は自分が何を話しているのかわからない。君はまた一時停止...

  • 校舎

      高校の校舎がホテルになっていた。僕は3年2組の教室に1人で泊まった。広すぎるシングル・ルーム、でも部屋にはトイレもなかったし、手を洗う場所もなかった。  緑色のシーツを持って、係の人がやってきた。とても大きなシーツ、そのシーツで彼は、教室の机と椅子と黒板と壁を全部覆った。僕は窓際の席に座って、その様子を見ていた。   ...

  • 空中浮揚

      警戒怠りなく眠る僕の隣に、まったく無警戒に起きている君がいる。見て。君は完全にリラックスして、空中浮揚し始める。風船のように、天井まで行く。その後ゆっくり落ちてきて、僕の隣に。   ...

  • 2軍落ち

      トンネルを抜けると終着の駅だった。料金は駅の改札を出るときに現金で払った。連れの女性が細かい小銭を出してくれた。日本円にすると1円にも満たないコインを。  その女性は野球選手だった。ポジションはセカンド。「また2軍に落ちた」「もう引退しようかな」そんな話をしながら駅構内を歩く。 「諦めるのは早い」  だって彼女はまだ10歳かそこらだ。僕の前を月面を歩く人のようにぴょんぴょん飛び跳...

  • バス停

      僕たちが乗っている路面電車の床は透明だった。電車が走っている地面も透明で、地下の様子が見えた。  地下の人間は1人で行動していた。家族連れやカップルはいなかった。全員がお1人様だった。  僕もいつか地下に行くときは1人で行かねばならないだろう‥‥    あぁバスが停車している。バス停でもないところで。それは僕のためである。礼を言って乗り込んだ。  バス...

  • 夜来たる

      夜は自分こそが夜だと信じている人を一緒につれてきた。  その人は女だった。若い女だった。彼女は何も食べなかった。  トイレにも行かなかった。いつも寝ているか、寝ているふりをしているかどちらかだった。  僕は彼女とずっと一緒に過ごしたが1人きりでいるようなものだった。    この間の夜がまたきた。  夜は自分こそが夜だと信じている女をまた1人つれてきた。  彼女たち...

  • 留学

      日本への留学は延期しろと父は言った。どうしてと私は訊いたが答えはなかった。日本人のボーイフレンドを父に紹介した直後だ。父は私たちの交際は認めてくれた。それどころかいずれ結婚するんだろうとまで言った。彼の実家のある和歌山のことを訊いていた。彼は片言の韓国語でみかんのことなどを話していた。  台風がよく来るんです。ソウルにも台風は来ますか?   来るよ。でもあんまり大きなのは来ないな。...

  • 似た人

      君に似た人を町で見かけるたび、僕の胸は高鳴る。君に似た人は、そこら中にいる。だから僕は、その中でも特に君にそっくりな顔を探した。  あまりにも似た人を見つけたので、本人じゃないかと思い声をかけてみる。君の名を呼んだのだ。そうすると、僕の周囲にいた女性全員が振り返ってこちらを見た。僕は愛に取り囲まれた。   ...

  • 超能力

      超能力のある連中が集団で僕を襲った。まず心が読めるやつが僕の心を秘密を覗いた。念力のあるやつや瞬間移動ができるやつにされたことよりも、それがいちばんキツくて、僕は動揺した。   ...

  • 労働者

      その部屋の中には歌を歌っている人たちがいたが、彼らはまるで労働する者のように疲れていた。僕は冗談で歌に加わった。歌詞はドイツ語か、オランダ語のように思えたけどよくわからない。歌詞を英語に訳したものをもらった。   ...

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