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小説と物語の集う空間 https://fanblogs.jp/akira715/

1〜15分で読める短編小説です。 より良く書けているものだけを掲載し、ジャンルも様々あります。

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2018/11/28

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  • ゴーストライター (オカルト)

    私が全力で書いたショートショートです。 よろしくお願いします。 田中はヘッドフォンを外すと、驚いた表情で私を見た。 「……いやぁ、素晴らしい。こんなにも心に響く曲を作ることが出来るなんて、キミの才能は恐ろしいね」 私は「いや」と小さく首を横に振る。 「ありがとう、と言いたいところなんだけどね、実はこの曲は、私が作ったんじゃないんだよ」 「え? そうなのかい?」 「ああ。キミ…

  • ゴーストライター (オカルト)

    私が全力で書いたショートショートです。 よろしくお願いします。 田中はヘッドフォンを外すと、驚いた表情で私を見た。 「……いやぁ、素晴らしい。こんなにも心に響く曲を作ることが出来るなんて、キミの才能は恐ろしいね」 私は「いや」と小さく首を横に振る。 「ありがとう、と言いたいところなんだけどね、実はこの曲は、私が作ったんじゃないんだよ」 「え? そうなのかい?」 「ああ。キミ…

  • ゴーストライター (オカルト)

    私が全力で書いたショートショートです。 よろしくお願いします。 田中はヘッドフォンを外すと、驚いた表情で私を見た。 「……いやぁ、素晴らしい。こんなにも心に響く曲を作ることが出来るなんて、キミの才能は恐ろしいね」 私は「いや」と小さく首を横に振る。 「ありがとう、と言いたいところなんだけどね、実はこの曲は、私が作ったんじゃないんだよ」 「え? そうなのかい?」 「ああ。キミ…

  • 大人になるということ

    ご覧いただきありがとうございます。 さて今回は、「大人になるということ」というショートストーリーを執筆しました。 以前書いたものをリニューアルしたものです。 ほのぼのしつつも、意外なラストに力を入れて書きました。 こちらにて、公開しています。 気軽に読める文量ですので、よろしくです

  • 大人になるということ

    ご覧いただきありがとうございます。 さて今回は、「大人になるということ」というショートストーリーを執筆しました。 以前書いたものをリニューアルしたものです。 ほのぼのしつつも、意外なラストに力を入れて書きました。 こちらにて、公開しています。 気軽に読める文量ですので、よろしくです〓

  • 何気ない日常

    ミインミンミンミ〜 庭の緑は深く、忙しなく蝉が鳴いている。空は新鮮な青で、目に痛い。 木造建築の古ぼけた家。その縁側の少し手前、影になる部分に年老いた男は座っていた。その横には薄く切られた西瓜がお盆に乗せられ、置いてある。 「あなた……」 後ろから声がかかる。振り向くとそこには、着物を着た妻の加代子が正座していた。 「あなた、西瓜は召し上がらないの? 食べたいと仰っていらしたから、買っ…

  • 空の海

    くゆりくゆりと、空を漂う。波などない、静かな水面。暗い、黒い、一面の無に支配された空間を、たった一人の少年が横たわっていた。 瞳を閉じたまま、昼寝でもしているかのように規則正しい息を吐く。 ただ、実際に寝ているわけではなく、彼の瞳は遥か彼方、まばらに散った光を捉えていた。 音もない。ただ瞬く光点が、独特のリズムで心に響いている。何をすることもなく、ただ宙に浮かびつづける。 …

  • 私の居場所

    断続的に揺れる電車。影が、赤い日を遮って視界を横切っていく。 その日一日遊び倒した疲れを抱いて、私たちは並んで座っていた。そうしていると、まだまだ小さい私は、貴方の肩ぐらいまでしかない。足も、床につけることができず、ぷらぷらと浮いてしまう。 貴方はその長い足を、簡単につけてしまうのに。軽く組んでも、それは変わらないのに。そんな妙な組み合わせの私たちを気にする人は、周りにほとんどいな…

  • サイレンス

    雑踏。雑音。 周りには、誰もいないのに。音だけは、世界に流れ込んでくる。だから、窓を開けるのは嫌い。カーテンも。開け放ったりしたくないのに。 今日もまた、朝に侍女がきて、部屋の窓を開けていった。 少しだけ高い所にある出窓。押し開かれた窓は、とても手が届かない。風に揺れる真白いカーテンはその本来の長さよりも高く舞っていて、掴むことすらできない。 入り込む、暖かな日差しと、…

  • 詩 Tear friens

    すぐに泣き出す僕を 軽蔑するかい 情けないと思うかい Tear my friends 夢を見ているんだ ずっと ずっと 何かが割れて 君達が死んだ 僕は一人だった もし僕が死んだら 寂しいかい 泣いてくれるかい Tear my friends 僕が見えない 何も 何も 僕は一人で 夜空を仰いだ 綺麗だった 気付いたら 僕の名前を呼んで欲しい Tear my friends いつも ありがとう

  • ずっと一緒に

    ずっと一緒に…… ●六月一日(月) 今日、会社の『カウンセリング室』というやつを利用してみた。 カウンセラーが常駐していて、 『精神面からも社員の福利厚生を図る』という社の方針で設けられた。 くだらないと思っていたが、 まさか自分がお世話になるとは思わなかった。 私は妻を殴ってしまう。 いけないことだと自覚しているのだが、やめられない。 カウンセラーが日記を書くと良いと言った。…

  • 性格適合薬

    「やった、やったぞ」 O博士は小躍りして喜んだ。新薬の試作に成功したのである。政府からの潤沢な資金援助がなければこうすんなりと成功を収めることは難しかっただろう。 近年、離婚率の上昇が社会問題となっている。その原因の上位を占めるのは「性格の不一致」であった。博士の発明した『性格合致薬』は、服用した人間の性格を配偶者のそれと同じように変質させることができたのだ。趣味に人生哲学、食べ物やタレント…

  • 星拾い

    さあ、出かけよう。 空に瞬く、星を拾いに。 「そっち、もう少し右だニャン」 大きな袋を肩にかけたブチが言う。それを受けてシロは、ほんのちょっとだけ宙を掻くと、自分の右手に移動した。 「違うニャ。右に行くニャ」 「言われたとおり、右に行ってるニャ。いったい何が不服なんだニャン?」 「何で右といっているのに左に行くニャン?」 「ちゃんと右に行ってるニャ」 と、呆れ…

  • 豆腐屋の主人

    「僕、命ってのはな、豆腐と同じなんだよ——柔くて脆いから、大事に扱わねえと駄目だぜ」 彼は豆腐屋の主人。毎日毎日豆腐をこさえては、嬉しそうに店頭に座り、常連客と談笑する。 まばらに延びた無精ヒゲ、薄くなりかかった頭、太く濃い眉。見た目は不潔な中年親爺で、結婚もしていなかったが、本人はいたって幸せそうに、豆腐とともに人生を生きていた。 「一度壊れちまうと元には戻せねえ。だから、大切に…

  • 聖夜を呪う

    シャンシャンシャンシャンシャンシャン……。 聖なる夜空を鈴の音が横切る。 シャンシャンシャンシャンシャンシャン……。 トナカイのソリにまたがるは、お馴染みの真っ赤な衣装。 「さて、次は……」 と、豊富な白髭を蓄えた口元から独り言が洩れた。日本語である。そう、このサンタクロースは日本人なのだ。 黒須三太、二十九歳、独身。サンタ歴七年。日本サンタクロース大学、通称ニッサン大を出て、正規…

  • 伯林・地獄の工場

    ギュンターは友人のハンスヨアヒム、その恋人のエンマとともに、工場に行った。今の会社を辞めて転職をするという相談がまとまったのだ。3人が転職先に選んだのは農薬工場である。ギュンターは10年前にその工場に勤めていたことがあるので、内部の様子はだいたいわかっている。 ギュンターは、肉体労働の経験がない2人をなかば蔑むような気持ちで、工場の作業の辛さを得意げにまくしたてる。 工場に通じているら…

  • 蒼想

    水槽の水がポコポコと鳴った。ついさっき、ほんの五分前に主を失くしたそれは、 哀しんでいるようにも見えたし、そうじゃないようにも見えた。 無意味に送ら る空気を受けて、無意味に清浄される水。 用無しとなったガラスケースを哀れむほど、わたしはいい奴ではない。 冷蔵庫とガス台とテーブル。およそ生活感のないその部屋は、白くて広い。 ひんやりとしたフローリングの床に仰向けに寝転がったま…

  • トロルの遺言

    木こりが山を歩いていると、茂みの向こうから何かうめき声が聞こえてきました。不思議に思い覗いてみると、熊のように大きなトロルが、狩人の仕掛けた罠に足を挟まれ苦しんでいました。 トロルといえば人食いの鬼です。木こりは少し恐ろしくなりましたが、トロルの苦しむ様はあまりに哀れだったので、助けてやろうとトロルのほうへ近づきました。 木こりに気がつくと、トロルは警戒したのかうなり声を上げました。 「…

  • 遺書

    拝啓 突然のお手紙、失礼致します。 貴方は私のことを、学もなく何も考えていないものとお思いだったようですから、このような手紙を残したことにきっと驚かれていることでしょう。 もう長い付き合いになりますね。 初めて出逢ったのは十五年ほども前、駅前の眼鏡屋のことだったでしょうか。 貴方が「一目惚れした」と言ったとき、戸惑いつつも本当に嬉しく思ったのをよく憶えております。 知っておられたと…

  • 詩 水

    宙に浮かんで 下を見た 一面に広がる 水 それはきっと 僕がこれからの人生で流す涙なのだろう 多くの人の そして僕の 全ての感情が 全ての感情に 人生へと還る尊い水よ……

  • キミのトナリ

    指折り数えたのは、卒業までの日数。 残り時間を消化するためだけの授業は、ひたすらにうろんな空気の中で進んでいく。 教壇に上がっているのは、いつも何を言っているのやらよく聞き取れないおじいちゃん先生で。なにやらお気に入りの本を持ち込んで、先程から朗読に勤しんでいる。 クラスの半分以上が机に突っ伏して、残りの半分が携帯を触ったり、マンガを読んでいるのにも関わらず、彼には全く関係…

  • 戦車を持った王様

    昔々、ある国が戦争に明け暮れていた頃のお話です。一人の悪魔が王様のところへやって参りました。 「陛下に強力無比なる武器を差し上げましょう」 「それで代わりに魂をよこせというのか。いくら戦争に勝っても死んでしまっては元も子もないぞ。」 「魂など頂きませぬ。お代は陛下が世界中を征服したとき頂きに参りましょう。もしそのときになって支払いたくなければ、それはそれで結構です。」 「わしが払いたくなけれ…

  • 詩 晴れた日には

    星を纏った巨人が 小高い丘の上で暴れている 僕はそれを横目で見ながら ゆっくりと 温かいお茶を飲んだ 今日も 晴れた日 キノコが好きな老人は 一日中鏡を見つめてる 僕は彼の寿命をはかりながら 焼けたパンに ジャムを塗った 今日も 晴れた日 隣の家の 太陽を信奉する小人は 前よりずっと みすぼらしくなったみたいだ 僕はそんなことはどうでもよくて 少し錆び…

  • 詩 晴れた日には

    星を纏った巨人が 小高い丘の上で暴れている 僕はそれを横目で見ながら ゆっくりと 温かいお茶を飲んだ 今日も 晴れた日 キノコが好きな老人は 一日中鏡を見つめてる 僕は彼の寿命をはかりながら 焼けたパンに ジャムを塗った 今日も 晴れた日 隣の家の 太陽を信奉する小人は 前よりずっと みすぼらしくなったみたいだ 僕はそんなことはどうでもよくて 少し錆び…

  • ケンタウロス星

    広大な敷地を有する国家の研究施設。連民海念は故郷を棄て放浪の 果てに、この研究施設の清掃員として働いている。 ある日、発電機の破壊を巡るトラブルから、海念は老いた警備員を 刺殺してしまう。警備員の頬に開いた一筋の切傷。愚鈍な子供のよ うな悲鳴。 警備員を殺した海念は年長の友人竹内とともに逃走を図る。 竹内は自分の過失から父親を死なせ、その罪から逃れようとしてい る。 逃走の途中、地下の迷宮の…

  • 幸運の男

    俺は幸運の星の下に生まれた男だ。 最初は十一歳のとき、修学旅行のバスが横転し、崖から落ちた。たくさんの友達が死んだが、俺は無傷だった。 次は十三歳のとき、通学中に電車が脱線、向かいの電車と正面から衝突し、五十八名の死者と二百四十名の怪我人が出た。先頭車両に乗っていたにも関わらず、俺は無傷だった。 十六歳のとき、マグニチュード8.5、震度六強の地震があった。家は全壊したが、俺は無傷だった。…

  • family tree

    (1)Occupied Japan 銀座の路上に黒人GIの集団がいる。みんな金モールのついた 紫色の制服を着てベレエをかぶっているので、軍楽隊か何かだろ うと思う。しかし楽器は持っていない。有蓋舗道に群がって、じ りじりと照りつける真夏の日射しを避けながら、どこに行こうか 相談しているらしい。彼らの背後には商店街のショーウィンドウ が連なっているが、カーテンで閉ざされているので中は見えない。…

  • 詩 光輝く未来へ

    俺はお前が嫌いだ その顔 その声 その性格 全てが俺を苛つかせる どこかに消えちまえよ それとも 今すぐここで 殺してやろうか? さあ みんなで行こうよ 遠い遠い空へ 手をつないで 力を合わせて 今はなんだか暗いけど 雲に穴を開けるなんて 簡単な事さ お前は恥ずかしくないのか そんな顔で町を歩いて バカみたいに 大声で笑っている さっさと死んじ…

  • テンペスト

    1 無人のファミリーレストラン——銀色の調理場の奥で、ふたりは勝手口を見つけた。 鉄製のドアだった。食料を探しはじめた小柄な少年を尻目に、金髪の少年が裏口の扉の取っ手を引いた。 店の裏手の、ゴミの散乱した狭い通路に顔を出す。 「くそ!」金髪の少年は飛び退って、ドアをしめた。 「どうした?」びっくりした相棒はたずねた。「まさか——」 「いや、一羽だけだ」 「……なんだ」 「でも、いる…

  • 伝う月の色

    だからきっと、見失わない。 どんな雑踏に溺れても。 * 「赤、取って」 思い掛けない出来事に遭遇できたことなんて、わたしが覚えているだけでは片手で数えるほどしかない。 その日、その声が掛けられたことで、その数は十七にしてやっと、両手に達した。 「え?」 全ての動作を一瞬忘れて。その一言を漏らすことでやっと、彼の言葉の意味を理解した。 それでも、その声が鼓膜…

  • 友におくる歌

    生きることを考える奴はクズだ、ウダウダ言う前に現実を見ろ。 そんなキャッチ・コピーを雑誌の中で見つけた。大学一年の秋のことだったと思う。別に、感動を覚えたわけでも無かった。でも、何か迷うことがある度に、僕はその言葉を思い浮かべるようになっていた。生きることを考えるやつはクズだ、生きることを考える奴はクズだ、生きることを考える奴はクズだ、生きることを考える奴はクズだ、案外、心に残る言葉と…

  • 耳障りな葬送曲

    あるビルの屋上に、一人の女が立っていた。 年は二十代の中盤だろうか。薄い化粧のせいで、二十歳とまでは言えないにせよ、かなり若く見える。屈み込んで水色のハイヒールを脱ぎ揃え、それを文鎮代わりに一通の封書を置いた。 封書の表書きには、か細い女手で『遺書』、と。 そう、高橋由紀子は自殺しようとしていた。 ところどころひび割れたコンクリートの床は、いかにも古びた感じで、屋上の縁にフェンスも設…

  • 詩 陽光の中で

    ぼんやり まどろむ 春の日の朝 君の夢を見た それだけで 何だか 幸せ 埃の舞う部屋の中 窓から差し込む 太陽の光 暖かくて 優しい 光 今日はいい天気だから 君と一緒に 空を飛んでみたいな 暖かい陽光の中で 君と笑い合いたい つまらないメロドラマ くだらないワイドショー すべて 終わってしまえばいい そしたら 大きなテレビを買うから 今日はいい天気だから どこかへ 遊び…

  • SCRIPT スクリプト

    高い土の壁がどこまでも続いている。 壁は湿っていて、暗緑色の苔が地図状に広がっている。 壁の一部を刳り抜いて、なぜか一台の自動券売機が嵌め込んで ある。 私はその壁に向かって小さな新しいスコップを投げている。 スコップは投げるたびにやわらかい壁面に深々と突き刺さる。 それを引き抜いてまた投げる。 百発百中、面白いほどよく刺さる。 私は目の前に憎らしい奴がいるようなつもりで、息…

  • 大きくなること

    僕がおじいさんになったら、あの子もおばあさんになってる。二人ともシワクチャで、あの子は白髪、僕ははげているかもしれない。近眼と老眼を併発して眼鏡を常に二つ持ち、下手をすれば白内障とか緑内障にもかかっている。 もう余命が20年もないけれど、そんな事普段は考えもしない。時々、昔の友達が死んでしまったりして、その時だけちょっと淋しい事を考える。 きっと年金と今までの蓄えだけじゃ心もとないから、ど…

  • 詩 NOISE

    暴走する脳 NOISE NOISE NOISE うるさい うるさい うるさい 視界を塞がれた NOISE NOISE NOISE うるさい うるさい うるさい 見えない何かに飲み込まれてしまう 誰か 誰か 誰か 光が欲しい・・・・ 光なら・・・・光なら・・・・ 美しい夢が見たい NOISE NOISE NOISE 汚い 汚い 汚い 苦しむのは嫌なんだ NOISE NOISE NOISE 死にたい 死にたい 死にたい 終わりのない闇が降…

  • 無段階スライドの世界

    ■ 白いブロックは無限遠の彼方まで続いている。 単純な数式と色彩、そして遠近法だけを用いて作られた街。 カチッ、カチッ、カチッ 一体この音はどこから響いてくるのだろうか。 完璧な律動に御されるまま、人々は息を吸い、吐き、微笑む。 僕の心だけが深く深く沈みこんでいく。 深海。ヘドロが海底にヌルヌルと溜まっている、そんな淀みきった深海を歩いているような気分なんだ。 「アハハハ!」 …

  • 無段階スライドの世界

    ■ 白いブロックは無限遠の彼方まで続いている。 単純な数式と色彩、そして遠近法だけを用いて作られた街。 カチッ、カチッ、カチッ 一体この音はどこから響いてくるのだろうか。 完璧な律動に御されるまま、人々は息を吸い、吐き、微笑む。 僕の心だけが深く深く沈みこんでいく。 深海。ヘドロが海底にヌルヌルと溜まっている、そんな淀みきった深海を歩いているような気分なんだ。 「アハハハ!」 …

  • 誤解

    ザァー——ザァー———— さっきの雨が、どしゃぶりになった。 私が流した 涙も 雨に 流されていく。 なんで あの時なんで泣いちゃったのだろう。 とぼとぼと歩きながら 考える。 いつの間にか、村はずれまできてしまった。 「あれっ!?ここどこ!?」 また、迷子になってしまったのか。 私ってば、どうしていつも。 「おいっ!パステル!!パステル!!」 トラップの 声。えっ—…

  • 詩 SDI

    好きなだけ 「酒 女 金」 欲しいだけ 「酒 女 金」 好きなだけ 「酒 女 金」 欲しいだけ 「酒 女 金」 幸せな世界 美しい世界 世界平和!世界平和!世界平和!世界平和! 飛び込め Suicide Diving Launcher 押し込め Suicide Diving Launcher すべて光の中へ 夢のような 「酒 女 金」 捨てるほど 「酒 女 金」 夢のような 「酒 女 金」 捨てるほど 「酒 女 金」 幸せ…

  • 鉄の箱

    真夏の午後七時三十七分——というのも、彼女のベイビーGは駅の駐輪場の時点で七時三十分を指していたからだが——彼女は巨大な棺桶めいた自宅マンションにつづくわずかに右カーブした坂にいた。ダイエットなんぞ知ったことじゃないので、自転車は押していた。彼女は温厚なカメで、ウサギではないのだ。 最近、友達の好みに付き合いきれなくなっていた。友達はすぐ「疲れたぁ」と漏らす彼女のことを“おばさん”といって…

  • ふたり

    目の見えない女の子は、歌がずば抜けて上手く、地元では結構名が知られていました。 そんな女の子はたまに、息抜きに人気がない川原に行って、誰のためではない歌を夢中で歌い ました。 女の子がいつものように誰もいないところで、一人で歌っていると、男の子が絵の具やらを 持ってやってきました。 …

  • 捜査メモ

    私は殺人鬼を追跡していた。 山間のハイウェーを走る車の助手席に私は座っていた。 運転席でハンドルを握っているのは知らない男だった。後部座席に も知らない男が二人、膝を抱えて黒く蹲っていた。 白いハイウェーの左右を黒い杉林がきりもなく流れ、カーヴはいつま でも尽きなかった。 前方に、行く手を塞ぐように岩山が聳えているのが見えてきた。それ は半分は自然の産物で、半分は人工の建造物だった。…

  • 詩 桜と月と君と僕

    桜の花びら舞い散る季節 君はどこかへ消えてしまった 行き先も告げず 何も言わずに 覚えているかな 初めて出会った あの寒い冬の夜を 僕たちは身を寄せ合って 一緒に凍えて 震えていたね 君を月にかざしてみたけど 君は猫のままだった 「ねえ、ここでずっと一緒に暮らそうよ」 「君は僕の、たった一人の友達なんだ」 「だから、いつまでも側にいてよ」 「お願いだよ、約束だよ」 もう君がい…

  • 笑わない姫

    ある国に ある王様がいました。 その王様が治める国は 争いもなく 土地も人々の心も とても豊かです。 何一つ 問題は ありませんでした。 国民も 王様をしたい 王様も慕ってくれる国民を平等に扱い、とても心の優しい王様でした。 ですが、その王様には とても深刻な悩みがありました。 それは、姫。娘の事でした。 姫は そりゃあもう誰が見ても 美しく綺麗で 品の良い姫でした。 髪は ちょっとばか…

  • お花畑

    のりかは裏庭の一角に、たったひとりで畑を作った。 重労働。土いじりをしているあいだ、お気に入りであるピンク色のワンピース——生地の柔らかい子供服だが——の裾を、何度も踏んづけてしまった。丸ぽちゃの手が、爪の先まで土に塗れている。のりかは、ゾウさんのバケツとセットになっていたキリンさんのスコップを放り投げた。 両頬を膨らませて、腰に手を当て、畑の出来栄えを確かめる。 むーん。 …

  • 詩 夢

    夢を見たって 死んでいくだけなら 夢など見ないで 突っ走っていたい 夢を見たって 何も変わらないなら 夢など見ないで ただ ただ 前に進みつづけたい 地べたを這いずり回る 害虫 害虫 害虫ども 天から降り注ぐ 飴 飴 飴の雨 拾え 喰らえ 舐め続けろ すぐに気持ち良くなるさ 永遠に 永遠に 快楽の海へ 神は笑ってるぜ 滑稽だから 何もかもが 滑稽だから 「歌え歌え 幾多数多の脳死達…

  • 私と彼女の関係

    彼女はいつも私が到着するまでに駅で待っている。 朝早くに家を出て、駅へ向かった。 川沿いの道を歩いていると、近くの芝生に霜が降りていた。 私は、降りたばかりで誰も荒らしていない霜を踏みしめながら道を歩いた。 一昨日、雪が降った。 でもすぐに溶けてしまった。 雪が降った後の空気は澄んでいて、匂いを嗅ぐと、土っぽい。 胸いっぱいに朝の冷たい空気を吸い込んだら、ツーンとなって、洟が垂れた。 慌て…

  • 同窓会

    旧友のOと二人で自転車に乗って走る。道路は丘に沿って大 きくカーヴしている。険しい勾配。私はOの後ろ姿を見ながら、 サドルから腰を浮かせて重いペダルを踏む。丘の上には、絡ま り合って踊る棒杭のような人間の彫刻群が廃墟のように広がっ ている。丘の向こうには公園がある。 私は、十数年ぶりに私の家を訪ねてきたOに、同窓会がある から行こうと誘われたのだ。同窓会には大勢の旧友が来ることに なっている…

  • 私があなたにできること

    質問)あなたの大好きな人が明日死ぬとしたら、あなたはどうしますか? もし、大好きな人が明日死んでしまうとしたら、私は君に何をしてあげられるのだろう? 何て言葉をかけてあげるのだろう? きっと私は、何もしてあげられない。 残される私を気遣って、笑いながら話している君をただじっと、涙をこらえて見ていることしか出来ないだろう。 私は何も言葉を口にしない。 そんな私を見て、きっと君は困ったような…

  • 獣の牙を抜く父

    ギュンターが床に座って「眠り姫」の絵本を読んでいると、母が猫を抱いて部屋に入ってきた。母の腕に抱かれた猫は黄色と黒の鮮やかなシマ猫で、顔が細く耳が長い。ギュンターが見たことのない種類の猫だった。普通の家猫とは違う。野生の山猫だ。 「この猫、人を咬むわよ」 母はそう言いながら山猫を床に下ろした。山猫は尻尾を立て、引き締まった胴体をなまめかしくくねらせて母の足にまつわりつく。 「いいこと。…

  • 詩 砂嵐

    視界はまるで 砂嵐 切り裂かれた風景と ざらついた唇 ああ う 気持ち悪くてたまらない 消えてくれ 砂嵐 口の中で音がする じゃりじゃり じゃりじゃり ああ う 赤く 赤く 染まっていく 歯も 心も まぶたで砂を噛む 痛い 痛い ああ う 青空が見たい 完璧な青空 完璧な青空 どこまでも続く 青空が見たい 完璧な青空 完璧な青空…

  • 私の好きな人

    たった一人の好きな人。 あなたには、死ぬほど好きな人がいますか? 「達也!!何してるの?」 「本読んでんだよ。見てわかんねぇのか?」 一度私に向けられた視線は、すぐに手にもっている読みかけの本に落とされる。 「その本おもしろいの?」 「・・・・」 「どんな本なの?」 「・・・・」 「私にも読める?」 「・・・うるさいから向こう行ってろ」 達也に軽く睨まれて、しぶしぶ私はその場から離れた。 …

  • 出勤風景

    プラットホームのベンチに座って、男は誰にも聞こえない声で愚痴をこぼした。「今年にはいってやっと三日目。三日目か、やっと三日目。——信じられん」 男は今年に入って三日しか仕事をもらっていなかった。 食べていけて、ぎりぎり貯金が溜まるという収入だ。きょう仕事がなかったら、相当危なかっただろう。「不景気だから」と上司はいったが、不景気だったらうちの会社は繁盛するだろ、といつも思った。上司は他の…

  • 排水口に何かが詰まっている

    1 そう、なにか詰まっているのだ……でも、これはなに? シャワーの湯気のなかで、十歳の熊川絵美は思った。丸い、銀色の網目から見える"それ"は、薄っぺらなグリーンの身体を狭い管のなかにのたくらせている。シャワーをジャージャー流してはいるが、それはガムみたいにへばり付いて微動だにしない。 絵美は網を慎重に取り上げ——というのも、絵美はこの網で手を切ったことがあるからだ。見た目は円形だが…

  • 空を見上げて

    尚人が北海道に引っ越してから三ヶ月が経った頃、やっと初めての手紙が送られてきた。 一ヶ月が過ぎた頃、私は毎日のように友達に文句を言っていた。 「もう一ヶ月も経つのに手紙来ないのよ!?何考えてんの!?尚人の奴!!」 「もう待つのはやめてさぁ、夕夏から送ればいいじゃない」 「送れるもんなら、もうとっくに送ってるわよ!!」 「?」 「送りたくても送れないの!!だってあいつ、引っ越す日にち知らなか…

  • 詩 歌

    夕日に照らされ 風に舞う か細い声で歌い続ける ぼんやりした 影 流れる緑の丘の上 君は微かに笑いながら 両手を広げて 僕を呼ぶ 時々思い出して 記憶の再生ボタンを押したけど その度に欠けていく あの恋の歌 今ではもうモノフォニック 遠くなって 消えていく 君は今どこにいるの? ガラスの中で笑う君 夢でしか会えないよ 夢でしか あれから随分経ったけど 僕はまだ一人だよ 寂しくなく…

  • 犬のあなた、猫のわたし

    1 あら。 塀の上でうたた寝をしていた猫は面白いものを見つけました。 「こんにちは」 猫はにゃあと鳴いて声をかけました。 「こんにちは」 声をかけられた犬はわんと鳴いて返事をしました。 返事を期待していなかった猫は、すこし嬉しくなって塀から飛び降りて犬に近づきました。 「あなたは何をしているの?」 猫が聞きました。 「お散歩だよ。」 「お散歩?誰が?あなたが?それともあなたを…

  • トラッシュケース・トレイン

    雪 空を濁らせ 音もなく降り積もり 街を覆っていく 街路樹は白く染まり 子供たちが笑顔で白い息を吐く 雪 駅に集まる人々は、みな厚着をしている 僕は真っ黒のマフラーを首に巻き 駅に向かって走る 行き交う人々に体が当たり 迷惑そうな視線を浴びる 僕のスエードの靴は雪山登山用に作られたものではない 駅のタイル張りの階段で大きく滑り バランスを崩すすんでのところで体勢を…

  • お家へ帰りたい

    もも組のゆうらくんはすっかり落胆していた。ふじ組のようこちゃんが、敵軍の砲撃を受けて気絶してしまったからだ。ゆうらくんの顔は泥だらけ、いまやようこちゃんとの間柄も泥まみれという感じだ。 ゆうらは腰に手を当て、ブランコの奥にあるジャングルジムを眺める。 敵軍は、あそこらで泥を丸める作業に没頭している。さっきアホほどの泥んこ爆弾が降ってきた。土で汚れたきたない手を、まだ使おうとしているのだ。…

  • 詩 Ultimate Wing

    宇宙を見下ろす鳥になる 夢じゃなく 嘘じゃなく 星々に囲まれて エーテルの風の中で 独り 眠る 神々の囁き 銀河のざわめき 心地よい 暗闇 もう 朝日に脅えなくてもいい もう 誰にも会わなくてもいい もう 夢だけ見ていればいい ただ 浮かんでいるだけで それだけでいい 大きな翼は重いけど とても暖かい どこでも 好きな場所へ行ける 今日は あの星に行こうかな 宇宙を見下ろす…

  • 盗人

    銃弾が、コンクリの壁に穴を穿った。 コンクリの破片が、頬をかすめていった。 さらに。 最初の一発に続けとばかりに、大量の鉛の弾が、シャワーのように降り注い できた。 まずい。 これは、まずい。 おれはべったりと地面にはりつき、遮蔽物を求めて両手両足をしゃかしゃか と動かして這い進んだ。こうしていると、ゴキブリの気持ちがよく分かる。次 に出会った時には問答無用で叩きつぶすのでは…

  • Twilight Music

    月下に広がる森の奥 静かに波立つ泉のほとり 私は独り膝を抱えて 流れる音楽に耳を傾ける 青い鳥が泣き叫ぶ 風が全てを奪い去り 呪われた街に残るのは 屑と 塵と 腐り果てた人形だけ だから私は月に願う あなたの幸せを あなたの幸せを 時折吹くそよ風は 優しく髪をなでては消えていく 儚い私の歌声も ほんの少し ゆらめいて 青い鳥は絶望の谷に落…

  • 双子の指輪

    爽やかな清々しい朝だというのに、ミランダは人生最大の難問だとばかりに悶々としていた。 そうよ。落ちつくのよ、ミランダ。二人とも子供だったあの時とは違うのよ。すっかり素敵な淑女になり、美しく成長してるんですもの、大丈夫よ。また、あんなことになりっこないわ。きっと、たぶん……。そうじゃなくちゃいけない。 ケインから貰った結婚指輪を見つめながら、悩める自分に言い聞かせるミランダであった。 …

  • 盗作

    無名氏が一週間かけて書き上げた長編を、ミステリ専門の雑誌編集をやっている友人は三十分で読みきった。二十数枚のワープロの感熱紙はいま、テーブルの上に広げられている。 「で、どうだった?」無名氏/短編の作者はいった。自家製ブラックコーヒーの飲みすぎで落ち着きがない。 「どうだった、とかな……」編集者/友人はいった。 「約束は守ってくれよ」作者はいった。真剣ではあるが、不眠症じみた疲労のあとが顔に…

  • 散歩の手帳

    BLOCK1 浄水場のある山をさまよい歩く。藪をかきわけて泳ぐよう。 山を下りて町へ出ようとしている。焦りいらだたしく歩く。 マツタケ状の虫が人差し指に吸いついているのに気がつく。 引き離そうとするが益々強く吸いついてくる。手首を振る。 かがんで靴で踏みつける。無理矢理引き離して投げ棄てる。 黒いカサ状の部分が指の形にへこんでいて、そこだけ白い。 痺れる指を庇いながら、崩れかけた古い石段を駆け…

  • I am GOD

    ほとばしる光の声 いざ 永遠なれ! 我が輝かしき Rock'n'Roll Voice 全ての壁を打ち破る 全てを包む 神となれ! Rock'n'Roll Voice !!!!! Rock'n'Roll Voice !!!!! Rock'n'Roll Voice !!!!! Rock'n'Roll Voice !!!!! 炸裂する炎の魂 いざ 永遠なれ! 我が誇り高き Rock'n'Roll Voice お前の全てを突き破る お前の全てよ 神となれ! Rock'n'Roll Voice !!!!! Rock'n'Roll Voice !!!!! Rock…

  • 驚嘆の女

    1 七日目 朝刊に目を引く記事は見当たらなかった。三日前、初めて事故の記事が載ったが、それから鳴かず飛ばず。警察がどれだけ手をつけているのかは伺え知れない。 男はひとり台所のテーブルに向かい、しかめ面をしていた。マグカップになみなみ注がれたコーヒーの湯気がせめてもの救い—— ふいに男はカップを持って立ち上がり、シンクに向かった。真っ黒なカフェイン入りの液体を流しに捨てた。マグカップをわ…

  • 詩 核の傘

    大きな傘で空が見えない 大きな傘 黒い傘 雨を防いでくれるけど 大きな傘 黒い傘 太陽も 青空も 大きな傘 黒い傘 月の光も 星の光も 大きな傘 黒い傘 何だかとっても暗いなあ 大きな傘 黒い傘 今日 青いビニール傘を買った 大事にしまっておくよ 黒い傘がなくなって 街に雨が降る日まで 君と一緒に雨の中 濡れないように寄り添って いつか 笑い合いたい

  • 1993年のソフトボール

    1993年のソフトボールは、まれに見る熱戦だった。 高校最後の夏なんて、こんなにもあっけなく終わっていいのだろうか、というくらい、あっけなく終わってしまった。僕はまわりのみんながやれ予ゼミだの駿台だのこのクソ暑いのにご苦労にも朝早くからベンガクしているのをよそ目に、のんびりだらりとした夏休みを送ってしまった。 それなりに進学校だった僕の高校は、3年生の夏になるとみんな受験で急に忙しくなる。そんな…

  • 油田交響曲

    異変は下町の鉄工所から始まる。賽の目のように丸太の柱が立ち並び、その上をところどころに穴が開いたトタンで覆って屋根代わりにした作業場で、雨合羽を着た工員たちが俯いて鉄臼を取り囲み、鋼の杵で溶けた鉄を混ぜ合わせている。鉄は臼の側面に取り付けられたパイプを通って金型に流し込まれ、再び別のパイプを流れて金平糖のような形の小さな部品となってむき出しの地面に黒々と降り積もる。喇叭型に開いたパイプの口か…

  • 詩 生命のアンドロイド

    よくわからないけど明るい場所が恋しくて 少しの間だけ街灯の光に捕らわれてみた 僕はまるで世界から隔絶されたアンドロイドのようで 孤独な自分に憐憫を覚えた 舞い踊る埃を吸い込み むせる もう もたないよ 夜空はいつ頃からか夢を失い 雲が流れるのがぼんやりとだが見てとれる 僕はふらふらとよろめきながら 思いつくモノ全てに悪態をついた すがる対象なんてない あるのは不安定な地面だけ …

  • 林檎

    彼の記憶の中で、真っ先に思いつくのは林檎だった。 ごく普通の、どこにでもあるスーパーに並んでいる林檎を彼は好んで買ってきた。 もう少しお金を出せば、大きくて実が甘くておいしい林檎が買えるのに。 彼は特にこだわる趣味とかもなかったので、お金には余裕があるはずだった。 ある時一緒に買い物に行ったときに、なぜもっと高い林檎を買わないのか、と尋ねたことがある。 彼はなんとなしに、気恥ずかしいような笑顔…

  • 詩 陽炎と鉄の箱

    うだるような熱気の中 太陽に手をかざす 「ああ やっぱり そうなんだね」 陽炎にまみれた街と ぎらぎら輝く鉄の箱 「うん わかるよ 僕にはわかる」 夏の風が吹き 砂の香りが人々を覆う 「僕が 笑うのは 自由だからさ」 公園の蛇口とか 虫のたかった街路樹とか 「今日 僕たちは 自由になれる」 砂利の転がるアスファルトとか 隣に咲いた向日葵とか 「海に 帰るんだ 僕らの起源…

  • 詩 マリア

    マリア 私が見えていますか マリア 私の声が聞こえますか マリア 貴方はそこにいるのですか マリア 貴方は私を助けてくれますか マリア 私は貴方を必要としている マリア 彼らは愚者なのです マリア 彼らは何も学ぼうとしないのです マリア 彼らは何も知らないのです 無知なのです マリア 彼らを助けてあげてください マリア 私は貴方を必要としている マリア 私は善良なのに マリア …

  • ウメボシ

    その一 大ミミズ 人に繰り返し学校の夢を見させるものは後悔の念か、首尾よく行かない現在の生活からの逃避か。私は今日も何度目かの潜入を試みた。窓から体育館の丸屋根の見える教室へ、忘れ物を取りに行くのだ。 いつものように、下駄箱が整然と並ぶ薄暗い玄関ホールに入る。 靴を脱ぎ、はだしのまま冷たい廊下を踏んで進む。廊下伝いに並ぶ木枠のついたガラスのケースには、埃をかぶって光沢を失ったトロフィ、…

  • 詩 たとえば

    例えば・・・ 青い空に浮かぶ 飛行船とか 飛行船とか 深海を泳ぐ 黒い魚とか 黒い魚とか 瑞々しく涼し気な 六月の雨とか 六月の雨とか いつまでも辿り着けない 虹とか 虹とか 時間に溶けて薄れていく 記憶とか 思い出とか 嬉しくて涙を流す あの頃の彼女とか あの頃の彼女とか そういう・・・綺麗なことが 好き

  • 半分本当

    「あたしね 実はね 歌をうたうの とっても上手いの」 半分本当で 半分嘘 「あたしね 実はね 似顔絵描くの とっても上手いの」 半分本当で 半分嘘 「あたしね 実はね ケーキを作るの とっても上手いの」 半分本当で 半分嘘 蝶の羽を宿した君は ひらひら ふらふら 飛んでいて 一生懸命追う僕を きらきら きらきら 笑ってる 「あたしね 実はね ちょっと前まで子供だったの」 半…

  • 雨の日の憂鬱

    重たい瞼をこじ開けて 雨の日の 薄い空気を吸い込んだ 鍵を無くした あの日 蛇口から出る水は冷たく 自由な姿で 砕けて散る 指先が震え ふと 鏡を見た 過ぎ去った春は二度と戻らず 頭の中で少しずつ磨り減っていく どれだけ夢に頼ってみても ただただ空しく 涙になるだけ あの太陽は もう昇らない 雨の日の 薄暗い光の中で僕は 自分に向かって 微笑んでみた 大丈夫…

  • 詩 台風の子

    街に台風が来るらしい 今にも雨が降りそうだ 曇り空に架かる電線は 怯えるように震えている こういう感じは嫌いじゃないんだ 少し懐かしい匂いがして 近所の空き地の猫じゃらし畑 風にはしゃいで 飛び込んでみようか 僕たちは台風の子 僕たちは台風の子 もうすぐ母がやって来る ご飯ですよとやって来る

  • 桜の咲く頃に

    さくらの花びらが舞い散るころ、風にふかれて舞い上がる花びらに身をまとったことがある。 光が木漏れ日の中で、気持ちいい季節の風を感じていたことがある。 私の声は花びらの間を透き通るように、原っぱの向こう側めがけてするりと滑るように通り抜けていった。 声の届く先には、わたしの兄がいる。 兄は少しまぶしそうに私を見つめ、それから私の声を摘み取るようにかるく右手を上げた。 さくらの花びらが私の視界を遮り…

  • 前世

    町の一角に急造りの芝居小屋がある。丸太を組んで造った土台 の上には円形の舞台と、それを囲んで百席ばかりの階段状の枡席 がある。頭上には梁をわたして天幕が張られている。天井の際か ら枡席の背後に垂直に落とされて側面を覆う防水布は、風が吹く と重たく揺れる。中は薄暗く、蒸し暑い。 土台の部分は板で目隠しをして中が見えないようにしてある。 土台の内部は迷路のようになっている。入り組んだ狭い通路…

  • 婚礼

    今日、少年は学校を去ることになっていた。彼は結婚するのだ。小さい頃 からそのことを父や母に言い聞かせられて育った。少年自身もその日を楽し みにしていた。そして今日、夢にまで見た花嫁の少女と初めて対面するの だ。もうすぐ、両親やその他の大人たちが、花嫁を連れてここにやって来 る。少年は、教室で自分の席に座ってそれを待っていた。やがて結婚式が行 われ、少年は大勢の人々から祝福を受けて、花嫁ととも…

  • 老人の歌

    老人は、疲れ果てていた。 彼のからだを覆う皮膚は水分を失い、枯れ葉のようになってしまった。 目はくぼみ、体中に刻まれたそのしわが、大木の切り株を思わせた。 そして老人は、砂漠を歩いていた。 老人の吐く息は、砂漠の熱射で焦がれていた。 すがり付くように体を預けている木製の杖は小刻みに震え、 この老木が今にもそのからだを砂の海へと 投げ出してしまうのではないかという疑問が浮かんでくる。 …

  • 深淵

    この春に高校に進学したユイは、生来の内気さも手伝って友達がまったくできなかった。そんな彼女には、いつも教室に居場所がなかった。 そんなユイがもっとも苦痛を感じるのは、昼食の時間だった。たった一人で食べる昼食は、味気ないだけではなく、クラス全員からの嘲笑を受けていた。 そんな視線に耐えられなくなったユイは、昼食の時間になるとひとりで食事できる場所を探すようになった。 今日も四時間目の授業が終わ…

  • 二人乗り

    ぼくは自転車にのれない。 小学校2年生にもなって、いまだに自転車にのれないのはクラスの中でぼくくらいなもので、周りのみんなからよくばかにされる。 幼稚園のころ、おかあさんはぼくに自転車をかってくれたけど、ぼくはそれで何度も練習したけど、それでも自転車にはやっぱりのれなかった。ぼくはあんまり運動がとくいではないのだ。 クラスのみんなは、よく自転車で町中をのりまわしたり、となり町にある河原に釣り…

  • 小瓶

    私の手の中に握りこまれ、体温を受けてほんのり温まる、小さな壜。 大きさは、よく水族館の土産物屋で売っている、少量の星砂と妙に毒々しく彩色されたドライフラワーのきれっぱしが入った小瓶と同程度。 ただ、ネジ蓋できちんと閉まるようになったその壜には、半分ほど、とろりと濁った液体が入っているだけ。 生きているかのように生暖かいそれは、私の宝物だ。 ほんの一滴。 それでおしまい。 これを見…

  • サキ

    その携帯電話は、通信会社の技術開発部に勤める友人が、モニターとして使ってみてくれ、と僕に渡したものだった。 「とにかく、すごいんだよ、この携帯は。これまでの常識をひっくりかえす、ものすごい機能がついてるんだ。今はまだ実験段階だけど、これが商品化されたら、それこそ携帯電話の市場がひっくりかえるぞ」 喫茶店で興奮気味に話すその友人の言葉に興味を持ち、僕はその電話のモニターを引き受けることにした。 …

  • 彼の手はいつも先にあった。 いつも僕は先にある彼の手を見ながら泳いだ。 初めて彼の手を見たのは、まだ十代の半ば。 ジュニアの全国大会だった。 自信があった。水の中の自分は王様だった。 結果、僕は壁に触れる彼の手を眺めながら泳いでいた。 彼はいつも英雄だった。 彼の手を見ずに泳ぐ。 気がつくと、そのために泳いでいる自分がいた。 スタート準備の合図。 …

  • トンボ王

    その日、私は旧友のEが訪ねてくるという予感にとらわれて、朝から落ち 着かなかった。 かならずEはやってくるに違いないという思い込みは時間がたつにつれて ますます強くなり、おひるを過ぎた頃、私はいよいよいてもたってもいられな くなり、Eを迎えに行くために自転車を出した。 外は風が強く、道沿いに並んだ枯れたヒマワリが腐った顔をこちらに向けて、 騒がしく首を振っている。すだれの向こうでは、ラジオの天…

  • ヒマワリ

    庭の隅の日陰になったところに、女が一人でしゃがんでいた。 背後から覗いてみると、女は三歳くらいの女の子の死体を埋葬し ようとしているところだった。楕円形に掘られた穴の内壁から白 い草の根がいっぱい伸びていて、それに包まれるようにして、タ オルにくるまれた死体が横たわっていた。青白い顔だけを覗かせ て、口をぽかんと開けていた。その額は陶器のように砕けて、菱 形の穴が開いている。中は暗く、空洞にな…

  • 黒いコーモリと白いハト

    真っ黒いコーモリはいつも言っていた。 「世の中に闇夜に輝く星よりも美しいものなんて存在しないね」 そして、彼はわずらわしく、暑苦しい太陽を知らず、静かで上品な闇夜を飛んだ。 自由に闇夜を生きた。 青く、澄んだ青空を知るまでは・・・。 コーモリはいつものように闇とたわむれていた。 ふと、漆黒の中に一つの白いかたまりを見つけた。 それはふらふらとたよりなげに浮かんで…

  • 深夜のレストランの片隅にぼんやりとあかりが点っている。そ れ以外は暗く、閉ざされたカーテンの向こうにも光はない。カウ ンターの向こうの食器棚には、磨き上げられた皿や器が整然と積 み重ねられている。それらは片隅のあかりを反射して、かすかに 白く光っている。 あかりの点っている片隅には小さな円テーブルがあって、そこ には最前から二人の男が向かい合って座っている。白いテーブル クロスで覆われた卓…

  • 怪電話

    丘の上で少年がサッカーボールを蹴る。ボールは高く飛んで、 暮れかけた空の中に吸い込まれるようにフッと見えなくなるが、 しばらくすると、仄白く光りながら僕めがけて一直線に落ちてく る。サッとよけると、ボールは音もなく地面に当たってバウンド。 そのまま空間に消える。 丘の上で少年がまたボールを蹴る。 今度は無数のボールが次々と降ってきた。 あぶない。竹ヤブの中に逃げようとしたが、足が重くてうま…

  • 金魚

    むくんだ足がハイヒールにくい込む。 毎日続く残業。同じ日々のくり返し。 たまには飲みに行くこともある。 友だちとショッピングもする。カルチャースクールのヨガは楽しい。 でも、昨日と今日の私は何もかわらない。多分明日の私もかわらないのだろう。 ただ、毎日が単調に過ぎていく。 夏の蒸した空気が私をおおう。 白いブラウスが汗ばんだ体にはりついた。早くシャワーを浴びたいと…

  • 発症

    渋谷か新宿あたりの駅で洗面所に入る。たぶん、朝髭を剃るのを 忘れたので通勤途上で剃ろうとしたのだと思う。 ラッシュアワーにしては人影がない。 汚れた採光窓の外には高架線がかぶさっていて、通り過ぎる電車 のこもった轟音がときおり響いてくる以外はひっそりとしている。 意外な穴場を発見したと思う。 誰かがどこかでラジオをつけたらしい。シューマンの第一交響曲 の緩徐楽章がきれぎれに聞こえてきた…

  • 窓から見えるもの

    空の青が濃くなった。夏よりも、ずっと高い空になった。雲のカタチも、どんどんと変 わっていく。 校庭の周りにいっぱい植えられている木々も、夏の緑の葉っぱから、秋色に変わり 始めている。 その向こうに見える田んぼは、そろそろ稲刈りの時期だろうか。風に揺られて、ま るで金色の波みたい。 窓から見えるものたちは、みんな同じものなのに、何一つ変わらないものはない。みんな 変化しつ…

  • 飛び降りる

    数人の作業員が、道路に掘られた長方形の穴の縁に座って、両足をぶらぶらさせている。作業員たちはランニングシャツ一枚に作業ズボンをはき、頭にはタオルで鉢巻をしている。みんな赤黒く日焼けしていて、見るからに屈強そうだ。彼らはさきほどから暇をもてあましている様子である。 そこへ一人のみすぼらしい身なりの男がとぼとぼと歩いて来た。毛玉がこびりついたジャージを着て、素足にサンダル履きで、かんかん照りの…

  • 投石

    外出先から帰ってきたら、私の家の向かい側にあったハラさんの家が無くなっていて、かわりに緑青の屋根に尖塔のついた古ぼけた洋館が建っていた。壁は粘土細工のようにのっぺりとしていて、指を押し込んで開けたような小さな丸窓が不規則に並んでいる。何階建てなのか見当がつかないが、周辺の民家の屋根に影を落とすほど高い。建物全体が壊れかけて道に向かって傾いており、周囲には剥げ落ちた外壁が散乱している。 いつの間…

  • クリスマスプレゼント

    サンタクロースに扮したおじさんが、子供連れの家族と握手を交わす。 イルミネーションに彩られた街の中で、恋人たちが行き交っている。 十二月二十四日、クリスマスイヴ。 誰もが待ち望んでいたその夜がようやく幕を開ける。 しかも、今年は運がいい。 積もるほどの量ではないが、粉雪が舞っている。 この街では、クリスマスに雪が降るというのは珍しい。 めったに訪れないホワイトクリスマス。 …

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