東京フクロウ17

岩沢はバスルームで手を洗った後、居間のソファに座り直した。ミギコの寝顔。今は微笑みさえ浮かべて眠っている。ここを訪れたとき、飛び込んで来たのはミギコの慟哭…

東京フクロウ16

雀たちのさえずり。ミギコはそっと目を覚ました。窓際の雀たち。「また来てくれたの？ありがとう」ミギコは微笑みながらサイドテーブルをふいに見た。翔が置いて行って…

東京フクロウ15

翔にはわかっていた。警察（サツ）に挙げられるのが怖いんじゃない。父親に吊るし上げられるのが怖いのだ。ヒロムの父親はこの世界の元締めだ。「ヒロム」翔は優しく声を…

東京フクロウ14

「もちろん。警察（サツ）より確実」翔はそう言ってウインクしてみせた。 『ジェイ』はその手のクラブだ。ガキは来ない。そこのボスはヒロムの父親の息がかかっている。…

東京フクロウ13

もしあの時、康平が教えてくれていなかったら。そして何よりヒロムという存在が無かったら。翔は額を押さえた。ヒロムがそんな翔を気遣い、少し空を見上げた。「翔はい…

東京フクロウ12

何の誇張でもない。女は本当に天使だ。だってほら、こんなにも女の体は温かい。暖かくて温かくて…体温のそのすべてを預けてくれる。幸せだ。本当に幸せだ。  「看護婦…

東京フクロウ12

何の誇張でもない。女は本当に天使だ。だってほら、こんなにも女の体は温かい。暖かくて温かくて…体温のそのすべてを預けてくれる。幸せだ。本当に幸せだ。  「看護婦…

東京フクロウ11

「翔！」 翔はステッキを男目掛けて振りかざした。ステッキの銀の色が部屋中に反射した。  翔は自分のホテルに女を連れて来ていた。ヒロムが救急に連れて行ってくれた…

東京フクロウ10

「お前ら、人のシマで…」「何だ？」 その内の一人が立ち上がった。翔は慌てて中を見た。一人の女が顔を押さえて蹲っている。服の上に落ちている血。翔は慌てて駆け寄っ…

東京フクロウ9

「お前ら、人のシマで…」「何だ？」 その内の一人が立ち上がった。翔は慌てて中を見た。一人の女が顔を押さえて蹲っている。服の上に落ちている血。翔は慌てて駆け寄っ…

東京フクロウ8

「俺はいいんです。俺は大丈夫です。今の職を失っても、また別の仕事がある。何でもやって食って行ける。だけど翔は…」 火柱の折れる音。圭太は一度軽く瞼を閉じ、そし…

東京フクロウ7

翔は首を横に振った。微笑みながら。 マジの仕事は伏せてある。言える訳が無い。「ごめんね」「何が」「だって」「ミギコ」翔は瞳を開いた。「俺が今度倒れたら今度はお…

東京フクロウ6

はどこにいるのかさえも。それでも自分の事を信頼して約束を続けてくれている。 空中庭園に紛れ込んで来た梟の鳴き声。 ホウ…、ホウ…、  梟は夜行型だ。自分と同じ…

東京フクロウ5

を飲むみたいに。ゆっくりと…」 雨の音がする。岩沢は窓の外を見つめた。 真っ暗な部屋。水色より少し濃い壁紙の部屋。庭のプールに雨が滴り落ちる音。「カーテン、閉…

東京フクロウ

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東京フクロウ4

「何で知ってんだ」「耳にした」「やばいな。弟がいつも週末あそこでやってんだよ」「それよっか今日いつもの所かかりが悪いんでここら辺流そうと思うんだけどいいかな」…

東京フクロウ3

「そうだ、岩沢先生から電話があったよ」「何て」「土曜のお昼に来るって」「昼に？朝じゃなくて」「手術が一つあるんだって」「それから？」「調子はどうかって」 翔は…

東京フクロウ2

背中に呼びかける。翔は振り向き微笑んだ。右手を軽く上げる。高藤は息をついた。 「翔」 駐車場の自分の車の前で誰かに呼び止められる。幼馴染の圭太であった。今日は…

東京フクロウ1

梟が巣に帰って行く。翔(ショウ)にはわかっていた。それが朝の合図だと。礼拝はいつも日曜の朝早くから行われている。翔は郊外の礼拝堂の近くに車を止めた。少し長めの…