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もりじゅんの読書ブログ https://mori-jun.net

読み終わった本、かつて読んだ本について「見どころ」を書いています。そこに一人でも多くの「なるほど」という共感が発生するよう努めています。 何よりも読書は楽しめることが大事だと思っています。 あなたの読書生活の少しでも潤いになれましたら。

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2023/12/29

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  • 戦争体験を色濃く反映したヴォネガットの半自伝的長編 『スローターハウス5』

    20日間ほどをかけて、ようやくカート・ヴォネガット・ジュニアの第6長編にして代表作の一つ、『スローターハウス5』(伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫)を読み終えました。 作者のドイツ方面での第二次世界大戦従軍体験、中でも連合国側でも1963年までひた隠しにしていたドレスデン爆撃(本作によるとヴォネガットは死者数だけを取り上げて広島より被害が上だったという)による凄惨さと(実際には戦闘シーンはほとんど描かれていなく捕虜体験を中心としている)、SF的ギミックの「時間旅行」による時系列順でない記述、トラルファマドール星人による主人公のトラルファマドール星への誘拐、といった要素が闇鍋のようになっていて、読むのに…

  • 地獄よりも地獄的な 芥川龍之介「地獄変」のあらすじと概要

    『芥川龍之介短篇集』 ジェイ・ルービン編 村上春樹序 新潮社 本書の編者・ジェイ・ルービンは冒頭に書いた「芥川龍之介と世界文学」という概説の中で、「地獄変」について《芥川の作品の中で一編しか後世に残せないとしたら、この作品だろう》と評価しています。私は後期の傑作「歯車」とこちらと、どちらを選ぶかだいぶ迷ってしまうと思います。ルービン自身も同文で《「地獄変」が芥川の初期の傑作ならば、後期の傑作は間違いなく「歯車」だ》と断言しています。小説の書き方のスタイルがまったく異なるので、甲乙つけがたいとも言えます。 mori-jun.net 本記事タイトルに「地獄よりも地獄的な」とつけましたが、これは芥川…

  • 『人間失格』や『斜陽』のプロトタイプの短編 太宰治「ヴィヨンの妻」のあらすじと面白がれるポイントのご紹介

    『太宰治全集8』 ちくま文庫 原稿用紙で57枚の太宰治後期の短編、「ヴィヨンの妻」が好きです。理由は、太宰は女主人公の一人称の小説がうまいこと(他に「女生徒」『斜陽』など)、のちに発表される『斜陽』『人間失格』内に含まれる要素の萌芽が見られることです。 それらをたった57枚の分量のサイズで味わえることは、エッセンスが濃いとも言えましょう。 本日はこの作品の魅力について語ってみたいと思います。 mori-jun.net 作者・太宰治の簡単なプロフィール 「ヴィヨンの妻」の背景 あらすじ 感想、解説 私が太宰治が好きな理由 「ヴィヨンの妻」でも出てくる弱さと、開き直り 『斜陽』『人間失格』のモチー…

  • 感謝を忘れがちな人に スコット・アラン『毎日を好転させる感謝の習慣』

    『毎日を好転させる感謝の習慣』 スコット・アラン 弓場隆訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン タイトル通り、感謝を日常に取り入れることを推奨する本です。感謝の念を持つことによって、どのような人生のメリットが生まれ、具体的にどのように感謝の習慣を実践していくかについて、述べられています。 感謝がもたらす脳科学的幸福 感謝の効果 感謝を実践する工夫が具体的に書かれている 感謝がもたらす脳科学的幸福 著者が集めた研究データによると、感謝することで、情熱をかき立てるドーパミンと気分を盛り上げるセロトニンの両方の神経伝達物質が増大するとのこと。 また、心理学的実験によって、感謝の手紙を書くことで、書かな…

  • 奇書を超えた傑作? 原作と映画はどう違う? アラスター・グレイ『哀れなるものたち』

    『哀れなるものたち』 アラスター・グレイ 高橋和久訳 ハヤカワ文庫 カバー型帯 知人に「面白いよ」と教えられて2月下旬、ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演の映画、『哀れなるものたち』を観てきました。 www.searchlightpictures.jp 2時間半近い長さもまったく苦にならず、「久しぶりに面白い映画を観たな」と、帰路の足は弾み、私にはとてもウケた作品でした。 ギリシャ人の監督だけど、原作小説はスコットランド人が書いたらしい。そんな情報を耳にして、映画の内容も手伝って、「原作小説読みたいけれど、なんか読みづらそうな予感がする」と私は思ったのですが、本日読了して、まったく…

  • ブレイディみかこ『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』

    『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』 ブレイディみかこ 文藝春秋 シンパシーとエンパシー みなさんは「共感」という日本語、どのように使われますか。 「今の日本の政治家の話し方にはまったく共感できない」 「この監督の一つ前の作品には共感できなかったけど、今回のには共感できた」 「この投稿に共感していいねボタンを押してしまった」 とりあえず3つ、私なりに適当に「共感」を用いて文章を作ってみましたが、これらの「共感」は英訳すると、おそらく"sympathy"になります。ところが他方、英語ではもう一つ「共感」と訳される単語があります。"empathy"です。 英語圏でもこの"empat…

  • 「自分は無意味である」から生じる生きる力 モーム『人間の絆』

    W・サマセット・モームの世界的ベストセラーの一つ、金原瑞人訳『人間の絆』(新潮文庫)を読み終えました。 『人間の絆』 サマセット・モーム 金原瑞人訳 新潮文庫 上下巻 作品後にモームが寄せている「序」でも触れられているように、自伝的小説です。 モームの分身であろうフィリップ・ケアリが10歳のときに母と死別し(父はその半年前にやはり病死している)、30歳で医師免許を得て独り立ちするまでを、大河ドラマ級の長さではないものの、連続テレビ小説クラスの緻密さと分量で描いています。 かといって、淡々とあった出来事を記しているわけではなく、フィリップの成長と、そのときそのときどう感じ、考え、動いたかを内面を…

  • 弓の道におけるドラゴンボール的寓話 中島敦「名人伝」

    たまに発作のように中島敦の小品を読みたくなるときがあります。小品といっても美しく磨かれた珠のような佳作。佳作というか名作。無駄なく、欠けているものもない構成美と、「何々である」と野暮な解説をさせる気も失せる深淵さ。謙虚さ。そんなものを湛えている彼の作品と触れ合いたくなってしまいます。 以前「山月記」を取り上げたのですが、今日は「名人伝」を読んでみました。 mori-jun.hatenablog.com やっぱり面白い。読後感も上品な余韻の残り方。「名人伝」について、少しお話ししてみたいと思います。 「名人伝」の簡単な紹介 弓における「ドラゴンボール」的成長 オチが素敵 「名人伝」の簡単な紹介 …

  • 村上春樹がチャリティーで朗読した理由 「めくらやなぎと、眠る女」(短編集『レキシントンの幽霊』)

    イントロダクション 昨年村上春樹と川上未映子によるインタビュー集『みみずくは黄昏れに飛びたつ』を読んでいて、1995年阪神大震災後、神戸と芦屋での2回のチャリティー朗読会の合間に短編「めくらやなぎと眠る女」が短く書き直され、「めくらやなぎと、眠る女」として朗読されたのを当時書店でバイトしていた川上未映子が会場で聞いていたということを知りました。 『レキシントンの幽霊』の中でも〈めくらやなぎのためのイントロダクション〉としてそういう経緯は書かれており、「(この作品はその地域を念頭に置いて書かれたものだからです)」と言及されているものの、被災者の前で読み上げるわけだから作品そのものにメッセージがこ…

  • 誰もがインストールされている「能力主義」の危うさ サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

    『実力も運のうち 能力主義は正義か?』 マイケル・サンデル 鬼澤忍訳 ハヤカワ文庫 いやあ、面白かったです。どういった種類の面白さかというと、知的丁寧さと思慮深い論考によって、「自分はこれまでだいぶ間違っていたのではないか」と自責すら覚える内省を促す内容であったことです。ですので多くの部分をじっくり読みこまされました。 だいぶ内容が厚い本でしたので、各章ずつ、著者が書きたかったことと、たまに私の感想などを交えて、本書を紹介してみたいと思います。 序章――入学すること 第1章 勝者と敗者 第2章 「偉大なのは善だから」――能力の道徳の簡単な歴史 第3章 出世のレトリック 第4章 学歴偏重主義――…

  • わからないけれどわかる男心 強者は弱者と心を通ぜられるのか? 白石一文『一瞬の光』

    こんにちは。 雨が降っています。 全国的に快晴というところはなさそうな祝日。 いかがお過ごしでしょうか。 『実力も運のうち 能力主義は正義か?』を読んでいるのですがこれがなかなか読みごたえがある。私の「能力」だと一日に頑張っても2章しか読み進められないペースなので、今日は気分を変えて昔贈っていただいた本の紹介をしたいと思います。 『一瞬の光』 白石一文 角川書店 奥付を見ると平成十二年一月十日初版発行とありますので、2000年発表ということになります。 白石一文先生はこれ以前に純文学の世界でデビューしておりますが、本名名義で再びこちらの書籍でエンターテインメント小説でデビューし直しました。翌年…

  • そのときマーロウにはどう見えたか? チャンドラー『大いなる眠り』

    レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』で彼の文体に魅了され、初長編作『大いなるお別れ』を読んでみました。 mori-jun.hatenablog.com 期待していた「文体の精度・密度」は得られなかったものの、主人公・フィリップ・マーロウの性格は知っていたので、描かれる作中の人物・出来事・風景を彼はどう眺め、思い、考え、行動に移していったかに注目して読み進めてみました。そう一文一文注意して読むと、いろんな発見があって驚き。この記事では、マーロウ視点に重点を置いて本書を紹介してみたいと思います。 簡単なあらすじ紹介 感想・気づいたこと ハードボイルドな感情表現 細部へのこだわり マーロウ…

  • 面白がれるポイント満載 森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』

    2006年刊行、翌年山本周五郎賞受賞、並びに本屋大賞2位だった本書を読了しました。 裏表紙の概要文に「キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作」とありましたが、頷ける内容。普段あまり読まないジャンルの小説だったので、「面白がらせ方」を面白がる読み方になっていたかもしれません。それでも十分楽しめました。どんなところが面白がれるか? という点から本書を紹介してみたいと思います。 ⒈ ファンタジーの生じ方、消え方が面白い ⒉ ライトな擬古典調の文体 ⒊ 京都の味が濃い ⒋ 登場人物のエゴは真正面からは出てこない ⒌ 結局純情なんだな ⒈ ファンタジーの生じ方、消え方が面白い これまで私はファンタジー…

  • 理屈でなく感性を書く――禅における二元論を越えた一元へ 鈴木俊隆『[新訳]禅マインド ビギナーズ・マインド』

    書影 『[新訳]禅マインド ビギナーズ・マインド』 鈴木俊隆 藤田一照訳 PHP研究所 読もうと思った動機 たしかですけれど、自分の瞑想法に、疑問のようなものを抱いて、少し本格的な書物を手に取ってみようと考えた記憶があります。鈴木大拙を調べているうちに、アメリカには、二人の鈴木がいる、もう一人は、鈴木俊隆だと知って、彼の講話を編集した本書を選びました。といっても、だいぶソフトな入門書だと思います。 書影 読もうと思った動機 この記事を書いている私は仏教には無知 本文の構成 印象に残った箇所 仏教理論でなく、坐禅修行に取り組んでいるときの感覚を表そうとの模索の跡 初心者の心 何にも囚われない柔軟…

  • お好み焼きを"平べったいたこ焼き"と言うお天気おねえさんのフォトエッセイ 檜山沙耶『ブルーモーメント』

    書影 『ブルーモーメント』 檜山沙耶 ワニブックス 購入したいきさつ 2022年夏頃、YouTubeに、以下と似たような動画がサジェストされてきました。 www.youtube.com なんだこのぶっ飛びお姉さん! 面白い! それにこの番組なんだ? と興味がかき立てられたわたしは、すぐさま本チャンネル「ウェザーニュース」へと飛び、檜山沙耶さんをはじめとするお天気キャスターたちの働きぶりに新鮮な驚きを隠せなかったのでした。 www.youtube.com そのうち、番組内ででしょうか、檜山さんがフォトエッセイを出していることを知りました。当時はあり余る好奇心でいっぱいで、Amazonですぐさまポ…

  • 綺麗事だけ視るか?綺麗事以外も視れるか? モーム『月と六ペンス』から考える

    はじめに W・サマセット・モーム『月と六ペンス』を読み終えました。イギリス文学はディケンズをちょっぴり齧った程度。だいぶ考えさせられました。久々に読みごたえのある内容というかテーマ。スタイルと文体は若干古臭い感じはしますが、それでもエンターテインメントと考えさせること両方をやっているし、皮肉な記述もおそらくのちのレイモンド・チャンドラーが影響を受けたはずです。 なるべくネタバレは避けたいのですが、本書を熱く語ることは必ずそのような行為にぶつかることと同義と思われますので、ストーリーを驚きを持ちつつ追いたい方は読んだのちにこの記事に目を通してみてください。本稿ではあらすじ紹介に重きを置かず登場人…

  • 現役作家はどう他人の小説を読むのか 村上春樹『若い読者のための短編小説案内』

    吉行淳之介の小説システム図 『若い読者のための短編小説案内』 村上春樹 文春文庫 吉行淳之介「水の畔り」 P62を参考 こんにちは。 今日は2024年2月4日、立春ですが、だいぶ冷えこんでいます。 寒は明けたわけですが、今週、雪がちらつくとか何とか。 毎年、この時期に第二弾の寒さの底がやって来ます。 みなさんどうぞご自愛ください。 吉行淳之介の小説システム図 本書のあらまし 吉行淳之介「水の畔り」 作品の背景と執筆時の作家について どんなところが好きなのか あらすじ紹介 注目ポイントの提示 二つの対立する世界の分類 自我と自己と世界の関係を図示する けっこう大胆な発言が多い 本書のあらまし 1…

  • 理論物理学者が明かす衝撃の時間論 カルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』

    科学的、哲学的、心理学的、宗教的、その他さまざまな観点から時間について語られてきましたが、現代の最新の理論物理学――著者はその中でも量子重力理論を扱い、超ひも理論と並ぶ「ループ量子重力理論」を主導する一人――の見地に立つと、どう見られるのか? そんな知的好奇心に駆られて、本書を取り寄せました。 『時間は存在しない』 カルロ・ロヴェッリ NHK出版 2017年にイタリア語で書かれた原書が2019年に翻訳されたのですから、現在から5年以上前の「過去」の概念だとある意味捉えられるかもしれません。さまざまなものが日進月歩の時代ですから。しかし、それでもなお私のような自然科学畑にいない人間を刺激する要素…

  • 儒教と並ぶ中国思想・道教の原典 『老子』

    気になった箇所 上善は水の若(ごと)し。水は善く万物を利して争わず、衆人の悪(にく)む所に処(お)る、故に道に幾(ちか)し。 居は地を善しとし、心は淵を善しとし、与(まじわ)るは仁を善しとし、言は信を善しとし、正は治を善しとし、事は能を善しとし、動は時を善しとす。 夫(そ)れ唯(た)だ争わず、故に尤(とが)無し。(訓読文) 最上の善なるあり方は水のようなものだ。水は、あらゆる物に恵みを与えながら、争うことがなく、誰もがみな厭だと思う低いところに落ち着く。だから道に近いのだ。 身の置きどころは低いところがよく、心の持ち方は静かで深いのがよく、人とのつき合い方は思いやりを持つのがよく、言葉は信(ま…

  • 娯楽小説家としての司馬遼太郎 『燃えよ剣』

    「―――」 七里は、気合で、誘った。 歳三は動かず。 七里は踏みこんだ。 とびあがった。 上段から、電光のように歳三の左籠手にむかって撃ちおろした。 が、その前、一瞬。 歳三はツカをにぎる両拳を近よせ、刀をキラリと左斜めに返し、同時に体を右にひらいた。むろん、眼にもとまらぬ迅さである。 戞っ と火花が散ったのは、和泉守兼定の裏鎬で落下した七里の太刀に応じたのだ。七里の太刀がはねあがった。体が、くずれた。 十年ぶりぐらいに『燃えよ剣』を読みました。 それまでは新潮文庫版(上下巻)の改版が出るたびに買い直していたのですが、2020年に文藝春秋から新書判で一巻本が出たとのことで、購入し、四度目の司馬…

  • やまとことばと漢文の系譜 なぜ国民教材であり続けるのか 中島敦「山月記」を考える

    私は中学までは主に歴史小説を読んでいたのですが、高校に上がって、いわゆる純文学小説を読むようになりました。 それは、教科書に載っていた中島敦「山月記」や太宰治「富嶽百景」に触れたからというのもあります。 それ以降は書店で自ら本を選び自分の知らなかった世界や自分の持っていない感性を新鮮に読むようになりました。 並行して歴史物も読んではいましたが。 そんな一種の原初の読書体験を思い出しているうち、「山月記」を教科書掲載文も合わせて四回目ほどの再読をしてみたくなりました。 文庫本ですと12ページの長さです。 約二十年ぶりに、どう読めたか、感じたか、考えたことなどを記してみたいと思います。 中島敦の略…

  • トルストイ『人生論』 ゆるい要約と個人的な感想

    2024年1月20日、今日は日本の暦では大寒です。 文字通り最も寒い季節とされます。 寒の期間(小寒~立春)のちょうど中日であり、そう考えると、これから寒が退いていくとも考えられます。 みなさん、どうぞご自愛ください。 私も自愛します。 具体的にどう自愛しようと考えていたのですが、まず、熱い風呂に入る。 その前に、読み終わった本を自愛しつつ緩く語ろう。 そう、この記事です。 手を抜くわけではないけれど、力まずに、適度に、書く。 そう思います。 『人生論』 トルストイ 新潮文庫 実はこの書籍は、昨年十一月ほどから読み始めていました。 しかし、一言で言うなら、読みにくい。 理由は、文章も、語り口(…

  • エックハルト・トール『ニュー・アース』 概要と思ったことなどをつらつら

    先週帰国した妹と話していて、一番驚いたのは、 「アメリカでは、年齢を訊ねるのはNG、むしろ法的にまずいことになる」 ということでした。 履歴書でも年齢は記さないとのこと。 そのときは、「国が違うと前提となる文化もぜんぜん異なるんだなあ」ぐらいに思った記憶がありますが、今は、 「年齢関係なく、仕事をする能力さえあれば、受け入れられ、そうでなければ、撥ねられる。たとえ老境の方でも、『いま』ビジネスパートナーとして認められればそうなる。それが数ヶ月であろうとも。そのように、『いま』を大切にする国なんだな」 という解釈に変わりました。アメリカの実情に即しているかどうかはわかりませんが。 その認識の変化…

  • 村上春樹「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」(『一人称単数』)を考察する

    前回の記事で芥川龍之介「歯車」を取り上げたのは、村上春樹「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」という短編を再読してみたかったからでもあります。 この短編は村上春樹の現最新短編集『一人称単数』(2020)に所収されていて、8つの短編の中でも一番分量があり作品の重みからも中核的部分を担っていると考えられます。 その短編内でキーとして登場する小説が「歯車」です。 今日はそれらを踏まえた上で「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」を再読し、気づいたことを書き記してみたいと思います。 ⒈ 『一人称単数』全体に共通する視点 ⒉ 『ウィズ・ザ・ビートルズ』のLPを抱…

  • 「歯車」 芥川龍之介が遺した死なないための処方箋

    こんにちは。 とある小説を読んでいて、「寒中」とは、小寒から大寒、そして立春の間の時期を指すと学んだのですが、今はまさに「寒中」ということになりますね。 寒中お見舞い申し上げます。 朝方の冷えが特に体に堪えます。 寒中が出てくるその小説とは、芥川龍之介の遺作の一つ「歯車」です。 死後公開・掲載された晩年の代表作です。 もう十回以上読み返した作品なのですが、今さらながら手に取ってみました。 今日はこの作品「歯車」がどうしてなおも私の心を掴むのか、現代でもどのようなところが価値があると思われるのかについて、お話ししたいと思います。 芥川龍之介 関連書籍 芥川龍之介のプロフィール 「歯車」について …

  • 児童文学の名作『モモ』のご紹介 なぜ読み継がれるのか?

    昨年前半、遅ればせながらジブリ作品をたくさん借りて観てみました。宮崎駿を始めとするアニメ映画の作り手たちが児童文学を愛していることを知り、自分も読んでみようと思いました。 本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書) 作者:宮崎 駿 岩波書店 Amazon そこへ何を読もうか考えていたところ、YouTube動画でアバタローさんの次のような動画がサジェストされました。 www.youtube.com 面白そう。テーマも気になる。読んでみたい。 すかざずAmazonでほしいものリストに入れていた別の書籍と一緒にポチりました。 モモ ミヒャエル・エンデ 岩波少年文庫 2023年で原書刊行50年で…

  • 舞城王太郎『煙か土か食い物』のネタバレなしストーリーと魅力についてご紹介!

    アメリカ西海岸に住むIT企業に勤める妹が一時帰国して少し話したのですが、一番記憶に残っているのはこれは彼女の感情的な私見なのですが、 「フランス人が世界で一番性格が悪い」 ということでした。 「フランス人ってアメリカ人をめっちゃ馬鹿にしてるよね」 と私が相槌を打つと、やっぱりちょっと乗ってきました。 他には、 「アメリカはインフレと景気が比例してる感じ?」 「まあそうかもね」 「日本は物価高と景気が比例してない感じなんだよね」(←これも私の見方にすぎません) 「ふーん」 (おめえ、母国のことどうでもいいと思ってるだろ!)と、「祖国ハラスメント」(略してソコハラ、今私が捏造しました)してやりたい…

  • チャンドラー『ロング・グッドバイ』の概要と魅力のご紹介

    前回の記事で大切なことを書き忘れていました。 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。 挨拶や年・季節の区切り、大事ですよね。私ときたら、自分の誕生日も祝わない、クリスマス、正月も楽しまない。まったくの通常運行で日々を過ごしてきました。それはそれでよいのかもしれないけれど、正月三が日~大寒~節分~バレンタインデー~ひな祭りを始めとする節供~ホワイトデー~春分……と、本年度の残りだけでこれだけある季節に配置された分岐点/イベントを味わうことによって、いわゆる春夏秋冬的な感覚を研ぎ澄ます、一年一年の時間の流れを大切にできるといった気もしています。そんなことを思っているうちに…

  • 太宰治『斜陽』のあらすじ、解説と面白がれるポイント紹介

    太宰治のプロフィール 『斜陽』の背景 主要登場人物 あらすじ 解説、面白がれるポイント まとめ 太宰治のプロフィール 1909年(明治四十二年)、青森・津軽の大地主の家に生まれ育ちました。東京帝国大学(現東京大学)文学部に進学、卒業し、学生時代から抱いていた文学への志を胸に小説家として活躍していきます。主な代表作に「走れメロス」『斜陽』『人間失格』などがあります。デカダンな私生活と作風で知られる私小説作家です。何度も女性と心中を試みますが、1948年(昭和二十三年)6月13日、玉川上水に愛人とともに入水、38歳で死亡。現在でも遺体が発見された6月19日は「桜桃忌」として国民に愛される作家です。…

  • 村上春樹「かえるくん、東京を救う」(『神の子どもたちはみな踊る』)

    アパートの部屋に戻ると、身長2m以上ある蛙が立っていた。 「ぼくのことはかえるくんと呼んで下さい」 ここから始まる村上春樹「かえるくん、東京を救う」という短編について少しお話ししたいと思います。 このお話は1995年2月18日午前8時半頃、東京に直下型の大地震を起こそうとする「みみずくん」をかえるくんと主人公・片桐が阻止しようとする物語です。 実際には戦闘シーンはほとんど描かれず、かえるくんが片桐に《勇気と正義》を求めるように、イマジナリーの世界でバトルは行われます。 前日の真夜中に片桐が勤めている信金の地下ボイラー室からみみずくんのもとへと降りようと約束する二人ですが、片桐はその夕方に返済取…

  • 村上春樹「UFOが釧路に降りる」(『神の子どもたちはみな踊る』)

    「UFOが釧路に降りる」という短編を解説してみたいと思います。 理由は3つありまして、1つは『神の子どもたちはみな踊る』のスタートを飾る短編であること、もう1つは解説らしきものをできそうな予感がすること、最後に好きでもなく嫌いでもなくといった作品と向き合うことも大事だという個人的理由からです。 この作品はほぼ時系列と執筆順とが同じです。掻い摘まんで説明すると、 ①阪神大震災。東京在住のオーディオ機器販売店に勤める主人公・小村の妻はテレビで震災のニュースを五日間見続ける。そして書き置きを残して山形の実家に帰り離婚となる。 ②途方に暮れた小村は一週間の有給休暇を取る。同僚の佐々木が釧路に住む妹に《…

  • 村上春樹「蜂蜜パイ」(『神の子どもたちはみな踊る』)

    はじめまして。 もりじゅんと申します。 文芸解説をしてみたいと思いブログ開設しました。 偏った視点からの偏った語りになるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 初回に取り上げるのは村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(2000)という短編集に収められた「蜂蜜パイ」という作品です。 「新潮」誌上で「地震のあとで」というテーマで1999年に連載された1995年1月阪神大震災と3月地下鉄サリン事件の間の2月に時期設定された5作の連作短編のあとに本書のために書き下ろされた短篇です。 私が一番好きな村上春樹の短編(たぶん今回で4回目の読了だと思います)でもあるので選びました。 まずざっと作品世界…

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