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2023/10/13

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  • 第三十一話 マイナス

    百合は、ひゅ、と緊張に喉からよく分からない音が出たことを感じた。 それが唐突に乱入し楽曲を中断させた招かれざる客に向けられた、数多の視線の物理的に迫る程の印象の圧力によるものであるのは、語るまでもない。 沈黙の中知らずぎゅ、っと握ったマイク

  • 第十八話 家庭訪問

    幼少の妄想。人を殺めかねない不安。崇め立てるべき神聖。 それらは妖怪、怪人、神等など。彼ら発生が空想信仰に依る者どもは、空から生まれた単一であるからこそ、多くが親愛など知らない。 だからその存在が絶対であろうがなかろうが、殆どを対面のみで済

  • 第十七話 背水の陣

    紅美鈴というよく分からない妖怪は、出自を辿ると神獣へと行き着く。 ドラゴン、龍。大いなる自然の具現で、混沌たる力の根源。少し傾けば善となり、反対に向いてしまえば悪となる。そんな、茫漠とした上澄み。 そこから誕生したのが、紅美鈴という妖怪だっ

  • 第十六話 夢幻

    夢幻。それは、創造に至らぬ想像。とりとめもない、不確か。 夢は消えるもので、幻だってそれと同じ。だがしかし、強度が違うばかりで、ひょっとしたら現実もそれらと変わらないものではないか。 胡蝶の夢。邯鄲の夢。主体は果たしてゆらゆらと、思考を待っ

  • 第十五話 弱っちい

    蝶よ花よの言葉はあれども、誠に野花の生は辛いもの。 日に灼かれて虫にたかられ、水を蓄えることすら難儀する。そもそも、身を委ねた地に命を預けることすら生半可な生き物であっては出来ないこと。 だが、それでも花は咲く。歪であっても汚れていようが、

  • 第二十話 あんたはあんた

    「はっ、今日も生きるには丁度いい天気だっ」 独り言つ、晴天に白を混じえた黒き一線。 逃げゆく金の長髪を魔女帽で押さえながら昼に忘れた闇夜を空に描くように飛翔しているのは、魔法使いの少女霧雨魔理沙だった。 彼女は霧雨店のお嬢様を辞めて久しく、

  • 第十四話 負けないで

    全てに見上げられるためにある輝き。何よりも美しく刺激的な、一つ星の形象。 それを計る数字になど欠片の意味もなく、どこまでも幻想的なその決めつけにこそ価値があった。 曰く、最強。 別段三千世界にて比べあったことすらないというのに、その個体はそ

  • 第十三話 もしもの時は

    人において分かりやすい証というものは、名前と立場であるだろう。 こと現世においては名刺にでかでかと書かれた名前と所属により、その人を信頼する場合も往々にしてあった。 しかし、幻想に捨てられた際全て忘却してしまった少女には何も存在せず、故にサ

  • 第十二話 めでたし、めでたし

    時を止めてしまえば止めた人だって動けない。 そう、時間を止めてしまえば従属する空間だって凍る。そんな中を泳げる人間なんて果たして存在するのだろうか。 勿論、ただの人がそんなことを可能にするのはきっと難しい。また、粒ごと固定された全てを退かす

  • 第十一話 サクヤ

    その銀の少女が人里に現れたのは、酷く暗ったい夜も更けた頃合いであったようだ。 少女は、幻想郷では珍しくもない木造の家屋の間をきょろきょろと驚きに怯えながら歩いていたらしい。 酔いに酔った、問屋の番頭が赤ら顔で目抜き通りを歩んでいたところ、そ

  • 第十話 〇〇〇〇の幻想入り

    彼女、〇〇は己が稀なる血の先祖返りであるということは知っていた。 それもそうであるだろう、こんなシルバーブロンドの自毛を生やした日本人なんて、他にはいない。祖父が厳しく話すのを聞くまでもなく、自分が他と違うことくらい分かっていた。 「でも、

  • 第九話 †

    「むにゃむにゃ……」 パイプ椅子に背を寄りかからせて、ぐっすり。その赤い髪おさげを垂らしながら、赤き彼女は眠っていた。 つるりつるりが継ぎ目なく。そして少女の周りで時折キラキラ星空のように瞬く原色が、出来損ないのサイエンスフィクションのよう

  • 第八話 虹

    上白沢慧音は、戸惑っていた。 昨今人里に見受けられる妖怪への恐怖を忘れがちな風潮を憂い、人里にて自らの寺子屋を作るという目標のための方々への根回し、そして子供達と顔を合わせていく内に、最近しょっちゅう耳に入るようになった名前。紅美鈴。 人側

  • 第七話 どうして貴女は

    月は分厚い雲間に消えて、幻想の地は蕩けるような、闇の中。多くが寝入る夜に、レミリア・スカーレットは幻想の空気を初めて吸い込んだ。 すぅ、と花蕾の唇は開かれて、喉が動いて涼を嚥下する。人工の飛沫は完全に除かれた、暫くの間味わうことすら出来なか

  • 十五話 天泣く程に恋しくて

    たとえ雨に心地が乱れたとしても、失くしてこの世は恵まれない。 ただ気圧によるものか時に頭がずくんと痛む。思わず庭の先に巌を望めどそこに救いなどはなく。 そんな私事を気にするのはらしくないと彼女は思えども、それでも視線は度々空へ向いた。 雨粒

  • 第六話 レミリア・スカーレットの幻想入り

    レミリア・スカーレットは吸血鬼である。それも、彼女はドラキュラの祖であるヴラド・ツェペシュに連なる家系に生まれたのだとされた程の、生粋の血を啜るもの。 父曰く、実際にかの串刺し公との繋がりは薄いそうであるが、それでもレミリアは生まれつき強力

  • 第五話 べびーしったー

    朧月夜に影二つ。まるでそのものと見紛うばかりの見事な人の形に、球の集い重なりのような不可思議な形状の黒。そんな二つが並んで空を往く。 仲良く、というには一方が少し先導しているような感もあるだろうか。空飛ぶ人間のようなものが、闇を引き連れてい

  • 第四話 私の方が

    博麗神社を祟る怨霊。いや纏わり付き過ぎた挙げ句に御霊信仰に巻き込まれたのか今や博麗神社の主神のようにすらなってしまっている、魅魔。彼女にとって紅美鈴という妖怪は奇々怪々な存在である。 魅魔はこれまで永き間、人の隣で呪っていた精神である。横か

  • 第三話 可愛い妹

    「はっ!」 透過する、薄青に紅。朝霧に乗せた人魚の歌声響く中、霧の湖の畔にて、踊るものが一人。いや、それは舞にしては武骨であっただろうか。美しくも鋭い、それは演武となって霧を裂いていく。 優れた形の移り変わりはあまりに素早い。そこそこな長駆

  • 第二話 代わりじゃないよ

    蒼穹に立ち昇った、残滓の煙、白一筋。神社の境内から振り返り見たその景色ばかりが記憶に残る。 博麗霊夢はその日、人里にて行われた盛大な葬礼に、深く感じることはなかった。 可哀想に、頑張るんだよ、上から投げつけられるそんな言葉を下から聞いて、た

  • 第一話 おかーさん?

    布団の代わりに柔らかに繁茂した草。天井代わりに天の川に星々を散らす天上。木の根に横たえた顔の隣で跳ねた、バッタに笑う。 これは家なき子の、野宿。けれども、野を家とするのは、別に苦痛ではないと、紅美鈴は思う。 「何しろ、昔はこんなのばかりだっ

  • 美鈴おかーさん・目次

    東方Projectの紅美鈴さんが主役の二次創作小説です。 妖怪の彼女が人と妖怪の間を行ったり来たりしながら母のごとくに少女らの心を和ましていく小説となります。 日向に安堵する妖怪、闇を知る人の子。白と黒は果たしてどちらに。

  • 第三十話 逃げ出してはいけない

    ドームのゲスト室から望めるのは、空きを埋め尽くす夥しいまでの人の数。 五万を超える人波がうねるように一人を求めるその様は、まるで蜘蛛の糸のお話に出てくる地獄をすら想起できる。 そして、実際彼らはアイドル鹿子という少女一人に天国を覚えている者

  • 第二十九話 悪役令嬢

    譜を音にする。 それだけの慣れ親しんだ行為がこんなに緊張するとは思わなかったと、オーキッドプロダクションの若き編曲家、類村慎樹は三つ色で染めた短髪を指先で掻きながらそう述べた。 素直に音楽に仕立て上げる、それだけの本来そう過つことのないはず

  • 第二十八話 ハーモニー

    片桐朝茶子という少女は人界にあってしまった天国である。 そして、町田百合は人界に溢れ出ぬよう地獄を抑える蓋だった。 『そういえば結局、あの音楽家さん? あたし達の曲書いてくれなかったねー。どうしてだろ?』 「はっ、そりゃ心壊れた後に他人のこ

  • 第二十七話 片桐朝茶子

    この世に太陽が一つしかないというのは常識ではあるが、それは果たして何故だろうか。 生命が育まれるに丁度いいのがこの奇跡の恒星一強の環境であるが故に、大星は複数に並ばない。 だが、並べてそれと喩えてカシマレイコを太陽と呼んでいるばかりのアイド

  • 第二十六話 地獄じゃない

    七坂愛はこれまで姉という人を今ひとつ知らなかった。 なにせ、姉だという舞は自分のことをよく見てくれないし、直ぐお父さんお母さんと口喧嘩を始めるし、何よりお家に帰ってくることすら希なのである。 また寒そうな服に強い匂いを纏う目つきの悪いお姉ち

  • 第二十五話 星は星を知らない

    さき。それは、町田百合の数少ない友人、遠野咲希のアイドル名である。 名称のひらがな二文字で可愛さを全力アピールしているつもりの彼女は、2メートルにすら迫らん程の成長を見せる物理的大型新人。 彼女はアイドルって何だっけ、という程凄まじい身体能

  • 第二十四話 綺麗なものを壊すのが

    アイドル四天王というものが出来たのは、カシマレイコという天上に付き添うように高度化した少女たちをただのアイドルたちと纏めるのが不可能になった群集の心理に拠って撚られたためとされる。 だがそんな緊急退避的な称号が今や四様の篩のよう。彼女らの何

  • 悲鳴をすら

    「……美味しいです」 一人蕎麦屋のカウンター席に座して、一口いただいて直ぐにそう零したのは碧い目をした栗毛のウマ娘。 主人が少女のためにとせいろ蕎麦たっぷりと盛りに盛ったは十人前。だが、彼女にとってそれは腹八分目に収められる程度でしかないの

  • 第二十三話 とても、幸せだ

    「♪」 目隠し少女が歌った、踊った、微笑んだ。そればかりで華やぐのは、少女の実力が上等に至っているがため。 何もかもが見かけばかりのハリボテでもいい筈のアイドルというものの中で、つま先からてっぺんまで基礎から何までしっかりと詰まった希少な本

  • 番外話⑤ カシマレイコ

    遠野幹彦は、カシマレイコを見いだした栄誉からマネージャーという名のままになっている彼女専属プロデューサーである。 独立した後、社長業も行うというよく分からないことになっているが、それくらいに幹彦という男はカシマレイコというバケモノアイドルに

  • 第二十二話 曲に負ける歌なんて

    望遠鏡で空を覗いてみたところで神と視線が合わないように、人と神々とはあまりに遠すぎる。 だが、アイドルという人界の賑やかしの中にのみ、それは確かに近くあると多くにされて崇められてすらいた。 握手なんて以ての外。電子に載っかった顔と美声ばかり

  • 第二十一話 独りで唄ってない

    実力を天にまで示した。そして、それは網によって地べたに広く拡散されていく。 情報化社会においても遍く全てが、とはいかなくてもそれは少女が傑物であると世に知らしめるのには十分なもの。 それくらいに、初ライブの映像はしばらく多方面に注目された。

  • 第二十話 いいわね

    はじまりがあれば、終わりがあるのは自然。 また、その間隙に全力が賭されていたならば、そう長い間続くものではない。 町田百合の記念すべき初ライブは、駅前に熱狂をもたらしながら一時間足らずで彼女のばいばいと共に終わった。 虜となった聴衆に背を向

  • 第十六話 世界を変えちゃうかも

    高遠稲は、芸能事務所として老舗の域に入っている中堅どころ、オーキッドプロダクションのアイドルである。 子役として事務所入りしてから、カシマレイコに憧れてアイドルの道へ進んだ彼女。 今は亡きお婆ちゃんから貰った名前に芸名を被せることなく大切に

  • 第十五話 知らないのですぅ

    それは、ただ映るだけで世界を墜とせたというのに、彼女はあまつさえ歌って舞って、終いに笑んだ。 やがて世界は、彼女のために凝った。 そう、彼女こそとびきりのアイドルという偶像。 偶像を計るには、持つ権能を見ればいいのだろうが、生きとし生けるも

  • 番外話④ バレンタインデーそのよん

    「ふへぇ……意味分かんねぇですぅ……」 一日終わり、歩む目隠し少女は懊悩に首を傾げる。 毎年周ってくるバレンタインデーというものは、これまで町田百合の心を動かすのに足る一日にはなっていなかった。 そう、たとえ自分の作ったケーキを踏みつけられ

  • 番外話③ バレンタインデーそのさん

    輝田(きだ)プロモーションに所属するアイドルチーム、トゥインクルチアーズの吉野友実と言えば最近そこそこに知られるようになった存在である。 センター、でこそないがチームの中でもアイドルに必要なすべての技術が際立った一人であれば、自ずと目立つ。

  • 番外話② バレンタインデーそのに

    遠野咲希にとって、二月十四日というものは、近頃甘いより苦いイメージが強い。 咲希は、食べ物、ひいてはチョコレートが大好きである。花より団子という言葉があるが、花も団子もいらないからチョコを口いっぱいに含みたい、というのが咲希の本音。 特に幼

  • 番外話① バレンタインデーそのいち

    「ふあぁ……もう甘ったりぃ匂いがする気がしますねぇ……」 二月十四日はバレンタインデーであるという情報くらい、百合だって知っている。 コマーシャルに、誰かの話題、創作の一部。そこら辺が二月のはじめ頃から甘い茶褐色に切り替わっていくのだから、

  • 第十四話 トップアイドルに、なるですぅ

    炎は、燃焼している。罪科を薪として、かけがいのない命だったものを煤として、それでも彼女の内では無常が盛んに。 地獄というのは、本来何より空想であるべき代物である。末期の先の罰なんて、諭しのための道具でしかない方が良かった。こんなの、信賞必罰

  • 第十三話 これでもぉ

    「はぁ……どうしてオレったら、こんなに面倒なことばかりやらされるかねぇ……」 中井裕太は昨今流行りのアイドルマネージャーになって日が浅い男性である。 もともと手足の長さが自慢の彼は男性アイドル志望であったが、事務所に所属し年若くして重く下積

  • 第十二話 安心してね

    偶に幻想物質ではなく、タンパク質等を主にして創られてしまった地獄の蓋であるところの町田百合。 本来無機質であるべきなのに、熱情によって活動的に動いてしまっている彼女は、存外見目を気にしていた。 まあ、その目を開けばどんな格好をしていようが台

  • 第十一話 愛さえあれば

    遠野咲希は高身長に長い手足が特徴的で、そこに少し肉が付いてきてしまったことを気にする年頃の女の子だった。 そんな、体重計を蛇蝎のごとくに嫌う少女は、しかしトレーニングを欠かすことはない。 「一、二、三、一、二……」 美しく、コンパスのように

  • 第十話 勘違いヤローども

    町田百合は悪辣な視覚情報である。一度奥まで見れば、終わりを知る。最果ての地獄を孕んだ生き物など、蠢くべきですらないかもしれない。 そんなものが眼帯をつけて偶像になりきろうとしているのだ。当然、無理が出るというものである。 「あぐっ!」 地熱

  • 第九話 プリティサイズだから

    吉野友実という少女は、アイドルになるために生まれてきたような存在である。 見目は当然のように麗しく、運動神経も抜群で体躯はどこまでも柔らかく、目的のためには媚びることすら容易い精神まで持ち合わせていた。 笑顔なんて、意識するまでもなく人生の

  • 第八話 格好いいじゃない

    与田瑠璃花という元アイドルであるトレーナーにとって、町田百合という少女は不可解そのものだった。 稚児より下手な歩みで、驚くほどに音痴であり、笑顔を作ることすらぎこちない、そんな無才の全体で彼女はトップアイドルに本気で至ろうとしている。 この

  • 第七話 ありがたくなんて、ない

    町田百合は地獄に繋がる目を薄く塞いで生きている、少女である。 彼女の視界は常に薄くベールに覆われているし、もとより良くない視力は世界をそのままには映さない。 汚穢すらも彼女に届くまでには大いに欠けていて。 だからこそ、百合にとって世界は遍く

  • 第六話 仕方ない

    好きという言葉は嘘で、嫌いという思いも間違いで、なら私に正しさなんて一つもない。 嘘つきの自分はきっと天国にはいけないだろう。あの果てしない清涼には至れやしない。 つまり、これから向かうのは地獄なのか。私は痛くて辛いばかりの、どん詰まりに至

  • 第五話 一人ぼっちは寂しい

    田所釉子は、アイドルだった。 それも、ただのアイドルではない。天上には及ばずとも、まずただの花として飾られるばかりの代物ではなかった。 喩えるならばそれは、輝石。可憐を綺羅びやかな明かりの中輝かせて、その多面な美を周囲に振りまく、そんな少女

  • 第四話 頑張るです

    地獄に焦がされ続ける普段から我慢は得意で、身体は役目に則り復元力に富んでいる。 ならば、何本か欠かした歯を食いしばった百合が、痛みに耐えながらベッドの上に固定されたひと月を狂わずに過ごせたのは当然だったかもれない。 だが、普通ならば、ただの

  • 第三話 負けない

    百合は、地獄の蓋である。 つまり地獄の天板であり、皆がそこまで落ち込んでしまないように、踏み敷かれる役割。最低値を超えないようにある、底辺。そんなヒトガタが、百合だった。 だが、ヒトガタであるからには、成長が許される。ならばと焦げ付いた心で

  • 第二話 あなたのためになるのなら

    町田百合は、地獄が溢れぬように取って付けられた蓋である。それが偶に人の形をして産まれているだけ。 彼女はその役割故に何より地獄に灼かれ続けることこそ重要であり、人間としての能力はおまけに近かった。故に、少女の持つ能力は最低限。 しかし、悪に

  • 第一話 地獄に落ちてしまったとしても

    ぎゃあぎゃあとカラスが大いに鳴いた、それは、昏い、昏い一日の終りのことだった。 今より十六年と少し前。町田家に、とある赤子が生まれた。性別は、女である。そして、何より彼女の属性は。 「うあぁ」 「なっ!」 地獄だった。 最初から開いていたそ

  • マイナスから目指すトップアイドル・目次

    地獄の蓋として生まれた少女。彼女は瞳の奥に地獄を映してしまうために、目を隠して生きています。 ですがそんな彼女、町田百合には夢がありました。それは、トップアイドルになること。 ――悪こそ、この世のあらゆる善の番。

  • 第十九話 私と同じ

    博麗霊夢には、親はない。 いや、正確には棄てた産みの親に育てた先代の巫女が居る筈なのだが、それらを彼女は親と見做していなかった。 顔も名前も知らない覚えていないそんな実父母は勿論のこと、没する前まで確かに衣食住を用意してくれいただろう先代の

  • 去話 終わりの音色

    生きるということは、ただ意識があるだけの状態ではないと小さな頃の朝茶子は思っていた。 生は推移であり、変化と反復を交えた動きの総称だと幼き少女は考えていたのである。 つまるところ、朝茶子にとっては世界の多動が生々しいものに映るのだった。太陽

  • 閑話 最強と

    〇〇〇〇は目立つことが好きだ。それは、以前までそうあることが通常だったからだったかもしれない。 だが、荷物運びで際立つことに慣れて、そして駆けっこで一番を続けることにも飽いて、やがて彼女は当たり前の勝利をつまらなく思うようになる。 なにせ、

  • 第十二話 たり前ですよぉ

    今より十六年と少し前。町田家に、とある赤子が生まれた。性別は、女である。そして、何より彼女の属性は。 地獄だった。 その瞳は、窮まっている。腐りを過ぎて終わっていて、更には死んだ後の何かだった。そして、残酷にも、幸せな未来などそこには映って

  • 第十一話 一人ぼっちは寂しぃ

    あたしは片桐朝茶子。今日はお歌をうたうよ。 そう、さっきからあたしはなんだか趣味の入ってる狭いスポーツカーの車にゆうちゃん社長とまこさんと一緒に乗ってスタジオに向かってるんだ。 それも、歌を録音するために。いや、知らない間に作詞作曲してもら

  • 第十話 哀れむな

    「朝茶子様、おはようございます」 佐々木夕月にとって、朝に片桐朝茶子に挨拶をするのはとても大切なことである。 そもそも、人間関係に言葉をかけることは大事であるが、それより何より朝茶子は忘れっぽい。 少し気にしている程度の相手なんて翌日の記憶

  • 第九話 好きですよ

    あたしは片桐朝茶子。高校2年生の女の子だよ。 そんなあたしは朝早くからすいすいと車に乗っかったまま通学してる。学校向かうのは慣れたけれど、でも自分の足で通学出来ないってのは面白くないね。 まあ、お父さんお母さんの方針ってやつだからこれも仕方

  • 第八話 地獄の蓋

    「はぁ、めんどいですけど、仕方ないですねぇ」 日差しまだまだ暑いに足りない淡さの中。しかし天から降りてきたそれらが自分に沁みるのを嫌がる少女は、日傘を差す。 それがふりふり黒レースと白いラインに覆われているのは彼女の趣味だろうか。暗がりの衣

  • 第七話 おばけ?

    あたしは片桐朝茶子。実はジェンガが好きな女の子だよ。 あの積み木って、とっても楽しいよね。何しろ続ければ続けるほどどんどんもろく、スカスカになっていって、最後は崩れて台無しに。そんなのはとっても命に似ていて可愛いと思うんだ。 あたしは、一人

  • 第六話 インプリンティング

    水木巫女子は、自分を世界で一番キレイな存在になれると思っていた。そして、キレイであれば、何もかもを思い通りに出来る、と。 そんな勘違いをずっと続けていた少女だったのである。 巫女子は小さい頃からよく言われていた、可愛い子だ、という褒め言葉を

  • 第五話 がんばってね

    あたしは皆のアイドル、片桐朝茶子。あ、でもまだ誰にもアイドルっぽいところって見せてなかったかも。 ということは、まだ誰のアイドルでもないんだね、きっと。これから頑張らないと。せめて、一人くらいお友達作ることが出来るようになるまでは、ね。 「

  • 第四話 ファンっすから

    ぱたん、と扉が閉じられる。それだけですべての無闇な緊張が解けるのだから、恐ろしい。 絶世に対する畏れから逃れられた後に、残るは男二人の無意味な沈黙。寡黙では決してない大男二人であっても、しかし開放からの快感はどうしようもなかったようだ。 全

  • 第三話 アイドル、やってます

    あたしはあたし。片桐朝茶子。 最近身体が硬いってことが判明したから、毎日お風呂上がりにストレッチを日課にしている女の子なんだ。 さて、そんなあたしがストレッチ以外にしていることといったら、それは芸能事務所に土日通うこと。けっこうこれ、大変な

  • 第十八話 全てを忘れたとしても

    「うーん……」 本を読むという行為に沈黙が付いて回るのは果たしてどうしてなのか、上白沢慧音はときに考える。 そして、きっとそれは読書という行いがそれだけ緻密なものであるためではないかと、今日の彼女は思いついた。 その通り、ただ目で文字を拾う

  • 第二話 怪獣みたい

    これは、美という概念すらを換えてしまったあのホンモノの身近で彼女を慕っていた、一人の人間の本音。 十を超えた取材交渉により彼が得ることができた、一欠片。しかし晒されることすらなかった一つ。 「はぁ……」 久方ぶりに、雑誌記者皆賀片尾(みなが

  • 第一話 えいえいおー

    あたしは片桐朝茶子(あささこ)、っていう名前の女の子。 そこらにいるような普通の子だよ、って言えればいいのだけれど実際あたしは頭が悪ければ、運動だって苦手なダメダメなんだ。 勉強は、結構色々知ることが出来て楽しいなとは思うのだけれど、いざ答

  • うつくしさ極振りのアイドル生活・目次

    うつくしさ、それだけが何よりも現実離れしてしまっているおかしな少女の壊れたお話です。 片桐朝茶子。彼女は果たしてアイドルに留まることは出来るのでしょうか? 「じゃああたし、大きくなったらみんな仲良く●してあげる!」

  • それでも、私は走る

    「全治、二ヶ月か……何、してようかな」 若葉色の一重の患者着に身を包みながら、少女は先に聞いた医者の言葉を繰り返す。 随分と長く気絶していたらしい合間にがっしりと巻かれたギプスを装置で釣り上げられた、そんな身動きろくに取れない大げさな眼前の

  • 第四十三話

    その実力、まるで人でなしのようであるが、しかしその実霧雨魔梨沙は、魔法使いを気取った、ただの人間の少女である。 当然、人であるからには無理はきき辛い。優れた術にて補っているが、それでもベースはあくまで人の子。疲れを感じれば眠るし、手を伸ばし

  • 第四十二話

    そのあやかしの魔力は幻想を逸する。広がった白熱は、最早太陽球に届く。立ち昇った力をたちどころに呑み込むに、天空では足りない。 故に、死蝶ですら、あまりの力に溺れて消え入った。死を帯びてすら消え入らない精密な偽花の群れに溢れた空には、お化けが

  • 第四十一話

    魂魄集えば、その霊気は冷気を周囲に及ぼし凍えさせる。花吹雪は、その名前のまま鮮やかにも寒く。そんな、あまりに冷たい春の空は、一条の光線にて解けて温まる。 辺りは包まれ、余裕はあっとう間に消されていく。いたずらにそれが振り回されないのは、幽か

  • 第四十話

    花が開いて薫り飛ばせば、人に霊だけではなく、虫達も大わらわに飛び回るもの。彼らはぶんぶんと、自分達を上回る数の多色に目を奪われながら花弁の間を行ったり来たりして蜜を頂く。 そして、その身にどっしりと様々な花粉を纏った状態で、一輪から飛び立と

  • 第三十九話

    博麗霊夢は自分の持つ能力のことをよく、空を飛ぶ能力ね、と口にしている。それは何処までも正しい事実であるが、それだけでなく、彼女は博麗の巫女としての能力も確りと修めていた。 空を飛んで陰陽玉を操り、御札と針を持ってして弾幕戦を行う。脇が甘いと

  • 第三十八話

    魔梨沙が夢幻館から戻り、自宅で傷ついた身体を薬草と休息で回復させていた、その頃。 幻想郷の空遥か高く。何故か一部破られたまま未だに直されていない幽明結界の前にて、多量の幽霊が溢れていた。 その中心にて、踊っている少女が一人。彼女の着物の薄青

  • 第三十七話

    「花に三春の約ありというけれど……夏秋冬の分まで咲くのは行き過ぎだわー。やっぱりコレは、幽香の仕業かしら」 春が来て、幻想郷は正に花盛り。しかしそれも随分と過剰過ぎるものがあった。 桜が咲くのはいいだろう。満開のそれらは、風に揺られ宙にて春

  • 第三十六話

    夜闇の中に星々は輝く。吸い込まれるように暗い背景は、遠い星の光を際立たせて、疎らな美しい点描を生む。天球はまるで光と闇が、夜空のキャンバスの中で彩りを競い合っているかのようだ。 しかし、実際は数えきれないほどの星々の輝きが闇に食まれていて、

  • 第三十五話

    山風冷たく吐息も地面も白く染まる、幻想郷の冬。寒さ深まる中で、更には夜の帳が下りた今となっては、外にて騒ぐものなどねぐらのない妖怪妖精くらいのもの。 人里離れようがそうでなかろうが、大衆の集まる居酒屋などでない限り、人々は家屋の中にて硬く扉

  • 第三十四話

    「ふぅ。これでお終いですね……」 「お疲れ様ー。イナバ? それとも優曇華? 鈴仙の方がいいかしら?」 「ええと、魔梨沙様……出来るなら私のことは鈴仙と呼んで下さい」 「分かったわー。これからは鈴仙って呼ぶから、あたしのことも様付けは止めてそ

  • 第三十三話

    蓬莱山輝夜にとって、この永い夜は非常に刺激的だった。それこそ、永遠の魔法をかけて停めてしまいたいくらいに、素晴らしいものと思えてならないものだ。 この夜の始まった頃はそれほどの感慨を抱いていなかったと輝夜は記憶している。来るかもしれない妖怪

  • 第三十二話

    永遠亭に侵入した魔梨沙は、沢山の妖精たちの歓迎を受け入れつつ、撃つ星弾のように真っ直ぐ先へと急いだ。 そして、魔梨沙が今日のために空間が改造されていたのか長く一直線な廊下を進んでくと、正面を襖扉が邪魔をしたために、そこを開けて先へと進もうと

  • 第三十一話

    僅かに欠けているとはいえ明るい満月によって、互いの表情すらよく見える中で、蓬莱山輝夜と霧雨魔梨沙は自前の紅の瞳を持って見つめ合う。 魔法使いのイメージそのままの魔梨沙の姿を、千年以上迷いの竹林から外に出ていない輝夜はその統一感から地上の民の

  • 第三十話

    蓬莱人である藤原妹紅は、老いる事も死ぬ事もない程度の能力を持つ存在である。 彼女も人の枠にあるため肉体を持っているが、それが滅びようともその生に関係はなく、蓬莱の薬を飲んで本体と成った魂によって幾らでも肉体を再構築させられるため、結果的に不

  • 第二十九話

    迷いの竹林の中、永遠亭の近くを棲家とする妖怪兎達は、大いに騒いでいた。 何時も飛んで跳ねて、時に餅をついたりする、そんな暢気な妖獣たちはそのよく伸びた感覚器によって、強力な妖怪と人間、そして恐ろしい幽霊と半分人間の存在をいち早く知り、怯えた

  • 第二十八話

    上白沢慧音は、今回の異変に対して、過分とすらいえるほどの対策を講じている。 不完全な月の下、不完全な力のままに、しかし慧音は人里を守るためにと奔走した。今回の異変の恐ろしさを主要な里の人間に説き、彼女は一夜だけならと人里を【なかったこと】に

  • 第二十七話

    あたし、霧雨魔梨沙は、星が好きである。まず、大本の距離や大きさは違えども、夜を明るくしすぎないくらいに天を賑やかせているその有り様が素敵だ。 色とりどりに、瞬いたりして、決して大きくないその存在は自己を主張する。それが集まる天の川なんて、つ

  • 第二十六話

    照りつける強い陽光に、湿度の高い空気が相まって、止まらぬ汗は長々と垂れて頬を伝う。幾ら帽子を被って日差しを避けていても、熱された地面と近くあればその身の温度は上がっていく。 これはたまらないと、星柄の綺麗なガラス製で、しかし保温保冷機能は外

  • 第二十五話

    霧雨魔梨沙の家は、純和風の造りである。人里の大工に作らせたのだから、そうなるのも当たり前なのかもしれないが、和風建築に魔女が住むというのはミスマッチではあった。 一人で住むのだからと、二階建てにすることにすら難色を示した魔梨沙だったが、それ

  • 第二十四話

    鬼退治を終え、スキマから出てきた魔梨沙にかけられたのは、沢山の叱咤とおまけばかりの回復魔法だった。 特に霊夢からの文句は止まらない。それは、最初はダメな部分を挙げていた魅魔も、取り成すよう動かなければならないくらいのものだった。 さあ、そろ

  • 第二十三話

    「あー。駄目ね。本気になって私の真似事を始めたのは面白いけれど、その前に萃香のあんなに雑な攻撃をグレイズさせるなんて、魔梨沙らしくない」 「あら、身体に掠めることすらいけないなんて、厳しいお師匠様ね」 「当たり前よ。あれでも魔梨沙は人の子。

  • 第二十二話

    日は地平に沈みかけ、地は紅の力ない陽光に溢れている、そんな時間になって斜光よりなお紅の洋館からふわりと出かける影が二つ。 その内の一人、地下にて書を嗜むばかりいたためか、最近動かない大図書館という嬉しくもない二つ名を頂戴してしまったパチュリ

  • 第二十一話

    宴会当日。現在日は高く、夜中に予定しているそれまでまだまだ時間はあるが、言い出しっぺの魔梨沙は真面目にござを敷いたり霊夢と一緒に食べ物の吟味をしたりして、過ごしていた。 いよいよ増している妖気が邪魔だなあと思いつつ野菜を洗いながら、魔梨沙は

  • 第二十話 天邪鬼に優しくされてみた

    その系譜の大本であるとされる天稚彦や天探女まで辿るまでもなく、天邪鬼という存在は反逆する者であることが要であり本来捻くれている必要なんてなかった。 だが、実際のところ鬼人正邪は誰よりもへそ曲がり。白と言えば黒を語るし、正義を説けばその隣の悪

  • 第二十話

    内にぐるぐると胸の内で回るような熱が燃えて仕方ない。そして、レミリアの顔は美酒によって酔ったかのように火照っていた。 どうにも、通常の状態ではない。だから、こんなに馬鹿げたことをするのだろうと、レミリアの冷静な部分は自分を推察する。しかし、

  • 第十九話

    その姿を最初に発見したのは、当然のことながら、門番をしている紅美鈴であった。穏行もしていない人影を見逃すほど彼女は暢気ではなく、むしろ門番として優秀な方である。 しかし、美鈴は焦らず、むしろ迎えるために門から一歩前へと進んだ。空を飛んで、何

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