前ページ 「いやもう無理だけど、何で? 何かあったの?」 彼は僕に聞いてくる。一応、理由くらいは聞いてくれる時点で、やっぱり悪い人ではない。悪い人ではないが、もう少しくらい融通を効かせてくれたなら、もっと悪い人ではない。「いや、彼女がですね
前ページ エレベーターを降り、廊下の突き当たりの喫煙室に進むと、やはり彼はいた。ガラス戸の向こうで、旨そうに煙を吐き出している姿が見える。 彼は灰皿の前で天井を見つめ、だらしなく開いた大口から白い煙を立ち上ぼらせている。その至福そうな姿を
前ページ しかし、どうしたものだろうか。 まさか今日を僕の誕生日にしていたとは、完全に忘れていた。暫く会えていないこともあり、少し怒らせてしまっている気もする。でも、それでも祝ってくれるというなら、やっぱり祝ってもらったほうがいい気もし
他作品へ 「今どこにいるの?」 ……どう答えるべきだろう。 電話口で、僕は悩んでいた。 「歯医者だよ」 少し考えた結果、とりあえず僕は嘘をつくことにする。 「……もう少し考えて嘘をついてよ。歯医者で3日もいなくなるなん...
前ページ 息子は続ける。「もう少しすると、ヘロドトスに所縁のある土地の遺跡から、古代のウィルスが付着した遺物が掘り起こされてインフェクションスプレッドするんだけど、ヘロドトスもインフェクションスプレッドも何だったのかが思い出せないんだ」
前ページ 「アポロエピクリオスって何処だっけ?」 ……だから何なんだそれは!? 何処も何も、僕はそれが何なのかもわからない。 こいつは本当に僕の知らない次元へと旅立ってしまっている。息子と僕の立つステージが違いすぎて、もう僕は彼を息子と認識
前ページ 息子が中々に頭の悪いことを口走っている。 しかし安心した。やはり、子供はこうでなくては困る。もしかしたらゲームや漫画のやり過ぎで、空想と現実の区別がつかなくなっているのかもしれないが、これでいいんだ。子供はわけの解らない頭のおか
前ページ とにかく調べる時間を稼ぐ。 となると、僕の返事はこれしかない。「ほう……お前もそんなことに興味を持つ年になったか。後でゆっくり語ってあげるから、取り敢えず風呂にでも入っておいで」 ばっちり決まった。 文句が言えるものなら言ってみ
前ページ 「あのさ、お父さん」 息子は再び、僕を名指しで声を掛けてくる。僕は身震いした。「インフェクションスプレッドって何だっけ?」 ……何だそれは? 天才の疑問に答えられる知識など、僕にあろうはずがない。 僕は焦って妻を探す。少し離れたソ
前ページ くだらないこと、とか言ってしまった。 全然くだらないことではなかった。むしろその興味を伸ばしてあげたい。やってしまった。 いや、しかし、これは世界史の人物だ。何故10歳の子供が世界史の用語を知っていたのか。中学か高校の知識では
前ページ 少しだけ考える。 息子は『何だっけ?』と言った。 過去形だった。 『ヘロドトスって何?』ではない。 つまりは、過去に息子はヘロドトスを経験している、ということだ。既にヘロドトスは通った道なのだが、何かのきっかけで思い出しそうで
前ページ 魔王が少し考えていると、秘書が急かしてくる。「でも、もうそこまで勇者は来てますよ。早く決めてください」 魔王は急かされて、少し苛立つ。「と言われても……大事なことなんだから少し迷わせてよ。ごめんだけど、ちょっと待つよう勇者に伝え
他作品へ 「ヘロドトスって何だっけ?」 ……何だっけ? 夕方過ぎの家族の 団欒《だんらん》。エビフライを旨そうに頬張りながら、10歳になる息子がそんなことを聞くものだから、僕は少し口ごもった。 ……ヘロドトス。聞いたことはある気がする
前ページ ミサイルランチャーを担いだ勇姿を鏡に写し、魔王がうっとりとしていると、何だか玉座の間の外が騒がしい。魔物達が騒いでいるようだ。「何かあったのかな……ごめんだけど、ちょっと見てきてよ」「かしこまりました、勇者様」 魔王は秘書に様子
前ページ 「じゃあミサイルランチャーとかどうですか? ミサイルランチャーなら簡単なレクチャーを受ければ、撃つだけで強いですし、純粋な殺意の塊ですよ。さすがの大魔王もミサイル当たれば死ぬでしょ」「そうだね……たぶん大魔王もミサイルなら粉々にな
前ページ 「じゃあ、やっぱり大魔王をぶっ飛ばしてくださいよ、そうすれば自然と私の格付けも上がります」 秘書は本気になってきたようだ。そんなに自分の立ち位置が気になるものだろうか。意外と自尊心が高い秘書の一面に、魔王は少したじろぐ。「でも、そ
前ページ 十数分後、魔王が玉座の間に戻ると、待っていた秘書が声を掛けてくる。「どうでした?」「ミサイルランチャーを見せつけたら、ビビって帰っていった。やっぱり凄いね、ミサイルランチャー」「それは良かったです。でも勇者を倒してしまった以上、
前ページ 「じゃあ暫くは勇者が来ないってこと?」 魔王は溜め息混じりに秘書に確認する。「まぁ、そうですね」「じゃあ僕の活躍の場は、どこにあるんだろう?」 魔王は相談した。秘書は少し考えてから答える。「そうですね……アレはどうですか? たまに
前ページ 「カッコいい散り様ってどんなのですか?」 欠伸を噛み殺した以上、おそらく興味が無いであろうことは魔王にも容易に想像できたが、せっかく聞いてくれたので魔王は答える。「そうだな……仁王立ちで往生するとか……こ、こいつ……立ったまま死ん
前ページ 「何で勇者は来ないんだろう……」 魔王は呟くように秘書に投げ掛けた。「逆に何で来てほしいんですか? 来ないほうが楽でいいじゃないですか」「いや、だって暇じゃない?」 秘書の疑問に魔王は返答した。「まぁ、貧乏暇なしって言いますからね
魔王は焦っていた。 大抵の地図では端に描かれている世界の果て。 魔王の居城の最深部に位置する玉座の間で、今日も魔王は待っていた。 人類に対して侵攻を始め、5年。世界征服の計画は万事滞りなく進んでいた。魔王の配下の魔物達は次々に人間ども
前ページ バンダル・スリブ・ガワンとバンダル・スリ・ブガワン。 この違いは大きい。 語感が全然違う。 となると、もう僕はバンダル・スリ・ブガワンに失望するしかない。 ……いやでも、ブガワンはブガワンでアリかもしれない。むしろブガワンだけ
前ページ よくわからないが、取り敢えず声に出す。 バンダルスリブガワン。 バンダルスリブガワン。 バンダルスリブガワン。 よくわからないが、癖になるかもしれない。 もはや何なのかは全くわからないけど、とにかく響...
前ページ 声に出して言ってみる。 リフレクソロジー。 リフレクソロジー。 リフレクソロジー。 カッコ良すぎる。 これはもう、何らかの特殊能力の名ではないだろうか。もはや哲学的な響きすら感じる。 ...
エビフライやカキフライにタルタルソースをかけるべきか、ウスターソースをかけるべきか、暫く悩むこと、よくあると思います。 どちらがより美味しくいただけるのか、わりと永遠の課題だとは思うのですが、それにしてもタルタルソースって美味しいですよ
前ページ もう少し調べたら画像も出てきた。 クロワッサンを丸くして、より甘く仕上げたもののように見える。 ――いや、これ、もうパンだ。 僕は愕然とする。 見る限りパンとも一概には断じることもできないが、雰囲気を察する限り、要は甘いパンだ。
こんにちは なのか こんばんは なのか、あるいは おはようございます なのか分からず恐縮ですが、とにかくご来訪いただき、ありがとうございます。 「ゆるさない」と申します。 本サイトは小説というか雑記というか、なんだかそういう文章を載せてい
こちらから投稿作品の初ページへリンクしています。 ・大まかにして朗らかな見解を優しさと共に ・想いを繋げ、カムチャッカ
前ページ 言葉に出して言ってみる。 クイニーアマン。 クイニーアマン。 クイニーアマン。 ヤバいなこれは。 クイニーアマンが一体どんなものかは知らないが、何かカッコいいロボットとかの名前だろうか。クイニーアマンの前に適当な四字熟語を付けてお
前ページ 恥ずかしい。 紅茶の名前は全部産地の名前だとばかり思い込んでいたために、僕はさっき『紅茶の本場、オレンジ・ペコー』なんて心の中で呟いてしまった。 冷静に考えたら、そんなメルヘンな地名がこの殺伐とした現代社会にあるはずがないのに、深
前ページ 少し連呼してみる。 オレンジ・ペコー。 オレンジ・ペコー。 セカンド・フラッシュ。 オレンジ・ペコー。 こいつは良い。 貴族的な響きを感じる。もしくは歴戦の競走馬の名に連なっていてもおかしくはない雰囲気だ。これはもう名前だけで有馬
前ページ 僕は少し考える。 ……さっき『日本有数の』とか思ってしまった気がする。 しかし、そもそも日本ではなかったようだ。 言葉の響きは北海道あたりのそれなので、僕はてっきり北海道のどこかだと思い込んでいたわけで。 ――なんだか恥ずかしく
カムチャッカ半島。 ……なんて響きの良い言葉なんだろう。 休日の午後、僕は誰に知られる事もなく、自室で一人、心ときめいていた。 カムチャッカ半島が一体どういう所かなんて、全く持って知らない。 でも、そんな些末なことなんてどうでもいいくらい
前ページ 次に意識が戻った時には、既に部屋の中に日が射し込んでいた。寝起きの頭でぼんやりと部屋を眺めると、友人はテレビを観ながら惚けている。眠れたかどうか確認すると、あまり眠れなかったと彼は答えた。コタツしか無くて申し訳なかった、と伝えると
前ページ そろそろ寝付けるかもしれないし、もう無理かもしれない。でも僕が諦めたらきっと世の中はとんでもないことになるし、世の中がとんでもないことになったら僕もとんでもないことになるかもしれない。僕がとんでもないことになったらもしかしたら明日
前ページ 背広のボタンを引きちぎると絶対に宝くじが当たるから何とかして上司の席の後ろに加湿器を設置してその中でミドリガメを飼わなければならない気がする。 喉元の10cm程上の辺りがそんなことを考えだした頃、何だか清らかな音楽のようなものが耳
前ページ 会社の入口前の百葉箱から2匹のドジョウが孵化したので車が合体して女子高生が銀行強盗を企み風呂の栓が外れてしまうかもしれない。 そんな事を真剣に悩みだした頃、何かが倒れる濁音に再び引き起こされそうになるが、聞き慣れた環境音にいちいち
前ページ「よくあるってお前……これ金縛りってやつだわ……どうしよう……」 何だか彼は焦っている。だが別に大したことじゃない。そんな些末なことにせっかく寝かけていた頭を覚まされたことに少し苛立つ。「大丈夫だよ……俺は3日に1回は掛かってるよ、
前ページ 冷蔵庫にあった豆腐とキムチで缶ビールを2本ずつ空けながら久々に2人でテレビゲームに興じたあと、日付が変わって暫く位の時間に、どちらとも無くそろそろ寝ようという流れとなった。「布団が1つしかないのでコタツで寝てくれ、すまんな」 寒さ
「今晩泊めて欲しい」 嫌だ、と思った。 気分の良い金曜日の夜更け。休日前の最高潮の気分に合わせ酒盛りを目論んでいた頃、学生時代の友人が唐突に訪ねてきた。 近くに住んでいることもあり、彼とは月に1度は顔を合わせる。そのため特段として郷愁心が刺
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