南宋時代の中国、元寇を避け、ある寺で無学祖元が坐禅をしていると蒙古軍が侵入してきて剣を突きつける。しかし微動だにせず『臨剣の頌』あるいは『臨刃偈』とよばれる漢詩を詠むと蒙古兵は感銘を受け、礼をして去ったといわれる。七百年前の名場面で、瞬間イメージが浮かんだ。検索してもビジュアル化された気配がなく、即座に制作を決め、昨日まで爪の先ほども考えたことがなかった蒙古兵を作ることになった。これが私の紆余曲折のメカニズムである。架空のブルースマンを作っていたはずが、40数年の旅路の果てに禅宗の高僧を作っている。挙句に鎌倉幕府に脅威を与えた蒙古兵を建長寺内に並べようとしている。今時、北条時頼と蘭渓道隆が対座しているところを作る、なんて地球上で私だけだろう、などと夢想しているうちは良いのだが。臨剣の頌(りんけんのじゅ)