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  • 私はメキシコに行きましたか?

    記憶というのは、それが遠い過去であればあるほどぼんやりしてくるものだ。40代にもなると幼少の頃の記憶なんてもはや、ラノベで異世界転生した主人公が高熱を出して思い出す前世の記憶と同じくらい曖昧なものになっている。 そんな幼少期の記憶らしきものをふとしたきっかけで思い出したとしても、それが本当に自分が体験したことなのか、それとも誰かに聞いた話なのか、はたまた風呂で妄想したものなのか…確信なんて持てない。 いや幼少期の記憶どころか、1年前の記憶ですら危うい。 ついこないだも「これは面白いものになったぞ!」と自信満々でエッセイを書き上げた後でふと、どこかで読んだ内容だな...と思って調べた

  • とびら開けて

    ねえ、ちょっとおかしなこと言ってもいい? というのはディズニー映画「アナと雪の女王」の序盤でアナとハンスが歌う「とびら開けて」という曲の歌い出しの歌詞だ。しっかり覚えている。何回も聴かされたから。 アナ雪はうちの娘たちが大好きなディズニー作品である。 そして先日ディズニーシーで新しくオープンした「ファンタジースプリングス」にはそのアナ雪のエリアがあるらしい。 アレンデールに行けると聞けばさすがに出不精の娘たちも飛びつくことだろう。そう思って誘ってみたのだけど…まだいいと断られた。 まだいい、ってどういう意味だ。 ひらパーとUSJには行くけどディズニーリゾートはまだ早いらしい。

  • 娘心と春の空、そして消えたカスタードパイ

    人間として40年、親になって10年以上が経つベテラン大人だが、それでも先のことを読むのは難しい。特に天気と娘の気持ちの読みはだいたい外してきた。 私は基本的に在宅勤務なので会社に行くのは年に1、2回くらいだ。しかしなぜかそういう日に限って電車が止まったり大雨が降ったりと何かしら問題が起こり、気持ちよく出勤させてくれない。 今日はまさにそういう日、今年初の出社日なのだけど、外に出たら土砂降りだった。 晴れる日の多い5月を選び、週間天気予報でチェックもしていたのに、そんなの関係ないとばかりのえらい土砂降りである。昨日は快晴、明日も快晴の予報でなぜ間の今日が土砂降りなのか。雨男への

  • たまごサンドのお願い

    思春期の子どもと暮らしていると、お願いを聞いているのに怒られる、という理不尽な扱いを受けることがままある。 答える前に質問をしすぎると「断る理由を探してるんでしょ!」と誤解して「もういい!」と怒って行ってしまったり、何も聞かずに「いいよ!」と答えれば「投げやりになっていない?ほんとはいやなんでしょ!もういい!」と早とちりして怒って行ってしまったり。 いやまずもう少し機嫌の良い時に来なさい、と言いたいところだがとにかく素直に受け取ってもらえないケースを考慮して対応しないといけないのである。もっと判断材料がほしいけどこれ以上質問したら怒りそうだしな、とか全く問題ないのだけどとりあえず1

  • 思い出させないで、笑っちゃうから

    ある日の夕食がそろそろ終わろうという時間、私はちょっとした危機に瀕していた。 思い出し笑いに襲われたのだ。 少し前に読んで笑ったエッセイの内容を思い出してしまい、笑いがこみ上げてきて吹き出しそうになった。どうにかギリギリのところでこらえ、ニヤけた顔を家族に見られないようにしながら「ンンッ」と咳払いでごまかした。 ちょうど食事が終わって皿を下げにキッチンに向かうところだったから良かったものの、もし娘たちの目の前で急にニヤニヤしたりしたら「パパのキモいところ」リストにまた1つエピソードを追加されてしまうところだった。 ここでその原因となるエッセイがどれほど面白い内容だったのかを披露し

  • 新しいカバンは選べない

    残念ながら私はカバンを扱うセンスを何一つ授からずに生まれてきたらしい。センスがないのはカバンだけなのか?と聞かれたら他にも思い当たるものはたくさんあるのだけど、とりあえず今日はカバンの話だ。 先日家族で私のカバンを買いに出かけた。 パパのカバンを買うだけなのに妻も娘もついてくる。一見とても仲良しな家族に見えるが(別に仲が悪いわけではないが)、妻娘がついてくるのは休日をパパと過ごしたいだとか、パパにカバンをプレゼントしたいだとか、そういうプラスの理由からではない。私にカバンを選ぶセンスがないことをとっくに知られているので、クソダサカバンを持った男の隣を歩く羽目にならないように監

  • 先生、テニスがしたいです

    私はテニスというスポーツが好きだ。 狙い通りの場所にボールを打てた時の気持ちよさ、パコンという心地よい打音。サービスやスマッシュが決まった時のかっこよさ。何よりテニスという言葉から連想される爽やかなイメージ。 日頃スポーツ観戦をしない私もテニスの試合なら観ていられる。 趣味はなんですか?と聞かれた時に「週末に家族や友人とテニスを楽しんでいます」と答えれば、それだけで信頼され好感を持たれて、友達も増えそうではないか。 テニスをすれば今の私に足りないものがすべて手に入る。 今はテニスをしていない。 しかしテニスとは知らない仲ではない。いやむしろ強い絆で結ばれていると言っても良い

  • こどもの日に親が考えること

    こどもの日が祝日なら、父の日や母の日も祝日にして良いのではないか。いやこどもの日は端午の節句、男の子を対象としているのなら桃の節句である3月3日も休みにすべきだ。いやそれなら月と日がゾロ目になる日は毎月休みにすべきか。いやどうせなら毎週4連休にしてほしい。 …なんてことを考えてしまうのは「10連休の人も多いようです」というニュースを見て悔しくなってしまったからだろうか。4連休じゃ足りない。もっと休みたい。 今年のゴールデンウィークは前半と後半に分かれていることもあって、我が家は例年のように実家に帰るのはやめて家族4人で過ごしている。遠出するわけでもなく1日単位で予定を立てて過ごすス

  • 回り続けるオルゴール

    オルゴールといえば開いた時に流れる郷愁漂う音色とともに懐かしい記憶と感情を呼び覚ましてくれるものだ。ある物語の中で小さなオルゴールが登場すれば、それは当然のごとくこれから素敵な思い出エピソードが語られるという前フリである。 そんな良エピソード量産アイテムであるオルゴールなのだから、自分にも何かしらオルゴールに関わる素敵な思い出があるだろう、よしそれを今回のネタにしようきっとほろりと泣ける話になるぞ、と記憶を探ってみたのだが。 まあお察しの通りそんなエピソードはひとつも見つからなかった。 オルゴールの思い出がないわけではない。 大学生時代にサークルの合宿で北海道に行き、その自由時間

  • 「やせたガール」を卒業したい

    私は「やせたガール」である。 やせているわけではないしガールでもないおっさんだが、「やせたガール」である。 こいつは何を言ってるんだ、と怒られる前に説明しておくと、ここで言う「やせたガール」とは「やせたいと公言しているが一向にやせない、ずっとやせたがっている人」のことである。 ガールとついているが若い女性とは限らない。 おっさんだってやせたガールになれる。 ダイエット記事を10本も投稿していながら体重が肥満ギリギリのところをうろうろしている私もまた「やせたガール」なのだ。 そんなおっさんやせたガールな私であるが、自らが長年やせたガールを続けつつまわりのやせたガールたちを観察した結

  • オバケレインコート羽織

    小さい頃から雨の中をパシャパシャと水しぶきをあげて走るのが好きだった。お気に入りのレインコートを身につけて。 いつしかレインコートは着なくなったが、走ることが好きなのは変わっていない。小学校のかけっこはダントツで一番だった。今でも鬼ごっこなら誰にも負けない自信がある。 中学になって陸上部に入り、大会で何度も優勝した。 でも高校になって勝てなくなった。私が速く走れるのは数十メートルまでで、その距離を過ぎるとスピードがガクンと落ちる。そういう身体なのか、どれだけ練習しても距離は伸びなかった。 諦めた私は走るのをやめた。 そして新しい夢を見つけた。 … アジトで密談する二人の男た

  • わたしのセピア色の桜、灰色の桜

    思い出すとノスタルジックな気持ちになる桜を「セピア色の桜」と呼ぶとしたら、私にとってのセピア色の桜はいつ見たものだろうかと考えてみた。 すぐに出てきたのは通っていた小学校の中庭に植えられていた桜並木だ。 小学5年のある朝、校門を通って校舎に向かう時にグラウンドの横に植えられた満開の桜並木を見て「おお…」と感激した時のことを思い出した。 その桜並木自体は自分が入学した時からそこに存在しており毎年見かけていたはずなのに、その時に初めて綺麗だと思ったのだ。 きっと自分の中にそれまで存在しなかった「風景を楽しむ」という美的感覚のようなものがまさに生まれた瞬間だったのだろう。 その出来事を

  • サボテンとおじさんはなかなか変わらない

    変わる時といえば。 学生や新社会人の頃は新年度を特別な区切りとし、次の1年の目標を決めて何かしら変わろうとしていたものだ。 40歳を超えると当然ながら新年度という時期を既に40回ほど迎えているわけで、その特別感というのもかなり薄れている。月が3月から4月に変わったり、季節が冬から春に変わったりするのと同程度の扱いである。 そうなると次の1年の目標を決めようという神聖な気持ちも生まれにくくなるのか、ここ数年はこの時期に目標を決めた記憶がない。 ではそんなおじさんがいつ変わろうと思うのかと言うと「しばらく変わっていない自分にふと気づいて怖くなった時」である。 ふとした拍子に、あらわた

  • 命乞いする蜘蛛と画家と妻

    飲み仲間の平太郎に「金が入ったので高い酒をごちそうしてやろう」と誘われ、「はい喜んで!」とやつの住む長屋に向かう。 描いた浮世絵が売れたらしい。お前画家だったのか。 知り合ってからかなり経つが、酒を飲んでいる姿か部屋の隅に住み着いた蜘蛛に話しかけている姿しか見たことがない。 ただの無職の変人だと思っていたのに。いつ絵を描いてたんだ。 そしてそんな変人には美人で若い奥さんもいる。 軽く嫉妬を覚えつつ、いつも奢ってくれる良いやつだしまあいいか、と今日も高い酒を遠慮なくいただく。奥さんは留守らしい。 「さっきいいものを手に入れたんだよぉ」 しばらく二人で飲んで食べて気持ちよくなってき

  • 始まりはいつもボツになるアイデアから エッセイ

    始まりはだいたいボツになるアイデアからスタートする。 私のショートショート小説執筆の話である。 昨年の9月にnoteでたらはかにさんの「毎週ショートショートnote」という企画を見つけて以来、週に1回のペースでショートショート小説を書いている。 私が書くショートショートは平均2000文字くらいだ。 いや企画のルール上は「だいたい410文字くらい」と書かれているのだけど、毎回2000文字くらいになってしまうのだ。どうやっても短くならないので、ワンチャン2000文字もまあだいたい410文字だと言えなくもないのでは…?といつしか合わせるのを諦めてしまった。 それはさておき2000文字

  • 桜回線を流れてきたもの

    スペースコロニー内にはパークルームと呼ばれる室内公園がいくつか存在する。そのパークルームの1つを貸し切り、矢端は一人実験の準備をしていた。 部屋の入口の正面、いつもは時間帯によって青空や夕焼け空の映像が映されている壁が今は実験の要となる特殊なシートでコーティングされ、オパールのような薄い虹色に輝いている。 矢端がシートの状況を確認しながら手元のタブレットを操作していると、入口の扉が開いて60代くらいの白衣の男性が入ってきた。 矢端の同期でこのプロジェクトをともに進めている塚口である。 「エリア長に実験開始の連絡をしてきたぞ。問題が起こったらすぐに報告するように、って何度も念を押さ

  • 三日月ファストパスは一度通ったら戻れない

    「お二人で旅行ですか~?海に行かれるなら三日月浜が景色が良くておすすめですよ~」 洋平と美佳がサービスエリアの土産物コーナーを見て回っていると、店員のおばちゃんが声をかけてきた。 3月上旬。週末を利用した一泊二日旅行の帰り道。 まだ時間があるのでどこか観光してから帰りたいね、と二人で話していたところだった。 「良いところを探してたところなんです。三日月浜はここから近いんですか?」 「はい、すぐそこですよ!こちらの地図をお持ちください。ちょっと道路から離れているので、ここの駐車場に車を停めると良いですよ。」 地図に印をつけて渡してくれる。 「ありがとうございます。行ってみます

  • 小説の登場人物の名前を考えるのに時...

    小説の登場人物の名前を考えるのに時間がかかるので何かないかと「小説 名前メーカー」ググってみたら、いい感じの名前を生成してくれるサービスがいくつか見つかりました。便利だ! ピロスケ

  • 悪魔王女のお返し断捨離作戦

    「フハハ、次に我が降臨する時を震えながら待つがよい!」 玲奈がスタッフに別れの挨拶をして楽屋に入ると、マネージャーの志代が待ち構えていた。 「玲奈ちゃん大変。 玲奈ちゃんのファンから届いた贈り物が多すぎて、もう事務所に入り切らないみたい。 社長から何とかしてくれって電話があったわ」 「ククク、愚民どもが我の…じゃなかった。 そ、そんなに来てるんですか?」 「わたしもびっくりよぉ。 とりあえず事務所に向かいましょう」 タクシーで事務所に戻ると、受付から廊下まであらゆる場所が贈り物の詰まったダンボール箱で埋め尽くされていた。 「あらあら。 しばらく来ないうちにとんでもない

  • 突然の猫ミーム

    「今日もがんばったね…」 土曜日の午後。 膝の上で丸くなっているルナの背中をそっと撫でて労う。 ルナとの出会いは一ヶ月ほど前。 大学の授業を終え、午後の公園。 お気に入りのベンチでコーヒーを飲んでいた。 公園の隣にはペットショップがあり、ベンチに座るとウィンドウ越しにかわいいネコちゃんやワンちゃんを眺めることができるのだ。 子猫たちがじゃれ合う姿に癒やされながら、ほう…とため息をつく。 ああ、猫が飼いたい。 毎日癒やされたい。 今住んでいるアパートがペット禁止じゃなければ今すぐにでも飼うのに…。 大家さんに交渉してみようかな。 いや子猫くらいなら飼ってもバレないのでは?

  • レトルト三角関係エンド

    ぼくは今とても傷ついている。 朝起きて食堂に入ったら、クルーのジョージが仰向けになって床に倒れていた。 目を見開き、苦悶の表情。 どう見ても死んでいる。 ジョージの動かなくなった視線が向いている先、中央のテーブルには同じくクルーの女性二人、サラとミウが向かい合わせの席に座った状態で朝食のトレイに顔を突っ込んだ状態で息絶えている。 4人しかいないクルーのうち、ぼく以外の3人全員が死んでいた。 何があったらこんな状況になるの? 船内の監視カメラの映像を観れば何が起こったかが分かるかもしれない。 ぼくは食堂を出てコントロールルームに向かった。 食堂の録画映像をモニタに映し出し

  • 洞窟の奥はお子様ランチ

    「洞窟の奥はお子様ランチ…」 「はい?」 被害者の机を調べていた紗英さんが発した不可解な言葉に聞き返す。 紗英さんと僕は殺人事件の調査のため二人目の被害者、豊中康介氏の自宅を捜索している。 一月ほど前に最初の被害者である冒険家、桃山敬之氏が何者かに毒殺された。 その犯人の目星もつかない中、同じく冒険家の豊中氏が毒に侵されて倒れた。 幸い豊中氏は発見が早かったため一命をとりとめたものの、いつ意識が戻るかが分からない状態。 有名冒険家2名が相次いで毒に倒れるというセンセーショナルな事件として注目されており、早期の解決が求められるということで捜査一課の椰子野警部から僕たち神田川

  • デジタルゾンビバレンタイン ショートショート

    『フハハハ、貴様ら全員生ける屍になるがよいわ!』 2月14日、バレンタインデーの18時を過ぎた頃。 恋人たちが愛の言葉を交わすその裏側で、恐るべき呪いがばらまかれた。 ある悪魔が生み出したその呪いは各地に潜む悪魔崇拝者たちのもとへと届き、彼らを甘い香りで惑わせる。 虜になってしまった崇拝者たちは理性を奪われ、本能のままに動く生ける屍へと変わってしまった。 そうして生まれた数万におよぶ呪われた崇拝者たちは、バレンタインの賑わいに導かれるように街へと歩き始める。 「えー、それが今のこの騒ぎの発端だと言うわけですか?」 そう言って俺は応接室のテレビをつける。 そこには街

  • 行列のできるリモコン ショートショート

    『接続エラー発生』 気がつくとユミは道端に座り込んでおり、手に持ったスマホにはエラーメッセージが表示されていた。 「イゴーロ」との接続が不安定になり、その影響で座り込んでしまったらしい。 『至急再接続してください』 繰り返しメッセージが表示されるが、やり方も分からない。 ふらつきながらどうにか立ち上がり、近くのベンチに腰掛けた。 身体を自分で動かすのも随分ひさしぶりだ。 イゴーロを装着して以来、これまで意識して身体を操作する必要がなかった。 イゴーロは数年前に各通信会社が共同して提供を始めたサービスである。 スマホアプリでレシピを設定すると、首裏に埋め込んだ身体リモー

  • 東館の鬼 ショートショート

    もしあの時引き返していたら…いや、結果は同じだっただろうな。 「鬼には神通力があったとか、心を読む力があったとか。 ただ暴れるだけではない話もたくさん残っているのよ」 助手席のユミがスマホをいじりながら語る。 ユミは民俗学研究会に所属しているだけあって各地の伝承に詳しい。 いつもよりテンションが高いように見えるのは、めったに見られないという鬼の遺物とやらを楽しみにしているからだろうか。 それともひさしぶりに俺と過ごす週末を楽しみにしてくれているからだろうか。 ユミとは大学のゼミで出会い、付き合って1年くらいになる。 バイトが忙しくてあまり会えていなかったので、この旅でユミ

  • プロットを決めるのに5日かかった時...

    プロットを決めるのに5日かかった時は2日で書き上がるのに、1日でプロットが決まっても書き上がるのに6日かかるのはなぜなのか...。 ピロスケ

  • アメリカ製保健室 ショートショート

    「タカシくん、ヒロアキくん、開けなさい!」 二人の男子小学生が学校の保健室に閉じこもった。 後ろでガシャンという音が聞こえて田口先生が振り向くと、自分について保健室を出るはずだった二人の姿が消え、分厚い扉が閉まっていた。 慌てて開こうとするが、びくともしない。 その扉は普通の小学校にあるようなドアではなかった。 アメリカの姉妹都市から招いた建築家が設計したこの小中一貫校は、外部からのあらゆる脅威に対応できるように必要以上の頑丈さで建てられた。 特に各部屋の扉は特別頑丈に作られており、一度ロックされると、外からは簡単に開くことができない。 保健室に閉じこもったタカシとヒロ

  • ドローンの課長 ショートショート

    ブーン…。 両肩と腰をドローンにつながれ、床から30センチほど浮いた山田課長が目の前を横切っていく。 私がこの佐久主商事に転職してきて数ヶ月。 営業支援システムの開発職ということで気合を入れて入ってみたら、高齢でフラフラの先輩方をドローンで吊るして目的の営業先に飛ばす仕組みの開発が待っていた。 いや吊るされる皆さんは移動が楽になったと喜んでいるし、一応営業を支援しているわけなのだけど。 なんというか…思っていた開発職とちがう。 老人が吊るされて飛んでいく姿を見た時の罪悪感が半端ではない。 次に取り組んだのが、コミュニケーション支援ゴーグルの開発である。 頭にヘルメット

  • 雪の妖精 ショートショート

    1年中雪に覆われる北の街。 その街の外れにある教会にソーニャという女の子が住んでいました。 赤ん坊のときにシスターに拾われたソーニャには両親の記憶がありません。 教会には同じような孤児が数人いましたが、ソーニャは誰ともあまり話さず、いつも一人で過ごしていました。 その日もシスターや他の子供たちが過ごしている部屋を抜け出したソーニャは、マフラーと手袋を身につけて教会の裏庭に出ました。 裏庭は遊ぶには少し狭いので、人があまり来ないのです。 誰もいないことを確認すると、ソーニャはしゃがんで雪だるまを作り始めました。 小さな雪だるまを作り、その両隣に少し大きめの雪だるまを2つ作り

  • 大吉の光 ショートショート

    神職として新たに着任した神社で初めての年始。 「噂には聞いていましたが本当にすごい人出ですね!」 お守りやお神札を求めて押しよせる初詣客に対応する巫女達を一緒に見てまわりながら、宮司に話しかけた。 「そうですね、ありがたいことです。 夜光おみくじはまだまだ人気があるようですね」 宮司が答える。 既に日は沈んでおり、人混みの向こうに灯籠で照らされた参道が見える。 参拝を終えた晴れ姿の女性二人がキャッキャと話しながら歩いていた。 それぞれ手に淡く光る紙を大事に持っている。 「夜に光るおみくじは他では手に入りませんし、写真映えしますからねぇ。 なぜ光るのか誰にも分からないというの

  • 時間を超える待ち合わせ(ショートショート)

    「兄さん、急に呼び出して何ごとだい?」 「きたか。 お前が開発したコールドスリープ装置はずいぶん注目されているらしいじゃないか」 「おかげさまで問い合わせが殺到して忙しくしているよ。 兄さんも意地を張らずに開発に加わってくれたら良いのに」 「ふん、なぜ私がお前の下で働かなくてはならない。 先に成果を出したからと言って調子に乗りすぎだ。 これを見るがいい!」 兄が仕切りのカーテンを引くと、小型車のような乗り物が現れる。 「私が開発したタイムマシンだ!」 「な、なにぃ!!」 「未来にしか飛べないが、瞬時に時間を超えることができる。 コールドスリープとどちらが優れているかは言う

  • 老舗和菓子屋のクリスマス(ショートショート)

    「パパ、確認なんだけど」 「なんだい」 「これはクリスマスツリーではない?」 「クリ…スマ…なんだって?これはうちの店の年末用の飾り付けだぞ」 「いやどう見ても立派なクリスマスツリーなのだけど? もみの木にオーナメントが飾り付けられてキラキラしてるし」 「これはあれだ…でかい盆栽に菓子を飾り付けるという新しい販売手法だ。目立つように光らせてな」 「あくまで和のイメージだと言い張るわけね。 見た目の和菓子感ゼロなんだけど…。 あのオーナメントボールのようにたくさんついてる球は?」 「えーっと、あれはりんご飴だ。 イザナミとイザナギが食べて結ばれたという禁断の飴で…」 「そ

  • 台にアニバーサリー(ショートショート)

    「じいちゃん…」 男手一つでミゲルを育ててくれた祖父が亡くなった。 事故で両親を失った時に引き取られ、それ以来唯一の家族だったのに。 支えを失ったミゲルは途方に暮れた。 そんなミゲルの元に遺産の管財人が訪れる。 未成年のミゲルが一人になっても生きていけるように、祖父があらかじめ手配してくれていたのだ。 祖父と住んでいた自宅と工房はミゲルが相続し、今後5年間ミゲルが成人するまで毎年生活費が支払われる。 管財人はそう説明すると生活費が入った重い袋をミゲルに手渡し、これも祖父からだという封筒を1通置いて帰っていった。 封筒の中には鍵が1つと「工房の引き出し5」と書かれたメ

  • 白骨化スマホ(ショートショート)

    自動ドアを通って店に入ると、やたら明るいスタッフに迎えられた。 「いらっしゃいませ!スカルモバイルへようこそ! 本日は乗り換えですか? こちらへどうぞ!」 テーブルを挟み向かい合わせに座る。 スマホをテーブルの上に置き、氏名や年齢等の質問にボソボソと答えた。 「見たところまだまだ乗り換えは必要なさそうですが、何か問題でも?」 「半年くらい前から調子が悪くて…あちこちで診てもらったんですけど治すのは難しいみたいで…もう乗り換えるしかないかな、と。」 「そうですか…まあだいぶ機能が変わるので乗り換えを躊躇される方は多いですけど、慣れたら便利なものですよ。 見ての通り私も使ってます

  • 助手席の異世界転生(ショートショート)

    その日、田中くん一家は家族旅行からの帰りのドライブ中でした。 パパが運転しながら助手席のママとお話しています。 後部座席の田中くんの隣では妹のみさちゃんが疲れて眠っています。 田中くんもウトウトして眠りそうになっていると、 パパが突然「おい、どうした!!」と叫びました。 びっくりして目を開けると、助手席のママのまわりに光の粒がたくさん浮かんでおり、その数がどんどん増えています。 「ママーッ!!」 光はどんどん強くなっていき、ママの姿が見えなくなりました。 田中くんはあまりの眩しさに目をギュッと閉じました。 しばらくすると光が収まったような気がしたので、おそるおそる目を開きまし

  • お前もゴリラにならないか?(ショートショート)

    「今お時間ありますか?」 ブラブラしていたら探検家のような格好をした女性に声をかけられた。 近くで無料VR体験会をやっているのでぜひ体験していってほしいという呼び込みだった。何やらその時々の格好に応じて異なる世界を体験できる最新型のVRゲームらしい。 面白そうなので体験してみることにした。 女性に案内されて体験施設に入り、受付で簡単なアンケートを記入する。 隣接する動物園にちなんでか、動物の着ぐるみを着て遊ぶのがおすすめとのことなので、目の前にあったゴリラの着ぐるみを選ぶ。 動きづらいかと思いきや妙にフィットするゴリラの着ぐるみを着せられ、案内されるまま薄暗い部屋に入り、診察台

  • 10秒で倒す(ショートショート)

    「10秒で全員倒す」 「ふはは、この10人は精鋭だぞ?10秒後に倒れているのはお前の方ではないか?」 「1」 「一撃でやられないようにせいぜい気をつけ…どこに消えた?!」 「2」 「に、逃げたのか?!いや、どこかに隠れて不意打ちを狙っているはずだ。気をつけろ!」 「3!」 「さ、三人が一度にやられただと?!」 「4!!」 「集合して防御を固めろ!このままでは一人ずつやられていくぞ!」 「5…」 「5人倒されてしまったが、どうやらその技はかなり体に負荷がかかるようだな。動きが鈍っている。クク、まだ半分残っているぞ?」 「…6…」 「ろくに動けなくなってきたようじ

  • 戦国時代の自動操縦(ショートショート)

    戦国時代。 戦のために近くの村の働き手の男たちが兵として徴用され、残された村には女性と子供、老人しかいなくなってしまうということがよくありました。 その村も近くで大きな戦があり、男たちは兵として徴用されてしまいました。 戦は激しく、徴用された者のほとんどが帰ってきませんでした。 村には田畑はあっても耕せる者がおらず、このままでは年貢を納めるどころか残った村人が冬を超える分の食料すら確保することができません。 もう別の村に引っ越すしかないかと諦めかけていたある日、高齢の陰陽師が数人の弟子とともに村を訪れました。 彼らは戦の終わった合戦場から都に帰るところでした。 事情

  • 親切な暗殺(ショートショート)

    ガシャンッ!! ガラスが割れた音がしたと思ったら首根っこを掴まれて床に引き倒され、背中に誰かが覆いかぶさってきた。 次の瞬間、耳をつんざくような爆発音が起こり、熱風が襲いかかる。 何者かによって執務室に爆弾が投げ込まれたらしい。 今も背中で守ってくれている者がいなければ、気づく間もなく吹き飛んでいただろう。 私を狙ったのであろうこの爆破はT国によるものと思われる。 軍の参謀を担っている私を暗殺することで戦争を短期決着させる目論見だったのだろう。 「このまま死んだ方がこの国のためかもしれないな…。」 我がS国は大国であるT国に無謀な戦争を仕掛けて返り討ちにあい、既に領土の

  • ごはん杖(ショートショート)

    「ごはんが食べたい…」 遭難してかれこれ2日経った。 4日間かけてのソロ縦走登山。 その1日目に崖を滑り落ちて荷物を失い、足もくじいて動けなくなってしまった。 手元にあるのは水の入ったペットボトル、圏外のスマホとトレッキング用の杖のみ。 空腹で意識が朦朧としてきた中、ふとスマホを見るとメールが届いていた。 今はまた圏外になっているが、一時的に電波がつながったらしい。 メールは自宅で待つ娘からで「ご飯が食べられない状況になったら杖の持ち手を開けてみてね♪」とある。 こちらからの救援を求めるメールは届いていないようで、ほんわかした文調のメールである。 そんなことよりも杖だ。 山に

  • 忍者ラブレター(ショートショート)

    「昨日ラブレター届けに行ったんでしょ?どうだった?」 「う~ん、ダメだったわ…。」 仕事帰りにカフェで話す二人の女性。 「試験でやったとおり潜入して机に手紙を置いてみたんだけど、部屋に戻ってきた彼が手紙を見つけた途端に震え上がって読まずに捨てられちゃったわ。」 「急に自分の机の上にラブレターが現れたらそうなるわね。」 「本当にこんな方法が結婚につながるのかしら…」 二人はこの3ヶ月間一緒に受講した婚活セミナーを振り返る。 「幸せは闘って手に入れろ」というアグレッシブなキャッチフレーズが刺さったのでセミナーに申し込んだまではよかった。 しかしいざ参加してみると走り込み

  • 最後の数学ダージリン(ショートショート)

    父が数学教授で、休日にはよく勉強を教えてもらっていた。 ある日、数学の課題の解き方が分からなくてイライラしていると 「紅茶はリラックス効果があるんだよ」 と父がミルクたっぷりのダージリンティーを淹れてくれた。 生まれて初めて飲む紅茶の香りは確かに心を落ち着かせてくれて、問題を解きやすくなった気がした。 父はそれ以来数学の勉強をするときはいつも紅茶を用意してくれるようになった。 「数学ダージリンをどうぞ」と冗談めかして。 問題が解けるようになると勉強も楽しくなるもので、成績も伸びて目指していた大学に入ることができた。 受験の直前の勉強会では「これが最後の数学ダージリンだね」と

  • 秋の空時計(ショートショート)

    「いでよ、時計職人っ!!」 男が叫ぶと床の魔法陣が光り始め、部屋の中が眩しい光で塗りつぶされた。 しばらくして光が収まると、魔法陣の中心に法被姿の男が立ち、その隣には扉がついた1m四方の箱状の装置が鎮座していた。 「…あの、あなたは我らの時計店を救いに来てくださった異世界の時計職人、ということでよろしかったでしょうか?」 魔法陣のまわりを囲む数人の男たちの中から一人が進み出ておそるおそる尋ねる。 この男は時計店の店長で、周りにいるのはその店の職人たちであった。 「$S%F&H?Y@E*R+S#V$J%Y&K'F?K@D」 法被姿の販売員は隣の装置を指しながら何

  • 緊張(ショートショート)

    西岡刑事は頭を捻っていた。 その日、都内に住む家族3人が全員意識を失って倒れているのが見つかり、病院に運ばれた。 通報を受けて駆けつけたものの、3人とも倒れたときの記憶が曖昧で、何が起こったのかがさっぱり見えてこない。 夫の大介はリビングのソファに座った状態で見つかった。 外傷はなし。 最近飼い始めたチワワのペロの元気がなかったので膝に乗せて様子を見ていたところで記憶が途切れている。 妻の聡美はキッチンとリビングの間で倒れており、後頭部に打撲傷あり。 キッチンで夕食の準備をしていたらリビングの方から大きな音が聞こえて、様子を見に行こうとしたところで記憶が途切れている。 息子の悠

  • ビャンビャン麺を食べに行く

    名古屋のきしめん、群馬のひもかわうどん、パスタならフェットチーネ。 麺の細い太いではなく、幅でちがいを見せる平麺には抗えない魅力がある。 ただ麺が平たいだけなのに、どうしてこんなに食べたくなるのだろう? そんな平麺の中でも今一番気になっているのが「ビャンビャン麺」だ。 ビャンビャン麺。 ビャンビャン。 名前の響きからして興味を引き付けてやまない。 担々、ジャージャーなどインパクトのある名を持つ麺類は数あるけれど、ビャンビャンはその中でも群を抜いている。 近くで誰かが「ビャンビャン麺が~」と発しただけで思わず振り返ってしまうくらいインパクトのある名前である。 響きもさることながら、

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