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  • かくばかり雨の降らくに・・・巻第10-1963

    訓読 >>> かくばかり雨の降らくに霍公鳥(ほととぎす)卯(う)の花山(はなやま)になほか鳴くらむ 要旨 >>> こんなにも雨が降り続くのに、ホトトギスは、卯の花が咲きにおう山辺で、今もなお鳴いているのだろうか。 鑑賞 >>> 鳥を詠む歌。「雨の降らくに」は、雨の降ることであるのに。「卯の花山」は、卯の花の咲いている山。「なほか鳴くらむ」は、それでも鳴いているのであろうか。 花が「卯の花」と呼ばれるウツギは、日本と中国に分布するアジサイ科の落葉低木です。 花が旧暦の4月「卯月」に咲くのでその名が付いたと言われる一方、卯の花が咲く季節だから旧暦の4月を卯月と言うようになったとする説もあり、どちら…

  • 彦星と織女と今夜逢ふ・・・巻第10-2039~2041

    訓読 >>> 2039恋しけく日(け)長きものを逢ふべくある宵(よひ)だに君が来まさずあるらむ 2040彦星(ひこほし)と織女(たなばたつめ)と今夜逢ふ天の川門(かはと)に波立つなゆめ 2041秋風の吹きただよはす白雲(しらくも)は織女(たなばたつめ)の天(あま)つ領巾(ひれ)かも 要旨 >>> 〈2039〉恋しく思う日々は長かったのに、お逢いできるはずの今宵さえ、どうしてあの人はおいでにならないのだろうか。 〈2040〉彦星と織女星とが今夜逢う、天の川の渡りに、波よ決して立たないで。 〈2041〉秋風が吹き漂わせている白雲は、織女の領巾ではないでしょうか。 鑑賞 >>> 七夕の歌。2040の…

  • 雨降らずとの曇る夜の・・・巻第3-370

    訓読 >>> 雨降らずとの曇(ぐも)る夜(よ)のしめじめと恋ひつつ居(を)りき君待ちがてり 要旨 >>> 雨は降らないが、空一面に曇っている夜に、しみじみと恋い焦がれておりました。あなたをお待ちしながら。 鑑賞 >>> 中納言阿倍広庭卿の歌。阿倍広庭(あべのひろにわ)は、右大臣・阿倍御主人(あべのみうし)の子。聖武天皇即位の前後に従三位に叙せられ、神亀4年(727年)に中納言に任ぜられた人で、長屋王政権下で順調に昇進を果たしました。『万葉集』には4首の歌があります。 「との曇る」は、一面に曇る。「しめじめと」の原文「潤濕跡」とあるのは難訓で、「ぬるぬると」「潤(ぬ)れ湿(ひ)づと」などと訓むも…

  • 孝謙天皇の御製歌・・・巻第19-4264~4265

    訓読 >>> 4264そらみつ 大和(やまと)の国は 水の上(うへ)は 地(つち)行くごとく 船の上(うへ)は 床(とこ)に居(を)るごと 大神(おほかみ)の 斎(いは)へる国そ 四(よ)つの船 船(ふな)の舳(へ)並べ 平(たひ)らけく 早(はや)渡り来て 返り言(こと) 奏(まを)さむ日に 相(あひ)飲まむ酒(き)そ この豊御酒(とよみき)は 4265四(よ)つの船(ふね)早(はや)帰り来(こ)と白香(しらか)付く我(わ)が裳(も)の裾(すそ)に斎(いは)ひて待たむ 要旨 >>> 〈4264〉大和の国は、水上にあっては地上を行く如く、船上にあっては床にいる如く、大神が慎み守りたまう国である…

  • 語り継ぐからにもここだ恋しきを・・・巻第9-1801~1803

    訓読 >>> 1801古(いにしへ)の ますら壮士(をとこ)の 相競(あひきほ)ひ 妻問(つまど)ひしけむ 葦屋(あしのや)の 菟原処女(うなひをとめ)の 奥(おく)つ城(き)を 我(わ)が立ち見れば 永(なが)き世の 語りにしつつ 後人(のちひと)の 偲(しの)ひにせむと 玉桙(たまほこ)の 道の辺(へ)近く 岩(いは)構(かま)へ 作れる塚(つか)を 天雲(あまくも)の そきへの極(きは)み この道を 行く人ごとに 行き寄りて い立ち嘆かひ 或る人は 音(ね)にも泣きつつ 語り継ぎ 偲ひ継ぎ来る 処女(をとめ)らが 奥(おく)つ城(き)所(ところ) 我(わ)れさへに 見れば悲しも 古(いに…

  • あり通ふ難波の宮は・・・巻第6-1062~1064

    訓読 >>> 1062やすみしし 我(わ)が大君(おほきみ)の あり通(がよ)ふ 難波(なには)の宮は いさなとり 海(うみ)片付(かたづ)きて 玉(たま)拾(ひり)ふ 浜辺(はまへ)を近み 朝(あさ)羽振(はふ)る 波の音(おと)騒(さわ)き 夕なぎに 楫(かぢ)の音(おと)聞こゆ 暁(あかとき)の 寝覚(ねざめ)に聞けば 海石(いくり)の 潮干(しほひ)の共(むた) 浦渚(うらす)には 千鳥(ちどり)妻呼び 葦辺(あしへ)には 鶴(たづ)が音(ね)響(とよ)む 見る人の 語りにすれば 聞く人の 見まく欲(ほ)りする 御食(みけ)向(むか)ふ 味経(あじふ)の宮は 見れど飽(あ)かぬかも 1…

  • 荒墟となった恭仁京を悲しむ歌・・・巻第6-1059~1061

    訓読 >>> 1059三香原(みかのはら) 久邇(くに)の都は 山高く 川の瀬清み 住み良しと 人は言へども あり良しと 我(わ)れは思へど 古(ふ)りにし 里にしあれば 国見れど 人も通はず 里見れば 家も荒れたり はしけやし かくありけるか 三諸(みもろ)つく 鹿背山(かせやま)の際(ま)に 咲く花の 色めづらしく 百鳥(ももとり)の 声なつかしき ありが欲(ほ)し 住みよき里の 荒るらく惜(を)しも 1060三香(みか)の原(はら)久邇(くに)の京(みやこ)は荒れにけり大宮人(おほみやひと)の移ろひぬれば 1061咲く花の色は変はらずももしきの大宮人(おほみやひと)ぞ立ちかはりける 要旨…

  • 逢はなくは然もありなむ・・・巻第12-3103~3104

    訓読 >>> 3103逢はなくは然(しか)もありなむ玉梓(たまづさ)の使(つかひ)をだにも待ちやかねてむ 3104逢はむとは千度(ちたび)思へどあり通(がよ)ふ人目(ひとめ)を多み恋つつぞ居(を)る 要旨 >>> 〈3103〉逢えないことがあるのは仕方ないでしょう。だけど、お便りを運ぶ使いさえも待ちわびなければならないのでしょうか。 〈3104〉逢いたいとは何度も思っていますが、ひっきりなしに往き来する人の目が多いので、ただ恋いつついることです。 鑑賞 >>> 問答歌。3103は、男の疎遠を恨んだ女の歌、3104はそれに返した男の歌。3103の「然もありなむ」は、それも仕方がない。「玉梓の」は…

  • 東歌(29)・・・巻第14-3358~3360

    訓読 >>> 3358さ寝(ぬ)らくは玉の緒(を)ばかり恋ふらくは富士の高嶺(たかね)の鳴沢(なるさは)のごと 3359駿河(するが)の海おし辺(へ)に生(お)ふる浜つづら汝(いまし)を頼み母に違(たが)ひぬ [一云 親に違ひぬ] 3360伊豆(いづ)の海に立つ白波(しらなみ)のありつつも継(つ)ぎなむものを乱れしめめや[或本の歌には「白雲の絶えつつも継がむと思へや乱れそめけむ」といふ] 要旨 >>> 〈3358〉共寝をするのは玉の緒ほどに短く、逢えずに恋うる心は、富士の高嶺の鳴沢のように深く激しい。 〈3359〉駿河の海の磯辺に生えて延び続ける浜のつる草のように、末長くあなたを頼りにしようと…

  • 菟原処女(うなひをとめ)伝説・・・巻第9-1809~1811

    訓読 >>> 1809葦屋(あしのや)の 菟原処女(うなひをとめ)の 八年子(やとせこ)の 片生(かたお)ひの時ゆ 小放(をばな)りに 髪たくまでに 並び居(を)る 家にも見えず 虚木綿(うつゆふ)の 隠(こも)りて居(を)れば 見てしかと いぶせむ時の 垣ほなす 人の問ふ時 茅渟壮士(ちぬをとこ) 菟原壮士(うなひをとこ)の 伏屋(ふせや)焚(た)き すすし競(きほ)ひ 相よばひ しける時は 焼太刀(やきたち)の 手かみ押しねり 白真弓(しらまゆみ) 靫(ゆき)取り負ひて 水に入(い)り 火にも入(い)らむと 立ち向ひ 競ひし時に 我妹子(わぎもこ)が 母に語らく しつたまき いやしき我が故…

  • 織女の五百機立てて織る布の・・・巻第10-2034~2036

    訓読 >>> 2034織女(たなばた)の五百機(いほはた)立てて織(お)る布の秋さり衣(ごろも)誰(た)れか取り見む 2035年にありて今か巻くらむぬばたまの夜霧隠(よぎりごも)れる遠妻(とほづま)の手を 2036我(あ)が待ちし秋は来(きた)りぬ妹(いも)と我(あ)れと何事あれぞ紐(ひも)解かずあらむ 要旨 >>> 〈2034〉織姫がたくさんの機(はた)を立てて織る布、その布で縫う秋の衣は、誰が着るのだろうか。 〈2035〉一年ぶりに今ごろは、腕を枕に寝ているだろうか、夜霧に隠れて、遠方にいた妻の腕を。 〈2036〉私が待ちに待った秋がついにやってきた。わが妻と私は、何事があろうとも紐を解か…

  • 思ふにし死にするものにあらませば・・・巻第4-603

    訓読 >>> 思ふにし死にするものにあらませば千(ち)たびぞ我(わ)れは死に返(かへ)らまし 要旨 >>> 人が恋焦がれて死ぬというのでしたら、私は千度でも死んでまた生き返ることでしょう。 鑑賞 >>> 笠郎女(かさのいらつめ)が大伴家持に贈った歌。「思ふにし」の「し」は、強意。「ませば~まし」は、反実仮想。「死に返る」は「生き返る」の反対の言い方になっていますが、ここでは恋死にすることに強い意味を置いているためで、誇張した表現になっています。この歌は、『人麻呂歌集』にある「恋するに死にするものにあらませば我が身は千たび死に返らまし」(巻第11-2390)の歌を原拠としているようです。

  • ますらをの弓末振り起し射つる矢を・・・巻第3-364~365

    訓読 >>> 364ますらをの弓末(ゆずゑ)振り起(おこ)し射(い)つる矢を後(のち)見む人は語り継(つ)ぐがね 365塩津山(しほつやま)打ち越え行けば我(あ)が乗れる馬ぞつまづく家(いへ)恋ふらしも 要旨 >>> 〈364〉立派な男子たる私が弓の先端を振り起こして射かけた矢、その矢の見事さは後の世の人が語り継いでいくだろう。 〈365〉塩津山を越えていくとき、私の乗っている馬がつまづいた。家で妻が私を恋しがっているからだろう。 鑑賞 >>> 笠金村が塩津山で作った歌。「塩津山」は、琵琶湖北端の地、長浜市西浅井町塩津浜から敦賀に越えて行く塩津越えの山。越前から運ばれてきた塩をここから都に湖上…

  • うち鼻ひ鼻をぞひつる・・・巻第11-2637

    訓読 >>> うち鼻(はな)ひ鼻をぞひつる剣大刀(つるぎたち)身に添ふ妹(いも)し思ひけらしも 要旨 >>> くしゃみが出る、またくしゃみが出る。どうやら、腰に帯びる剣大刀のようにいつも寄り添ってくれている妻が、私のことを思ってくれているらしい。 鑑賞 >>> 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。「鼻ふ」は。くしゃみをする意。くしゃみは恋人に逢える前兆とされました。「剣太刀」は「身に添ふ」の枕詞。「けらし」は「ける・らし」の転。「らし」は根拠に基づく推定。

  • 浅緑染め懸けたりと見るまでに・・・巻第10-1846~1849

    訓読 >>> 1846霜(しも)枯(が)れの冬の柳(やなぎ)は見る人のかづらにすべく萌(も)えにけるかも 1847浅緑(あさみどり)染め懸けたりと見るまでに春の柳(やなぎ)は萌(も)えにけるかも 1848山の際(ま)に雪は降りつつしかすがにこの川柳(かはやぎ)は萌(も)えにけるかも 1849山の際(ま)の雪の消(け)ざるをみなぎらふ川の沿ひには萌(も)えにけるかも 要旨 >>> 〈1846〉霜で枯れた冬の柳は、見る人の髪飾りにしたらよいほどに、芽が出ていることだ。 〈1847〉まるで浅緑色に染めた糸をかけたように、春の柳が芽吹いていることだ。 〈1848〉山間には雪が降っているけれども、この川…

  • 防人の歌(18)・・・巻第20-4401~4403

    訓読 >>> 4401韓衣(からころむ)裾(すそ)に取り付き泣く子らを置きてぞ来(き)ぬや母(おも)なしにして4402ちはやぶる神の御坂(みさか)に幣(ぬさ)奉(まつ)り斎(いは)ふ命(いのち)は母父(おもちち)がため4403大君(おほきみ)の命(みこと)畏(かしこ)み青雲(あをくむ)のとのびく山を越よて来(き)ぬかむ 要旨 >>> 〈4401〉私の裾に取りすがって泣く子らを置いて来た。子には母親もいないというのに。 〈4402〉神様のいらっしゃる御坂にお供えをし、わが命の無事をお祈りするのは母と父のためなのだ。 〈4403〉大君のご命令を畏んで、青雲のたなびく山を越えてやって来た。 鑑賞 >…

  • 中臣宅守と狭野弟上娘子の贈答歌(13)・・・巻第15-3771~3774

    訓読 >>> 3771宮人(みやひと)の安寐(やすい)も寝(ね)ずて今日今日(けふけふ)と待つらむものを見えぬ君かも 3772帰りける人(ひと)来(きた)れりと言ひしかばほとほと死にき君かと思ひて 3773君が共(むた)行かましものを同じこと後(おく)れて居(お)れど良きこともなし 3774我(わ)が背子(せこ)が帰り来まさむ時のため命(いのち)残さむ忘れたまふな 要旨 >>> 〈3771〉宮廷に仕える私は安眠もできず、お帰りを今日か今日かとお待ちしているのですが、お姿を見ることはありません。 〈3772〉赦されて帰ってきた人たちが着いたと聞いて、もうほとんど死ぬところでした。もしやあなたと思…

  • 遣新羅使人の歌(12)・・・巻第15-3605~3609

    訓読 >>> 3605わたつみの海に出(い)でたる飾磨川(しかまがは)絶えむ日にこそ我(あ)が恋やまめ 3606玉藻(たまも)刈る処女(をとめ)を過ぎて夏草の野島(のしま)が崎に廬(いほ)りす我(わ)れは 3607白たへの藤江(ふぢゑ)の浦に漁(いざ)りする海人(あま)とや見らむ旅行く我(わ)れを 3608天離(あまざか)る鄙(ひな)の長道(ながち)を恋ひ来れば明石(あかし)の門(と)より家のあたり見ゆ 3609武庫(むこ)の海の庭(には)よくあらし漁(いざ)りする海人(あま)の釣舟(つりぶね)波の上ゆ見ゆ 要旨 >>> 〈3605〉大海に流れ出るあの飾磨川の流れが、もし絶えることでもあれば、…

  • 聖武天皇の印南野行幸の折、笠金村が作った歌・・・巻第6-935~937

    訓読 >>> 935名寸隅(なきすみ)の 舟瀬(ふなせ)ゆ見ゆる 淡路島 松帆(まつほ)の浦に 朝なぎに 玉藻(たまも)刈りつつ 夕なぎに 藻塩(もしほ)焼きつつ 海人娘子(あまをとめ) ありとは聞けど 見に行(ゆ)かむ よしのなければ ますらをの 心はなしに たわやめの 思ひたわみて た廻(もとほ)り 我(あ)れはぞ恋ふる 舟梶(ふなかじ)をなみ 936玉藻(たまも)刈る海人娘子(あまをとめ)ども見に行かむ舟楫(ふなかぢ)もがも波高くとも 937行き廻(めぐ)り見(み)とも飽(あ)かめや名寸隅(なきすみ)の舟瀬(ふなせ)の浜にしきる白波 要旨 >>> 〈935〉名寸隅(なきすみ)の舟着き場か…

  • 四極山うち越え見れば・・・巻第3-272~273

    訓読 >>> 272四極山(しはつやま)うち越え見れば笠縫(かさぬひ)の島(しま)漕(こ)ぎ隠(かく)る棚(たな)なし小舟(をぶね) 273磯(いそ)の崎(さき)漕(こ)ぎ廻(た)み行けば近江(あふみ)の海(み)八十(やそ)の港に鶴(たづ)さはに鳴く 要旨 >>> 〈272〉四極山を越えて、見ると笠縫の島の辺りを漕いで姿を消していった船棚のない小舟よ。 〈273〉出入りの多い琵琶湖の岸を漕ぎ廻っていくと、多くの港ごとに鶴がさかんに鳴いている。 鑑賞 >>> 題詞に「高市連黒人が羈旅の歌八首」とあるうちの2首。272の「四極山」も「笠縫の島」も、所在は不明ですが、前後の歌がすべて東国の地を詠んで…

  • 大原のこの市柴の何時しかと・・・巻第4-513

    訓読 >>> 大原のこの市柴(いちしば)の何時(いつ)しかと我(わ)が思(も)ふ妹(いも)に今夜(こよひ)逢へるかも 要旨 >>> 大原のこの柴の木のようにいつしか逢えると思っていた人に、今夜という今夜はとうとう逢えることができた。 鑑賞 >>> 志貴皇子(しきのみこ)が、ようやく逢うことのできた「妹」と呼ぶ女性に与えた歌。上2句が、類音で「何時しか」を導く序詞。眼前の景色を捉えるとともに、「何時しか」を強め、強く待ち望みながら、逢えた喜びの深さを表しています。「大原」は、奈良県明日香村の小原(おうばら)。「市柴」は、繁った柴のことか。「柴」は、雑木。山野などで男女が逢うのは、人目を避けるため…

  • 朝霧のおほに相見し人故に・・・巻第4-599~601

    訓読 >>> 599朝霧(あさぎり)のおほに相(あひ)見し人(ひと)故(ゆゑ)に命(いのち)死ぬべく恋ひわたるかも 600伊勢の海の磯(いそ)もとどろに寄する波(なみ)畏(かしこ)き人に恋ひわたるかも 601心ゆも我(わ)は思はずき山川(やまかは)も隔(へだ)たらなくにかく恋ひむとは 要旨 >>> 〈599〉朝霧の中で見るように、ぼんやりと見ただけの人なのに、私はあなたに死ぬほど恋しています。 〈600〉伊勢の海にとどろく波のように、身も心もおののくような人を恋い続けているのですね。 〈601〉心にも思ってもみませんでした。間が山や川で隔てられているわけではないのに、こんなに恋い焦がれることに…

  • 有馬皇子を偲ぶ歌・・・巻第2143~146

    訓読 >>> 143磐代(いはしろ)の岸の松が枝(え)結びけむ人は帰りてまた見けむかも 144磐代の野中(のなか)に立てる結び松心も解けずいにしへ思ほゆ 145天(あま)翔(がけ)りあり通ひつつ見らめども人こそ知らね松は知るらむ 146後(のち)見むと君が結べる磐代の小松がうれをまたも見むかも 要旨 >>> 〈143〉磐代の岸の松の枝を結んだという人は、無事に帰ってきて、再びその枝を見たのだろうか。 〈144〉磐代の野中に立っている結び松よ、お前のように私の心にも結び目ができて解けず、昔のことがしきりと思われる。 〈145〉有間皇子の魂は空を飛び、いつもこの松に通って見続けているだろう。それは…

  • 弓削皇子と額田王の歌・・・巻第2-111~113

    訓読 >>> 111いにしへに恋(こ)ふる鳥かも弓絃葉(ゆづるは)の御井(みゐ)の上より鳴き渡り行く 112古(いにしへ)に恋ふらむ鳥は霍公鳥(ほととぎす)けだしや鳴きしわが念(おも)へる如(ごと) 113み吉野の玉(たま)松が枝(え)は愛(は)しきかも君が御言(みこと)を持ちて通はく 要旨 >>> 〈111〉過ぎ去った昔を恋い慕う鳥なのでしょうか。弓絃葉の御井の上を鳴きながら大和の方へ渡っていきます。 〈112〉あなたが「昔を恋い慕う」とおっしゃる鳥は、ホトトギスでしょう、おそらくそのホトトギスが鳴いたのでしょう、私が昔を恋い慕うように。 〈113〉吉野の松の枝の愛しいこと、あなたのお言葉も…

  • 石見の海角の浦廻を浦なしと・・・巻第2-131~134

    訓読 >>> 131石見(いはみ)の海 角(つの)の浦廻(うらみ)を 浦なしと 人こそ見らめ 潟(かた)なしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも 鯨魚(いさな)取り 海辺(うみへ)を指して 和多津(にきたづ)の 荒磯(ありそ)の上に か青く生(お)ふる 玉藻(たまも)沖つ藻 朝羽(あさは)振る 風こそ寄らめ 夕羽(ゆふは)振る 波こそ来(き)寄れ 波の共(むた) か寄りかく寄る 玉藻なす 寄り寝し妹(いも)を 露霜(つゆしも)の 置きてし来れば この道の 八十隈(やそくま)ごとに 万(よろづ)たび かへり見すれど いや遠(とほ)に 里は離(さか)りぬ いや高(た…

  • 軍王の歌・・・巻第1-5~6

    訓読 >>> 5霞(かすみ)立つ 長き春日(はるひ)の 暮れにける わづきも知らず むら肝(ぎも)の 心を痛み ぬえこ鳥 うら泣き居(を)れば 玉たすき 懸(か)けのよろしく 遠つ神 我が大君(おほきみ)の 行幸(いでまし)の 山越す風の ひとり居(を)る 我が衣手(ころもで)に 朝夕(あさよひ)に 返らひぬれば 大夫(ますらを)と 思へる我れも 草枕 旅にしあれば 思ひ遣(や)る たづきを知らに 網(あみ)の浦の 海人娘子(あまをとめ)らが 焼く塩の 思ひぞ焼くる 我が下心(したごころ) 6山越(やまごし)の風を時(とき)じみ寝(ぬ)る夜(よ)落ちず家なる妹(いも)をかけて偲(しの)びつ 要…

  • 言問はぬ木にもありとも我が背子が・・・巻第5-812

    訓読 >>> 言(こと)問はぬ木にもありとも我が背子が手馴(たな)れの御琴(みこと)地(つち)に置かめやも 要旨 >>> 言葉を語らない木ではあっても、あなたが弾きなれた御琴を地に置くような粗末などいたしましょうか。 鑑賞 >>> 天平元年(729年)10月7日、大宰府にいる大伴旅人から、都の中衛府(ちゅうえいふ)大将・藤原房前(ふじわらのふささき)のもとへ、手紙とともに一面の琴が贈られてきました(巻5-810~811)。この歌は、琴を受け取った房前から旅人への返事に添えられた歌です。 旅人は、なぜ房前に琴を贈ったのでしょうか。そこで、この背景にあった不穏な政情にも触れなければなりません。この…

  • うるはしき君が手馴れの琴にしあるべし・・・巻第5-810~811

    訓読 >>> 810いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝(ひざ)の上(へ)我が枕(まくら)かむ 811言(こと)問はぬ木にはありともうるはしき君が手馴(たな)れの琴(こと)にしあるべし 要旨 >>> 〈810〉何時の日にか、私の音色を分かってくださる方の膝の上に、私は枕するのでしょうか。 〈811〉言葉を言わない木であっても、立派なお方が大切にしてくださる琴となるに違いありません。 鑑賞 >>> 天平元年(729年)10月7日、大宰府にいる大伴旅人から、都の中衛府(ちゅうえいふ)大将・藤原房前(ふじわらのふささき)のもとへ、手紙とともに一面の琴が贈られてきました。藤原房前は不比等(ふひと)の…

  • 大和には鳴きてか来らむ呼子鳥・・・巻第1-70

    訓読 >>> 大和には鳴きてか来(く)らむ呼子鳥(よぶこどり)象(きさ)の中山(なかやま)呼びそ越(こ)ゆなる 要旨 >>> 大和には今ごろ呼子鳥が鳴いて来ているのだろうか。象の中山を人を呼びながら鳴き渡っている声が聞こえる。 鑑賞 >>> 高市黒人(たけちのくろひと)が、持統太上天皇の吉野行幸に従駕したときの作。この歌は、作者の正式な宴遊歌として現存する唯一の歌で、「大和」は、藤原京を指しています。「呼子鳥」は、カッコウまたはホトトギス。この名は時代と共に変化しており、「喚子鳥」と書いた字面から「閑古鳥」といわれ、やがて郭公(カッコウ)になったとされ、カッコウを呼子鳥といった例が最も多いよう…

  • 聖武天皇が難波の宮に行幸あったとき、笠金村が作った歌・・・巻第6-928~929

    訓読 >>> 928おしてる 難波(なには)の国は 葦垣(あしかき)の 古(ふ)りにし里と 人皆(ひとみな)の 思ひやすみて つれもなく ありし間(あひだ)に 績麻(うみを)なす 長柄(ながら)の宮に 真木柱(まきばしら) 太高(ふとたか)敷(し)きて 食(を)す国を 治(をさ)めたまへば 沖つ鳥 味経(あじふ)の原に もののふの 八十伴(やそとも)の男(を)は 廬(いほ)りして 都なしたり 旅にはあれども 929荒野(あらの)らに里はあれども大君(おほきみ)の敷きます時は都となりぬ 930海人娘子(あまをとめ)棚(たな)なし小舟(をぶね)漕(こ)ぎ出(づ)らし旅の宿(やど)りに楫(かぢ)の音…

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