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弌矢
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武蔵野市
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2020/09/14

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  • 一つ年下の妹、不二子が、死んでしまった。仕方がない事なのだ。 海辺の火葬場に来て、妹を火葬した。外で煙突を見上げると、不二子の煙が空へ広がって行く。黒い海猫が火葬場の角から現れる気がして、視線を落とすと、本当に黒い海猫が現れて、足元をすり寄ったかと思うと海の砂辺の方角へ歩いて行ってしまった。 もう一度、煙突を見上げると、あの不二子の煙が大気に満ちて行くらしいのを感じて、裏淋しい気分でいると、雨が降って来た。傘を差してピースに火をつけた。吐くけむりが、雨の中を漂いながら、消えて行く。かと思うと、唐突に、雨が水柱になって、その中を物凄い速度で移動している。そのうち、僕が水の中を移動

  • 恋文を

    サント=ヴィクトワール山は、岩と樹木が不釣り合いに組み合っているだけの、とても淋しい場所だ。その岩山の麓に、丸太で作られた小屋の一室、ランプによる橙色の明るみの中、初老の男は机に向かって手紙を書いている。うら若い娘にあてた恋文だった。 初老の男は熱中していた。書くほどに、どんどんのめり込んで行くのだ。そのうち熱中し過ぎて、もはや、その文は恋文と言うよりも、独り言に近くなって来た。恋文はだんだんと狂気染みた書体になって行くうち、背中に羽根が生えて来たのだが、初老の男はそれすら気がつかない。 ゆらりと背中から分離した羽根の生えた男が、机に向けて丸めている初老の男の背中の上に浮き上が

  • 七つ目の夜の海で

    「こんな巨大な船も大した事のない敵だ! 皆沈めろ」 ビスケット船長は敵の最後に、甘いビスケットを口に放ってやるのが習慣だった。ビスケットを咥えさせた乗客を始末し終えてから、たちまち手下どもがその船をハンマーで壊して沈めた。 ビスケット船長に勝てる敵はいなかった。彼は七つの海を制覇したところだった。 その日の夜だった。ビスケット船長は真珠色の羅針盤を持っていて、いつも肌見放さなかったのだが、七つの海を制覇したこの夜に、手を滑らせて、暗い海に落としてしまったのだ。 「やあ、これは大失態だ、もう私も引退か」 ビスケット船長は泳いだ事がない。何時も戦いは船上だったから。 恥をかか

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