光の父親は、その後見つかることはなかった。生きてると思うよって、天狗は言った。生きてはいるよって。どこで、どんな風に。それは、聞かなかった。俺が聞いたところで…
その後何回も天ちゃんは呼ばれた。何十分って戻って来ないときもあった。戻って来るたびに天ちゃんは、病院の売店でなのか、買って来たものを、食べ物や飲み物を、はいお…
「天狗」ラインの、光の父親と連絡がつかない、からの続きのメッセージを読んで、天狗を呼んだ。すぐ呼んだ。呼んでた。気づいたら。思わず口をついて出てた。天狗って。…
天ちゃんが、誰かに呼ばれて病室を出て行った。看護師さんなのか、おまわりさんなのか。ノックされて天ちゃんがはあいって返事をしたら、ドアが開いて鴉山さんって。女の…
コーヒーをいれてサンドイッチを食べた。食べながら思った。光は何か食べたのか。食べる時間はあったのか。食べる気にはなれたのか。天狗が一緒だから、そこまで心配する…
「そういえば天ちゃん、今日はいつもつけてるネックレスとかがないね」「ええ⁉︎今⁉︎それ今気づいたの⁉︎」「え?あ、うん。今気づいた」「もしかして誰も何も言わな…
光は今どうしてるんだろうか。居間のソファーに座って、俺はバカみたいにぼけっと鳴らないスマホを見てた。きっとバタバタでしばらく連絡できないと思うって、天狗が言っ…
ひゅうって天ちゃんの風に目を閉じて、次に開けたらそこは。山の入り口付近、だった。どきんって、なった。見えた、アスファルトの道路に。思わず、隣に立つ天ちゃんの腕…
光が居ない。天狗の風がやむまで外に居た。俺と、肩にカラス。足元のひとつ目と気狐っていうい、いつもの光スタイルで。天狗の風がやんでも外に居た。しばらく動くことが…
鴉が僕を呼ぶたび思い出す。僕はひかり。『あの』ひかり。鴉の存在が僕に言う。僕が一番。恥ずかしいよ。思ってて、考えてて恥ずかしい。それに、心のどこかでまだ思うん…
「じゃあ、行ってきます」「………」光の部屋。キレイに片付いて、そこに光が居たって形跡がなくなった部屋で、光は言った。俺に。天狗は用意できたら言ってね〜って自分…
ご飯の後。気合いを入れた僕はせっせと山をおりる、帰る準備を始めた。そんな僕に、鴉はずっとくっついてる。服をつかめるときは服をつかんでて、無理なときはすぐ横か後…
光一って名前。光に一で光一って名前を聞いて、ああ、光が一番だって、ものすごい普通にそう思った。だから言った。そしたら光が僕が1番はやめてって。「え?何で?超い…
ほとんど眠れないまま、外が明るくなっていくのを感じてた。秋の虫が大合唱だなとか、鳥の鳴き声がし始めたとか。目を閉じてたらもしかしたら寝れるかもしれないって期待…
「ふたりして眠そうだねぇ」おはようの後の、天狗の第一声がそれだった。いつもは光より先に起きて、天狗の朝ご飯準備を手伝ってる。でも今日は、光と一緒に台所に。天狗…
退屈なときとか、イヤなときって、すっごい時間の流れが遅く感じるのに、楽しいときとか、もっとこのままで居たいってときは、めちゃくちゃ早いよね。ここに来てすぐの頃…
それから家に入って天狗の弁当作りを手伝った。その弁当を持って神社と棘岩に行った。棘岩の脇で弁当を食べた。いつも通り。いつもと同じ。でも明日は多分、そのいつも通…
鴉が僕の頭の上でじっとしてる。じーっと。天ちゃんが居るからちょっと恥ずかしい。それでも僕も黙ってじっとしてるのは。「疲れた?」まだ2回目だから。2回目だよ?山…
「疲れた?」「………いや。くさかった」光の頭に鼻を埋めてにおいを嗅いでたのに、光は怒ることなくじっとしてた。正直ありがたかった。『杏奈さん』や『杏奈さん』の店…
「鴉〜、ちょっとやめてあげたら?」僕の斜め前の席で肘をついて、天ちゃんが珍しく鴉に呆れ声。それは何でかって。何でかって‼︎スマホにカメラがあっていつでも撮れて…
毎日を無駄にしてきたつもりはない。惰性で過ごしてきたつもりもない。でも。毎日が、時間が、こんなにも惜しいと思ったことは、こんな気持ちは、初めて味わう気持ちだっ…
電話のかけ方やラインのやり方を鴉に教えてた。って言っても、鴉はタブレットができるから、教えるってほどでもなくて、ここをこうだよ〜とか、その程度。向かい側から時…
「今日明日明後日は天ちゃんがふたりの好きなものいっぱい作ってあげるから、ご飯のことは気にしないでふたりとものんびりしな〜」光とありがたくスマホを受け取って、光…
いつも通りにしようって思ってるのに、帰る日がいざ決まっちゃったらそのいつも通りが難しい。一生のお別れじゃない。ほんの少しのお別れ、な、だけ。なのにいつも通りに…
光が山をおりるからと言って、終わりではない。どれだけ離れてても、光が呼べば天狗が秒で行ける。光の場所さえ分かっていれば、呼ばれなくても天狗と行ける。秒で行ける…
「で、だね」テーブルにおでこをくっつけて冷やしてた耳に届いた天ちゃんの声は。「鴉。明後日杏奈さんのところに行くよ」「………えっ⁉︎」僕にもう逃げられない現実を…
「ぴかるん?」泣きそうな顔で天狗を見て、涙を堪えるように、それとももっと別の何かか。光が唇を噛んだのが、横から見えた。そして俯いた。明後日って、言って。テーブ…
やっぱり鴉ってタラシだよねって、鴉を前にして言ったら、鴉は不思議そうに首を傾げた。天然ってすごい。そして。裏表なく本心なとこがすごい。………だから鴉のことを信…
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