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2020/05/01

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  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」10

     「ほら、こんなんとか、太田君あんまり好きじゃないんじゃない?」 彼女はクローゼットに貼ってあるでかいポスターを指さした。 エレキギターを持った男がステージの上でしゃがんでいる。後ろにはバッキングバンドも映っている。男はしゃがんで何かに触れている。床に落ちている、紙幣? 花びら?...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」9

    第二章 ハルマゲドンタイム 一 ムツミは放課後家へ来るよう透に言い付けておいた。透はそれに従い、いつの間にか台風のように下校してしまっていた彼女の家を目指した。この前黒い自転車を追って行ったきりだったが、道は完璧に覚えている。柊の生垣の前に着くと、躊躇うことなくインタ...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」8

      六   飲み帰りのサラリーマンやゲロを吐く大学生を尻目に、満腹のムツミは透を生田神社よりさらに北へといざなっていった。今度は本当にわけの分からないところへ連れて行かれそうだと透は不安になりながらも足取りは軽くなっている。 「太田君、太田君。ここ、ここ」...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」7

      透は彼女の進む方へ歩いた。彼女はセンター街を抜けて元町の駅まで歩き、高架下の商店街に入って行った。その商店街には宝石・時計屋やコンバースだけ売っている靴屋、ウルトラマンのフィギュアが沢山売っている中古玩具店、革ジャンパー専門店、中古の携帯電話ショップ、ネイルサロンなんかが入...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」6

      五 二人は阿久川の駅前の学習塾の前に不法駐輪して、阿久川から西明石で新快速に乗り換え、三宮へ向かった。向かい合わせの席で安永睦美は今日は何時まで付き合ってくれるのかと訊ね、透に今日は遅くなるという旨を親に伝えた方がいいと促した。透は彼女の言うとおりに親にメールした。...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」5

       四   安永睦美は椎名や牧と同じく阿久川市の人という話だった。阿久川は大きな川が流れるやたらと広い市だ。椎名も牧も彼女とは違う中学だったという。 体育祭の翌日、水ぶくれの大原は顔や腕にいくつか絆創膏を貼って登校してきた。しかしそれに関して何だか...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」4

      「怖かったな、安永」 口を開いたのは椎名だった。 「あいつもヤバいな」と牧は気を取り直してもう一度くつろぎながら言った。 「あいつも何かクスリやっとったりしてな」と椎名は嗤う。 「ああ、あり得るかも」 「それはない」と透は言った。透には彼女の「ヤバさ」がそ...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」3

      三   祭りの後で所在ない話をしているとき、パアンと安い破裂音がした。誰かが教室の窓から花火を打ち上げたらしい。教室の後ろに溜っている男子生徒が三、四人、嫌に大きな声で騒いでいる。「祝砲や」と誰かが叫んで、パンパンとまた乾いた音が鳴った。日の高いうちに上がる...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」2

      二   十月十一日、体育の日。西高は体育祭だった。西高の体育祭は三年生が受験で忙しいということで二年生が中心となって企画運営する小規模なものだが、勉学に集中せよという教師の思惑に反して生徒はここぞとばかりにハッスルした。メインイベントである応援合戦のダンスの...

  • 小説 「年とる前に死にたいぜ」1

          第一章 ローリングジェットサンダー       一   神戸と姫路の間には、都会とも田舎ともつかない、どうしようもない町がいくつかある。透の生まれた高ノ江はその中でもとりわけ特徴のない末梢の町だ。透はこの町が嫌いだった。 ...

  • 『田園の憂鬱』論 参考・引用文献②

    参考・引用文献 《論文等》 保田与重郎「近代文学と小説」(保田与重郎『佐藤春夫』、弘文堂書房、一九四〇・一一) 檀一雄「解説」(佐藤春夫『田園の憂鬱』新潮文庫、新潮社、一九五一・八) 廣津和郎「『田園の憂鬱』の作者」(廣津和郎『わが文學論』、乾元社、一九五三・七) ...

  • 『田園の憂鬱』論 参考・引用文献①

    参考・引用文献 《単行本》 佐藤春夫『定本佐藤春夫全集』(臨川書店、一九九八・四‐二〇〇一・九) 廣津和郎『わが文學論』(乾元社、一九五三・七) 伊藤整・稲垣達郎ほか編『「観賞と研究」=現代日本文学講座/小説5=三田文学と新思潮』(三省堂、一九六二・四) 猪野謙...

  • 『田園の憂鬱』論 第六章 まとめ

    第六章 まとめ(妻をどう思い、妻とどうなりたかったのか) 最後に、「彼」の妻への思い、また「彼」が妻とどうなりたかったのかということについて、これまで述べてきたことを踏まえ、まとめていく。 「芸術的因襲」が深く心に根を張り、あらゆる風物に...

  • 『田園の憂鬱』論 第五章 「彼」の理想の妻②

    第五章 「彼」の理想の妻 第二節 「糸とり娘」という理想像 ユーラリーやグレートヘンのような理想の〈妻〉像は、十七章において「彼」の幻想として表れている。目を開けて寝ていた「彼」は、夢うつつ妻の足に「王禅寺の方へ遠足した時、道に迷ふて這入つて行つた...

  • 『田園の憂鬱』論 第五章 「彼」の理想の妻①

    第五章 「彼」の理想の妻 第一節 「ユーラリー」に見る理想の妻 ところで、『ファウスト』の物語の最後にはある〈救い〉が描かれる。ファウストは死に際し、天上のグレートヘンの祈りによってあの世でメフィストに魂を捧げ仕えるという契約から解放されるのである。 ...

  • 『田園の憂鬱』論 第四章 『ファウスト』と「彼」②

    第四章 『ファウスト』と「彼」 第二節 『ファウスト』と「彼」の悲劇 性 『ファウスト』全体において貫かれるのは、あるときは肉体的快楽に、あるときは美に取り憑かれ、どうしてもその欲望を追い求めてしまうために愛するものを傷つけ失う人間の悲劇的な...

  • 『田園の憂鬱』論 第四章 『ファウスト』と「彼」①

    第四章 『ファウスト』と「彼」 第一節 『ファウスト』第一部引用箇所の意味 妻と穏やかに暮らすことの価値を知りながら生活の中に神秘を求める者の苦悩、過去に積み重ねられた芸術と豊かに通じるためあらゆる風景に「芸術的因襲」を孕んだ人工の美を見出してしま...

  • 『田園の憂鬱』論 第三章 「芸術の世界」と「憂鬱の世界」③

    第三章 「芸術の世界」と「憂鬱の世界」 第三節 「彼」の「性分」 ここで「彼」の「性分」というところに論を戻すと、その「性分」とは、自然と人工の同居する「芸術の世界」を求める志向のことである。それはつまり、自然のみの世界に生きる田舎の〈生活...

  • 『田園の憂鬱』論 第三章 「芸術の世界」と「憂鬱の世界」②

    第三章 「芸術の世界」と「憂鬱の世界」 第二節 「憂鬱の世界、呻吟の世界、霊が彷徨する世界」 しかし、「彼」が田舎の中で陥った「憂鬱の世界、呻吟の世界、霊が彷徨する世界」(十九章)は、ポーやブレイクの詩句 注 [i] 、ダンテの巡った地獄 注 [i...

  • 『田園の憂鬱』論 第三章 「芸術の世界」と「憂鬱の世界」①

    第三章 「芸術の世界」と「憂鬱の世界」 第二節 「憂鬱の世界、呻吟の世界、霊が彷徨する世界」 しかし、「彼」が田舎の中で陥った「憂鬱の世界、呻吟の世界、霊が彷徨する世界」(十九章)は、ポーやブレイクの詩句 注 [i] 、ダンテの巡った地獄 注 [i...

  • 『田園の憂鬱』論 第二章 夫婦の生活への思考②

    第二節 「彼」の生活への思考 「彼」は本論文第一章で触れた薔薇を摘んでしまった妻を叱るときの描写からも分かるように、理不尽に妻を責め立てる一方、その言動に自省的でもあり、心から妻を責めたいわけではなく、むしろ柔和に接したいと望んでいることがうかがえる。 ...

  • 『田園の憂鬱』論 第二章 夫婦の生活への思考①

    第二章 夫婦の生活への思考 第一節 妻の生活への思考 『田園の憂鬱』の「彼」は「前後も忘れる深い眠」を求め、妻と二匹の犬と一匹の猫を連れて田舎を訪れる。「いい家のやうな予覚がある」「ええ私もさう思ふの」という夫婦の「瞳と瞳と」の会話から希望とと...

  • 『田園の憂鬱』論 第一章 はじめに

    第一章 はじめに 佐藤春夫は一九一三年に慶應義塾大学を退学し、翌年一二月から新劇女優の川路歌子と同棲を始めた。『田園の憂鬱』は、佐藤が歌子と一九一六年五月に神奈川県都筑郡中里村へ移り、同村字中鉄(現・横浜市緑区中鉄)に七月から一二月まで暮らした生活を回顧して書いた作品...

  • 「田園の憂鬱」の概要 2

    6 登場人物 彼 … 老人のような理知と、青年らしい感情と、子供ほどの意志とをもった青年。芸術上の仕事には深い自信があるが、都会の重圧に苦しみ、妻を伴って田舎で暮らし始める。一旦愛すると程度を忘れて溺愛せずにはいられない性質で犬と猫を可愛がっている。田舎暮らしに期待...

  • 「田園の憂鬱」の概要 1

    4 梗概(あらすじ) ある夏、息苦しい都会の喧騒と重圧に疲れた鋭敏な彼は、田舎家の中で前後も忘れる深い眠りにつきたいと、憧れと良い予覚をもって妻と二匹の犬と一匹の猫をつれて草深い武蔵野の一隅の茅葺の家に移り住む。 ある日、彼は荒れ果てた庭の片隅で痩せ細った薔薇を見...

  • 「田園の憂鬱」についての基本情報

    はじめに   1 作者 佐藤春夫〔一八九二年(明治二五年) - 一九六四年(昭和三九年)〕 和歌山県東牟婁郡新宮町の医者の家に生まれる。 明治三七年、県立新宮中学校入学。 将来の志望を問われ、「文学者たらん」と答えたと言われる。第五学年の夏休み、町内で...

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