chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
穢銀杏
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2019/02/02

arrow_drop_down
  • 善悪の彼岸

    第一次世界大戦終結後、ヨーロッパには梅雨時の菌糸類みたくアカい思想が蔓延った。 イタリアで、ハンガリーで、ポルトガルで、方々で。もう明日にでも赤色革命が成るのではと危惧されるほど猖獗を極め、うち幾つかは実際問題、そう(・・)なった。 (赤の広場) 唯物論の荼毒によって宗教はアヘンと嘲られ、欧州人の精神を永く抑制し続けた、ある種基盤をごっそり喪失した結果。道徳の頽廃、人心の堕落はもはや止め処もなくなって、日を追うごとに末期的形相を強めゆく1920年代社会を見せつけられまくり。――フランスの批評家、ポール・ブールジェは以下の如くに書いている、 「傲慢で皮相的な科学の影響の下に、信仰は一笑に伏され、…

  • 修学旅行へ、進路北

    修学旅行の行き先に、北海道が選ばれた。 七月五日から十五日まで、十泊十一日の日程だ。 大正七年、東京女子高等師範学校本科四年生二十九名たちのため、組まれたプログラムであった。 (Wikipediaより、東京女子高等師範学校) 旅費は一人あたま二十円。現代の貨幣価値に換算して、ざっと八万円である。十泊もするには随分安いが、そこには勿論タネがある。 ざっくばらんに言うならば、ホテルに泊まらないからだ。 寝床はもっぱら、行く先々の女学校の寄宿舎に求めるという寸法である。 五日の午後六時半、上野駅から出発した彼女らは、 丸一日を延々移動に費やして、 七日、漸く試される大地へ上陸すると、その夜は小樽高等…

  • 埋もれし過去

    皇居の地面を掘り返したら、意想外のモノが出た。 大判小判がザックザク――だったらどれほど良かっただろう。だが現実には、それよりずっと生っぽい、命の最後の残骸的な、有り体に言えば人骨が、もうゴロゴロと出現(あらわ)れたから堪らない。 至尊のまします浄域にあってはならない穢れだが、よくよく思えば無理もない。あそこは元来、武士の、幕府の、徳川の、総本山なのだから。侍という、殺したり殺されたりすることが専売特許な連中が、何百年もの永きに亙り所有してきた物件である。 そりゃあ埋まっているだろう、死体の十や二十ぽっちは、必然に。 こういう事件は何度もあった。 最初は大正十四年、大震災にて崩れたところの二重…

  • バター・マーガリン戦争小史

    マーガリンをバターと偽り売り捌く。 馬鹿みたいな話だが、しかしこいつは実際に、明治・大正の日本で、しかも極めて大々的に行われた偽装であった。 マーガリンの価格は当時、バターの半分程度が相場。良心の疼きに目をつむりさえしたならば、双方の類似性を利用しておもしろいほど簡単に利ざやを稼げる仕組みであった。非常に多くの商人が、その遣り口で現に儲けた。 「なあに、どうせ馬鹿舌さげた客どもだ」「連中に味の区別などつくものか。言われなきゃ一生気付くまい。ならば知らぬが花ってもんよ」 庶民という生き物を、彼らは完全に舐めていた。 この一件を見てみても、滾る金銭欲に比し、所詮お仕着せの公徳心だの善意だのというも…

  • 虚子と雪舟

    およそ日本人にして雪舟の名を知らぬ者などまず居まい。 義務教育に織り込まれていたはずだ、室町時代の画家なりと。昔ばなしで情操教育を了えたクチなら、アアあの柱に縛られたまま足の指を動かして、涙でネズミを描いてのけた小僧かと、そちらの方でも合点がゆくに違いない。 (Wikipediaより、雪舟作『天橋立図』) 雪舟といえば水墨画、水墨画といえば雪舟。両者が有するイメージは、分かち難く結合している。そんな感すらあるだろう。 ――さて、そんな雪舟が、潮路を越えて唐土に渡り、絵筆の業に磨きをかけていた時分。 こともあろうに当代の覇者、大明帝国皇帝陛下直々のお呼び出しを受け、その御前にて腕前を披露した日が…

  • 逝ける友垣 ―直木と菊池―

    直木三十五が死んだ。 東京帝大附属病院呉内科にて、昭和九年二月二十四日午後十一時四分である。 枕頭をとりまく顔触れは家族以外に菊池寛、廣津和郎、三上於菟吉、佐々木茂索等々と、『文芸春秋』関係の数多文士で占められて。――そういう面子で、直木の最期を看取ったという。 (Wikipediaより、直木三十五) 享年、ものの四十三歳。 告別式やら葬儀やら、ひととおり儀式が完了すると、菊池寛はさっそくのこと筆を執り、直木を語る稿を起こした。書くことで故人を偲ぼうとした。その一節が、とりわけ筆者(わたし)の興味を惹いた。 曰く、 「…『近藤勇と科学』などいふ題をつけたり、科学小説を書くといってゐながら、自分…

  • より安く、より多く、より楽に

    「横着」こそ発展の鍵、「簡便化」こそ文明第一の効能だ。 多年に亙る訓練に堪え忍んだ玄人と、苦労知らずの素人の差を科学技術で補填する。煩雑な手間をなるたけ省き、ほんの僅かな労力で、従前同様、否、それ以上の良果を獲られるようにする。 ただ湯を沸かして注ぐだけで、「本場の味にも劣らない」ラーメン、コーヒー、味噌汁だのが作れるようになったが如く。 ドイツ人らの築き上げた文明は、その民族的嗜好に従い粉末ビール製造へと赴いた。水を加えて撹拌すれば、もうそれだけで豊かに泡立つ、インスタントなアルコール飲料の開発へ。 それも昨日今日の話ではない。 淵源は、想像以上に深かった。百年とんで二十年前、十九世紀末ごろ…

  • 敗亡ライン

    仏のボルドーに張り合えるのは、独のリューデスハイムを措いて他にない。 欧州世界の一角で、斯く謳われたものだった。 ワインの出来の話をしている。ひるがえってはその素材たる、ブドウの出来の話を、だ。 (Wikipediaより、リューデスハイム) 埃を払って遠い伝説を紐解けば、リューデスハイムをワインの聖地と為したのは、カール大帝であるという。 つまり八世紀から九世紀ごろに淵源を持つわけである。蒼古たる由縁といっていい。カール大帝、そのころこの地を訪れて、山腹に積もった白雪と、春の陽射しに打たれ溶けゆく素早さとを看取して、ここが葡萄の成育に格好の土地と見抜いたらしい。 それで試した。 最初の一株を植…

  • あの日、彼らは

    人の悪い趣味やもしれぬ。 昭和二十年八月十五日、敗戦の日の追憶を掻き集めるのがこのごろ癖になっている。 (Wikipediaより、玉音放送を聞く人々) 大日本帝国の壊滅を当時の日本人たちがどんな表情で受け止めたのか、そもそも受け容れられたのか、感情の動き、反応を、知りたくて知りたくてたまらないのだ。 自分で文字にしていて思う――やはり下賤な興味であろう。 だが仕方ない、「趣味」なのだ。 生まれもった性質(サガ)に基く嗜好の前では倫理良識人の道なぞ濡れ紙同然、なんの抑止にもならぬ。 無理に塞ぐと鬱屈して毒になる。開き直って前向きに愉しむのが吉である。 (viprpg『フレイミング リターンズ』よ…

  • 岩崎商店家憲六条

    六首の歌が岩崎商店の家憲であった。 「祖父が我々子孫のために、智慧を絞って記して置いてくれまして――」 と、三代目当主・清七は言う。 三菱創業の一族とまったく同じ姓ではあるが、血の繋がりは、べつに無い。 下野国の一隅で、代々醤油製造と米穀肥料を商ってきた。それが清七の方の(・・・・・)岩崎家の素姓であった。 (醤油樽。江戸東京たてもの園にて撮影) 「ええ、もちろん六首通して、悉皆そらんじ(・・・・)られますよ。子供の頃は意味も分からず、ただ父親の口真似で唱えていたものですが。今では意味も追いついて、ちゃんと、しっかり、座右の銘です」 そうして岩崎清七は、ひときわ呼吸を深くした。 実業は徳義を重…

  • 福澤精神、ここにあり

    「商売といふものは国旗の光彩に依って発展するものである。又商売の進度に依って国旗の光彩が随伴する」。――青淵翁・渋沢栄一の言葉であった。 国威と国富の関係性の表現として、なかなか見事なものである。 一生懸命寝る間も惜しんで努力して、良品を製造(つく)り出すことを心掛けさえしたならば、おのずと世界商戦に勝ちを占められるであろう。――こんなのは所詮、幼稚園児の考えだ。 いやしくも戦(・)と名のつく以上、真面目なだけでは生き残れない。謀略あり悪意あり、生き馬の目を抜く技倆と胆気、なりふり構わぬ修羅の形相を呈すのが、必須条件となってくる。 福澤諭吉は、弁えていた。 「貿易商売を助る一大器械あり。即ち軍…

  • 人間世界に風多し

    およそ人の手が織り成す中で、難癖ほど製造容易な品はない。 理屈など、捏ねようと思えばいくらでも捏ねくり回せてしまうのだ。 ――御一新から間もなき時分、度重なる出仕要請をあくまで拒否し、「野の人」たるに拘った、町人主義とも称すべき福澤諭吉の姿勢に対し、明治政府部内では次第に意趣を募らせる、とある一派が存在していた。 (福澤諭吉、文久二年撮影) この連中の心境をざっくり打ち割って述べるなら、 ――あの野郎、お高くとまって澄ましやがって。 どこどこまでも低劣な僻み根性の枠を出ない。 政府の権威をかさ(・・)に着て浮世の栄華を堪能している俗吏輩の認知では、政府に媚びを売らないという、単にそれだけの事象…

  • 乱読讃歌

    「最近の若い娘ときたら、えらくひ弱くなっちゃって」 明治生まれのアラフィフが、口をとがらせ言っていた。 「苦労知らずな所為だろう。薪割りに斧をふるったり、くらくら眩暈がするくらい火吹き竹を使ったり。つるべで井戸から水を汲む、あのしんどさも知らずに大きくなるんだからね。『文明』がそういう、日常(ひごろ)の自然な鍛錬を根こそぎ奪い取っちゃった」 ――だからお産で泣くような、情けない娘(こ)がどんどん増える。 と、彼女の話はいよいよ以って危険な相を帯びてくる。 (昭和館にて撮影) 現代令和社会にて、こんなセリフをのたまえ(・・・・)ば、もうたちどころにフェミニストどもの激怒を買って「名誉男性」扱いさ…

  • 新聞哀歌

    『毎日新聞』の前身に『東京日日新聞』がある。 明治五年に旗揚げしたる、なかなかの老舗ブランドである。 紆余曲折を経ながらも号を重ねて半世紀。創刊五十周年記念と題し、同社が掲げた辞(ことば)というのが面白い。 「新聞の勢力は、増すとも減ることはない。議会の両院に対して、これを第三院と称するも決して過言ではない。各国然り、わが国またその通りである。わが東京日日新聞が、言論の権威を高からしむるため、過去五十年、努力をおこたらなかったことは、われ等のいさゝかほこりとするところである」 (『東日』営業局) 「新聞の勢力は、増すとも減ることはない」、――なるほどなるほど。彼らは新聞を「王国」と呼んだ。ここ…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、穢銀杏さんをフォローしませんか?

ハンドル名
穢銀杏さん
ブログタイトル
書痴の廻廊
フォロー
書痴の廻廊

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用