その家に、名前がつくまで。「名前って、もう決まってるんですか?」設計がひと段落した頃、住まい手からそんな質問を受けることがある。でも私たちの場合、多くはそのとき、まだ決まっていない。名前は、自然と浮かんでくるものだと思っている。打ち合わせを重ね、家族の話を聞き、敷地に何度も足を運び、スケッチを描きながら、ようやく、建物の“性格”のようなものが見えてくる。たとえば、ある家。高台にある静かな敷地に建てた切妻屋根の家だった。外観はとても控えめで、まるで風景に溶け込むような佇まい。でも、内部空間に入ると、思わず声が出る。大きな窓から、函館の街が一望できる。海と空と街がつながって、まるで風景の中に浮かんでいるようだった。ある日、設計中の資料にふと「ゼッケイハウス」と書き添えてみた。仮の名前のつもりだった。でも、どうにもそれ以上の名前が見つからなかった。それは、私たちの中に芽生えた、この建物への“呼びかけ”だった。こうして、ひとつの家に名前が生まれた。私たちキタザキアーキテクツが建てる家の多くには、名前がある。それは、建物に個性があるから。そして、そこに住む人にも、土地にも、それぞれの物語があるか