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リエミブログ https://riemiblog.blog.fc2.com/

不思議な展開をみせる、オリジナル小説、 ほんのり奇妙な短編・ショートショートや、 中編小説を書いています。

◆小説一覧リスト https://riemiblog.blog.fc2.com/blog-entry-2.html  読んで感じたこと、思ったことなど、  ひとことでもいいので、  作品へのご感想をお待ちしています。

リエミ
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2017/10/28

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  • 月のライン 5-1

    夜12時ごろに起こしてくれ、とゴンドラの船夫には言っていたので、眠いながらも、ロイは目を覚ますことができた。 浜から少し沖に漕いだ場所。 そこからは、本土と島の両方が見える。 ロイはそれまで寝そべっていた、赤いビロードの長椅子から、上半身を起こした。 揺れるゴンドラの中で、2つの町を見比べる。 本土は強い、都会の明かり。 ビルや電波塔の白々とした光が、夜なのに昼間のように放たれている。 それに比...

  • 月のライン 4-4

    「あれ、珍しいですね。昨日もいらしてたのに、連日いらっしゃるなんて」 町役場の夜間職員は、昨日と同じ時刻に訪れた、マリに向かって声をかけた。「ええ。ちょっと相談し忘れたことがあって。難しくて、電話じゃ言えないのよ」 控えめに、マリは笑った。もうおばあさんだしね、と付け加えて。「そうですか、ちょうど町長もまだ役場に残っておりますし、また応接間のほうでお待ちください」 職員に促がされ、マリは昨日と同...

  • 月のライン 4-3

    虹色の、斜めにストライプが入った派手なワゴンで、リカはその日、営業していた。 肌寒いけれど、雲の少ない青空に、ワゴンからつけた風船が揺れている。 丸いの、星型の、種類はさまざまだったけど、どれも同じメッセージが印刷されている。『Happy Noel!』 リカはニットの帽子をかぶり直した。 ノエル当日も、この場所で販売することになっている。 この帽子じゃ寒いかな……。 ちらり、と後ろの教会を見た。 ミサを終...

  • 月のライン 4-2

    ロイは昼前にフェリーに乗って島へ上陸した。 海沿いのフラワーショップ・ナヤを通り過ぎ、目的地へ足早に向かう。 冷たい潮風がコートの裾を翻した。 リボンの装飾が浮き彫りにされた看板の、小さなお店。 ショーウィンドーに飾られた華やかなツリーに見向きもせず、ロイは入口ドアを開けた。「いらっしゃーい」 陽気な出迎えの声がした。 店の店長がひとり、レジの前に立っている。 男なのに女物のエプロンを巻いて、...

  • 月のライン 4-1

    その日のナヤは朝早くから、リース作りの仕事に追われていた。 花屋に続く少し奥まった部屋の一角で、椅子に座り、小さなテーブルの上で手を動かす。 花屋は辛い水仕事だ。 水を張った足もとのバケツに、たくさんの切り花がひたっている。 そこから必要な本数を取り、テーブルの上で、細い茎を編んでゆく。 丸く、丁寧に、形よく。 ノエルの近づくこの時期に、毎年行うリース作りだ。 人々はこれをドアに飾ったり、窓に...

  • 月のライン 3-4

    セドは受話器を耳から離し、電話を切った。 他ならぬ町長の頼みだ。やらないわけにはいかないだろう。 それに、その報酬が嬉しい。 どんなお得意様か知らないけれど、町長に大金を振り込む。 それを自分の店で売った花だと、うそぶくだけで、分け前をくれる。 本土への運び屋になるのは、ちょっと面倒だったけど。 いつもの場所で待っている、取引人に渡すついでに、本土の市場に出た花々を、自分の店で売る用に仕入れる...

  • 月のライン 3-3

    夜中のひっそりとしたラウンジで、子供を泣かせているところを見られたら、変に誤解されてしまうだろうな、とラジは思った。 幸い、2人以外には誰もいない。それでも、明々と灯るランプの光が、キトの頬を光らせた。 いつマリが帰ってくるか分からないので、ラジは要点だけを実直に語った。 マリの尾行をし、着いたのは畑。幻想花の栽培地。 ラジは声を知られているので、町を歩いていたバックパッカーを買った。 マリに...

  • 月のライン 3-2

    町役場の一番奥、ふだん観光客も通らない、細い通路を使って、町長はやってきた。 応接間だった。 アンティークな革張りの椅子に座り、すでにマリが待っていた。 手前の机に、膨らみのあるスカーフが乗せられている。「町長、聞いてください」 マリの低い声がいつもと違う。 町長は入ってきたドアの取っ手を引き寄せた。 腕時計を見る。深夜1時過ぎ。 夜勤をしている職員たちには、週に一度のこの時間、昔なじみと話に...

  • 月のライン 3-1

    モンフルールの広いロビーで、キトはひとり待っていた。 深夜12時で誰もいない。 古めかしい柱時計の音だけが、耳に、心に響いてる。 最終チェックインの時刻も締め切られ、もう観光客は入ってこられない。 泊まりの客は寝ているだろう。昼間歩いた町を、夢に見ながら。 キトはどうしても眠れなかった。 分厚いガウンの前を合わせて、壁際の長いソファに座ったり、立ったり、位置をかえて座ったり……を繰り返していた。 ...

  • 月のライン 2-4

    本土に帰ってきたメルは、すぐさまその足で郵便局へ向かった。 上司の局長は、メルの今回の失敗を、言葉で叱責しなかった。 40過ぎで、メルの2倍ほど年上の女性だったが、涼やかな顔でメルを見るとこう言った。「始末書、書いて」 あとは言われるままにメルは従った。 午後からの仕事は取り上げられ、自宅に帰された。 表には感情を出さなかったが、局長はかなり怒っていたに違いない。 メルが帰り間際に、冷たい態度で...

  • 月のライン 2-3

    ノエル(降誕祭)が近づく季節になると、圧倒的にガラス製品が増える。 陳列棚にもこれでもか、というくらい、積み重ねた色とりどりのオーナメント。 お互い触れるとカチャカチャ鳴って、割れやしないかとヒヤヒヤしてしまう。 でも、店舗が狭いので、個別に飾る場所もないのだ。 本当は2階のほうにも並べたいけど、2階は住居で、1階よりもさらに狭いし……。 リカは、紙の箱から取り出した、50センチほどのツリーを眺めた...

  • 月のライン 2-2

    ルームサービスのクロワッサンとミルクを胃に収めたあと、メルはチェックアウトした。 ロビーの柱時計は7時を刻んでいる。 9時入港だから、しばらくまだ時間があるな。 よく磨き上げられた、つややかな木の入口ドアを開くと、すぐ外に、掃除をしている2人組を見た。 短く伸びたホテルへ続く階段の、白い手すりを雑巾がけしている、背の高い男。 柄の長いモップで、石畳の水を拭き取っていた、細身の少年。 2人はメルを通...

  • 月のライン 2-1

    広い噴水のへりに、男がひとり座っていた。 もう何時間もここにこうして待っている。 黒いスーツに銀縁眼鏡。 眼鏡はダテで、視力はいい。 見えないものまで見えるほうだ、と、自分では思っている。 前を通り過ぎてゆく、街灯に照らされた観光客の表情を、見て見ぬふりして座っていた。 時々、足を組み直し、そ知らぬ顔で。 ピチャン、ピチャン、と水の跳ねる音がする。 後ろの噴水からじゃない。男のひざ下まで、アク...

  • 月のライン 1-4

    用意周到に長靴を持ち合わせているわけもない。 ただ、買えそうな店がどこにあるか分かっていたので、メルは急いでそちらに向かった。 はずむたびに鞄が揺れたが、今は考えないことにした。 とにかく、濡らさないのが優先だ。 ミリのカフェを通り過ぎるとき、彼女が太った旦那と一緒に、オープンテラスの椅子や机を片付けて、店の中に押し込んでいる光景を見た。 これからやってくる大潮のためだ。 旦那は試食し過ぎたの...

  • 月のライン 1-3

    いつもなら郵便局で昼を食べ、午前中に整理した宛先ごとの手紙を持って、島へ渡る。 そして配達し終えると、役場のポストを開け、空になった鞄に新しい手紙を詰めて、局に戻る。 大体それが、4時過ぎだ。 だが今、港に向かいつつ、役場の高い位置に取り付けられた時計を見ると、1時間遅れ。 たぶん、ミリのパン屋に寄ったのがいけなかったか。 メルは胃の辺りをさすりながら思い返した。 ミリという名のおばあさんの開い...

  • 月のライン 1-2

    メルは肩から斜めに吊り下げた革製の鞄に、ポストの中身を収集していた。 町役場の側の大きなポストだ。 青い海に浮かぶ、朱色の屋根の連なるこの島の、美しい景観を写したカードが多かった。 ちょうどその時、役場の扉を押し開けて、町長が現れた。 メルには気づかず、役場の前の花壇に向かい、花の手入れをし始めた。 しおれた花びらを摘み取って、手の中で握りしめる。「こんにちは」 メルがそっと声をかけると、「や...

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