pixiv 2018年6月23日 20:47 6 老人 目の前に、深い皺の刻まれた老人がいる。彫りの深い顔は、まるで往年の映画俳優のようだ。ただ映画を撮るには、少し痩せすぎているように見えた。 年季の入った黒檀の机のうえに、和服のそでからのびた細い腕が置かれている。その腕が、大きな灰皿を引き寄せて、もう片方の腕がタバコの灰を落とす。 老人は値踏みするように、さっきから一言も発せずに僕と、その隣に座る師匠…
pixiv 2018年6月16日 15:10 5 地下 巨人を見た次の日、僕らはJRに乗って、となりの町へやってきた。 うちの大学の日本史研究室の元教授で、退官した今では、郷土史家という肩書きでのんびりと好きな研究を続けている、宮内氏を訪ねてきたのだ。 「だいだらぼっち?」 宮内氏は面白そうに、黒縁の眼鏡をずり上げた。 「ええ。このあたりで、だいだらぼっちの伝承があるのか知りたくて。先生ならご存知かと」…
239『秋の日々』全8話 / 第4話『アポカリプティック・サウンド』
pixiv 2018年6月9日 19:38 4 アポカリプティック・サウンド その音を聞いたのは、大学祭の大騒ぎのすぐあとだった。 福武さんという、師匠の知り合いが描いた不気味な絵をめぐって、人の群にもみくちゃになり、散々な目にあってから僕らは師匠の家で落ち合った。 師匠はその絵を、サークル棟のそばにある焼却炉で燃やしたという。ばけものの絵だというそれを。 「あれが、くじら座のくじらだとは知りません…
pixiv 2018年6月2日 21:36 3 狂心の渠 劇団くじら座の公演を見た2日後だった。 よく晴れた日で、見上げれば秋らしい高い空が広がっていた。僕は、久しぶりに洗濯をして干してくればよかったと思いながら、自転車をこいでいた。後輪の上には師匠が立ち乗りをしている。両手は僕の肩だ。 「えっ、行ったんですか」 昨日、劇団くじら座の座長に会うべく、師匠は稽古場に乗り込んだらしい。けれど、聞いていたと…
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