4 先方から「ぜひ結婚を前提としたおつきあいを」と連絡があって以降、ユキは頻繁に出かけるようになった。藤田吉之助も足繁くやって来てるようだ。ただ、ミカ…
見合いの行く末は気になっていたけど、忙しいミカには考えなければならないことが他にもあった。仕事上の問題も山積していたし、山内くんからは親に紹介してくれと…
性格の違い――といえばそれまでだけど、この姉妹には目に見えぬ大きな隔たりがあった。ミカはよくそれを感じることがある。ただ、無理をしてそれを越え、姉の考え…
ミカは溜息を(こう何度もつきたくないのだけど)洩らした。この人には意見なんてないのだろう。こうやって訊きまくっては、そこに自分を合わせられるのだ。唇は歪…
「どうだった?」 部屋を訪ねてくるなりユキはそう言った。 「ミカちゃん、どう思った? あの人のこと」 「どうって?」 「私、あの人と結婚すること…
「文武両道でいらっしゃるんですね」 母親は上品そうに「ほほほ」と笑ってみせた。しかし、その後はまた沈黙だ。ユキは頬を染め、うつむき加減になっている。父…
見合いの日には雨が降っていた。ただでさえ憂鬱なのを定着させるような、しとしととやみそうにない雨だ。 「藤田吉之助です」 キチノスケ? ミカはまわり…
「ね、お願いよ。なんとかしてもらうの。ユキもあなたに来て欲しいって言ってたしね」 「その前に訊きたいんだけど、お姉ちゃんは真面目にお見合いするつもりなの…
3 お見合いは七月に決まったようで、相手は銀行員とのことだった。そういうのをミカはちょこちょこと耳に挟んでいた。 事前情報というのも聞かされていた。…
ただ、ミカは人の相談を受けていられるような立場にいなかった。自分の方こそ相談したく思っていたのだ。 ミカにはつきあって半年になる彼(山内くんといった…
「で、」 細く息を吐き、ミカは目をあけた。すべてが面倒になったのだ。 「どんな感じなの? ルックスは? 実業家ってのはどんなお仕事してるわけ?」 …
「ああ、あの話ってまだつづいてたんだ。でも、まあ、いいんじゃない?」 姉の皿が空くとサラダを足し、やはりピザも取り分けてやった。席の前は広い通りになっ…
二人が行ったのは駅からすこし離れたところにできたイタリア料理店だった。木枠に嵌められた窓から覗くと店内は混みあい、桜の並木が見えるテラス席も埋まってる。…
前にも増して忙しく働いていたミカはそんな話があったことすら忘れかけていた。忙しいのには理由があった。マネージャーが事故にあい、しばらく出てこられなくなっ…
「ま、お父さんも困ってるんでしょうね。あんなふうに言ってきたのって初めてでしょ?」 「そうなのよ。パパに迷惑かけるのはよくないと思ってるんだけど、」 …
雑誌を読んでると弱くノックの音が聞こえてきた。 「お姉ちゃんでしょ? 入っていいわよ」 薄くだけドアがひらき、上気した顔があらわれた。――その開け…
「そう言ってくれるのは嬉しいんだが、そろそろ結婚のことも考えた方がいい。いや、この話でなくてもいいんだ。ただ、そういう年頃なのは確かなことだ。そうだろ?」…
2 二十八歳になるユキにはあらゆる方面から見合いの話がきていた。父親がさる大会社の重役だったので花婿候補を紹介したいという人間が後を絶たなかったのだ。…
しかし、それはもう終わった話だ。あるとき――忘れもしない、大学四年の十月のことだった――彼からのラインにこうあった。 『そういえば、この前ミカのお姉さ…
ミカはけっこうモテる。 ユキほどではなかったものの子供の頃からラブレターをもらったり、なにかとちょっかいを出されていた。高校生になってからは特定の彼…
しかし、あるときユキはこう言ってきた。 「ミカちゃん、今日はお茶淹れてくれないの?」 たぶん――ミカは今にして思う――そのときの私はちょっとばかりイ…
ミカはイランイランとベルガモットのエッセンシャルオイル(ともにイライラ解消に役立つ)を焚き、フラワーエッセンスなるものからインパチェンス(これもイライラ…
ミカには二つ年上の姉がいる。そちらはユキといって、とても美人だ。それも子供の頃からそうだったし、今もってそうだ。ミカは自分を磨くため努力してきたし、勉強…
1 清水ミカというのが彼女の名前だ。 彼女は二十六歳で、ショップの販売員で、つねに明るく振る舞ってる。服装にも気をつかってるし、長い髪はいつも艶や…
さて、明日からまた小説になるようなのでこの人に出てきてもらいましょう。佐藤清春さんです。 あ、はい。よろしくお願いいたします。 さっそくお訊きしますが、前…
いやぁ、この季節は気持ちがいいよねぇ。 暑くもあるけど、風が吹くとまだ爽やかだし、葉のさやさやという音も心地いいなぁ。 ん?あれは? エピクロス・・・・…
『生活というものは早晩、落ち着くところへ落ち着くものなのだ。どんな衝撃を受けても、人はその日のうちか、たかだか翌日には――失礼な言い方で恐縮だが――もう飯…
『人間は歩く影だ。あわれな役者だ。舞台の上を自分の時間だけ、のさばり歩いたり、じれじれしたりするけれども、やがては人に忘れられてしまう』 というわけで…
いや、ここのところまったく余裕がなくて、落ち着いてこういう文章を書く時間も持てない状態なんですよね。 だったら書かなきゃいいだけのことなのですが、習い性とい…
見える人 『《monkey's paw》にて/ありのままを見ること』- 4
雨はやはりスーツを濡らした。 街灯が照らす中を歩き、僕は立ちどまった。――ああ、こいつだったな。これが突然消えたのだ。それがあったのも雨の降る夜のこ…
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