嘉江は眉間に皺を寄せている。彼は鼻先を叩きだした。 「いいですか? 想像でしかありませんが、私はこう考えてるんです。あなたは過去を見られ、怖れた。私を…
「あのときも言いましたが、あなたの過去は見えづらかったんですよ。非常にぼんやりして掴みどころがなかった。ただ、自殺した生徒――古川紫織のことは幾分はっきり…
彼は黒板塀の周りを歩きまわった。猫の首はそれに従って動いてる。 「どうしちまったんだ? なんで先生はうろちょろしてんだろうな」 「もしかしたらペロん…
「ああ、もう出てらしたんですか。すみませんね、突然お邪魔したいなどといって」 「いえ」 箒を握りしめ、ゆかりは頬を強張らせた。目は彼の持つビニール袋…
祭りの初日もオチョとクロはアパートの屋根にいた。二匹並んでうつむいている。 「っていうかよ、どんだけここにいりゃいいんだろうな?」 「ま、ペロが見つ…
「その、ちょっと悩んでることがあるのよ」 「悩んでる? めずらしいな。どうしたんだ?」 「あのね、デートに誘われてて、」 「デート?」 「うん、来…
「ごめんね、千春ちゃん。そこで屋台のお姉さんに捕まってて、」 「ううん、大丈夫よ」 「いや、悪い。俺は焼きそば屋台つくるの手伝ってたんだ」 彼が来…
カンナは参道にいた。あまりにも遅いし、千春の様子もおかしい。いや、おかしすぎる。ごく普通のことを話してるのに表情がだんだん乏しくなっていくのだ。居たたま…
彼は鬼子母神の境内に入りこんでいた。ああ、こりゃ広島風お好み焼きだな。で、こいつはあんず飴か。――は? ケバブ? 最近はすごいな。国際化社会ってやつか?…
第20章 店前の板には『奉納 一金 壱拾万円也 蓮實淳の占いの店』と書かれた紙が貼られてる。彼はそれを見上げていた。空は高くなったものの靄のような雲が全…
「ああ、もうわけがわからねえな。頭がパンクしそうだよ。もしこいつがウサギを殺してたとして、それでどうなるってんだ? 柏木伊久男はそれをネタに脅してたってい…
「さっきのオッサンはこう言ってたぜ。『誰かが間に立って話に行った』、『でも、聞く耳持たねえって感じだったんでビラを貼った』――な? ビラだ。ここでやっと出…
目をあけると彼は鼻に指をあてた。唇は奇妙に捩れてる。 「また幾つかのことが繋がったな。いや、ほんと初めからこうしときゃよかったんだ。山もっちゃん、俺た…
「さて、」 振り返った顔には躊躇いのようなものが見てとれた。カンナは不思議そうに見つめてる。 「ようやく様々な要素が繋がってきたな。全体が見えるよう…
「俺は信じちゃいねえよ。だから与太って言ってんだ。ただな、平子の婆さんが落ちて死んだとこを見てたのがいるっていうんだよ。そいつは若い男がそこにいたって言っ…
「そして、その平子さんは陸橋から落ちて亡くなってしまった。たしか去年の四月、ひどく雨の強い夜のことでしたね。柏木さんは身寄りのないその方のお葬式をあげてや…
「その猫がどうしたんです?」 「いや、こんなお姉ちゃんのいるとこで申し訳ねえがよ、その猫がウンコすっだろ? ま、生きてんだ、ウンコはするよな。それを隣の…
「うーん、警察の旦那がいるとこだと話しづれえな。知ってるっていっても与太話みてえなもんなんだ。それに、他に迷惑がいくようだと困るんだよ」 「大丈夫ですよ…
「ん? 取り込み中か」 蓮實淳は目を細めた。特徴ある頭に見覚えはあるものの誰かわからない。男は戸に手を掛けたままだ。 「じゃ、また来るわ。兄ちゃん、…
「ん、ああ、」 不満げな表情でうなずくと刑事は写真を並べ直した。 「その前に『ひさ江』の女将がなにしてたか言っとくよ。いや、ほんと馬鹿げたことなん…
ソファに座ると彼は投げ出すように脚を伸ばした。深刻そうな表情で頻りに溜息を洩らしてる。刑事はカップを置いた。 「なあ、『ふう』だの『はあ』っていったい…
その床の下ではカンナが雑誌を読んでいた。たまに顔をあげ、外を眺めてる。――あんな大きな板、なにに使うんだろ? 看板? ううん、違う気がする。だけど、すご…
「そのことなんだけどね、アタシはもう手を引いてもいいように思ってるんだ。あんたも言ってたじゃないか。あの爺さんは脅迫相手と上手くやってたって。大和田も鴫沼…
蓮實淳はキティの話を聴いていた。表情は変わらず、鼻に指をあてている。ただ、陸橋から落ちて死んだ婆さんの件になると指を止めた。 「陸橋から落ちて死んだ?…
「ヒラコって言えば、――オチョ、あんたならわかるだろ? ほら、平子の婆さんさ」 「ああ、平子の婆さんか。そういや、去年の四月くらいだったな、あの婆さんが…
「ふうん。やっぱりよくわからないね。なんで脅迫されてたかわからないのもいるし、一人だけ名前もわからないのがいるからね。だけど、これはもう調べなくてもいいよ…
公園にはたくさんの猫が集まっていた。丸い時計は一時二分を指している。 「すまねえ、姐御。ちょっと遅れた」 「ふんっ! また遅刻だね。そんなんじゃ示し…
テレビが騒いでるのとは別に雑司ヶ谷は浮き足だってきた。しかし、これは毎年のことだ。そろそろ御会式になる。その準備がはじまっていたのだ。 「ああ、またこ…
第19章 雑司ヶ谷で起きた二件目の事件は大々的に報道された。激しい嵐の中、それも深夜に子供が階段から落ちて死んだ。しかも、父親が逮捕された当日にだ。当…
僕はいまブログやカクヨムなんかに小説をアップしてる最中なのですが、また違うのを書いてるところでもあるんですね。まあ、それもだいぶ前にブログに載せたことのあるも…
あけましておめでとうございます。で、昨年(とはいえ昨日ですが)のつづきです。今年は壬寅〈みずのえとら〉ですね。この壬〈みずのえ〉、十干の並びでいくと―― 1.…
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