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  • 2-XII-11

    普通はそこまで馬鹿な要求はしないものですよ。確かに私は外国人や、いわゆるナワーブ(インドのイスラム王朝時代の高官、大富豪のこと)との取引はしていますが、連中ときたら、文明とはまず無縁で、毎年パリにやって来るのは彼らの金塊を溶かすためです。とても正気とは思えぬほどの散財をして、物価を押し上げ、我々パリに住む者にとって暮らしを困難にしている。我々は彼らのように財産を二年で使い尽くそうなどとは考えないですからね。……こういう手合いがこの街の、そしてこの時代の疫病神で、ごくごく稀な例外を除いて彼らが益する相手というのは、世界各国を渡り歩くいかがわしい女たち、ペテン師、レストラン経営者、悪質な馬商人たちだけですからね」パスカルは同意するような仕草でこの罵りを聞いていた。が、実際は、ほんの今しがた男爵邸で会った、かの...2-XII-11

  • 2-XII-10

    気楽な遊び人は、信仰心も持たず戒律も守らず、良心も道徳心さえも持たないことを自慢たらしく誇ったりし、神も悪魔も恐れない。しかしそれでも、生まれて初めて明確な犯罪に手を染めるとなると、激しい苦しみに身を引き裂かれる思いをするものだ。はっきりと法に触れ、発覚すれば陪審団の裁判に委ねられ、漕役刑に処せられる可能性のある犯罪に……。ド・ヴァロルセイ侯爵が、いかさまゲームのために隅に切り込みを入れたカードを共犯者であるド・コラルト子爵に手渡したその日以来も、どれほど多くの犯罪に関わったか、誰が知ろう?こういったことを別にしても、この破産状態にある侯爵の日々の暮らしはかなり悲惨なものであった。借金の取り立てに来る者たちの目から見せかけの栄華を守ろうとする必死の努力は、難破した者が漂流物に懸命にしがみつこうとするのと同...2-XII-10

  • 2-XII-9

    「侯爵はこちらでお待ちでございます」この声は戦闘開始を告げる太鼓の音のように、パスカルの心を鼓舞させた。しかし彼の冷静さは全く変わることがなかった。「さぁいよいよ来たぞ、決定的な瞬間が」と彼は思っていた。「僕に見覚えがなければいいのだが……」彼はしっかりした足取りで下男の後に続いた。家にいるときはいつもそうするように、ド・ヴァロルセイ侯爵は寝室に離接した小部屋である喫煙室に居た。彼はテーブルを前にして座り、一心にスポーツ新聞を整理しているふりをしていた。傍にはマディラワインの瓶と、四分の三が空になったグラスが置かれていた。召使が「モーメジャン様でございます!」と告げると、彼は顔を上げ、パスカルと目が合った。しかし彼の目に動揺はなく、顔の表情も変わらず、いつもの高慢で揶揄するような冷ややかな顔つきのままであ...2-XII-9

  • 2-XII-8

    パスカルは喜びに身を震わせた。「運は僕の味方をしている!」と彼は思った。「カミ・ベイのおかげで男爵邸で十五分ほど足止めを喰らったが、あれがなければ、あの憎きド・コラルトとここで鉢合わせしていたろう。そしたらすべてがおじゃんになるところだった……」そして彼はこの思いを抱いて意気揚々と邸へと近づいていった。「侯爵は本日非常に多忙で」と鉄格子の扉の前に立っていた召使の一人が彼に言った。この男がド・ヴァロルセイ付きの下男であった。「貴方のお相手をする時間はないと思います」しかし彼がモーメジャンという名前の書かれた名刺を取り出し、『トリゴー男爵の代理として』という鉛筆の添え書きがしてあるのを見ると、下男の横柄な態度が魔法のように一変した。「ああ、そうでしたか!それなら話は違います!」と彼は言った。「トリゴー様からの...2-XII-8

  • 2-XII-7

    これまでの彼は行動を起こすことに臆病になり、何にも確信が持てず、ぐらぐらと動揺していた。が、どこをどのように攻撃すべきかが分かった今、戦いを始める時が到来したのである。不屈のエネルギーが彼の内に湧き上がり、彼をブロンズ像のように強固にした。もはや何ものにも気を削がれたり、邪魔されたりすることはない。心弱い者たちが怖気づく場所、つまり戦場に臨むときに初めて持てる力を発揮する剛直な指揮官のように、パスカルは頭の中の霧が晴れ、思考力にスイッチが入り、新たな明晰さが与えられたように感じた。彼がこれから行使しようとしている武器は確かに彼の気に入らぬものであった。しかしそれを選んだのは彼ではない……。彼の敵は裏表のある態度と狡知に富んだ術策のみを武器としているのであるから、パスカルもまた策略と奸計で彼らを出し抜こうと...2-XII-7

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