秋の気候は変わりやすい。渓谷沿いの奥深い山里ではその変化が激しい。理恵ちゃんと織田君が、ポチを連れて宿から近い深い渓谷に架かる釣り橋の付近に散歩に行くと言うので、健太郎は「余り遅くならないうちに帰る様に」と注意して送り出した。彼等が出かけたあと、節子さんが「あなた露天風呂に行かない。今時分なら人もいないと思うし・・」と誘うので、健太郎は「うぅ~ん、でも釣り帰りの人がいるかもしれないよ」「幾ら夫婦でも、僕は嫌だなぁ。大体、お腹に癌の手術痕もあるし、気がすすまないなぁ~」と返事をして「どうしても君が入りたいと言うなら、貸切り風呂があいているかどうか聞いてくるよ」と言うと、彼女は「切角、来たのですし、きっと夕闇の露天風呂はロマンチックと思うわ。ねぇ、入りましょうよ」と切望するので、彼は「それなら女将に聞いてくる...蒼い影(27)