健太郎は、駅頭にたたずみ、久しぶりに見た奥羽の山並みは、時を経ても、その姿は変わることなく悠然と構えていた。新緑の萌える木立の中に宝石をちりばめた様に、山桜が晩春の陽光に映えており、それは、人の世の基本である保守的な部分を象徴しているようにも思えた。一方、不変の峰々から流れ来る川は、世の清濁を合わせた様に、時には激しく流れて川辺の岸を削り周辺の模様を変容させながらも、反面、静かに流れゆく様は、社会の進歩的な有り様を連想させてくれる。小高い山並に囲まれ、一筋の広い川を挟んで静かにただずむ田舎町の自然な光景である。皆が、それぞれに思いを胸に描いて楽しく奥羽の旅から帰って早くも一ヶ月が過ぎ、平穏な暮らしに勤しんでいた。節子さんは、晴れて健太郎の妻となり大学病院の看護師に、理恵子は高校にと通い、秋子さんは胃癌手術...蒼い影(18)