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日々の便り https://blog.goo.ne.jp/hansyoodll84

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

老若男女を問わず、人夫々に出逢いの縁が絆の始まりとなり、可愛く幼い”蒼い”恋・情熱的な”青い恋”・円熟した”緑の”恋を辿って、人生観を形成してゆくものと思慮する そんな我が人生を回顧しながら、つれずれなるままに、出合った人々の懐かしい想い出を私小説風にブログに記してみた

日々の便り
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2015/11/08

  • 雪に戯れて (8)

    今冬は、東北地方の山沿いが豪雪で交通が混乱している様だが、越後の平地は近年にない積雪の少ない珍しい正月である。けれども、俗に言う爆弾低気圧のせいか、奥羽山脈に連なる飯豊山や大日岳の麓にある診療所の町は、例年通り雪が深く寒風もつよい。診療所の老医師は、若き日に経験した軍隊生活の習慣と、老人特有の性癖から、早寝のため朝寝ているのに飽きて薄暗いうちにコッソリ起き出し、玄関前の除雪を黙々としていたら、近所の顔馴染みの老人達3人が夫々に白い息混じりに「ヤァー」と元気な声を弾ませて近寄って来て、子供達の通学路を踏み固めたあと、除雪の手を休めてタバコを燻らせながら雑談に花を咲かせていた。「近頃、紅白歌合戦も、歌っているのか騒いでいるのか、俺等にはチットも面白くなく、北島三郎が愚痴を零していたいた様に、日本人の心が失われ...雪に戯れて(8)

  • 雪に戯れて (7)

    大助は、ケーキを食べるのを止め無言で腕組みをして、奈緒の身の上話を神妙な顔をして聞いていたが、話が途切れたところで「奈緒ちゃん、判ったよ」「これまでに、そんなことを少しも顔にも出さずにいたので、まさかと思い驚いてしまったが、奈緒ちゃんの我慢強さの秘密が判り、女の子なのに凄い精神力の持ち主だなぁ。と、今更ながら感心してしまったよ」と呟くように言って慰めた。彼女が頬に流れる涙を拭いて語り終え、少し落ち着きを取り戻したところで、彼は「さっきも、一寸、話したけれども、どおりで僕のお袋が<お前が、奈緒ちゃんと仲良く交際してくれるなら母親として安心して見ていられるわ>と言っていたが・・」「勿論、ほかの女友達については、レット・カードだってヨッ!」と苦笑して話したあと、何時も姉に厳しく言われているためか、余計なこととは...雪に戯れて(7)

  • 雪に戯れて (6)

    大助は、姉達が出かけるとすぐに、奈緒に電話をして「これから遊びに行くよ」と一方的に告げるや、愛用の黒革ジャンバーを着てジーパンのポケットに手をれ、周囲に気配りしながら小走り気味に彼女の家に向かった。自宅から近い、池上線の久が原駅前にある、居酒屋の二階にある裏口の階段を上がって、彼女の部屋の入り口戸を軽くノックし、勝手に「ワァ~今晩は寒いっ!」と挨拶代わりに言って、暖められた部屋に入ると、X”ツリーを作っていた彼女は少し慌て気味に「アラッ!早いのネ。こんな時間にどうしたとゆうの。珠子さんと喧嘩でもしたの?」「それとも、遠くの青い瞳の恋人を思い出して、逢えない寂しさで気持ちが落ち着かないの?」と、突然訪ねて来た大助を見てビックリした顔で尋ねたので、彼は座るなり「ヤダナァ~奈緒ちゃんまで。人の噂で勝手に恋...雪に戯れて(6)

  • 雪に戯れて (5)

    美代子は、鏡の中の母の顔を見ていて、特別な意識もなく相似性を直感的に話したことが、キャサリンの心の奥深に存在する襞に触れてしまったのかしら。と、瞬間的に思い、今迄に見たこともない険しい表情の変化にビックリして、その場から何も言わず静かに自室に戻った。キャサリンは化粧を終えると、彼女の部屋に来て、鏡の中の顔つきとはうって変わって、優しい声で「これから、お父様の大学病院の研究会に一緒に出掛けてきますが、先程、口した様なことは、貴女のためにもならないので、軽はずみとは言え、人様の前では絶対に話してはいけませんョ」と話すと、彼女の両肩を軽く叩き、判ったわね。と、言う様に目を光らせて諭す様に言ったあと「慰労会の準備を貴女もお手伝いして、山上先生御夫妻やお爺様のご機嫌を損ねない様にして下さいネ」と告げると部屋を出て行...雪に戯れて(5)

  • 雪に戯れて (4)

    大助は、なかなか寝付かれないので、皆が寝ついたと思って忍び足で風呂場に行き、お湯を温めて身を沈め手足を思い切り伸ばし、窓から見える庭の松に掛かる冷気を放つ様な満月を気分よく眺めていたら、突然入り口戸から珠子が顔を覗かせて、迷惑そうな顔つきで「こんな時間に・・」「夕方入ったでしょうに。ガス代が無駄だゎ」と小声で言ったので、彼は慌てて咄嗟の思いつきで「姉ちゃんも一緒に入ればいいさ」「筋骨逞しい男性の肉体を、月明かりで拝めば、精神的にもリラックスしていいんじゃない」と駄洒落を飛ばしたら、彼女は「コノバカッ!頭がお可笑しくなったみたいだわネ」と戸を閉めながら怒った声で「明日、精神科に行ってきナッ!」「少し位勉強したからといって・・」と言い放って戸を勢いよく閉めてしまった。彼は姉の小言などいつものことと意に介せず、...雪に戯れて(4)

  • 雪に戯れて (3)

    大助は、田舎で過ごした夏休みに偶然知りあって交際をしていた、英国系の同じ歳の美代子から貰った手紙を、姉の珠子に巧みに散歩に誘いだされて、初冬の多摩川べりで渋々ながらも見せてしまった。その日の夕食後。姉から内容を聞いていたらしい母親の孝子が「母さんは、病院で一度しかお逢いしていないが、別に外国人だからとゆう訳ではないが、美代子さんは裕福なお医者さんの娘さんであることだし、これから珠子やお前の高校・大学への進学を考えると、情けないことだが母さん一人の稼ぎでは経済的にも楽でもなく、それに彼女と満足に交際するお小遣いも渡せないし、お前達二人が寂しい思いをしてもと思うと、心配にもなるわ」と、布巾をいじりながら静かに話すと、珠子も母親に同調するかの様に、話の内容が自分にも触れる微妙な問題だけに、俯き加減に目を伏せて遠...雪に戯れて(3)

  • 雪に戯れて (2)

    母子家庭の城家では、母親の孝子が看護師として勤めているので、朝晩の家事等は高校生の珠子が殆ど取り仕切っており、剽軽で明るい性格の大助は日頃小言を言われながらも、そんな姉の珠子には頭が上らず素直に従っている。珠子は、大助から渋々渡された美代子さんからの手紙を一通り読み終えると、彼女らしく「これからは、外国の人と、お友達になることも視野が開けて素晴らしい経験になるわネ」「夏休みに河で遊んでいる様子を見ていて、いずれこうなるかもと薄々想像していたわ」と言いながら手紙を封筒に丁寧にしまって彼に返してくれたが、大助にしてみれば予想に反し穏便に済んだことに、ホットした安堵感から気持ちもほぐれ、珠子の話しかけにも上の空で、彼女の立膝の黒いフレアスカートから品良く伸びている脛をチラッと見ていて、直感でひらめいた艶かしい印...雪に戯れて(2)

  • 雪に戯れて (1)

    庭の銀杏の葉が黄色に色ずんだ初冬の日曜日の昼前。大助は暖かい陽の差し込む部屋で期末試験の準備に追われていたところ、姉の珠子が廊下に続く物干場で洗濯物を干しながら機嫌よく独り言で「大ちゃん朝から勉強するなんて珍しいわネ。何時もその調子で勉強してくれればいいんだけれども・・」「折角、洗濯物を干したのに、大ちゃんの気紛れで、お天気が崩れなければよいが・・」と廊下の窓越しに空を見上げて心配そうにブツブツ言っていたが干し物を終わると、いきなり彼の部屋の襖戸をあけたので、彼は不機嫌そうな顔つきで「姉ちゃん勝手に部屋に入らないでくれよ」「僕、入院中に遅れた勉強をしているんだから」「試験の成績が落ちたら姉ちゃんのせいだぞ。後で、僕を怒らないでくれよ」と不機嫌そうに答えて教科書とノートを閉じてしまった。珠子は彼の傍らに座り...雪に戯れて(1)

  • 河のほとりで (50)

    大助が、初めて異性に思慕を抱いた美代子に対し、お見舞いに対する返礼の手紙を出してから数日後、母親等と夕食後の寛いだ和やかな雰囲気でお茶を飲みながら、とりとめもない雑談をしていたとき、姉の珠子が「ア~ッ!そうだわ、大ちゃんにラブレターが来ていたヮ」と言って、茶箪笥の引き出しから白い封書を取り出して笑いながら渡してくれた。彼が、どうせ遊び仲間のミツワ靴店のタマコちゃんからの悪戯の手紙かと思い、フーンとたいして気も無い返事をしながら、手紙の裏面を見ると美代子からであったので、彼も母親の前だけに少しきまり悪そうな顔をして、内心、なにもわざわざこんな時に出さなくてもと、姉も意地が悪いなぁ~。と、思いつつも言い訳がましく「美代ちゃん僕が出した手紙の返事を随分早く出してくれたもんだなぁ~」と、照れ隠しにわざと平然を装い...河のほとりで(50)

  • 河のほとりで (49)

    『美代子さん、この前は遠路お見舞いに来てくださいまして、大変有難う御座いました。貴女のことについては、夏休みに山や川で楽しく過ごしたことを、日頃、走馬灯の様に懐かしく想いだしていただけに、予想もしてなかった突然の訪れに、テレパシーと言うのか、或いは、君が日頃熱心に信仰しているマリア様の姿絵を思い浮かべて、心の中で秘かに祈れば夢や願望も叶うもんだなぁ。と思い、心が舞い上がるように嬉しかったです。東京も、最近は朝晩冷え込み、校庭や神社の境内等も落ち葉が重なり、晩秋を実感します。お陰様で全快では有りませんが、なんとか退院できて通学しております。貴女の街を取り囲む飯豊山脈の高い峰々も冠雪をいただいていることと思います。得意のスキーの季節も近ずいて来て、準備に余念が無いことでしょうね。僕も、スキーは好きですが、街場...河のほとりで(49)

  • 河のほとりで (48)

    大助が美代子の介助でやっと排尿を終わり、フーッと息を大きくはいて「あぁ~お陰様で、さっぱりしたわ。さっきは膀胱が破裂して、もう命の終わりかと思ったよ」「イヤナコトをさせて済まなかったネ」と、あっけらかんとした顔をして、お礼のつもりで照れ隠し気味に大袈裟に言うと、彼女は初めての体験からか興奮して、彼のオオジサマをジーット見つめて神経を一点に集中し、彼の言葉も耳に入らないのか答えることもなく、少し慌てて独り言を呟くように、小声で「アレッモウオワッタノ」「チョットマッテテサキノホウヲテエシュデフクカラ」と言って、テエシュペーパを取り出そうとすると、彼は落ち着いた声で「いいんだよ。男は2~3回サキッポを軽く振れば・・」と教えると、彼女は不思議そうな顔をして「アラソウナノオトコノヒトハズイブンケイザイテキニデキテイ...河のほとりで(48)

  • 河のほとりで (47)

    美代子は、心配と不安感で落ち着かない気持ちのまま電車を乗り継いで駅を降りると重い足取りで、大助の入院している都立病院の付近に差し掛かると、珠子が美代子の動揺している気持ちを感じとって、彼女の気持ちを静めるために喫茶店に案内した。皆がコーヒーを美味しそうに飲みながら互いに近況を笑顔でお喋りしていたが、彼女だけは出されたコップの冷や水を元気なさそうに一口飲んで黙りこくっていた。彼女は出発の朝、外科医である父親から「怪我をした状況から判断して、多分、捻挫だけと思うので、1週間位で腫れがひき歩行できると思うよ」と聞かされていたが、それでも心配でならなかった。キャサリンが、理恵子と珠子に対し家庭内の近況の雑談にまじえて、美代子の横顔を見つめながら「この子は、普段、運動部に所属しているためか、家でも私がハラハラするく...河のほとりで(47)

  • 河のほとりで (46)

    奥羽山脈に連なる飯豊山の麓にある、村の診療所である田崎家の夕食時に、美代子の姿が見えないので、老医師が晩酌の杯を置いて怪訝そうな顔で、キャサリンに対し「美代子はどうしたんだ」と、聞いたので、キャサリンは答えにくそうに渋々ながら「お爺様と主人にお話して、どうしても御承知して頂きたいたいことがあるの。と、顔をこわばらせて言張って、私を部屋にも入れてくれず、言うことも聞いてくれないんです」と、寂しそうな表情で話したあと顔を伏せて恐るおそる、美代子が怪我で入院中の大助君のお見舞いに上京したいと言い張っている。と,簡単に訳を話すと、晩酌をしていた老医師と養父の正雄の二人は、顔を見あわせて小首をかしげて断片的にキャサリンから事情を聞いていたが、美代子の我侭に困惑気味のキャサリンと、美代子の考えに深い溜め息を漏らした正...河のほとりで(46)

  • 河のほとりで (45)

    穏やかな秋日和が続く土曜日の昼下がり。美代子は、午前中の診療業務を終えた節子が職員の控え室に戻り昼食の終わるのを、廊下の片隅でもどかしそうに待ち構えていたが、節子が入口に顔をのぞかせるとサット素早く近ずき「小母さん、少しお話をしたいことがあるので、裏山に散歩に行きませんか」と誘い、二人は診療所の裏手に続く丘陵の公園に出かけた。彼女は、語ることもなく道すがら節子に甘えて腕を絡ませて寄り添う様にして、初秋の温もりのある陽ざしを心地よく受けて、白樺林の木漏れ日を縫うように通り過ぎると、村の愛好家が丹念に手入れし咲き揃ったコスモスの花弁を撫でながら、時々、節子の顔を覗き見して視線が合うとニコット笑みを浮かべ、小高い丘陵の坂道をススキの穂波がそよ風に揺れてなびくのを掻き分けながら、ゆっくりと歩いて公園に辿りついた。...河のほとりで(45)

  • 河のほとりで (44)

    大助は、成績優秀でクラス委員をしている隣席の和子が、何故自分に親切にしてくれ、交際を求めてくるのか理由が良く判らないので戸惑っていたが、均整のとれたスマートな容姿と、彼の好む顔立ちであるため、それなりに内心では喜んでいたが、奈緒や他の同級生達が深入りするなとゆう忠告が頭にこびり付いていて、不思議な思いがしてならなかった。彼が、普段、勉強中に接する限り彼女が自分に特別な感情を抱いているとは、これまでに感じたことは無く、クラスでも評判の美人で世話好きなところがあり好感を抱いていても、自分には遠い存在のオンナノコ位にしか思っていなかった。それだけに、彼女の希望で帰校途中神社境内での出来事で、心の中がモヤモヤとした気持ちで自宅に帰った。何時もは遅く帰る姉の珠子が先に帰宅していて、一生懸命に布団干しや洗濯をしており...河のほとりで(44)

  • 河のほとりで (43)

    校庭の銀杏も黄色さを増し始めた晴れた日は空気が澄み渡り、教室の窓から眺める浮雲の流れる青空は気持ちを明るくさせてくれる。大助は、額の傷も大部癒えていたが、朝、母親の孝子が「もう~少しで瘡蓋もとれるヮ」と言いながら念のためにと絆創膏を張り替えてくれた。3時限目の国語の時間に、担当の教師が会議のため30分早く授業を打ち切り、残りの時間は自習と告げて教室を出て行ったので、大助は教科書の間に挟んでおいた、美代子からの手紙を取り出して改めて読み直し、返事をどの様に書こうかと思案していたところ、隣席の和子が急に足先を強く踏みつけたので思わず「痛てぇ~」と声を上げたら、その隙に彼女は手紙を取り上げて服のポケットに仕舞い込んでしまった。彼は「和ちゃん返してくれよ」と、彼女の腕を掴んで言ったところ、和子は「わたしの身体に触...河のほとりで(43)

  • 河のほとりで (42)

    透き通るように澄んだ青空の晴れた日の午後。毎年恒例となっている町民・商店街合同の親睦リクレーションである野球大会が、小学校内のグラウンドで開催されことになった。今年は、事前の打ち合わせで老若男女混合でソフトボール試合をすることになり、秋の柔らかい日差しのもと、町内会長である80歳の呉服屋のご主人が実行委員長でアンパイアーも兼ね、ホームベースの前に4チームが色とりどりの服装で整列して、会長の挨拶を聞いた。いざ、開始前になると、会長は一同を見回したあと事前の想定になかった、小学生以下はゴロの投球とする旨突然ルールの変更を説明したあと、更に各町内の女子4名ずつは八百長を避けるために他の町内の女子と入れ替わることにする。と、突然言出だし、1丁目の女子の珠子・奈緒・タマコに保育園のママさんは、2丁目のチームの女子と...河のほとりで(42)

  • 河のほとりで (41)

    健太は、思いがけないハプニングから、珠子と昭二の出会いに失敗したことで気落ちして、大助を伴い顔見知りの居酒屋でママを相手に半ばヤケザケを飲んで雑談をしていた。健ちゃんの図太い声を聞きつけ、暖簾の隙間から顔を覗かせた、大助と同級生である奈緒が、カウンター席にソット近ずき大助の脇に座り、二人でジュースを呑みながら普段学校では話せない同級生達の噂話しを熱心に話込んでいた。奈緒は、同級生でクラス委員をしている葉山和子に遠慮して、普段、近くで話せない大助に対し、この時とばかり、胸に秘めていたクラス内の大助に対する噂話を喋り出し、大助も予想もしない自分に対する評価を聞いてビックリし心を曇らせた。奈緒が語るところによれば和子は、自分から進んで担任教師に申告して大助と席を隣合わせたことを非常に喜んでおり、彼の額の絆創...河のほとりで(41)

  • 河のほとりで (40)

    昭二の瞼の痙攣は、相変わらず眼瞼がパチクリと続いていた。なんとも奇怪な表情である。豪胆な健太も、昭ちゃんの一生を左右する重大な場面で、彼の眼瞼が連続してピクピクする異様な様子を見ているうちに、彼が気の毒になり、このまま痙攣が続いたらどうしようと流石に心配になってしまった。大助は、彼等のそんな騒ぎにも無感心に刺身定食を旨そうに食べていたが、珠子が余り心配するので横目で顔をチラット覗いたら幾分青ざめていたので、姉を連れ出す約束は果たしたが、このまま知らぬ振りをしているのもどうかと思い、昭ちゃんに対し「僕、前に本で読んだことがあるが、逆立ちして血流を良くすれば治ると書いてあったが・・」「ハタシテドウカナア~」と、確信なんて全くないが、咄嗟の思いつきで喋ったところ、健ちゃんも「そうかも知れんなぁ~」と自信なさそう...河のほとりで(40)

  • 河のほとりで (39)

    人の動きがけだるく感じる、日曜日の昼頃。残暑の暑い陽ざしの照映える舗道を、健太と昭二の二人は駅前のホテルに向かって歩いていた。健太は、白の半袖シャツに黒色のズボンを履いてサンダル履きのラフな格好をしていたが、昭二は、めったに着たことがないグレーの薄手の背広に涼しげな水玉模様のネクタイを締めて革靴を履き、健太と並んで愉快そうにお喋りしながら歩んでいた。健太は歩きながら昭二に対し得意満面な顔をして大助からの電話連絡で、やっとの思いで姉貴の珠子を誘い出すことに成功し、午後1時頃ホテルニ行くとの返事を貰ったことを教えたので、昭二は普段にもまして朗らかであった。二人は、ホテルの5階にある広い食堂の窓際に席を見つけて周囲を見渡したが、客の入りが半分位で、少し離れた席には外国人の女性3人が賑やかにお喋りして食事を楽しん...河のほとりで(39)

  • 河のほとりで (38)

    大助は、珠子と共にお世話になった健太郎と節子に駅迄送られて来てお別れの挨拶していると、少し離れたキャサリンの後ろに隠れている美代子を見つけ、彼女の傍に行き「美代ちゃん。とっても楽しい夏休みを過ごさせてくれ、僕、忘れられない思い出が沢山できて有難う」「盆踊りのスナップ写真が出来たら送ってくださいね」と言葉をかけたところ、キャサリンが「この子は朝から機嫌が悪く、お爺さんさんから、お友達を見送るとゆうのに朝から何をメソメソしているんだ意気地なしが。と、小言を言われていたんですょ」と彼女に代わって返事をしたが、彼女は母親の背中に顔を当てて涙ぐんでいた。これを見ていた姉の珠子が、あたりをはばからずに強い調子で「大ちゃん、美代子さんは寂しいのよ。お礼を言って慰めてあげなさい」と言ってくれたので、大助はこんなこと初めて...河のほとりで(38)

  • 河のほとりで (37)

    大助と美代子は、渦潮に巻き込まれるように踊りの輪に自然にはいっていった。最初は、老人会員の地元の人と里帰りしている中高年の人達が菅笠をかぶり浴衣姿で、古くから地元に伝わる民謡調の流れる様な静かな踊りで祭りの雰囲気を醸し出していた。暫くすると若い人達が輪に入ると自然と笛や太鼓の音頭も、中高生の奏でる吹奏楽にあわせて、テンポが少しずつ早くなり、踊りの輪も二重三重となり交互に行き交う形に変わり、それがやがて若者中心となって、最近流行のニューダンスを取り入れた軽快な踊りとなっていった。勿論、踊り好きな中高年者も若者の輪の外側を取り巻くように一緒になって踊りが盛あがっていった。これは、雪深いこの地では、お正月に帰省する若者が年々少なくなり、必然的に、旧お盆が季節的に集い易く、懐かしい顔を合わせる唯一の機会となり、盆...河のほとりで(37)

  • 河のほとりで (36)

    悠々と流れる河の流れに身を晒し、自然の恩恵を思う存分楽しんで帰宅した理恵子達は、帰ると順番に風呂場で髪や身体を洗い流したあと、珠子は裏庭に臨んだ洋間でシュミーズ姿で理恵子に髪の手入れをしてもらっていた。大助は疲れたのか、或いは彼女達の下着姿が眩しく見えたのか、庭に面する洋間のソフアーに横たわり美代子と水泳などの雑談をして戯れていた。理恵子は、珠子の髪をいじりながら「浴衣姿には、髪を束ねて少しアップにした方が涼しそうで良いと思うゎ」と言いながらヘヤバンドで束ねて、ついでに、うなじを剃ってあげた。それを見ていた美代子も、理恵子に頼んで長い髪を分けて三つ編みにして後頭部に巻いてもらい、理恵子の赤い花の簪をつけてもらったあと、大助に「ネェ~、涼しそうで可愛いでしょう」と、鏡を見ながら嬉しそうに見せていた。大助は「...河のほとりで(36)

  • 河のほとりで (35)

    よく晴れた日の昼下がり。大助は、健太郎が川海老を救う網の手入れをしている傍らで、みよう見真似で面白そうに手伝いをしているところに、美代子が母親のキャサリンと連れ立って大きな手提げ袋を持って訪ねてきた。美代子は大助を見つけると、キャサリンの手を振りほどいて彼のそばに行き「これ、お爺さんからのプレゼントだけど受けとってぇ」と言って、大助のために老医師の祖父が用意した盆踊りに着る法衣等が入った大きな袋を差し出して中を見せたあと、別の手提げ袋を少し開いて「これは、わたしの水着ョ」と言ってチョコット中身を見せて、これから二人で泳ぐのを楽しそうに肩をすぼめてクスッと笑っていた。キャサリンは、節子さんに対し挨拶のあと、診療所では話すことのない愚痴をこぼすように、田舎に暮らす様になってから、それまでの親子三人での新潟市内...河のほとりで(35)

  • 河のほとりで (34)

    夕食後。理恵子と珠子は、涼風にのって流れてくる祭囃子の笛や太鼓の音に心を誘われて、節子が用意しておいてくれた浴衣で身を装い、大助は持参の浴衣を着て、三人は小砂利混じりの土の道を下駄で歩く感触を懐かしく感じながら、盆踊りの会場準備をしている鎮守様の境内へと散歩に出かけた。勿論、愛犬のポチもお供していた。理恵子達の浴衣は、薄い青地に小さい赤や白の花柄模様の入った、節子がお気に入りの布地で作ったもので、自分も模様の色は違うが同じものを用意したと言っていた。大助については、背丈がどれ位伸びているか判らず、丈を計ってから珠子と相談して着地を見つけ、帰るまでに用意すると言っていたが、彼は浴衣に余り興味がないのか、持参した浴衣に袖を通し「小母さん、僕、これで結構ですよ」「昨年、小母さんが作ってくれた、この豆絞りの浴衣が...河のほとりで(34)

  • 河のほとりで (33)

    大助が、思わぬ歓迎を受けて愉快に遊んだあと、名残り惜しそうに美代子と別れて節子小母さんと帰宅したあと、美代子の家庭では夕食のテーブルを囲んで、老医師と長男の大学医師の正雄が晩酌をしていた。老医師が正雄に諭すように「お前にも日本人の血が半分流れておるが、キャサリンは仕方ないとしても、大助君にお土産を渡すのを失礼して、ワシは、恥ずかしい思いをしたよ」「もっと、土地の慣習を勉強してくれなければ、こんな田舎では評判が悪くなるよ」と渋い顔をして話すと、キャサリンはひたすら詫びていたが、正雄は「まぁまぁ、そのうちに自然と覚えるよ」とキャサリンをかばい老医師との仲を取り持っていた。美代子は、自分が母親に無理を言って強引に大助君を連れてきたことが、全ての原因であることに気ずき「お爺ちゃん、そんなに、お母さんを攻めないでぇ...河のほとりで(33)

  • 河のほとりで (32)

    美代子は、大助の話に束の間でも心が救われたのか、彼の指をいじりながら悪戯っぽく「わたし、この指の何番目かなぁ~」と、彼の表情をチラット見ながら呟やいて聞いた。大助は、彼女の真意を図りかねて黙っていたら、彼女は彼の小指を強く引っ張りながら「ネェ~大助君」「君、同級生か先輩の中に、心をときめかせるほどの好きなオンナノコがいるの?」「大助君なら、いても不思議ではないと思うけれども、わたし、時々、フッと気になることがあるので、教えてくれない?」と、大助は予期しないことを突然聞かれて返事に困ってしまい、咄嗟の思いつきで笑いながら「同級生や先輩にはいないよ」「しいて言えば、遊び相手の近所に住む小学校4年生のオンナノコかな」と、靴屋のタマコちゃんのことを思い出して答えると、彼女は「そのオンナノコ、大助君の恋人なの?」「...河のほとりで(32)

  • 河のほとりで (31)

    美代子は、大助を母屋の中央にある2階の十二畳の広い座敷に案内すると、広いテーブルの上に大きい地図を広げて、お菓子を食べながら、現在地と大助の住む東京の地図に赤ペンで印しを書き込み、互いに近隣の模様を楽しそうにお喋りしてていた。大助は、煌びやかな大きい仏壇と、床の間に飾ってある鎧兜や日本刀、西郷隆盛の銘のある掛け軸、それに、部屋の真ん中に敷かれた豪華な緑色の絨毯や唐草模様が漆塗りされた立派なテーブルに気を奪われて、田舎の旧家の素晴らしさに美代子の話も半ばうわの空で相手していた。美代子は、そんな大助の気持ちにお構いなく、彼の隣に寄り添う様に足を崩して座り直すと、7月の県下中学校の水泳大会で3位に入賞したことを話し始めたので、彼は彼女の差し出した腕を見て「道理で、良く陽に焼けているわ」と、彼女の腕をソット擦って...河のほとりで(31)

  • 河のほとりで (30)

    中学2年生の美代子の家庭は、祖父が軍医上がりの、村に古くからある診療所である。彼女の父正雄は、父が南の外地インドネシアで終戦を迎えたとき、その外科技術をイギリスの軍医に見込まれてイギリスに渡り、ロンドン大学病院で外科学を助手として研修や私生活を助けてくれた、イギリスの婦人グレンと結婚して生まれた一人息子だが、戦後、一家で帰国して日本で医学を学び、現在、大学病院に外科医として勤務している。一方、母親のキャサリンは、診療所の老医師の妻グレンの姪で、イギリスの大学で薬学を勉強中に恋人が空軍士官としてイラクに派遣され戦死したが、その時、すでに恋人の胤を宿していて悲嘆にくれていたのを、老医師が妻グレン姉妹と相談して、生活環境を変えることが精神的に大事であると考え、日本に帰国する際同伴して来て、やがて生まれる子供は自...河のほとりで(30)

  • 河のほとりで (29)

    例年になく全国的に酷暑が続く夏休み。昨晩から旅行の準備に余念のなかった大助は、翌朝、母親の孝子や姉の珠子から出発に当たって、旅先での注意を細々と言い聞かされ、何時ものこととはいえ、ここが我慢のしどころと馬の耳に念仏で心は旅先に思いをはせて、正座した足の痺れを我慢しながらも俯いて神妙に聞き、その都度、頭をコクリと垂れて頷いて返事をしていた。小言にも似た話が終わるやヤレヤレといった表情で立ち上がると、少し沈んだ思いでリュックを背負い玄関を出た途端タマコちゃんが見送りに来ていて、大助の表情を見て「ゲンキガナイミタイネムリシテユクコトナイワ」と彼女も冴えない顔つきで言ったので、彼は「そうかいま母さんと姉貴に文句を言われ気分が重いわ。お前しか心配してくれる人がいなくてチョット寂しいよ」と答えバイバイしながら、理恵子...河のほとりで(29)

  • 河のほとりで (28)

    大助が、部活の野球の練習をしているとき、担任の先生が家庭訪問に訪れ、母親が勤務で留守のため珠子が代わって懇談した。担任の教師は、彼はクラスでも男女や学年の区別なく、柔らかい人当たりから人気者で、生徒間のコミニュケーションも上手くとり、部活も熱心で特に指摘することはないが、来年は高校入試もあり、もう少し英語と数学の予習をする様にと言って帰られた。その日の夕方、大助は野球の練習に疲れて帰って来ると、シャワーで汗を流そうと風呂場に一目算に勢い良く飛び込んだところ、珠子が「コラッ!良く見て入って来いッ!」と湯船から立ち上がり、いきなり怒鳴り散らして桶で湯をかけたので、彼はビックリして浴室を飛び出たが、風呂から上がって来た珠子が「脱衣場を見れば判るでショッ!」「コノアワテモノガ」と言いながら、いきなり頭に拳骨を一発...河のほとりで(28)

  • 河のほとりで (27)

    珠子は、月の光が薄明るく照らす理恵子の部屋で、誰にも話したこともない自分の性的経験とその苦悩を説明したが、それは、理恵子を充分に説得するものであった。珠子の説明によれば、断片的ではあるが彼女は、高校3年に進級した春。以前から、なんとなく温和で勉強のできる同級生の男子に親近感を覚えて自然とほとばしる感情で交際していた。或る秋の日の午後。帰校時に彼の自宅に誘われて遊びに行ったとき、無理やりに求められて身体を許してしまったが、勿論、そのときは、恋とか愛とかでなく、以前の親密な友情と言うのかしら、強いて言へば互いにその場の雰囲気に飲み込まれ初体験をしたわ。その後も、たまに誘われれば彼の家で興味半分のsexに戯れていたが、私達の場合、卒業すれば家庭環境から卒業後は別れることになるので、深い恋愛感情も芽生えず、ただ、...河のほとりで(27)

  • 河のほとりで (26)

    理恵子は、風呂場から出ると織田君の視線を避けるように隣に腰掛けると、彼は呑んでいた缶ビールを差し出して「リーも、一口飲むかい」と言ったが、彼女は小声で「いらないゎ」と言って立ち上がり、持参してきた風呂敷包みからお弁当をテーブルに広げると、彼は「あぁ~旨そうだ!お腹も空いたね」「一緒に食べよう~ょ」と言いながら、海苔巻きをほおばり、彼女に「こんな暑い日は、食べて体力をつけないといけないよ」と言ってくれたが、理恵子は食欲がなく、缶コーヒーを開けて飲んだ。彼は食事しながら彼女の顔を見ることもなく、途切れ途切れに「切ない思いをさせてゴメンナ」「身体は、大丈夫か」「リーのことは、一生、面倒を見るから心配するなよ」「お互いに自分に忠実に生きるためにもね」等と言ってくれたが、理恵子は細い声で「モウソノオハナシハヤメマシ...河のほとりで(26)

  • 河のほとりで (25)

    日曜日の朝。今日も快晴で朝から陽ざしが照り映えて暑い一日になる様だ。理恵子は、珠子の手伝いを得て海苔巻きや稲荷寿司と焼肉にレタスとウインナーや卵焼きなどの惣菜を作ったあと、掃除用のスラックスやタオル等衣類を袋に入れると、水色のワンピースに着替え終わると、護衛役の大助を伴い三人で等々力に向かった。駅前商店街で彼の下着や洗剤などを買い、彼等は織田君が書いてくれた地図を頼りに歩んだが、成る程、学生や勤め人など単身者専用の似たような小さいワンルームの賃貸住宅が並んでおり、理恵子は探すのに大変だゎ。と、珠子と話ながら歩いていると、大助が「姉ちゃん達は、僕から離れてついてこいよ」「僕、先に行って見つけたら手招きするから」と言って先に行き、順番に表札を見ながら歩いていたが見つからず、見落としたかと思い、今度はゆっくりと...河のほとりで(25)

  • 河のほとりで (24)

    梅雨明けの夏の陽光が容赦なく照りつける土曜日の昼下がり。理恵子は、織田君の家に明日伺えるとゆう嬉しさから心が弾み、久し振りに時々通う近くのテニスクラブに出掛け様としたところ、珠子も「わたしも一緒に連れて行って」と言われ、二人でラケットを持って出かけた。珠子は、常に運動をしている上に、運動神経も優れており、二人で渡り合ったが、彼女は長いことしていても息が上がらなかったが、理恵子は運動不足のせいか先にくたびれてしまい、2時間ほどして帰宅した。汗を流したあとは気分も爽快で、廊下の椅子に腰掛けて雑談を交わしていたところに、大助が野球の練習から疲れた素振りで帰ってきて、二人の傍に腰掛けて黙って二人の話を聞いていたが、理恵子が「列車の混雑しない10日ころ、田舎に帰る予定にしているんだけど」と言い出したら、大助は途端に...河のほとりで(24)

  • 十五夜の名月に思いをよせて

    戦後、焼野原で小学校を終えて以後、食糧難・就職難・肺結核・など過酷な試練をなんとか潜り抜け、晩年に至や大腸癌に遭遇し医師に余命3ケ月と宣告されたが奇跡的にアノマリーで生き延びてきて、幸か不幸か判然としないまま86歳を迎えた。中秋の先日の宵、越後平野は珍しく晴れて、神々しい名月を”これが人生最後の十五夜か”と思いつつ手をあわせた。名月を拝してこんなに神妙な気持ちになったのも生まれて以来初めてだ。壮年時代アポロのニュウスを見て感動したが、その時は科学的な感動だけで、今回のように純粋に宗教的な感動に揺さぶられたのは、正に老いてゆく者の自然な宿命のなせる業と思った。「歴史は巡る」と言われるが、最近の時局ニュウスを新聞・TVで視聴するに①アメリカの保護主義優先②韓国の孤立的な民族主義③東欧の極右主義の台頭④中東の宗...十五夜の名月に思いをよせて

  • 河のほとりで (23)

    理恵子は、帰宅後シャワーを浴びたあと浴衣を着て居間に入ると、病院から帰宅していた小母の孝子と珠子や大助が、彼女を待ちかねていたかの様に、大助がアイスコーヒーを飲みながらニコヤカナ笑顔で「ドライブは楽しかった?。何処まで行ったの」と聞いたので「二子多摩川よ。都会に住んでいることを忘れさせてくれるほど景色の眺めがよく周辺も静かで、川の流れもゆったりとしていて、川原の芝生も柔らかく、大ちゃんのお陰で、とっても素晴い一日を過ごさせていただき、言葉で表現できないほど、気分が晴々としたドライブだったヮ」「こんなに楽しい日が過ごせるなら、今まで思い悩んでいたことが、何んだったのかと不思議なくらいだヮ」と、半ば興奮気味に話すと、孝子小母さんが「わたしも、遠い昔、看護師になるなめ、これからどうなるのかと不安な気持ちで、わた...河のほとりで(23)

  • 河のほとりで (22)

    理恵子は、普段は胸に留めていた織田君に対する不満や愚痴を言ったあと、これだけは聞いてはいけないと常に考えていたことも、織田君に話をしているうちに、寂寞感と現在と将来に対する不安感がない交ぜになって、どうしても聞いておきたい一念にかられ、心の中ではその様なことが無いことを祈りつつも、彼の顔を見ずに震えるように小声で、思いきって「あなた、女の人の肌に触れたことがあるの?」「若し、あったとしても、この体格ですもの、私、あなたを攻めないヮ」と、彼の腕に両手でしがみつく様にして身を寄せて聞いてしまった。織田君は、黙って時折遠くを見ながら聞いていたが、彼女の話が終わったころを見計らって、黒く輝いた瞳で彼女の顔を見つめ、今まで見たこともない厳しい顔をして、ゆっくりと諭す様に「リーも、僕の現在の境遇を知っているだろう」「...河のほとりで(22)

  • 河のほとりで (21)

    織田君は、玄関先で珠子さんが用意した冷えた緑茶を美味しそうに口に含むと、一息おいて近況を簡単に話したあと、ころあいをみて「ヨシッ行くか」と言って立ち上がり、玄関前で黒塗りの大型オートバイにまたがると、理恵子がリュックを背負い出てきて、大助から足の乗せ場や掴まるところを教えられて後部に乗車したが、彼が理恵子の服装等を見て、いかにもドライブに似合う姿なのを意外に思い「ヘルメットやJパン姿が案外似合うなぁ~」「何時、準備したんだ」と感心した様に言うので、彼女は「これ全部、大助君に準備して貰ったのョ」と答えると、彼は大助にお礼を言って、珠子達に見送られて爆音を残して出発した。街中を走行中は、スピードも上げずに慣れた運転で家並みを過ぎて行き、彼女も初めて乗る割りに怖いとも思わなかったが、程なくして多摩堤通りに出ると...河のほとりで(21)

  • 河のほとりで (20)

    織田君が迎えに来ると約束の日曜日の朝は、晴れていて日中はかなり暑くなりそうだが、風は穏やかでドライブには快適な日和であり、理恵子は胸をときめかせて待っていた。なにしろ上京後初めてのデートあり、昨夜から彼の近況についての話題や愚痴等取り留めもないことを、あれこれ考えて満足に眠れなかった。その日の朝、大助は居間でゴロンと寝ころんで雑誌を見ていたら、姉の珠子が険しい顔つきでジレッタそうな声で「大助ッ!理恵子さんの支度を一体どうしてあげれば良いの。昨日あれほど頼んでいおいたのに・・」と、理恵子のドライブ用の服装について催促されるや、彼は読んでいた雑誌を放り投げて、慌て「コワ~イ姉ちゃんのためならエ~ットコラッ」と、皮肉混じりに答えて、自転車に乗りリュックサックを肩にかけて肉屋の健ちゃんの店に一目散に向かった。健ち...河のほとりで(20)

  • 河のほとりで (19)

    夏休み。小雨上がりの昼さがり。涼風が心地よく流れる庭の芝生で、大助は廊下にラジオのカセットを用意して「佐渡おけさ」のCDを流して、タマコちゃんを相手に盆踊りの練習をしていた。彼は、素足になり手拭を頬かぶりして鼻の前で結び浴衣の尻を帯に挟んで、まるでドジョウ掬いの踊りのように曲に合わせて、思いつきのまま自己流の時々片足をケンケンする様に上げて、二・三歩おきにタマコちゃんと両手を合わせ、その際、背丈の低いタマコちゃんに合わせるように腰を前かがみにすると、その滑稽な姿にタマコちゃんが面白がってキャァ~キャァ~と笑い声を上げて、真似をしながら嬉しそうに相手をし、二人ともご機嫌で遊んでいた。彼にしてみれば、昨年の夏休みに、理恵子の里に遊びに行ったとき、丁度、村の盆踊りの最中で、促されて踊りの輪に入れて貰ったが、他の...河のほとりで(19)

  • 河のほとりで (18)

    地方より一月早い都会のお盆も近ずいて来た、残暑の夕食後。近所の鎮守様の祭礼に夕涼みかたがた、孝子小母さんに誘われて理恵子と珠子が連れ立って、孝子が仕立てた揃いの水玉模様の浴衣姿で桐下駄を履いて団扇を手にお詣りに出かけたが、大助は気がむかないのか浴衣を着るのを嫌がり半袖のYシャツに運動ズボンの普段着のまま三人の後ろにノコノコと足取りも重そうに付いて行った。大助は、後ろから見た姉達の浴衣姿も満更でないと、その漂う艶気に心を奪われ、彼女達の浴衣の下からチラチラと覗く下駄履きのかかとの清潔感に、時々、目を移しながら歩んで行くと、参道脇に露天を出していた八百屋の昭ちゃんと肉屋の健ちゃんが口を揃えて「大助ッ!お宮詣りか?」「普段、遊んでいるばかりいるので、来年の高校入試は、幾らカミサマでもシャジを投げてしまうんでない...河のほとりで(18)

  • 河のほとりで (17)

    理恵子達三人が、上京後の近況を語り合ったあと、奈津子が「アァ~ラ、色々お話しをしていたらお腹が空いてきたヮ」「近所に、こじんまりしていて綺麗なお店があるので、案内しますので行かない?」と言い出すと、江梨子は「わたし、洋食よりありきたりの和食の方がいいヮ」と返事したが、その理由について、彼女は近い将来一緒になる小島君のために、少しでも喜んでもらえる料理のことを考えると、本当は時間を都合して料理学校に通えばよいのだが、会社の同僚の奥さんから、自分達は共稼ぎなので時間と経費を節約して、毎日会社の社食に出されるお昼のお惣菜を記録しておいて参考にしているが、お陰で何とか彼にも満足して貰える献立を覚えた。貴女も、日々の日常生活の中で切角の機会を利用されてはどうかしら?。結講、学校では得られ難い貴重な勉強になっている。...河のほとりで(17)

  • 河のほとりで (16)

    江梨子から、二人姉妹の長女として家を継ぐ宿命に置かれた苦悩を聞かされ、思わぬ難問を打ち明けられた奈津子は「そうなの~、資産家の子として経済的に恵まれていると客観的には羨ましく思えたが、世の中金銭だけでは解決出来ないこともあるのねェ~。貴女の悩みはよく判ったヮ」と、彼女の立場に同情したあと、如何にも奈津子らしく、瞬時に彼女の遭遇している現実の苦悩を察して「貴女には、いま時間が最も大切ョ」。”時が解決する”と言う諺があるが、いまは精一杯、青春を楽しむことョ」と励ましたが、江梨子は少し正直に話して迷惑をかけてしまったかと思いながらも、この際、先行きのことも話して今迄通り友達関係を続けたい思いから、家庭の事情について更に詳しく話しを続けた。母親や友子は「妊娠したら、さっさと会社を退職して帰って来なさい。それが上京...河のほとりで(16)

  • 河のほとりで (15)

    奈津子は、二人が上京以来3ヶ月ぶりに訪ねて来たことを待ちかねていた様に、理恵子のことは江梨子に任せて、台所でアイスコーヒーやら水菓子を用意して部屋に戻ると「田舎と違い、コンクリートの街は蒸し暑つさが事の外感じられるわネ」「こんな日は田舎が恋しくなるゎ」と言ってエアコンをを弱めにつけて座ると「貴女達、お土産なんて無理すること無かったのに・・」と礼を言いつつも、早速、「戴きましょうヨ」と包装紙を解き「アラッ!果物もいいわネ」と言って、遠慮気味に少し堅くなっている二人の気持ちをやわらげてから、二人に対しまるで姉さんらしい語り口で「皆が、病気もせずに逢えたことが、何よりの幸せネ。慣れない土地での緊張感やストレスは、それぞれにあったでしょうが・・」と、同級生時代からのリーダー格らしく、頭脳明晰なところもあるが、二人...河のほとりで(15)

  • 河のほとりで (14)

    何時もは賑やかに食卓を囲む城家の夕食後。大助は何故かおとなしく疲れた様子で横たわってTVでサッカーを夢中で見ていると、電話の呼び出しに出た珠子が「大ちゃん靴屋の彼女から電話だよ」「なんだか声が、元気ないみたいだったゎ」と告げたので、大助は「姉ちゃん彼女だなんて人聞きの悪い言いかたは止めてくれよ。勝手に遊びに来る友達でしかないんだから・・」と、少し不満げに返事をして億劫そうに立ち上がり電話に出ると、タマコがいきなり興奮した声で「大ちゃんこのお手紙ナニヨッ!意味がゼーンゼンワカラナイヮ」「でも、お爺ちゃんに見せたら、大助も英語で手紙を書く様になったか、たいしたもんだ。と、感心していたゎ」と言った後、彼女は手紙を巡り家庭内の様子について、お爺さんに意味を聞いたら、全然、ワカラン。と言って、そばにいたお祖母ちゃん...河のほとりで(14)

  • 河のほとりで (13)

    霧雨のけぶる土曜日の昼下がり。帰校後、大助は中間試験を何とか終わり、ヤレヤレの思いで廊下で一人昼食後の牛乳を飲んでいると、タマコが訪ねて来た。大助の様子を見ると「大ちゃん、寂びしそうな、お昼ご飯ネェ~」と言いながら後片付けをしてくれて、椅子に座るや「わたしの、お手紙読んでくれた?」と、早速、感想を求めて来たので、大助は「ウ~ン夕べ読んだよ」と、物憂げに答えると、タマちゃんは「なによ、そんな元気のない返事をして・・」「試験が思う様にいかなかったの?」「それとも、何か、大ちゃんの気にいらぬことでもあったの?」と、少し気落ちした顔つきで聞き返すので、大助は彼女に無理に理恵子さんの靴の修理を頼んだ手前、これはシマッタと思い「僕、試験勉強の合間に読んだが、タマちゃんらしい可愛い文章だったよ」「返事を書かなければ、タ...河のほとりで(13)

  • 河のほとりで (12)

    初夏の爽やかな風と陽ざしが、柔らかい濃緑の芝生に流れて照り映えている夕方。大助は、鉢巻をして鞄を枕に横たわり、中間試験に備えて英語の教科書を開いて復習していたところへ、庭先の垣根を音も無く開いて、タマコちゃんが「大ちゃん、いたぁ~」と声をかけながら、涼しげな水色のミニスカート姿で、手には愛用の布袋と漫画本と、それに靴箱を入れたビニール袋を提げてやって来た。彼女は、大ちゃんの脇に足を横に崩して座ると、彼の読んでいる教科書を覗き込んで「アラッ今日は本当の英語の本なのネ」「今度はお姉ちゃんに見られても叱られないわネ。よかった~」と言いながら、早速、漫画本に挟んだ白い封筒を出して大助の顔の上に差出し、恥ずかしそうに俯き加減に「ハイッ!約束通りお手紙を書いてきたヮ」「夕べ遅くまでかかって、お母さんに見つからないよう...河のほとりで(12)

  • 河のほとりで (11)

    珠子は、腹這いになり興味深々と雑誌を読んでいた大助に忍び足で近寄ると「大ちゃん、何の本を読んでいるの?」と優しく聞くと、大助は慌てて雑誌を腹の下に隠して顔を上げもせず「姉ちゃん、勉強の邪魔をしないでくれよ」と不機嫌に返事をするばかりで、珠子の求めも無視して、腹の下に隠した雑誌を出そうとせず必死に隠し、何度尋ねてもなしのつぶてで嫌がるので、彼女は益々不審感を抱き業を煮やして実力行使で、大助の背中にスカート姿のまま馬乗りになり何とか雑誌を取りだそうとしたが、大助の頑強な抵抗で取りだせず、二人は遂に取組合になり、一度は大助の背中の反動で足を広げたまま仰向けにかえされたが、再度、本気になって襲いかかり、やっとの思いで雑誌を取り上げて見れば、若い女性の水着姿のグラビア集で「大助!何が勉強だね。こんな下らない雑誌ばか...河のほとりで(11)

  • 河のほとりで (10)

    初夏の香りを含んだ風が、庭の梢から柔らかく流れてきて心地よく肌に触れる土曜日の午後。二階の自室で、理恵子と珠子は二人して髪型の雑誌のグラビヤ写真を見ながら互いの顔と似合う髪型の話を楽しげに語りあっていた。理恵子は「珠子さんは、わたしと同じように面長なので、やはり長い髪を自然に流しておいた方が似合うと思うわ」「丸型の人は、思いきりカットして軽くカールした方が可愛いかもネ」と、鏡に向かいしきりに髪をいじり試行していた。話の途中、理恵子が今度の休日に一緒に上京した人達と逢うことになっているんだが、大事にしてきたパンプスの底が傷んでしまったので、これから近所のミツワ靴店に行って来たいと言い出したので、珠子は「理恵ちゃん、あすこのお店は駄目ヨッ」と反対した。それと言うのも、以前、彼女が修理に行った際、職人のお爺さん...河のほとりで(10)

  • 河のほとりで (9)

    大助は、肉屋を気分良く出ると、健ちゃんのサービスが嬉しかったとみえて、理恵子に笑みを漏らしながら「次は何を買うの?」と聞くと、理恵子が「お野菜を買いたいわ」と答えると、夕刻時で買い物客で混雑する商店街の人混みを、何時の間にか理恵子の左手を握って引く様にして空いている左手で巧みに対面して来る人を掻き分ける様にして、八百屋さんの前まで来ると、町野球のコーチをしている店員の昭ちゃんが「オ~イッ大助!俺の店には寄らないのか?」と恥ずかしくなる様な大声を掛けてきたので、大助は「今日は、僕にとっては大事なお客さんを案内しているので、特別にサービスをしてくれるかい?」「ダメなら、よその親切な店に行くよ」と、笑いながらも冗談交じりに返事をすると、昭ちゃんは「いま、健ちゃんの店に寄っただろう、俺、ちゃんと見ていたぞ。何故、...河のほとりで(9)

  • 河のほとりで (8)

    理恵子は、上京してから早くも1ヶ月を過ぎ、美容学校の授業や下宿先の城家の生活にも慣れて来た。或る晴れた日の夕方。2階の窓から茜色に彩られた夕焼け空やビルの街並みを眺めていると、やはり母親の節子の言う通りに、自宅から通学できる新潟の学校に進むべきであったかと、ホームシックにかられて考えることがある。一緒に上京した奈津子や江梨子に電話すると、皆が着々と自分の考えていた道を確実に進んでいることを知るにつけ、彼女等のたくましさがすごく羨ましく思えた。それに反し、自分は一人ぼっちで、寂しさから思わず涙をこぼすこともあり、上京すれば高校時代の先輩で恋心を抱く織田君にも時々逢えると、勝手に思っていたことが甘い考えであったと悔やまれた。今日も学校から帰り、二階の自室で沈んだ気分でぼんやりと街並みを見ていたとき、孝子小母さ...河のほとりで(8)

  • 河のほとりで (7)

    江梨子達が、なんとか採用の返事を貰い、気分が楽になって会社を立ち去ろうとしたとき、後を追い駆けてきた案内係の阿部さんが「いやぁ~おめでとう御座います。入社が決って良かったですね」と笑いながら声をかけてきて、二人の肩をポンと叩き、さも嬉しそうに「今、専務からあなた方をホテルに送り、夕食の接待を準備しなさい。と、指示を受けたので僕の咄嗟の判断で、昨晩の会話の内容から、どうやら和食が好きな様ですよ。と進言したら、専務はそれなら駅前の寿司屋に案内しなさいと言はれ、専務も仕事を済ませてすぐ伺うので、それまで君がお相手をしていなさい」と、、会社の考えと併せて接待の趣旨を正直に説明したあと「これから御案内いたします」と言ったので、江梨子は堅苦しい雰囲気を好まない小林君の内心を慮って遠慮したが、阿部さんの再三にわたる丁寧...河のほとりで(7)

  • 河のほとりで (6)

    入社面接試験の際、江梨子は母親の強い願望通り、近い将来に二人して実家に近い支社に転勤して、小島君との生活を実現しようとの思いから、社長が叔父であることを幸いに自然な思いで、自分としては最大の知恵と勇気を絞って周囲の役員等にお構いなしに、何時もの強い自己顕示性を発揮して少し誇大であるが、聞く者としてはそれなりに納得してもらえる答弁をしたところ、社長にしてみれば予期もしない答えが返って来て、試験会場が一瞬凍りついたような静寂な雰囲気に包また。社長も意外な答えにたじろぎ、キョトンした目で彼女を見つめて返答に窮して、とまどったが、そこは社会の底辺から叩き上げた持ち前の気骨の強さから、気を取り戻すと、やをら腕組みをといて立ち上がるり、眼光鋭く険しい顔で、江梨子に対し「今日は、採用の面接だよ」「親族会議とは違うんだ。...河のほとりで(6)

  • 河のほとりで (5)

    江梨子と小島君は、不安な気持ちで臨んだ就職試験の前夜、思いもよらぬ会社の接待を受けたが、案内役の阿部さんの正直で優しい話振りに引きずりこまれて、それまで抱いていた不安と緊張感も薄れて気持ちが楽になり、また、夜景が眺められる豪華なレストランでの雰囲気にも次第に馴染んで思う存分夕食をすませた。部屋に戻った江梨子は、ワインの飲みすぎか「暑いわ~、着替えるから一寸の間、外を見ていてね」と小島君に言って、彼が窓際で夜景を見ていると、彼女はクローゼットを開いて鏡を覗きながら、さっさと着替えをはじめたが、少し間を置いて、小島君が「もういいかぁ~」と言いながら振り向くと、彼女は「まぁ~だだよぅ~」と言いながら着替え中であったが、彼はチョット振り向いた際、一瞬、見てはいけないものを見た驚きで、思わず「アッ!ゴメ~ン」と言っ...河のほとりで(5)

  • 河のほとりで (4)

    理恵子達同級生三人は、進学や就職のため連れ立って一緒に上京した。江梨子は東京駅で列車から降りた途端一瞬ドキッとし足がすくんた。広いホームの人混みの中ほどで、マイクで自分の名前を連呼しながら、”歓迎”の大文字の下に”二人の名前”を並べて墨書した、紙のプラカードを高だかと掲げて目をキョロキョロして辺りを見回している社員を見つけ、予想もしていなかったことにビックリするやら恥ずかしやらで、理恵子や奈津子の手前顔を曇らせてしまった。江梨子は、列車から降りると内心怒りを覚え不機嫌な顔をして、迎えの若い社員と簡単な挨拶を交わしていたが、小島君は最初ひとごと思ってボヤットしていたが、そのうちに目をこらしてよく見ると間違いなく”達夫”と書かれているので、唖然として言葉も出なかった。彼女達は生活に慣れたら日にちを見計らって後...河のほとりで(4)

  • 河のほとりで (3)

    理恵子は、江梨子達と手を握りあって再会を約束して別れたあと、用心深く周囲に気配りして駅の正面口を出ると、毎年夏休みに家族揃って飯豊山の麓にある自宅に遊びに来ていて、すっかり顔馴染みになり気心の通じ合った城珠子と大助が出迎えに来ていたので少し不安な気持ちが和らいだ。彼等は、母親の節子と同郷の城孝子の子供達で、都会生活に不安を覚える理恵子にとって、今後いろいろとお世話になる下宿先の姉と弟である。明るく闊達な中学生の大助が、姉の制止を気にすることもなく理恵子に近よってきて愛想よく笑いながら「天気も良いし、宮城付近を散歩して行きましょうよ」「きっと、昨夜の雨に洗われて松の緑が綺麗だと思うので・・」と、普段は何かと小言を言う姉の顔を横目でチラッと見ながら素早く理恵子の大きなバックを持ってやると、理恵子と珠子を誘って...河のほとりで(3)

  • 河のほとりで

    "光陰矢の如し"と言われているが、平穏な地方の生活では、山並みの彩りが季節の変化を知らせてくれる。人々は静かに流れ行く時の中で、先達から受けずいた生活習慣に従い歳を重ねてゆく。山上理恵子は、実母の秋子を癌で亡くし、実母が生前親しく交際し信頼していた山上健太郎・節子夫妻の養女となり育てられていた。そんな理恵子は、3年間親しく交際していた同級生の原奈津子や小林江梨子と一緒に、泣き笑いの中にも数知れぬ思い出を残し、先輩の織田君に対し心に芽生えた蒼い恋心を胸に秘めて、高校生活を無事に卒業した。開業医院の長女である奈津子は、親も認めている先輩で医学生の彼氏のあとを追って東京の大学へ進学するが、理恵子は両親の勧めで東京の美容専門学校へ、江梨子は親戚の経営する会社に就職へと、夫々に未来に希望を抱いて進むことになった。彼...河のほとりで

  • 美しき暦(50)

    理恵子は、朝食後、節子さんが丁寧に用意しておいてくれた制服で装い、前に書いて白い封筒に入れておいた織田君宛ての手紙と、奈津子さんと一緒に求めた、岡本孝子作詞作曲の”夢をあきらめなめないで”のCDを、紫色の小さい風呂敷に包んて学校に向かった。節子さんが見送りに出た玄関先で小さい風呂敷包みをチラツトとみて「理恵ちゃん、それなぁ~に」と聞いたが、笑い顔を作り説明することもしなかった。登校の道すがら、織田君と逢うのは、この日が最後になるかも知れないと思うと、寂しい気持ちにもなったが、好天のためか、それほど気落ちすることもなく登校できた。教室に入ると、皆が、進級と春休みを楽しみにして賑やかに、親しい友達とお喋りしていて騒々しいほどで、若い男女の熱気が満ち溢れていたが、理恵子達三人は、静かな廊下に出て式終了後の予定に...美しき暦(50)

  • 美しき暦(49)

    関東からは、花便りが聞こえて来るとゆうのに、雪国では3月末になっても雨や曇りの日が多く天候は冴えない。理恵子も、天候に合わせたかの様に心が落ち着かず、なにをしても気が晴れないまま修了式前の日々を送っていた。そんなある日。昼食後のお喋りしているとき、奈津子さんから「ねぇ~明日の土曜日に、久し振りに新潟に遊びに行かない。なんだか、気分がパァッと晴れないので、気分転換にさぁ~」と声を掛けられたので、理恵子は直ぐに同調し「わたしも、そうなのよ。色々買いたい物もあるし、デパートでお食事もしたいしさぁ」と賛成した。理恵子は奈津子の顔を見て、きっと幾ら気が強いと言っても、やはり自分と同じ様に彼氏と離れることで彼女なりに先行きなどで悩んでいるんだなぁ。と、表情から察した。翌日の朝、理恵子は母親の節子さんに「奈津子さんと新...美しき暦(49)

  • 美しき暦(48)

    江梨子は、家につくと玄関前でもじもじしている小島君を見て外に出ると「ねぇ~勇気をだしてよ」「何時も通りに遠慮しないで入りさないょ」と言いながら、彼の背中を押すようにして促すと彼も覚悟を決めて「なぁ~あまり余計なことを喋るなよ」、と言って玄関を入った。江梨子の家庭は、村でも昔から続く家柄で、杉木立に囲まれた家も大きく、母親の指導と依頼で親戚や縁故のある人々が夫々に木材関連の事業を経営しているためか経済的にもこの地方では裕福な方である。家に入るやいなや、陽気でお喋りな中学3年を卒業したばかりの妹の友子が、彼を見るなり大きい声で「わぁ~姉ぇちゃん、小島君を連れてきたわ~」「全然、男の子に、もてないと思っていたのに、以外だわ~」と言いつつ、小島君の方を見ながら無理に連れらて来たのを見破るかの様に叫んだので、江梨子...美しき暦(48)

  • 美しき暦(47)

    昼下がりの河辺は、そよ風が心地良く吹き、セイター姿の二人は「いやぁ~、今日は暑いくらいだなぁ」と話し合いながら川岸の砂地を目標もなく、ひたすら歩き続けた。小島君と江梨子の足跡がくっきりと、漣に洗われた波うち際の綺麗な砂地に整然と残され、遠くの街並みが青く霞んで見えた。二人は語らずとも素足を通じて感じる温もりで感情を高ぶらせ、待ち望んでいた春が確実に訪れてきたことを肌身で感じた。暫く歩み続けたあと、江梨子が「ね~少し休みましょうよ」と声をかけると小島君も「そうだな~俺もそう思っていたところだ」と答えて、乾いた砂地に腰を降ろしたが、しめし合わせた様に、二人とも両手を後ろに回して反り返る様な姿勢で素足を投げ出した。小島君は腰を降ろすと早速いたずらぽく、足先で江梨子の足首を撫でる様につっくと、江梨子は小島君の顔を...美しき暦(47)

  • 美しき暦(46)

    3月も終わりころに近ずくと、雪国も日中気温が上がり、たまに雲ひとつない快晴の日も多くなり、各校でも卒業式がはじまる。季節は本格的な春の訪れを告げ、人々の心もうっとうしい長い雪の日々から開放されて明るくなる時期でもある。この様な心理は雪国に住む人達にしか味わえない気分である。然し、学生達にとっては悲喜こもごもの別れの季節でもある。卒業式をまじかに控えた、晴れた日の昼下がり。理恵子は、奈津子さんと江梨子さんの三人で、何時もの雑談場所である校庭の端にある石碑のところで、春の陽光を浴びて気持ちよさそうに雑談で和やかに過ごしていたが、理恵子が「ね~え卒業式の前に、あなたは彼氏に何をプレゼントするの?」と、奈津子さんに聞いたところ、奈津子さんは「私達、この先のことはどうなるかわからないし、バレンタイデーにチョコレート...美しき暦(46)

  • 美しき暦(45)

    理恵子は、親友の奈津子さんの言う通り、進学のため遠く離れる織田君との交際も、これからは自由に出来なくなると考えると、心の中に穴があいた虚しいような心境で、自分の部屋に入るとベットに横たわり腕枕をして壁に貼られた織田君の写真を見つめながら心の整理をした。思いを巡らせながらも、昼間、飯豊山麓のスキー場で思いっきり滑り、静寂な雪に囲まれた窪地の中で考えた様に、この際、織田君の勉学に迷惑にならないためにも、また、自分自身の自立のためにも、自然な形で別れることがベターだと彼女なりに決心した。心が決まるとベットから起き上がり、早速、壁に貼られていた彼のユニホーム姿の写真をはずし、これまでに勉強を教えてくれたときに彼が書いたノート類やプレゼントされた各種のマスコット等を、小さな木箱に丁寧に仕舞うと部屋の棚の奥にしまいこ...美しき暦(45)

  • 美しき暦(44)

    節子さんが話し終えて自室に入ると、理恵子達三人は、また掘り炬燵に足をのばして仰向けに寝そべり、江梨子が冴えない顔で「私小島君に悪いことをしてしまったわ。どうしようかしら」と、節子さんの話に強く刺激されて溜め息をついた。理恵子と奈津子は、自分達のこれから先の親しい先輩である彼氏との別れが近いことで、寂しさや不安で頭が一杯のところに、江梨子が困った様に呟やいたので、二人は勝手に思い巡らす架空の世界から急に現実に戻り、気性の勝った奈津子が「江梨ちゃんあなた本当は、机を並べている隣席の小島君に親しみを感じているんでしょう?」と言うと理恵子も「そうよ毎日机を並べていれば、そうなるのが自然だわ」「私も、あの子にはどことなく好感がもてるわ」「江梨ちゃん本心はどうなの?」と、二人で口を揃えて聞くと、江梨子は両手を手枕にし...美しき暦(44)

  • 美しき暦(43)

    理恵子達三人にとって、今日は全てが考えていることと反対の所謂ツキのない日で、学校を午前中で退校して、理恵子の家で炬燵に入り、思い思いにお昼時間の出来事を勝手に語りあっていたところに、節子さんが、「ただいまぁ~」と声をかけて帰宅したので、三人は予想もしない早い帰宅に慌てて炬燵から抜け出し、恥ずかしげに姿勢を正して「お帰りなさい。お邪魔しております」と手をついて丁寧に挨拶すると、節子さんは「まぁ~こんな時間に、どうしたの?」「今日は、早退日ではないでしょう」と、炬燵の上に無造作に広げられた弁当などを見ながら不審な顔をして尋ねたので、理恵子が「今日は、もう~何もかも滅茶苦茶よ」「ねぇ~お二人さん」と返事をして、その日のお昼時間の出来事を話しだしたら、節子さんは、フフッと苦笑いを浮かべて、「貴女達の気持ちも判るが...美しき暦(43)

  • 美しき暦(42)

    江梨子は、きのうの朝、通学列車の改札口で偶然に出会って気軽に「お先にどうぞ」と親切に声を掛けてくれた、隣町の高校生である清楚で清々しい感じのする学生服姿の上級生らしき人と、将来、交際できたらいいなぁ~。と、秘かに胸にとめていたが、今朝、早めに改札口に行っていたら、今朝は同級生らしき明るい感じのする女性と笑いながら軽く会釈して、自分の前を通り過ぎて行ったので、夢も一晩で儚く挫けてしまい、気分が冴えないまま登校した。興味も湧かない3時限目の数学も終わり、席を並べている小島君も「あぁ~やっと終わったか。さっぱり理解できないが、腹だけは一人前で、えらく腹がへったなぁ~」と江梨子の顔を見ながらニコッといたずらっぽく笑いかけたとき、後ろ席の奈津子が耳うちする様に「理恵ちゃんが、おかずを沢山もつてきているよ」「隅の方で...美しき暦(42)

  • 美しき暦(41)

    節子は苦悩を胸に秘めたまま、大学病院を辞職すべく家を出かけた。その前に、朝風呂から上がって機嫌の良い健太郎に対し、恐る恐る話しかけた退職の話が、予期に反し、実家の年老いた母親を招いて面倒をみてはどうかと言はれて、日頃、健太郎が考えている実母に対する思いやりの深い家族愛について、昨夜の熱い愛の触れ合いにもまして、涙だが出そうになるほど感激し「貴方にそこまで甘えても、本当に宜しいのでしょうか」と聞き返したところ、健太郎が眼光鋭く厳しい顔つきで、これまでに聞いたことのない意外なことを話しだした。それは、理恵子の実父は新潟で平穏な家庭を営んでおり、娘さんも二人いる。彼は、新潟市内の中小企業に勤め、亡き秋子さんと夫婦であったが、理恵子が二歳のころ、店の美容師と恋愛関係に陥り、秋子さんと離婚して家を出て村を離れたが、...美しき暦(41)

  • 美しき暦(40)

    節子は、重苦しい思いに反して、改めて健太郎の愛を強く確しかめると、翌朝は早く静かにベットを抜け出して、昨晩のお風呂の弱火を再度強くして入浴した。安らいだ気持ちで風呂場の窓越しの竹林の上に見える雲間の月を眺めて、思わず心の中で亡くなった理恵子の実母である亡き秋子さんに語りかける様に「お陰さまで、3人は元気で過ごしていますので安心してくださいね」「理恵ちゃんが、たまには元気が余って私達を驚かせますが、それも彼女が心身ともに成長している証しと考え、健太郎と小言を言いながらも、内心は今後の成長を楽しみにしております」「貴女のおられる世界は季節に関係なくお花が咲き揃っていますか?寒くはありませんか・・」と囁いた。風呂から上がり、化粧鏡に映る自分の表情を食い入るように見ていて、揺ぎ無い自信を確かめたあと、何時も以上に...美しき暦(40)

  • 美しき暦(39)

    節子は、紅茶を飲みながらも健太郎への報告について思いを巡らして苦悩したが、結局入浴中に散々考えた通り、やはり自分の胸の奥に仕舞いこんでおくことが、家族の平穏な生活を続けるうえで一番良いと決心した。更に、丸山先生に一瞬の間でも愛を感じたことは否定出来ないが、現実に帰ったいまは、今後、どの様なことがあっても彼に会わないとも心に誓った。久しぶりに一緒に入浴したときの理恵子の何の屈琢もないニコッと笑った笑顔を見たとき、やはり、この子が一人前になるまでは、健太郎の力を借りて育てる責任が自分にはあり、それが自分達夫婦の幸せにつながり、ひいては、自分の若き日からの夢であった健太郎との憧れの生活を今以上に充実できるものと確信し、そのためにも暫くの間寂しく辛い思いをしても、罪の償いとして大学病院を潔く退職して専業主婦として...美しき暦(39)

  • 美しき暦(38)

    今年の冬は、昨冬と違い北極の寒波が南下する頻度が増して、例年になく降雪の日が続く。健太郎は、最初は冬場の運動代わりにと考え、近所の応援を得て、玄関前やその周辺の小道の除雪を苦もなく日課として行っていたが、こうも連日降雪が続くと身体の疲労が蓄積され、ましてやマーゲンクレイブスのOP後3年を経過しているとはいえ体力も目に見えて弱り、連日の除雪がなんとなく心身の負担となってきた。大学病院の親睦会のスキー場からの帰りのバスの中で、節子に抱えられる様にして、おとなしくしていた理恵子が、何気なく「母さんセーターの胸の辺りに毛糸屑みたいなものが着いているわ」「それに新品の毛糸がなんだかつぶれているみたいだわ」と、小声でブツブツ言い出だした。節子は、理恵子の川への転落のことで気持ちが動転していたところに、彼女の何気ない一...美しき暦(38)

  • 美しき暦(37)

    節子は、不意を突かれた咄嗟の出来事であり、丸山先生の力強い腕力に抱き抱えられて抵抗も虚しく強引に唇を奪われたあと、彼の膝の上に仰向けにされたことに、なんの抵抗も出来ず、唯、両手先で丸山先生の胸の辺りを押す様にして「先生いけませんわ」「およしになって下さい」と言いながら、かろうじて首を左右に振り続けたが、彼の燃え盛った情熱は彼女の必死の抵抗を無視して、脂ぎった顔と肉の厚い唇に弄ばれた。節子は、もがきながらチラッと見た彼の黒々と光る深い目がギラギラと光って見えて、一瞬、獣に襲われているかの様に不気味さを覚え猶更抵抗力を喪失した。節子は、何度も繰り返されるキスの度に、本能的に首を振って拒もうとしたが、だが、愛欲をたぎらせた彼の圧倒的な体力は、節子の微力な抵抗を苦もなく押しつぶしてしまった。彼は、何度か繰り返すキ...美しき暦(37)

  • 美しき暦(36)

    短い秋も終わりのころ。スキー場に勤める人達の間で、今冬はエルニューヨの関係で雪が少なく困ったのもだと、冬季の貴重な収入源を心配する声が聞こえてくるが、季節の巡りは確実で、12月中旬になると全国的に寒波が襲来し、4日間連続で降雪をみて、周辺の山々は見事に白銀の世界と化した。節子の勤める大学病院でも忘年会の際に、天候次第では正月休みの期間中に、体力増進と親睦を兼ねて、例年通り同好会で飯豊山麓のスキー場に行くことにした。その際、今回はバスを借り切るので、可能な限り家族や友人を誘って幅広い交流を図ることを計画しているので、大勢で賑やかに行いたいと案内されてた。節子も、雪国の秋田育ちで、学生時代は毎冬同級生達とスキーに興じて出かけていたほどである。理恵子も、この地方の子供達同様に小学校入学前からスキーで遊んでおり、...美しき暦(36)

  • 美しき暦(35)

    健太郎も、理恵子にそう言われてみれば、節子がなんとなく冴えない顔つきで元気がない様に見え、PTAの会合で何か予期しないことでもあったのかなと思い、車を途中から引き返して街場の中程にある行きつけの蕎麦屋に向かった。座敷に通されて、お茶を一服飲んだ後、理恵子が「わたしへぎ蕎麦と天麩羅がたべたいわ」と言うので、健太郎夫婦も彼女の希望にあわせて注文し、運ばれて来るまでの間、健太郎は茶碗をいじりながら節子に「なんだか大分気落ちしているみたいだが、無理に出てもらい悪かったなぁ。一体なにがあったのかね」「まぁ~地方のPTAなんて都会と違い、名士と称される人達の自慢話しと懇親会が主で、未だに古い因習が残っていて、生徒のことなどは二の次だからなぁ~」と、慰めにも似たことを言ったら、節子は「お父さんその様な雰囲気は私なりに承...美しき暦(35)

  • 美しき暦(34)

    宮下女史との話が終わると、節子は理恵ちゃんの担任先生である自分と同年齢位の高橋女教師のところに挨拶に行き、日頃の指導に丁寧にお礼を言って席に戻ると、入り口の戸が少し開き、理恵子が手招きで合図してくれたので、正面の会長さんや宮下女史に頭を下げ周囲にも軽く会釈して、静かに戸を開けて廊下に出て一息ついた。二人で正面玄関に出ると、丸山医師が別の入り口から出て来て二人を追いかけてきた。丸山医師は理恵子を見ると「あの~娘さんですか?。まるで、歳の開いた御姉妹のようで、山上さんにお似合いで美人ですね」と、笑いながら語りかけ「お帰りならば、玄関のところに車を止めてありますので、宜しければお送りいたしましょう」と案内しようとしたが、理恵子は「あのぅ~切角の御親切ありがたいですが、私、これからお母さんと買い物に行く約束があり...美しき暦(34)

  • 美しき暦(33)

    日曜日の午後。その日も晴れていたためか、節子は珍しく和服姿で白い革バックを下げて、理恵子と一緒に健太郎の運手する車でPTA会場の高校に出かけた。節子は運転中の健太郎から「どうせ会議といつても、先生方を取り囲んだ懇親会が主な目的で、名士の酒盛りが始まるころ適当な時間を見計らって、理恵子に呼び出しをかけて貰い、それを機に席をはずして帰ればいいさ。余計な心配はいらないよ」と要領を指図され、理恵子からも「担任の先生に御挨拶して戴ければ、わたしは、それで満足だゎ」と励まされながら会場に着くや人目を避けるようにして会場に入った。節子は、この地方に嫁いできて一年位になり、職場と近隣の人達と顔を合わせ言葉を交す以外に、この様な機会もめったになく、また、性格的にも大勢の人達の集まる場所を好まないところが若い時からあった。会...美しき暦(33)

  • 美しき暦(32)

    11月も末とゆうのに、例年になく温暖な日が続くが、朝晩は流石に冷え込みがきつくなる。そんな土曜日の午後。学校から珍しく早く帰って来た理恵子が歌を口ずさみながら、愛犬のポチと機嫌よく家の周囲で遊んでいると、節子さんから「理恵ちゃん~お父さんが、縞ホッケの乾物を食べたいと言っていたので、あなた織田商店にお使いにいってきてくれない」と言われ、そういえば最近織田君も自分の勉強が忙しいのか暫く見えないので、若しかしたら逢えるかもと突磋に思い「わかったわ~」とオウム返しに返事をして買い物籠を受け取り、アノラックを着て首に毛糸のショールを巻いて暗くなりかけた道を、ポチのリードを持ちポケットに右手を入れて、冷たい風にさらされて、あちこちに野焼きの白い煙がモクモクと空に舞いあがる野道を歩んだ。時折、家路を急ぐ車のライトがやけに眩...美しき暦(32)

  • 美しき暦(31)

    朝。理恵子は前日に約束した通り、登校時、校門前の杉の木の下で奈津子と江梨子の二人と待ち合わせして、他愛ないお喋りをしながら校舎に向かって歩いてゆくと、後方から自転車を押しながら同級生と歩いて近ずいて来た織田君が、誰にともなく明るい声で「やぁ~おはよう~」と声をかけて、理恵子の顔を見ると「なんだくたびれている様で元気がないみたいだな~」と言いながら、肩を軽くポンとたたき「毎月のお客さんがおいでかい・・?」と冗談を言ってからかうや、すかさず、お茶目な江梨子が「お客さんてなによ」「知りもしないのに失礼よ!」と、突っ張るような声で返事をすると、続けて奈津子が言葉を引き取り、織田君の自転車の荷台に手をかけて引き止める様にして薄笑いしながら「あらっ!葉子さんと御一緒でないの?」「親愛なる彼女に寂しい思いをさせてはだめよ」と...美しき暦(31)

  • 美しき暦(30)

    理恵子は、母の胸元をかきむしる様に散々泣き明かした後、節子から「あなたも、高校生でしょう。もう、泣くのはいい加減にして、理由をきちんと話してごらんなさい」と諭されるや、泣くのを止めて嗚咽混じりにボソボソと断片的に、同級生の奈津子と江梨子からクラス会のの模様について、同級生が忠告の意味で自分に対し、織田君と葉子さんの二人が、來春から東京の同じ大学に進学すれば必然的に親密になる。と、話あっていたことを知らされてショックを受けた。と、しどろもどろに話した。節子は少し考えこんだあと、理恵子に対し厳しい顔つきで、自分が経験したことを頭に描きながら「あのねぇ。もう20年くらい前のことだけど、当時、自宅に下宿して教師をしていた、お父さんといずれ近いうちに結婚することになるのかなぁ。と、勝手に思い込み、そうなったときの楽しい夢...美しき暦(30)

  • 美しき暦(29)

    クラス委員会のあった数日後。理恵子が自宅で予習をしているところに、珍しく奈津子と同級生で同じ吹奏楽の部員である江梨子の二人が突然訪ねてきた。江梨子は、小柄で黒縁の眼鏡をかけているが、成績も上位で何しろ小才がきき、その愛くるしい喋りでクラスの人気者である。彼女は、奈津子の男勝りの積極的な性格とは似合わないが、何故か仲が良く、何時も一緒に行動していることが多い。めったに訪ねてきたことがない二人の来訪で、理恵子は、また、劇の話かと思い、一寸、うんざりした気持ちになったが、それでも親しい奈津子なので平静を装って「あらっ!珍しいわね。父母が留守ですが、どうぞ上がってください」「たいした、おやつも無いけれど・・」と、内心落ち着かない気持ちで居間に案内した。二人は、理恵子の出した紅茶とケーキを口に運びながらも、落ち着いた雰囲...美しき暦(29)

  • 美しき暦(28)

    越後の北外れに位置する山里にも、例年になく11月14日に初雪が降った。健太郎にとって、このようなことは、この地に長年生きていて珍しいことだ。今では人も振り向かない熟した柿の実と雪の白さが好対象で清楚な風景をかもしだしてくれる。そんなある日の午後。理恵子のクラス委員会が久しぶりに開催された。1年3学級から選ばれた生徒で演じる劇の内容が論議され、劇中で主役がキスをする場面があり、他の演技論では静かに進行していたが、この話になった途端俄然騒々しくなり、普段でも強気で会議をリードする奈津子が「皆さん真面目に考えてください」「小説や映画の世界では、わたしたちと同年齢の人達が極自然にしているでしょう」「あくまでも、劇中のこととはいえ、見る人に感動を与える様にするには、どの様に演技するか考えてください」と、発言するや、女子生...美しき暦(28)

  • 美しき暦(27)

    秋の気候は変わりやすい。渓谷沿いの奥深い山里ではその変化が激しい。理恵ちゃんと織田君が、ポチを連れて宿から近い深い渓谷に架かる釣り橋の付近に散歩に行くと言うので、健太郎は「余り遅くならないうちに帰る様に」と注意して送り出した。彼等が出かけたあと、節子さんが「あなた露天風呂に行かない。今時分なら人もいないと思うし・・」と誘うので、健太郎は「うぅ~ん、でも釣り帰りの人がいるかもしれないよ」「幾ら夫婦でも、僕は嫌だなぁ。大体、お腹に癌の手術痕もあるし、気がすすまないなぁ~」と返事をして「どうしても君が入りたいと言うなら、貸切り風呂があいているかどうか聞いてくるよ」と言うと、彼女は「切角、来たのですし、きっと夕闇の露天風呂はロマンチックと思うわ。ねぇ、入りましょうよ」と切望するので、彼は「それなら女将に聞いてくるよ」と...美しき暦(27)

  • 美しき暦(26)

    晩秋の夕暮れは早い。小高い丘陵に位置する森に囲まれ棚田が緩やかに傾斜する農村の午後5時ころには陽が沈みうす暗くなる。静まりかえった村中の杉や椿等の木立に囲まれた家々に明かりが灯ると、夕闇の中で人々がいきずいていることを確かめさせてくれる。刈り取られた稲田をかすめる風も肌寒く感じ、近いうちに遥かな飯豊山脈にも冠雪を見ることであろう。庭の落ち葉が秋の終わり告げる季節である。健太郎は、そんな10月末の金曜日の夕食後。窓越に月を掠める淡い雲に見とれて紫煙を楽しんでいたところに、節子さんも家事を終えてお茶を運んできて脇に座り、ひとしきり今日の病院でのできごとを話したあと、きっと理恵子のいれ知恵とは思うが「ね~あなた。さっき理恵ちゃんが急に思いつめた様に、明日、皆で山の温泉に行かない?明日はお休みでしょう。いいじゃない。」...美しき暦(26)

  • 美しき暦(25)

    久しぶりに、懐かしい顔が揃って、賑やかに踊りくるつた盆踊りが過ぎると、峠の細道のススキが、透き通る様な澄んだ青空の下に白い穂波を揃え、柿が黄色みを帯び始める頃になる。山に囲まれた小さな街も人々が少なくなり、静けさを取り戻す。理恵子も、2学期の勉強に追われ、先輩の織田君も野球の部活を後輩に譲り、来春の大学受験の準備にいそしむ毎日が繰り返される。そんな秋日和の土曜の午後。勤務先の病院が休日で家にいた節子と健太郎の二人が、笑顔交じりに楽しげに庭の草花の手入れをしていたところに、織田君が自転車から降りてきて、にこやかに「おじさんこんにちわ~」と明るい声で挨拶すると、それを聞きつけた理恵子が自室の窓から顔を覗かせて「いまごろ、なによ~」と声をかけたので、彼は「やぁ~。そこまでお袋に頼まれ配達に来たから、ついでに寄ってみた...美しき暦(25)

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