chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
日々の便り https://blog.goo.ne.jp/hansyoodll84

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

老若男女を問わず、人夫々に出逢いの縁が絆の始まりとなり、可愛く幼い”蒼い”恋・情熱的な”青い恋”・円熟した”緑の”恋を辿って、人生観を形成してゆくものと思慮する そんな我が人生を回顧しながら、つれずれなるままに、出合った人々の懐かしい想い出を私小説風にブログに記してみた

日々の便り
フォロー
住所
秋葉区
出身
大田区
ブログ村参加

2015/11/08

1件〜100件

  • 河のほとりで (11)

    珠子は、腹這いになり興味深々と雑誌を読んでいた大助に忍び足で近寄ると「大ちゃん、何の本を読んでいるの?」と優しく聞くと、大助は慌てて雑誌を腹の下に隠して顔を上げもせず「姉ちゃん、勉強の邪魔をしないでくれよ」と不機嫌に返事をするばかりで、珠子の求めも無視して、腹の下に隠した雑誌を出そうとせず必死に隠し、何度尋ねてもなしのつぶてで嫌がるので、彼女は益々不審感を抱き業を煮やして実力行使で、大助の背中にスカート姿のまま馬乗りになり何とか雑誌を取りだそうとしたが、大助の頑強な抵抗で取りだせず、二人は遂に取組合になり、一度は大助の背中の反動で足を広げたまま仰向けにかえされたが、再度、本気になって襲いかかり、やっとの思いで雑誌を取り上げて見れば、若い女性の水着姿のグラビア集で「大助!何が勉強だね。こんな下らない雑誌ばか...河のほとりで(11)

  • 河のほとりで (10)

    初夏の香りを含んだ風が、庭の梢から柔らかく流れてきて心地よく肌に触れる土曜日の午後。二階の自室で、理恵子と珠子は二人して髪型の雑誌のグラビヤ写真を見ながら互いの顔と似合う髪型の話を楽しげに語りあっていた。理恵子は「珠子さんは、わたしと同じように面長なので、やはり長い髪を自然に流しておいた方が似合うと思うわ」「丸型の人は、思いきりカットして軽くカールした方が可愛いかもネ」と、鏡に向かいしきりに髪をいじり試行していた。話の途中、理恵子が今度の休日に一緒に上京した人達と逢うことになっているんだが、大事にしてきたパンプスの底が傷んでしまったので、これから近所のミツワ靴店に行って来たいと言い出したので、珠子は「理恵ちゃん、あすこのお店は駄目ヨッ」と反対した。それと言うのも、以前、彼女が修理に行った際、職人のお爺さん...河のほとりで(10)

  • 河のほとりで (9)

    大助は、肉屋を気分良く出ると、健ちゃんのサービスが嬉しかったとみえて、理恵子に笑みを漏らしながら「次は何を買うの?」と聞くと、理恵子が「お野菜を買いたいわ」と答えると、夕刻時で買い物客で混雑する商店街の人混みを、何時の間にか理恵子の左手を握って引く様にして空いている左手で巧みに対面して来る人を掻き分ける様にして、八百屋さんの前まで来ると、町野球のコーチをしている店員の昭ちゃんが「オ~イッ大助!俺の店には寄らないのか?」と恥ずかしくなる様な大声を掛けてきたので、大助は「今日は、僕にとっては大事なお客さんを案内しているので、特別にサービスをしてくれるかい?」「ダメなら、よその親切な店に行くよ」と、笑いながらも冗談交じりに返事をすると、昭ちゃんは「いま、健ちゃんの店に寄っただろう、俺、ちゃんと見ていたぞ。何故、...河のほとりで(9)

  • 河のほとりで (8)

    理恵子は、上京してから早くも1ヶ月を過ぎ、美容学校の授業や下宿先の城家の生活にも慣れて来た。或る晴れた日の夕方。2階の窓から茜色に彩られた夕焼け空やビルの街並みを眺めていると、やはり母親の節子の言う通りに、自宅から通学できる新潟の学校に進むべきであったかと、ホームシックにかられて考えることがある。一緒に上京した奈津子や江梨子に電話すると、皆が着々と自分の考えていた道を確実に進んでいることを知るにつけ、彼女等のたくましさがすごく羨ましく思えた。それに反し、自分は一人ぼっちで、寂しさから思わず涙をこぼすこともあり、上京すれば高校時代の先輩で恋心を抱く織田君にも時々逢えると、勝手に思っていたことが甘い考えであったと悔やまれた。今日も学校から帰り、二階の自室で沈んだ気分でぼんやりと街並みを見ていたとき、孝子小母さ...河のほとりで(8)

  • 河のほとりで (7)

    江梨子達が、なんとか採用の返事を貰い、気分が楽になって会社を立ち去ろうとしたとき、後を追い駆けてきた案内係の阿部さんが「いやぁ~おめでとう御座います。入社が決って良かったですね」と笑いながら声をかけてきて、二人の肩をポンと叩き、さも嬉しそうに「今、専務からあなた方をホテルに送り、夕食の接待を準備しなさい。と、指示を受けたので僕の咄嗟の判断で、昨晩の会話の内容から、どうやら和食が好きな様ですよ。と進言したら、専務はそれなら駅前の寿司屋に案内しなさいと言はれ、専務も仕事を済ませてすぐ伺うので、それまで君がお相手をしていなさい」と、、会社の考えと併せて接待の趣旨を正直に説明したあと「これから御案内いたします」と言ったので、江梨子は堅苦しい雰囲気を好まない小林君の内心を慮って遠慮したが、阿部さんの再三にわたる丁寧...河のほとりで(7)

  • 河のほとりで (6)

    入社面接試験の際、江梨子は母親の強い願望通り、近い将来に二人して実家に近い支社に転勤して、小島君との生活を実現しようとの思いから、社長が叔父であることを幸いに自然な思いで、自分としては最大の知恵と勇気を絞って周囲の役員等にお構いなしに、何時もの強い自己顕示性を発揮して少し誇大であるが、聞く者としてはそれなりに納得してもらえる答弁をしたところ、社長にしてみれば予期もしない答えが返って来て、試験会場が一瞬凍りついたような静寂な雰囲気に包また。社長も意外な答えにたじろぎ、キョトンした目で彼女を見つめて返答に窮して、とまどったが、そこは社会の底辺から叩き上げた持ち前の気骨の強さから、気を取り戻すと、やをら腕組みをといて立ち上がるり、眼光鋭く険しい顔で、江梨子に対し「今日は、採用の面接だよ」「親族会議とは違うんだ。...河のほとりで(6)

  • 河のほとりで (5)

    江梨子と小島君は、不安な気持ちで臨んだ就職試験の前夜、思いもよらぬ会社の接待を受けたが、案内役の阿部さんの正直で優しい話振りに引きずりこまれて、それまで抱いていた不安と緊張感も薄れて気持ちが楽になり、また、夜景が眺められる豪華なレストランでの雰囲気にも次第に馴染んで思う存分夕食をすませた。部屋に戻った江梨子は、ワインの飲みすぎか「暑いわ~、着替えるから一寸の間、外を見ていてね」と小島君に言って、彼が窓際で夜景を見ていると、彼女はクローゼットを開いて鏡を覗きながら、さっさと着替えをはじめたが、少し間を置いて、小島君が「もういいかぁ~」と言いながら振り向くと、彼女は「まぁ~だだよぅ~」と言いながら着替え中であったが、彼はチョット振り向いた際、一瞬、見てはいけないものを見た驚きで、思わず「アッ!ゴメ~ン」と言っ...河のほとりで(5)

  • 河のほとりで (4)

    理恵子達同級生三人は、進学や就職のため連れ立って一緒に上京した。江梨子は東京駅で列車から降りた途端一瞬ドキッとし足がすくんた。広いホームの人混みの中ほどで、マイクで自分の名前を連呼しながら、”歓迎”の大文字の下に”二人の名前”を並べて墨書した、紙のプラカードを高だかと掲げて目をキョロキョロして辺りを見回している社員を見つけ、予想もしていなかったことにビックリするやら恥ずかしやらで、理恵子や奈津子の手前顔を曇らせてしまった。江梨子は、列車から降りると内心怒りを覚え不機嫌な顔をして、迎えの若い社員と簡単な挨拶を交わしていたが、小島君は最初ひとごと思ってボヤットしていたが、そのうちに目をこらしてよく見ると間違いなく”達夫”と書かれているので、唖然として言葉も出なかった。彼女達は生活に慣れたら日にちを見計らって後...河のほとりで(4)

  • 河のほとりで (3)

    理恵子は、江梨子達と手を握りあって再会を約束して別れたあと、用心深く周囲に気配りして駅の正面口を出ると、毎年夏休みに家族揃って飯豊山の麓にある自宅に遊びに来ていて、すっかり顔馴染みになり気心の通じ合った城珠子と大助が出迎えに来ていたので少し不安な気持ちが和らいだ。彼等は、母親の節子と同郷の城孝子の子供達で、都会生活に不安を覚える理恵子にとって、今後いろいろとお世話になる下宿先の姉と弟である。明るく闊達な中学生の大助が、姉の制止を気にすることもなく理恵子に近よってきて愛想よく笑いながら「天気も良いし、宮城付近を散歩して行きましょうよ」「きっと、昨夜の雨に洗われて松の緑が綺麗だと思うので・・」と、普段は何かと小言を言う姉の顔を横目でチラッと見ながら素早く理恵子の大きなバックを持ってやると、理恵子と珠子を誘って...河のほとりで(3)

  • 河のほとりで

    "光陰矢の如し"と言われているが、平穏な地方の生活では、山並みの彩りが季節の変化を知らせてくれる。人々は静かに流れ行く時の中で、先達から受けずいた生活習慣に従い歳を重ねてゆく。山上理恵子は、実母の秋子を癌で亡くし、実母が生前親しく交際し信頼していた山上健太郎・節子夫妻の養女となり育てられていた。そんな理恵子は、3年間親しく交際していた同級生の原奈津子や小林江梨子と一緒に、泣き笑いの中にも数知れぬ思い出を残し、先輩の織田君に対し心に芽生えた蒼い恋心を胸に秘めて、高校生活を無事に卒業した。開業医院の長女である奈津子は、親も認めている先輩で医学生の彼氏のあとを追って東京の大学へ進学するが、理恵子は両親の勧めで東京の美容専門学校へ、江梨子は親戚の経営する会社に就職へと、夫々に未来に希望を抱いて進むことになった。彼...河のほとりで

  • 美しき暦(50)

    理恵子は、朝食後、節子さんが丁寧に用意しておいてくれた制服で装い、前に書いて白い封筒に入れておいた織田君宛ての手紙と、奈津子さんと一緒に求めた、岡本孝子作詞作曲の”夢をあきらめなめないで”のCDを、紫色の小さい風呂敷に包んて学校に向かった。節子さんが見送りに出た玄関先で小さい風呂敷包みをチラツトとみて「理恵ちゃん、それなぁ~に」と聞いたが、笑い顔を作り説明することもしなかった。登校の道すがら、織田君と逢うのは、この日が最後になるかも知れないと思うと、寂しい気持ちにもなったが、好天のためか、それほど気落ちすることもなく登校できた。教室に入ると、皆が、進級と春休みを楽しみにして賑やかに、親しい友達とお喋りしていて騒々しいほどで、若い男女の熱気が満ち溢れていたが、理恵子達三人は、静かな廊下に出て式終了後の予定に...美しき暦(50)

  • 美しき暦(49)

    関東からは、花便りが聞こえて来るとゆうのに、雪国では3月末になっても雨や曇りの日が多く天候は冴えない。理恵子も、天候に合わせたかの様に心が落ち着かず、なにをしても気が晴れないまま修了式前の日々を送っていた。そんなある日。昼食後のお喋りしているとき、奈津子さんから「ねぇ~明日の土曜日に、久し振りに新潟に遊びに行かない。なんだか、気分がパァッと晴れないので、気分転換にさぁ~」と声を掛けられたので、理恵子は直ぐに同調し「わたしも、そうなのよ。色々買いたい物もあるし、デパートでお食事もしたいしさぁ」と賛成した。理恵子は奈津子の顔を見て、きっと幾ら気が強いと言っても、やはり自分と同じ様に彼氏と離れることで彼女なりに先行きなどで悩んでいるんだなぁ。と、表情から察した。翌日の朝、理恵子は母親の節子さんに「奈津子さんと新...美しき暦(49)

  • 美しき暦(48)

    江梨子は、家につくと玄関前でもじもじしている小島君を見て外に出ると「ねぇ~勇気をだしてよ」「何時も通りに遠慮しないで入りさないょ」と言いながら、彼の背中を押すようにして促すと彼も覚悟を決めて「なぁ~あまり余計なことを喋るなよ」、と言って玄関を入った。江梨子の家庭は、村でも昔から続く家柄で、杉木立に囲まれた家も大きく、母親の指導と依頼で親戚や縁故のある人々が夫々に木材関連の事業を経営しているためか経済的にもこの地方では裕福な方である。家に入るやいなや、陽気でお喋りな中学3年を卒業したばかりの妹の友子が、彼を見るなり大きい声で「わぁ~姉ぇちゃん、小島君を連れてきたわ~」「全然、男の子に、もてないと思っていたのに、以外だわ~」と言いつつ、小島君の方を見ながら無理に連れらて来たのを見破るかの様に叫んだので、江梨子...美しき暦(48)

  • 美しき暦(47)

    昼下がりの河辺は、そよ風が心地良く吹き、セイター姿の二人は「いやぁ~、今日は暑いくらいだなぁ」と話し合いながら川岸の砂地を目標もなく、ひたすら歩き続けた。小島君と江梨子の足跡がくっきりと、漣に洗われた波うち際の綺麗な砂地に整然と残され、遠くの街並みが青く霞んで見えた。二人は語らずとも素足を通じて感じる温もりで感情を高ぶらせ、待ち望んでいた春が確実に訪れてきたことを肌身で感じた。暫く歩み続けたあと、江梨子が「ね~少し休みましょうよ」と声をかけると小島君も「そうだな~俺もそう思っていたところだ」と答えて、乾いた砂地に腰を降ろしたが、しめし合わせた様に、二人とも両手を後ろに回して反り返る様な姿勢で素足を投げ出した。小島君は腰を降ろすと早速いたずらぽく、足先で江梨子の足首を撫でる様につっくと、江梨子は小島君の顔を...美しき暦(47)

  • 美しき暦(46)

    3月も終わりころに近ずくと、雪国も日中気温が上がり、たまに雲ひとつない快晴の日も多くなり、各校でも卒業式がはじまる。季節は本格的な春の訪れを告げ、人々の心もうっとうしい長い雪の日々から開放されて明るくなる時期でもある。この様な心理は雪国に住む人達にしか味わえない気分である。然し、学生達にとっては悲喜こもごもの別れの季節でもある。卒業式をまじかに控えた、晴れた日の昼下がり。理恵子は、奈津子さんと江梨子さんの三人で、何時もの雑談場所である校庭の端にある石碑のところで、春の陽光を浴びて気持ちよさそうに雑談で和やかに過ごしていたが、理恵子が「ね~え卒業式の前に、あなたは彼氏に何をプレゼントするの?」と、奈津子さんに聞いたところ、奈津子さんは「私達、この先のことはどうなるかわからないし、バレンタイデーにチョコレート...美しき暦(46)

  • 美しき暦(45)

    理恵子は、親友の奈津子さんの言う通り、進学のため遠く離れる織田君との交際も、これからは自由に出来なくなると考えると、心の中に穴があいた虚しいような心境で、自分の部屋に入るとベットに横たわり腕枕をして壁に貼られた織田君の写真を見つめながら心の整理をした。思いを巡らせながらも、昼間、飯豊山麓のスキー場で思いっきり滑り、静寂な雪に囲まれた窪地の中で考えた様に、この際、織田君の勉学に迷惑にならないためにも、また、自分自身の自立のためにも、自然な形で別れることがベターだと彼女なりに決心した。心が決まるとベットから起き上がり、早速、壁に貼られていた彼のユニホーム姿の写真をはずし、これまでに勉強を教えてくれたときに彼が書いたノート類やプレゼントされた各種のマスコット等を、小さな木箱に丁寧に仕舞うと部屋の棚の奥にしまいこ...美しき暦(45)

  • 美しき暦(44)

    節子さんが話し終えて自室に入ると、理恵子達三人は、また掘り炬燵に足をのばして仰向けに寝そべり、江梨子が冴えない顔で「私小島君に悪いことをしてしまったわ。どうしようかしら」と、節子さんの話に強く刺激されて溜め息をついた。理恵子と奈津子は、自分達のこれから先の親しい先輩である彼氏との別れが近いことで、寂しさや不安で頭が一杯のところに、江梨子が困った様に呟やいたので、二人は勝手に思い巡らす架空の世界から急に現実に戻り、気性の勝った奈津子が「江梨ちゃんあなた本当は、机を並べている隣席の小島君に親しみを感じているんでしょう?」と言うと理恵子も「そうよ毎日机を並べていれば、そうなるのが自然だわ」「私も、あの子にはどことなく好感がもてるわ」「江梨ちゃん本心はどうなの?」と、二人で口を揃えて聞くと、江梨子は両手を手枕にし...美しき暦(44)

  • 美しき暦(43)

    理恵子達三人にとって、今日は全てが考えていることと反対の所謂ツキのない日で、学校を午前中で退校して、理恵子の家で炬燵に入り、思い思いにお昼時間の出来事を勝手に語りあっていたところに、節子さんが、「ただいまぁ~」と声をかけて帰宅したので、三人は予想もしない早い帰宅に慌てて炬燵から抜け出し、恥ずかしげに姿勢を正して「お帰りなさい。お邪魔しております」と手をついて丁寧に挨拶すると、節子さんは「まぁ~こんな時間に、どうしたの?」「今日は、早退日ではないでしょう」と、炬燵の上に無造作に広げられた弁当などを見ながら不審な顔をして尋ねたので、理恵子が「今日は、もう~何もかも滅茶苦茶よ」「ねぇ~お二人さん」と返事をして、その日のお昼時間の出来事を話しだしたら、節子さんは、フフッと苦笑いを浮かべて、「貴女達の気持ちも判るが...美しき暦(43)

  • 美しき暦(42)

    江梨子は、きのうの朝、通学列車の改札口で偶然に出会って気軽に「お先にどうぞ」と親切に声を掛けてくれた、隣町の高校生である清楚で清々しい感じのする学生服姿の上級生らしき人と、将来、交際できたらいいなぁ~。と、秘かに胸にとめていたが、今朝、早めに改札口に行っていたら、今朝は同級生らしき明るい感じのする女性と笑いながら軽く会釈して、自分の前を通り過ぎて行ったので、夢も一晩で儚く挫けてしまい、気分が冴えないまま登校した。興味も湧かない3時限目の数学も終わり、席を並べている小島君も「あぁ~やっと終わったか。さっぱり理解できないが、腹だけは一人前で、えらく腹がへったなぁ~」と江梨子の顔を見ながらニコッといたずらっぽく笑いかけたとき、後ろ席の奈津子が耳うちする様に「理恵ちゃんが、おかずを沢山もつてきているよ」「隅の方で...美しき暦(42)

  • 美しき暦(41)

    節子は苦悩を胸に秘めたまま、大学病院を辞職すべく家を出かけた。その前に、朝風呂から上がって機嫌の良い健太郎に対し、恐る恐る話しかけた退職の話が、予期に反し、実家の年老いた母親を招いて面倒をみてはどうかと言はれて、日頃、健太郎が考えている実母に対する思いやりの深い家族愛について、昨夜の熱い愛の触れ合いにもまして、涙だが出そうになるほど感激し「貴方にそこまで甘えても、本当に宜しいのでしょうか」と聞き返したところ、健太郎が眼光鋭く厳しい顔つきで、これまでに聞いたことのない意外なことを話しだした。それは、理恵子の実父は新潟で平穏な家庭を営んでおり、娘さんも二人いる。彼は、新潟市内の中小企業に勤め、亡き秋子さんと夫婦であったが、理恵子が二歳のころ、店の美容師と恋愛関係に陥り、秋子さんと離婚して家を出て村を離れたが、...美しき暦(41)

  • 美しき暦(40)

    節子は、重苦しい思いに反して、改めて健太郎の愛を強く確しかめると、翌朝は早く静かにベットを抜け出して、昨晩のお風呂の弱火を再度強くして入浴した。安らいだ気持ちで風呂場の窓越しの竹林の上に見える雲間の月を眺めて、思わず心の中で亡くなった理恵子の実母である亡き秋子さんに語りかける様に「お陰さまで、3人は元気で過ごしていますので安心してくださいね」「理恵ちゃんが、たまには元気が余って私達を驚かせますが、それも彼女が心身ともに成長している証しと考え、健太郎と小言を言いながらも、内心は今後の成長を楽しみにしております」「貴女のおられる世界は季節に関係なくお花が咲き揃っていますか?寒くはありませんか・・」と囁いた。風呂から上がり、化粧鏡に映る自分の表情を食い入るように見ていて、揺ぎ無い自信を確かめたあと、何時も以上に...美しき暦(40)

  • 美しき暦(39)

    節子は、紅茶を飲みながらも健太郎への報告について思いを巡らして苦悩したが、結局入浴中に散々考えた通り、やはり自分の胸の奥に仕舞いこんでおくことが、家族の平穏な生活を続けるうえで一番良いと決心した。更に、丸山先生に一瞬の間でも愛を感じたことは否定出来ないが、現実に帰ったいまは、今後、どの様なことがあっても彼に会わないとも心に誓った。久しぶりに一緒に入浴したときの理恵子の何の屈琢もないニコッと笑った笑顔を見たとき、やはり、この子が一人前になるまでは、健太郎の力を借りて育てる責任が自分にはあり、それが自分達夫婦の幸せにつながり、ひいては、自分の若き日からの夢であった健太郎との憧れの生活を今以上に充実できるものと確信し、そのためにも暫くの間寂しく辛い思いをしても、罪の償いとして大学病院を潔く退職して専業主婦として...美しき暦(39)

  • 美しき暦(38)

    今年の冬は、昨冬と違い北極の寒波が南下する頻度が増して、例年になく降雪の日が続く。健太郎は、最初は冬場の運動代わりにと考え、近所の応援を得て、玄関前やその周辺の小道の除雪を苦もなく日課として行っていたが、こうも連日降雪が続くと身体の疲労が蓄積され、ましてやマーゲンクレイブスのOP後3年を経過しているとはいえ体力も目に見えて弱り、連日の除雪がなんとなく心身の負担となってきた。大学病院の親睦会のスキー場からの帰りのバスの中で、節子に抱えられる様にして、おとなしくしていた理恵子が、何気なく「母さんセーターの胸の辺りに毛糸屑みたいなものが着いているわ」「それに新品の毛糸がなんだかつぶれているみたいだわ」と、小声でブツブツ言い出だした。節子は、理恵子の川への転落のことで気持ちが動転していたところに、彼女の何気ない一...美しき暦(38)

  • 美しき暦(37)

    節子は、不意を突かれた咄嗟の出来事であり、丸山先生の力強い腕力に抱き抱えられて抵抗も虚しく強引に唇を奪われたあと、彼の膝の上に仰向けにされたことに、なんの抵抗も出来ず、唯、両手先で丸山先生の胸の辺りを押す様にして「先生いけませんわ」「およしになって下さい」と言いながら、かろうじて首を左右に振り続けたが、彼の燃え盛った情熱は彼女の必死の抵抗を無視して、脂ぎった顔と肉の厚い唇に弄ばれた。節子は、もがきながらチラッと見た彼の黒々と光る深い目がギラギラと光って見えて、一瞬、獣に襲われているかの様に不気味さを覚え猶更抵抗力を喪失した。節子は、何度も繰り返されるキスの度に、本能的に首を振って拒もうとしたが、だが、愛欲をたぎらせた彼の圧倒的な体力は、節子の微力な抵抗を苦もなく押しつぶしてしまった。彼は、何度か繰り返すキ...美しき暦(37)

  • 美しき暦(36)

    短い秋も終わりのころ。スキー場に勤める人達の間で、今冬はエルニューヨの関係で雪が少なく困ったのもだと、冬季の貴重な収入源を心配する声が聞こえてくるが、季節の巡りは確実で、12月中旬になると全国的に寒波が襲来し、4日間連続で降雪をみて、周辺の山々は見事に白銀の世界と化した。節子の勤める大学病院でも忘年会の際に、天候次第では正月休みの期間中に、体力増進と親睦を兼ねて、例年通り同好会で飯豊山麓のスキー場に行くことにした。その際、今回はバスを借り切るので、可能な限り家族や友人を誘って幅広い交流を図ることを計画しているので、大勢で賑やかに行いたいと案内されてた。節子も、雪国の秋田育ちで、学生時代は毎冬同級生達とスキーに興じて出かけていたほどである。理恵子も、この地方の子供達同様に小学校入学前からスキーで遊んでおり、...美しき暦(36)

  • 美しき暦(35)

    健太郎も、理恵子にそう言われてみれば、節子がなんとなく冴えない顔つきで元気がない様に見え、PTAの会合で何か予期しないことでもあったのかなと思い、車を途中から引き返して街場の中程にある行きつけの蕎麦屋に向かった。座敷に通されて、お茶を一服飲んだ後、理恵子が「わたしへぎ蕎麦と天麩羅がたべたいわ」と言うので、健太郎夫婦も彼女の希望にあわせて注文し、運ばれて来るまでの間、健太郎は茶碗をいじりながら節子に「なんだか大分気落ちしているみたいだが、無理に出てもらい悪かったなぁ。一体なにがあったのかね」「まぁ~地方のPTAなんて都会と違い、名士と称される人達の自慢話しと懇親会が主で、未だに古い因習が残っていて、生徒のことなどは二の次だからなぁ~」と、慰めにも似たことを言ったら、節子は「お父さんその様な雰囲気は私なりに承...美しき暦(35)

  • 美しき暦(34)

    宮下女史との話が終わると、節子は理恵ちゃんの担任先生である自分と同年齢位の高橋女教師のところに挨拶に行き、日頃の指導に丁寧にお礼を言って席に戻ると、入り口の戸が少し開き、理恵子が手招きで合図してくれたので、正面の会長さんや宮下女史に頭を下げ周囲にも軽く会釈して、静かに戸を開けて廊下に出て一息ついた。二人で正面玄関に出ると、丸山医師が別の入り口から出て来て二人を追いかけてきた。丸山医師は理恵子を見ると「あの~娘さんですか?。まるで、歳の開いた御姉妹のようで、山上さんにお似合いで美人ですね」と、笑いながら語りかけ「お帰りならば、玄関のところに車を止めてありますので、宜しければお送りいたしましょう」と案内しようとしたが、理恵子は「あのぅ~切角の御親切ありがたいですが、私、これからお母さんと買い物に行く約束があり...美しき暦(34)

  • 美しき暦(33)

    日曜日の午後。その日も晴れていたためか、節子は珍しく和服姿で白い革バックを下げて、理恵子と一緒に健太郎の運手する車でPTA会場の高校に出かけた。節子は運転中の健太郎から「どうせ会議といつても、先生方を取り囲んだ懇親会が主な目的で、名士の酒盛りが始まるころ適当な時間を見計らって、理恵子に呼び出しをかけて貰い、それを機に席をはずして帰ればいいさ。余計な心配はいらないよ」と要領を指図され、理恵子からも「担任の先生に御挨拶して戴ければ、わたしは、それで満足だゎ」と励まされながら会場に着くや人目を避けるようにして会場に入った。節子は、この地方に嫁いできて一年位になり、職場と近隣の人達と顔を合わせ言葉を交す以外に、この様な機会もめったになく、また、性格的にも大勢の人達の集まる場所を好まないところが若い時からあった。会...美しき暦(33)

  • 美しき暦(32)

    11月も末とゆうのに、例年になく温暖な日が続くが、朝晩は流石に冷え込みがきつくなる。そんな土曜日の午後。学校から珍しく早く帰って来た理恵子が歌を口ずさみながら、愛犬のポチと機嫌よく家の周囲で遊んでいると、節子さんから「理恵ちゃん~お父さんが、縞ホッケの乾物を食べたいと言っていたので、あなた織田商店にお使いにいってきてくれない」と言われ、そういえば最近織田君も自分の勉強が忙しいのか暫く見えないので、若しかしたら逢えるかもと突磋に思い「わかったわ~」とオウム返しに返事をして買い物籠を受け取り、アノラックを着て首に毛糸のショールを巻いて暗くなりかけた道を、ポチのリードを持ちポケットに右手を入れて、冷たい風にさらされて、あちこちに野焼きの白い煙がモクモクと空に舞いあがる野道を歩んだ。時折、家路を急ぐ車のライトがやけに眩...美しき暦(32)

  • 美しき暦(31)

    朝。理恵子は前日に約束した通り、登校時、校門前の杉の木の下で奈津子と江梨子の二人と待ち合わせして、他愛ないお喋りをしながら校舎に向かって歩いてゆくと、後方から自転車を押しながら同級生と歩いて近ずいて来た織田君が、誰にともなく明るい声で「やぁ~おはよう~」と声をかけて、理恵子の顔を見ると「なんだくたびれている様で元気がないみたいだな~」と言いながら、肩を軽くポンとたたき「毎月のお客さんがおいでかい・・?」と冗談を言ってからかうや、すかさず、お茶目な江梨子が「お客さんてなによ」「知りもしないのに失礼よ!」と、突っ張るような声で返事をすると、続けて奈津子が言葉を引き取り、織田君の自転車の荷台に手をかけて引き止める様にして薄笑いしながら「あらっ!葉子さんと御一緒でないの?」「親愛なる彼女に寂しい思いをさせてはだめよ」と...美しき暦(31)

  • 美しき暦(30)

    理恵子は、母の胸元をかきむしる様に散々泣き明かした後、節子から「あなたも、高校生でしょう。もう、泣くのはいい加減にして、理由をきちんと話してごらんなさい」と諭されるや、泣くのを止めて嗚咽混じりにボソボソと断片的に、同級生の奈津子と江梨子からクラス会のの模様について、同級生が忠告の意味で自分に対し、織田君と葉子さんの二人が、來春から東京の同じ大学に進学すれば必然的に親密になる。と、話あっていたことを知らされてショックを受けた。と、しどろもどろに話した。節子は少し考えこんだあと、理恵子に対し厳しい顔つきで、自分が経験したことを頭に描きながら「あのねぇ。もう20年くらい前のことだけど、当時、自宅に下宿して教師をしていた、お父さんといずれ近いうちに結婚することになるのかなぁ。と、勝手に思い込み、そうなったときの楽しい夢...美しき暦(30)

  • 美しき暦(29)

    クラス委員会のあった数日後。理恵子が自宅で予習をしているところに、珍しく奈津子と同級生で同じ吹奏楽の部員である江梨子の二人が突然訪ねてきた。江梨子は、小柄で黒縁の眼鏡をかけているが、成績も上位で何しろ小才がきき、その愛くるしい喋りでクラスの人気者である。彼女は、奈津子の男勝りの積極的な性格とは似合わないが、何故か仲が良く、何時も一緒に行動していることが多い。めったに訪ねてきたことがない二人の来訪で、理恵子は、また、劇の話かと思い、一寸、うんざりした気持ちになったが、それでも親しい奈津子なので平静を装って「あらっ!珍しいわね。父母が留守ですが、どうぞ上がってください」「たいした、おやつも無いけれど・・」と、内心落ち着かない気持ちで居間に案内した。二人は、理恵子の出した紅茶とケーキを口に運びながらも、落ち着いた雰囲...美しき暦(29)

  • 美しき暦(28)

    越後の北外れに位置する山里にも、例年になく11月14日に初雪が降った。健太郎にとって、このようなことは、この地に長年生きていて珍しいことだ。今では人も振り向かない熟した柿の実と雪の白さが好対象で清楚な風景をかもしだしてくれる。そんなある日の午後。理恵子のクラス委員会が久しぶりに開催された。1年3学級から選ばれた生徒で演じる劇の内容が論議され、劇中で主役がキスをする場面があり、他の演技論では静かに進行していたが、この話になった途端俄然騒々しくなり、普段でも強気で会議をリードする奈津子が「皆さん真面目に考えてください」「小説や映画の世界では、わたしたちと同年齢の人達が極自然にしているでしょう」「あくまでも、劇中のこととはいえ、見る人に感動を与える様にするには、どの様に演技するか考えてください」と、発言するや、女子生...美しき暦(28)

  • 美しき暦(27)

    秋の気候は変わりやすい。渓谷沿いの奥深い山里ではその変化が激しい。理恵ちゃんと織田君が、ポチを連れて宿から近い深い渓谷に架かる釣り橋の付近に散歩に行くと言うので、健太郎は「余り遅くならないうちに帰る様に」と注意して送り出した。彼等が出かけたあと、節子さんが「あなた露天風呂に行かない。今時分なら人もいないと思うし・・」と誘うので、健太郎は「うぅ~ん、でも釣り帰りの人がいるかもしれないよ」「幾ら夫婦でも、僕は嫌だなぁ。大体、お腹に癌の手術痕もあるし、気がすすまないなぁ~」と返事をして「どうしても君が入りたいと言うなら、貸切り風呂があいているかどうか聞いてくるよ」と言うと、彼女は「切角、来たのですし、きっと夕闇の露天風呂はロマンチックと思うわ。ねぇ、入りましょうよ」と切望するので、彼は「それなら女将に聞いてくるよ」と...美しき暦(27)

  • 美しき暦(26)

    晩秋の夕暮れは早い。小高い丘陵に位置する森に囲まれ棚田が緩やかに傾斜する農村の午後5時ころには陽が沈みうす暗くなる。静まりかえった村中の杉や椿等の木立に囲まれた家々に明かりが灯ると、夕闇の中で人々がいきずいていることを確かめさせてくれる。刈り取られた稲田をかすめる風も肌寒く感じ、近いうちに遥かな飯豊山脈にも冠雪を見ることであろう。庭の落ち葉が秋の終わり告げる季節である。健太郎は、そんな10月末の金曜日の夕食後。窓越に月を掠める淡い雲に見とれて紫煙を楽しんでいたところに、節子さんも家事を終えてお茶を運んできて脇に座り、ひとしきり今日の病院でのできごとを話したあと、きっと理恵子のいれ知恵とは思うが「ね~あなた。さっき理恵ちゃんが急に思いつめた様に、明日、皆で山の温泉に行かない?明日はお休みでしょう。いいじゃない。」...美しき暦(26)

  • 美しき暦(25)

    久しぶりに、懐かしい顔が揃って、賑やかに踊りくるつた盆踊りが過ぎると、峠の細道のススキが、透き通る様な澄んだ青空の下に白い穂波を揃え、柿が黄色みを帯び始める頃になる。山に囲まれた小さな街も人々が少なくなり、静けさを取り戻す。理恵子も、2学期の勉強に追われ、先輩の織田君も野球の部活を後輩に譲り、来春の大学受験の準備にいそしむ毎日が繰り返される。そんな秋日和の土曜の午後。勤務先の病院が休日で家にいた節子と健太郎の二人が、笑顔交じりに楽しげに庭の草花の手入れをしていたところに、織田君が自転車から降りてきて、にこやかに「おじさんこんにちわ~」と明るい声で挨拶すると、それを聞きつけた理恵子が自室の窓から顔を覗かせて「いまごろ、なによ~」と声をかけたので、彼は「やぁ~。そこまでお袋に頼まれ配達に来たから、ついでに寄ってみた...美しき暦(25)

  • 美しき暦(24)

    雪深い農村では、近年、正月には帰郷する人達はすくなくなり、その代わり遅れた成人式をも兼ねて8月の夏季休暇に帰る人達が多くなつた。交通機関の発達といえばそれまでだが、やはり生活が合理的になつたのであろう。学校も職場も休みが終わる8月の下旬ころともなると、近隣の集落の盆踊りの笛や太鼓の音が夕闇が迫る頃盛んに聞こえる様になつた。農村では、盆踊りも単に郷愁を誘うだけでなく、若い人達の大事なコミュニケーションの場でもある。歳老いた集落の人達には、この盆踊りも故事にならつた氏神様への感謝の奉納でもある。それなるが故に、故郷の伝統が守られているのである。この集落の盆踊りがもようされる日、節子さんも大学病院の仕事を休み、午前中に亡き秋子さんの経営していた美容院に行って、後ろ髪を少しアップして見るからに涼しげな姿で帰ってきた。そ...美しき暦(24)

  • 美しき暦(23)

    理恵子達は家に入ると、広い居間にある横長のテーブルを囲んで各自がそれぞれの場所に勝手に座り、高い天井を見上げて「わぁ~涼しいはずだわ!」と裏庭から通り過ぎる微風に汗ばんだ体を冷ましながら一息ついた。その間に理恵子が、清水の流れる池から救いあげてきた、よく冷えたスイカを切って差し出すと、皆は遠慮なく御馳走になりながら、たったいま葉子さんの家で突然思いがけないところから男の図太い声をかけられて驚いたことや、葉子さんが気持ちよく自分達の申し入れを聞き入れてくれたことで、訪ねるまえに緊張していたことがおかしく思えたことなどを喋りあったあと、理恵子の案内で、裏庭の人造滝から流れ落ちる幅の狭い小川に、スカートの裾をたくしあげて素足を入れて、敷き詰められた赤や白の小石を足先で転がし「綺麗な小石だわ~!」と言いながら涼を満喫し...美しき暦(23)

  • 美しき暦(22)

    葉子さんが、応援団の女性群に押圧されて突発的にプールに突き落とされた野球部員の織田君達3人を、彼女の兄が迎えに来た自動車に無理やり乗せると、他の二人を順次自宅に送り届け、最後に織田君を人目につかないようにあたりに気を配りながら自宅に連れ込んだ。理恵子は、深い意味もなく咄嗟の思いつきで、自転車に乗ると大急ぎで葉子さんの自宅に向かい、その様子を見届けてから吹奏楽部の練習部屋に戻り、他の部員同様に自分の使用する樂器の手入れにかかったが、自分でもはっきりした理由も判らないままに、何か気の抜けた様にやるせない気持ちで、手を休めて窓辺で青空と校庭のポプラの並木に見とれていると、部員の中でもリーダー的存在の奈津子さんや他の5人の者が「理恵!なにぼんやりしてんの?」「葉子さんに織田君を連れて行かれたので寂しいの?」「理恵の気持...美しき暦(22)

  • 花冷え

    4月に入ったとゆうのに、越後の春は、連日、日中気温10℃以下で超高齢者(86)には体調維持に神経を使う。先月中旬以降、15℃前後の日々が続き、例年より1か月早く訪れた小春日和に心がなごみ、今となっては唯一話し相手の盆栽を、ベランダに出して施肥して日光をぞんぶんに浴びさせ、「これが最後の春かなぁ~」と語りかけながら日向ぼッこを楽しんだが、今日あたり細雪が舞う冬に逆戻りし、慌てて盆栽を部屋にしまいこんだ。元号が発表されたが、難しい文学的説明はとても理解できないが、気候のせいか体感的に”冷える”感じを覚えた。諺に”男は過去を追い女は現実を追う”と言うが、昭和8年生まれの身には、戦中・戦後の物資欠乏時代でも、山の彼方の夢を追いかけた時代(結果は奮闘むなしく宝くじ同様、本当に夢で終わってしまった・・)が懐かしく回想される花冷え

  • 美しき暦(21)

    梅雨が明けたとゆうのに、北越後の空は曇天続きで、たまに晴天があっても続かないが、温暖で比較的凌ぎやすい。最も農家では稲作が少し心配になる。報道によれば、エルニューヨ現象の影響とかで、今から冬は暖冬か?などと一喜一憂しているが、歳をとると習性から先走って余計な心配をするものだ。山上健太郎の家は、閑静な農村の中心部にあり、彼は3代前からの旧家を引き継いでいる。健康を理由に教師を定年前に退職後、高校講師と家庭農園を適当に楽しんでいる健太郎の家族は、秋田出身であるが高校卒業後東京に出て看護師をしていたが、先輩の亡秋子さんの世話で紆余曲折を経たが縁あって、昨年来、健太郎と夫婦となり大学病院の看護師をしている妻の節子、それに、亡き秋子さんの忘れがたみの高校生の理恵子の3人である。それぞれが数奇な運命を背負いながらも家族とな...美しき暦(21)

  • 美しき暦 (20)

    理恵子は、放課後に校庭裏の公園で織田君と過ごした際に、初めて体験した出来事を、義母の節子さんに遠まわしに話したことにより、胸の高まりが幾分落ち着き、何時もの様に仏壇に向かい手を合わせたあと、自室に入り明日の仕度を整えてベットに横たえた。眠れないまま窓のカーテン越しに見える月がとても綺麗で起き上がると、窓辺に寄り満月を眺めながら、亡き実母の秋子さんに囁くように、織田君との出来事を簡単に呟いたあと、尚も興奮している気持ちを抑えきれず、亡き母恋しさに「かあさんお花畑は綺麗ですか」「律子小母さんに逢いましたか?。それとも誰か新しいお友達ができましたか。かあさんがよく聞かせてくれた月の砂漠をお友達と一緒に虚空蔵様の里をめざして歩んでいるのでしょうね」と、懐かしさや、寂しさ・悲しさ、不安がないまぜになった気持ちで呟いたあと...美しき暦(20)

  • 美しき暦(19-5)

    節子と理恵子は、夕食後片付けをしたのち、ジュウースを飲みながら洗濯物にアイロンをかけたり、折りたたんだりしながら和やかに話している途中、節子が「理恵ちゃん今日、サマーセイターの背中に芝草がついていたわ」と何気なく呟くと、理恵子は、ドキッと胸を突かれたように心に衝動を覚えたが、なるべく平静を装い小さい声で、母の顔をチラット覗き見して「う~ん今日ね、学校が引けてから、織田君と校舎裏の公園で、お昼にお世話になったお礼を言ったあと、部活や夏休みの話など、とりとめもない話をしていたの」「素足で野草を踏みしめる感触は気持ちよく、織田君と寝転んで浮雲を見ながら、あれこれ話しあって、すごく楽しかったゎ」と返事をしたが、正直に全部話そうかと思いつつも、恥ずかしい気もあり、それに自分自身、そのときのことを正確に覚えておらず、話すの...美しき暦(19-5)

  • 老いのつれずれ(3)

    いやはや、「寅歳」とはいえ、あまりにも干支の予測が見事に実現し驚いている昨年の豪雪がトラウマになり。毎日天気予報を見ては降雪におののいて過ごしていたが、幸い87歳の身には過酷な屋根の雪下ろし作業をせず「ヤレヤレ」と胸をなでおろして、やっと2月を無事過ごしたが外ではすごいことがおきている1月5日の「株価暴落」、昨年来の「変異株の感染拡大」、FRBの金利引き上げ・資産縮小の「金融引き締め」、と些細な額ではあるが認知症予防と多少の小遣い稼ぎで楽しみの投資も、先行き不透明で心が揺らぐ日々であるが、これにとどめを刺すように、ウクライナ問題が世界を取り巻き、露に対する経済.金融制裁の続出で露の信用不安もさることながら、西側も経済的に大きな影響を受けることは容易に理解できる果たして、この問題が何時どのような形で結着するか。。...老いのつれずれ(3)

  • 美しき暦(19-4)

    帰宅すると、節子は笑顔で「お帰りなさい。遅かったはね」と言って、二人の顔を見て気持ちよく迎えてくれ風呂を用意しておいてくれた。織田君が入浴中に脱衣場に浴衣も用意してくれ、理恵子も入浴後揃って浴衣姿で、皆で夕餉の食卓を囲んだ。理恵子が巧みに話題をリードして雰囲気を盛り立て、健太郎が織田君の日焼けした顔を見ながら野球の話を興味深く聞いている様子を見ていて、彼が初対面の節子に緊張感を抱いていない素振りに安堵し、彼女も裏山での昼食の模様を節子に対し愉快そうに話して、賑やかな夕飯となった。織田君は野球部の選手らしく、同級生に比べて身体も大きく食欲も旺盛だ。えり好みせずに美味しそうにもくもくと食べるその姿に、皆もつられて食が進んだ。健太郎と節子は、理恵子が時折、箸を休めて彼の旺盛な食欲に見とれ、「織田君よく噛んでたべてね」...美しき暦(19-4)

  • 美しき暦(19-3)

    理恵子は、野芝に仰向けに寝転んで腕枕をし、青空にポッカリと浮いている小さな淡い白雲が遠くの峰にゆっくりと流れて行くのを、ぼんやりと眺めながら、横に並んでいる織田君の顔をチラット見たあと、かい間見る野球の練習に夢中に励んでいる織田君の姿を思いだしながらも、体調のせいか少しけだるく感じ、眠気に誘われウトウトとして目を閉じていたところ、顔の上に汗臭く重苦しい黒い影を感じ、異変を察知した瞬間避ける間もなく、唇と唇が軽くふれれたあと、頬に暑い息吹きを感じた。彼女は一瞬、全身が金縛りにあったように硬直して、静電気が身体中を走りぬけたようで、何も抵抗できずに、なすがままに流れに任せ、彼の顔が離れたあと静かに目を開いたところ、彼が何も言わずに脇に寝転んだので、理恵子は彼の横顔を見つめて「どうしたの?わたし、こんなこと、生まれて...美しき暦(19-3)

  • 美しき暦(19-2)

    校門を出ると、街へ降りる道は三叉路になっており、織田君は疲れているのか少し元気のない声で「また、友達に見られて冷かされるのは嫌だし、それに時間も早いようなので、公園で一休みして行こう」と、杉木立に覆われた坂道の方に歩き出したので、理恵子も彼に並んで自転車を押してゆっくりと歩き、街の中心部が眺望できる見晴らしの良い公園に辿りついた。公園の芝草は鮮やかな緑に彩られて、誰もいなく静まりかえっており、風が心地良く頬をなでて流れ、理恵子の髪を揺らしていた。織田君は、自転車を置くと運動靴と靴下を脱ぎ捨て、野原の中ほどに向かって素足で駆け出して行き、芝生に仰向けに寝転ぶや「あぁ~最高に気分がいいわ」と叫んだので、理恵子も彼の方に駆け寄って行き、真似をして靴下を脱ぎ、隣に仰向けに寝転んだ。初夏の陽ざしを一杯に浴びた芝生は柔らか...美しき暦(19-2)

  • 美しき暦(19)

    理恵子の通う高校は、街の北外れに位置する小高い丘陵の上にあり、校舎裏のなだらかな広場は生徒達に人気のある憩いの場所である。新しい芽をふいた欅の大木を中心に広がる芝生の草原は、街の中ほどを流れる川、それに沿って奥羽本線の鉄路が一望できる、この街唯一の眺望の良い場所でもある。理恵子は、母亡きあと遺言にもとずき、周囲の人達の同意を経て故人の望んだ通り、山上健太郎・節子夫婦の養女となり、三人が仲睦まじく日々を送っていた。奥羽山脈の残雪が初夏の青空に映え、初夏の陽ざしがほどよく照り映える柔らかい芝生の広場は、土曜日のお昼どきは各グルーフ毎に弁当を広げる生徒の輪でにぎあう。中間試験を悲喜こもごもに過ごした生徒達は、この時期、新しい友達も出来て開放感で明るい表情に満ちて、各競技の対外試合をはじめ、夫々の部活の練習や打ち合わせ...美しき暦(19)

  • 美しき暦 (18)

    健太郎は、駅頭にたたずみ、久しぶりに見た奥羽の山並みは、時を経ても、その姿は変わることなく悠然と構えていた。新緑の萌える木立の中に宝石をちりばめた様に、山桜が晩春の陽光に映えており、それは、人の世の基本である保守的な部分を象徴しているようにも思えた。一方、不変の峰々から流れ来る川は、世の清濁を合わせた様に、時には激しく流れて川辺の岸を削り周辺の模様を変容させながらも、反面、静かに流れゆく様は、社会の進歩的な有り様を連想させてくれる。小高い山並に囲まれ、一筋の広い川を挟んで静かにただずむ田舎町の自然な光景である。皆が、それぞれに思いを胸に描いて楽しく奥羽の旅から帰って早くも一ヶ月が過ぎ、平穏な暮らしに勤しんでいた。節子さんは、晴れて健太郎の妻となり大学病院の看護師に、理恵子は高校にと通い、秋子さんは胃癌手術後、自...美しき暦(18)

  • 美しき暦(17)

    健太郎は、この地を離れてから久振りに降り立った奥羽の駅は、駅舎も新しく装い、正面の通りも広くなり町並みに新しいビルが整然と建ち並び、雪国特有の重苦しい雰囲気から脱皮して、都会的な明るさが感じられた。合併で市や街の名前が変更され、なにか心の片隅に寂しさもよぎったが、それよりも、駅のホームに健太郎の大好きな明るいメロデイーである「青い山脈」が流されていた。街の片隅の建物や路地裏に目をやると昔の面影が残っており、それらが郷愁を甦らせて懐かしさがこみ上げてきた。節子さんの妹さん夫婦が迎えに来てくれた車に乗り、少しゆっくりと走って貰い、説明をうけながら街並みを感慨をこめて見ながら家路に向かった。越後同様に雪解けが遅いが、ここ奥羽の街も山の懐に抱かれ地形的や季節的にも似ており、遅れて訪れた春も短く、郊外の田圃の早苗が揃った...美しき暦(17)

  • 老いのつれずれ(2)

    毎年のことながら、年初の1月は他の月に比べて長く感じる。年々老化が進み日常に変化が乏しくなっているためか?然しながら、今冬は連年に比べて寒気が停滞し、身近なところで灯油の消費が昨年の倍で、原油の高止まりで仕方ないが、食品など生活必需品などの買い物の外出回数をへらして、家計の均衡を保っている。老いの身では寒さが何よりの大敵で、罹患した時の医療費を考えれば、避寒対策は最大の生活防衛策と思う。幸い、今冬は降雪が少なく、今日現在、屋外累積約1m屋根上約25㎝で、昨年同期に比し除雪費の出費がなく大助かりだ。報道では除雪作業員が少なく関係者が苦慮しているとのこと、あれこれ考えると、このまま厳しい寒気は耐えるとしても大雪は勘弁してほしいと願うばかりだ。さて、気候とは離れて外部環境を顧みると年初からすざましい1月だった。「寅年...老いのつれずれ(2)

  • 美しき暦(16)

    緩やかに傾斜して街に連なる棚田の稲も生育して、緑のそよ風を丘から街へと爽やかに吹き抜けてゆく。雪解け水で増量した小川の流れも勢いがよく、それが川淵の残雪を削り落とし川面に光を反射させて、名も知らぬ草の緑を一層輝かせている。毎朝、散歩の時に見る堰堤の桜並木もすっかり葉桜となり、川淵の猫柳も芽を膨らませ、日ごとに初夏の香りを漂わせている。理恵子も、高校1年生として元気に通学しているが、慣れぬ学園生活に戸惑っているようだ。それでも本人はもとより母親の秋子さんも、やれやれといった安堵感で一息つき、健太郎も彼女の愛くるしい笑顔を見ると、わが子のようで祝福せずにはいられない気持ちになる。秋子さんが、実家と里帰りしている節子さんに根回しして、自分の体調を考慮し、この暖かいときに予定より少し早いが帰郷したいと連絡したとみえ、実...美しき暦(16)

  • 美しき暦 (15)

    節子さんが、奥羽の故郷に帰って半月が過ぎた今日この頃、それまで一人身の生活に慣れていたものの、夕闇が迫ると空虚さを無性に感じ、花瓶の花も心なしかうなだれて見える。ポチも囲炉裏端で静かにして、時々、健太郎の顔を上目で覗き見しながら退屈そうだ。几帳面な彼女らしく、毎日夕刻に電話をかけてくれ、互いの日常生活の連絡を話しあい、知人への挨拶廻りや荷物の整理に追われているが、夜、床に入るや新しい仕事のこと、結婚後の生活設計、それに秋子さんの病状等考えると、思いが纏まらないまま眠れない時が過ぎて行くと話していた。雪国の春の訪れは遅い。けれども、連休が終わる頃には、短い春が過ぎて一挙に初夏の香りが漂い20℃前後の温暖な日が続く。空は毎日青く透き通る様に晴れわたり、長い冬篭りの中での欝屈した様々な想念が、青空に奔放に駆け上がって...美しき暦(15)

  • 美しき暦 (14)

    丘陵の麓に広がる林檎畑に白い花が咲き乱れるころになると、小川のほとりの猫柳も芽吹き、山里にも一年で一番美しい緑萌える季節が確実に訪れる。新しい生活の準備に追われた日々も、どうやら一段落してそれなりに落ち着き、節子さんも久し振りに実家に帰ると言うので、奥羽も越後同様に雪深い土地なので、幸い小雪の年とはいえ、道路事情を考慮して列車を利用することにし、健太郎は車で彼女を駅まで送り、その帰り道に気になる秋子さんの家を覗いてみた。裏口を開けると、日曜のため、理恵ちゃんが元気良くニコツと笑いながら顔を出し「おじちゃんこんな早い時間に来るなんて、どうしたの?」と尋ねるので、節子さんを駅まで送った帰り道で母さんの顔を見にきたと告げると「あらそうなの~」「本当は急に寂しくなったから、話し相手を欲しくて、かあさんの顔を見にきたんで...美しき暦(14)

  • 老いのつれずれ

    遂に満89歳を迎えた。長寿は果たして良いものか、何気なくフト考えこむことがある。かえり見れば、戦中戦後の貧困の時代をさして苦にもせず、ひたすら”青い山脈”の歌に乗せられて遠くに望む越後山脈の峰を眺めて、いつかは夢を実現できると思いこみ、今日この頃の厳寒吹雪を見るにつけ、豪雪の中を夜間高校に通った青春時代を懐かしく思いださせる。当時とは生活環境が異なるとはいえ、本朝も7時半に小規模の群れをなして、本日から学校が始まる小学1年生を見て、果たして彼はどんな夢を心に描いているのだろうかと、しみじみ考えさせられた。ここ越後の北の山沿いの小さな部落でも、昨年の今頃は、家が倒壊するのではないかと日々降雪を見て心を悩ませたが、今年は、報道では連日大雪警報が発せられているが、不思議なことに当村では降雪があったが間もなく消雪し、今...老いのつれずれ

  • 美しき暦 (13-2)

    節子さんは入浴後、夜化粧をしたあと掘炬燵に入り、TVニュ-スを見ている健太郎の脇に腰をおろして、リンゴジュースを飲みながらゆったりした気分でいると、こんな時間にめったに鳴らない電話が鳴り、健太郎が彼女と顔を見合わせて出てみると、賑やかな声に混じり居酒屋のマスターの響くような声で「今。老先生や息子さん夫婦とお孫さんが揃って珍しく店に来ているわ。例のヤンキー娘も交えて今日の参加者で、店は大繁盛でこんなことは、めったにないので、先生(健太郎の別称)も奥さんを同伴してこられませんか」と、誘いの案内だった。健太郎は「それは結構だなぁ。けれども、彼女も初めてのことなので緊張していたせいか、多少疲れている様なので遠慮させて欲しいが・・」と丁寧に断ると、老先生に電話を代わり「いやぁ、今日は大成功だった。皆んなも喜んで、また...美しき暦(13-2)

  • 美しき暦 (13)

    春の連休が終わる頃になると、山里の夕暮れも一時間位延びて、午後5時頃とゆうのに外は明るい。それでも夕方になると、晴れた日ほど山脈から吹き降ろす風が冷たく、道端の小川の流れも雪解け水を含んで流れも早く、瀬に当たって砕け散る水が夕日にきらめき一層冷たく感じられる。雪解けの遅い山麓の川端には、早くもフキノトウが今を盛りと黄色く可愛い蕾の顔を覗かせており、心を和ませてくれる。音楽とダンスの親睦会も楽しく無事終えて、ほどよい興奮の余韻を残しながら、狭い農道を四人が揃って家路に向かって歩き、鎮守様のところで秋子さんと別れるとき、彼女が節子さんを呼び止め少し離れたところで、なにやら二人で話しあっていたが、その隙に、理恵ちゃんが健太郎に対し、会場で話したことが言い足りないのか、再び、話を蒸し返して「おじちゃん、節子小母さんがダ...美しき暦(13)

  • 美しき暦 (12-2)

    ダンスが始まるや、節子さんは老先生の配慮で、いずれ大学病院に勤務したときにはお世話になるであろう、老先生の息子さんの正雄とペアを組むことになった。彼は大学病院に臨床医兼講師として大学に隔日おきに勤務するほかは、診療所で親子して診察に出ている40歳代の外科医である。正雄医師は、老医師が英国に滞在研修中に彼の専属看護師をしていたダイアナと結ばれて生まれた、英国人とのハーフであり、瞳は黒いが細面で痩身の体形は見るからに外国人風であるる。ちなみに、正雄医師の妻であるキャサリンは純然たる英国人であり、現在は薬剤師として診療所に勤めているが、性格も控えめで優しく、一人娘である小学生の美代子のPTAにも積極的に参加し教育に熱心である。老医師は、この一人娘のお孫さんが自慢で日頃とても可愛いがっており、彼女が傍に近寄るとあの謹厳...美しき暦(12-2)

  • 美しき暦(12)

    山合いの街で開催された春恒例の慰労会。当日は、朝から晴れわたり、普段限られた人達だけの会話と異なり、近隣町村の参加者の中には連休で帰郷していた人達の顔も見えて話題も増え、会場は賑やかな会話で盛り上がって、皆は本能的に身体を動かしたい心の躍動感に誘われている。遠くの飯豊連峰も白銀で神々しく眺望でき、なだらかなスロープを描いて駅のある街場に連なる緑の棚田も、雲ひとつない青空のもと、早苗が植えられた水田の水がキラキラと日光を反射させて眩しく輝いていており、まるで光る池のようだ。連休最後の日曜日を利用した慰労会は、中学校の運動場で開催され、近隣市町村の老若男女を交えた人々で賑わい、卒業生を加えた人数が増えた吹奏楽の演奏から始まり、華ばなしく開催された。この慰労会は、農作業で疲労した身体を癒す人々や、サラリーマンで運動不...美しき暦(12)

  • 美しき暦 (11)

    社会主義国とはいえ、庶民の中に儒教意識の残る中国では、世界中の資本市場が欧州の金融不安で騒いでいるのに対し、自国の経済方針を堅持して悠然と伝統的な慣習を守っている。政治体制とは別に、大陸的な人間性もあるのか、歴史の重みを考えさせられる。健太郎の住む街も、都会の急激な価値観の変化や煩雑さとは異なり、田植えを終わり春の農繁期が過ぎると外仕事も一段落して、人々は毎年恒例の憩の行事を楽しむ習慣がある。けれども、若い人達が持ち込む合理的な都会の文化が、山村の古き良き伝統を大事に受け継ぎながらも、少しずつ古い慣習の岩盤が静かに移行し改められている。つい、一昔前までは、冬季は出稼ぎや藁仕事などで過ごしていたことを思うと、最近の機械化された農業とは覚醒の感を覚える。先日も、恒例の定期健診があり、村の旧家で医院を開業している老医...美しき暦(11)

  • 美しき暦 (10)

    中春の晴れた日の昼下がり。健太郎は縁側に出ると、何時もの習慣で煙草をくゆらせながら辺りを漠然と見渡し、紺碧の青空のもとに白銀に輝く山脈の峰々を眺望していると、何時ものことながら神々しさを感じ、千古の昔から人々が山岳の神に畏敬の念をもち、先人達はあの山の彼方に幸せがあると信じて、日々の生活に希望をいだき苦難に耐えて励んできたこと。さらには棚田や路傍の石碑を見るにつけ、名もない人々が積み重ねてきた故郷の歴史の重みを思い浮かばせた。富士山をはじめとして、全国の小高い山々にいたるまで、頂上に『権現様』が祀られているのは、その証しと思はれ、神が仮の姿で現れていると表現した、先人の生活の知恵に心を奪われた。そんなもの思いに耽っていたところ。新任教師として初めて下宿でお世話になって以来10数年振りに逢う、節子さんの母親と妹夫...美しき暦(10)

  • 美しき暦 (9)

    健太郎の家は、先々代から受け継がれ、床柱や梁それに唐紙戸などに欅材を豊富に用いて建てられている。茅葺で間数も多く居間の天井も高く造られた、今では村でも古い骨董品のような家であるが、どことなく重厚で威厳の趣きがある。周囲は防風雪の杉木立に囲まれ、裏庭は小高い丘に向かって杉や楢の木に柿や栗の木が数本混じって、あまり手入れされることもなく少々荒れて繁茂しているが、片隅には小川から流れ落ちる水を利用した人工池があり、飯豊山脈を遠くに望む東向きの玄関脇は50坪ほどの芝生の庭や畑となっている。家を出ると道に沿って農業用の狭い小川が流れており、両側の田圃の畦には昔ながらに稲をはさ架けするハンの木が5本くらいずつ適当な間隔をおいて植えられ、整備された土の農道を3百米位東に行くと、街の中心部に通ずる舗装された県道が一本はしり、そ...美しき暦(9)

  • 美しき暦(8)

    残雪に映える飯豊連峰を遠くに望み、ゆるやかな傾斜に棚田が連なる小高い山並みに囲まれた農村は、昼の陽気も余熱を残すことなく夕方は冷え込む。この村の、古い家は、たいてい座敷が広く天井も高いので朝夕は部屋も冷えて、この時期、夕方になると部屋の中央に作られた大きい囲炉裏に炭火を赤々と燃やし薪ストーブで暖をとることが慣習となっている。夕暮れも迫った頃。健太郎は、母親に連れられてピアノの練習に来ていた理恵ちゃんを相手に話を交しながら囲炉裏火を用意しているところに、突然、なんの前振れもなく節子さんが訪ねて来てたので二人はビックリし、秋子さんも台所から顔を出して機嫌よく出迎えた。節子さんは新潟大学に用事に行き、その帰りに寄ってみたと話していた。健太郎と理恵ちゃんは、挨拶もそこそこに大急ぎで拭き掃除をして部屋を整え、秋子さんは家...美しき暦(8)

  • 美しき暦(7)

    今年の越後の春は例年と異なり、豪雪がまたたく間に消雪した後、急に初夏が訪れた様に気温が上がり、遅れていた棚田の耕作も始まる頃には、丘陵の緑も増して夏の香りが漂っていた。連日晴天が続き、空はつき抜けたように青く、人々の心も何となく軽るそうだ。連休が終わるころには、辺り一面の田圃が若々しい早苗で緑の世界に変貌することであろう。樹齢8百年と言い伝えられる鎮守様の杉の大木数本も薄黒く繁り、祖霊が宿り村を守っていてくれると思える。境内に設けられた保育園では、幼児達が賑やかに戯れて微笑ましい光景を見せてくれ、嬉しそうにはしゃぐ声が明るい春の到来を告げていた。健太郎は、杉木立に取り囲まれた、お寺の参道脇にある、お稲荷様の門前に生涯学習会の帰りに差し掛かると、留守居を頼んでおいた理恵ちゃんが、同級生らしき3名の女の子と賑やかに...美しき暦(7)

  • 老いのつれずれ

    老いの先走り。と、最近周囲から言われることが多くなったが、いったん気になるととどめがない文明の行き着くところかもしれないが、二酸化炭素の大量派出に起因する気候温暖化の果て、やがて訪れる今冬も、気象台の長期予報によれば、ラニーニャ現象で偏西風波動が原因でシベリア寒気団が南下し、北陸.信越方面は豪雪とのこと昨冬は、1~2月は、屋根の雪下ろし2回(いずれも建設業者に依頼)・雪道の凍結により老妻の転倒骨折入院に伴う3日おきの通院・竹林の倒竹の整理と、振り返ると87歳の我が身としてはよく頑張ったと思う厳寒は仕方ないとしても、豪雪に伴う道路の寸断・迂回など日常生活に影響が出ると思うと、老いの単身生活で今からやりきれない思いがするついでに記すと、総選挙。内政に良し悪しはあるとしても、現在、国際的に発言.行動できる政治家は独の...老いのつれずれ

  • この気候たしかに変だ

    齢88歳。人とのつきあいが苦手で越後の山奥に移住して5年目。戸数30軒の小さな部落で、なんとか高齢な人々と話し合える段階にまでこぎつけて、日常生活も精神的に楽になり念願がかなった。しかし、若い人たちは皆町場に出て仕事をしており、いぜん顔も見ない有様だ。米作以外現金収入がない部落では、農業年金なんて雀の涙程度で仕方ない。共済年金で暮らす我が身は恵まれいる方で、これ以上何も望まない。とは言っても、最近の気象は確かに変だ。東海地方の人達にとっては誠に不謹慎な話だが、6月半ばころから降雨がなく、毎朝晩、白く乾いたた小さな畑に水まきが、当初は唯一の健康管理と黙々と励んでいたが、20日も過ぎた頃からは苦痛を帯びてきたが、とうきびや枝豆・里芋・大根などをみるにつけやめる訳にはゆかない。これが、気候温暖化と身近に感じる。書いて...この気候たしかに変だ

  • 雨後の筍

    ”雨後の筍”とはよく言ったものだ齢88歳人生の大半を都会で過ごして言葉としては生半可に覚えていたが、余生を閑静な田舎に求めて山間の部落に転居し、今冬の豪雪になやまされ、老人にわ余計な仕事と悔やみながら、50本位の倒れた竹の後始末に悪戦苦闘した4月に入り周辺の山並みが残雪に輝き麓が緑に染まりはじめたころ、竹林周辺の敷地に筍が頭を出し始め、中頃になるとその数が増し竹林が広がるのを恐れて、毎朝、彼らの頭を鍬で切りながら南無阿弥陀仏と心に唱えながら整理するのが日課になってしまったたまに食料調達に町に出てスーパーによると、筍が1本400~500円してるの見て驚き、飽食の時代とはいえ、戦後の食糧難を経験した我が身には、朝の日課が罰あたりに思えてくる今日この頃である雨後の筍

  • 山と河にて (28)

    二人姉弟である大助の姉、城珠子は、老人介護施設に勤めてから2年目となり、最初は戸惑った仕事の運びも、入所者の心情を少しでも理解仕様と日々努力したことが実を結び始めてきて、悩みと障害を抱えるお年寄りの人達とのコミュニケーションも、どうやら上手くとれるようになり、職場でも人気が出てきて、それにつれ仕事にも幾分心に余裕を持って臨める様になった。そんな珠子の周辺では、永井君との結婚話が秘かに進んでいた。彼女は毎日お年寄りを見ているためか、自分が嫁いだあと、一人身である母親の孝子に、将来、必ず訪れる介護のことが時に触れ脳裏をよぎり、確かに結婚するには若すぎる弟の大助と、日頃、まるで親戚同様、お互いが家族的な付き合いをして気心が知れ、実の妹の様に可愛がっている奈緒との交際関係が、自分が望んでいる様に進んでいないことが、唯一...山と河にて(28)

  • 豪雪に想う

    齢88歳。越後の北、山麓に暮らす東京育ちの住人。まだまだ予断を許さないが、1月から2月初めにかけての豪雪・寒冷は、昨夏の酷暑から想像して厳しいものになるとは予想していたが、予想を超えるはどすざましかった。石川.富山など北陸各県、なかんずく上越の豪雪被害は毎日のニュウスにながれいたが、我がふるさともこれに劣らず一晩で屋上1mを超す降雪で、老齢で一人暮らしの身では除雪もできず毎日家屋倒壊を心配していざとゆうときに備えて避難準備の用具もそろえた。村当局も心配して人不足のなか業者を紹介してくれ、1週間後ようやく屋根周辺部のみ除雪しくれ難をのがれた。記憶をたどれば、戦後、豪雪で有名な魚沼に疎開して電信柱の頭をなでて中学に通ったころ、公務員として勤め始めた昭和32年ころの業務そっちのけの連日各家の除雪作業に追われた青年時代...豪雪に想う

  • (続) 山と河にて 14

    大助は、美代子に案内されて階段を上がり、毎年遊びに来ては泊まらせてもらっている2階の広い12畳の座敷に入ると、すでに暖かそうなフックラとした布団が用意されていた。部屋の床の間には”月落ちて烏啼き・・”の七言絶句の見慣れた漢詩が掛けられ、中庭の松の大木が枝先を窓際の廊下の近くまで伸びている、落ち着いた雰囲気の部屋である。この部屋の南隣は美代子が使用している洋式の部屋である。隣りの部屋は家の中央に位置した12畳の座敷で、東側には煌びやかに装飾された大きな仏壇と少し小さい仏壇が並んで設けられ、反対側の隅の棚には木彫のキリストの十字架像、その脇にマリア様の優しい眼差しの絵画が飾られた部屋になっている。案内されて泊り慣れた部屋は、この両側に挟まれている。美代子は、枕もとのスタンドを用意したあと、自分の部屋から紙の手提げ袋...(続)山と河にて14

  • (続) 山と河にて 13

    老医師が、大助と暫く振りに再会した機縁等を愉快そうに雑談し終えて機嫌よく部屋を去ると、美代子は待ちかねていたように、彼に「わたし、どうしても自分の考えをお爺さんに判って貰いたいので少しオーバーに言うので、大ちゃんも遠慮せずに考えていることを話してネ。頑張ってよ」「お爺さんの顔を見ていて、大ちゃんが反対しなければ大丈夫だわ。わたし自信が湧いてきたわ」「なにしろ、お爺さんは君と一緒にいたいのよ」と話すと、大助は「美代ちゃん、僕達の生活を大事にするなら、少し落ち着いて考えてくれよ」「若し、お爺さんが納得してくれなければ、本当に家を出るつもりかい?」「大体、僕が君の稼ぎで勉強できるとも思っているんかい。そんなこと、とても出来ないわ」と答えると、彼女は怒りを込めた目で「わたし本気よ。パパも応援してくれると言っていたじゃ...(続)山と河にて13

  • (続) 山と河にて 12

    美代子は、ラーメン店で寅太と三郎に礼を言って帰宅する道すがら大助の腕に手首を絡めて甘えていたが、自宅の玄関前に来ると立ちどまり大助に念を押す様に、普段の強気な彼女に戻り「明日は、わたしの家に引越しするのょ。わたしも、お手伝いするゎ」と、彼の腕に絡めた手に力を込めて、当たり前のことの様に、こともなげに言うので、彼はとっぴなことを急に言はれ「エッ!そんなこと誰が決めたんだい」「僕は、そんなことは頭の中に全然ないよ」と返事をすると、彼女は言葉に力を込めて「わたしが、決めたことょ。いいでしょう」「これから、お爺ちゃんとママに、わたしの堅い決心を説明するの」「大ちゃんも、わたし達の幸せのために、お爺さんに対する説得を応援してね」と平然とした顔で答え、彼に反論の隙を与えなかった。彼は、彼女に逆らって感情を刺激して、玄関で言...(続)山と河にて12

  • (続) 山と河にて 11

    老医師であるお爺さんは、美代子の切羽詰った話と表情を見ていて、孫娘の誇大すぎる悲壮な話と思いつつも、内心では彼女の心情を理解出来き、余りにも自己中心的な考え方に困惑を覚えた。その一方、中学生の頃から可愛いがっていた、大助を自分のそばに置いておきたい願望もあり、考えも纏まらないままに「よしっ、ご飯にしよう」と言って、彼女の話を遮り、キャサリンに夕飯の用意を催促して用意させ、皆が食卓についてキャサリンが大助君のお茶碗に御飯を盛り付けようとしたとき、彼女は「ママッ!大ちゃんのことは、私がするからいいゎ」と言って、キャサリンからお茶碗をとり上げて、自分で不慣れな手つきでご飯をよそって、祖父や母の目をチラット見て恥ずかしそうに大助に差し出した。お爺さんは、その様子を見ていて、思い込みの強い彼女の性格から、彼女の言い分を否...(続)山と河にて11

  • (続) 山と河にて 10

    姉妹編「河のほとりで」・「雪の華」・「山と河にて」に続くあらすじ}地方の医院で裕福に育った美代子は、所謂、英系のハーフなるがゆえに中学・高校時代、厳しい批判や差別に悩みながらも、抜群の運動神経を発揮して水泳では常に県大会で入賞するほど逞しく、培われた忍耐力で数々の苦難を凌いできた。そんな彼女も中学2年生の夏に、街を縦断する河で水泳中に起きた偶然の出来事から、東京から知り合いに遊びに来ていた、城大助の陽気で優しい思いやりのある態度に、何時しか自然と心を惹かれて恋に落ち、高校時代を通じて華やかな青春を満喫して過ごし、逢う瀬を重ねる毎に二人の淡い恋を深めていった。高校卒業直後の春。家庭の事情とはいえ街を離れて、母親のキャサリンの故郷であるロンドンに移住したが、初秋に帰国後、地元の医療福祉関係の大学に進学して日々を送...(続)山と河にて10

  • (続) 山と河にて  9

    老医師は、玄関口で挨拶もそこそこに済ました大助を、満面の笑顔で手を引いて居間に連れて行ってしまった。やがて、お茶では物足りなくなったのか、老医師が大声でキャサリンに愛飲のウイスキキーと氷を持って来る様に催促し,機嫌のよい声にキャサリンも心が和らいだ。何を話しあっているのか二人の愉快そうな明るい笑い声が、病院の入り口にいる美代子と朋子にも廊下の空気を揺るがすように聞こえて来た。気が抜けた様に入り口の廊下に座り込んでいた美代子は、看護師の朋子さんから「美代ちゃん。恋人が訪ねて来たとゆうのに、なによ、そんな青ざめた顔でしゃがみ込んで・・」と、声をかけられ受付の部屋に連れて行かれた。、親しい朋子の説得に少し落ち着きを取り戻した美代子は朋子に対し、今日の出来事を涙混じりに愚痴を零していたところ、今度は老医師が大助を連れて...(続)山と河にて9

  • (続) 山と河にて 8

    美代子が、何も語らず腕組みしている大助を、兎に角、いったん飯豊町に連れて帰るべく、懸命に促していたところ、正雄とともに部屋に戻って来た静子が「美代子さん、貴女のお悩みと、これからのことについての考えをお聞きしましたゎ」「私も、そのお考えに賛成で是非協力させていただきますが、私のマンションでは何かと精神的に抵抗感があると思いますので、あくまでもお父様の所有するマンションと理解してくださいね」と、思いやりのある言葉をかけてくれ、続いて正雄が「順序を踏んで冷静に話を進め、普段通りに勉強するんだよ」「転居することについては、お爺さんやキャサリンの考えもあり、又、相談しましょう」と口添えしてくれ「皆で、レストランで夕食を食べようか」と誘ってくれた。寅太と三郎は、昼をカップラーメンで過ごし物凄く空腹を覚えていたが、立派なホ...(続)山と河にて8

  • (続) 山と河にて 7

    美代子達は、新潟駅近くにある高級ホテルに入ると、広い座敷の中央に置かれた大きいテイブルを挟んで座った美代子に、養父の正雄はにこやかな顔をして「やぁ~暫く見ないうちに、大学生らしく立派な女性に成長したねぇ」「急な電話で驚いたが、さぁ~ここに来て、どんなこでもよいから遠慮せずに話してごらん」「美代子も判る通り、今の私には出来ることは限られているが、それでも私に出来ることなら精一杯のことをしてあげるから」と、優しい言葉を掛けられ、彼女が心の落ち着く間もなく、医師らしく「少し顔色が冴えないが・・」と言葉を繋いだ。彼女は、久し振りに対面した父に、懐かしさと憎さが入り混じった複雑な思いを抱いたが、高ぶった気持ちを抑えられず、養父である正雄に対し、青ざめた顔で、いきなり「わたし、本当に生きる力を失ってしまったゎ」と返事をした...(続)山と河にて7

  • (続) 山と河にて 6

    秋の夕暮れは早く、美代子達が屋外に出ると夕闇で薄暗かった。寅太が運転する車は、家並みが関散な町を通り抜けて、ビルの乱立する市内の中心部に入ると、街灯とビルから漏れる明かり、それに彩りの綺麗な店舗のネオンやイルミネーションに街頭が華やかに照らされ、人々が群れて華やいでいた。寅太は、後部座席に乗った大助と美代子の様子に気配りしていたが、助手席の三郎が「明るいところに出ると少しは気も晴れるなぁ」「オイ寅っ。これからどうなるんだ」と声をかけると、彼は憮然として「そんなこと、俺にも判らんよ」と答えたので、三郎は「話が段々と悪い方に進んで行くみたいで・・、昨日は高いカツ弁を食ってしまったわ」と悔やんで、溜め息混じりに呟いた。美代子は、無言で正面を見ている大助の左腕に両手を絡ませ、縋りつくように身を寄せて顔を近ずけ、小声で「...(続)山と河にて6

  • (続) 山と河にて 5

    寅太が、美代子を連れて突然訪れたことで、異様な雰囲気に包まれた薄暗い部屋の空気を破る様に、大助がポツリと小声で「寅太君、階下でお湯を沸かしてきてくれないか。お茶でも飲もうや」と口火を切ると、寅太は予想外の大助の言葉に緊張感がほぐれ一瞬の安堵感から反射的に「ヨシキタ!。ヤカンはどれを使ってもいいんだな」「急須と茶碗はあるんかい」と返事して、勢いよく立ち上がり、三郎を連れて部屋を出て階下の共同炊事場に行った。階下の流し場に行くと、三郎が寅太の顔をジロジロと眺めまわして「なんだ、殴られたアザや傷跡がないが・・」と呟くと、彼が「これからだよ、コレカラダッ!」「俺一人より二人の方が、間隔があいて、少しは大助君の力もやわらぐので痛くないだろうしな」と答え、薬缶をレンジにかけると、三郎にむかい「さぁ勇気を出して、お湯が沸いた...(続)山と河にて5

  • (続) 山と河にて 4

    中秋の飯豊山麓の街は、秋雨がシトシトと降っていて少し肌寒い日であった。土曜日の昼頃。美代子と三郎の二人が、約束通り山崎商店の入り口脇の軒先で、一つの傘の中で身を寄せる様にして話し合うこともなく、なにか怯えるようにして佇んで寅太の車が現れるのを待っていた。すると、山崎社長が突然店から出てきて二人を見つけ「いやぁ、二人揃って珍しいねぇ、店の中に入ればいいさ。何か特別の買い物かね?」と声をかけたので、三郎は正直に「これから新潟に行くので、寅太の車に乗せて行ってもらうんだ」と返事をしているところに、寅太が空のダンボール箱を抱えて出てきてワゴン車に積み込んだ。彼は社長に平然とした顔つきで「大学に定期配達に行ってきます」と作業予定を話すと、社長は美代子達の顔をキョロキョロ見ながら、寅太に「診療所のお嬢さんを乗せ、お喋りして...(続)山と河にて4

  • (続) 山と河にて 3

    寅太は、同級生とはいえ成績が優秀であったことと、大学生になって一段と大人らしい艶を増した美代子に対する畏敬で、内心では、大助と交わした約束もあり、いざ、この場に及んでも話すことを一寸躊躇した。それでも、日頃、彼女の元気のない表情を見るにつけ気になり、同情心から、やはり話してしまおうと腹を決めるや、重い口を開いた。彼は彼女の表情を伺いながら用心深く、そろりと小声で「美代ちゃん。大助君は新潟にいるよ」「俺、一瞬、他人の空似かと自分の目を疑ったが、思いきって近寄り話し掛けたところ間違いなく大助君だった」「この話しを、社長や老先生に話ししようかと、散々悩んだが、大助君の立場を考えた末、美代ちゃんも大学生だし、直接話す方が一番良いと思い、今、話すんだよ」と、話し出した。美代子は寅太の話を聞いた瞬間、驚いて青い瞳を輝かせて...(続)山と河にて3

  • (続) 山と河にて 2

    寅太は、校舎裏の丘陵に綺麗に咲いている赤茶色のカキノモトの畑を通り過ぎて、眼下に駅舎が望める杉の下に僅かばかり広がる野原につくと、自転車を横に倒して腰を降ろし「ここが人目につかずいいや。美代ちゃんも座れょ」と言ったとき、繁茂するススキの中から三郎が大声で「オ~イ何処に隠れた~」と叫んだので、寅太は苦々しく「あの野郎辺りをはばからず無神経で大声を出すので、これだから嫌になっちゃうんだよなぁ~」と、眉間に皺を寄せて不機嫌そうにムッとして「此処だよもっと小さい声で静かにいえッ!」と、愚痴ったことも忘れて、三郎に負けず劣らず大声で返事をして場所を教えた。裏山に誘われて来るときは、ご機嫌で明るかった寅太が急に不機嫌になったことに対し、美代子は「寅太君。そんなに怒ることないわ」「私達、中学生時代の同級生で普段仲良しにしてお...(続)山と河にて2

  • (続) 山と河にて

    母親の母国であるイギリスから帰国して間もない美代子は、前日の校内マラソン大会の疲労で熟睡していたが、大助が沿道でニッコリ微笑んで手を振っている夢を見てハッと目を覚ました。この夢は果たして良い知らせなのか、或いは怪我や病気の不幸な暗示なのかと、しばしベットの中で思い巡らせていたが、思案するほどに胸が締め付けられる様に息苦しくなり、起き上がって出窓のガラス窓をあけて大きく息を吸い込んだ。飯豊山麓の晩秋の冷えた柔らかい風が頬をなで、空を見上げると、十三夜の月が煌々と夜空を明るく照らし、そのため他の星は、遥か遠くの方に離れて霞みチラチラと瞬いていた。俗に”西郷星”と呼ばれる火星だけが月とほどよい距離を保ってポッンと妖しげな光を放って瞬いていた。眺めているうちに、神々しさを感じて冷静さを取り戻した。彼女は妖しげに瞬く火...(続)山と河にて

  • 山と河にて (31)

    ハプニングに富んだ結婚式が終わり、皆が休憩室で休んでいるうちに、式場が披露宴の会場に変わると、珠子は化粧直しをして、薄緑色のスーツに衣替えして、昭二と連れ立って各席をニコヤカニ笑顔を振りまきながら挨拶廻りしていた。健ちゃんは、隣席に座った永井君の手を堅く握り、感激した面持ちで「やっぱり、君は頭がずば抜けていいわ、感心したよ」「それにしても、随分、手の込んだ脚本と演出で、今日の演技はアカデミ~賞ものだよ」と言って、彼の肩をポンと叩き頭を下げて礼を言った。永井君は、健ちゃんのお礼に対し、手の掌を顔の前で何度も横に振って、にこやかな笑顔で「とんでもない。僕こそ先輩にお礼をしたい気持ちで胸が一杯ですよ」「僕の真意は、ホレッ!。夏の登山訓練で、健ちゃんから結婚後の大人の生活について色々と教えてもらった頃から、珠子さんは勿...山と河にて(31)

  • 山と河にて (30)

    永井君が、宣誓に答えることなく沈黙を続けていたので、牧師は優しく諭す様に「永井さんには、私の言葉が聞こえましたか?」と聞くと、彼は「ハイ」と、か細い声で素直に返事したので、牧師は親切に、再度「貴方は、新婦を生命のかぎり愛し・・」と、繰り返して告げると、彼は暫し間を置いて、参列者にも明瞭に判る様に、はっきりとした言葉で「僕は、誓うことができません!」と、自信たっぷりな口調で、牧師の顔を見て答えた。珠子は、永井君らしい聞きなれた何時もの元気のある声で、はっきりと答えたので、、瞬間、目前でおきた突発的で奇妙な現実を理解出来ず、訳もわからずに心の中で、アッ!救われた。と、思った。それは、今のいままで、官能小説の主人公とダブって連想していた屈序と羞恥に対する嫌悪感。重苦しく息の詰まるような思いで、今夜からの猥らな行為を、...山と河にて(30)

  • 山と河にて (29)

    錦秋の9月25日は結婚式にふさわしく、東京にしては珍しく空が透き通る様に晴れあがっていた。それに爽やかな微風も吹いて残暑をいくらかでも凌ぎ易いものにしてくれた。珠子は、朝早く起きて狭いながらも芝生のある庭に出て、日頃、心を癒してくれた百日紅やツツジ等の木々に、お別れとお礼の言葉を心の中で呟やいていたが、何気なしに庭の隅に目を移すと、大助が幼いころ多摩川の土手から採ってきて生垣に植えられている、わずかばかりのススキの穂が朝風に揺れており清々しい気持ちになり心が洗われた。隣のシャム猫のタマが遊んでくれるのかと勘違いして、垣根から飛び出してきて足元に絡みつき日頃可愛がっていただけに何時も以上に愛おしくなり頭を撫でてやったが「今日でお別れょ」と告げるのが忍びなかった。生垣のススキは、まだ大助が幼稚園児だったころの夏の日...山と河にて(29)

  • あわただしい季節の変化

    気候温暖化に起因する例年にない酷暑と巡り来た暴風雨で、気が休まる日のない夏だったが、九州の豪雨による災害・米西岸の連続した大規模山火事・シリアの森林火災などが強く印象に残る。ところが、北越後では、今冬の厳寒・豪雪を暗示するかのように、9月20日以降、気温が急激に低下し(これが例年並みなのか?)19℃~26℃と晩秋を思わせるほど肌寒く感じる日々が続いている。庭のヤマブキも咲き稲刈りもほぼ終えた風景を眺めて過ごしていると、慌ただしくめぐる季節の変化に老躯が追い付いていけるかチョッピリ不安になった。あわただしい季節の変化

  • 山と河にて (27)

    大助は、奈緒から美代子のことについて聞かれたとき、彼女の胸の中を慮って正直に答えてよいかどうか迷って、返事を躊躇していたので、二人の間に少し沈黙の重苦しい時が流れたが、この際、ある程度のことは正直に話しておいた方が彼女の心の霧が晴れるんでないかと思い『美代子は、家庭内の複雑な事情で、母親のキャサリンの故郷であるイギリスに行ってしまったよ。春、別れる時、お互いに、美代子は見知らぬ土地での生活、僕は規則の厳しい大学の寮生活と、夫々が、これからの生活に馴染むまで、連絡は取り合わないことにしようと約束したんだ。最も、これは、彼女のお爺さんが、僕達のことを気遣かって好意的に言ってくれたことなんだが・・。考えてみれば、若い僕達には当然のことで、目先の恋愛感情に溺れて、大事な勉強がおろそかにならない様にとの気遣いで言ってくれ...山と河にて(27)

  • 山と河にて (26)

    皆が黙々として、前を行く組に従い歩いているうちに、雲の切れ間から下界の緑が眺められる様になり、やがて暑い日ざしが照り映え、下からソヨソヨと吹き上げる生温かい微風は、風雨に濡れた身体や衣服を乾きやすくしてくれた。マリーは、ちゃっかりと六助に負ぶさっていたが、健ちゃんが大声で「もう直ぐ休憩小屋に辿りつくので、そこで服を乾わかし、休んで行こう」と声をかけて、疲労気味の皆を励ました。山の中腹にある休憩小屋に辿りつくと、荒れた天候も一変して雲一つなく晴れ渡り、夏の陽光が眩しく草原を照らし、薄紅色のハクサンコザクラや白や黄色の名も知らぬ小さな草花が綺麗に咲き乱れていた。暑い日差しにも拘わらず、そよ風が心地よく吹いていて、疲れた身体を癒してくれた。直子は、健ちゃんの背から降りると、まだ、六助の背から降りようとしないマリーを見...山と河にて(26)

  • 山と河にて (25)

    登るときには天候もよく、それほど苦にならなかった頂上への最後の急勾配の断崖も、下山するときには霧を含んだ風も吹いて岩石がぬれて滑りやすく、皆が、崖に吸い付くように足元に神経を集中して、緊張のあまり背筋に冷や汗を流しながら、一歩一歩足元を確認しながら降りた。大助は崖を降りる途中、眼前の奈緒の豊かに丸味を帯びた尻を見て、彼女も立派な大人なんだわと妙に触りたい衝動にかられながら、やっとの思いで登り口の勾配がやや緩やかになった尾根の登山道に降り立った。尾根の両側の下方を見ると、すでに霧が渦を巻いて奔流の様に湧き出てきて、左右の下方から吹き上げてくる風を遮るものが無いので、身体に当たる風も強く感じるようになった。一息入れて入る間にも天候が瞬く間に急変し、視界は全く塞がれて3メートル位離れた、前を行く六助達の組が見えなくな...山と河にて(25)

  • 山と河にて (24)

    健ちゃんは、皆が崖淵の方に景色を見に行った後、残ってもらった永井君と草わらに対面して座り「今度から、町内会や商店会に積極的に参加してくれるとのことだが、君は頭も良いと言うことだし、人当たりも如才なく柔らかくて、会員の親睦と商店街の発展に頑張ってくれ」「町内会は任意団体で法律的な裏付けがなく、纏めるのに苦労もあるが、君なら性格的にも適任だと期待しているよ」と言ったあと「聞くところによれば、珠子さんと結婚するらしいが、彼女とは同級生だろう?。兎に角、おめでとう」「俺が口出しするのも、出すぎている様で失礼だが、城(珠子)さんの家族は店のお得意様で古くから親しくさせてもらっているので、差し支えなければ、これまでのいきさつを聞かせて欲しいのだが」「君、珠子さんを幸せにする確かな自信があるんだろうな?。極めて当たり前のこと...山と河にて(24)

  • 山と河にて (23)

    皆が、お喋りしながら賑やかな昼食を終えると、マリーは六助をせきたてて仲良く手を繋いで池のほうに駆けていったが、健ちゃんは「お~ぃ!池に近ずくなよっ!」「はまったら、底なしの無限地獄だからなぁ~」と声をかけると、六助は振り返って「脅かすなよぅ~」と真顔で返事をし、興味深そうに覗いているマリーの手を引っぱって、水溜りの周辺から離して崖の方に駆けていった。皆が、健ちゃんの言葉にビックリしていると、教師をしている直子が、珠子達に対し「健ちゃんは、二人を冷やかして言ったのょ」「ポツポツとある池は、”池塘”と言って、ホラッ、尾瀬や火打山でも見られるゎ。高い湿原地帯に出来る、雪解け水等が泥炭層に溜まった沼なのょ」と説明したところ、皆は、納得して安心していたが、健ちゃんは「あの二人、単なる仲良しか、恋愛中なのか、よぅ~判らんわ...山と河にて(23)

  • 山と河にて (22)

    冷えた微風が漂う暗夜の午前3時。珠子達女性群は目覚まし時計で起きると、外の井戸端で洗面したあと、各人は昨夜健ちゃんから指示された通りに、宿のお女将さんのお握り造りの手伝いを終えると、部屋に戻って日焼け止めの薄化粧をしたあと薄手の長袖ブラウスにジャケットを着てジーパンを履いて装い、珠子の勧めで首に予め用意してきた色とりどりのタオルを巻き、揃って入り口前に出ると、すでに、男性群は支度を整え彼女達を待っていた。健ちゃんは腰に吊るした鉈で小枝を落とし杖を作っており、各人を見ると皆に渡していた。彼女等は、男性群は二日酔いで自分達より遅いと思っていただけに、口々に「流石に、男性は違うわね」とコソコソ囁いていたら、六助は彼女達の服装を見て「いやぁ~、登山訓練とはかけ離れて華やかだなぁ。まるで、フアッション・ショウーのようで、...山と河にて(22)

  • 山と河にて (21)

    鬱陶しかった梅雨も明け、初夏の訪れらしく風薫り空もカラット晴れた土曜日の昼下がり。この時期、親睦と健康志向を兼ねた、町内青年会有志による毎年恒例の登山には絶好の日和となった。肉店を経営する健太(愛称健ちゃん)の店先に集合していた大助達一同の前に、永井君が会社の大型ジープを運転してやって来たので、健ちゃんの指示で助手席に遠慮する珠子が乗せられ、皆は、ゆとりのある後部座席に乗り込んだ。誰に言われるともなく、大助と奈緒が前方に並んで座り、六助とフイリッピン出身の看護師のマリーの二人が大助に向かい合って席をとり、後部に町内青年部のソフトボール練習に積極的に参加している、小学校教師の直子と健ちゃんが並んで座った。この様な席順になったのも、健ちゃんと直子のペアを除き、お互いに心の中で相手に惹かれているものがあり自然の成り行...山と河にて(21)

  • 山と河にて (20)

    奈緒は、健ちゃんをカウンターに呼び寄せたが周囲のお客さんが気になり、落ち着いて話が出来なく、二人だけで部屋に入ることに少し躊躇したが、思案の末、奥の居間に健太を案内した。健ちゃんも、彼女の部屋に入るのは初めてで、彼女の誘いに一瞬躊躇ったが、奈緒の顔つきから難しい内緒話かと察し、オンザロックを手にして部屋の丸テーブルの前に座ると、奈緒は「真面目に話を聞いてネ」と念を押すと、彼は「少し酔ってはいるが大丈夫だよ」と返事をしたので、彼女は冷えた水を一口飲んだあと、俯いてコップを見つめながら、重苦しい口調で呟くように『実は、一昨日、お店が休みの夜、母さんとお店の飾り幕に刺繍をしていたとき、母さんがいきなり「お前、好きな人でもいるのかい?」と聞いたので、わたしビックリして「いる訳ないでしょう」と答えたら母さんは言いにくそう...山と河にて(20)

  • 山と河にて (19)

    珠子は、ベットの端に座らせられた瞬間、真新しい白い敷布を見て反射的に、このベットの上で自分と同様に見知らぬ女性達が感情を無視されて、彼の一方的で単純な性的欲望の対象として弄ばれているのかと直感的に思い浮かべ、嫌悪感から彼の話も耳にはいらなかった。珠子は取り立てて話す気にもなれず、早く立ち去りたいと思っていると、彼の母親がコーヒーカップをのせたお盆を運んできて、彼女の顔を見るると、安堵感から和やかな表情で「この子は、仕事はお父さんも驚くほど上手にこなすが、人生で一番大事な結婚のことになると、好きな人がいても、恥ずかしくてプロポーズなんて言えないよ。と、弱気になり、まさか、私が代わってプロポーズする訳なんて出来ないでしょう。と、言っても取り合わないんですよ」「珠子さんなら、この子の性格を補ってくれると、私は、あなた...山と河にて(19)

  • 山と河にて (18)

    大助は、美代子と別れて帰宅した夜、彼女の身辺に起きた複雑な事情を思案して、彼女の行く末を心配するあまり、精神的な疲労と寂寞感から、家族に詳しい内容も説明せずに自室に引きこもり床に入ったが、思考が整理出来ず寝付かれないままに真剣に考えた。それは、経済的に未熟な自分では、今は、彼女を幸せな生活に導けないが、彼女が自分を信じて献身的に尽くしてくれる愛情と、老医師であるお爺さんの自分に寄せる期待に背かぬ様に努力することで、何時の日かは、彼女の夢を叶えてあげることが、自分に与えられた男の責任だと堅く心に誓った。彼が寝静まったころ。母親の孝子は娘の珠子を部屋に呼んで、お茶を飲みながら静かな声で、美代子の家庭事情から、二人が別離したことを教え、大学生になったとはいえ、我が子ながらよく厳しい環境に耐えて一切表情に表さずに頑張っ...山と河にて(18)

  • 山と河にて (17)

    大助は、帰京の車中、窓外に広がる越後平野の田園風景と、残雪をいただいて晴天に映える青い山脈を眺めながら、美代子が用意してくれた海苔巻き寿司をほおばり、彼女と過ごした休日の出来事を色々と思い出して感慨にふけっていた。彼女は、朝、自分が気ずかぬうちに起きて朝食と昼の海苔巻きを用意してくれ、なんとなく心に漂った不安をユーモアな語り口で不安をかき消してくれ、長い別れの寂しさを億尾にも出さず、あくまでも自分の意志を貫く逞しい精神力と、時折、見せる気弱く感受性の烈しい彼女に、今更ながらその一途な気持ちがたまらなく嬉しかった。しかも、目標を定めて得心したら、家庭内の複雑な問題を少しも顔に出さず、目標に向かって励む精神の強さは、確かに自分を超えるものがあると思った。それに、死線を幾度と無く越えて老境を迎えた老医師が、孫娘の幸せ...山と河にて(17)

  • 家に帰る

    訳ありで16年前に家を出て、時運に乗り「軽費老人ホーム」入居を経て賃貸マンションで独居暮らしで過ごしたが、齢87歳、腰痛で入院加療・1か月後退院を機に我が家に帰ってきたヘルパーの支援を得て都会の便利な生活から、山奥のさびれた寒村に戻ってみると、覚悟していたとはいえ、病院はおろか郵便局や公共施設への遠距離徒歩・旧知の村人の高齢化でコミユニケーションの断絶は想像を遥かに超えて絶句した然し、もはや多額の費用を費やし歳や体力を考えれば、受け入れてくれる社会はなく、日常の生活環境を整備し”健康維持と平穏”を目標に暮らす覚悟を決めた今更、金銭欲もなくなり生活費の激減も心に響かない森の中にポツンと立つ古木のように、遠からず朽ち果てる自明の摂理を脳裏に刻み、日々最善を尽くすことにした”国破れて山河あり”家に帰る

  • 山と河にて (16)

    大助は、隣室の広い座敷にある豪華な仏壇の前で、お爺さんが朝の勤行である読経の際に鐘を打つ音で目を覚ましたが、隣に寝ていたと思っていた美代子がおらず、枕もとの水を一口飲んで、そのまま、再び腕枕をして仰向けになり、桜の小枝を巧みに張り巡らした天井を見つめているうちに、昨夜のことを想い出し、その余韻の残った頭に、もしやと一抹の不安がよぎった。お爺さんの読経が終わると、美代子が薄青色のカーデガンと黒のロングスカートに白いエプロンをまとった姿で襖を開いて入って来て、枕元に膝をついて布団の襟元に手をおくと、少しハニカミながらも明るく爽やかな笑顔で「目が覚めているの?。そろそろ起きてよ。お爺さんも待っているゎ」と言いながら「ハイッ!下着を着替えてね。ズボンもアイロンをしておいたゎ」と言って、何の屈託もなく差し出したので、大助...山と河にて(16)

ブログリーダー」を活用して、日々の便りさんをフォローしませんか?

ハンドル名
日々の便りさん
ブログタイトル
日々の便り
フォロー
日々の便り

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用