日本各地に伝わる神隠しと呼ばれる消失事件。 幼子が消える場合が多く、その後の消息は知れないことも多い。 もちろん、単なる人攫いという場合も多かったことだろう。 しかし、そう言いきれない例が多いのも事実。 近年でも、遠足の途中で消えた少女とか、 家のすぐそばで父親の目の前で消えた少年の例とかがある。 そして、これらには驚くほど共通点がある。 それは誰かがすぐそばにいたという事実だ。 まるで見…
伊藤は発光現象について会長に報告をしていた。すると会長は、思いだしたことがあると言い出した。 「手に入れた当座は床の間に置いて眺めていたよ。来客があると自慢したものさ。その頃、カミさんが明け方近くにトイレに起きたら、ぼんやり光っていたという事を言ったことがあった」 「それで?」 「その時は、何か別なことを勘違いしたと笑い飛ばしたよ。俺が見たら光ってなくてさ」 「・・・・・・」 「今の話を聞くと、…
たたみかけるように樫村の質問は続いた。 「その丸い物って、誰からもらったのですか?」 「親父からですよ。もっとも親父も祖父からもらったと言っていましたから先祖代々かも」 「ふーん。先祖代々ねぇ」 「故意に提出しなかったわけじゃないですよ。これ金属製じゃないですし」 「え、金属じゃないってどうしてわかるのですか」 「音ですよ」 「音?」 そう言うと遠藤は机の端で叩いて見せた。瀬戸物を叩いた時のよう…
遠藤は再び呼び出されていた。というのも、どうしても最初の事件が起きた理由を突き止める必要が生じたからだ。トリガーが何だったのか。樫村と工藤は、原因追及の方針変更を迫られせっぱつまったあげく、最初に立ち返ることにしたのだ。 部屋は暗くされていた。もちろん、オレンジ色の現象を捉えやすくするというのが目的ではあったが、それ以上に遠藤が何か知っているのではないかという期待が大きかった。そのためには、…
報告を受けた伊藤は、渋い顔をした。 「そんなはっきりした兆候は、今まで報告がなかったね」 「ええ、普段明るい場所ではわかりにくい現象ではあったのですが」 「それでも、動作したならわかるだろう?」 「ただし、破損した例のものだけかもしれないです」 「確かに、そうかも知れない。でも、そうだとしたら前提が根底から崩れるよ」 「仰っている意味がよくわからないのですが」 「だってそうだろう。我々はどちらも…
早速、壊れてしまっていた例のものを元にして3Dプリンタでコピーを作ったところ、当然の結果しか得られなかった。異様な突起はなかっのた。ただ破損した箇所が若干盛り上がった形で、コピーは出来上がった。 筆談でのやりとりなので、意思疎通に時間がかかり樫村は不機嫌の極みだった。 意味のない言葉だけは自由に発せられるので、なおのこと真意不明の発言が増えた。 「なんだよ、まったくもう」 付き合う工藤も笑うだけ…
3Dプリンタが作り出した、人の目には見えない突起物は、完全には作りきれなかったことがはっきりした。というのも、材料がなくなって途中で生成が止まっていたことが判明したからだ。最初から作り直すという案もあったが、3Dプリンタで生成できる範囲を超えていることでもあり、プリンタ自体を大幅に改造しないと不可能だった。 「これからどうします?」 「そうだね。見た目だけの部分を作ることで我慢するよ」 「我慢す…
大量にもちだされた文書には、盗聴内容が印刷されていた。驚くべきことに、そのほとんどが工藤と樫村の会話だった。どこで盗聴されたのか。灰田は早速実験室だけでなく工藤と樫村の持ち物から始めて盗聴できそうな場所をずっと調べていた。盗聴器が、ひとつではないのは、最初からはっきりしていた。かなりの数が仕掛けられているのは間違いなかった。 そして、ようやく盗聴の全容を解明できたのは、発覚から3ヶ月が経っていた…
その連絡が来たのは、昼食を工藤と樫村が例のごとくアイデア合戦をしながら終えた頃だった。例の物のレプリカ作りの一環で3Dプリンタを使って、精密な外見を再現しようとしている部署から「緊急」の呼び出しがかかったのだ。 「何なんでしょうね。至急見てもらいたいと言うのは」 「とにかく行ってみるしかないでしょう」 実験室の東側の一角に3Dプリンタが設えられていた場所に着いた二人が見たものは おそろしくグロテ…
樫村は、いつになく真剣な表情で詰め寄っていた。 「工藤君、君使った磁石について隠していることないか?」 工藤は戸惑い気味に「いいえ」と答えた。 「ちょっと、このデータを見てもらいたい」 「何のデータですか?」 そこには、例のものが強烈な磁力にさらされた可能性を示すグラフが出ていた。 工藤はネオジム磁石を使ったということは伝えていたのにと思いながら 不満を隠そうともしないで言った。 「ネオジムのせ…
ロボット遠藤の改良は続いていた。 呼吸音や心音を出せるようにはなった。しかし、腕を動かすときの動作音がかなり大きいし そのたびに準静電界が大きく乱れていた。 「いっそ、指先だけ動くくらいに制限してみてはどうなの」 「それも試しました。でも動作音が大きすぎるのか、やはり乱れは大きいですね」 「指だけと腕全体とでは、どう違ってた?」 「指だけのほうが、やや反応します」 「じゃあ、長い指にしてみようか…
「ところで、工藤君。我々は有り得ないとして除外してきたものがあるんだけど、わかってるよね」 「まずは、放射能からみです」 「それは何故?」 「近年の調査でも、あの海域だけで異常な放射線が検出された例がないからです」 「うん、それ以外には?」 「・・・・・・」 「地震や津波の類も考えにくい」 「記録がありませんから」 「でも、もっと根本的な部分で全く考えていないことがある」 「消失事件からみのこと…
例の訪問者があって以降、社内サーバへのアタックが急増していた。 灰田が持ち込んだ知識に、偽DNSサーバーを使ってトラップ用のサーバへ誘導してしまうというものがあった。 アタックしてくるIPアドレスは毎回異なるようだが ログイン画面で執拗に入力を繰り返すと、 トラップ用のサーバへ誘導してしまうという仕組みだ。 このトラップ用のサーバは、先頭ページで会社紹介のフラッシュ動画が自動的に再生され、 さらに…
動きはしないが、外観は遠藤そっくりにできていた。 「それで、この人形にも準静電界を発生させるようにしているんだね」 工藤とロボット研究所のメンバーが作り上げたが、問題が残っていると言った。 「皮膚は導電性のものを用意して人と同一程度にしてあります。ただ作り物なので、それ以外は様々な点で異なります」 「準静電界の発生分布で、どこが異なるんだい?」 「服を着せると、人間では服に応じた準静電界が出るん…
「遠藤さんの能力を強める実験もしたいですが」工藤は樫村に提案していた。 「ほう、で具体的には何をするの?」 「遠藤さんの準静電界を計測して、それを強化するスーツみたいなものを作ってはどうかと思うんですよ」 「あれを操作できる人間を擬似的に作るという発想かな?」 「ええ。それで、そのスーツを遠隔制御することで実際には人間がそばにいなくてもいい状態にして実験したいんです。安全のために」 「ははあ、考…
「ブログリーダー」を活用して、回廊2さんをフォローしませんか?