馬上からの落下である。只で済む筈はなかった。 これで良い。詩織は全くの無抵抗だった。 詩織が橋に叩きつけられる寸前、その身体を抱き止めたのは服部だった。 詩織を抱き止め、そのまま服部が下になって橋に叩きつけられる。服部の短い呻き声を聞いて、詩織は初めて、服部に助けられたことに気付いた。 「服部様」 慌てて身体を起こした詩織が目にしたのは、不自然な方向に曲がっている服部の右腕だった。詩織を抱き抱…
「この脇差しには、清河の血が染み付いておる。そして今、この女と儂の血が混ざりあった。これで準備は整った」 言い終えた芹沢は、脇差しを投げ放った。投げられた脇差しは、橋の床板に突き立つ。 「状況が全く分からず、戸惑っておるだろう。無理もない。儂も当初は半信半疑だったわ。川は異界と現世、彼我を隔てる境界。橋はそれらを繋ぐもの。その橋に扉を開く事で、異界の住人を招き寄せる事が出来るのだ」 まさか、そ…
駄目だ。服部は声にこそ出さなかったが、焦る気持ちを押さえられなかった。清河のこともあり、芹沢は精神的に追い詰められている筈だった。ここで抵抗すれば、芹沢が暴発的な行動に出る可能性があった。 だが、詩織もそれは承知している。馬上からは、橋の下を流れる鴨川の濁流が見えていた。ここ数日の雨で、普段は穏やかな流れを見せる鴨川の様子が一変していた。この中に落ちれば、人の命などたやすく流れ去るだろう。それで…
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