「私の信じるところが、芹沢さんとは異なるからです。国益を主張するがあまり、道を誤る事も、国家存続の危機に瀕する事もあるでしょう。それでも、その選択の全てが我が国の、その未来に生きる子達の選んだ道だと思います。それを信じる事も、先に逝く我々の責務なのではないでしょうか。少なくとも、私はそう考えています」 服部は一瞬、次の言葉を躊躇した。しかし、彼の言葉に眉を顰める芹沢の表情を見て、思い直したように…
「貴様が知らぬこの国の未来は、それは情けないものだ。刻を渡る際に、儂はこの国の幾つかの歴史を俯瞰することが出来た。そのいずれでも、この国の未来の民は武士としての誇りを失っていたのだ。自らが戦うことを放棄し、国や国民を守ることさえ放棄している未来もあった。 国益を主張する事も出来ず、諸国の侵略行為に何ら対応も出来ず、議論ばかりを繰り返す。それも自国の利益ではなく周辺諸国の顔色ばかり伺っている体たら…
それは篠原泰之進の声だった。 「もう動けぬのか?そんなことでどうする」 藤堂平助、内海次郎、阿部十郎を派手に投げ飛ばし た後で、篠原が挑発的に言った。 「まだまだ」 阿部が立ち上がり、挑みかかるが、柔術に関しては大人と子ども程の差があった。阿部が再び投げ飛ばされ、畳に背中を打ち付けられた。 篠原は過去の経験から、新撰組からの分離前も柔術師範として隊士達に稽古をつけていた。 それは御陵衛士としての…
この状況をどうすれば切り抜けられるか。服部は必死で考えていた。詩織と2人で逃げることは出来ない。今の自分の状況では尚更だ。ここは芹沢に従うふりをするべきか。だが、そうしたところで詩織は自分一人が助かる状況を良しとはしないだろう。 「服部様、逃げてくださいまし」 詩織は涙をぬぐい、何時もの冷静な、凛とした表情で言った。 「芹沢様の狙いは私です。ここはお逃げになってください」 服部は答えない。 「も…
服部武雄は1人座していた。 戒光寺の本堂である。深夜、住職の許可を得て御本尊の前で座禅を組んでいた。 戒光寺の本尊は、鎌倉時代の仏師である運慶・湛慶親子の合作である。 やや前かがみで衣には文様があり、爪が長いのもこの像の特徴だと住職から聞かされたことがある。 台座から頭まで約5.4m。光背まで含めれば約10mにもなる。 本尊の釈迦像の喉元には血の流れたような跡がある。これは権力争いで後水尾天皇が暗殺者…
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