胸がざわついた。詩織が何を言おうとしているのか、服部には予感があった。 暫しの沈黙が流れた。間が開いたのは、詩織にも躊躇があることの証だった。 「もう、会えません。ここには来ないで下さいませ」 真剣で斬り付けられたような痛みが胸に走った。服部には言葉がなかった。苦しい程に高鳴る鼓動を抑えるのに必死だった。 「店は、近い内に閉めます。ですから、もう……」 顔を上げた服部が見たのは必死で気丈に振る舞…
許嫁の死を知らされた、あの日の事が思い出された。心が凍りついた様な、時間が止まってしまった様な、そんな感覚は今でも忘れていない。時間の経過と共に表面上の笑顔を見せる事は出来る様になった。しかし、心の奥深い所で、それは今でも溶ける事なく残っていた。 再び、大切な存在の死に直面した時、自分の心が耐えられるのか。それは詩織にとって、自身の死にも勝る恐怖となっていた。 「芹沢様がどの様な御方で、これから…
店の中に、服部と詩織の2人きりとなり、詩織は服部の向かいの席に腰を下ろした。 2人の間には、盆に乗ったままの徳利と盃が2つ。詩織はその盃に酒を満たすと、服部が口にするのを待たずに一気に盃を明けた。 「また、戦さが始まるのでしょうか」 呟くようなその口調に、服部は何処か投げやりになっている様な、一種の危うさを感じた。 胸が早鐘のように撃ち鳴らされるのを感じた。詩織が何を言おうとしているのか。彼女は今…
一同の怪訝な表情を端から一瞥すると、一瞬にして表情を改めた。そこには鬼と恐れられる新撰組副長の顔があった。 「話せて良かった。すっきりしたぜ」 そう言うと、土方は席を立ってあっという間に店を後にしてしまった。立場上、山崎丞もその後を追う。 店に残された3人は、まるで嵐が去った後の町を眺めるかの様に暫し呆然としてしまった。 「一先ず、今宵はお開きにしますか。土方副長の件を、伊東さんに報告もしなけれ…
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