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君戀しやと、呟けど。。。 https://blog.goo.ne.jp/murasaki-sou

オリジナル創作小説をメインとするNet-novel sightです。

小説は、主にショートショートです。 連作は、長めのものもあります。 カテゴリーとして、タイトルでまとめてあるものもありますが、基本的にはショートショートに区分されます。 他に詩歌・童話・短歌・川柳・句もあります。

紫草
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2010/05/10

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  • 『許さない…』(小題:医師)

    カテゴリー;Novel今の時代、多かれ少なかれ介護を経験している者はいるだろう。老々介護という問題もたびたびメディアに取り上げられているという。また行政からの助けを、よしとしない昔気質の老人もいると聞く。家という閉鎖空間で外からは見えない困難を見過ごしている場合もあったのだということに、今になって気づかされた。親はいて当たり前。一緒にいると煩わしいが、存在そのものを危ぶむことなどない。それなのに妹家族が実家に暮らすことに胡坐をかいて、何もせず何も聞かず、そして放置してきた。とある日。病院から電話があった、と妻からメッセがきた。詳しく聞こうと電話をするもつながらず、返信をした。―誰か、病院にかかったのか?そのメッセはいつまで待っても開封されず、仕事に行っている日だから無理もないかなと諦めた。結局、何もしない...『許さない…』(小題:医師)

  • 『明日』(小題:山)

    カテゴリー;Novel彼誰時。払暁とも話していたな。アイドル歌手の歌に暁というものがあり、雫は真っ先にその言葉が浮かんだ――。深夜に家を出て、近所にある少しだけ小高い公園へやってきた。真っ暗だった空に色がつき始め、彼が突然『かわたれ』を知っていますか、と尋ねてきた。知らないと答えると、払暁ともいうし、有明ともと続けた。その時、ある歌を思い出した。「暁」好きなアイドルの曲名を言うと、嬉しそうに笑ってくれた。今時、お見合いなんて流行らないと思いますよね。彼にそんな風に言われるとは思わなかった。雫は引っ込み思案が災いして、きちんと就職することもできなかった。親にしてみれば、お見合い話はありがたい申し出としか思えなかっただろう。だからこそ、すぐに会いなさいと言われたのだと思う。実の娘ではない養女の扱いに困っていた...『明日』(小題:山)

  • 『白い月』

    カテゴリー;Novel午前六時、東雲の空に月を見た。あの人も、この月を見ているだろうか。深夜勤務明け、空を見上げることなどないかもしれない。それでも同じ月を見ていたらいいな、と願う――。出勤途中のバッグの中で、スマホが震え出したのが分かった。取り出すと、彼からのメールが送られている。―綺麗な月が浮かんでいたよ―こういうの、好きでしょ思わず微笑み、表示された写真に魅入る。そこには、まあるい白い月が小さく写っていた――。【終わり】著作:紫草ニコッとタウン内サークル「自作小説倶楽部」2022年12月小題:安らぎ『白い月』

  • 『桜の樹に宿る精霊』6(小題:春一番)

    カテゴリー;ニコタ創作幾星霜。桜の樹に宿り、人を見送る。我、桜が精霊にあり。✿春。早い桜が花を咲かせている。今は五分咲きといったところか。その桜の一本。二歳くらいの女の子と小学生くらいの男の子が眠っている。毎朝、この公園を抜けて散歩をしている中西は思わず二人に声をかけた。「こんなところで寝ていたら風邪をひくよ。ご両親が心配しているだろうから、お家に帰りなさい」そう話していると、背後から声がする。「中川さん、やめておきなさい。不審者に間違われて通報されますよ」散歩仲間の女性で山際さんだった。町内こそ違うが近くに住んでいるので、毎朝声を掛け合う間柄になっている。不審者……。それは困る。家族に迷惑をかけることはできない。定年退職しているとはいえ、まだ非常勤で勤めてもいる。ちゃんと帰るんだよ、と最後にもう一度声をかけた...『桜の樹に宿る精霊』6(小題:春一番)

  • 『あるく』(小題:歩く)

    カテゴリー;Novel※軽めのホラーになります苦手な方はお戻り戴きますようお願い致します横溝正史という作家の作品に「夜歩く」というものがある。初めて読んだのは中学生だったろうか。内容はあまり覚えていないが、タイトルと夢遊病という状態だけは憶えている。秋の澄んだ大気。晴れた日の宵闇に浮かぶ月。その月明かりに浮かび上がった人のシルエット。残業帰りの道、時刻は十時を回っていた。朝晩の寒暖差は日毎に大きくなり、昼間出かける時の装いだと風邪をひきそうな冷たい風が吹く。いつもの住宅街には街頭があり、暗い場所は殆んどない。ただ一ヶ所だけ、通りの奥にある空き家の脇道だけは違う。少し小高い丘に向かう細い道には木が葉を繁らせ、月明かりも街頭も届かない。俺の家はその空き家の向かいだ。歩いてきた住宅街は都会の明るさであるが、俺の家と向...『あるく』(小題:歩く)

  • 『巣立つ』(小題:燕)完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、「約束」「願い」「秋の夜長」「ルーツ」「泪」の姉妹編です。「結婚?」その言葉は、その人物の言葉としては一番程遠いものとして受け取った。ファミレスのボックス席。義理の息子楓山流禮と、実の娘魅音と三人での食事会。今でこそ紛れもなく家族として会っているものの、最初は綱渡りのような毎日を送るスタートだった。再婚して暫くした頃、魅音が知らせてきた。流禮の顔に殴られたような痕があると。まだ手探りのような新婚生活だった。よく知りもしない女と結婚したのだから仕方がないが。人見知りとは違う。年上を恐れているような雰囲気を持っている子だった。通常、再婚で新しく親ができても「お父さん、お母さん」と呼ぶことは滅多にないと聞いていた。実際、魅音はお母さんと呼ぶことはない。でも流禮は最初から、自分をお父さ...『巣立つ』(小題:燕)完全版

  • 『泪』(小題:駅)完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、「約束」「願い」「秋の夜長」「ルーツ」の姉妹編です。お兄ちゃんに好きな人ができたってこと!?楓山魅音(あきやまみおん)、二十四歳。血の繋がらない兄と継母。そして父との四人家族だ――。でも数年前、兄は就職と同時に家を出ていった。最初は研修で大阪に行くのだと言っていたのに。半年か一年、その期間が経っても兄は帰ってこなかった。メッセすれば既読はつく。すぐではないけれど二日か三日、遅くとも一週間以内には返信もある。ただ教えて欲しいことは何も書いてない。働いている会社も、住んでいる場所も、そして好きな人がいるのかも。その兄、流禮(ながれ)が結婚を意識するようになるとは思ってもみなかった。何故なら彼は家庭に夢をみていないから。継母は正直に言って、良い人じゃない。人を羨んでばかりいる人。自分...『泪』(小題:駅)完全版

  • 『ルーツ』(小題:冬支度)完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、「約束」「願い」『秋の夜長』の姉妹編です。「家族はいいものだと知りたいから」楓山流禮(あきやまながれ)は自分自身の言ったその言葉で、自分の中では家族という集まりが稀薄なものにしか感じられないことに気づいてしまったーー。何故、結婚したいと思うようになったのだろう、家族に良い思い出など全くないのに。今は適齢期という言葉も死後じゃないかと思うほど、友達にも同僚にも上司にも、誰にも結婚しろと言われることはない。もちろん結婚する者はいる。同じように独身のままという者も多い。女はいるが結婚はしないという者、同棲しているが籍は入れないという者、生涯独身を通すと豪語している者もいる。単純に出会いがなくて結婚できないという者も少なからずいるとは思うが。流禮はどちらかといえば、一人が好きだからとい...『ルーツ』(小題:冬支度)完全版

  • 『秋の夜長』(小題:引っ越し)完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、「約束」「願い」の姉妹編です。女の幸せって何だろう。仕事の充実?恋人がいること?結婚や子供?今の自分にはどれもピンとこない。桜庭紫織(おうにわしおり)、もうすぐ三十歳。生きているだけで儲けものって感じの人生を送っているーー。継母の職場はコンビニ、そこに来店されるお客様で楓山流禮(あきやまながれ)という人がいる。最初は継母自身が気に入って、誘ってみましょうという話だった。ただ親の思惑にそのまま乗りたくなかったから、偶然に会うことがあればいいよ、と答えた。いつの間にか、一緒に食事をし、二人で映画に行くような間柄になっていた。その彼から話がしたいと連絡があった。電話ではなく、顔を見て話したいと。どんなことだろう。嫌な予感がする。紫織は三年前、病気で片目を失った。普通なら最初に違和感を...『秋の夜長』(小題:引っ越し)完全版

  • 『願い』(小題:義眼)完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、「約束」の姉妹編です。「いい男の子がいるのよ」娘にそう言った時、彼女は確かに笑ったーー。心に傷を持ってしまった継子。今年、三十になる。三年前、病気で片目を失った。それからは人と距離を置いて、独りで生きていこうとしているようだ。いい娘なのにーー。桜庭(おうにわ)咲子が娘、紫織に会ったのは彼女がまだ小学生の頃だった。実の母親が出ていってからは、小さなお母さんになって頑張っていた。夫と知り合ったのは近所の医院。熱を出していた紫織を連れてきていた。その時、咲子も体調を崩し、どうにもならないと夜間診療を訪れていたのだった。咲子はインフルエンザではなかったものの、かなりひどい風邪を引いてしまっている状態だった。一方、紫織は中耳炎による発熱で耳の痛みを訴えていた。翌日、専門の病院に行くように...『願い』(小題:義眼)完全版

  • 『約束』(小題:ススキ)

    カテゴリー;Novel雨が降る。かなり強めの、雨。「しまったなぁ」駅からマンションまでは八分。今にも降り出しそうな空模様ではあった。それでも大丈夫だろうと駅舎を出た。夕暮れ時。一気に暗くなったと感じる。ポツポツ、という雨を確認した刹那、一気に大粒の雨になった。慌てて通りにあるコンビニに駆け込んだ。すでにびしょ濡れになってしまっている。見知った店員がレジから外を見ていたので、近寄った。「ごめん。雨宿り」どうぞどうぞ、と笑顔を返してくれる。この人はいつも感じがいいから好きだ。いくら仕事とはいえ、体調が悪い日だって、気分の乗らない日だって、そして嫌な接客になってしまう場合もあるだろう。よく会うがそんなマイナスの顔を見たことがない。彼女を初めて認識したのは、プリンだ。仕事帰りに甘いものが欲しくなってプリンを手にレジに向...『約束』(小題:ススキ)完全版

  • 『血族4』その2 (小題:風見鶏)完結篇

    カテゴリー;Novelこのお話は、『家族』『姉妹』『血族1』『血族2』『血族3』『血族4』その1の続編です。7月自作/風見鶏『血族4』その2完結[続き]高野祥華は駅までの道を歩く。「悪い人ではないと思う。ただ大人になりきれなかった人なんだとも思う」松本隼人の言葉は会話を要求しない。独り言のように続く。「うちの母さんよりも綺麗で優しくて、多分十人いたら十人が高野のお母さんの方が良い親だと言うだろう」「そんなことない」「ありがと」本当だ。血の繋がった母だが、何もなかったとしても松本の母は頼もしい良い母だ。顔形なんて、どうでも良いと祥華は思った。「それでも人っていうのは、見た目で多くを判断してしまうんだ。高野のお父さんを見て、それを知ったよ」世の中の人は、料理人を見る時に知らず知らずのうちに水商売というカテゴリに入れ...『血族4』その2(小題:風見鶏)完結篇

  • 『血族4』その1 (小題:風見鶏) 完結篇

    カテゴリー;Novelこのお話は、『家族』『姉妹』『血族1』『血族2』『血族3』の続編です。7月自作/風見鶏『血族4』その1台風かと思うような風の吹く、夜だった。高野祥華は隣の県の私鉄駅に降り立った。大学は夏休みに入っていたので昼間でもよかったのだが、芽美がいない時間は夜だという助言を受けた。家族総出で捜しても見つからなかった母と芽美を、たった二週間で見つけてくれた探偵、太田からの言葉だった。その後、彼は瑛里華を通して芽美の身上調査の結果を送ってくれた。元刑事というのは、立派な肩書だということを祥華は痛感するのだった。古い木造のアパートだ。駅からも二十分近く歩いた。芽美は駅前の居酒屋で働いており、深夜になるまで帰ってこない。見上げると、小さな窓のカーテン越しに小さな明かりが見えている。二階建て。錆ついた外階段を...『血族4』その1(小題:風見鶏)完結篇

  • 『血族3』(小題:折り返し)完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、『家族』『姉妹』『血族1』『血族2』の続編です。7月自作/折り返し『血族3』何がどうなって、二人の人間がいなくなってしまったのかと思う。二十代を終わろうとしている今、人間不信から結婚どころか、恋人もできずにいる。高野祥華、二十九歳。大学に残り、研究者になっていた。母と芽美がいなくなり、いろいろ捜す努力はした。しかし、みんな仕事を持ち、一人でできることには限界があると早々に悟った。休みのたびに出かけてしまえば、身体的に辛くなってくる。ある時、瑛里華が言ったのだ。『もうお母さん、いなくてもいいよ』と。その言葉に縋ってしまった。一番、苛酷な選択を一番小さな瑛里華がしてくれた。祥華はそのことを一生、忘れてはいけないことだと思っている。人生の折り返し地点があるとしたら、我々は母の消えたこ...『血族3』(小題:折り返し)完全版

  • 『血族2』(小題:大人の事情《心変わり》) 完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、『家族』『姉妹』『血族1』の続編です。6月自作/大人の事情《心変わり》『血族2』マンションの階下へ下りて行った父は、深夜に帰ってきた芽美を連れて戻ることはなかった――。芽美は消えた。果たして何処に行ったのか。彼女は松本家にも帰ることなく姿を消し、そして月日が流れてゆく。芽美がいなくなって、暫くした頃。祥華は瑛里華と父との三人で、あちらのお店に行くことを決めた。とまどいはあった。どんな言い訳をしても、自分と血の繋がる父の店だ。それでも行った方がいいような気がした。芽美が消えたということは、あちらにしてみれば、娘を一人失っているということなのだから。最初は祥華が一人だけで行った。素朴なお料理に惚れ込んで瑛里華を誘った。たぶん気詰まりにならないようにと思ってくれたのだろう。母ではなく...『血族2』(小題:大人の事情《心変わり》)完全版

  • 『血族1』(小題:生物(蝸牛)) 完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、『家族』『姉妹』の続編です。6月自作/生物(蝸牛)『血族1』最後通牒になった父の言葉。「そう思うのなら出ていけ」松本芽美は、泣くこともなくリビングを出ていった。そして、その日から父はあからさまに芽美を排除するようなことを言ったり、やったりするようになった。流石に母が可哀想だと言ったけれど、父は許さなかった。芽美は、生活のすべてを取り上げられ、食事を摂るのは外。外食しているのか、お弁当を買って食べているのかは知らない。お風呂にも入ることができない。銭湯など近所にはない。洗面所だけは使っていても何も言うことはなかったけれど、芽美と一緒になることはなくなっていった。彼女は早朝に家を出て、深夜になって帰ってくる。もう出ていくのは時間の問題だろうと思われた。高野祥華、二十二歳。大学院に進...『血族1』(小題:生物(蝸牛))完全版

  • 『姉妹』(小題:スリリング) 完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は『家族』の続編です。5月自作/スリリング『姉妹』産院における赤ん坊の取り違え事件。しかしニュースになった時期を過ぎると、誰も話題にしなくなる。当たり前、という残酷な言葉から常識という名の横暴を強要され、人との違いを覆い隠すようになっていく。高野祥華、二十歳。今の両親は、血のつながりがない育ての親という立場になる――。両親の実の娘、松本芽美はこちらの居候として長く暮らす。何度も三人で話し合いが行われ、松本家の人もやってきて、戻るように説得をしたらしい。しかし彼女は此処にいることを望んだ。父は冷たいものだったと思う。祥華にも、血のつながりは関係ないとはっきりと言う。育ててきた時間と見守ってきた時間、これはもうどうすることもできないものだと。当事者となる自身にはよく分からないものの、妹...『姉妹』(小題:スリリング)完全版

  • 『家族』(小題:感情)

    カテゴリー;Novel4月自作/感情『家族』以前。産院に於いて、赤ん坊の取り違えという事件が起こっていたという報道があった。DNA検査が個人でも受けられるようになったこともあるだろう。記者会見を開いて、実母に名乗り出て欲しいと訴えている男性の映像を見た覚えがある。その人は、何処かに入れ違った赤ん坊を自分の子供と信じて育てている実母がいると言っていた。このニュースを母と一緒に見ていた。母は、血液型だけでは取り違いに気づけない人もいると言っていた。確かに我が家がそうだった。父がA型、母がB型、どちらの祖母もO型の為、どの型が出ても不思議じゃない。マンションの九階に父と母と妹瑛里華との四人家族だ。とある日、あれは突然やってきた。『私とあなたは入れ替わっていたの。ここは私の家なの』そんな言葉と共に、上がり込んできたのが...『家族』(小題:感情)

  • 『staying at home』

    カテゴリー;Novelこのお話は、『花筵』の続編です。3月自作/覚醒生物『stayingathome』宮藤卓爾(くどうたくじ)、三十二歳。七年前、桜の許に見つけた妖と一緒に暮らしている。妖といっても、ちゃんと人間だ。ただ時折、本当に妖怪でも拾ったのかもと思うことはある。単に、天然とも言うが。本人は至って真面目に話しているからこそ笑えてくるのも事実だ。降矢花梨(ふるやかりん)、二十六歳。父親は大学病院のそこそこ有名な医師、母親はそこそこ有名な女優。兄弟姉妹はいないことになっているが、父親が若かりし頃に捨てた女性の許に兄がいる。七年前、その兄の存在を初めて知り、その上、彼が父親と同じ病院で働いているという事実に打ちのめされた。母親は何も知らないと言うだけで、寂寥感に襲われた花梨は、夜な夜な桜の許に愚痴をこぼしにやっ...『stayingathome』

  • 『正鵠を射る』(小題:世代)

    カテゴリー;Novel昼飯に飛びこんだ定食屋だった。サラリーマンが多く、一人だと告げるとカウンターをと勧められ、図らずも二人の女性に挟まれる形となった。メニューを見ることなく、壁に貼られるものから唐揚げ定食と頼んだ。暫くすると両サイドに料理が運ばれてきた。どちらも同じ生姜焼き定食だった。右側は二十代後半。お洒落をして仕事中ですというスーツ姿。染められた髪は緩やかにカールしている。左隣は三十代後半だろうか。仕事中とも遊びとも取れる感じの普通のおばさん。しかし二人が食事を始めると印象が全く変わっていったーー。午後十時。帰宅すると一人の夕飯だ。母は待っていてくれるが、流石に一緒に食べることはない。ただ今日だけは話を聞いて欲しくて、座ってと頼んだ。昼間見た二人の女性のことを話した。食べ方一つで一人の人間の教養や品や、そ...『正鵠を射る』(小題:世代)

  • 『お見合い』完全版

    カテゴリー;Novel成人式を来年の一月十五日に控え、春に誕生日を迎えた永島美咲は、とある秋の日、両親から話があると居間に呼ばれた――。女の子が大学なんてと散々言われても、両親の反対を押し切って進学した。最後には父が許してくれて、いわゆるお嬢様学校ならと母も折れた。それからは偏差値との戦いで猛勉強し何とか合格。二年生になると少しだけ余裕も生まれ、母とは成人式用の振袖を買いに行くという話が出ていた。レンタルを利用するという友達もいるが、知り合いの半数以上は購入予定だと話している。ところが空いている日と言われても、土日はアルバイトを入れているので空いていない。気づけば試験期間に突入し、終わったら絶対に呉服屋さんに行くからと言われてしまった。「お母さんが決めてくれたらいいよ。私がいなくてもいいでしょ」正直、美咲が何を...『お見合い』完全版

  • 『思い出』(小題:夕刻)

    カテゴリー;Novelひと月くらい前だったろうか。昔、一緒に働いていた人のことを口にした。『長濱さん。今、どうしてるかな』決して答えを聞くことのない問いかけだった。「さあ。もう最後に会って二年くらい経つかな」穂積遼一がそう言った。その二年前に遼一が聞いた内容は、かなり悲しいものだった。村崎和音の知る長濱徹は、とても恰幅のいい男性だった。スーパーで働いていた時の職場仲間で、最初から手取り足取り教えてくれた優しい人だ。偶然、遼一と同じ誕生日で年は彼の一つ上で、和音とは五年違い。店長が厳しい人だったから長濱の優しさは仕事を始めた頃の和音には救いだった。長濱を通して、遼一も同じ店で働いたこともあった。遼一との出逢いはそこだったから。暫くして和音は両親の介護で、昼間に働くことを諦めた。短い間だったが、その期間に長濱は転勤...『思い出』(小題:夕刻)

  • Penguin‘Cafe『秋の便り』(お題:美味しい秋)

    カテゴリー;Novel♪カラ~ン耳に心地好い、鈴の音が店内に響いた。『いらっしゃいませ』店主の低音も心地良く耳に届く。『Penguin'sCafeへようこそ』『ご注文は何に致しましょう』いつもはイケメンマスターのお出迎えだが、今日はバイトさんだ。秋は特別メニューのモンブランが出る。この季節はいつも大賑わい。少し前までは売り切れ終了ということも多かったが、ここ数年はアルバイトが入るようになりマスターはケーキ作りに専念している。お蔭で遅い時間に訪れても、希少なモンブランが食べられるようになった。「モンブランとロシアンティを」かしこまりました、と去っていく後ろ姿を見送りながら、多分笑われてるだろうなと思った。いい年したおっさんがロシアンティなんて、とか思ってるだろう。『お待たせいたしました』暫くしてバイトさんが戻って...Penguin‘Cafe『秋の便り』(お題:美味しい秋)

  • 『夏だけの恋じゃない』番外編 ブログ・HP限定

    カテゴリー;Novelこのお話は、『夏だけの恋じゃない』2345(完結)の番外編です。メールが届いたことを知らせる音が鳴った。充電のため、離れた場所に置いてあるスマホまで歩く。穂積遼一はカレンダーを確認し、今日は何の話かなと思う。メルマガもろくにこない自分のスマホにメールがくるのは、村崎和音からくらいだ。親は電話しかかけてこないし、兄弟はメールだが頻繁にはない。彼女のメールは次に逢う約束が多いが、中には見たままの面白いことや綺麗なことも報告してくる。今夜はもう遅い。介護をしているご両親は寝ているだろうから、自分の部屋にいる筈だ。ならば次の休みの話だろうかと思いつつ、メールを開く。―電話して。何だ。話がしたかったのか。その場でコールする。―遼ちゃん。大変。「どうした」―泉ちゃんが結婚する。以前、遼一の働くコンビニ...『夏だけの恋じゃない』番外編ブログ・HP限定

  • 『夏だけの恋じゃない』5(小題:ススキ)完結

    カテゴリー;Novelこのお話は、『夏だけの恋じゃない』『夏だけの恋じゃない』2『夏だけの恋じゃない』3『夏だけの恋じゃない』4の続編です。『せめて大学に入るまでは、将来に何も約束のない交際じゃ駄目かしら』そう言った母は、これ以上ないくらい哀しそうな顔をしていた。鏑木泉は今にも泣き出しそうな母の表情を見ていることしかできなかった。そこは両親が若かりし頃、デートしたというジャズ喫茶。バックに流れる曲が耳に心地よかった。「良い曲ね〜」そう言った後に、承知することを伝えた。すると返事は曲に対するものだった。「これはカーニバルの朝ね。黒いオルフェのサントラなんてあったかしら」「黒いオルフェ?」「映画で、元はギリシャ神話ね」あ。オルフェウス。そんな話の隙間を縫って、泉は約束をした。将来がない付き合い、普通なら猛反対されそ...『夏だけの恋じゃない』5(小題:ススキ)完結

  • 『夏だけの恋じゃない』4(小題:音楽)

    カテゴリー;Novelこのお話は、『夏だけの恋じゃない』『夏だけの恋じゃない』2『夏だけの恋じゃない』3の続編です。『天涯孤独という人に初めて会ったよ』鏑木若菜は先日、夫瑞希から娘の交際相手である白城修和の身の上を聞かされた。泉は、まだ知らないという。若奈の親も瑞稀の親も、まだ存命だ。親戚付き合いもあるし、仲のいい親戚になるとそのご近所さんまでおつきあいがある。天涯孤独という言葉は知っていても、自分に置き換えることはできなかった。奥様と息子の光流君の二人だけ。その奥様を亡くした後は、たった一人で光流君を育てていた。『捜せば、白城さんのご両親は見つかるのかしら』『いや。捨て子だったというから無理だろうな』働いている以上、社会との関りはある。保育園に通わせている以上、知り合いもいる。しかし身の上というのは、やはり肉...『夏だけの恋じゃない』4(小題:音楽)

  • 『夏だけの恋じゃない』3(小題:逢瀬(恋))

    カテゴリー;Novelこのお話は、『夏だけの恋じゃない』『夏だけの恋じゃない』2の続編です。『ママは此処にいるよ』光流の言葉が胸に刺さった――。付き合っていると言っていいものか、長らく悩んでいた。白城修和は某コーヒーチェーン店で店長をする三十五歳だ。息子は三歳の男の子が一人、妻は二年前に他界した。たまたま近所に保育園があり、事情を察してくれた園長が中途入園を認めてくれて今日まで預けながら頑張ってきた。彼女、鏑木泉に遇ったのは一年くらい前になるだろうか。学校帰りに友達に連れられてやってきた。高校生なのに注文に戸惑っていたりして、今時珍しい子だなと思ったのが最初。その後、クリスマスケーキを予約していたコンビニでばったりと逢った。彼女はクリスマスイブだったその日に、コンビニでご両親にアイスクリームを買っていた。友達と...『夏だけの恋じゃない』3(小題:逢瀬(恋))

  • 『夏だけの恋じゃない』2 (小題:夏の虫)

    カテゴリー;Novel「起きなさい」久しく入っていなかった娘の部屋。鏑木若奈は意外と綺麗に片付いている部屋を見回しながら、カーテンを引く。「今、何時」「六時半よ」途端に布団を頭から被り直す娘。「お弁当作るわよ。手伝いなさい」寝入った訳ではないので、お弁当?と訊いてくる。出かけるのは七時半だと告げると、慌てたように飛び起きた。「待って。私、今日は予定があるの」「知ってるわよ」夫の瑞稀が白城修和の連絡先を泉に訊いたことは知っていた。嫌がるかと思ったが、意外にも泉はすんなりと電話番号や住所を伝えていた。そしてその後、どうするということもなく過ごしていたが、ある日、彼はいい人だなという一言を残してベッドに倒れ込んだことがあった。翌日聞くと、とんでもない答えが帰ってきた。『酒、強いんだよ。先に潰れるわけにいかないから必死...『夏だけの恋じゃない』2(小題:夏の虫)

  • 『夏だけの恋じゃない』(小題:車)

    カテゴリー;Novel「お母さん」「何」「お母さんはお父さんと二十歳も違うでしょ」「そうね」「どうしてお母さんはお父さんは結婚できたの?」絶句する母をじっと見つめていると、父の只今という声がした。「今のなし」そう言って鏑木泉は食卓を立とうとした。すると父が少し話そうかという。珍しいことだ。でも父のこういうところ、嫌いじゃない。「いいよ」いつもなら、このまま車庫に向かい二人でドライブをする。しかし今日は違った。「泉は今、おじさんと呼ばれるような人が好きなのか」「えっ?」それからの泉の狼狽えようは、正しくその通りと告げていただろう。ただ本人は認めたくないものである。高校二年生。世の中の常識ではおじさんを好きにはならないものらしい。しかし我が家には二十違いの両親がいるのだ。そんな常識は泉にはなかった。「そっか。それは...『夏だけの恋じゃない』(小題:車)

  • 『糸雨』(小題:天気雨)

    カテゴリー;Novel――少しお話をさせていただきたいと存じます。また改めてお電話致します。紺野尚志(こんのひさし)は長らく使われていなかった留守番電話の再生ボタンを押して録音メッセージを聞いた。名前は杷野万里子(はのまりこ)。携帯番号も告げていたが、電話の着信を確認すると固定電話のものだった。誰だろう。純粋に思う気持ちとは裏腹に、もしかしたらいつかこんな風に見知らぬ誰かから連絡があるかもしれないと思っていた自分がいる。すでに三十路も過ぎた。結婚し子供も生まれた。これがもっと若い頃だったら、反発する感情があったかもしれない。しかし家族と別居することになった自分自身を振り返ると、この電話があの人に繋がるものだろうかと素直に思えた――。尚志には母親が二人いる。所謂、産みの親と育ての親だ。小学二年の時、産みの親は出て...『糸雨』(小題:天気雨)

  • 『哀愁』(小題:スーツケース)

    カテゴリー;Novel子は、いつか親離れする。それがいつかは個人差があるだろう。小さな頃から自立を意識していた子供は早々に親離れするだろうし、大人になってもベッタリとくっついている親子もいる。晃は一人っ子だったこともあり、母親の方がベッタリだった。小学生の頃ならいざ知らず、中学に入る頃には親は鬱陶しい存在になっていた。ただ一人っ子というのは厄介なもので反抗期とはっきり言えるような時期はない。母親の気持ちを考えてしまうと、つい、もういいよとなり部屋に籠もる。父親は口数が多くなかったこともあり、あまり話をすることはなかった。大学卒業と同時に家を出て行くという話も、すんなりと受け入れられた。代わりに、一切の援助を受けられないという覚悟はあるか、と言われただけだ。大学四年間。バイトをしている間、貯金は続けていた。いつか...『哀愁』(小題:スーツケース)

  • 春の句

    ~桜と蝶~ ★花細(ぐは)し夜が桜の色失くし幻想に舞う蝶の姿か★詠人:翆童春の句

  • 完結篇『純・潔』(小題:蝶々)完全版 4

    カテゴリー;Novelこのお話は「純・真」「純・粋」「純・情」の続編です。春。卒業式を翌日に控えた夜のことだった。小林保志のマンションに縞木璃香、久保田泉、榊田敬一、そして森村俊輔という事件に関わった刑事が揃っていた――。母親も呼ぼうと言った榊田に対し、森村が反対した。本来、関係者だからといって警察に詳しい事情説明の義務はないのだ。それを明かそうというのだから、人は少ないに越したことはないらしい。偶然、榊田と同じ高校の出身で交流もあったことから教えてくれるのだ。久保田の父親の事件が発覚し、母親はあっさりと離婚した。彼女はもともと夫とは折り合いが悪かったらしく、久保田は母親に引き取られるという。不登校を続けた久保田の件は、榊田からの連絡を無視する形で放置した父親だが、母親には話が拗れていると説明していたらしい。今...完結篇『純・潔』(小題:蝶々)完全版4

  • 『純・情』(小題:氷雪)完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は「純・真」「純・粋」の続編です。「違う?」小林保志は先日、榊田先生の家で分かったことを告げるため、二人を家に呼んだ。縞木璃香と久保田泉だ。久保田は不登校ではあっても家から出られないわけじゃない。同じマンションでもあるし、璃香と一緒に現れた。まずメールの送信者は彼ではないと話す。先に反応したのは璃香だった。「送信時間に、先生はお母さんと一緒に食事をしていた」久しぶりに田舎から出てきたということで、写真を撮って欲しいと言われたらしい。写真も見せてもらった。「よかった……」それは小さな呟きから始まった。それからの久保田の告白は少し想像とは違っていたが、暗い顔をして項垂れているよりはずっといい。「璃香ちゃんが羨ましくて」久保田はそう言うとこちらをチラリと見る。羨ましい……、それは自分と璃...『純・情』(小題:氷雪)完全版

  • 『純・粋』(小題:教育)完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は「純真」の続編です。「みんなの視線が怖いの」久保田泉と話ができたのは、例の失踪事件から一ヶ月も経った夜だった。時期も悪かった。一年と二年は試験期間で不用意には生徒に近づけない。その後、受験のための準備に追われた。久保田は欠席が続いていたが、間もなく二年が終わるということもあってか、誰も話題にしなかった。秘密の恋人でもあり、同じ高校の三年である縞木璃香から情報はもらっていたものの、意外と問題にならないものだと思ってもいた。学年主任も何も言わず、実際例のメールを出したのが果たして榊田先生本人なのかということも確認できずにいる。璃香のマンションの部屋だった。久保田がどうしても学校は嫌だというので、おばさんに無理を言って彼女を呼んでもらった。何も話そうとしない久保田からの言葉を待った。璃...『純・粋』(小題:教育)完全版

  • 『純・真』(小題:リンク(*つなぐ))完全版

    カテゴリー;Novel「待ってくれ!」確かに、話せと言ったのは自分だ。しかし、こんな重い話になるとは――。「ちょっと待ってくれ。今、頭の中を整理するから」昔、高校教師というドラマがあった。嘘っぽい話だと思いつつも何となくイメージの中の教師像がそのドラマにあったのも事実だ。高校生になって、ドラマとは全く違った中、やってきた教育実習生との関わりも一つの契機だったかも。大学に入って、何となくだったけれど教職課程の道を選んだ。そして運のいいことに、そのまま教師になった。ただ熱血教師にはなれないと思っていた。小林保志、二十四歳。高校教師として一番の危機に直面している――。現在、二年の担任だ。教科は国語、図書委員会、そしてテニス部の顧問をしている。目の前には受け持ちではないクラスの女子生徒。うちのリビングで話を聞く。彼女の...『純・真』(小題:リンク(*つなぐ))完全版

  • 番外篇『餓鬼の出奔』 完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、「大人の都合」「大人の事情」「大人の決断」の番外篇です。父は人でなしで、自分は刻薄な人間だった――。若い頃、自分は怖いもの知らずだった。望みを叶えるためなら平気で嘘をついたし、約束は破るためにするものだと言っていた。思い通りにならないと周りに当り散らし、結果的には思い通りにする。周りは呆れ果てていただろう。それを当然と受け止め、その影で誰かが傷ついているなんて考えもしなかった。今思うと、自分には結婚なんて向いていなかった。誰かのために、という言葉が大嫌いな自分がよく二十年ももったものだ。年老いて独りで生きていると、これが因果応報かと思うこともある。しかし、きっと自分自身のせい。この性格が問題なのだと漸く分かった。神崎恭子。何故、旧姓に戻らなかったのかと色々な人に聞かれた。そのた...番外篇『餓鬼の出奔』完全版

  • 『大人の決断』(小題:イルミネーション)完結篇完全版

    カテゴリー;Novelこのお話は、「大人の都合」「大人の事情」の続編です。父親が二人になった。二人の父は高校からの友人同士だったという。母の存在は何処にもない。何故、父は母と結婚することになったのか。神崎穂花は、この歳になって漸く気持ちに余裕ができた。実父の骨髄移植から六年の歳月が過ぎた冬のことだった――。あの時、実父の病状はかなり危なかったと医師から知らされた。厚顔無恥な母親ではあるが、もう方法がないと言われれば連絡もしてくるかと、一方的に責めるのも大人気なかったと思いはした。これは実父から聞かされたのだが二人は結婚していないという。いわゆる内縁の関係という状態らしい。押しかけ女房にすらなれなかったのかと思うと少しだけいい気味だと思った。実父は穂花の存在を長らく知らなかったと言った。親友とも言える男が結婚した...『大人の決断』(小題:イルミネーション)完結篇完全版

  • 『大人の事情』(小題:魔法)

    カテゴリー;Novelこのお話は「大人の都合」の続編です。父親は、居なかった。血の繋がる、という意味だ。しかし育ての父は居る。ただ何処かに本当の父親が在るのも真実だ――。家庭の哀しい崩壊は、神崎穂花高校三年の秋だった。あの年のハロウィンはニュースになる程華やかだった筈だが、自分には辛いだけのイベントになった。母が出て行った翌日から、穂花は本当に忙しくなった。食事を作ること、洗濯をすること、掃除をすること、それだけならできる。父方の祖父母がやって来たのだ。始めは、三人が不憫だから手伝いに来たと言ったのに、手伝うどころか何もせず部屋にこもってしまった二人だった。そこで祖父の様子がおかしいことに、父が気づいた。穂花や弟の俊介には分からなかった。自分はともかく彼は早く帰ってもらおうよ、と父に話していたくらいで、気遣うと...『大人の事情』(小題:魔法)

  • 『大人の都合』(小題:狩り)

    カテゴリー;Novel父親は、いない。母は、たった一枚の写真と、この人がお前の父だと言っただけ。弟の父は、今一緒に暮らしている人。しかし穂花は違うのだと。そして、このことは一緒に暮らす、父と呼んでいる人にも弟にも内緒だからと言う。何故、穂花にだけそれを告白したのか。高校卒業を来春に控え、進路を決めるこの時期に――。つまり家を出て行けと、暗に言っている?神崎穂花、ハロウィンに誕生日を迎える十七歳の高校三年生だ。金木犀の香りが街を彩り始めた。その日、話があると母が部屋に入ってきた。3LDKの一部屋を穂花は与えられている。玄関入ってすぐの小さな部屋で、真ん中のリビングを挟んで奥の二部屋を両親と弟が使っている。だから、この部屋に誰かが入ってくることは殆んどない。珍しいこともあるものだと思いながら、ベッドに移動し椅子を明...『大人の都合』(小題:狩り)

  • 『天使』

    カテゴリー;Novelあどけない表情で、したったらずな言葉を次から次へと口にする。覚えたての「おかあしゃん」には、優越感のような自慢と通じる嬉しさと、いろいろな感情が混ざっていて、それでいて意味もなく連呼してくる。差し出してくる手はまだ小さくて、これからどんどん大きくなって、何度もお誕生日を迎えて素敵な女性になってゆく。そんな当たり前の将来が誰にだって約束されているはずだと思ってた――。『こんなに早く逝ってしまう命なら、最初からいなければよかった』※※※※※違うだろ!あの子ができたと分かってから、いっぱい幸せな時間をくれただろう。一番可愛いままの顔で、あの子は俺たちの中でずっと生きていくんだよ。病気になっても明るくて、病院でも人気者で笑っていただろう。今は痛みのない場所で、次は俺たちを待っててくれるんだ――。【...『天使』

  • 『刻(こく)』完全版 (小題:鏡)

    ※軽めのホラーになります。苦手な方はお入りになりませんように。紫草拝カテゴリー;Novel友人が結婚することになった。古い家で早くに両親を亡くし、祖父母に育てられた人だった。お祖父様は随分前に他界され、それからはお祖母様との二人暮し。年齢こそ違うけれども女同士だから気楽だと、初めて出会った高校生の時にはそう言っていたのを憶えている。大学に進学し、その後就職し、このまま何事もなければやがて結婚するという便りも届くだろうと思いながら過ごしていた。地方からの上京組だった自分は就職で地元に戻り、年に一枚の葉書とメールの遣り取りだけが彼女との繋がりだった。自分の結婚式には東京の他の友達と一緒に日帰りだったが足を運んでくれた。二次会には参加できないと言って帰京したのだが、その後も行き来はあるものと思っていた。学生時代の友人...『刻(こく)』完全版(小題:鏡)

  • 『驟雨』 (小題:ダイナマイト(爆弾))

    カテゴリー;Novel本当は何を言いたかったんだ――。もう聞くことのない、この答え。その問いだけが頭の中をループする。もしかしたら一緒にいる間、彼女は寂しかったのかもしれない。何も言わなかったから気づかなかった。否、違うか。知ろうとなんてしなかった。いつも物静かで、従順な彼女を都合よく連れて歩いていた。いつだって別れられると思っていたし、彼女が離れていくとも思っていなかった。二歳違いの二人。十八からの五年という時間。彼女にはまさに思春期から青春への大切な時間だったろう。よくいえば幼馴染の近所の女の子だった。高校に入った頃から見違えるように可愛くなっていった彼女を、気が向くと連れ出した。ただし、ご近所ということは両親同士もよく知っている。何処に行って、何を食べて、どんな話をしたのか。気づけば筒抜けになっていた。ど...『驟雨』(小題:ダイナマイト(爆弾))

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