『桜の樹に宿る精霊』6(小題:春一番)
カテゴリー;ニコタ創作幾星霜。桜の樹に宿り、人を見送る。我、桜が精霊にあり。✿春。早い桜が花を咲かせている。今は五分咲きといったところか。その桜の一本。二歳くらいの女の子と小学生くらいの男の子が眠っている。毎朝、この公園を抜けて散歩をしている中西は思わず二人に声をかけた。「こんなところで寝ていたら風邪をひくよ。ご両親が心配しているだろうから、お家に帰りなさい」そう話していると、背後から声がする。「中川さん、やめておきなさい。不審者に間違われて通報されますよ」散歩仲間の女性で山際さんだった。町内こそ違うが近くに住んでいるので、毎朝声を掛け合う間柄になっている。不審者……。それは困る。家族に迷惑をかけることはできない。定年退職しているとはいえ、まだ非常勤で勤めてもいる。ちゃんと帰るんだよ、と最後にもう一度声をかけた...『桜の樹に宿る精霊』6(小題:春一番)
2022/03/27 23:11