「マーメイド クロニクルズ〜第三部配信中!」「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中!
(「人生の唯一の目的、それを生きること」。ラティガンとか申す劇作家のセリフかと。そんなセリフより「人生は一幕の劇」とでも言って欲しいものでございます。わたくしごときにわかりますのは、人間界で通じるのは「力」のみということ。善とは自分にとって都合がよいもの、悪とは自分に刃向かうものに与えるべき名。ワラキアの「串刺し公」と畏れられながら戦い続け、従うものには安らぎと恩賞を、刃向かうものには恐怖と罰を与えてきたのは、その故にございます)(冥界で大将軍となった姿をストーカーとかもうす作家に夢枕に見られて、魔人の汚名をきせられたのは不憫であったがのう)冷酷で意地が悪くとも、残忍や邪悪でないプルートゥは時折こうしたやさしさを垣間見せる。(ドラクールよ。最高神たちの議論の話は聞いておろう。ネプチュヌスは「ゲーム」と言ったが、...第一部第2章ー8人生の目的
マクミラは、昔からプルートゥのお気に入りであった。しかし、切れ者だが皮肉屋の彼女には敵も多かった。口さがない連中はマクミラも冥主の前ではうまく立ち回っているのだろうと噂した。真実は、自分の前でも態度を変えないマクミラの生意気さをプルートゥが好んでいるのだと知るものは少ない。(マクミラよ、久しぶりじゃ。お主には人間界に行って自滅しようとする人間共の側に立ってマーメイドの娘と戦ってもらいたい。お主の父は人間に生まれついたが、冥界で叛乱を制圧した功績で将軍になった。その子であるお主に今回の任務はふさわしい)(プルートゥ様直々に選ばれて人間界に行くのは光栄に存じます。されど、父の話は昔のことでございます)マクミラは顔色一つ変えずに伝えた。(お主にとって過去は変えることのかなわぬ無意味な時。かといって行く末の見えた現在に...第一部第2章ー7神官マクミラ
今宵、呼び出されたのは、「吸い取るもの」“ドラクール”ことヴラド・ツェペシュを父に、「燃やし尽くすもの」サラマンダーの女王ローラを母に持つ兄弟たちだった。人間界の出としては比類なき出世を遂げたかつての大将軍と冥界の業火をあやつる火蜥蜴の女王が並び立っていた。かつて歩を進めるたびに足下から吹き出すオーラで百匹の魔物をたじろがせ、爛々と光る双眼の一睨みで千匹の魔物を打ち震えさせたと言われるドラクールは鮮やかなビロードのマントを着こなしていた。だが、すっぽりかぶった頭巾のせいで表情は読めない。ドラクールと並ぶ時には妻ローラは美しい女性の姿をとるがサラマンダーの女王の証である真紅の長髪は燃え立つ炎のように逆立っている。彼女とドラクールとの結婚に関しては冥界では多くの反対があった。名門の娘がよりによって人間界から来た男を...第一部第2章ー6“ドラクール”とサラマンダーの女王
耳をすませば、生前の行為を悔いる亡者の絶え間ない嘆きが聞こえる。ここは肉を持つ存在の訪れを拒み、精神体の存在の訪れのみが許される場所。マグマ層とつながる地中深くに存在する四次元空間タンタロスだった。畏怖する人間たちが「富めるもの」というお追従で読んでいた名が、神々の間でも使われるようになった冥主プルートゥの支配する世界である。年間を通じて明かりのまったく射さないこの空間に、今日も憎悪の川(スティクス)の流れに乗って新たな魂が渡し守カロンの舟で運ばれてくる。生前の殺人を悔いる極悪非道な強盗、愛をもてあそんだプレイボーイとプレイガール、権力地獄でもがき続ける政治屋。彼らは、悲嘆の川(アケロン)、号泣の川(コキュトス)を渡り、忘却の川(レテ)を渡るときに現世の記憶を失い、火炎の川(ピュリプレゲトン)を渡り、最後は冥界...第一部第2章−5冥界の審判
(それは、いったい・・・・・・)ペルセリアスが顔を上げて思念を送った。(暗黒星団の襲来には人間たちが「歴史」と呼ぶものが働いておる。「歴史」は神々の誕生よりもずっと昔からこの宇宙の理(ことわり)を作り続けてきた。「歴史」のエネルギーとは恐ろしいものじゃ。一度、動き出した歯車を変えることは最高神が束になったとしても出来はしない)(それはいったい?)シリウスがうめくような思念を発した。(「歴史」とはあまりに大きすぎて誰も見たことがないが、黄金数0.612の形状を持つ巨大円錐の無限回転が正体じゃ。今回、我が犠牲となって暗黒星団との闘いを避けたとしても同じ運命の修復を「歴史」は試みる。我の予測では、次は暗黒面のパワーは人間たちの心の内に直接に働きかけることでこの惑星の壊滅を図るはず)(人間たちが暗黒面のパワーにとらわれ...第一部第2章−4歴史の正体
アポロニアの息子たちは招集令状を受け取った時、ただならぬ運命を予感して、祖父アポロンとの別れを思い出した。予言の神でもあったアポロンは、最後の場面において彼らが人間界に送り込まれる運命についてもすでに語っていた。自由奔放な性格と輝く美貌で男女を問わず神々の憧れと嫉妬の対象となってきたアポロン。禍々しい暗黒のオーラにつつまれた星団が太陽系に近づいた時、神界でも対応を巡って議論が絶えなかった。このままでは太陽は暗黒星団に飲み込まれてしまうであろうとはっきりした時、彼はあっさり我が身を犠牲にして太陽の力を増大して、暗黒のオーラをはじき飛ばすことを選択した。ユピテルが光の化身であれば、アポロンの灼熱の化身であった。三最高神を除けば、神界でも最高の権威と実力を兼ね備えていた彼は常に黄金色に輝くマントをまとっていた。(シリ...第一部第2章−3アポロン最後の神託
一同に緊張が走る。アポロノミカンと聞いて平静でいられる神などいないが、アポロンの血を引くものたちにとっては殊更の意味があった。(暗黒星団来襲の折り、太陽と合体して我らを救ったアポロン様がたわむれに書いたとも、我が兄アスクレピオスが人類目覚めの時に備えて残したとも言われる生命の神秘を解き明かす神導書でございますな)アポロニアが伝えた。(アポロノミカンを解読したものは、人の誕生、成長、進化、遺伝、老化の秘密のすべてを知る。それが早過ぎるか、来るべき時が来たのかは誰にもわからぬ。だが、もはや決定はなされた。お主の息子たちのうち、誰をマーメイドの娘の援軍に差し向けるがよいか?)(難しい選択です。プルートゥ様は、おそらくマクミラを送り込むと思われます)(最高位の神官をか?)(プルートゥ様なら、最もかわいいものの苦しむ姿こ...第一部第2章−2神導書アポロノミカン
遠く映るその影が太陽の黒点として知られる四次元空間エリュシオン。そこにユピテルの支配するオリンポス神殿がある。もしもネプチュヌスやプルートゥが人間界の支配を望んだとしても、エリュシオンの支配などはけっして望まない。ここは「光の眷属」でなければ瞬時に蒸発してしまいかねない光と灼熱の空間。海神界や冥界から婚姻により移り住んだ神々と神の座の末席をけがすことを許されたごく少数の住人がいるだけの場所。例外は、タンタロス空間での贖罪を済ませた人間の魂が忘却の川レテの水を飲んでから転生するまでの限られた間に滞在するのみ。いつもならのんびり飛び回る神殿の極楽鳥が緊張に包まれている。リーダーの錦鶏鳥と銀鶏鳥もただならぬ気配を感じて宿り木から離れようとしない。大広間では「天翔るもの」ユピテルが怒りのオーラを発散していた。こんな時に...第一部2章−1天界と冥界の召集令状
財部剣人です!おかげさまでブログ開設3388日で、トータル閲覧数60万6307PV(一日平均178回!)、トータル訪問者数22万3637UU(一日平均66人!)という素晴らしい数字を達成できました。本当に感謝しかありません。今再配信中の「第一部神々がダイスを振る刻」は、以前配信したものを幻冬舎から出版された原稿に修正して、さらに一部加筆修正しております。今後、第二部の再配信と第三部の完結に向けてがんばっていきますので、どうか乞うご期待!「マーメイドクロニクルズ」第一部神々がダイスを振る刻篇あらすじ深い海の底。海主ネプチュヌスの城では、地球を汚し滅亡させかねない人類絶滅を主張する天主ユピテルと、不干渉を主張する冥主プルートゥの議論が続いていた。今にも議論を打ち切って、神界大戦を始めかねない二人を調停するために、ネ...第一部序章と第1章のバックナンバー
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