じっくり見られる最近にはない拾い物の大人の映画です。モロッコの映画なんですね。人間の表情でぐいぐい引っ張ってゆくその描写力、そしてありのままに生きることの意味を問う渾身のテーマはイスラム圏を超え、全人類的であります。映像による小説的解釈も西洋的でまさに純粋ヨーロッパ映画です。でもだからこそ、ラストの震えるような遠吠えの声が心を揺らす。青いカフタンの仕立て屋(2022/仏=モロッコ=ベルギー=デンマーク(マリヤム・トゥザニ)90点
映画館で新作をランダムに見ています。小演劇も好きですよ。
プロフィール 性別 男性 自己紹介 休みは大体映画館かその近くを闊歩しています。自然と繁華街というところを歩くことになります。心は大自然にあこがれながら、結局便利さに負けているような気もします。
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ぷちっとWOW!!誠の証明(作・関下怜 演出・上田一軒) at聖天通劇場 80点
これは面白い!ある少女の自殺未遂から教師たち、母親がお互いを責めたり、そして自ら解決に向かうテーゼを発想するまでのいきさつがユニークで爽快だ。舞台劇となっている「12人の怒れる男」に展開が似ているので、とても見ごたえがある。どんでん返しというわけでもないが、真相を発見するに至り、登場人物、そして観客が納得して劇を後にするという展開は舞台冥利に尽きる設定なのである。劇場は新たにできた福島の小さな小屋。50人ぐらいしか入れないが、これが一体感を生み、新たな豊穣感さえ生み出した。ぷちっとWOW!!誠の証明(作・関下怜演出・上田一軒)at聖天通劇場80点
大胆な着想と愛をはぐくむ強さに心地よい息吹を感じる。たまにこんなにストレートな愛を感じるのもいいではないか。日本の警察があんなに間抜けとも思えないが、でもあれがないと天に突き抜けられないから許す。前半の生きづらさといい、新海誠は現代人の目を持っている。それだけで十分だ。天気の子(2019/日)(新海誠)80点
落下の解剖学 (2023/仏) (ジュスティーヌ・トリエ) 80点
話題作で、即劇場へ。メジャー映画館にかかってはいるが、小さな館内に押し込められ、ふむふむ映画通らしき風貌の人たちがわんさいる。冒頭の夫の部屋でガンガン鳴らす音楽がめちゃセンスが悪い曲で、もう完全に私には暴挙の挑戦です。これじゃあ、あのインタビュアーどころか、映画ファンも席を立ちたくなる。その音楽暴力がなくなると、ふむふむなるほど面白い設定で、ミステリー的にはどうかとは思うが、謎解きが控えており、むんむん見せつける。でもなあ、これはベルイマンの「ある結婚の風景」の現代版ですな。体裁は裁判劇で、あっと驚くどんでん返しが控えているとも思ったが、どう考えても有罪にならない夫婦の葛藤を第三者に生中継で見せて何の意味があろうというもの。これでは若い人には結婚観にブレーキがかかり、もう人生半ばのお二人にはふむふむ感が漂...落下の解剖学(2023/仏)(ジュスティーヌ・トリエ)80点
ピッコロ劇団「ロボット‐RUR‐」(作・カレル・チャペック 演出・高橋正徳) at県立芸術文化センター 85点
久々に大きな劇場へ。そして題名からはうかがい知れぬ秀作劇を見る。今、世界で使用されているロボットという名のもとになった劇である。チラシもコミカルで分かりやすい劇かなと思っていた。実際分かりやすかった。シンプルなテーマである。ロボットとは何か、すなわち自分とは何か、人間とは何か?が、見ていて自分の脳裏を駆け巡る。もうぐんぐん掘り下げてくるような哲学っぽい重鎮が目の前に垂れ下がる。ストーリーは単純で、仕事を楽にしようと労働力を補強するする為にどんどんロボットを増産する。敢えて、心をロボットに埋め込まなかった人間たちが、そのロボットに逆に反乱され息絶えてゆく、、。そしてそのロボットの中から、、。もうこの世は人間も絶え、ロボットも絶え、どうなるのか、と思ったが、素晴らしい前向きのラストが用意されていた。原作はこん...ピッコロ劇団「ロボット‐RUR‐」(作・カレル・チャペック演出・高橋正徳)at県立芸術文化センター85点
ポータブル・シアター「プレゼント・ラフター」(作・ノエル・カワード 演出・枡井智英) 於ABCホール 80点
関西では珍しい翻訳物コメディ。登場人物も多く、女優はみな美しく、衣装も凝っていて、見て楽しいまさに本格のイギリス演劇の粋をなしている。これが休憩を挟んで3時間。贅沢な時間である。長丁場感はまったくないほど、話が次へ次へと追いかけてくる。こんな楽しい艶笑喜劇は日本ではあまり上演しなかった気もする。日本とイギリスでは男女間、特に夫婦の絆感はかなり温度差があるのだろうが、さらりと仕上げているので劇としての高揚感が強い。俳優陣はこの長いセリフ、合間のあうんの呼吸をうまく演じていた。特に女優さんたちが皆驚くほどきれいで映えている。要のところを秘書役の山本がしっかり受け止める。ジョアンナのぞっとするほどの艶めかしさ。別居中の妻中井の凛とした美しさ。この演劇は女優を見る劇なのだろうか、、。アッと気づくと3時間が過ぎる。...ポータブル・シアター「プレゼント・ラフター」(作・ノエル・カワード演出・枡井智英)於ABCホール80点
高橋にしては平明な映画作りにびっくり。でもその平明さがゆえに、社会の底辺に棲む市井の人間たちの生き方が生々しくまぶしく浮かぶ。板谷がバクダンと意気投合するまでの過程は秀逸。一瞬の夢。でも元バクダン魔はもはや機能せず、夢破れしのノスタルジー男に変貌していた。板谷は人間の原点に戻り、今まで一度も社会に逆らわなかったことを改め、本来すべきことを目指そうとするラストに突入。爽快である、。一方、普通の人々がコロナ社会、すなわち社会の底がすとんと抜けるかのように、二度と這い上がれない現代の社会構造に正直おののきもする。家にすっこみ、テレビ等で映画の公園シーンも何度も見てきたのに、見て見ぬふりをしていた自分自身にはいこびる恥辱感。その自分を責めながら、ラスト、板谷の強いまなざしに共感を感じるとともに、自分が忘れていた若...夜明けまでバス停で(2022/日)(高橋伴明)80点
ばぶれるりぐる「川にはとうぜんはしがある(作・演出 竹田モモコ) 於indepenndennt 2nd 80点
舞台は左右に土間の設定。左側は1段、右側の方が2段で高さの違いがある。土間をつなぐものはないが、スニーカーやらすのこで渡ることができる。題名といい、もうこの演劇のテーマはすぐに見えてくる。村社会での出来事の積み重ね。都会から帰ってきた次女(といっても随分大人)。長女と娘、入り婿でおとなしくさせられている夫、闖入青年の話である。日常の積み重ねのような展開が続くが、どこの家庭でも起こっていることが再現される。母親と娘、姉妹この関係が執拗に描かれるが、不思議とこの演劇では男の香りが無風である。作者が女性だからか、かなりウェットな繊細なセリフが飛び交う。娘がフィリピンのコールセンターに働きに行くというところで、はっととこれは寓話なんだと気づく。そうすると全体の構成も明確にわかってくる。いい芝居だね。観客はそれぞれ...ばぶれるりぐる「川にはとうぜんはしがある(作・演出竹田モモコ)於indepenndennt2nd80点
加害者と被害者、その双方の両親がある教会の仲立ちで対峙する。せめぎあうそして心の安定へと経る過程をどっぷり四つ、4人の重厚な演技で見せつける室内劇。昔こんな映画をどこかで見たような記憶もあるが、、、。途中これではどうしようもないなあと思いつつ、もつれ、崩れ、そして静謐が訪れる終盤になって急に、被害者の母親のつぶやき。「このままでは自分の息子の存在を忘れてしまいそう、あなたたちを赦す、あなたたちの息子を赦す」のセリフ。気高く、シンプルだ。感動の極致とはこのこと。対峙(2021/米)(フラン・クランツ)80点
お気に入り、チャン・リュル作品です。映像で生きていることの意味を辛口の湿度で綴ってゆくという文体が好きで、またその感覚的な静謐感も好きです。さて、本作は僕の知らない町、群山をふと尋ねる二人の男女の話です。群山の案内図を前に何かしら漂流感を見せる二人のたたずまいがもう素敵です。そこからはもう映像でどんどん見せてくるタッチの応酬。日本という統治国家だった時代にさかのぼろうとするリュルの鮮明な意思が見えますね。朝鮮族の歴史も見えてくる。そう、歴史を見ない人間は人生を知らないまま過ぎ去るなんてこと言ってましたが、その通りだと思います。意外と今回は、結構ホン・サンスふうの展開で、とても楽しめました。やはりこういうグダグダ感は今や、韓国でしか出来得ないのでしょうか、ね、、。まだ見ていない作品が多いので、これからも楽し...群山(2018/韓国)(チャン・リュル)80点
TAR/ター (2022/米)(トッド・フィールド) 80点
ターの発する言葉の翻訳が男言葉なのがまず気になったが、英語でもそういうニュアンスがあるのだろうか。この映画の違和感ははまずそこから始まる。設定が今までの映画ではなかった華やかなクラシック界の裏の世界である。冒頭から高尚なクラシックのお話がターと司会者との公開討論で語られる。私も結構クラシック好きだが、それでもかなりの高度で語られているのが分かる。それは通常の人はもういい加減にしてと言わんばかりの内容の濃さである。世界的音楽学校の秀才学生とのバトルも続いて描かれる。学生の馬鹿さ加減も極めて面白いが、しかし彼女の高度な芸術性と人間的嫌みが痛烈に伝わる部分でもある。そんな緊張感もターの日常に入ると、ことあるごとに同性の女性に性をターゲットにしている本能も見せつけている。彼女は家族を持っていて、家ではパパである。...TAR/ター(2022/米)(トッド・フィールド)80点
瞳をとじて (2023/スペイン)(ビクトル・エリセ) 80点
あの『みつばちのささやき』のビクトル・エリセの新作が31年ぶりに戻って来た。こんなことってあるだろうか、、。早速、映画館にお出ましだ。冒頭の「悲しみの王」の館。一人の男が館主に出向かれて娘の捜索を頼まれるシーン。もうそれは緊密感もさることながら、出色のエリセ感覚ほとばしる絵巻物のよう。こんもシーンだけでこの映画を見た甲斐があるというもの。この作品、31年ぶりということに意味があるようです。映画も20年間突如失踪した男優を追い求め続ける映画監督。そしてそこに自分自身の人生を想うゆったりとした時のかなたを放浪する波間。二人が愛した女、男優の娘、そして未完成の「悲しみの王」の娘が映像にクローズアップされる。それはエリセの過去作品をたどる旅でもあった。繰り返し出現するアナの名前に、我々観客は「みつばちのささやき」...瞳をとじて(2023/スペイン)(ビクトル・エリセ)80点
密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (2022 宝島社宝島社文庫) (鴨崎 暖炉) 80点
文庫本とはいえ、500ページ近くになる長丁場。ありとあらゆる最新の密室トリックが現れる。そりゃあ面白いわけないと言ったら嘘になる。よく、これだけ考えられるなあと思われるほど、もう現代では密室物のネタ切れといわれているのが嘘のよう。読者と一緒に楽しませてくれる。まあ、こうこういう種のものは楽しむことが一番だ。どんどん人が死んでゆくので、新犯人は限られてくるが、その方面についてはかなりあっけらかんとしていて、通常のどんでん返しはない。そこまで書き尽くせないのだろう、でもとにかく500ページ近くミステリーをとことん楽しめた。ほめるのが当然だと思う。いろんな密室トリックが出現するが、現実感はそれほどない。それがまた面白いのだ。密室狂乱時代の殺人絶海の孤島と七つのトリック(2022宝島社宝島社文庫)(鴨崎暖炉)80点
ノッティングヒルの洋菓子店 (2020/英) (エリザ・シュローダー) 70点
交際中の彼女と食事前に見る映画ですね。画面には見てるだけで楽しいおいしそうなお菓子がどっさり出てきます。もうそれだけで幸せになれそうと思ってしまうデート映画です。まず、この話の核になる女性の自転車爽快シーンから始まり、あれよという間に彼女の死が告げられる。残された4人が一堂集まってくる物語です。この出だしは面白いが、あとはスムーズに時は流れ、みんなハッピーになってゆくすこぶる現状満喫する映画です。たまにはこういう映画もいいかも、。。ノッティングヒルの洋菓子店(2020/英)(エリザ・シュローダー)70点
みじかくも美しく燃え (1967/スウェーデン) (ボー・ヴィデルベリ) 85点
耽溺的な美しさをゾクゾクとみる喜び。男と女の生の美しさ。ロングショットからの冒頭の草の萌ゆる色合いの見事さ。モーツアルトのたゆとう死のような白眉の高まり。人間は一つの到達点を見極めるとその先は光のみ、、。この作品の延長がヴァルダの「幸福」の、あのけだるい映像にたどり着いたのは言うまでもない、とは今のところ私だけの指摘だが、、。55年前でこの映像の筆舌出来ぬ美しさはたとえようもなく、衝撃的だ。みじかくも美しく燃え(1967/スウェーデン)(ボー・ヴィデルベリ)85点
舞台芸術専攻35期 舞台芸術特別実習Ⅰ『オイディプスとコンプレックス』(監修 盛加代子) 於近大D館 75点
ソフォクレスの有名劇「オイディプス王」の断片を紡ぎながら、交互に現代若者の生態を描くという大胆な演劇であるが、通常の演劇からかなり遊離しているので、吾輩のようなお年寄りにはついていけず、かなり苦労しましたぞや。2時間、38名もの役者が出演する。場面は10を超えるが、それでも若者たちの熱気は観客に十分伝わってくる。彼らの、彼らの言葉で考えた演劇。それは第三者からはわからぬ言うに言われる思いがあるのだろう。出口を出ると、出演者全員の彼らの明るい解放感が僕にも伝わってきた。若さって素晴らしい!舞台芸術専攻35期舞台芸術特別実習Ⅰ『オイディプスとコンプレックス』(監修盛加代子)於近大D館75点
丘の上の本屋さん(2021 クラウディオクラウディオ・ロッシ・マッシミ) 75点
本好きの人のための、人が大好きな人のための、真実を探してやまない人のための、いつまでも自分探しの没頭している人のための、愛すべき映画だと思います。あまりにフラットに描き過ぎているので、映画的盛り上がりにはいまいちだが、敢えてそうすることによって誰をもこの映画に参加できるよう、この映画の本質をつかみ取れるようににしている気もします。たまにはこんな素朴な映画もあっていいですなあ、、。いい時間帯でした。丘の上の本屋さん(2021クラウディオクラウディオ・ロッシ・マッシミ)75点
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じっくり見られる最近にはない拾い物の大人の映画です。モロッコの映画なんですね。人間の表情でぐいぐい引っ張ってゆくその描写力、そしてありのままに生きることの意味を問う渾身のテーマはイスラム圏を超え、全人類的であります。映像による小説的解釈も西洋的でまさに純粋ヨーロッパ映画です。でもだからこそ、ラストの震えるような遠吠えの声が心を揺らす。青いカフタンの仕立て屋(2022/仏=モロッコ=ベルギー=デンマーク(マリヤム・トゥザニ)90点
ロバが愚かで悪しきしかし、しかし哀れで悲しい人間世界を神が俯瞰しているように見つめるまなざし、、。まさにブレッソンの「バルタザールどこへゆく」と全く同じです。でもやはりどこか違うなあ、、。作家で違うのは当たり前だけど、見ている吾輩の年齢が大いに違いすぎるのも恥ずかしながら原因でもある。映画はこのように見るこちらからの環境によって大いに左右される。こちらのバルタザールは恥ずかしながらロバの表情を見ていても何かやはり人間のやらせを感じ取ってしまう。これも吾輩の人間的汚染度がたまりたまっているからだろうか、、。ブレッソンに比べると感銘度は下がる。EOイーオー(2022/ポーランド=伊)(イェジー・スコリモフスキ)80点
カウリスマキ以外でフィンランド映画を見るのは久しぶり。夜行列車のシーンが多く、最初は鬱屈した雰囲気が続き、見るのも嫌気がさすほどだが、そのうちだんだんと人間の温かさと陰影が出てきて素晴らしい。フィンランドとロシアとの歴史的背景はあまり分か映画を通してそれなりに関係は理解できそうでもある。いい人間だと思った途中客からカメラを盗まれて、それが愛する女性との別離の兆候だと我々は気づくのだが、彼女の心境の変化は二人の素朴な演技で明瞭になる。ロードムービーとしても前半と後半が対照的な取り方をしており好感が持てる。秀作といえるほどではないが、ほのぼのとした寒い国から来たいい風を全面にもたらしている。コンパートメントNo.6(2021/フィンランド=露=独=エストニア)(ユホ・クオスマネン)80点
柳田国男の遠野物語を基本イメージに置いた山本ファンタジーというべきか、僕はジブリの映画を見ているような錯覚さえ覚えた。洗練されてる大道具、小道具を多用した視覚的美術、そして何より鍛えられたピッコロ劇団の面々、物静かで悲しいが確かな命のあしおと、それは人間への祝福のエールとなり脈々と続いてゆく、、。もうこの100分は至福の時間でした。なんだかんだ言っても、この舞台の彩りが若く、透き通り、エレガントで、観客も超若い人たちが大勢いたが、彼らにもきっと受け入られているだろう反応さえしかと感じた。関西の実力劇団がこのように現地点だけでなく、さらに向こうの遠い何かを見据えているのはとても気持ちいい。演劇の将来性を十分感じられる舞台でした。兵庫県立ピッコロ劇団「あしあとのおと、ものがたり」(作・山本正典演出・原竹志)atピッコロシアター80点
以前他劇団で上演したらしい演目です。内藤氏らしいいつものパターンだが、冒頭の水辺での事故もそれほど尾を引かないし、肝心の借金マニアのダメ先生もなんだかなあ、ピンとこないです。それぞれの役者さんたちの演技はそりゃあよくできてます。でも今回は吾輩に迫ってくるものがちとおとなしかった感がします。テーマ性がいつものように前面に出していないように感じられるのは吾輩だけでしょうか、、?この劇団は事務所を変わるので、もう今年の劇はないようです。楽しみにしていたのにそれだけが残念。また皆さんとお会いしたいものです。南河内万歳一座「新・あらし」(作・演出内藤裕敬)at一心寺シアター70点
障害児と社会とのありかたを描いたものだが、キリスト教の理念にはかなり入り込めてはいるが、肝心の事件の真相に触れていないので、どうにも煮え切れない気持ちが残滓として残る。主人公デミョンの演技は出色ものだ。連鎖(2020/韓国)(キム・ジョンシク)70点
これは面白いです。設定が本格ミステリーファンならではのわくわく感。ありえない話といっても最近はやりのSF的手法ではなく、往年からのミステリーファンでも十分楽しめる著書となっている。よくこれだけ考えられたなあと感心する内容なので、これぞ本格ミステリーといいたい。シリーズ化されるのを期待したい。アミュレット・ホテル(方丈貴恵著)(光文社2023)80点
突撃金魚は好きで、東京にまで遠征したこともあった。そのうちサリngROCKさんが出演しなくなり、山田蟲男さんは大きく変身する。作品も軽妙で少女っぽい軽やかさを持った作品から重く暗いものが多くなっている。でもずっと見ているのだが、、。今回はなんと出演がかなり遠のいていたサリngROCKさんの久々の出演で、もう見る前から少々精神高揚気味。そしてそれは叶った。それだけで私的には十分なのだが、この作品、なんとあの小さな舞台に多数の俳優陣出演、しかも全員練習十分、演劇的には古代歴史絵巻大開帳、エンタメ性も十分で面白い。ものすごいパワーを舞台にまき散らしておりました。そらそうだろう、30人ぐらいの俳優たち、みんな所属の劇団に戻れば主役級の人たちばかりだ。演劇ファンにはたまらない舞台となりました。今年前半の出色の出来。突劇金魚「GFT版贋作・桜の森の満開の下」(脚本山田蟲男、サリngROCK・演出山田蟲男)at芸術創造館85点
話題作である。即、見に行く。なるほどそういう映画か。でもちょいとあざとい感じが匂うかな、、。映像は全面パンフォーカスしていて細密画あるいはワイエスのような画像で美しい。うっとりする。これも恐らく塀の向こう側で行われていることを無視することのできる人間への限りない嫌味あるいは警鐘のつもりなのではあるまいか、そんな気もする。冒頭から何度も出てくる画面の黒塗り。かすかに聞こえる収容所での物音。ああ、あざといなあ。こんなやり方でしかこういう人類の真っ暗な深部を描けないと思っているグレイザー氏、幼稚過ぎません?これに音響賞を与えるアカデミー会員も同じく。さて、かなりいつもと違いけなしている吾輩ですが、作品的には全編ワイエス風の映像がやはり美しく、静謐な美術画をずっと見ている気がいたしました。あの夜中にリンゴを置くあ...関心領域(2023/米=英=ポーランド)(ジョナサン・グレイザー)80点
予告編で絶対見なきゃと思ってみた作品。同僚から疎外される教師の日常を描いている作品かなと思ってたら、意外とオーソドックスなホントありふれたどこにでもある教室を描いたものでした。主人公の女教師や校長先生、ほかにそれほどやる気のないフツーの先生たちがまるで自己回顧の気持ちを持たない人たちなので、見ていていやな思いをするのだけれども、でもそれなりに面白い作品ではある。これだけ騒ぎを起こしておいて、生徒に責任を取らせる学校もそれは日常的な行為であり、ありふれたいつもの学校風景なのである。ラストの、生徒を強制連行する神輿を担いだかのようなシーンはある意味爽快にさえ映るのはこの映画の皮肉ぶったところなのでしょう。ドイツ映画はいま世界でもかなり目立って秀逸な作品を生み出している。何かな?ありふれた教室(2023/独)(イルケル・チャタク)80点
いろんな話をいつも様々に展開してくれる1mg。今回はぐっとハートウォーミングの、笑いあり、涙ありの演劇の原点に戻ったかのようないい劇でした。劇場に入ると、古ぼけたアパートの設定なんだが、大道具が斬新で美しい。住民の俳優陣の演技もてきぱきしていてそれがまた美しい。そういえばみんな若く、また美男美女ばかりで、見ているだけで気持ちがさわやかになる。いい話なのである。そこに、時代を20年時間軸を動かして重層的な仕上げに徹していて、脚本のうまさが光っているナア。この劇団は何でもできる劇団なんですね。そういえばこの多様性は、客層も若い人たちから老人たちまで層が厚いと感じる。またまた次作が楽しみになってきました。いい休日でした。劇団1mg「ユメミソウ~夢見荘~」(台所編)(作・演出伊達百式改)於indpennded2nd80点
これは読みやすく、しかも設定がめちゃ面白い。どんどんページを繰る。あっという間にラストまで一気だ。離島で起こる連続殺人事件。通常は通信機関がオミットされる。しかしこの小説ではそんなことはせず、登場人物たちが身の危険を感じ、警察に連絡できない状態にいる。この設定はユニークだ。そして犯人がいるのを確認しながら行う「こっくりさん」。面白い。才能まで感じるほどだ。しかし、ラストの叙述トリックは何だ。あんなことは違反ではあるまいか。読者をだましているのと同じではないか。ちょっと許せない気もする、、。そうすると他にも何だかなあ、という突っ込みもいろいろ沸いて来る。この点が一番の問題点。ミステリーは面白いのと斬新なだけでは褒めることのできないなにものかが存在する、と思うのだが、、。十戒(夕木春央(著)(2023講談社)80点
期待してみた映画だったが、、。原作読んでいないので、なんとも言えないが、ある老人の死が四方八方に波紋を立てるように、すべてフォーカスされていないので、何が何だかもやもや感が残る設定になっている。そしてそのど真ん中に、事件と関係のない福士と松本とのドロドロ愛欲関係を据えている。余計、観客は訳が分からなくなる。731を急にこの話に無関係に持ってきたりして、さらに私は戸惑う。大森は何を考えとる。雰囲気は確かにあるなあ、、。でも結局それだけの映画かな。彼は最初の作品「ゲルマニウムの夜」が強烈で秀作であっただけに、「日日是好日」を頂点として、それ以降の作品はちょっとどうだかなあ、と思う。演技としては福士はなかなかいい。財前はさすが。松本はなんだかまばゆい。近藤、平田、根岸はもったいない使い方。大森はどこへ行く。湖の女たち(2024/日)(大森立嗣)65点
劇映画なんだけど、ドキュメンタリータッチというか、ドキュメンタリーを目指してる。そのせいか、映画的高揚が持続せず、すぐ途切れてしまう感覚があるのは、時間軸効用でカットを多用しているからかもしれない。こういう映画作りもあるのだなあとは思うけれど、現実政治へのプロパガンダへの貢献は理解でき、また映画的にも優れていることは否定しないが、あまり好みではないかな、、。結局、彼は何をしたのか、最後まで不明瞭だったような気もするし、何より家族関係では、結婚しているのだから、母親より本来妻の方がしゃしゃり出るべきであろうと思うのだが、この国ではどうもそうではないらしい。なんだか日本人にはわからない点もある。あっ、俺だけ?ミセス・クルナスvsジョージ・W・ブッシュ(アンドレアス・ドレーゼン)(2022/独=仏)70点
骨太作品「新聞記者」の監督の藤井がこんな100%純愛映画を撮ろうとは思わんだ、、。嘘だろうが、から、だんだん見るモードが純愛本気モードにフォーカスされていき、そしてどんどんはまって行き、、やがて最後はいつも通り、号泣させられる羽目になる。藤井に負けた。まさかと思った。そう言えば、彼と清原とは「デイアンドナイト」「宇宙でいちばんあかるい星」でタッグを組んでた。好みなんだろうな。いい女優だ。黒木お二人の女優の使い方もなかなか秀逸。ましてや、松重の使い方のぜいたくなこと。藤井のチカラなんだろうな。でも何といっても、恥ずかしいほど昔からの純愛映画路線に沿ったストーリー展開の紡ぎ方は100%ストレートですがすがしいほど。それがいい。でも清原は化粧なしの方が断然いいと思う。NHKドラマ「透明なゆりかご」のころはひょっ...青春18×2君へと続く道(2024/日)(藤井道人)80点
若い方々の結婚観がわかりづらいのは年のせいか、それとも脳の中身が全く異物であることに気づかないだけなのか、なんてふと思う。でも、この映画、何か颯爽とした清涼感が吹きあふれ、僕は気に入った。これだから映画は見ないとわからない。途中で長澤がいなくなるので、主役がそんなに不在でいいのか、なんて思う時もあったけど、それはそれでその不在がこの映画の底流を流れるテーマだからと思いつくまで、その時間感覚が後で惜しくなるほど愛しい。全体に及ぶこの現実感との違和感は何か?おそらくこの原作がどうもあやしいのではないか。小説的過ぎて、実際的な生活感に乏しい、とまで言わないけれど、でも逆に考えるとこの映画の魅力のほとんどがこの現実感の不在にあることに気づく。人工的な話だけれど、若い人たちの脳裏にある愛の実現とはこういう形で行われ...四月になれば彼女は(2024/日)(山田智和)80点
中編2本。「FROM~」は一人芝居。福島の被災者から日本に送るメッセージの集大成だと思う。もう13年か。されど日本人はもう忘れかけているのではないか。そんな思いを小さな熱源にして被災者からというより、もう一人間として響くように心から叫び続ける女性。その姿は圧倒的だ。確かに、2年ほど前福島に一泊したが、町は完全復興を遂げ、この大きな災害には見ただけではあったかどうかさえ忘れるほどだった。しかし、一人一人の胸の内には秘するものがあるのだろう、そんな感想を得た。「ねずみ狩り」は二人芝居。ごみ溜めの街。中年の男と女。彼らも贅肉と年齢を重ね、実際はごみ溜めの現代に息づいている。二人は自分を語ろうとしないので、持ち物からしまいには衣服まで脱ぎ取る羽目になる。そして真裸の透き通った人間に戻ったとき、自分が狩られる鼠だと...アートひかり「From2011.」「ねずみ狩り」(作・小池美重ペーター・トゥリーニ)(演出・仲田恭子)at難波サザンシアター80点
北村想原作、演出が流山児祥、俳優陣はロートル(失礼!)女性陣と聞いて、即東京にまで馳せ詣でしてみたいか、そうでもないか、、、。私はあの小さな早稲田駅前の劇場でどんなバカ騒ぎが垣間見れるか気になってしまいとうとう東上してしまう。相変わらず現物の流山児祥は荘厳で元気。懐かしさを超え、時間間隔がなくなってしまう。話は面白おかしい「怒れる12人の男たち」のすれすれパロディをといえようか、グロテスクを超え、清貧な気持ちにさせてくれました。ものすごいパワーでございます。皆様、たまにセリフのとチリはご愛敬。いつまでもお元気で。楽しませてくれました。シアターRAKU『Operettaめんどなさいばん』(作・北村想演出・流山児祥)於space早稲田80点
チェーホフの3短編集。3編ともとても面白い。さすがチェーホフは演劇の面白さをよく見つめて、そしてよくわかっている。演劇の作り方までわかるような展開である。セリフがすべて洗練されている。無駄がない。これこそ演劇の粋。冒頭の「結婚申し込み」と最後の「熊」が秀逸。本当に小さな劇場上演だが、ファンにはだからこそ応えられない演劇鑑賞となった。やはり東京の演劇は質が高いね。来た甲斐があったものだ。WWWproject「熊・結婚申し込み/チェーホフ短編集より(作・チェーホフ演出・千田恵子)於・新宿atTHEATRE80点
学生演劇。出し物もM1グランプリを目指す芸人と出会い系アプリであった若い女性。いかにもヤングの物語まあ彼らの実際の生態も吾輩からすれば異次元の世界。でも、かなりまじめなお笑いを目指す芸人が中心に描かれるので、いやらしさは毛頭ない。マッチングアプリとはいえ、まともな話であるのだ。ただ吾輩からはそれほど深く入り込むこともできず、そうなんだね、とうなずくばかり。劇中劇のM1グランプリ予選はどうなんだろう、あまり面白くなかった感あり。客席からの笑いもなかったようだった。でもこればかりは仕方がないことで、若いっていいなあと思うばかり、、。青春真っ盛りだねえ。劇団てあとろ50’「できれば笑って」(作・演出久松凌空)at早稲田大学学生会館75点
現代の若者の現実を描いている。流れるままに、から自分の目線で現実を切り開いて行ける、までの成長期映画。でもこの映画の偉いところは「カネ」の本質をきちんと描いているところ。女の子が彼と同棲し始めるのを躊躇するのもカネだし、生活するために本を書くのもカネのため。その意味でもまさに現代性を表している。即物的なのだ。『行く先/後世』(ルーダ・ベン・サラ=カザナス)65点
静かな自分探しの映画です。台湾の緑島という島がいい。海、波間、岩。そこに育った兄、妹。離れ離れになってもいつかはたどり着ける。あまりの境遇の哀しみに続く思いがけないラスト。静かな涙が流れる。恋人のボクサーは少々付け足し。あなたを、想う。(2015/台湾=香港)(シルヴィア・チャン)70点
2作目から見たが、この処女作は2作目の原型か。カメラの舐め方、詩情、展開などにそれを感じる。けれど、見る方も我慢を強いられるのも事実。そんな大陸的な大きさがビー・ガンの持ち味だ。中国南西部にの道路には中央分離帯がない、、。凱里ブルース(2015/中国)(ビー・ガン)75点
ビー・ガン初見。噂通りの舌を巻く快作。全編漆黒の画面にゆらり動くカメラ。酔いそうになるほど。ストーリーはそのうち夢と現実と混濁しどうでもよくなる。何と言っても映像ですな。全編ポエムです。豪雨。水。林檎。緑色の本。ザボン。卓球。ラケット。松明の炎。古びた時計。回転家屋。線香花火。うーん、もう一度見たい。ロングデイズ・ジャーニーこの夜の涯てへ(2018/中国=仏)(ビー・ガン)85点
韓国映画で、最近都会的なスタイリッシュな映画を見ることが多く、たまにこんな生活感豊かな庶民性の溢れた映画もいいものだ。途中出て来るのど自慢の歌が日本のド演歌にそっくりなのもほほえましい。いい映画です。大切な人を想うとき(2018/韓国)(コ・フ)75点
高校教師と生徒との禁断の恋。ある不幸を抱えたまま、20年の歳月を経て、、。というめちゃロマンチックな映画です。もうこの歳ではこんな映画見れんだろうと何度も思ったが、なんと最後まで見てしまう。ラストの意外性は美しく、また主題歌もよかった。まだ俺も捨てたものじゃない。クレヴァニ、愛のトンネル(2014/日)(今関あきよし)70点
ジョージア舞踏団に配属するダンサーたちの人生を描いた珍しいジョージア映画です。生活が貧しく、生きるのに精いっぱいの市井の人々。主人公のメラブは愛を知り、そしてそれを乗り越えた先にオリジナルのジョージア舞踏を創り出す。異文化ムードぷんぷん。ダンサーそして私たちは踊った(2019/スウェーデン=ジョージア=仏)(レバン・アキン)75点
スペインの北ヒオンに戻って来た女の子。家は破産寸前で電気も止められる。そんな母娘のSNSを駆使した現代の波間に浮かぶ危ない生活。でも彼女たちは立派に現代を生きている。生きる哀しみも感ずるが、元気さえもらえる明るい映画です。エルプラネタ(2021/米=スペイン)(アマリア・ウルマン)80点
車が道路でエンコして、それから様々な人たちの孤独感を伝えていくが、それは生きていく上でどうしようもないことなのだった、、。そしてまたラストで同じ車が道路上でエンコする。人生はリフレインする。全体にもっと凝縮できなかったかなあ。台北暮色(2017/台湾)
鬼才アニエス・ヴァルダの処女作。パリ郊外の市井の人々が営む一日を、倦怠期が訪れた夫婦がずっと話しながら歩き続ける光景を通して描く。二人のアムールがなければ1950年代、日本、イタリアのネオレアリズと全く変わらない写真だ。人々の生きる喜び、苦悩をさらりと撮ってしまうヴァルダの才能が垣間見える。ラ・ポワント・クールト(1955/仏)(アニエス・ヴァルダ)75点
昔同性愛が犯罪だったころの哀しい話です。現代にでもその感覚が残ってはいるような気もするが、考えさせられます。映像、演出は秀逸。ターナーの絵画のごとく、イギリスの海の風景が登場人物たちの心象を写し取っている。僕の巡査(2022/英=米)(マイケル・グランデージ)75点
人生の最後を迎え、昔ながらの友人たちが一人の友の遺灰を巻く旅に出る、、キャストがものすごく豪華で俄然自分の青春を振り返ることになる。話が感動的なのになぜか盛り上がらないのはこれぞ演出のなせる業か。情に流れとるよ。ラストオーダー(2001/英)(フレッド・スケピシ)70点
ロシア映画では珍しい老人ものコメディ。一人で周りに迷惑をかけちゃだめだと自分のお葬式を設える空っとしたほのぼの映画だ。でも、どこかで冷め切った人生への覚醒感も垣間見えるし、エスプリも効いている。全シーン余裕もあるし拾い物の秀作映画です。彼女が起こすてんやわんやに人生のおかしさ、哀しみさえ見える。私のちいさなお葬式(2017/露)(ヴラジーミル・コット)85点
気になっていた展覧会に行く。この中之島美術館は開館1年を経るが、初めて見たい絵画展が来たのだ。佐伯は子供時分からかなり好きな画家で、ユトリロとブラマンクに佐伯はかなり影響されていたらしいが、僕はこの二人が昔から好きで、何度も絵画展に行ったものだ。佐伯祐三の絵画はこの中之島美術館の前身に、確か心斎橋の東急ハンズの横側にひっそりと佐伯美術館があったのだ。ことあるごとく、僕は通う。だから今回の美術展はそのリフレインだろうと思っていた。ところが、その心斎橋の佐伯美術館と、今まで見てきた佐伯の画集とも少し違う違和感を今回は持ってしまった。それは何かというと、今まで絵から感じ取った哀しみといった感覚がほとんど感じないのだ。あのあっけらかんとしたユトリロでも感じた哀しみは今日の絵画展ではあまり感じられなかった。まるで違...佐伯祐三展を見て
私とは何か?という普遍的な命題を持った映画です。何なんでしょうね。私はこの歳になってもまだ分かりません。それが分からないまま、人は誰かと共生することを考える。だって一人は寂しいですから。この「私」は私には長年寄り添った老妻のように思えました。わたしの叔父さん(2019/デンマーク)(フラレ・ピーダセン)80点
いい映画だ。少なくとも障碍者の心の襞をここまでじっくり描いた作品もまれだと思う。そして映画は彼女(音のない日常)を通して、実は我々(会長)を映しているのだ。その双璧となす圧倒感は絶品。ケイコ目を澄ませて(2022/日)(三宅唱)80点
ミステリーとして見ていくとどうももたもた感が気になる。けれど後半彼らは現生を超え、二人だけの涅槃ともいえる世界にまで駆け巡る。これほど強い愛の世界は妄執ともいえる。「嵐が丘」のあの二人を連想す。別れる決心(2022/韓国)(パク・チャヌク)80点
連城がなくなって早20年。その間の未稿等を集めて出版された短編集です。男女の機微をミステリーの主題にすべての作品が力作です。あまりのドンデンがえしにまさかと思われる作品もあるが、ミステリーというより純文学の感触もあり、読みごたえがある。連城の女性への追及または恋慕は想像を超え、まさに孤高の作品と言えます。素晴らしい。黒真珠(連城三紀彦著)(2022中公文庫)80点
若き集団。設定はミステリーで面白いが、、。まだまだけいこ不足の感も見られ、さらなる精進が必要でしょうか、、。脚本的には、やはりあの時間移動はどうなのかな、ミステリーなんだから、きちんと解答すべきだと思うが。演劇好きなのはわかるが、まだまだ若い。次回期待。劇団えっぐ「鳥山探偵事務所〜朝起きたら事務所に死体があった件について〜」(作・演出大谷隆一)at音太小屋65点
結局「かもめ食堂」の荻上なんだよね、と言われ続け奮起、17年ぶり、荻上が本気で力を込めて作った作品なんだと思います。今までの作品とのイメージの違いにおののきます。なんたって、ブラックグラデーションの波紋なんだから、、。この映画って、夫婦の嫌なところ、その微妙な空気感が鋭く描かれています。この手法は女性映画って言ってもいいのではないかと思います。あくまで長年夫婦におさまっている絶え絶えの吐息のような心の声が主人公です。夫の不意の失踪から、新興宗教にのめり込む妻。その妻の新たな世界はまさに現代のブラックユーモアに思えてくる。心を開けると思ったスーパーの同僚、そのブラックな闇の世界。夫の主治医のその怪しげな治療法。などなど、彼女の周囲は彼女の心模様が織り成すまさにブラックな仮想宇宙空間が膨張する。だから夫の死に...波紋(2022/日)(荻上直子)75点