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私的感想:本/映画 https://blog.goo.ne.jp/qwer0987

映画や小説、本の感想を書いています。ネタばれありです。

映画はメジャー作品から、マイナーなミニシアターまで幅広く。 小説は純文学やミステリ、エンタテイメント系の作品など。国内作家、海外作家問わず読んでいます。

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2009/10/06

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  • 『雅歌』感想

    想定した以上に、性を感じさせる内容だった。たぶん聖書の中では異色な作品なのだろう。お誘いください、わたしを。急ぎましょう、王様。わたしをお部屋に伴ってください。(1-4)恋しい方はミルラの匂い袋わたしの乳房のあいだで夜をすごす(1-13)あの人が左の腕をわたしの頭の下に伸べ右の腕でわたしを抱いてくださればよいのに(2-6)わたしの願いはぶどうの房のようなあなたの乳房りんごの香りのようなあなたの息(7-9)などは性を感じさせて興味深い。また3章は恋する女の切実な思いが伝わり胸に迫る。求めても、あの人は見つかりません。わたしが町をめぐる夜警に見つかりました。「わたしの恋い慕う人を見かけましたか。」彼らに別れるとすぐに恋い慕う人が見つかりました。つかまえました、もう離しません(3-2~4)あなたの恋人はどんなに...『雅歌』感想

  • 『詩編』感想

    聖書の『詩編』には、たくさんの詩が収載されているが、そのうちの多くは、自分たちを迫害する敵への憎しみに溢れている。わが身を虐げる相手を敵とみなし、神に向かって彼らの排除を願う。そんな内容が目立ち、非キリスト者である私としては読んでいてげんなりした。自分と考えの違う相手を憎む心情は彼らにとっては、もちろん真実だと思う。だけど外野の人間としては、そういった一方的な視点には辟易するほかない。そう感じるのは、そういった心情の根底に自分は正しく、神の怒りに小さく縮こまり絶対帰依を表明していることこそが正義だという、狂信的な確信がほの見えるからだ。その選民思想というか、ルサンチマンの感覚が私には合わない。個人的には、相手を敵とみなす内容の詩や、神への絶対的な服従を表明する詩よりも、もっと素朴に神を讃える内容の詩が好ま...『詩編』感想

  • 『ヨブ記』感想

    ヨブ記を以前読んだときは、互いが自分の正しさを信じて疑わず、それぞれの正しさを主張し合っているように見えて辟易した記憶がある。だが今回読んでみると、ヨブの訴えは真摯で、それを詩という形で語っているせいか、叙事詩のような味わいさえ感じられてそれなりに楽しく読めた。内容に共感できるかはともかくとしても、印象としてはポジティブである。ヨブは正しい人として知られていたが、理不尽なまでの不幸に見舞われる。彼はその不幸を呪い、自分の無罪を神に向かって訴える。そんなヨブの主張を聞いて、ほかの三人はそれぞれ異見を口にする。神の判断にゆだねよ、神に間違いはなく理不尽な目にあったのはそれだけの理由があるからだ。つまりはそういう内容だ。しかしそんな主張はヨブには届かない。なぜならヨブは自分の正しさを確信しているからだ。そしてヨ...『ヨブ記』感想

  • 『エステル記』感想

    『エステル記』はユダヤ人虐殺という人災を、ユダヤ人の娘にして王妃となったエステルが王への建言によって回避し、首謀者に報復する話である。そういう内容なので、ユダヤ人にとっては重要な記録だということは理解する。けれど外野の私からすると、これは素直に寿げるような内容ではないな、と読みながら感じた。ユダヤ人側の目線なので、自身の迫害の記憶を前面に出してはいるけれど、結局これは権力闘争の結果でしかないからだ。ユダヤ人虐殺を行なったハマンは大臣の地位にある人だが、モルデカイが自分に対して尊大な態度を取ったことを恨んで、彼の属するユダヤ人全体を攻撃対象にする。このときのモルデカイの地位は明確に書かれていないけれど、後に出世するわけだから、それなりの地位にあったのだろう。何より王妃エステルは彼の義子なのだからその縁戚関係...『エステル記』感想

  • 『ネヘミヤ記』感想

    『ネヘミヤ記』は内輪受けの作品だなと読み終えた後で思った。捕囚によって故郷から強制移住させられたユダヤ人にとって、故郷を過去の栄光を思い起こさせる形で復興することは重要な事業であったらしい。エルサレムの城壁の修復はそれだけ記念碑的な事業だったのだ。その事業を成し遂げたネヘミヤは、ユダの地の長官にも任じられた人物で、善政を敷こうと腐心する有能な人だ。そしてそれゆえに、ユダヤ人的に正しいことを推し進めようとしている。民族が違う者と結婚した人は切り離し、安息日を守らなかった者は非難する。今の目線で見ると、ネヘミヤの倫理的な主張で共感できる部分は少ない。しかしそれを言うなら、エルサレムの城壁修繕も、時代の違う私からすれば、だから何だろう、という程度の印象しか湧いてこないのだ。だがそれでも、その内容で一書を成すとい...『ネヘミヤ記』感想

  • 『エズラ記』感想

    『エズラ記』を読むと、バビロン捕囚で強制移住されたユダヤの人たちにとって、エルサレムに神殿を建てるという事業がどれほどの悲願であったかがよくわかる。バビロン捕囚後、エルサレムに戻ること自体、ユダヤの人たちにはかなり重要なことだったろう。それに加えてそこに自分たちの神のための神殿を建てるのだ。それは捕囚によってコミュニティを寸断されたユダヤ人にとって、もう一度民族を一つにまとめるという点でもかなり大事な事業だったに違いない。その事業に対して、外からの反発は強かったらしく、排外主義者やほかの抑圧された民族の嫉妬や反感を誘い、足を引っ張ろうともしてくる。だがそういった外部の敵の存在は、ユダヤ民族内部の結束を固めるのに寄与したことは想像に難くない。そして結束を強めたユダヤの人たちは神殿の建設に邁進する。捕囚と妨害...『エズラ記』感想

  • 『歴代誌』感想

    内容的には『サムエル記』や『列王記』の事象をなぞるだけに見えた。今さら改めてそんな話を聞かされても、といった感を受けるため読み物としては微妙。興味深かったのはダビデからソロモンへの継承がスムースに進んだようにしか見えない点くらいか。内容の感想に関しては『サムエル記』と『列王記』の感想に譲りたい。しかし相変わらず信仰の度合いで王を断罪する傾向が強いな。そんなにも当時の人たちは神に縛られたかったのだろうか。『聖書(旧約聖書)新共同訳』『聖書(新約聖書)新共同訳』『創世記』『出エジプト記』『民数記』『申命記』『ヨシュア記』『士師記』『ルツ記』『サムエル記』『列王記』『歴代誌』感想

  • 『列王記』感想

    『列王記』ではダビデ亡き後のイスラエルとユダの歴史がつづられている。基本的には後半になるにつれて、散漫になるという印象を受けた。その理由は単純で、内容が単調だからだ。歴史書の宿命か、劇的な事件が起こらなければ叙述はどれも似たような内容になり、事実の羅列が続く。そもそも幾人かの王は名前も似通っているし、王国が南北で分かれたため、どっちがどっちの王だったのかわからず混乱した。その中で、内容として目を引いたのは、ダビデ亡き後の権力闘争だろうか。『サムエル記』で強烈な印象的を残したヨアブもその過程で殺されるが、そうした闘争を経てソロモンは王位に就き盤石な態勢を築く。だが聖書はソロモンの治世を手放しで褒めたたえてはいない。というのも彼は統治の期間中、異教の像の建立を容認しているからだ。本書も歴史書である以上、最初に...『列王記』感想

  • 『サムエル記』感想

    書物の名は『サムエル記』だが、内容はサウルとダビデの物語である。おそらく二人の英雄たちの歴史的事象を顕彰するために書かれたもののようで、同時に彼らの人間としての弱さも余さず描いている。加えて宗教臭さも薄いため、物語として単純に面白かった。宗教者として名を挙げていたサムエルに見いだされたサウル。彼は宗教権威を持つサムエルの後押しのもと、民意を統合して外征にも成功、王として確固とした地位を築く。彼の息子には英雄の息子にふさわしい、聡明で勇敢で優しく理に通じたヨナタンもいて、王位は一見盤石であるかに見える。しかし宗教的権威を保証してくれたサムエルがサウルを見放したことで、サウルは少しずつ失墜していく。栄枯盛衰ってところか。そんなサウルの前に、強力な敵兵ゴリアテを倒して名を挙げたダビデが登場する。ダビデはサウルに...『サムエル記』感想

  • 『ルツ記』感想

    聖書の知識がない非キリスト者なので、適当なことを書くが、この書はダビデの祖先の顕彰のために挿入されたのかなと読み終えた後で思った。ルツとそれを娶るボアズは貞淑で誠実な男女だ。ルツは夫に死なれたが、姑に従い彼女の故郷まで帰国する。そんな嫁に報いようと、姑のナオミは自分の親戚のボアズと娶せようとするが、ボアズはルツへすぐには手を出さずあくまで手順を守り、親戚の者の承認を受けてからルツと結婚をする。その行動は極めて誠実だ。ルツとボアズ、どちらも人徳を兼ね備えた人物であることが示された後で、彼らがダビデの祖先であることが言及される。王であるダビデの祖先がそういった優れた人物だから、ダビデも優れた人物でした、ということを強調しているかのよう。そこに聖書作者の意図を見るようで興味深い。血生臭い話が続いただけに、少しホ...『ルツ記』感想

  • 『士師記』感想

    『士師記』は人間の歴史を描いた書なのだと読んでいて感じた。あれほど抑圧的だった宗教者たちの力が衰えたのか、イスラエルでは神の教えから離れた行為が行なわれている。そのため宗教的な要請からではなく、人々は個々人の感情や民族的な思惑を背負って動いているように感じられた。そこからは人間の生の姿がうかがえるようだ。また選んで英雄的人物を登場させていることもあってか、読み物としても面白い。エフド、ギデオン、エフタなどの士師たちの行動はまさに英雄的かつ波乱万丈で素直に楽しめる。またアビメレクのように野心的で残忍な側面の男は、この時代の指導者としてはありがちだったのだろうなと思いながら読んだ。最も楽しめた話はサムソンだ。女に身を持ち崩すところといい、その劇的な死に方といい、どこか憎めず、当時の人たちからも愛されていたのだ...『士師記』感想

  • 『ヨシュア記』感想

    『ヨシュア記』は神の名のもと、自らの行動を正当化して成された大虐殺の記録である。本書ではその虐殺の様が、ある種誇らしげに書かれている。現代人から見れば信じがたい感覚だ。しかし裏返せばそれは、何かしらの理由と独善的正義感があれば、人間は虐殺を行なっても恥じることがないという事実を記した書とも言えるのだ。そういう意味、『ヨシュア記』は人間の醜さに関する記録とも言えよう。『ヨシュア記』によると、ヨルダン川西岸は主によってイスラエルの人々に与えられた土地であるらしい。それは先祖がそこに住んでいたことに由来するわけだが、その言動からは現在住んでいる人間に対する斟酌はいっさい見られない。すでにその出発点から彼らの独善は始まっている。とは言え、そう語っているのはヨシュアをはじめとした指導者層の話だ。おそらく一般人感覚で...『ヨシュア記』感想

  • 『申命記』感想

    倫理は人間社会において重要なものだが、それが抑圧を伴うことに自覚的であらねばならない。そこで重要になるのは抑圧の程度の問題になる。それが『申命記』を読んだ後に思ったことだ。『申命記』はモーセがヨルダン川の東岸を制圧し、民衆に最後の教えを伝え亡くなるまでを描く。相変わらず侵略行為はやまず、その行動には気が滅入るのだが、それが当時は正義とみなされていたということなのだろう。そして自身の死期を悟ったゆえか、モーセは最後に神の言葉としていくつもの掟を明示していく。そしてその内容は侵略行為と同様に、今の価値観と合わなかった。どれもひどいので、細かくは書かないけど、一番インパクト大なのは奴隷に対する記述だろうか。15章12節以降で、奴隷を六年続けた者は自由にさせられ、贈物を与えよと記している。しかしもしこの家に残りた...『申命記』感想

  • 『民数記』感想

    『民数記』で印象的なのは、モーセの二つの側面だ。一つは、強権的方法で支配を確立させようとする老練な政治家としてのモーセの姿。もう一つは、侵略を次々と成功させていく有能な軍司令官としてのモーセの姿だ。まず、強権的方法で支配を確立させようとする老練な政治家の面から見てみよう。『出エジプト記』では、民からたびたび不平を言われて対応に困っているモーセが描かれていたが、今回でもその姿は健在だ。彼の民衆からの指示は必ずしも絶対ではなく、不平の声はたびたび上がる。彼が大衆の指示を受けて指導者の位置にいられる根拠は、神の仲介者だからという点にある。そしてその支配を明確にするため(と思う)、モーセは神の名のもとにいくつも規定を定めて、支配を確立しようとしている。そんな推論を『出エジプト記』の感想で書いた。しかしそのように対...『民数記』感想

  • 『出エジプト記』感想

    モーセは民衆と主との間に立つ中間管理職である。主がいる前提で読むならば、それが『出エジプト記』の率直な感想だ。と同時に、カリスマ性はありながらも、民衆を押さえつけるほどの権力までは持たない、やや弱い支持基盤の指導者モーセの苦労が感じ取れる内容でもあった。モーセは緩やかな民族主義者だったのだろう、と読んでいて思う(民族主義という概念が近代的という指摘は置いておいて)。かつてモーセは同胞を助けるため、支配者であるエジプト人を殺害した。それは彼がエジプトに支配されていることに心のどこかで反発していたからだろう。そして同胞を助けたいと思う程度にユダヤ人としてのアイデンティティを持っていたのではないか。そういう民族主義的な側面があるからこそ、モーセはユダヤ人を導く指導者となり、エジプト脱出という業をなせたのだと思う...『出エジプト記』感想

  • 『創世記』感想

    久しぶりに聖書を読み直すことにしたので、文章としてなるべくまとめていきたい。さて最初は『創世記』である。以前読んだときも感じたが、今の倫理観で『創世記』を読むとなかなかきつい。ロトの娘が父と近親相姦に及ぶ場面は軽く引くし、アブラハムがイサクをささげる場面では、なぜ試すようなことをするのかと腹立たしくなる。リベカとヤコブの計略はあまりに身勝手でどん引きするし、これではあまりにエサウが気の毒だ。また自分に子どもができないからと召使と夫を結ばせるラケルの選択は理解できず、シケムに対するヤコブの息子たちの報復も過剰すぎてちょっと怖い。夢を読み解いたのにヨセフのことを忘れる給仕役も恩知らずで苦笑するし、冷たく扱った兄たちに対してヨセフが嫌がらせのような行動を取る様には嫌悪感を抱く。それら疑問に思った点に関して、いろ...『創世記』感想

  • ちくま文庫『芥川龍之介全集』全小説評価

    ちくま文庫の『芥川龍之介全集』収録のすべての小説を読み終わったので、評価を記す。やや辛めに点数をつけたかな。★3つ以上が満足できるレベルである。最高傑作は技術的には『歯車』。ただ今の心情的には重すぎるので『トロッコ』にしておく。★★★★★(満点は★★★★★)鼻芋粥偸盗地獄変疑惑トロッコ雛歯車或阿呆の一生★★★★(満点は★★★★★)虱手巾煙管戯作三昧蜘蛛の糸枯野抄蜜柑沼地秋藪の中お富の貞操おぎんお時儀あばばばば点鬼簿玄鶴山房河童★★★(満点は★★★★★)ひょっとこ羅生門野呂松人形煙草と悪魔運尾形了斎覚え書忠義二つの手紙或日の大石内蔵助黄粱夢西郷隆盛開化の殺人奉教人の死るしへる邪宗門あの頃の自分の事開化の良人きりしとほろ上人伝竜魔術葱鼠小僧次郎吉舞踏会黒衣聖母或敵打の話老いたる素戔嗚尊南京の基督杜子春捨児影秋山図奇...ちくま文庫『芥川龍之介全集』全小説評価

  • 中村文則『去年の冬、きみと別れ』

    ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は、二人の女性を殺した容疑で逮捕され、死刑判決を受けていた。調べを進めるほど、事件の異様さにのみ込まれていく「僕」。そもそも、彼はなぜ事件を起こしたのか?それは本当に殺人だったのか?何かを隠し続ける被告、男の人生を破滅に導いてしまう被告の姉、大切な誰かを失くした人たちが群がる人形師。それぞれの狂気が暴走し、真相は迷宮入りするかに思われた。だが―。日本と世界を震撼させた著者が紡ぐ、戦慄のミステリー!出版社:幻冬舎純文学ながら、ノワールミステリのような味わいがあっておもしろい作品だった。ややつくりすぎの傾向もあるけれど、個人的には好きな小説である。ライターの男が、犯罪者にノンフィクション執筆のため、話を聞きに行く。物語自体は、最初至ってシンプルだ。だが途中か...中村文則『去年の冬、きみと別れ』

  • 天藤真『大誘拐』

    刑務所の雑居房で知り合った戸並健次、秋葉正義、三宅平太の3人は、出所するや営利誘拐の下調べにかかる。狙うは紀州随一の大富豪、柳川家の当主とし子刀自。身代金も桁違い、破格ずくめの斬新な展開が無上の爽快感を呼ぶ、捧腹絶倒の大誘拐劇。天藤真がストーリーテラーの本領を十全に発揮し、映画化もされた第32回日本推理作家協会賞受賞作。出版社:東京創元社(創元推理文庫)何より、先に言いたいのは、本作は見事なまでのエンタテイメント小説だってことである。広大な山林を所有する地方の地主を誘拐する。ストーリーはまずそんな風にして始まる。非常にシンプルだ。なのに、主導権を握るのは、誘拐犯ではなく、誘拐される側の柳川家の女当主という点がおもしろい。しかもこの刀自がいちいち的確な助言と作戦を立てるから、痛快なのである。何より刀自のキャラクタ...天藤真『大誘拐』

  • 『日本文学100年の名作 第1巻 夢見る部屋』

    第一次世界大戦が勃発し、関東大震災が発生――。激動の10年間に何が書かれていたのか。池内紀・川本三郎・松田哲夫編出版社:新潮社(新潮文庫)100年間の名作短編を選別して収録したアンソロジーである。こういった企画は、いろんな作家を知ることができるので、非常にありがたい。以下、各作品の感想を列記する。荒畑寒村『父親』昔の吉祥寺の風景が描かれていておもしろい。今でもそれはずいぶんな賑わいだけど、昔は相当辺鄙な田舎だったようだ。父親の愛情が伝わって来るような小品。森鷗外『寒山拾得』寒山拾得が普賢と文殊の生まれ変わりと聞いて、男はあっさり信じたけれど、その印象は実際の寒山拾得を見てのものではない。人はとかく人の評価を鵜呑みするばかりで、当人たちを見ずに判断を下すものであるらしい。ラストの作者の一文は皮肉が利いていておもし...『日本文学100年の名作第1巻夢見る部屋』

  • 冲方丁『光圀伝』

    なぜ「あの男」を殺めることになったのか。老齢の水戸光圀は己の生涯を書き綴る。「試練」に耐えた幼少期、血気盛んな”傾寄者”だった青年期を経て、光圀の中に学問や詩歌への情熱の灯がともり――。出版社:KADOKAWA同作者の『天地明察』でも感じたことなのだけど、『光圀伝』でも、後半は、歴史的な記述に重きを置きすぎて、たるんでしまったきらいはある。これは冲方丁の癖なのだろうか。しかし徳川光圀という男の生きざまを過不足なく描いていて、深く心をゆさぶられる一品だった。まさに大作と言っていいだろう。次男でありながら、水戸の世子として生を受けた光國。しかし彼はなぜ長男ではなく、次男の自分が世継ぎと見なされているか理解できず苦しむことになる。そのために子供のころは兄と張り合ったりするが、包容力のある兄のために対抗意識はなくなって...冲方丁『光圀伝』

  • 小島信夫『アメリカン・スクール』

    アメリカン・スクールの見学に訪れた日本人英語教師たちの不条理で滑稽な体験を通して、終戦後の日米関係を鋭利に諷刺する、芥川賞受賞の表題作のほか、若き兵士の揺れ動く心情を鮮烈に抉り取った文壇デビュー作「小銃」や、ユーモアと不安が共存する執拗なドタバタ劇「汽車の中」など全八編を収録。一見無造作な文体から底知れぬ闇を感じさせる、特異な魅力を放つ鬼才の初期作品集。出版社:新潮社(新潮文庫)喜劇的なおかしみがありながら、どこか哀しみを感じさせる作品が多く、その点が魅力的な短編集である。中でも表題作『アメリカン・スクール』が一番おもしろかった。特に、敗戦後の日本の状況を暗喩的に描きだしているあたりがすばらしい。アメリカに馬鹿にされてはいけないと、やたら気張った態度を取る山田とか、外国人を恐れて卑屈に目立たないように振る舞う伊...小島信夫『アメリカン・スクール』

  • 中村元『原始仏典』

    仏教経典を片端から読破するのはあまりに大変だが、重要な教えだけでも知りたい―本書は、そうした切実な希望にこたえるものである。なかでも、釈尊の教えをもっとも忠実に伝えるとされる、「スッタニパータ」「サンユッタニカーャ」「大パリニッバーナ経」など、原始仏教の経典の数々。それらを、多くの原典訳でも知られる仏教思想学の大家が、これ以上なく平明な注釈で解く。テレビ・ラジオ連続講義を中心に歴史的・体系的にまとめたシリーズから、『原始仏典1釈尊の生涯』『原始仏典2人生の指針』をあわせた一冊。出版社:筑摩書房(ちくま学芸文庫)仏典と書くと非常に難解な響きを持つものだが、中村元の文章は非常にわかりやすくて、すんなりと頭に入ってくる。それが本書の優れた点だ。おかげで、特別難しいと感じることなく、原始仏教の世界とエッセンスを知ること...中村元『原始仏典』

  • 黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』

    「きみは、本当は、いい子なんだよ!」小林宗作先生は、トットちゃんを見かけると、いつもそういった。「そうです、私は、いい子です!」―トモエ学園の個性を伸ばすユニークな教育と、そこに学ぶ子供たちをいきいきと描いた感動の名作。出版社:講談社ともかくも、すばらしい作品である。黒柳徹子の実話に基づいているようだが、子を教育するということ、子が育っていくということについていろいろ考えさせられる作品だった。トットちゃんは今でいうところのADHDだったのだろう。授業をまともに受けず、机のふたを何回も開け閉めするなど、落ち着きのない行動はあからさまで騒々しい。いまでこそADHDと言う言葉があるので、認識は進んでいるけれど、昔はそうはいかなかったことだろう。集団に馴染めない子どもは劣等生のレッテルを貼られ、退けられてしまう時代なの...黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』

  • 麻耶雄嵩『木製の王子』

    比叡山の麓に隠棲する白樫家で殺人事件が起きた。被害者は一族の若嫁・晃佳。犯人は生首をピアノの上に飾り、一族の証である指環を持ち去っていた。京都の出版社に勤める如月烏有の同僚・安城則定が所持する同じデザインの指輪との関係は?容疑者全員に分単位の緻密なアリバイが存在する傑作ミステリー。出版社:講談社ノベルスおもしろいか、おもしろくないか、で言ったならばおもしろい。しかし人に薦めるか否かで言ったならば、薦めない。本書の感想はそれだけで尽きるような気がする。エンタテイメントとしては楽しいのだが、どうにもツッコミどころが多くて、萎えてしまうのだ。萎えてしまうのは、設定の一語に尽きる。もちろんこの手の作品はそういう点を気にしてもいけないけれど、殺人の動機のむちゃくちゃなところと、創り物っぽさが如実に出過ぎているのが、厄介だ...麻耶雄嵩『木製の王子』

  • 吉田修一『春、バーニーズで』

    妻と幼い息子を連れた筒井は、むかし一緒に暮らしていたその人と、偶然バーニーズで再会する。懐かしいその人は、まだ学生らしき若い男の服を選んでいた。日常のふとしたときに流れ出す、選ばなかったもうひとつの時間。デビュー作「最後の息子」の主人公のその後が、精緻な文章で綴られる連作短篇集。出版社:文藝春秋(文春文庫)5作品中、4作品、具体的には『春、バーニーズで』『パパが電車をおりるころ』『夫婦の悪戯』『パーキングエリア』は同系列の話である。できるならば筒井と瞳と文樹の内容で一本通してほしかったのだが、まあ仕方あるまい。『最後の息子』を読んだことはないが、知らなくても、すっと物語に入りこめるのがよかった。事情は複雑だけど、普通の家族の風景を描いていて、しかも読ませる力があって、忘れがたい。『春、バーニーズで』は昔のゲイの...吉田修一『春、バーニーズで』

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