吉田修一『春、バーニーズで』
妻と幼い息子を連れた筒井は、むかし一緒に暮らしていたその人と、偶然バーニーズで再会する。懐かしいその人は、まだ学生らしき若い男の服を選んでいた。日常のふとしたときに流れ出す、選ばなかったもうひとつの時間。デビュー作「最後の息子」の主人公のその後が、精緻な文章で綴られる連作短篇集。出版社:文藝春秋(文春文庫)5作品中、4作品、具体的には『春、バーニーズで』『パパが電車をおりるころ』『夫婦の悪戯』『パーキングエリア』は同系列の話である。できるならば筒井と瞳と文樹の内容で一本通してほしかったのだが、まあ仕方あるまい。『最後の息子』を読んだことはないが、知らなくても、すっと物語に入りこめるのがよかった。事情は複雑だけど、普通の家族の風景を描いていて、しかも読ませる力があって、忘れがたい。『春、バーニーズで』は昔のゲイの...吉田修一『春、バーニーズで』
2015/10/15 21:37