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白い花の唄 https://blog.goo.ne.jp/aquamarine_2007

銀河連邦だのワームホールだののある遠未来の宇宙時代。辺境の惑星イドラで生きる人々の物語。

オリジナルSF小説『神隠しの惑星』第一部です。

karicobo
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2009/08/10

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  • ピエタ (その3)

    灯りを消した部屋に満月の光が差し込んでいた。サクヤは布団に横座りして籐椅子のセットを置いた板間に続く、ガラス戸に寄りかかっていた。いつもきっちり正座しているので、あんな風に気だるい様子を見るのは珍しい。浴衣の胸元もゆるくはだけていた。そんな姿を見たのは俺だけではない、ということがいつも胸にチリチリこびりついていて、身体の弱いサクヤを気遣わなくてはと自分に言い聞かせているのに、時々乱暴に扱ってしまう。そして後で激しく後悔する。その繰り返しだ。サクヤと俺の間からタカ兄が消えることはない。そのわだかまりに耐え切れず、せっかくの二人切りの夜に俺の方からタカ兄の名前を出してしまったのだ。あの旅行で二人だけになってから、初めて見る表情や仕草がたくさんあった。神社の神主として、お茶やお花の先生として、一族の命運を担う”柱”と...ピエタ(その3)

  • ピエタ (その2)

    サクヤとキジさんの再婚の顛末はこちらとこちらの漫画をご覧ください。文中に出て来る黒曜は、他の妖魔や神サマ達に竜胆と呼ばれていて、その経緯はこちらの章でも語られています。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇俺はずっと怒ってる気がする。サクヤが抱える事情。住吉神社を巡る状況。タカ兄やきさ祖母さまを追い詰めて来たうちの親戚どもの醜悪さ。何もかも腹が立つ。叔父の新さんやタカ兄がなぜ消えなければならなかったのか。お袋や鏡やウルマスがそれぞれ、自分の見解を説明してくれたが、まったくもって納得できない。叔父と兄貴のせいではないが、二人が消えたことは織居と南部の人間たちの抱えた闇だ。葵さんやサクヤが朗らかに前向きにふるまっているのを見るだに腹が立つ。新さんが消えたのは俺が4歳の時。サクヤは10歳だった。タカ兄が消えた時、トンスケは2歳にも...ピエタ(その2)

  • 月夜のピアノ・マン (その7)

    結局、あの月の夜に新さんと会ったことは誰にも話せなかった。もちろん葵さんやサクヤさんには話せない。一番話しやすそうなのは、のん太だけどやっぱりダメだ。あんなにカッコいい人がライバルじゃ、落ち込むに決まっている。それに、ああ見えてけっこうのん太は勘がいいのだ。鷹史さんのことを、のん太に知らせたくない。第一、それどころじゃなくなってしまった。翌日から、住吉のあっちからもこっちからも新さんが現れたからだ。早朝の拝礼が終わって大鳥居の脇の白砂を掃いていると、本当にさりげなく、当たり前の顔をして新さんが歩いて来た。考えてみると砂を踏む音などしなかったのだ。でも普通に足が二本あって、細身でさらさらの真っ黒な髪で、男性にしては睫毛の長い伏し目がちなアンニュイな表情で、まるで竹の細長い葉がはらはら舞い降りてくるように、ムダのな...月夜のピアノ・マン(その7)

  • 月夜のピアノ・マン (その6)

    その夜はそれ以上、葵さんから鷹史さんのことを聞き出せなかった。葵さんは”ごめんね。こんなこと、瑠那ちゃんに言うつもりじゃなかったのに。こんな頼りない母親でごめんなさい”と涙ぐむばかりなので、私は追求をあきらめた。気分転換に一緒にいろんな街の写真やスライドを見た。どの街にもそれぞれ魅力があって憧れをかきたてられる。いつか行けるだろうか。行けるような大人になれるんだろうか。夢のように遠い希望の気がする。葵さんは自分で行った場所だけでなく、様々な国の写真集や地図などをコレクションしていて、いつでも見ていいと言ってくれた。「葵さん、この資料は研究で使うんですか?」と聞いてみた。「そうね。研究でも使うけれど」何だかまた寂しそうな笑顔。私は少し待ってみたけど、それ以上の言葉は出てこなかった。葵さんには秘密が多い。葵さんの書...月夜のピアノ・マン(その6)

  • 月夜のピアノ・マン (その5)

    土蔵の地下のスタンウェイを見た日から、急にやたら忙しくなった。光(みつる)さんはライブのことが私にバレてずいぶん残念がっていたそうだ。「驚かそうと思ってたのに」「どっちにしろ秘密にしとくの無理だろ。これから人が出入りするのに」「うーん。そうだよね。でもびっくりして喜ぶ顔がちょっと見たかったなあ」子供みたいにすねてきーちゃんにたしなめられている。可愛いとちょっと思ってしまった。「人が出入りするって?」「リハーサル始めるからね」床や壁の改装、配線工事、照明器具の設置なんかで、これまでは神社の外にスタジオを借りて練習していたそうだ。「そこ、手狭でさ。ちょっと遠いからサクヤもあまり来れなくて」ピアノを見せてもらった日から、きーちゃんがよく話しかけてくるようになった。慣れてみると、それまでいつも無口で仏頂面で取っ付き難い...月夜のピアノ・マン(その5)

  • 月夜のピアノ・マン (その4)

    本屋の騒動には意外なオチがついた。鷹史さんと星空のようなサンゴ礁の海のような竜宮の入口で遊んだ翌日のこと。熱は下がったものの、3日寝込んでいたのでまだフラフラしていた。土曜で授業の無い日だったし、みんな甘やかしてくれるので、日当たりのいい和室に布団をのべてもらってゴロゴロしていた。そういえば住吉に来て以来、闇雲にコマネズミみたいに走り回ってたなあ。むきになってお手伝いしていた。役に立たないとがっかりされる、と焦っていたんだろうなあ。今も役に立ちたいと思っているけれど、でも前とちょっと違う気持ちだ。襖を軽く叩く音がした。和室なのにノック。「瑠那、起きてるか?入って大丈夫?」のん太の声だ。こういうとこは、一応気を使ってくれてるらしい。子供扱いせず、女の子としてプライバシーを尊重してくれる。「うん。起きてる。だいじょ...月夜のピアノ・マン(その4)

  • 月夜のピアノ・マン (その3)

    「瑠那ちゃん、あなたとお話したかったの」岩永さんのお母さんが私の手を握って、児童文学コーナーの隅のベンチに誘った。無理に引っ張られたので、ネイルの飾りが私の手に食い込んで痛かった。岩永さんも妙に明るいニコニコした笑顔で並んでベンチに座った。うーむ。私はさながらサバンナのガゼル。メスライオンと子ライオンに狙いをつけられたってところだ。「さ、座って。私、あなたにお話することがあるの」私は手に下げていた蘇芳色の巾着を、床に置いたあけび弦のカゴにそっと入れた。蘇芳色は着物に散らした小花の色とリンクしていて、いいワンポイントでしょと咲(えみ)さんが笑った。「あのね、あなた、織居の家の人からちゃんと話してもらってる?説明されてないんじゃないかと思ったのよ、あの家の事情」岩永さんは私の腕を掴んで私に覆いかぶさるように顔を近づ...月夜のピアノ・マン(その3)

  • 月夜のピアノ・マン (その2)

    (住吉神社に来たばかりの頃の瑠那とノンちゃんのエピソードはこちら。この漫画描いた頃は、鷹史の設定が今とだいぶん違っていて、普通にしゃべるただの(?)美青年だった。だんだんヘンな奴になってしまった。)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇白い砂を竹箒で掃きながら、落ち葉って秋だけのものじゃないのだなあとしみじみ思った。そういえば、松とかスギは季節関係なくちょっとずつ新しい葉と交替するって習ったような。でも桜とかケヤキとかの葉っぱもけっこう落ちてるなあ。毎日掃いても毎日降って来る。私の3メートル先にニワトリの家族がいる。こんな白砂に餌なんかあるかな、と思うけど、何かほじくったり啄んだりしている。このニワトリ達は神社の番犬代わりらしい。気が向くと桜さんの野菜畑の周りに卵を産む時もあるが、だいたい回収されずに勝手にひよこになって、勝...月夜のピアノ・マン(その2)

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