ピエタ (その3)
灯りを消した部屋に満月の光が差し込んでいた。サクヤは布団に横座りして籐椅子のセットを置いた板間に続く、ガラス戸に寄りかかっていた。いつもきっちり正座しているので、あんな風に気だるい様子を見るのは珍しい。浴衣の胸元もゆるくはだけていた。そんな姿を見たのは俺だけではない、ということがいつも胸にチリチリこびりついていて、身体の弱いサクヤを気遣わなくてはと自分に言い聞かせているのに、時々乱暴に扱ってしまう。そして後で激しく後悔する。その繰り返しだ。サクヤと俺の間からタカ兄が消えることはない。そのわだかまりに耐え切れず、せっかくの二人切りの夜に俺の方からタカ兄の名前を出してしまったのだ。あの旅行で二人だけになってから、初めて見る表情や仕草がたくさんあった。神社の神主として、お茶やお花の先生として、一族の命運を担う”柱”と...ピエタ(その3)
2020/04/27 19:22