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  • I946 第18章(猿渡)

    第18章(猿渡)自分で選択し、そしてすべてに幕を下ろす「カチリ」と、弾倉に弾丸のセットされる音が室内に小さく響く。元の世界へ帰るためには、ボスを捕まえなければならない。ボスを捕まえるということはつまり、ボスをこの世から消し去るということだ。

  • I946 第17章(僕)

    第17章(僕)僕の旅は終わりをむかえる昨夜の霧が嘘のように、その日は眩しいほどの晴れ間が広がっていた。最終日の朝を釧路のホテルで迎える。最上階の、釧路の町を一望できるレストランで優雅に朝食を食べながら、どこまでも広がる青空を眺めて僕は今日の

  • I946 第16章(猿渡)

    第16章(猿渡)パクリじゃないパクリじゃないオマージュなのさ「暗がりの中にいる方がものごとはむしろよく見える」、男は猿渡の心を見通したように言った。「しかし暗がりにいる時間が長くなりすぎると、地上の光ある世界に戻るのがむずかしくなる。あると

  • I946 第15章(僕)

    第15章(僕)世界が交わり物語も転がりだす釧路へ向かう道中で、僕は厚岸町によることにした。厚岸町は牡蠣が有名で、厚岸の道の駅『コンキリエ』では、おいしい牡蠣が食べられるからだ。腹が減っては戦が……というほど空腹だったわけではないが、やっぱり

  • I946 第14章(猿渡)

    第14章(猿渡)目まぐるしくも幻想的な空模様車を止め、牧場の向こうで綺麗に弧を描く七色の虹に彼は心を奪われていた。広大な牧草地に取り付けられた取っ手のように空へ張り付いたその虹は、ここのところつづいていた天候不良を帳消しにするような、そんな

  • I946 第13章(僕)

    第13章(僕)羊は動き出す多和平は『たわだいら』であって『たわへい』ではない。だから、いくら『たわへい』でカーナビ検索しても、その場所が表示されることはなかった。目的地が見つかりません。それはまるで銀行の窓口業務のように同じ言葉を繰り返した

  • I946 第12章(猿渡)

    第12章(猿渡)シンプルな問題ほど人は難しく考える「やつが多和平に現れるという情報が入った、至急多和平へ向かってくれないか!」朝一番、猿渡が署内へ入った途端に、山辺の大きな声が部屋中にに響く。朝からそんなに大きな声を出さなくても聞こえている

  • I946 第11章(僕)

    第11章(僕)方法は柔軟に、目的は一貫して僕は日本の最東端に立っていた。正確に言えば日本の最東端というのは南鳥島だし、ここからさらに東に見える北方領土もまた、ここより東にある日本であると言えるだろう。しかし、「還せ!北方領土」という看板があ

  • I946 第10章(猿渡)

    第10章(猿渡)手がかりは途切れ、事件は振り出しに戻る「今日はここまでにするか……」最東端にある町から西に沈む夕日を眺め、猿渡は考える。根室市街の少し手前にある自然豊かな観光地、春国岱。トドワラでの聞きこみが空振りに終わった猿渡はさらに海岸

  • I946 第9章(僕)

    第9章(僕)小さな満足のために大きな労力を使うという贅沢「それだけのために?わざわざそんなところまで行ったの!?」こんなことを言ってもらえたら、その旅は成功だったと僕は思う。ただしこれはそんなに簡単なことではないということも僕は知っている。

  • I946 第8章(猿渡)

    第8章(猿渡)観るではなく感じる場所で朝からゆっくりと露天風呂に身を浸し、昨日の酔いをしっかりと覚ましてから猿渡は宿を後にした。彼にはなぜ、自分が芸者を呼んでしまったのかがわからなかったし、意識が混濁するまで飲んでしまった理由もよくわからな

  • I946 第7章(僕)

    第7章(僕)信じるも信じないも君次第、でも本当のことなんだ昨日の晩ご飯は実においしかった、と僕は車を走らせながら改めて思い出す。この旅行の中で一番豪華な旅館、そこに標準でつく食事に、さらに3000円を上乗せして、僕は一段グレードアップした晩

  • I946 第6章(猿渡)

    第6章(猿渡)男は本能に逆らえず、登場人物は作者の意思に逆らえない颯爽と川湯温泉に先回りするつもりの猿渡であったが、結局のところ敏腕刑事の彼も空腹にはかなわず、近くの郷土料理のお店に滑り込み、シカ肉と行者にんにくをあしらった丼ぶり、野生丼と

  • I946 第5章(僕)

    第5章(僕)仕事の合間に食べる極上なチョコレートのように見晴らしのいい牧場へ行く、という計画を立てておきながらも、僕はもう一つの案をすでに練り上げていた。不安定な大気の状態によってもたらされた今週の週間天気予報はぐずついた空模様を示しおり、

  • I946 第4章(猿渡)

    第4章(猿渡)風景が変わり、ルールが変わった。登場人物はあまり変わっていなかった釧路という街は実に大きな面積をもつ街で、だから猿渡が捜査する範囲というものも、とてつもなく広い範囲になってくる。会議ではっきりしたことは、羊を捕獲する男を確保し

  • I946 第3章(僕)

    第3章(僕)大切なのは綿密な計画よりもタイミングをうまくつかむこと3年続けて、僕は北海道に上陸する。今回が過去の2年と大きく違うところは、広大な大地を包み込むパノラマの空は厚い雲に覆われ、今にも泣き出しそうな表情をしているということだ。天気

  • I946 第2章(猿渡)

    第2章(猿渡)羞恥心が新しい世界の扉を開ける会議室の机に放り投げられた新聞を拾い、彼は自分の席へと移動する。淹れられてから何時間も立ったであろうと思われる、酸っぱさだけが際立ったコーヒーをすすりながらゆっくりと腰掛け、取ってきた新聞に目を通

  • I946 第1章(僕)

    君は妄想だと言うかも知れないでも僕だけじゃないはずさ君がこの物語を楽しんでくれたらきっとひとつになれるのさ第1章(僕)シンプルを多用する人ほど難しい理屈をこねくり回すかつて「戦いは数だよ、兄貴!」といった軍人がいた。まったくそのとおりだ、と

  • 小さな雀の愛。

    作品を評価するのに、作者の容姿や生い立ちというものは関係ないものだと僕は考える。60歳を過ぎた冴えないおじさんが恋愛小説を書いたっていいし、モテない男が愛について歌ったってかまわない。莫大な富と名声を手にした人間が、豪華なピアノの前で『平和

  • お礼はゴディバで。

    「さんだるさんのブログは少し悲しいお話が多いのね」と彼女がいった。なるほど、と僕は思う。正直に言ってしまえば僕は自分の書いた文章を読むのが苦手である。録音した自分の声を聞くのと同じ気恥ずかしさがそこにはある。だから書いたら書きっぱなしで、そ

  • 終わりの時間。

    その恋に終わりがあることは、僕にも最初からわかっていたはずだった。わずかな間の夢であることも、覚めるべき日が必ずやってくるということも……それなのになぜこんなに心苦しいのだろうか、と僕は考える。いや、実際のところは考えなくてもわかっているの

  • 届かなかった思い。

    平日の開館間もないミュージアムには、一日の始まりを退屈そうに眺めている係員以外誰の姿もなかった。そこで僕らは、ミュージアムの主人公である男の人生を短くまとめたムービーを見るために、こじんまりとした試写室の真ん中に二人で座っている。彼の人生か

  • 本当に困ったときに大事なものは、一口のドーナツとたっぷりのミルクである。

    「そっちはどうなの?」「良くも悪くも相変わらずだよ、特に変わりはないという意味ではね」「あなたはいつでも『相変わらず』ね、まるでずっと電波の届かないところにあるケータイ電話みたい、そうでなければ新聞のテレビ欄だわ」と彼女は言った。「新聞のテ

  • チリンチリンガールは振り返らない。

    二人の人間が並んで歩く、もしくは対向からきた一人の人間とすれ違うのに調度良いように設定されたような道幅の歩道の、駅まであと数百メートルというあたり、そんな細い歩道を今日も決まった時間に決まったようにのんびりと歩いていると、背後から自転車のベ

  • 時代を間違えた二人の政治家。

    「政治の世界に限って言えば、僕にとっての英雄はいつも少しばかり遅れてやってくる」と僕は言った。「ニックメイスンのドラムみたいに?」と彼女は言った。「そんなに味のあるものじゃない、ただ少しばかり遅れてやってくるんだ、そうだなたとえば……」「春

  • 別れ話。

    大好きな作家の新刊が久しぶりに発売される。僕はいそいそと仕事を終えて書店に向かい、平積みにされたその小説に手を伸ばす。僕の右隣から、同じ小説に興味を示した色の白いきれいな左手がのびてくる。小説のように二人の手がそこで触れ合うことはない。それ

  • ある雨の日の情景。

    何か物語を書くとき、なぜだか僕の頭には雨の降る景色が浮かんでくる。雨の降る町の景色。どこにでもある風景。きっと、誰しもが自分の心の中に自分の世界をもっていて、何かを創造するということは、それを表現することなのだろうと僕は思う。ある雨の日の情

  • あの頃の氷砂糖のように。

    歴史を感じさせる佇まいのホテルにある小さなティラウンジで、僕は窓際の席に腰を下ろしてコーヒーを飲んでいる。はめ込み式の重たいガラス窓の向こうでは、鈍色の低い雲が空を覆い、遠くに広がる港町の風景はやさしく降る雨の向こうに滲んで見える。平日の、

  • 女性の支度にイライラしたら。

    女性の身支度と言うものはとかく時間がかかるものである。男性から見れば「どっちでもいいよ……」と言いたくなるようなことで迷い、「どっちがいいかしら?」などと聞いてくる。それでも「どっちでもいいよ」なんて本音を漏らすことは許されない。「あたしな

  • 大阪朝食物語。

    ここは大阪。こぬか雨降る御堂筋。いや、御堂筋ではないんだけれど、とりあえず大阪。もちろん、グリコの看板もカニ道楽も、吉本新喜劇だってここにはある。さて、これは僕が始めて大阪を訪れたときの話。ホテルで朝食を食べたときの話。朝食のクーポン券を持

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