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近未来ブログ小説 https://hanaiyosuke.jugem.jp/

ちょっと切ない短編恋愛小説と、スピード感あふれるエンターテイメント小説です。

花井 耀介
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千葉県
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長野県
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2006/09/08

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  • ワンス・イン・ア・ホワイル40

    手の平が熱い。 奥多摩の歴史と題されたスペースには、江戸時代からの奥多摩の風俗にまつわる展示物が置かれていた。 幻灯機、木彫りの人形、獅子舞などの展示の中に、今でもつづけられている竜の踊りがビデオで繰り返し流されている。 黒子に操られた三匹

  • ワンス・イン・ア・ホワイル39

    「やっと着いたねえ!」 奥多摩湖をバックに二人で記念写真を撮った。 奥多摩湖は周りをすべてコンクリートの壁で固められたダムのような湖だった。 道路をはさんで、奥多摩資料館という建物が入った。「ねえ、あそこならお水あるよねえ」 梢子が真っ赤な

  • ワンス・イン・ア・ホワイル38

    「よみおわったあ!」 ベッドに起き上がると、和樹は、梢子の顔を見た。笑っている。「どうだ?」「すごい、おもしろかったあ」「マジか?」「ほんとだよお」 梢子がベッドにのって、和樹にキスをした。「こんな才能もあるんだね」 手放しで喜ぶわけにはい

  • ワンス・イン・ア・ホワイル37

    「ワインのむう?」「ああ、いいな」 赤ワインをあけた。「ねえ、そろそろ読ませてくれる?」「読んでくれ」 少し息苦しくなり、首筋がムズムズした。原稿を梢子に渡す。大切そうに受け取り、原稿を読みはじめた梢子の目が文字をなぞるのを見ているうちに、

  • ワンス・イン・ア・ホワイル36

    梢子の部屋のチャイムを鳴らす。換気扇が勢いよくまわっている。油の匂いがした。 チェーンを外す音がして、ドアが開いた。「いらっしゃあい」 梢子がぬれた両手を顔の横にあげて立っている。和樹は、中に入って缶ビールの六巻パックの入ったビニールを渡し

  • ワンス・イン・ア・ホワイル35

    男は川のほとりに建てられた民家の玄関に回覧板を置いた。庭に洗濯物が干してある。古い木造の家だ。 扉が開く音がして、中から中年の女の人が出てきた。「暑いのに、お疲れさまあ。よかったら、中でお茶でも飲んでって」 男は首にかけていたタオルで顔をふ

  • ワンス・イン・ア・ホワイル34

    「いやあ、そんなのムリだよ。おらあ八十過ぎだよ。となりの家に回覧板を渡しにいくだよ」「はちじゅう?」 梢子がかん高い声で言った。「そうだよ」「わかあい。全然そんな風に見えないですよお」「またまたあ」「さっきだっておじさんのこと、すごく足が長

  • ワンス・イン・ア・ホワイル33

    「あのおっさん、足なげえなあ」「そお?」「ああ、背は高くねえけど、体の半分くらいが足じゃないか?」「え? あっ、ほんとうだあ。長いねえ」 右上の県道を車が走りぬける音がする。左下には両側を鬱蒼とした木々が生える多摩川が流れている。 今歩いて

  • ワンス・イン・ア・ホワイル32

    原稿が完成した日の午後。和樹は、窓から差し込んでくる光とセミの声で目をさました。 布団の上で寝返りをうち、場所を移動する。 体がだるい。 頭のしんがぶれているような感じがする。目の奥がずきずきと痛んだ。「かぜ、ひいちまったかな・・・・・」

  • ワンス・イン・ア・ホワイル31

    トンネルを抜けると、和樹は太陽のまぶしさに目を細めた。くしゃみが二回出た。「あ、まぶしいんだあ」 梢子が笑いながら言った。和樹は何も言わず、歩きつづける。「ねえ、待ってよ・・・・・・」 右手を梢子に引っぱられた。胸のなかがもやもやしている。

  • ワンス・イン・ア・ホワイル30

    小説が書きあがった。四百字詰め原稿用紙にして三百二枚ある。全身の血が沸騰しているようだった。 和樹は、立ち上がり、両手を天井につきあげて叫んだ。明け方の四時だった。 近所迷惑だと思ったが、体の内側から湧き上がってくる感情を押さえつけることが

  • ワンス・イン・ア・ホワイル29

    梢子の言葉が胸につきささった。「そんなこと、ない」「うそよ、今、間があったもの」「馬鹿だとは思ってない。かわいい、と思ってる」 トンネルの中でなんでこんな話をしてるんだろう、と和樹は思った。 自分の悪ふざけのせいで、梢子の感情が一気に噴出し

  • ワンス・イン・ア・ホワイル28

    「今、大地震がおこったら、ふたりともおだぶつだな」「いやだっ、もう、やめてよお」 梢子の声が涙声にかわった。「このトンネルがつぶれても誰もたすけに来てくれないぜ」「もう、いやだ!」 梢子は、握っていた手をはなし、出口に向かって走りはじめた。

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