みんなで1枚の大きな紙に絵を描いている。もう遅いからと言って2人が家に帰る。1人で好きなように描きたい僕は最後まで残ることにするが、絵の具は既に青と黄色しか残っていない。 後ろを振り返る。半開きになったままのドアの向こうから入りこんできた熱い風に吹かれる。風は絵のところへ行く。それは絵を乾かそうとしているのだ。 ...
寝てるときお腹が痛くなって目が覚めた。僕はジェットコースターに乗る夢を見ていた。ちょうど乗り込むところだった。そのときにお腹が痛くなった。 「あなた妊娠してるじゃないですか!」と係員は言った。「妊婦さんは乗れませんよ」 そこで目が覚めたのだ。僕はうつ伏せになって寝ていた。ベッドではなかった。枕元に誰かいた。「妊婦さんはうつ伏せで寝てはいけません」とその人は言った。 ...
台車に乗っていくことにした。制服を着た係員が押してくれる。僕は荷物のように運ばれていった。貨物用の巨大なエレベーターに乗って陸に上がった。 昨日の夢にも出てきた、とんがり帽子の少女が僕を待っていた。下着が見えるのも構わず地べたに座っている。そして聞いたことのない歌曲を口ずさんでいる。 「シューベルトとどっちが好き?」と訊いてくる、その少女が係員にチップを渡した。 ...
占い師は80歳の老婆だ。僕は頭を垂れた。だがその御神託を聞くのには体全体を地面と水平にしなければならない。床には布団が敷いてあり、僕は身を横たえた。しかし「顔をシーツにつけてはならない」、ほんの少しだけ顔を上げなければならなかった。 ...
1円玉が何枚か落ちているのはスルーした。しかし10円玉は無視できなかった。僕はそれを拾い、女の子に渡した。女の子は魔女のようなとんがり帽子をかぶっていて、裸足だ。女の子の手に10円玉を握らせた。だが女の子は足をまっすぐ伸ばして地べたに座ったまま、身動きしなかった。 ...
僕はしばらく1人で待った。彼女は織田信長の手を引いてその先まで送っていった。彼女と僕は裸足だった。そこに着くまでに鋭く尖った石を何度も踏んだ。きっと足の裏は血だらけだろう。信長だけが草履を履いていた。しかし信長は裸だった。体には無数の赤い切り傷があった。 ...
ゼリーを食べていると男の先輩が来て言った。「バラの世話をする時間だ」 僕はゼリーを急いで食べ先輩の後を追った。 庭には椿か牡丹のようにバラの花が落ちている‥‥ 先輩は手に持った鋏を何もない空中にかざした。 すると空からバラの花が降ってきた。まるでヒョウのように。「本降りだ」と先輩は言った。僕は傘を先輩に差しかけた。 ...
僕はベッドに寝ていた。病院のベッドだったが体調は全然悪くない。僕は健康である。 女のコが1人見舞い(?)に来ていた。彼女は僕の頬にキスして去って行った。 毎日目が覚めるとそんなことが起きた。 ベッドに寝ている〜また別の女のコがいる〜彼女は僕の頬にキスして去る。 だがついに事態は変化した。ベッドには僕ではなく女のコが寝ていた。病気で入院しているのだ。 僕は彼女の頬...
多言語を喋れる女生徒が、先生の代わりに授業をした。いろんな国の言葉で、簡単な自己紹介の挨拶をする。彼女が日本語を喋れるのを聞いて、僕は驚いた。この教室で日本語ができるのは、僕1人だと思っていた。 「今の、日本語でしょ?」と、隣の席の、クラス1番の美少女が、僕に話しかけてきた。そのコに話しかけられたのが嬉しかった。教壇の女生徒の日本語の挨拶を、そのコに繰り返した。教壇の女生徒は笑っている。...
休憩で立ち寄った食堂の中で僕は眠ってしまった。その間にバスは出てしまった。友人たちはどうして起こしてくれなかったのだろう。その時点では自分がわざと置き去りにされたことに気づかなかった。僕はイジメられていたのだった。 ポケットの中に映画の前売チケットがあった。この映画を観るためにバスに乗ったのだ。朝だった。食堂には誰もいない。僕は店を出て走った。全力疾走すればバスに追いつけるような気がし...
僕の服は僕の部屋にはなかった。隣の部屋にあった、そこには見知らぬ女が住んでいて、なかなか服を取りに行くことができなかった。 部屋に自分の服を取りに行くときには、いつも女の母親と一緒に行った。母親は茶色の大きな封筒を持って行く。 中身はわからない。中身なんかないのかも知れない。 その封筒を女が受け取ったのを見て、僕は部屋の中にある自分の服を探すのだ。 「たしかこの...
僕が浦島太郎のように亀を助けたと嘘をつきまくっていると竜宮城からお迎えが来た。「本当に助けたんだな」とみんなは言った。「嘘だと思っていたよ」 だが竜宮城の人たちは知っていたのだ。僕は半ば拉致された形だった。「許してください」と請う。「もう嘘はつきません、解放してください」 僕は例の箱を持たされて解放された。帰ったら必ずこの箱を開けろと言われて。もし開けなかったらひどいこと...
広大な空港の中を走るバスにもう何時間も乗っている。僕は席には着かずに立ったままずっとスマホをいじっていた。席は空いていて運転手も乗客も座るように勧めたが僕は聞かなかった。 いくら広いとは言っても空港だしこんな何時間も乗っているとは思わなかったからだ。やっと到着した。 しかし僕の乗る飛行機の出発時刻はとうの昔に過ぎていた。だめもとでカウンターに行って払い戻しを受けられるか訊いてみよ...
その絵に描かれていた鳥は動いた。 「目がおかしくなったのかと思った」と僕は言ったが、「本当に動いているのよ」と彼女が答えたので安心した。 鳥は絵の中から飛び出すと巨大な蚊になった。ドローンのように飛び回っていたがやがて僕の腕に止まった。 「これに刺されたらどうなるの?」と僕は不安になって訊いた‥‥ 「血がなくなって死ぬよ」 「でも刺したりはしないんだよね?」 「私、...
僕は持ち歩いていた鏡に、常に自分を映して見ていた。見ていないと僕は消えてしまうからだ。しかしふっと目を逸らしてしまった。僕は消えて、隣に若い男が現れた。それは若いころの僕だった。その隣には醜い老人がいた。老人は四つん這いになり、犬のように首にリードをつけられていた。 若いころの僕がそんなふうに老人を散歩させているのだとわかり、僕は僕を憎んだ。その老人と消えてしまった僕とは年は幾つも違わ...
僕の髪は、だんだん短くなっていった。せっかく伸ばした髪なのに。 それに気づいた友人の1人が、「そうか、死んだんだな」と言った。「死ぬと、髪は短くなっていくんだよ」 「爪もそうだ。切ってもないのに、短くなる。これ以上短くならないところまでいったら、そこで本当に死ぬ」 「まだ死にたくない」 「葬式をやってやる。成仏しろよ」 彼はそう言って、僕の頭をバリカンで刈った。ヒゲを...
目のない女がいた。彼女は僕を見つめていた。どうしてそんなことができるのだろう。僕は混乱したまま彼女に近づき、話しかけた。「えっと、1万ウォン貸してくれって言ったら驚くかな?」 「全然」と目のない女は答えた。 「えっと、僕は驚いているんだよ。えっと‥‥」 「何に?」 「えっと、それは言えない」よく見ると彼女には口もなかった。 「ムカつく」彼女はそう言って僕の首を締めた。 ...
海外で賞を獲った話題の映画を観るために、僕たちは並んだ。列は、映画館の外の、土手にまでできていた。そこに、有名な映画監督の、A氏の姿が見えた。「こんなところに‥‥」と僕は言った。独り言のつもりだったが、驚いたせいで、大声になってしまった。 「試写会に、招待してもらえなかったんですか?」僕は、声をかけた。「落ちぶれたもんでな」A氏は答えた。それで周囲の人々も、A氏に気づいたのだ。A氏は、彼...
この学校の女生徒には全員片足がない。男子生徒は僕しかいなかった。先生は耳の聞こえない年寄りのゾウガメだ。 今日先生が持ってきたカゴの底に、魚が一匹残っていた。切り身の魚だったが、ピチピチ跳ねている。僕はそれを先生に見せようと思ったが、先生はもういなかった。授業は終ったのだ。 女生徒はフラミンゴのように立ち、僕の前で義足を外し、足の付け根を掻く。学校にはその女生徒以外、誰も残ってな...
窓辺に炊飯器があった。ご飯が炊きあがっている。僕はそれを手でつかみ取り、窓の下の貧しい人たちに投げてやる。彼らは僕に気づかない。窓をそっと閉める。外は雨だ。 昼食の時間だった。僕は1人で食べるつもりだったが、裸の名前を知らない少年が僕の隣に座った。その子には体毛が全然なく、肌の色も真っ白だった。そのせいで年齢不詳だった。 ...
ピラミッドが崩れる。四角い大きな岩は消えてなくなる。数千年の時が流れた。 その跡地には丸い窓を持ったビルが建つ。ビルに出入口はない。窓は開かない。 ...
知られてないことだが、白黒のフィルムには音声が録音できるのだ。36枚撮りのフィルムに、およそ1時間の録音ができる。撮り終えたフィルムを、手動で、1時間かけて、ゆっくりと巻き戻す。そうすると、逆回しになった音声が聞こえてくる。現像するとその音声は消えてしまう。 ...
その軽トラはライトを点けたまま歩道に駐車していた。エンジンはかかってなかった。鍵はつけっぱなしだ。すぐにバッテリーがあがってしまうだろう。僕はライトを消そうと車内に乗り込んだ。決して車を盗むつもりではなかった。 若い母親の運転する車が後ろからついてきた。大きなペットショップの駐車場から出てきた車だ。助手席に小さな女の子が座って、何やらでたらめな歌を歌っている。ノロノロと走る僕を追い越し...
床にたくさんのガラケーが落ちていた。僕は全部拾った。バスの車内だった。「落しましたか?」と乗客1人ひとりに声をかけて回った。しかし落とし主は見つからなかった。 バスが停まった。その停留所で全員が降りた。もう誰も乗ってこなかった。僕は何台ものガラケーを抱えて、このバスはどこまで行くのだろう、と思っていた。 ...
僕が遅れて到着すると、みんなはもう食べ終えていた。予約していたレストランだった。奥に防音のカラオケルームがあった。何人かの仲間とそこへ移動した。食事は温め直してもらって、歌いながら取ることにした。 日本語の歌を探した。日本の歌はけっこうあったが、どれも歌詞が韓国語になっていた。僕はオリジナルの歌詞で歌おうとしたが、歌詞を忘れていた。 ...
例えば医者は医者と、消防士は消防士といった具合に、同じ職業の人としか結婚してはいけないという法律である。生まれてきた子供も同じ職業に就かなくてはならない。違反者には高額の罰金が課せられる。そういう法律があるんだよ、と彼らは言った。 黒いマントを羽織った偉い人と、その人のクローンが。彼らは結婚していた。そういうのが流行っていた。僕もいつか、いつか自分のクローンと結婚するのだ。 ...
僕は靴下を履いたまま風呂に入っていた。体を洗うとき靴下を濡らさないようにするのが大変だった。それで長風呂になってしまったのだ。2時間は入っていたと思う。 やっと風呂から上がった。女房が待っていた。彼女は僕の靴下に触れて「濡れているじゃない!」と非難した。「汗をかいたんだよ」と僕は言い返した。僕は靴下を脱ぎ、洗濯機の中へ放り込んだ。 ...
音の塊を撮影しようとしているカメラマンがいる。しかし上手くいかないので僕に頼む。その塊をスタジオの中に入れてくれと。外だからだめなんだ。 僕は音の塊をつかまえる。塊は鼻クソのように小さい。しかしどうして鼻クソを思い浮かべてしまったのだろう。 音の塊は目に見えないし匂いもないが、ばっちいもののように思えてきた。 ...
食料品店で絵画が売られている。タイトルは「熱中したもの」。2割引のシールが貼られて、食品と一緒に。 消費期限を見てみた。明日までだった。 何が描かれた絵なのだろう。僕には何も見えない。熱中したもの。 ‥‥僕が熱中したもの。 ...
ドアを開けるとセールスマンがいた。笑わない男のセールスマンが1人、ただ突っ立っていた。僕は鍵をかけず、そのまま出かけた。セールスマンは部屋の中に入るか、ためらっていた。 部屋にはとても大勢の人。話し声が、廊下に漏れてくる。血縁関係はないが、僕は彼らと一緒に住んでいた。マンションの、高い階にある、広いワンルームだ。 ...
引率の先生はもう来ている。生徒たちも制服のワイシャツを着て待っている。僕は何も着てなかったので、みんなが僕の周りで輪になって、通行人の目から僕を隠した。 そのようにして学校まで行った。1時間目は体育だった。みんなのロッカーには体操服が入っていた。みんなは下着まで全部着替えた。 僕のロッカーには体操服もなかった。その代わりアイスクリームが入っていた。僕はそれを食べ始める。半分ほど食...
電気屋に来た。家のテレビが壊れたのだ。これを期に薄型テレビに買い替えてもいいかも知れない。 しかしその店にはブラウン管テレビしかなかった。薄型の液晶はないんですか? 僕がそう訊くと、店主は小さな鍵を僕に渡した。それは寝室の鍵だった。ドアを開ける。僕の寝室だ。中に2台の薄型テレビが設置してある。値札はついたままだ。 ...
大根者のラブストーリーをテレビでやっている。あれは「だいこんもの」じゃないよ、「おおねもの」だよ、そう教えられた。それでも何のことかわからない。 君は「出かけましょ」と僕を誘う。何回目だろう。コマーシャルに入るのを待った。僕はわざとテレビのテイッチを切らずに出かける。 ...
みんなさ。みんな、買ってるんだな。それだから、おれも買おうと思ったんだよ。で、買ったんだ。 何を? 僕は誰にも名を知られてない三流の小説家である。また詩人でもある。1冊の、ほとんど売れることのなかった詩集の作者として知られていた。 彼はやってきて僕の向いに腰掛け、その詩集だよと答えた。 ...
バスケの3点シュートの練習をしている。チームメートたちはバスケットボールの代わりにカボチャを使って練習している。 ‥‥理解し難い。 がぼっ、ぐちゃっ、と(不快な音)。 僕は食パンを使う。3点ラインの、さらに外側から次々とシュートを決める。 パフッ、パフッ。 「でもさ、食パンだろ?」とチームメイトは言う。 ...
僕は白ネギでライフル銃をつくろうとしていた。スーパーに行った。いろいろ探したが銃身に適したネギはなかった。(まっすぐなネギが欲しかったのだが。) 妥協して曲がったやつを3個買い、試作した。それを持って砂場に行き、子供を撃つマネをした。ただのネギですよと僕は言った。見ればわかる。子供の母親が怪訝そうにこちらを見た。 ...
「この世界に入ったばかりの自分を見ているようだ」と、そのベテランコーチは新人の僕にアドバイスをくれた。 「スポーツの世界で『人間』をやろうとしちゃだめだ。人間以外のものを目指せ」 「たとえば‥‥たとえばゴリラとか?」 「いいぞ、ゴリラ、お前はゴリラだ。戦うゴリラだ。ゴリラはどう戦う?」 「あぁ、コーチの言わんとするところがわかってきました」 役に立つアドバイスだなと僕は思...
立ち上がるとジーンズの尻ポケットに入れていたチケットがなかった。椅子の上に落ちていた。これで今日2回目だった。 これから3回目と4回目がある。僕はそれを「覚えていた」。なのに1回目のことを思い出せないのは不思議だ。 君のツアー・マネージャーが僕を呼んでいる。 チケット販売の窓口に君がいた。他にも窓口はあったが、そこにだけ長蛇の列が出来ていた。みんな直接君からチケット...
「別に何でもないです」と僕は答えた。何も訊かれてないのに。 バッグを何個も抱えたその人は僕の前に来た。バッグから「それ」を1つひとつ取り出して僕に見せた。全然知らない人だった。「それ」が何なのかもわからない。見たこともないものだ。 ...
その人の前に、たくさんの人が座った。ほとんどが、若い女性だった。全員が、黒いドレスを着ていた。長い、黒髪だった。彼らに向って、突然その人は言った。 「俺はオーケストラをつくるぞ」 「今ここで、オーディションをやるぞ」 女性たちは立ち上がって、バイオリンを取りに家に戻った。 僕1人だけが、その人の前に取り残された。「行くぞ」とその人は言った。 「ついて来い。お前...
今日パーティー会場で僕は、腕が3本ある女の人を見た。そのとき初めて、自分には腕が1本しかないことに気づいた。 僕は腕が3本ある女の人に近づき、彼女の名前を呼んだ。名前! 名前をなぜ知っていたのだろう。僕はもう、自分には名前がないことに気づいていた。 いつの間にか僕はバルコニーに出ていた。出てはいけないバルコニーに。誰が忠告してくれたのだっけ。そこに出てはいけないよと。そこには...
鏡には、黒いターバンを巻いた僕が映っていた。その上に僕は、黒い帽子をかぶった。マンションの一室だった。家具はほとんどない。広い。ただ部屋の真ん中に、丸いテーブルがある。テーブルの上には、どう調理したらいいのか悩むような食材がある。(しかしどのみちここには、調理器具もない。) 僕はテーブルの脇に、ノートパソコンが入ったバッグを置いた。 僕の父親だと名乗る若い男が、段ボール箱を何箱も...
僕がそれを眠らせると、それは眠りの中で、ポーという音を鳴らして、あぁ‥‥、うるさい。僕はそれから、逃れるようにして、目を覚ます。 どこか遠くで、汽笛が聞こえる。3時間しか寝てない。汽車が来る。僕は乗り込む。 (僕が眠らせたものは、僕の傍らで、眠りつづけている。) ...
僕は体を、ヘビのように細長くして、寝床に向った。太い木の幹に、巻きついて眠る。その様子を見て、みんな僕のことを、ヘビではなく、タイヤだと思う。 ...
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みんなで1枚の大きな紙に絵を描いている。もう遅いからと言って2人が家に帰る。1人で好きなように描きたい僕は最後まで残ることにするが、絵の具は既に青と黄色しか残っていない。 後ろを振り返る。半開きになったままのドアの向こうから入りこんできた熱い風に吹かれる。風は絵のところへ行く。それは絵を乾かそうとしているのだ。 ...
ラジオをつける。待っていたかのようにDJが喋りだす。「○○君においらの先生を紹介するよ‥‥」どうして僕の名前を知っているのだろう。 「先生はすごいんだ‥‥」 「先生はバレーボールの選手だった‥‥」 僕の背後に背の高い女性が出現する。彼女は僕の隣にやってくる。11時になった。DJはお喋りをやめる。 ...
その宇宙船には刑事だけが乗っていた。何百年も人工冬眠して大宇宙を旅する‥‥。目的地に到着する前に1人目覚めた刑事は不思議に思う。「犯人」はどこにいるんだろうか。 ...
ホテルのロビーのテレビのニュースに映っているのはこの人たちだ‥‥オリンピックで大活躍した選手たち。スキャンダルの渦中にある彼女らと同じホテルに泊まっていた。僕はテレビを消すか、チャンネルを変えようと思ってリモコンを探した。背の高い彼女らの間を、スキー板を持ってウロウロした。‥‥僕はスキーは初めてだということを彼女らにまだ言ってない。 ...
オフィスで働いている僕たち4人のもとに料理が運ばれてきた。仕事を中断して集まった。何なんだろう。注文した覚えはない。後から請求が来るのだろうか。料理を運んできた女性は何も言わずに帰った。 同僚の男性が一口食べた。目を伏せ、何も言わずに仕事に戻った。それを見た僕らは働く気をなくしたのだ。 ...
カンフーのような、護身術の訓練を受けていた、僕の隣では、別の訓練生が、銃の扱いをレクチャーされている。 狙い、構えた。彼は、何発か撃った。弾は、ゆっくり飛んだ。人型の標的に向って、まっすぐ進む、弾丸、彼は自分の撃った弾丸を追い越し、倒錯的な喜びを感じながら、笑顔で標的の前に立った。 ...
最初に人の名前、そして「これは演習ではない」と、放送があった。僕に向けられた言葉ではないのだろう、か。僕は自分の名前が、思い出せない。 容疑者が、非常階段を下りてきた。赤い靴と、スカート。部屋で、着替えてきたようだ。僕は、拳銃を構えた。「これは‥‥拳銃ではない」。そして、僕は、先程の名前を叫ぶ。 ...
「傘貸して」 「やだよ」 雨の季節が来た。地面から緑色の茎が生えている。1本だけ。ネギのように見えるが違う。それは傘だ。それはあちこちに生えている。強い風が吹いて斜めになる。 ...
整形外科医になった妹に手術してもらうことになった。お兄ちゃんは口をもっと大きくした方がいいと言う。横に広げるのだ。洗濯バサミのような器具で僕の唇の両端は引っ張られた。その状態で笛を咥えさせられた。何か吹いてと妹はリクエストした。 ...
無人のゴール前でパスを受けたバスケの選手が、丸出しにした尻をペンペンしたりして、相手チームをからかうが、 どうすることもできない。 彼はシュートを決めた後、ゴール裏にあった平屋の住宅に駆け込み、奇声を上げ、中にあったテレビやソファーを窓から投げ捨てる。 ゴール周辺が、粗大ゴミ置き場のようになる。ボランティアによる片づけが始まる。試合は一時中断する。 ...
宝くじを買う。そこには僕の顔が、紙幣のように印刷されている。手に取り、ずっと眺めている。5億円。当たったのだ。 1日中、ニヤけている。 「お兄ちゃん、もしかして」妹が声をかけてくる。僕は当たりくじを妹に見せる。 「この顔はお兄ちゃんの顔だ、間違いない!」 「これで大金持ちだな」 「金持ち兄ちゃん(笑)、私にいくらくれるの?」 「お前さ、これからバイトだっけ?...
日本の大富豪がモナリザを買ったという。ニュースを見た。世界的名画だ。 例の謎の微笑がテレビに大写しになる。 だがその顔は、どう見ても僕の顔だった。モナリザは、僕だった。 大富豪がインタビューで答えている。 「今日から私がモナリザ」 いつ入れ替わったのだろう。モナリザと大富豪と僕と。 ...
その女性は、バスの中で歌い出す。「あのカーブを左に曲がると、町は外国気取りよ」 僕は初めて聞くが、よく知られた歌らしい。乗客のみんなが、合唱し始める。実際にはバスは、右折する。急停車する。 みんなが降りるので、僕もつられて降りた。しかしそこは、僕の行きたい場所ではない。 みんなは改めて、左に行った。僕はまっすぐ行くことにする。僕の行く道にだけ、雨が降っている。 ...
バスを待っていると知らない女性が話しかけてきた。僕の親しい友人だというふりをしたがっているようだ。東洋人にしては異様に彫りが深く、きれいな人だったし、話もおもしろかったので、僕も演技してあげることにした。 愛想笑いをしたり、「そうだね」などと相槌を打ったみたりである。そのうちにバスが来た。 バスの中では、僕たちは少し離れて座った。すると彼女の隣に座った男性が、彼女に話しかけた。彼...
そこは砂漠だった。歩いていくと雪原になった。足元の雪は固く凍りついている。 何度も滑って転びそうになる僕の、ポケットの中の電話が鳴った。安全な「小屋」にいる友人たちからだ。 「今夜の巨人・中日は、どっちが勝ったんだ?」 知るか、と思ったがテキトーに答える「巨人」 「何対何で?」 雪原の中に、黒いセダンが1台停まっているのを見かける。何なんだろう? 僕は乗せてもらおう...
彼女は高校の制服を着ている。バッジを見ると2年生だ。男の後をついていく。それは学校のある方向とは違う。 僕は高校の方へ向って歩き出す。僕は3年生だ。僕の前を女の人が歩いている。僕も女の後についていく形になってしまった。彼女の顔は見えないけど美人だろう。 ...
国境を歩いて越えたとき、クレジットカードも現金もないことに気づいた。家に忘れてきた。家は歩いて帰れる距離にあったが、戻る気にならなかった。もう面倒くさかった。考えるのも、決断するのも。 1人で来ていた。ジャージの上下を着ていた。パジャマの代わりにしている、紺色のジャージだ。ポケットに煙草の箱があった。国境の兵士に渡そうと思って持ってきたやつだ。彼らがワイロを欲しがると思ったのだ。 ...
カーテンを開けると眩しい日差し。夏の朝だった。朝から暑かった。しかし窓の外は雪だった。激しく降っていた。積もってはいなかった。積もるのだろうか。 子供と一緒に予想した。どのぐらい積もるだろう。スキーができるくらいに? いや積もりはしないさ。結局その日、僕たちは外に出なかった。なので雪がどうなったのか知らない。次の日の朝はいつもどおりの夏だった。 「もう雪は溶けてしまっただろうね」 ...
郵便受けに入っていたスーパーの特売のチラシを手に歩き出すと住宅街は幟の立ち並ぶ商店街に変わっていた。驚いて後ろを振り返ったがそこはもう僕の家のある区画ではなかった。空には飛行船が浮かんでいて通りには賑やかな音楽が流れている。とにかくしばらく歩いてみることにした。 僕の家の前に着いた。どうしてこんな商店街のド真ん中に僕の家があるのだろう。玄関のドアは閉まり切ってなかった。これはいけない、...
僕の家は広い。だからなのか、たくさんの人が集まってくる。何人かは知り合いだ。さっきまで話していた。彼らは自分のウチに帰った。玄関まで見送りに出た。 2階に残っているのは知り合いの知り合いといった連中だ。寝室では女のコが2人、裸になって抱き合っている。その向こうでは誰かが煙草を吸っていた。ここは禁煙だよ、と僕は注意して窓を開けた。 ...
木星の衛星にいました。君と木星を見に来たのです。空に浮かぶ木星。太陽系最大の惑星。 そして足元の水槽の中にも、「木星」はありました‥‥ 水槽に手を入れ、木星をまさぐる僕に、君は訊きます、「木星に生物はいる?」 「探してみるよ」 木星の大きな渦を、ぐるぐるとかき混ぜていたのは僕です。 ...
みんな小走りでした。1人として歩く者はなかったです。僕も小走りしました。疲れると停止して、体力が回復するのを待ち、そしてまた小走りし始めます。決して歩きません。みんなで誓ったのです。 ...
バルコニーに出ました。僕の目の前を蝶が高速で過ぎていきました。あんなに速く飛ぶ蝶を初めて見ました。 次から次と蝶は飛んできます。ここは蝶たちのハイウェイになっていたのです。僕は蝶に撥ね飛ばされそうになりました。 クラクションは鳴らされませんでした。蝶たちは上手に僕を避けていきます。 バルコニーの先でさらにスピードを上げた蝶たちが、空の彼方で虹と一体化するのが見えました。 ...
突然寝室の明かりがつき、人の気配がして僕は目を覚ました。起き上がって確かめようとしたが体が動かなかった。黒い布で目隠しがされていて、目を開けても何も見えなかった。 耳には栓がしてあって、何も聞こえなかった。 誰かがゆっくりと近づいてきて、僕の胸に手を当てた。その手が僕の体内に入ってくる。手は僕の心臓の位置を、正しい場所に置き直しているのだ。 だが心臓の位置がちょっと動くたび...
気づいてみれば、僕が話しかけていたのは、レタスの葉っぱだった。何か、とても大事な話をしていたのだが、相手がレタスだとわかった途端、醒めてしまった。話の内容も、一瞬で忘れてしまった。「今からおまえを食べる」と僕は宣言した。「ドレッシングもつけずにな」 そいつからは、何の反応も返ってこなかった。午後7時のレタスは、午後の5時からレタスだったが、誰も気づかなかっただけなのだ。 ...
ルビー色の蜘蛛の糸のような、レーザー光線の上を、小人が渡ってきた。まっすぐ僕のところにやってきた。 次はオマエの番、と小人は言った。 誰の番だって? じゃ、もういちどオレの番。エヘエヘヘ。 小人がレーザー光線の上に足を乗せ、体重をかけると、レーザーの光は消えた。。 ...
女たちは1人ずつ順番に、まったく同じ質問を僕にした。「私はどうすればいいの?」 僕は全員に、まったく同じ答えを返した。「横になるといいです」 「どうして横になるといいの?」 「あなたはもう死んでいるからです」 ふ〜ん、という顔をして全員が床に横になった。 だが彼女たちは眠るどころか、目を大きく見開いて僕を見つめている。 そして「あなたはもう少し起きていた方がい...
女ばかりだった。またそういう場所に僕は迷い込んでしまった。若い女がいて、若くない女もいた。ほとんど服を着ていないのもいたが、僕を気にする者は誰もいなかった。女たちはみんなとてもリラックスしているように見えた。そして同時に、とても疲れているようにも見えた。 ...
1人の訓練兵と、1つのウンコ、1台の便器がセットになっています。完成させなさい、というのです。すでに完成しているじゃないか、と思いました。それとも脱構築しろというのでしょうか。徴兵され、軍隊に入る夢を見ました。ポストモダンな軍隊です。1週間ほどの訓練の、最初の朝でした。 ...
朝、起きると僕は、知らない場所にいた。床に直接、たくさんの布団が敷いてあり、さっきまで誰かが寝ていたのだろうが、今は全部空だ。部屋の扉は開いていて、外に人の気配がある。気配は感じるのだが、誰もいない。 トイレに行った。便器が異常に小さい。人形の家のトイレみたいに。なぜだろう。僕の体が大きくなったのかも知れないが、よくわからない。あちこちから、水を流す音が聞こえてくる。シャワーを浴びる音...
猫が僕にカードを渡した。どうしろというのだろう。僕はそのカードにポイントを付与して返した。猫は僕の顔をパンチして鳴いた。 ...
手のひらで水をすくって、弱った猫に飲ませた。歯磨きのチューブから少し出して、水に溶かす。水はミルクのように白っぽくなり、薄荷の味がついて、猫は喜んだ。 その猫は、人間の言葉が喋れた。その猫は、銀行に口座を持っていた。大金を僕にくれると言った。ATMについて行った。列に並んだ。 僕たちの後ろに、体長4メートルのキリンが立った。キリンはスーツを着ている。その威圧感が半端なかっ...
「私の瞳、どこにある?」 「どこって‥‥そこに‥‥」 君が笑みを浮かべ、大きくまばたきをすると、君の瞳の中の輝く星は、100個にも200個にもなった。 「えっ‥‥」 君はもういちど、ゆっくりと目を閉じた。僕たちのいた部屋全体が、それに合わせて収縮した。僕たちの距離が縮まった。 君がまた目を開けても、何も元には戻らなかった。君の瞳の中に生まれた、すべての星が一カ所に集ま...
筒の中には巨大なポスターが入っていて重い。家一軒分の重さはあるだろう。 吉幾三の別荘よりは軽いだろうが、ホームレスのダンボールハウスよりは重い。 そんな「家」を抱えて飛行機に乗ったのだが、税関を抜けるときに捕まった。 「こちら拝見してよろしいですか?」 無理だと思う。 ...
僕たちの王が歌うのを、僕は聴かなかった。石を積み上げてつくった玉座に僕はいた。急な段を下りる。もちろん手すりなどない。足を踏み外して転げ落ちたら死んでしまうだろう。だがゆっくりと下りればいいのだ。 下界には人間たちがいて、ピラミッドのような玉座を見上げている。姿の見えない王は。 ...
その大きな車が運んでいたのはたった1枚のレコード。1人の男がそれを大事そうに抱えている。 車はノンストップでもう何日も走りつづけていて、どこまで行くのか知らない。 たまたま乗り合わせた僕ともう1人の男の、鞄の中にある音の出るものはすべて捨てさせられた。 僕が持っていたペンでコツコツとリズムを取っているのを見て(聞いて)、レコードを抱えた男はそれも捨てろと言う。 夜にな...
電話相手は僕に50億円をくれると言った。僕はもらうことにしてその人に会いに行った。川べりのホテルの一室で詳しい話を聞いた。 「本当にタダでくれるの?」相手は若い男だった。 「うーんと、まずワールドカップの得点王になってもらいたいんだ」 「得点王になったらくれるの?」 「そしてヨーロッパのクラブと契約してもらいたい」 「わかった」と僕は請け負った。 「そのとき代理人が要...
いい人が悪い人と一緒にいるとき、悪い人はワニに変身されられた。「この姿も悪くないな」と悪い人は思った。 いい人は人間のままだった。ワニに訊いた。「まだ人間の言葉が喋れるかい?」 返事はなかったが。 構わず「一緒に歌おう」と呼びかけた。そしていい人らしく「希望の歌」を歌った。ワニも口を大きく開けた。 ...
俳優としてのキャリアをスタートさせたのは60歳のときだった。あるドラマの中で僕は30歳の青年を演じて話題になった。たいした役ではなかった。いつも鏡を見て自分の顔を気にしている男の役だった。 その後200歳まで生きた僕は長い牙のある大きな動物に変身して劇に出た。若作りの二枚目役は卒業だった。ラストシーンだった。城の地下に閉じ込められた。王の家臣と一緒だった。「希望はどこにある?」フランス...
2隻の大きな宇宙戦艦があった。それよりも大きな若い女がいた。彼女は戦艦を蹴飛ばした。 僕は宇宙戦艦と同じ大きさだったが、慌てて彼女と同じ大きさになった。しかし彼女は僕も蹴った。 ...