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2016/01/25

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  • 『陰謀論-民主主義を揺るがすメカニズム』秦正樹 中公新書

    陰謀論が発生する要因について、丁寧に分析されている。 ツイッターの利用は、むしろ陰謀論的信念の低さと関連している。多くの人が、自分自身はウェブ上の陰謀論やデマ情報には騙されないが、自分以外の多くの人はきっと騙されているだろうという「第三者効果」の認識が、ツイッターの利用頻度が高いほど感じる傾向にある。 世論調査で測定される意識や態度の一部には、社会的に望ましい方向に答えてしまう「社会的望まし…

  • 『「右翼」の戦後史』安田浩一 講談社現代新書

    右翼の流れがわかりやすい。 右翼は歴史と伝統を重んじた保守であり、異なる他者に対しては排他的で、復古主義であり、理念というよりも情念に近い。 日本右翼の源流は、江戸時代末期の水戸学にあるとされる。儒学を基盤に、神話や道徳を尊重し、身分や社会の安定を説くもの。吉田松陰や西郷隆盛らの幕末の志士に大きな影響を与え、倒幕運動や尊王攘夷思想が生まれた。 大正時代には、大正デモクラシーによって人々が権…

  • 『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』茂木誠

    様々な時代、様々な国の政治思想をのせめぎあいを、X軸を経済的自由、Y軸を政治的自由として、政治思想を二次元座標で表現したデイヴィッド・ローランが考案した政治思想マトリックスを用いて示している。自民党には主に3つのグループの流れがあるという説明はわかりやすい。 フランクリン・ルーズベルト大統領は、ニューディール政策によって失業率を25%から15%まで下げる成果を出したが、財界から社会主義的であると批判さ…

  • 『AIが書いたAIについての本』AI

    書店で見つけたので、興味本位で読んでみた。正確さに欠けるところはあるが、情報はそれなりにまとまっている印象を受ける。あえて採点すれば、本の出来としては50点ぐらいかな。それでも、AIだけでこれだけのものが作れるようになったことは衝撃的だ。近いうちに入門書や教科書などはAIが書くようになるのだろう。ただ、終始上っ面の情報を読まされている気分だった。 AIが今後の社会に与える影響についても、この本の中で重…

  • 『戦いの音楽史 逆境を越え 世界を制した 20世紀ポップスの物語』 みの

    ロックとブラックミュージックの歴史がよくまとまっている。 アメリカの黒人奴隷が歌っていた労働歌のジャンルのひとつ「フィールド・ハラー」が、個人的な感情や欲求を表現するものへ変化してブルースと呼ばれるようになった。一方、奴隷制が廃止されて黒人たちの教会がつくられると、 1920年代にゴスペルが誕生した。 1920年代以降、ブルースのミュージシャンたちがレコードを発売し始めたが、レイス・ミュージックとして差…

  • 『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド 文春新書

    歴史的経緯や国際情勢の冷静な分析に基づいて語られている。 ドイツ統一が決まった1990年に、NATOは当方に拡大しない約束がなされたが、1999年にポーランド、ハンガリー、チェコ、2004年にルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニア、バルト三国がNATOに加盟した。2008年のNATO首脳会議では、ジョージアとウクライナを組み込むことが宣言され、それに対してプーチンは「強力な国際機構が国境を接することは安全保障への…

  • 『アルツハイマー征服』下山進

    これまでのアルツハイマー病の原因の解明や治療薬の開発に関する歴史がまとめられている。 1985年までに、アルツハイマー病患者の脳細胞に見える人魂のような糸くずが絡まったようになった神経原繊維変化(PHF)はリン酸化タウで、しみのような結晶が折り重なった老人班はアミロイドβというタンパク質であることがわかった。神経原繊維変化は他の脳の病気で共通してみられるものだが、アミロイドβはアルツハイマー病だけにみ…

  • 『善と悪のパラドックス』リチャード・ランガム

    家畜化症候群が起きる過程とその生理的メカニズムを説明したうえで、人間の自己家畜化が進んだ原因を推測する。人間は反応的攻撃性が低いが、能動的攻撃性は高いとの指摘が興味深い。 ドミトリ・ベリャーエフは、毛皮農場のキツネの中からおとなしい個体を選んで交配させ、その子ギツネの中からおとなしい個体を選んで交配させることを繰り返した。すると、30〜35世代で70〜80%が犬のように尾を振ったり、クンクン鳴いたりす…

  • 『イノベーターズ 天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史』ウォルター・アイザックソン

    コンピューターの技術史だが、チームワークに焦点を当てている点がユニーク。下巻のLinuxやウェブ、ウィキの誕生の経緯が面白かった。最終章が読ませる。 情報処理に電気回路を利用したのは、アメリカの国勢調査局局員が、国民の特徴を12行24列のパンチカードで記録して集計したのが始まり。この局員が創業した会社は、吸収合併を繰り返したのちIBMとなった。 1937年、アラン・チューリングは「計算可能な任意の数列を計算…

  • 『化学物質はなぜ嫌われるのか』佐藤健太郎

    化学物質に関する主なトピックが科学的な態度で整理されており、しかも読みやすい。「買ってはいけない」「食品の裏側」の記述に対しても、冷静に反論している。 ダイオキシンはモルモットに対して高い毒性を持つが、イヌやハムスターでは数千分の1の毒性しかなく、事故による人間の死者も少ない。 DDTはヒトへの発がん性はなく、土壌では2週間で分解され、海水中でも1か月で9割が分解される。2006年、WHOはマラリア対策の…

  • 『売り渡される食の安全』山田正彦 角川新書

    F1種子と農薬で世界の農業を支配するアグリビジネスの実態とその日本への進出状況が報告されている。 世界の種子の70%は、モンサント(バイエル)、ダウ・デュポン、シンジェンタ(中国化工集団)によって生産されており、農薬や化学肥料とセット販売されている。 1994年にNAFTAが発効すると、モンサントやデュポンなどがメキシコで栽培されていたトウモロコシの種子をゲノム解析して育種登録や応用特許を申請し、それを…

  • 『地球46億年 気候大変動』横山祐典 ブルーバックス

    最新の研究結果が丁寧に説明されている。特に、新世代の気候変動のメカニズムが詳細にわかってきたと感じた。 大気中の酸素量は、25〜20億年前の大酸化イベント(GOE)、7〜5億年前の原生代後期酸化イベント(NOE)で急上昇した。25億年前までには本格的なプレートテクトニクスが始まっており、相当大きな大陸地殻が形成されていたが、鉄やマグネシウム、還元態硫黄を多く含む苦鉄質岩(玄武岩)でできていたため、大気中の酸素濃…

  • 『細野晴臣と彼らの時代』門間雄介

    あとがきでも書かれている通り、細野を題材にした本はすでにいくつかあるが、生涯を通した活動歴をまとめたものとしては渾身の内容。特に、各バンドの結成に至るまでの経緯を興味深く読んだ。それだけに、大滝への取材ができなかったことを残念に思う。 細野晴臣は1947年に東京白金台で生まれた。中学2年の時に始めてバンドを組み、高校時代には複数のバンドを結成した。立教大学では、ドクターズに誘われてベーシストとして…

  • 『武器としての「資本論」』白井聡

    「資本論」の解説本の中では一番わかりやすいと感じた。資本主義は、ひたすらに生産性を向上させることを追求するものであり、その結果として労働の価値が低下するとの指摘が一番の学んだ点。 共同体の中では、富や労働の貸し借りが頻繁に行われ、人間的な付き合いもする。商品は共同体の間の交換によって発生していた。近代資本主義が始まると、生産的労働が商品交換を介して行われるようになり、労働力が売り買いされるよう…

  • 『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』ヤニス・バルファキス

    経済学の本にもかかわらず、市場経済に批判的なのがおもしろい。国家、権力者、労働者、機械、格差、環境問題といったテーマが登場するので、人間のwell-beingを扱う大きな意味の経済学とでも言ったらいいだろうか。 農耕によって余剰が生まれ、農民が共有倉庫に預けた穀物の量を記録するために文字を用いた。労働者が畑で働いた時間を穀物の量に換算し、主人が貝殻に刻んで渡した。借用証書としての貝殻の価値を保証するため…

  • 『明治の女子留学生』寺沢龍 平凡社新書

    明治4年に岩倉遣外使節団に同行してアメリカに渡った5人の女子留学生の活躍をまとめたもの。 アメリカの大学で音楽教育を履修し、西洋音楽の理論と実技を習得した永井繁子は、帰国4か月後に文部省直轄の音楽取調掛(後に東京音楽学校を経て、戦後に東京芸術大学音楽学部)のピアノ教師に採用され、明治35年まで勤めた。 明治18年、学習院が宮内省所管になるのを機に宮内省所管の華族女学校が設立されると、大山捨松はその…

  • 『絵でわかる日本列島の誕生』堤之恭

    タイトルから想像されるような入門者向けではなく、専門の学生向けのような内容。最新の研究結果も盛り込まれていて、とても詳細に解説されているのはありがたい。 プレートは、海嶺から離れるにしたがって冷え固まって厚くなるため、アセノスフェアの上を滑り落ちている。プレートの駆動力は、プレートの沈み込んだ部分(スラブ)が落ち込むことによってプレートを引っ張る力が大部分を占める。アセノスフェアの高温部と海嶺…

  • 『世界史で学べ!地政学』茂木誠

    地政学など最も関心の遠い分野だったが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて読んだ。歴史的経緯を踏まえて説明されているので、わかりやすい。 地政学は帝国主義の論理で、国家と国家が国益をかけて衝突するとき、地理的条件がどのように影響するかを論ずる。 日本が日清戦争に勝利すると、東洋と西洋の文明の衝突を予見したマハンの進言を受けて、セオドア・ルーズベルトはハワイを併合し、フィリピン、グアムを領有するスペ…

  • 『東芝解体 電機メーカーが消える日』大西康之 講談社現代新書

    著者は日経新聞から独立した方。東芝3分割というニュースを聞いて読んだが、電機業界の構造や動向が詳しく解説されている。 日本の通信市場は、1985年の通信自由化まで日本電信電話公社の独占で、国民から集められた電話料金は設備投資の形で、電電ファミリー(NEC、富士通、日立、東芝、沖電気)に流れた。 NTTドコモは、第3世代携帯電話(3G)の国際的な通信規格が出来上がる前にFOMAのサービスを国内で始めたが、欧州、ア…

  • 『暮らしのなかのニセ科学』左巻健男 平凡社新書

    健康や医療の分野に絞って、科学的根拠がないものについて論じている。健康食品やサプリメントも取り上げられているので興味を持った。 1994年にアメリカでダイエタリー・サプリメントの法律が制定され、その市場開放圧力によって、日本でも1997年以降にサプリメントが認められた。健康食品に法的な区別はなく、有効性と安全性の科学的根拠がなくても販売できるが、効能や効果を表示することはできない。クロレラやウコンは健…

  • 『新型コロナ 7つの謎』宮坂昌之 ブルーバックス

    ブルーバックスなので、感染や免疫のメカニズムがメイン。基本的なウイルス感染と新型コロナの違いが説明されているが、まだわからないことも少なくない。ワクチン接種が始まる前に出版された本で、デルタ株やオミクロン株への変異といった状況の変化もあり、もうすでに古くなってしまった部分もある。 新型コロナは、ウイルスに抵抗する能力を持つI型インターフェロンというサイトカインの産生や活性化を抑えるタンパク質を…

  • 『ブレイン・バイブル』ジョン・アーデン

    健康な脳を維持するための教育、食生活、運動、社会、睡眠のそれぞれの要素を整理している。内容は充実しており、タイトルの「バイブル」も大げさに感じない。糖分が健康の害であること、有酸素運動が健康に良いことが、これでもかというほど書かれているのが印象的。 自分が詳しくない分野の学習をする、ノンフィクションの読書クラブに参加する、外国を旅行する、楽器を演奏する、外国語を学ぶ、博物館に行く、幅広い分野の…

  • 『嘘と孤独とテクノロジー』吉成 真由美 インターナショナル新書

    数年前からインタビュー記事をまとめたものが増えているが、本書のテーマは利己性と利他性、社会性。集団によってどのように暴力性は生まれるかといった考察は興味深い。 エドワード・O.ウィルソン 高度な社会性を形成する真社会性は、生物進化の歴史上、少なくとも17回実現している。テッポウエビで3回、スズメバチで2回、キクイムシで2回、ハダカデバネズミで2回など。人類では、300〜100万年前にグループ間の競争があった…

  • 教養系の文庫レーベルはどれか?

    数年前から「チチカカコヘ」が教養文庫として共同アピールしている。それはそれで結構なのだが、中にはレーベルとして「教養文庫」と呼んでいいものか疑問を持つものもあるし、他にも「教養文庫」と言えるレーベルがあると思う。 そこで、手持ちのデータベースの本を分類し、レーベル別に集計してみた。なお、歴史、社会、経済、自然科学、医学、農工業、ノンフィクションの分野を「教養系」とした。各レーベルのすべての本を…

  • 『神は、脳がつくった』E.フラー・トリー

    宗教は人類の脳が発達したことによって生まれたことを進化論や脳科学によって説明している。心の理論や自伝的記憶を獲得したことで自分自身の死を意識したことや、来世を創造して祖先を崇拝するようになったことが信仰心を生み、社会の発達によって信仰の対象が階層化され、神々が出現したと説明する。 ホモ・ハビリスは、いずれも知能の源とされる前頭葉の外側部と頭頂葉がひときわ発達させ、賢くなった。ホモ・エレクトスは…

  • 『「超」入門 失敗の本質』鈴木博毅

    「失敗の本質」の概要を解説した本。太平洋戦争における日本軍の失敗を分析することによって、組織や日本人の考え方や行動を論じ、現代のビジネスなどの組織分析も行っている。何よりも、ポイントをまとめる形で読みやすいのがありがたい。 経験則による成功法則では、適用すべき範囲を判断することが難しく、結果として過去の成功事例の教条主義に陥りやすい。 マイクロソフトは、ソフトの互換性とネットワーク効果(同じ…

  • 『電通巨大利権』本間龍

    日本の総広告費は6兆2000億円(2016年)。電通はその25%を占め、2位の博報堂の2倍以上の規模。テレビで37%、新聞で16%、雑誌で12%、ラジオで11%を占め、いずれも数十年間1位であり続けている。あらゆる媒体の購入交渉において電通専用枠がある。 一方、メディアの経営は、テレビ・ラジオで7割以上、雑誌は6〜7割、新聞は3〜4割、インターネットは8割以上を広告に依存している。電通の売上高は2兆3000億円で、フジテレビの650…

  • 『歌うネアンデルタール』スティーヴン・ミズン

    書名からネアンデルタール人に関する本だと思っていたが、副題の「音楽と言語から見るヒトの進化」が実体だった。 著者は、音楽が言語進化の副産物と考えることも、音楽から言葉が派生したとも考えにくく、音楽と言語に共通の先駆体があったと考え、それをHmmmm(全体的、多様式的、操作的、音楽的)と表記している。 音楽によって自分の感情を表現したり、他者の感情や行動を操作することができる。音楽と言語は、どちら…

  • 『一流の頭脳』アンダース・ハンセン

    カバーには一言も書かれていないが、最初から最後まで運動の効能で貫かれている。でも、内容は充実している。 脳の各領域がしっかりと連携していると、機能的に優れる。ウォーキングを続けると、脳の各領域の連携が強化される。週2回以上運動する人は、ストレスや不安とはほぼ無縁。 脳が何らかの脅威を感じると、視床下部がホルモンを放出し、その刺激を受けた下垂体が別のホルモンを放出し、その刺激を受けた副腎はコル…

  • 『ひとの目、驚異の進化』マーク・チャンギージー

    目の4つの能力を取り上げる。表題にはテレパシー、透視、予見、霊読といった怪しい表現を用いているが、内容は至極科学的。視細胞の3つの錐状体の波長の感度は、人間の肌の色を捉えることができる絶妙に調整されていることを丁寧に説明している。表音文字の用いられる頻度が実世界に見られる形の頻度と一致しているとの指摘は、圧巻だった。 波長の長い赤を0度に置き、波長が短い順に時計回りに青が90度になるように並べる…

  • 『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』 中野剛志, 中野信子, 適菜収

    近代化に対する批判的な観点や、聖的なものの重要性が論じられている。共同体から切り離された個は、集団を求めてポピュリズムに向かうとの指摘は、まさに現代社会の問題点をえぐり出していると思った。 宗教やナショナリズムは知性を鈍らせ、死をも厭わない感情を抱かせるが、人間が生き延びるために必要なものでもある。デュルケームは、トーテム原理によって、共同体の社会的、道徳的同質性を維持できると書いた(「宗教生…

  • 7日間ブックカバーチャレンジ

    某SNSで「七日間ブックカバーチャレンジ」なるものを行った。結構考えて選んだので、こちらにもまとめて掲載します。所詮、読書は個人的なものだけど、関心が合う人にはおすすめのものです。 「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン 2000年代の半ばから、ハチのコロニーが突然失踪して崩壊するようになった。その原因について…

  • 『移行期的混乱』平川克美

    保護貿易政策や護送船団方式と呼ばれた官民一体の経済システムに守られた日本経済は、ソ連の崩壊や牛肉・オレンジ輸入枠の撤廃などの国際社会の枠組みの再編を受けて、保護貿易から自由貿易へと変化を余儀なくされた。1991年以降の平均経済成長は、それ以前の3.8%から1.1%に低下した。 トッドらが世界中の国の社会構造の変化と人口動態を調査して得た結論によると、民主化の進展、教育の普及、識字率の向上、女性の社会的な…

  • 『日本資本主義の精神』山本七平

    日本の資本主義の発展の基礎には、江戸時代の藩が経済的合理性に立脚していたことにあること、また、宗教的修行のスタイルが世俗の業務に浸透したことにあると論じる。日本人が一生懸命に働く背景には、修行と同じ精神があるという見方には、納得できるものを感じる。その弊害として、経済性を無視してひたすら働くことが評価される社会を生んだとの指摘も、的を射ているように思う。 藩閥は藩がなくなっても機能し、派閥とい…

  • 『日本型組織の病を考える』村木厚子 角川新書

    検察側の証拠改ざんまで行われた冤罪事件の経緯については生々しくまとめられている。後半は、著者の生い立ちや事件後の活動など。 著者は、逮捕されてから半年近く拘束されて自由を奪われ、管理される生活を送った。拘置所内での取り調べの恐ろしい実態が描かれている。 「私の仕事は、あなたの供述を変えさせることです」 調書は、被疑者が話したことを文章にするのではない。検察が描いたストーリーに当てはまる内容を聞…

  • 『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』クリスティン・バーネット

    タイトルの通り、宇宙論の本だと思っていたのでノーマークだったが、自閉症の子供を持った母親が、子どもの才能を潰すことなく、それを活かすことによって自閉症から回復させるために奮闘した物語だった。 我が子の気分がいい時と悪い時の状況を見分けて、自らの考えを信じ、プロの特別支援クラスをやめさせて自ら家で学習させたり、小学生の子どもを大学の授業に出席させるといった常識的ではない行動にすら出ていく様は見事…

  • 『知性は死なない 平成の鬱をこえて』與那覇潤

    うつ病を発症して大学を退職したことを契機に、反知性主義が力を増した時代を重ねて論評する。 反知性主義の起源をたどると宗教改革に至る。司祭が典礼を執行し、信徒の身体に働きかけるカトリックに対して、プロテスタントは自ら聖書を読んで理解する言語能力が求められる。 「プロレタリア革命によって建国された」というロシア革命の神話は嘘で、当時労働者はほとんどいなかった。プラハの春を弾圧するために軍事介入し…

  • 『世界は美しくて不思議に満ちている』長谷川眞理子

    さまざまな記事をまとめたものだが、結構読み応えあった。特に、子育てと子どもの虐待を論じた部分は、考えさせられる。 人類は200万年前頃からサバンナに進出し、高度な食料獲得技術を用い、捕食者から身を守るために、大きな集団を形成し、互いに協力して心を共有する進化をとげていったと考えられる。 霊長類各種の脳の新皮質の容量は、物理的な環境への対応、採食の困難さなどの指標とは相関がなく、集団サイズとの間…

  • 『森と山と川でたどるドイツ史』池上俊一 岩波ジュニア新書

    戦争や統治者の名前といった表面的なものではなく、生活の基底としている自然を通して歴史を説明している視点がいい。 ゲルマン人は、自然崇拝の多神教を奉じ、神々はヴァルハラという天国にいるとし、聖なる森を礼拝して、神秘的な空間とみなしていた。 ローマ帝国が滅亡すると、海を航海する商人は減り、内陸の大河を移動して交易する商人が増えた結果、川沿いには次々に都市が成立して発展した。ドイツの都市は、10〜11…

  • 『日本の未来を考えよう』出口治明

    日本の現状を統計で客観的に俯瞰するもの。発行から3年余り経過しているが、十分に参考になる。著者は、70か国以上、1200以上の都市を訪れたというから、さすがに世界的視野を持っていると感じる。特に気になったのは、以下の項目。 インターネットで使用されている言語は、英語27%、中国語24%、スペイン語8%、日本語5%(Internet World Stats)。 日本の国会議員の年収は、アメリカの2倍、イギリスの4倍で、地方議員の報酬…

  • 『アルツハイマー病 真実と終焉』デール・ブレデセン

    大仰なタイトルに半信半疑ながら読んでみたが、著者が提案する「リコード法」によって、患者の約9割に回復が認められたと報告しているのには驚いた。 アルツハイマー病の治療に用いられるアリセプトは、コリンエステラーゼによるアセチルコリンの分解を阻害する作用を持つ。それによって、シナプスは少々長く機能する可能性があるが、アルツハイマー病の原因や進行を抑えることはできないし、脳はさらにコリンエステラーゼの…

  • 『戦争・天皇・国家 近代化150年を問いなおす』猪瀬直樹 角川新書

    明治以降の近現代史を俯瞰できる。明治14年の政変、大正デモクラシーの挫折、1940年体制といった節目が現代につながっていることがわかる。 明治14年の政変では、薩長藩閥の伊藤博文や井上馨がプロシャ風の専制君主国家をつくると主張し、佐賀藩出身の大隈重信が中津藩出身の福沢諭吉と共にイギリス風の立憲君主国家をつくることを目指して国会開設の意見書を提出して対立したが、大隈が失脚して下野した。 1911年に関税自…

  • 左と右は、互いに依存しながら社会の存続と発展を担っている

    今年読んだ本の中で最もインパクトがあったのは、ジョナサン・ハイト「社会はなぜ左と右にわかれるのか」だった。4月に読み終えたが、長い間その内容を反芻し続けていた。 この本のテーマは、タイトルの通り政治的立場についてであり、保守主義者とリベラルを5つのモラルの強弱で比べると、違いがはっきり表れるというのが主旨。ここでのモラ…

  • 『山極寿一×鎌田浩毅 ゴリラと学ぶ』山極寿一, 鎌田浩毅

    山極さんの遍歴は破天荒でおもしろい。大きなテーマ、生涯かけてやりたいものは諦めるなという主張も心に響いた。 京大の教養部の授業で、杉山幸丸の講義を聞いて自然人類学を知った。その時に、古本屋で「ゴリラとピグミーの森」を見つけて、これは凄いと思った。 大学院に入った時に、日高敏隆先生が京大に来た。サル学は社会を知るために行動を見るもの。社会や文化は動物には認めないという西洋の考え方に反発していた…

  • 『日本が売られる』堤未果 幻冬舎新書

    テーマは水、食、農業、労働、医療費、個人情報と多岐にわたり、情報は盛りだくさん。特に、食や農がアメリカをはじめとしたアグリビジネスに都合よく変えられていく様が恐ろしい。 水道民営化は、新自由主義の父と呼ばれたミルトン・フリードマンから始まった。1990年代には、世界銀行やアジア開発銀行などの多国間開発銀行とIMFは、財政危機の途上国を救済する融資の条件に、水道、電気、ガスなどの公共インフラ民営化を要…

  • 『ヒト、この奇妙な動物』ジャン=フランソワ・ドルティエ

    著者はフランスの月刊誌「人間科学」の編集・発行人。人間が心や言語、芸術を持った経緯をまとめているが、人間社会に関する第9章は興味深い内容だった。人間が想像によって社会を統治しているとの考え方は、ハラリも採り入れている。 動物は、信号の受信、行為を行う前の内的表象、カテゴリー化の能力を持つが、ヒトはさらに内的な心的イメージ、意図や計画を意味する観念を持つ。観念によって、想像、内省的思考、意識、予…

  • 『枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』

    もはや安倍政権の酷さをひとつひとつ確認したり、挙げ連ねれば、膨大な時間と労力がかかるし、精神衛生にも悪い。この枝野演説は、保守とは何かや、民主主義において多数決が使われる条件を丁寧に説明している点に読みどころがある。また、アベノミクスやカジノ法案の対案として自らの経済政策を提示している部分は、施政方針演説のようである。 保守の概念は、フランス革命を契機に発生した政治概念。保守の本質は、人間とは…

  • 『失敗の科学』マシュー・サイド

    失敗は組織論、仕事術、心理学などにまたがる幅広いテーマであり、興味深い内容が満載だった。事例として盛り込まれているいくつかのストーリーも、読み物としておもしろい。 失敗への対処方法によって進歩が得られるかどうかが異なることは、航空業界と医療業界を対比することによって明確になる。航空業界では、パイロットは自分のミスと向き合い、事故調査に強い権限を持つ独立の調査機関が存在する。失敗は特定のパイロッ…

  • 「はじめての新書」読書案内を集計してみた

    岩波書店の「図書」2018年臨時増刊号として、「はじめての新書」が10月に発行された。93人が3冊ずつおすすめの新書を紹介している。新書を読んだことがない人向けのものらしいが、私も関心を持った本がいくつかありました。 新書を対象としたブックガイドとしては、 『

  • メディアマーカーからブクログへの移行ツールを作りました

    メディアマーカーが2019/1/20にサービスを終了するそうです。機能が豊富で動作も軽いので、長らく愛用してきただけに、とても残念です。終了する理由はAmazonアソシエイトアカウントの問題だけなので、サイト名やURLを変更し、Amazonアソシエイトアカウントを取得し直せば復活できるのではないかとも思っていますが...。何ら確認もしていない個人の希望的観測はさておき、…

  • F.ベアト写真集 - 幕末日本の風景と人びと

    地元の図書館でフェリーチェ・ベアトの写真集を見つけた。手に取って見始めたら、長いこと見入ってしまった。

  • 『明治維新で変わらなかった日本の核心』猪瀬直樹, 磯田道史 PHP新書

    現代の日本社会が江戸時代の武士組織に由来したものであることを論じたものだが、中世に地方が役を果たせば職業を保護するかたちの下で発展し、江戸時代になると百姓が検地をしてもらうことで土地の所有権を持ち、自立して市場経済が発展していったという流れもおもしろい。 8世紀に発行された貨幣の流通は畿内に限られ、11世紀の初めから150年間は貨幣が使われなくなったが、12世紀半ばに中国からの宋銭が大量に輸入されて以…

  • 『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』山岸俊男

    世の中には、閉鎖的な安心社会と、商取引から発展した信頼社会があり、それぞれが異なるモラル体系を作り上げたと論じる。2つのモラル体系は全く対立するものであるため、グローバル化が進んだ信頼社会においては、安心社会に基づく武士道の精神を持ち出すのは有害であると断じている。 教育で知識を教え込むことはできるが、人間性に反した形に心を作り変えることはできない。生まれたての赤ちゃんの心はホワイトボードのよ…

  • 『真面目な人は長生きする』岡田 尊司 幻冬舎新書

    長期のコホート研究による結果を紹介する。健康の指標として、寿命や死亡率は最も客観的なものと言えるだろう。 アメリカの心理学者ルイス・ターマンは、子どもたちの能力が何によって決まるのかに興味を持ち、1920年から10歳前後の知的能力の高い子ども1500人を選んで、成育歴や養育、生活環境、健康状態などのデータを集めた。ターマンの死から30年余り後、ハワード・フリードマンがターマンのデータを用いて研究を続けた。…

  • 10年間に読んだ1000冊の中から選んだ15冊の本

    2008年以降に読んだ本が1000冊に達した。切りがいいので、振り返って特によかったと思うものを選んでみた。ただし、読書は個人的なもの。読む分野は人それぞれ。私がよく読むのは、科学、環境、歴史の分野で、文芸系はほとんど読んでいない。概ね、印象が強く残っている順にあげてみる。 『歴史は「べき乗則」で動く』 マーク・ブキャナン べき乗則とは、ある…

  • 『きずなと思いやりが日本をダメにする』長谷川眞理子, 山岸俊男

    社会心理学者と進化生物学者の対談。話がかみ合っていて、内容は結構深い。逆説的なタイトルは、集団内で問題を起こさないようにするネガティブな協調性として取り上げているようだ。理念ではなく、客観的事実に基づいて政策決定することを主張する最初の章は読みごたえがある。 多産か少産かの戦略の違いは、その生物の置かれた環境に関係している。生存環境が飽和状態であれば、子どもの数を限定して、一人の子に資源と時間…

  • 『平等社会』リチャード・ウィルキンソン, ケイト・ピケット

    書名からは理想論をとくとくと述べているものかと想像したが、豊富なデータを用いて客観的分析を行い、平等社会が誰にとっても好ましいことを示している。これほど明確なデータがあるにもかかわらず、格差を是正する動きがなかなか進まないのが不思議に思うほどだ。 主要工業国間やアメリカの州の比較によると、所得格差が大きくなるほど、 ・国民間の信頼が低下する ・女性の地位が低い ・対外援助の国民所得比が小さい …

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