不条理ミステリーという触れ込みは全然ちんぷんかんぷんだったけど、7人の俳優たちの若い世代の想いは十分伝わったと思う。2時間全編のシュプレイコール絶叫、ダンシング、途中で水飲みタイム、さらに台本ありの朗読があったりなど、面白い展開だったが、最後には収束させた終わりで、なかなかのもの。彼ら、かなり体力を消耗したのではなかったか。一日2本はきつそう。演劇集団エスキス「遠くの霧に紛れて」(作・演出嵩見凌)at表現者工房80点
映画館で新作をランダムに見ています。小演劇も好きですよ。
プロフィール 性別 男性 自己紹介 休みは大体映画館かその近くを闊歩しています。自然と繁華街というところを歩くことになります。心は大自然にあこがれながら、結局便利さに負けているような気もします。
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演劇集団エスキス「遠くの霧に紛れて」(作・演出 嵩見凌) at表現者工房 80点
不条理ミステリーという触れ込みは全然ちんぷんかんぷんだったけど、7人の俳優たちの若い世代の想いは十分伝わったと思う。2時間全編のシュプレイコール絶叫、ダンシング、途中で水飲みタイム、さらに台本ありの朗読があったりなど、面白い展開だったが、最後には収束させた終わりで、なかなかのもの。彼ら、かなり体力を消耗したのではなかったか。一日2本はきつそう。演劇集団エスキス「遠くの霧に紛れて」(作・演出嵩見凌)at表現者工房80点
う~ん、感心する。老醜もこれほど生々しいと清々しいと思えます。2時間弱、ずっと映像に目入ってしまう。人生、夢、幻、生と死のはざまにたゆとう我なる時間の怒涛。早くも今年のベストかなと思う。長塚はまさに全部吐き出し人生を刻み込む。吉田は「桐島、~」以来の傑作至れり。敵(2025/日)(吉田大八)90点
ミッシング・チャイルド・ビデオテープ(2025 近藤亮太) 75点
なぜか「敵」と同じく珍しくミニシアター館をにぎわせている作品。気になり見ることにする。若い方が多い、これも珍しい。そしてホラー。あまり見ない種類の映画だ。本編が経って、ホラーなれどあまり怖くなし。これがよかったかなあ。これ見よがしの怖さを売るホラーでないところが心地よし。この内容で最後まで引きつける演出、展開は褒められてよし。俳優陣も地味目が多く、新鮮であります。ラストもなかなか凝っていて、加点。新しいホラーと思う。ミッシング・チャイルド・ビデオテープ(2025近藤亮太)75点
読みやすく一気読みでした。スタイルは冒頭に出てくるように映画「グランド・ホテル」形式。だからか、一つ一つの話に人生の芳香が感じられる。最後まで読み切った感想としては、ミステリーではないということとと、実によくできた小説だが、ちょっと良すぎ。いい人たちが出過ぎ。でもこの世知辛い世の中、たまにはこんな現代の桃源郷もいいよね。いい時間をくれました。ヴィクトリアン・ホテル(2021実業之日本社)80点
人間滅亡的人生案内(深沢 七郎 (著))(2013 河出書房新社) 90点
深沢氏痛快な若者に対してのサジェッション。とにかく、明瞭簡単、ただぼ~~と生きてりゃいいのさ、というお強い言葉に救われる。そもそも動物なんて悩まずただただ生きているのに、人間だけが何で悩む必要があるのか、、、。そこなんだよな。「自分とは何か」から始まる哲学志向もこの深沢につかまると、いかに人類は無駄なことに時間を費やしてきたことか、となる。この深沢の人間滅病教、大好きです。人間滅亡的人生案内(深沢七郎(著))(2013河出書房新社)90点
ホ・ジノ監督の最新作。最近は力不足の映画が多いと思っていたが、取り戻した感あり。内容的に、誰もが自分に降りかかったら、どうしますか?というテーマを緊密に掘り下げていて、ラストまで一気でした。夫婦2組の俳優演技がうまく、とても印象に残る。でも最後の思いがけないシーンは成瀬巳喜男の「女の中にいる他人」で既に使っている。でもこうなるしかないよな、、。面白い作品でした。満ち足りた家族(2024/韓国)(ホ・ジノ)80点
今年は映画、96本だから、まあ良く見たと言える年でした。相変わらず自分の心に触れる映画しか評価しない僕は通常の映画評からはずいぶんブレていると思う。洋画1位哀れなるものたち(ヨルゴス・ランティモス)2位ヴェルクマイスター・ハーモニー(タル・ベーラ)3位熊は、いない(ジャファール・パナヒ)4位青いカフタンの仕立て屋(マリヤム・トゥザニ)5位憐れみの3章(ヨルゴス・ランティモス)日本映画1位悪は存在しない(濱口竜介)2位生きちゃった(石井裕也)3位ぼくのお日さま(奥山大史)4位市子(戸田彬弘)5位コットンテール(パトリック・ディキンソン)2024年映画ベストテン
サイレントクライシス(五十嵐 貴久 (著))(2023 PHP研究所) 85点
好きな作家だが、でもここまでワクワクしながらページを繰る作品も最近では珍しい。ミステリーだが、本格ものではないし、犯人探しでもないのだが、文字の間から五十嵐の躍動感があふれているのがわかる。ミステリーで一気感が強いのはそれほど秀作だとお言うことだろう。最初はシリーズが続くと思った妹刑事があっけなく亡くなってしまうのがちょっとした驚きだったが、でもその後登場人物の設定も面白く、五十嵐の才能を十分知ることのできる快作でした。年の終わりがこの作品だったことは2024年が良き年だったということだ。サイレントクライシス(五十嵐貴久(著))(2023PHP研究所)85点
コットンテール (2024/日=英)(パトリック・ディキンソン) 85点
私のような随分と無駄に歳月を過ごして来た人間には、主人公から見据えたまなざし、音、声、人の心の襞はずしんと容易にそのまま自分に入ってくる。見出して15分ほどで私はリリー・フランキーと同化してしまった、、。夫婦愛、家族愛をテーマにした映画なんだろうけど、恐らくその底辺に流れているのは人間のささやかな営み。人は生まれては死ぬ。そのリフレインの中に、それぞれの人の想いを巡らせ、喜び、悲しみ、驚き、諦観を知る。形式はさすらうロードムービーなのだが、この作品はバックグラウンドにシューベルトのまさに「冬の旅」のような詩情をたたえている。セリフ自体は極端に少ないが、だからこそ主人公、すなわち我々にうごめく心の営みが照射される。いい映画だったのでしばらくその余韻に浸っている私だ。コットンテール(2024/日=英)(パトリック・ディキンソン)85点
確かにこういうタイムスリップものはそもそも面白い。映像も展開もよく考えられている。途中だれてくるところで、あれを使うんですね。分かる気もするが、、でも、あれは勝新太郎が使用して倫理的にもご法度ではなかったのかなあ、、。アメリカでも銃使用事件があったし、映画界で、これを題材にするとはちょっと恐々。でもだからこそ最後の文字通り真剣勝負が燃えてくるんだろうが、ね。映画の原点の面白さを現代において追求した作品といえると思います。観客を心を真芯でとらえた映画です。侍タイムスリッパー(2024/日)(安田淳一)70点
何気ない普通の男女の愛とその別れ。さりげないその瞬間を描いていてさりげなく素敵だ。こんな映画感覚はやはり日本では無理かな。西洋映画風でもある。拾い物の映画です。もしかしたら私たちは別れたかもしれない(2023/韓国)
映画の流れとしては水準を行っていると思う。ある疑問から、謎が深まり、追求してゆく人間も警察の内部(警官ではない)というミステリーではすれすれのダメダメ環境だが、でもなかなか面白い。だが、途中で、真犯人があぶり出され、え、しかしなあと思いつつ、やはりそうか、でもこれはちょっとやり過ぎ、といった感想が伴う。面白い作品にしようとすれば、もはやこういった展開しかないのか、というところにミステリーの限界があるのかなあ、、。とは言え、ミステリー好きには十分楽しめました作品でした。朽ちないサクラ(2024/日)(原廣利)80点
遊機械オフィス「ア・ラ・カルト公認レストラン「僕のフレンチ」」(作・演出 高泉淳子) at近鉄アート館 80点
6年ぶり、大阪公演。東京にいたときは毎年この演劇を見て年を越すといったいわば年越しそばのような演劇でした。そしてこの演劇ももう36年経過しているという。僕は見始めてまだ15年ほど。でも結構館内は若人から実年まで様々な年齢構成。高泉淳子さんのキュートな年齢不明がそうさせているのだろう。さて、今回もロニーが客演。前半がロニーとのレストランでの会話が主体。公判が二人のライブショーとなっている。大阪を意識したのか、ずいぶんと演劇加減が薄まり、ライブショーが重点となっている。僕は、彼女の何か人生への黄昏を意識したいわばもののあわれが好きなんだけど、それは来年まで持ち越すようでもあるのか、、。でも本当に楽しいいい舞台でした。今年最後の演劇です。遊機械オフィス「ア・ラ・カルト公認レストラン「僕のフレンチ」」(作・演出高泉淳子)at近鉄アート館80点
カムカムミニキーナ「鶴人」(作・演出 松村武) at近鉄アート館 80点
さすが年季の入った演劇集団。多数の出演者。十分言いなれたセリフの言い回し。何より、奈良時代、天武系一族の女帝時代の歴史絵巻が楽しく面白い。あの怪しげな鶴の張本人、与兵衛が道鏡になっていくのはとてもユニークで面白かった。きらめきの奈良時代絵巻を堪能できたのは、脚本がかなり一を占めている。古代史を知っている人はなお楽しく、歴史がまったくの人はそれなりに楽しい秀逸演劇ドラマであります。八嶋智人はある意味完全主役でないところが均衡を保っていた。山崎樹範は意外と声が高く演劇向き。ドラマより骨太。カムカムミニキーナ「鶴人」(作・演出松村武)at近鉄アート館80点
今話題の三宅唱の処女作。モノクロ、北国の白い雪。札幌なのに、田舎感が色濃く出てる。青年期の3人の「18歳の今」をやさしく切り取っている。こんなに実際の人生が優しいとは思えないけど、でもいいのだ。何かを信じたい映画である。やくたたず(2010/日)(三宅唱)70点
奇岩館の殺人 (宝島社文庫 )(2024 高野 結史) 75点
まあとても面白い。とにかく設定がユニークで、魅入られてしまう。あっという間に読破だ。だいたいページ数も少ないし、しかもミステリー好きならではの展開で、そのまま一気です。でも、何か物足りないというか、緻密ではないですね。この感じだったら、何でも書けそう。通常のミステリー作家がトリック等で日夜研究・努力されている部分がいかにも皆無、といった感じ。でもこんなミステリーもたまにいいか、、?ラストは爽快。奇岩館の殺人(宝島社文庫)(2024高野結史)75点
コトリ会議「おかえりなさせませんなさい」(作・演出 山本正典) 於アイホール 85点
コトリ会議、久々の新作。若旦那家康さんの配慮で、かなりの時間前に劇場に到着するも、ロビーにはコーヒーが用意されていたり、過去の演劇がモニターに上映されていたりと、とてもアットホームなくつろぎの空間が用意されていて、いい気分のまま演劇に入る。そして劇は、これがなんと100年後の地球の姿で、大戦に明け暮れる人類はもう8次大戦のさなかである。人間はつばめと混血し、人間部分の意識は30%に成り果てる。そしてさらに、将来魚類のサバと混血するとさらに30%になるので、9%部分の人間意識になり、これを繰り返してゆくと、人間は消滅するであろう、そんなある家族の葛藤の時間が繰り広げられてゆく。何とも、切ない哀しい、やり切れない家族劇だが、それでもそこには子孫を残す、残せない、生きてきた証の記憶をどうするのか、といった本源的...コトリ会議「おかえりなさせませんなさい」(作・演出山本正典)於アイホール85点
関西大学劇団万絵巻「精霊のAGEHA」(作・演出 モンスターまさき) at芸術創造館 80点
学生演劇で3時間もの長丁場。しかも自ら書き上げたという労作。これがまた面白い。若いっていいなあと、舞台を見ていて思う。みんな溌溂。ダンスあり、アクション有り。精一杯飛んでいる。他の演劇とは一線を画すように、セリフのしゃべりも明確。トチリもなし。すごい練習量だと思う。みんなよくやった。前半後半と分かれるが、長くは官にないまま、余裕を残してジエンド。最後もどんでん返し風で面白かった。28期生は今回で退団。全部出し尽くしたのうだろうか、泣いていた俳優もいたなあ。青春時代はこうして流れてゆく、、。何かを彼らからもらった演劇でした。関西大学劇団万絵巻「精霊のAGEHA」(作・演出モンスターまさき)at芸術創造館80点
『神戸の湊、千年の交々』(作・演出 土田英生) at兵庫県立芸術センター中ホール 85点
今日一日、しかも一回だけの演劇公演、というのはおそらく僕の長い演劇経験でも初めてのこと。人気俳優、南野陽子さん、大谷亨介さんが夫婦役で、最初と最後をきりりと締める。その他、関西在住の演技派どころ18名も参加して、いぶし銀で、ポエムのようないとおしい劇を奏でてくれる。1000年の時代をつなぐ神戸。そこに生きていた人たち、その営みをまるで人生の最後に垣間見る走馬灯のように映し出す。時間は80分。あっという間に劇は終わる。それは人生という時間の長さのようにも思われるほど。人々は歴史的には1000年もの長さを、けれどもそれぞれの名もない市井の人々が生きていた。彼らにも、にじむように生きる人生の灯はしかと輝いていた、、。素晴らしい人生のオムニバス。土田のポエムに酔う。至極の時間空間。永遠たれ、、。『神戸の湊、千年の交々』(作・演出土田英生)at兵庫県立芸術センター中ホール85点
黄土館の殺人(2024 講談社文庫)(阿津川 辰海 著) 75点
600ページもの長さ、そしてまたこの著者ならではなのか、300ページまで読んでいるのに全く殺人が行われない。以前にも同じことがあり、またかとほくそ笑む。ところが、最初の殺人が始まると次々とやはり前と同じく連続殺人が続く、しかも突拍子もないトリックで行われるものだから、とても現実感がなく、それでもかなり面白いからページを繰る動作は続く。途中、丁寧に犯行の記述が紙面を割きこれは読者にはとても親切ではある。著者がかなりミステリー愛に満ちているのがわかる。驚くべき真犯人はやはりそうであると面白いと思っていたが、でもこの殺人操作設定にはかなり物理学的にも無理があるように思えてしまう。まあ、面白いけれども、ちょっと手放しで喜べるものではない。著者のミステリー愛に加点。黄土館の殺人(2024講談社文庫)(阿津川辰海著)75点
5編のオムニバス。ベンチから見える人間の面白さ・おかしさ・哀しさ・怖さを何気なく、また意図的にも取り上げている。俳優陣が豪華で、お気に入りが多く、即映画館へ。1編目は二人の後ろ姿も、大賀は広瀬から少し離れて距離を取っておりベンチからはみ出ている幼馴染なんだろうけど恋愛関係にはない。もう30ぐらいなのに、可笑しい。でも、擬古といない二人のやり取りはそのうち愛を感じる雰囲気になっていき、いい出だしである。2編目。見た目はいい関係の二人だが、実はどうしようもない断崖があることがわかってくる。こんな男女は世の中に多いと思う。セリフの応酬が素敵だ。荒川がなかなか面白い。3編目。女二人の言い争いのような会話が延々と続く。ちょっと意図的で、それほど面白いとは思えず、睡眠状態になりそう。4遍目。草なぎと吉岡の会話だが、彼...アット・ザ・ベンチ(2024/日)(奥山由之)80点
倉本聰久々の脚本ということで即映画館へ。渾身のホンだというが、何を見ればいいのかわからず、困惑する。演技はさすがで納得する。中井貴一はうまい。小泉今日子は相変わらず美しい。訳の分からない役で清水美沙が久々出演。海の沈黙(2024/日)(若松節朗)60点
最近珍しいチンピラやくざ二人と女というトライアングル構造を通し、甘く、淡く、やるせない現代の若者の閉塞感を描いている。期待した分、それほど若者たちの心情を深くえぐれているとも思えず、どこかで見た映画感もするなあと思えてくる。3人が逃避行を決めるんだが、スマホでつながっていて、それは一時的なものでもあるし、最後は見えている、、。もう明日はないかなあなんて3人が夜に軽く踊るシーンは、俳優たちの素地が出てしまい、いままでの緊迫感も吹っ切れてしまう。ちょっともったいない気もする。まだまだ熟練を要する監督だと思う。冒頭シーンなどはいいものはあります。オアシス(2024/日)(岩屋拓郎)65点
劇塾!S.W.S「あの日にかえりたい・・・」(作・演出 清水伸吾) 於魅殺陣屋スタジオ 80点
スタジオ公演だが、実に広い舞台。この空間であれば殺陣が自由自在に行うことができる。俳優陣は10人ほど。みんなよく練習していて、セリフのとちりはない。この舞台、壁中劇が通常のイメージではなく、実に現代と同程度に重要視して描かれている。その内容も著名な信長、お市の方、浅井長政、秀吉そしてクライマックス本能寺の変と辿ってゆくので、本篇より実際濃いぐらい劇中劇が強く際立つ。本篇も、男女の悲しい恋愛ものなんだが、ちょっと古風なぐらい、抑制が効いている。立派に純愛劇であります。主役の石井一真氏は3役もこなし、この現代悲劇の中枢となり、オトコのやさしさを際立たせている。むずかしい役柄だが、十分こなした。その相手役の小林莉沙さんは現代役も森蘭丸も重厚にこなした。表現が的確。森蘭丸が女性という設定がなかなか憎いね。2時間弱...劇塾!S.W.S「あの日にかえりたい・・・」(作・演出清水伸吾)於魅殺陣屋スタジオ80点
最強の一人芝居フェスティバル INDEPENDENT:24 於in→dependent theatre 2nd 85点
この時期になると7時間の一人芝居フェスが来る。もう高齢者もいいところなのだが、このフェスが好きで、体がまだ続くかどうかも確かめて毎年見ている。いやあ、ほんと全国津々浦々いろんな方言が飛び交い、趣向もピンキリ。選び抜かれた芝居だから、どれも一筋光っている。7時間といえど、11芝居、人生を凝縮した芝居が続き、貴重な一日であります。その中でもお気に入り、「ケンジとトシ」、「やじうま」、「コレカラノブルーズ」、そしてどくさいスイッチ企画の「セレクション20-24」は本日の白眉。ものすごい。皆様、本当にご苦労様です。最強の一人芝居フェスティバルINDEPENDENT:24於in→dependenttheatre2nd85点
映像で文学してる作品だったような、、。結構この感覚好きです。4人との出会い、そして自分自身と向き合うことから、人生を彷徨う、、。カフェに座る人生に疲れたかのような人々の表情、バスから見える歩道に映る人々、、。これはあるとき、死を意識した人間から見える走馬灯のような綴り詩のような気がする。ちょっと違うけど、ルイ・マルの「鬼火」を思い出す。鋭く、秀作。夜明けの詩(2021韓国)(キム・ジョングァン)80点
いきるひ春の星 きみよ光の帯になれ」(作・演出 大野恭敬) at 布施PEベース 70点
旗揚げ公演でしょうか、なのでこういう公演は私は見に行くことにしている。映画と同じく処女作にはその作家の想いが詰められているからだ。さて、この公演、冒頭からがなぜか取っつきにくく、一部の俳優たちのセリフ発声も気になったこともあり、僕はちょっと気がそれてしまう。でも、ポエムを意識しているんだろう、柔らかな美しい世界を追う心情などがそのうち見え始め、気持ちが180度変化していることに気づく。なかなか意欲的な舞台ではあります。でも作者の意図が観客にそれほど伝わらないのはなぜかなあと考える。意欲的で面白いんだけれど、かなり言いたいことを出し過ぎて、収束していない感があります。茫洋としたものが全体をとらえて、芯が見えないというか、観客は取り残されたまま演劇が終わったような感覚でした。若い人たちにはそれなりに訴えるもの...いきるひ春の星きみよ光の帯になれ」(作・演出大野恭敬)at布施PEベース70点
BLEAK NIGHT 番人(2010 韓国)(ユン・ソンヒョン) 80点
人生で17歳。体は大人。精神はまだ思春期だとかよく言われる。でもほんとそうだろうか。私自身を考えるに、17歳から今現在、半世紀以上を経ているが、全く成長していないのです。17歳という年齢は少なくとも私にとっては人生でいちばん多感で知識欲が旺盛で、通常の一年を10倍圧縮したかのような過密な年であった。だからこの年を思春期なんかでごまかすことはできない。一番自分のことを考えていた年齢なのだ。さて、映画の方は中学時代から仲良し(だった)の3人の男友だちのいわば精神の通過期を、緻密に正確にそして的確に描写している。映画は息子を失ったその父親が学校を訪ねるところから始まる。番を張っているギテ。暴力さえ平気で振るが一番繊細な性格でもある。ヒジュンがギテとその仲間から暴力に遭っている。完全イジメだ。ヒジュンが自殺したの...BLEAKNIGHT番人(2010韓国)(ユン・ソンヒョン)80点
いいむろなおきマイムカンパニー「ゾウをのみこんだウワバミの絵」(作・演出 いいむろなおき) 於アイホール 80点
マイム舞台はここまで完全版なのはひょっとして初めてかもしれない。とにかくセリフがないので、彼らの動き、つながり、表情から何かを得る体験をさせられる。表現が受身形なので、当然自分自身に犠牲を強いる何かを当初感じていた。でも目と耳が音楽と相乗効果でなり始めてから、とても楽しみに変化したことを告白する。そのうち音楽がかなり影響力を示していることに気づく。これはほかの演劇では考えられないことだ。当然、脳内は真剣なまなざしで溢れている。ラスト近くになって、なぜだか、私自身の心が清らかになった錯覚(?)を覚え、なんと感動の嵐が吹きすさぶ。素晴らしいマイム体験でした。いいむろなおきマイムカンパニー「ゾウをのみこんだウワバミの絵」(作・演出いいむろなおき)於アイホール80点
ふとパリを楽しみたくてこの映画を見る。何か短編小説風の老人と若い女との愛と呼ぶべきか、心の重なり合いを描いた水彩画のような映画です。男は70歳ごろ、女は30前。男は過去をなぜか隠しており、そのためか女は逆に男に関心を持つ。小さな古本屋でたたずむ二人。そのうち男が秘密結社の重要人物で逃亡中だと女は知る。男と女はいったん離れるがそれでも愛はつながっている、、。この年齢差はやはり日本ではこうは行かないね(そうでもないか?)。昔活躍したジャン・ソレルがいい風貌になっていて、まさにパリジャン風で、イカシてる。女は若いのにちょっと地味目で、この作品にぴったりである。最後、女はおそらく組織残党の一味の一人なんだろう、若い男と出会うが、それはあまり意味を持たない気もする。残余感を残した切ない男と女との別れである。パリのや...静かなふたり(2017仏)(エリーズ・ジラール)70点
トラップ (2024/米)(M・ナイト・シャマラン) 80点
シャマラン作品なので以前と違いパスしようと思っていたが、たまたま時間の関係で鑑賞する。ところがこれが思わぬ秀作サスペンス。シャマランの実力を垣間見もし、また驚いた。導入部から2時間強、この手の作品では長い方なんだが、決して飽きさせぬ驚くべき展開。ラストまで、一気。これはミステリーなどでは作品の質を問うべく基本的なことであり、見事クリア。大体、いつも通り、何の前知識もない吾輩は、ハートネットの役柄は巻き込まれ型善良パパだと思っているから、とにかく今回は全く180度違う役柄で、そのことにまず驚かされる。ハートネットも勇気が必要だったろうが、キャスティングスタッフの勝利だろう。キャストといえば、あの有名子役スターだったヘイリー・ミルズが冒頭で字幕登場していたのでワクワクして見ていたら、60年以上経過していても、...トラップ(2024/米)(M・ナイト・シャマラン)80点
#真相をお話しします(新潮社 文庫版 (2024)(結城 真一郎 (著)) 70点
5編の短編集。そのうち1編は日本推理作家協会賞というから読んでみた。「難問の多い料理店」がすこぶる面白く、その作品が気になったからだ。出、その受賞作品、SNSを使用した少々異次元風のお話で、一応ミステリーにはしているが、正直言うと、おじさんにはついていけませんでした。ほかの4遍も、はっきり「真相をお話ししていない」のもあり、どう考えても読者にゆだねるタイプもの」があり、少々アンフェアだなあと思った。まあ、気になるミステリー作家であることは間違いないですね。#真相をお話しします(新潮社文庫版(2024)(結城真一郎(著))70点
劇団伽羅俱梨「秘密基地ラヂオパーク」(作・演出 徳田ナオミ) 於KARAKURIスタジオ 80点
初めてのオムニバス版。とっても面白い。5編あるが、すべて泣ける。美しい。徳田さんが、今のままでも素晴らしいのに、さらにその先を見て新しい何かを常に考えているということは重要です。まずそのことを誉めたい。だからこの劇団は続くのだろうなあ、、と思う。冒頭のエピソードが最後にまた合致するその展開はとても素敵でした。いつもより橋本さん、役も重く、こちらも素敵でした。もう次作が気になり始めたいい劇団です。いつまでも続けてください。劇団伽羅俱梨「秘密基地ラヂオパーク」(作・演出徳田ナオミ)於KARAKURIスタジオ80点
文学座「摂」(作・瀬戸口郁 演出・西川信廣) atピッコロ大劇場 85点
やはり大劇団の演劇の能力は高い、ということを印象付けた作品です。私には朝倉摂は舞台美術で成功した美術家という印象が強いが、舞台ではその半生はかなりユニークなお人だったんだあなあと面白くもあり、正直な人でもあり、なかなか苦難が多かったようだ。俳優陣がもう十分これ以上ないという演技を見せてくれるので、安心感が漂い、不思議な安定感と充実感があります。素敵な人生を垣間見た気がします。「山はどこから登ってもいい、決められたルートはないんだ」いい言葉です。そうです。自分の人生なんだから、自分で決めるべきだ。納得!文学座「摂」(作・瀬戸口郁演出・西川信廣)atピッコロ大劇場85点
原作未見。なのでこの映画をどう評価するか微妙です。というのも、、、現代の小説では当たり前なのかどうかわからないが、人間の存在について、AIを使ったヴァーチャルを駆使して、あらゆるデータから総合的に編み出した「私」、といわゆる自分の脳裏にある正体不明で不可解な「私」、を対比させているからだ。後者の私は人間の始まり以降、あらゆる人々(哲学者から市井の人々)が日夜探求したものゆえ、文学もその結晶と言えるだろう。難しいことは書けないが、このバーチャルがどうも嘘くさいのだ。と言うより、この映画を見て「なかなか便利なもので有益ではないか」と思ってしまう人がいるよう実は私は怖いのだ。さて、脇道に逸れた気がします。私とは何か、人間とは何か、すなわち生きるとは何か、暗い道にほのかな灯りをともしてくれるような作品だなと思いま...本心(2024/日)(石井裕也)75点
この作家では初めての初読。孤島の島で起こる連続殺人。まあよくあるパターンですわい。この手のものはけれど結構秀作が多いのを知っている。で。期待して読んで行くと、、。目、腕、足など切断の孤島という習俗が最後まで引いてしまう羽目になり、少々げんなり。そして登場人物が鷲、鴉の苗字がとても多く、覚えられない、そしてどんどん殺戮されていくので、もう誰が殺されているのかわからなくなってくる始末。主人公の中に潜む二重人格的人間の存在も面白いといえば面白いが、ちょっとこんなのいいの?と疑問符もあります。要するに何でもありのトンデモミステリーであります。ちょっと吾輩はついていけませんで、、。で、ちょい減点させていただきました。切断島の殺戮理論(星海社2024)(森晶麿)65点
帝国妖人伝小学館 (伊吹亜門 (著) (2024 小学館) 80点
明治から戦後にかけて語るある小説家の話、、。5編あり、それぞれ本物の小説を読んだ感あり。ミステリーでもここまで時代、人間を書き紡ぐ作家は他にはないのでは、と思えるほど秀逸である。やはり、でも現代より彼には時代もののミステリーが相応しい。彼の個性を十分引き出している。寡作ではあるが、今までで出した本はすべて一級品です。まだ若いし、これからどう豹変するか頼もしいばかりです。帝国妖人伝小学館(伊吹亜門(著)(2024小学館)80点
演劇公演 ala Collection『いびしない愛』(作・竹田モモコ 演出・マキノノゾミ) at総合文化小ホール 80点
意味不明の題名です。舞台でもこの用語は出てこず、最後までわからず。セリフも高知弁なんだろうが、ちょっとわからない部分もあり。と言って、決してこの舞台をけなしているわけではありません。高知の都会から離れたふし工場の事務所が舞台です。方言はこの芝居では重要である。ひとりあくせくしている女所長のところに若い空き巣男が紛れ込んでくる。この冒頭の設定が斬新で面白い。なかなか外に出られない男となぜかおびえない女とのや関心を持たせることに成功する。そこからは得体のしれない大男が出てきたり、なぜか左腕が使えない姉が出てきたりして、ようやく女所長の生きている場所が明確化される。女性らしい脚本の進め方で、きめ細かい描写が続く。登場人物は全員、この世の中では主人公に決してなれない人物ぞろいなのだが、だからこそこの題名「いびしな...演劇公演alaCollection『いびしない愛』(作・竹田モモコ演出・マキノノゾミ)at総合文化小ホール80点
劇団空組「夢の旋律」(作・演出 空山知永) at芸術創造館 75点
初めて見る劇団なのだが、なんと今回で20周年の記念作品だという。そして驚くべきは小演劇では僕にとって初めてというか、30人越えの出演者であること、またそのすべての出演者がみんな宝塚歌劇のごとく全員若き女性だということであります。話は何か5,6個のエピソードを群像劇に仕立てた感があります。その間に見事な歌唱力のもとに打ち出されるダンスがある。それはもう見事というほかない。迫力満点、そして実に美しい。そこにあるのは私が男性であるからか、女性特有のまさに少女漫画のごとくきらびやかさを伴う世界でした。2時間、ダイナミックでした。でもちょっとこの高齢化爺にはついていけないところもあり、こればかりは仕方ないのかなあ、でも最後は感動してしまいました。劇団空組「夢の旋律」(作・演出空山知永)at芸術創造館75点
難問の多い料理店 (結城 真一郎 (著) (集英社 (2024) 85点
読みやすい連作集です。しかし、この手のミステリーはありそうで今までなかったような気がします。題材が現代でも最短のものを扱っているので、とにかく斬新そのもの。ページを繰るのが早くなります。それだけ秀作ということなのでしょう、いやあ、ホント面白かったです。中盤から凄みも見せ始めますからね。今年の収穫作だと思います。ミステリーがお好きな方に、そしてあれこれ細かいことに詮議しない性格の方に超おすすめミステリーであります。難問の多い料理店(結城真一郎(著)(集英社(2024)85点
劇団未来「サド侯爵夫人/わが友ヒットラー」(作・三島由紀夫 演出・松永泰明、しまよしみち) at未来ワークスタジオ 80点
三島由紀夫の傑作戯曲二本立て。両方で4時間。この前、木下歌舞伎で5時間、今月末には一人芝居フェスで7時間、と体力試練が待っている。さて、まず「サド侯爵夫人」、文学的、ちょい難しいセリフのオンパレードでちょい置いてけぼりの展開。(これはあくまで私の能力、の限界か?)おそらく原作をちゃんと読んでいないと分からないのかな?まさに三島由紀夫のきらびやかな世界観が充満しておりました。次は「わが友ヒットラー」、ナチス党が粛清を繰り返してゆく初期の段階の珍しい切り口で、これはとても楽しめた。やはり時代背景等をしっかりと分かっていたら、演劇の解釈も難しくはなくなる。これはしかし、「サド~」と違い、それほど三島を意識しないで鑑賞できた。冒頭のヒットラー演説の舞台左後方後ろ姿シーンがとても斬新で面白い。ぐいぐい見せつける。演...劇団未来「サド侯爵夫人/わが友ヒットラー」(作・三島由紀夫演出・松永泰明、しまよしみち)at未来ワークスタジオ80点
依然として何の前知識もないまま見た映画だったが、途中で山下の映画ではなかろうか、と思って見ていた。最後のエンドロールまで分からなかったが、見事的中し、ご満悦。山下の初期の映画群を感じ取れて、心躍る。あのふんわり柔らかモードがとてもいい。人生、こんな風でもいいよな。カラオケ行こ!(2023/日)(山下敦弘)80点
最近めずらしい僕らが思っている沸々の想いをセリフに託している何気ないシーンの連続感がいい。このいわば本音感はただ事ではない。、、と思います。けれどもストーリーにならない掛け合いセリフ集合では、映画として成り立たないとでも告げたプロデューサーがいたのかどうか知らないが(映画の冒頭の方のシーンに関連付けしています)、父親が出没してからやたら、劇映画風になってしまいます。それはそれで見せ所だし、泣きどころなのだけれども、普通の映画に成り下がってしまっているきらいもあります。まあ、ワイドと四角のスクリーンの対比はとても分かりやすかったし、面白かったが、やはり全編的に弱者の心情$本音がストレートに溢れていて、一瞬女優松岡茉優を人間松岡茉優と見間違うぐらい、僕はとても共感してしまう。大好きな映画です。愛にイナズマ(2023/日)(石井裕也)85点
MICHInoX『黄金黎明伝 TSUNEKIYO X The Golden Dawn』(作・演出 本田椋) 於 in→dependent theatre 2nd 80点
まさに平安後期武士の始まりといった時代。しかも所は東北平泉。藤原氏の前時代、いわゆる歴史でいうところの「前九年の役」あたりを題材にしているので、歴史的にはわかりづらい。でもそれほど真面目に鑑賞しなくてもいいように面白く娯楽的に作っているので、十分楽しめる代物だ。なんといっても全員が、体を張ったかのような熱演。体から汗の息吹が見えんばかりの立ち回り。もう圧倒されますね。ただテーマからはいまの東北、仙台でもいいが、彼らの遠吠えが、ちと聞こえづらかったような気もしました。おそらく現代に通じる東北の声を彼らは伝えたかったはずだと認識しましたから。MICHInoX『黄金黎明伝TSUNEKIYOXTheGoldenDawn』(作・演出本田椋)於in→dependenttheatre2nd80点
THE ROB CARLTON「THE STUBBORNS」(作・演出 村角太洋) 於ABCホール 80点
緻密な計算の元に作成されたかのようなコメディであります。セリフが軽快でしかも考え尽かされているので、正直一つ一つしっかりと聞いていないとこの面白さはわからない。聞き逃すと次についていけないかのような何かがあります。それでいて、十分爆笑ものなのだから、この脚本づくりは僕らの恐らく想像できない苦労があるのだと思います。日本ではこういう劇団はありそうであまりないかなあ、、。アメリカではこういうのは多いような気がするけど、、。それだけ上質なんだろうなあ、実力劇団です。あっという間の80分、そのうちどれがどれなのか、最後の方では観客たち全員混乱していたのではなかろうか、、。作者の意図に嵌ったかのようでもある。秀作コメディです。THEROBCARLTON「THESTUBBORNS」(作・演出村角太洋)於ABCホール80点
人間の境界 (2023/ポーランド=仏=チェコ=ベルギー)(アニェシュカ・ホランド) 80点
人間として、人間であるならば、人間としての心があるならば、そして我々が人間でありたいと思うのであるならば、見なければならない映画である。いつもニュースに甘んじて深く考えなかった自分自身をとても恥ずかしく思う。映画としてももちろん優れているが、この作品を制作したホランドに強い人間性を感ず。人間の境界(2023/ポーランド=仏=チェコ=ベルギー)(アニェシュカ・ホランド)80点
雷龍楼の殺人(新名 智 著)(KADOKAWA 2024) 80点
かなりの物議を起こしたミステリーですが、でもこういうのは初めてで、このトリックはやはり鮮やかというしかないのではと思います。なぜかというと、しっかり僕が作者に嵌められたわけですから、、。文章も読みやすく、設定も(気づいていなければ)斬新。まあ、読後感からすると、それはないわなあ、という気も少しだけするが、あっと驚かせてくれたのだから、ミステリーとして僕は買います。出版されたものでこういうものは初めてではないでしょうか、、?えっそうでもない、、?ミステリーで初めてのトリックであれば、秀作と取り上げたい作品です。雷龍楼の殺人(新名智著)(KADOKAWA2024)80点
木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」(作・河竹黙阿弥、監修・木ノ下裕一 演出・杉原邦生)at県立芸術センター中ホール 90点
キノカブキ、5時間。大きなホールで、また若き役者たちの熱演でまさに疾風怒濤の熱き力がずぶずぶ体に入り込む体験をする。歌舞伎が苦手な僕でも十分面白かった。歌舞伎だから5時間は仕方がない。でも当初大丈夫かなあと疑問符がいっぱい。演劇では5時間は僕の最高記録だ。それが、途中休憩が2回あるからこれがいかにも歌舞伎風で、内容も娯楽いっぱいで難しくなく、それなりにストーリーも通俗的と言われればそうだが、なかなか人間考察的に深いものがある。いやあ、これはすごい演劇でした。観客の5時間もそうだが、役者たちのセリフの難しい言い回しも全然自然で、よく練習されてたなあと感心。終わってからの5,6回続く拍手喝采、なんと全席割れんばかりのスタンディングオベイション、すごい迫力でした。木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」(作・河竹黙阿弥、監修・木ノ下裕一演出・杉原邦生)at県立芸術センター中ホール90点
劇団 ユニットWOW!! 「意後見人狂騒曲 ガーディアン・ラプソディ」(作・高橋恵 演出・上田一軒) 於independed2nd 85点
高橋恵作、上田一軒演出と、関西一流の演劇です。あとは、俳優たちがどこまでできるか、、。といった不安はすぐ解消する。とにかく、娯楽的で、テレビドラマを見ているように面白く、登場人物も多彩であり、皆小さな悩みを抱えており、だからこそ欲望も強くなる。そんな彼らの行動を裏側から見ているような面白さ。たまらないです。山崎豊子の「女系家族」を思い浮かべるような面白い展開で、観客は2時間の時の流れを忘れ、一気にラストに向かう。これこそ演劇の醍醐味であろう。高橋恵の幅広の才能を再確認した秀作。劇団ユニットWOW!!「意後見人狂騒曲ガーディアン・ラプソディ」(作・高橋恵演出・上田一軒)於independed2nd85点
熊は、いない (2022/イラン)(ジャファール・パナヒ) 90点
これは面白い。冒頭の、カフェのウェイトレスに至るまでのあのセンスの良いつなぎのカットにうならせられる。と、そこからは現実と虚構がせめぎあい、ここからはもうパナヒの思うツボになる展開が待っていた。自分がイラン本国にいて、リモートでトルコにいる男女を撮影しているという設定にまず緊張感があります。まさにパナヒ本人そのものの心象状況がそこにあります。そしてもう一方イラン内での古い因習による悲劇がパナヒを追い詰める。彼は最後、その村を出ようとするが、急ブレーキをかけとどまる。そして暗転のラスト。なんとドラマチックなことよ。彼の心の叫び・決意が観客に鳴り響くシーンだ。映画というツールのすべてを認識しながら、今あるものだけで制作されたこの映画、閉塞感は当然だが、逆に私には映画の可能性を強く感じさせるものになっている。映...熊は、いない(2022/イラン)(ジャファール・パナヒ)90点
劇団黒猫「世界を盗む方法」(作・劇団黒猫 演出・佐藤トシオ) 於A&ホール 80点
特に目新しい題材ではないが、特色だったのは俳優たちが全編90分、とにかく走る。走り続ける。ランニングをするということは人生走り続けるということなのだろう。そんなことを感じながら劇を見る。話は他愛ないまるでお伽話のようなゲームっぽい学生演劇でどこか見たことのあるようなもので、若い集団だということがわかる。ハートスターを追いかけて、みんなが走り、集まってゆく、、。私のごひいきは川田氏であるが、客演にもかかわらず完全主役をなしている。役得がする設定で、いわゆる儲け役であります。でも全身全霊で役をこなすのが彼の性格。あれだけランニングしていても息は乱れておりませんでした。秋の快晴、若い集団から新たなエールをもらった感がしました。実に清々しい!劇団黒猫「世界を盗む方法」(作・劇団黒猫演出・佐藤トシオ)於A&ホール80点
スタンダード版画面、フィルム映画風粒子。時間は90分。映画のちょっと前の基本を地で行く秀作現る、とこんな印象の映画です。野球があまり得意でなく外野を守るタクヤ。だか彼の顔は喜びに満ちている。空から降る雪をこよなく愛し、顔に当てている。こんなポエムのようなシーンを多様化し、この映画は極端にセリフも少なく、全編詩情にあふれ、淡い印象派絵画のようでもある作り込みです。人生がそんなに流麗に流れることはしかしあり得ず、登場人物はみんな青春の傷を、痛みを負い、それでも生きてゆく。映画全体を一つの詩集のように組み立て、流れゆく人の想いを流麗に紡ぎだした永遠の青春映画、といった感がします。敢えて苦言すると、時代がだいぶ前だったかもしれないが、それでもコーチの禁断の愛がなぜ社会的に鞭打たれなければならなかったのかをこの映画...ぼくのお日さま(2023/日)(奥山大史)85点
憐れみの3章 (2024/英=米)(ヨルゴス・ランティモス) 80点
鬼才ランティモス作品。「哀れなるものたち」が凄かったので、見る前から肩肘立てて見てしまったが、今回は意外やお気楽風で、またオムニバスということもあり、楽しく鑑賞する。第1章。これがなかなか面白い。3章の中では際立って秀逸だ。カメラワークも整然としていてスタイリッシュ。人間の外側からだけではわからない内面の空虚さを描く。これは気に入った。第2章。事故であきらめかけていた愛する妻が帰還する。しかし、どうも妻ではないようだ、、。グロテスクなシーンが2か所あり、眼を瞑るが内臓をえぐったエマ・ストーンのまなざしから彼女が正真正銘の妻であったことを伺わせる。夫の狂気。第3章。何やら新興宗教が入ってきて我々も落ち着かない。ドタバタ感がお好きなんでしょうか、、。元夫・娘のまともさが狂気を感じてしまう逆裏現象。現代という時...憐れみの3章(2024/英=米)(ヨルゴス・ランティモス)80点
ぼくが生きてる、ふたつの世界 (2024/日)(呉美保) 80点
題名の意味はラスト近くで分かるようになっている。見ている間は題名の意味も考えず、思わずただ一人の青年の成長をつくねんと見つめている。ただただ両親、祖父母の熱い愛情で育てられた普通の少年。それが変わってしまうのが、、同級生の素朴な一言だった。そこから彼の二つの世界が始まるのだ。反抗期という難しい時期とも重なり彼は母親と遠ざかる。そこから結構(原作者には失礼だが)面白くなる。通常のベタな真面目人生にならないところがいい。塾に通うけれど、高校に落ちるは、それから何の目的もなく東京に出るは、パチンコ屋でバイト暮らし。そしてなぜか零細ルポ出版会社に職を得て、社会の末端に生きる人を取り上げる。そしてある時、偉大な母親の愛に育まれていたことを知る青年。電車の中で他の人間がいるのに全く気にせず、自然に自由に手話をする母親...ぼくが生きてる、ふたつの世界(2024/日)(呉美保)80点
喜劇結社バキュン!ズ「無職の皆さん、ついに反撃を開始する」(作・演出 スプーン曲げ子) 於 in→dependent theatre 2nd 85点
90分、コント風ギャグ連続の、風変りさが持ち味の面白さ強烈な劇団です。総勢、客演も含めて24名。その客演も一流どころ。客席はやはり満杯で、くすくす笑い爆笑が全編にたなびき渡る。初めて見る劇団なので、誰がこの劇団の人かもわからないまま見ていったが、まあ知ってる人もいたし、かなり均等に俳優陣を使ってる。大熊氏はちょっと自己中毒気味のお披露目だったが、でもお得意のマイムを入れ、楽しんでいるのがわかる。このギャグ風演劇で90分はきついはず。ダレることもなく最後まで通したのはこの劇団の実力の証明か。最後はしっかり無職にたどり着いていたもんね。演劇料金が安くさえ感じられる拾い物の演劇集団でした。ファンになって行く気持ちがわかる。この手も劇団は希少価値がある。喜劇結社バキュン!ズ「無職の皆さん、ついに反撃を開始する」(作・演出スプーン曲げ子)於in→dependenttheatre2nd85点
清流劇場「へカベ、海を渡る」(原作・エウリピデス、上演台本・田中孝弥、原作翻訳・丹下和彦 演出・田中孝弥) at一心寺シアター 80点
いつも通り前知識ないまま演劇を見る。数あるギリシャ悲劇群のうち、「トロイヤの女たち」は映画、演劇で見てきた。話としては題名通りヘカベを中心にした人間ドラマである。時代は2500年前の出来事、現代に生きる我々はそこから何を得ることができるか、という普遍的なテーマである。戦争に負ければ王妃といえども、奴隷または愛人に落とされる。それは戦争というもののまさに正体であろう。ギリシャ悲劇を見るという大げさな構えはこの劇には全く不要であろう。ミュージカル風で、ラストはあっと驚く復讐劇まで用意されていた。かなり娯楽風にしつらえている。これを観客の目線に合わせたとは言わないが、ギリシャ悲劇を分かりやすく表現したという意味では成功であろうと思う。なかなか面白い芝居だった。ところが、終演後の対談で台本と原作翻訳者との意見の相...清流劇場「へカベ、海を渡る」(原作・エウリピデス、上演台本・田中孝弥、原作翻訳・丹下和彦演出・田中孝弥)at一心寺シアター80点
黒沢清、本来の現代における不気味で意味不明な狂気というものに久々に挑戦した感があり納得です。快作です。印刷工場から転売屋へと主業を変える吉井。なるほどアブナイけれど現代的職業ではある。そんな菅田が意図しない狂気の暴力にさらされてゆくその過程、いやあ、面白かった。黒沢監督、初期、中期作品のざわざわする狂気を復活させたかのようだ。なぜそうなるのか、原因が全く不明のまま、観客が辿る恐怖の過程は、現代という時代を象徴させるに十分だ。何気なく取った態度、言葉を選んで言ったはずの会話が相手には180度違って解釈される現代社会。これはよく経験することでもある。そうだよなと僕も日常的によく感じる。そしてネットから派生するクラウド。決して想像上のことではないように思える。このラスト近くに延々と続くアクションはまあ目新しいと...Cloudクラウド(2024黒沢清)85点
『中之島デリバティブⅢ』(林慎一郎 作・演出)at大阪大学中之島芸術センター
いろんな想念がぶつかり合い混濁し、そして明らかになるこの時間のひとかけら。舞台に立つ100万年後からこの誰もいない地球にやってきた人たち、地球の過去からのメッセージ、大坂米相場デリバティブ、シンプルな公衆電話、そして現在と未来過去をつなぐ手旗信号、、。壮大な宇宙の渦に紛れながらただ一つ言えることは私が今ここにいるということ、在るということ、過去にあった中之島の島々・人々の営みを思い浮かべながら、この私ははるかかなた宇宙に向けて何を語ればいいのだろうか、、。参加型演劇の極意、清冽な気持ちになれる秀作です。『中之島デリバティブⅢ』(林慎一郎作・演出)at大阪大学中之島芸術センター
壱劇屋「トモダチガーデン」(作・演出 大熊隆太郎) 於ABCホール 80点
関西の小演劇でもこれほどスタイリッシュでセンスがよくカッコいい劇団を僕は知らない。最近見に行けなく久々だったので待ち遠しかったり、また以前と変わっていないかなど不安感もあった。ところが見てみると、やはりいつもの大熊演出。プリズム多様といい、今回はウエハウスのグリーン版で、ものすごいことを舞台上でしてしまう。もう息をのむ展開。みんなようやるわあ。あれは若くないとできないなあ、ものすごいものを見せつける。劇は、メルヘン調の童話風で、女の子ガーデンでの出来事、、。これが大熊だから、少々ホラーにもなる。どいうやって練習するのかな。セリフは覚えられるけれど、あのパフォーマンスは練習するしかない。運動神経の悪い人はどうするんだろうとか、ファンだからか、心配までしてしまう。いつもなかなか取れないチケットが今回簡単にいい...壱劇屋「トモダチガーデン」(作・演出大熊隆太郎)於ABCホール80点
ピッコロ劇団宇宙に缶詰」(作・肥田知浩 演出・サリngROCK) atピッコロ大ホール 85点
一人の男の人生を脳裏に焼き付けたデータがある惑星に着陸した。それは宇宙を超え、永遠に語り始める、、。なんて、壮大でまさしく宇宙ロマンであります。このストーリーを聞いただけで泣けてきます。子供時代の他愛ない出来事、女性とのロマンス、それらは何ら私たちの人生の綴りと変わらないのだ。彼が惑星で想い、語り始めていることはすなわち私たちの人生でもある。ということは、人は死んだからと、残された人の記憶から抜け落ちても、このように永遠に宇宙で生きていることが可能なんだ。ある青春がすがすがしく、そのまま幻灯機に生きているようだ。悲しい話なのかなと思っていたが、全然そんなことはない。死んでもなお、人はどこか宇宙で生きているなんて思えてきて、何か素敵な話であります。大道具からして、いつもの凝ったピッコロ風ではなく、そこにある...ピッコロ劇団宇宙に缶詰」(作・肥田知浩演出・サリngROCK)atピッコロ大ホール85点
虚空旅団「ゆうまぐれ、龍のひげ」(作・演出 高橋恵) atウイングフィールド 80点
ある町工場。大阪の疲れとともに工場も人間たちも疲れ始めている。屋上にある立派な庭園を老父母の要望でエレベータ造りにするため大改造することになる。今までの手作りの歴史、思い出、すべてが消えてゆく、、。高橋はある工場を一つのモチーフに、人間の生きてゆく営み、その喜び、苦しみ、悲しみを主に兄、妹の回想をもとに彼らの生きてきた営みを切り取ってゆく。それらは観客の心と重なって融合し、舞台の終わり近くになったとき、自分の心が暖かく、そして濡れていることに気づく。人は毎日を生きているが、死ぬことで生きることを確認しているのだという。死んでいった先人たちを想いながら、自分自身の時間が流れていることも確認する。妹役の徳田はいつも通り、的確な演技。陰影のあるすばらしい演技でした。南河内の福重はいつもとは全く違う人間像を出して...虚空旅団「ゆうまぐれ、龍のひげ」(作・演出高橋恵)atウイングフィールド80点
意外と素直な少女であることよ。その清らかさ故、、現実に立ち向かえられなかったのか、と残念至極の気持ちが残滓となる。まずボスキャラ母鬼の能力・臭気たるや度を過ぎていてホラーを超えている。なぜ少女はこの世に生きていていい存在ではなり得ぬ母鬼を倒せなかったのか?これに尽きる。精神的属性を担う多々羅の非人間的行為、実際は仕事のために人を利用する桐野の存在も彼女の生き方に影響はあっただろうが、でそれにしても自死は何の解決にもならない。意味がない。この映画にとって、これが一番弱い部分となってしまっている。それでも生きていくそのほとばしりを僕たちは画面から取り出したい。また、そうでなければならないのだ、と思う。あんのこと(2023/日)(入江悠)80点
劇団ちゃうかちゃわん「タイムマシンの使い方」(作・演出 海泥波波美) at芸術創造館 75点
学生演劇では珍しい自前の脚本で舞台を仕立てる劇団である。若い人の脳裏にあるものを中心に劇は創造されるんだろうが、今回はだらだらしたある夏のSF研究部室から起こる空想劇を仕立て、見事にオモシロ演劇になっている。その自由さがいい。のびのびと広がる若い人の特権のような青い空。そのまた奥を行く飛行機雲。そんな感じかな。大道具仕立ても立派。まず舞台を見て目を見張るほど。ほとんどの演劇部員が出演しているのだろう、大勢の役者陣。一人一人に配役を与え、その本に心温まる思いが伝わっている。劇は最後、リフレインを使用し、デジャブのテクを使い、ジ・エンド。あの芸術創造館の大きな舞台が狭く見えるほど大勢のごった煮のような役者たちが舞台狭しとダンスをする。楽しい。若い人を見ているだけでこちらもエネルギーをもらう。いい休日だった。劇団ちゃうかちゃわん「タイムマシンの使い方」(作・演出海泥波波美)at芸術創造館75点
現代人においても心にあるものをそのまま言葉にできる人は少ないのではないか。私もその一人だ。昭和という隠れ蓑でそんなものかと無理に思わせていたが、やはり人間は、特に女性は「言ってくれないと全くわからない」らしい。そんな普通のことが実際はどんどん悲劇と連鎖してゆく様を見て、呆然とする。ラストは号泣。大賀はまさにそこに私が存在するかのような演技で、映画愛さえ感じてしまうほど。生きちゃった(2020/日)(石井裕也)85点
にわか名探偵 ワトソン力(大山 誠一郎 (著) (2024 光文社) 70点
愛すべきそして大好きな大山誠一郎の新作です。あのまたワトソン力というユニークで斬新な武器をネタに本格ミステリーを綴る。これはファンならではのお愉しみ時間であります。でも1作目よりずいぶんと軽妙過ぎて、さらに読みやす過ぎてあっというかに読んでしまう。もったいないというか、何か物足りない気もしないではない。でも考えたらワトソン力って、作者にとって都合がよすぎるよね。自分の解決編をその場にいる5,6人にしゃべらせるだけだから、、。とってもやはり面白かったのだ。それは事実だ。大山の実力だったらもっとすごい本格ものを書いてくれるに違いない、と要望を込めて次作に期す。にわか名探偵ワトソン力(大山誠一郎(著)(2024光文社)70点
壁の花団「代数学」(作・演出 水沼 健) 於CUBE02 80点
困惑する題名。難しそうな気配。翻訳劇だろうなあと思ってみてみると、雰囲気はまさにそうで、けれどとても面白く作ってある。戦争という極限にいる者たちの平和と不安と時間のリフレイン。これはなかなかすごい!衣装を風のたなびきに任せた演技が印象に残る。このシーンが中盤と終盤に2度あり、閉塞感の永遠性が示される。面白い。感動的。人間の営みの悲しさをよく表していた。俳優陣は匿名劇団のお二人がやはりセリフの言い回し、声量ともいうことなしで素敵だ。若い男性陣のお二人も清涼感があふれ、カッコいい。中年に見えるお二人もさすがの演技力。訴求力が優れている。質の高い演劇を平日の昼時間に見る。そのぜいたくさ。たまらない。壁の花団「代数学」(作・演出水沼健)於CUBE0280点
復讐の十字架(2017英 ルドウィグ・シャマジアン・ポール・シャマジアン) 75点
題名の十字架を象徴する真面目作。O・ブルームが自分の演技力に新たな挑戦を試みた問題作ともいえる。題名の通り、十字架が基本テーマです。信仰とは何か、人間と信仰との距離、関わり合い、生きることと信仰すること、それらを寓話のような事件から解きほどこそうとしているように思えます。ブルームが最後にたどり着いた罪人を赦すということ、それはすなわち赦された方は神との対峙をせざるを得なくなることを意味する。神父は十字架にキスをし、神服を脱ぎ、清め、自分の身を焼き尽くす。自分が被害者になろうとも、相手をどう思うかのではなく、自分に向き合うことが肝要なのだというセリフがあったが、まさにそうなのだろう。誰に何かをされたにせよ、問題なのは自分自身の心の灯り(アプローチ)をきっちりと定めるということなのだ。キリスト教が生まれ育って...復讐の十字架(2017英ルドウィグ・シャマジアン・ポール・シャマジアン)75点
韓流の流れをくむ本格的ハートフル恋愛映画です。隣の部屋との壁越しの愛だから、もちろん純愛です。この手の映画はもはや韓国でないと作れないのではないか、と思われるほど素敵だ。映像を見てるだけで即感情移入ができるのだ。日本映画だったら、こうはいかない。嘘っぽくなり、見られない。そういう純粋で不思議なものを韓流は持っている。でも、昔はこういう韓流を見、感動し、涙した吾輩も、そうはならない。もう心も枯れているのかなあ、、。そのことに驚きもし、納得もし、唇をかむ。映画は、館内だけがタイムスポットのようにロマンスと清々しさで韓流が充満している。正統派のラブコメであります。なのに、その流れに吾輩が入れず、もがき苦しんでいる。ほんと、どないしょう、、。壁越しの彼女(2023/韓国)(イ・ウチョル)70点
心の内側に流れる澱んでいるけれども、かすかにたなびくその響き、、。誰もが抱える心の襞を包み隠さず現代人に投げかけた問題作だと思います。友人であれ、親子であれ、夫婦もしくは恋人たちであれ、本当のことは言えないものなのです。言葉に出たそれが嘘かどうかは明確ではないけれども、、、。誰にもある密やかに流れる心のうごめきを映像化した繊細な秀作だと思いますこの作品、冒頭の2,3分でぐいぐい画面に入り込みました。映像に力があります。今泉力哉、評価ぐんぐん上げました。アンダーカレント(2023/日)(今泉力哉)90点
HUNT ハント (2022/韓国)(イ・ジョンジェ) 70点
北朝鮮とのスリリングな闘いをエンタメ風に何でもあり風にやってのけたイ・ジョンジェ監督作品です。こんなのを作ってみたかったんだろうなあ、アクション部分も水準なのでどうなるかわからない展開も面白く2時間とても楽しく見られました。ラストもなかなか冴えてます。HUNTハント(2022/韓国)(イ・ジョンジェ)70点
演劇ユニット衝空観「雨ざらし満月」(作・演出 銭山伊織) 於indeependent1st 75点
太陽ではなく月が全体のモチーフとなっているのがみそです。登場人物はみんな繊細な神経を持った優しい人たち。どこにでもあるような、どこにでもいるような人たちが繰り広げるストーリーなんだが、逆にこういう設定の演劇が珍しいのか、本質の展開に入っていくのに時間がかかった。中盤からは彼らの気持ちは手に取るようにわかるが、でも自分の気持ちがそこまで浸透できない何かを感じてしまっている。なぜだかわからない。小道具なんかも省略しているけど、1stだったらもっと視覚的にも導入すべきだったのではと思ってしまう。とはいえ、いい劇でした。人の心を繊細にシビアに描いてゆくそのテーマ性は好感が持てる。演劇ユニット衝空観「雨ざらし満月」(作・演出銭山伊織)於indeependent1st75点
Masui Studio「アビゲイルのパーティ―」(作 マイク・リー・演出 桝井智英) at聖天通劇場 85点
小さな劇場公演だが、中身はどっしり演劇集が詰めっている秀作劇です。夫婦という仮面の中に息づく人間のもろもろの本性を暴いてゆくその手法はやはりアメリカ、イギリスの方が優れていますね。この種の劇は映画化されているようで、この作品も「地獄のパーティ」として上演されたらしいが見逃している。古くは「ヴァージニアウルフなんか怖くない」など、作家は違えど、名作もあった。この作品のマイク・リーといえばイギリスの映画作家で超有名な監督がいるが同一人物だろうか、、。さてこの劇、小道具を極力排しているので俳優陣はパントマイムを強制されているが、結構その仕草等が面白く、なかなか魅力を持たらしていた。でも何より夫婦の形態が人間を逆に阻害させているというテー(?)は夫婦生活云十年の吾輩が日常的に経験しているもので、まさに辛酸を舐める...MasuiStudio「アビゲイルのパーティ―」(作マイク・リー・演出桝井智英)at聖天通劇場85点
劇団准教授「ラ・メール」(作・藤井美保 演出・劇団准教授) 於インディペンディド1st 70点
シャンソンが全編流れる。何かノスタルジア多きバーでの出来事。登場人物が13人と多く、観客としてはそれぞれが消化できない感じもする。エピソードの積み重ね風演劇という設定だが、狙いはいいと思う。でも90分位これだけの話を入れようとしたら、ちょっと詰め込み過ぎ感がないでもない。ラスト近くになってすべての真実がわかる展開だが、なるほどそうであるなら、ランタイムをもっと長くするか、それか敢えて何人かの話をカットしてもよかったのではないか、なんて思えてくる。でもあの火災のシーンは迫力あったし、酒屋さんの兄ちゃんは泣かせる。いい芝居でした。劇団准教授「ラ・メール」(作・藤井美保演出・劇団准教授)於インディペンディド1st70点
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 (2023/日) (成田洋一) 80点
終戦記念日にこの映画を見る。たまたま偶然だ。けれどとても思い入れが入ってくるいい映画だった。戦後79年。もう戦争を覚えている人はかなり少ない。いやな思いをしてきた人達も戦争を話さない。ましてや戦争にかかわった人たちは尚更だろう。どんどん日本人の記憶から戦争といった実態が薄まり、遠のいてゆく。そういう意味で、こういう映画を若い人たちが見ることは、どういう形でさえ有意義だと思う。特攻隊員の様々な素性、年齢などから彼らが純粋に国を思い、家族を想い、恋人を思ひ、狂わしい孤独を抱えながら死んでいったことを僕たちは知らねばならない。若い人気俳優が出演していることはそういう意味で吸引材料になる。いいことなのだ。福原遥は現代人であり、彼女がタイムスリップで放つ言葉は、すなわち我々戦争を知らない人間たちの本音の言葉である。...あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。(2023/日)(成田洋一)80点
誘惑 Vernissage( パッピ・コルシカト)(2022 伊) 70点
イタリアのホラーでもサスペンスでもない普通の映画です。人の人生がふとしたことでどんどん変容していくドラマですが、意外と見られるので退屈はしない。俳優陣も美しくさすがイタリア映画ですぞ。クローズアップ多様でそれでうまく逃げてる感じもするが、悪くはない。カロリーナ・サーラが昔のジーン・セバーグ風で記憶にとどめる。誘惑Vernissage(パッピ・コルシカト)(2022伊)70点
韓国を代表する二人の俳優がタッグマッチということで楽しく観戦したが、彼らにしてもどうもこの演出では本来の目指すところまでにはいきつかずのあり。とても面白い設定だけに残念ともいえる。スピード感不足は否めず。ただ、二人を楽しく見るという視点であればそれなりに、、。、2階の悪党(2010/韓国)(ソン・ジェゴン)60点
セールス・ガールの考現学 (2020/モンゴル)(センゲドルジ・ジャンチブドルジ) 75点
なんと珍しいモンゴル映画。かといって、大平原なんて出てきません。モンゴルでもここまで文明開化したかと戸惑うほどの都会風景が点在する。よくある国柄の文化解説表現もありません。ゆったりとした演出・映像に運転されたある女性の成長話です。モンゴル国の余裕さえ感じる楽しい映画です。セールス・ガールの考現学(2020/モンゴル)(センゲドルジ・ジャンチブドルジ)75点
つながりません スクリプター事件File(2020 KADOKAWA)(長岡弘樹 著) 80点
映画業界内輪ものとしてスクリプターという特殊な仕事を焦点に置いたミステリー。なかなか斬新で面白かった。映画が好きな僕は十分映画製作の裏話を知る思いでページを繰るのが早くなる。なるほどこういう素材は長岡ミステリーにも合うなあというのが第一印象。いつもの彼らしい強引なところはところどころあれど、まあそこが彼の面白いところでもあるので気にはならない。しかし、映画業界があんなものだと思う人はいないと思うけれど、そこのところは割り引いてください。ということで、あっという間に読み終えた面白ミステリーでした。つながりませんスクリプター事件File(2020KADOKAWA)(長岡弘樹著)80点
岸辺露伴 ルーヴルへ行く (2023/日)(渡辺一貴) 65点
ルーブルが好きで、今年はいけないぞと、せめて映画でと思いを寄せてみた映画です。まあ、モナリザは見られたけどあとはそれほど名画鑑賞にはならず、、そして肝心の映画の方はと振り返るとそれなりの雰囲気もあり映像もきれいですが、ハイこんなものでしょうな。岸辺露伴ルーヴルへ行く(2023/日)(渡辺一貴)65点
ピッコロ劇団「さらっていってよピーターパン」(作・別役 実 演出・眞山直則) atピッコロシアター 80点
ピーターパンのお話。だが、作が別役実だからまともなわけがないと思って、鑑賞する。そしてそれは当たる。かなりあちこちで別役の一流エスプリが散らべられているのだが、さすがこれは子供向けのミュージカル、それはそれほど目立たず、劇は進行する。でも、だって、ピーターパンは少年ではなく、初老のおじさんなんですぞ。もうそれだけで、別役の意図がわかるというもの。全般において楽しかったけれど、やはり生きてゆくことの切なさも共に感じた演劇でした。大道具など、すこぶる立派。見ているだけで十分目を見張るほどだ。16人の演劇人、さすがピッコロ劇団、ファミリー劇場と銘打って、子どもたちを楽しませようとしているが、一人一人の演技には手抜かりはない。歌も踊りもそしてセリフ回しも完璧の出来。大人でも十分楽しめる劇となっていました。ピッコロ劇団「さらっていってよピーターパン」(作・別役実演出・眞山直則)atピッコロシアター80点
デスパレート・ラン (2023/米)(フィリップ・ノイス) 75点
何気なく見た映画。ナオミ・ワッツまだまだきれいだなあ、なんてそんなファーストシーンから、走る走るワッツの心根が画面を超えて素顔でこちらに飛び込んでくる。完全娯楽作品だが、そこは米映画きれいな紅葉等映像が凝っているので退屈しない。お話は脚本のうまみもあり、二転三転、見せます。カップルでどうぞ。デスパレート・ラン(2023/米)(フィリップ・ノイス)75点
aftersun アフターサン (2022/英=米)(シャーロット・ウェルズ) 80点
見ている間は親子の普通のバカンスの話かと思っていたら、、途中でヤングたちから、親子ではなく兄妹かと告げられてから、この映画が深いさまよい、漂う夢幻の世界に入っていることに気づく。つらそうな男の内面を推し量るに、どんどん深い暗い海の底に入っていくようなこの映画、それでも周囲の世界は普通で、明るいプール面を写すように時間は過ぎてゆく。その断絶感と孤独。11歳の思い出。恐らくそれが父親との最後の旅行であり、最後の時間であったろう。映画を見ている間はそれほどでもないが、見終わってから徐々にこの映画が僕に追いかけてくる。まるでいい文学を味わったように、、。こういう作品は珍しいです。見終わってもう2,3日たつのに読後感がますます募ってくる。いい映画です。aftersunアフターサン(2022/英=米)(シャーロット・ウェルズ)80点
浪花グランドロマン「ヒロッパ」(作・演出 浦部 蒼士) atウイングフィールド 75点
ウイングフィールドという小さな劇場だが、さすがグランドロマン、この劇場を使い切っていて、90分あっという間だった。演劇論に至る結構まじめな試みをこの劇団一流の昭和時代のつぶやき風をぶつぶつ吹き回し、ウフフと笑わせる仕組み。ただ、そんなエスプリも、考えていたら劇はさっさと先を進んでいるので、置いとけぼりに遭ってしまう。テーマは演劇の8・1/2だと思うんだが、途中で教育現場が入ってきたり私は整理できずにそのままジ・エンドとなってしまいました。詰め込みすぎなのか、私の脳裏が空転しているのか、恐らく後者なんだろうけど、あれほどあっけらかんと明るい面白さを見せつけてくれているのに結構むずい演劇でした。浦部氏は曲者だのう。浪花グランドロマン「ヒロッパ」(作・演出浦部蒼士)atウイングフィールド75点
THE MOON (2023/韓国)(キム・ヨンファ) 80点
韓国映画で宇宙ものって初めてで、ちょっとどこまでできるんだろうと怪訝めで鑑賞。まあ、ハリウッドと比べては失礼だが、意外とよくできている。感心する。韓国映画だからか、宇宙映像とともに人間ドラマを十分活用し、かなりの感動作に仕立てた力量はおそらく日本映画ではまねできないものだろうなあと思う。特にラストのラストは思いがけず、大泣きする。まだまだ僕も若いね。恥ずかしい限り。ということで、拾い物の映画でした。映画では、同時期に上映しているハリウッドのフェイク宇宙物「フライミーツーザムーン」はどうなんでしょうね。見て力が沸いて来るのはおそらくこちらの方ではないでしょうか、、。THEMOON(2023/韓国)(キム・ヨンファ)80点
でめきん蕗のしたのクル(作/演出 葉兜ハルカ)at布施PEベース 75点
若い劇団。総勢11人ほどで、小さな舞台を大きく見せるテーマがいいね。話は、なんとなく途中で分かってしまうが、でも若い人たちが昔物語よろしく日本の伝統の妖怪たちや妖精を現代によみがえらせたのがうれしい。2時間近い劇だが、みんなセリフにとちりもなく、練習十分。主人公の少年も途中までは女性と気づかないほど少年してた。みんなうまいね。敢えて言えば、あの豪華絢爛な妖怪たち、ダンスでもあればなお良かったかなあ。でも舞台が狭いしね、仕方ないか。いやあ、外を出れば完全猛暑。でも会場は冷房が利いていて、そのままマクドに行くまで熱帯地獄で、時間がかかったけど、快適。いい気分で休日を過ごせました。でめきん蕗のしたのクル(作/演出葉兜ハルカ)at布施PEベース75点
こういう本は初めてで、驚く。よく映画で、終わった後に座席に残った人にだけ映像を見せるという作品もたまにあるが、だいたいファンサービスのようなものが多い。ところがこの短編5編の最後のQRコードにはどんでん返しがあったり、隠された真相がしっかりと潜んでいるのである。残念なのは音楽がうるさかったり、人の音声が聞こえづらかったり、そして最後なんかは映像をずっと見ていないと、何のことかわからない仕掛けになっていることである。これって、アンフェアではないか、とも思う。だって、結局2度読みしてしまう人もいるのかもしれないし、QRコードを見ても何のことだかわからない人もいるかもしれない。同じくお金を出してこの本を買った読者に不公平・失礼ではないか、と思うのは僕だけだろうか、、。でも、それを割り引いても面白かった。新たな道...きこえる(2023/講談社)(道尾秀介著)85点
教授とわたし、そして映画 (2010/韓国)(ホン・サンス) 70点
またまたサンスの映画。彼の映画は5分見るとすぐわかる。映像、女優、そして内容のない会話の連続。けれどもそこにささやかなつましい人生の事実もある。許せない映画なのだ。相変わらず女優は美しい。教授とわたし、そして映画(2010/韓国)(ホン・サンス)70点
線の波紋 (小学館文庫 2012) (長岡 弘樹 著) 85点
初期の作品らしいが、読んでいなかったことに気づく。長岡の作品はほとんど読んでいる。驚くことに、最近の作品より念入りに、そして情感がより強く流れていることに気づく。彼の作品の本流をこの作品でみたように思える。それほど秀作ぞろいの短編集であります。そしてその短編はそれっぞれ関係しており、一つの長編作品を成している構成も素敵でいい。最近、SFもどきのミステリーがこの世界を闊歩しているから、こんな人間の本質を探っていく小説は貴重でであり、清流に近いものを感じます。線の波紋(小学館文庫2012)(長岡弘樹著)85点
大阪放送劇団「その受話器はロバの耳」(作/土田 英生 演出/増田 久美子) 於A&Hホール 80点
土田氏の作品だから見ておこうと見た演劇でした。とても卑近な話で、また会社勤めをしたことのある人ならだれもが悩む事柄を、実に等身大の距離感覚を持って演じられました。登場人物がみんなキラキラ輝いており(それなりにみんな影を持ってはいるが)、2時間強の劇はアッという間に終わってしまう。いい小説を読んだ後に残る読後感もさわやか。素晴らしい演劇でした。前半からちょっといい加減人間めいた役柄だった人たちが、最後では清々しく、とても心に残りました。いいホンですね。会場はちょっと遠かったけれど、全然気にならなかったです。大阪放送劇団「その受話器はロバの耳」(作/土田英生演出/増田久美子)於A&Hホール80点
メイ・ディセンバー ゆれる真実 (2023/米) (トッド・ヘインズ) 80点
アメリカでは有名な事件らしいが、それをベースに人間の本質を探った作品です。2大女優の演技激突とでも言いたげな作品構成で、実に演技的にも見ごたえがありました。どうしても女とはなんと男とは違う生き物なんだろうと思ってしまいます。この映画を見て女性不振に陥らないように、、。メイ・ディセンバーゆれる真実(2023/米)(トッド・ヘインズ)80点
ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~ (2024 三上 延 (著)メディアワークス文庫) 80点
うーん、今回は主要軸となる女性たちの歴代話が満載で、ファンとしてはとても楽しく読むことができました。この一冊でビブリアの本道がかなり見えてきた感じです。なにより登場人物が歴代通り描いているから、とてもファンにはうれしい企画です。そして内容も感動編であり、珍しく涙腺を刺激させられました。いろんな古本も今まで出てきたけど、やはり夏目漱石のような超名作は今でも再読したい気にさせられました。また次作もあるようでとても楽しみにしております。ビブリア古書堂の事件手帖IV~扉子たちと継がれる道~(2024三上延(著)メディアワークス文庫)80点
サタデー・フィクション (2019/中国)(ロウ・イエ) 70点
「シャドウプレイ」のロウ・イエ&久々のコン・リー。もうそれだけでワクワクする。冒頭からの茫漠とした入りからの前半はカメラが主役だと言いたげの揺れるカメラ。見せる。これがロウ・イエの魅力。いいネ。コン・リーもまだまだ美貌。けれど、後半、映画としてはいかにも凡庸臭い。せっかくの舞台設定も生きてない。サタデー・フィクション(2019/中国)(ロウ・イエ)70点
人物の描き方に人間の陰影を鋭く書き込み安心できる。病を持って亡くなる刑事、後を引き継ぐ刑事二人、そして場面ごとそれぞれ登場する関係者たち、うっすら犯人はぼんやりするんだけど、どうも真相につながらないミステリーのわくわく感。ページを繰るのが惜しいほど面白い。それらをあっという間に結集した最後の2,30ページは予想もつかない内容でした。でも伏線を全く出さないこのミステリーは本格ものではないのかもしれませんね。最後が何か急いでいるようで少々残念。でも面白かった。この作家は人間が書けてるね。ほかの作品も読んでみよう。十字路(五十嵐貴久著)(双葉社2024)80点
劇団ホリック「廻り巡って蝶を飛ばす」(作・演出 深川大悟) atアトリエS-pace 85点
旗揚げ公演でここまで完成度が高いとまず驚きます。設定は少々異常だが、不気味で哀しい現代をしっかりと描いていると思う。時間も90分越え。立派だねえ。頼もしい劇団が誕生した瞬間をしかと見た。暗幕が始まる寸前に使用した小道具をすべて大切に堀炬燵のような空間に放り込む。これが面白かった。最後は主人公までも同じく空間に放り込む。これは何を意味するのか不明だが、今まで見てきた劇では皆無の手法だ。次作がもう楽しみになってきた。秀作劇です。劇団ホリック「廻り巡って蝶を飛ばす」(作・演出深川大悟)atアトリエS-pace85点
学窓座「てのひらのさかな」(作・中村ケンシ 演出・一湊レナ) at関大凜風館 75点
幼稚園の大きなイベントが終わり、後片付けをしている先生たち。何気ない会話がとても高尚で、私には天から聞こえる啓示にも思えるほど、ひとつづつセリフを噛みしめ聞いている。幼児とはいえ、相手をよく見ており、知っている。途中、バタバタする小事件が続くが、全体として、この劇は一つのポエムだと思えてきた。詩情が流れているのだ。美しい。けれどところどころ怖い。いい劇だ。敢えて言えば、どこかに笑いもあればなお結構。さて、いい脚本だが、俳優陣はちと発声等でまだまだかな。こればかりは経験と練習。これからも頑張ってください。こんな秀作戯曲を演じようとするその気力に拍手。学窓座「てのひらのさかな」(作・中村ケンシ演出・一湊レナ)at関大凜風館75点
映画館に新作がかかればいつも見てしまうサンス作品。いつもように自然と会話に入り、食事をし、そして男と女は別れる。その繰り返し。今回はでもいつもより手抜きかなあ、、。ある映画監督と女性4人との会話が主である。そのうち一人は自分の娘で、これが最初と最後に登場する。ラストの彼女の出番はおそらく見ている観客は、あっと驚く仕掛けになっている。そしていつも通りニヤリとして映画館を出るだろう。どうなんだろうなあ、こういう映画作りはある映画監督の白昼夢と言ってしまえば、容易いものになってしまう。しかし、タイム軸を交錯させたテクニシャルな作品と言ってしまえば、秀作になってくる。ほとんど彼の作品を見続けている吾輩はいつも彼を買っては来たが、本作はどうも、ちょっと追従できん感じがしますねえ。娘がこのビルで仕事をしているシーンが...WALKUP(2022/韓国)(ホン・サンス)70点
荒井ならではの濃密な人間模様。雨が降り続き、モノが腐っていくそのさまを映像でずしんと極めてゆく。ずいぶん文学的な題材であることよ。荒井の脚本、演出が冴える。こんなのめり方、好きだなあ。まさに荒井ワールド。もとはといえば、タンパク質から誕生した人間の生命も、文明を過ぎて腐敗していき、宇宙の塵と成り果てる。原作ありきだが、荒井の閉塞感がぶちぎれて、映像の果てまで旅しているようだった。好きな作品です。花腐し(2023/日)(荒井晴彦)85点
密室法典 (五十嵐 律人 著) (KADOKAWA 2024)) 80点
ミステリー好きの僕にたまらない法律を駆使した本格短編集です。登場人物が若すぎるので(僕からみて)少々戸惑うが、でも読み過ぎることができた。思ったよりくだけた短編集で、読みやすく面白い。それで終わりかなと思ったら、このエピローグ、なんと、次回作の期待をぷんぷん匂わせる展開です。いやあ、待てません。困った。密室法典(五十嵐律人著)(KADOKAWA2024))80点
よく知りもしないくせに (2009/韓国)(ホン・サンス) 85点
未見だったサンス作品。珍しく2時間を超える長丁場。でもいつものように全然退屈しない。ニタニタ笑いながら映画を見終える。その至福さって言ったらたまらない。これだからサンス映画はやめられない。日本文学で私小説というジャンルがあるけれど(日本だけらしい)、これを地で行ってるのがサンスだと思う。小説を読むと眠くもなるが、サンス映画だけはその逆。らんらんと目が輝いてくる。これがサンスの魅力だと思う。「どうして自分のことしか描かないの?」といった質問を登場人物に出させる。その答は「自分のことしか分からないから」。うーん、なんと正直。明快。素直。おごりは全くない。映画はいつも通り、「どうしてこうなるの?」且つ、主人公(要するにサンス)の周りの一見フツーの人たちの意外な異様さ(?)を見せつける。だからこそ面白い。世にいう...よく知りもしないくせに(2009/韓国)(ホン・サンス)85点
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不条理ミステリーという触れ込みは全然ちんぷんかんぷんだったけど、7人の俳優たちの若い世代の想いは十分伝わったと思う。2時間全編のシュプレイコール絶叫、ダンシング、途中で水飲みタイム、さらに台本ありの朗読があったりなど、面白い展開だったが、最後には収束させた終わりで、なかなかのもの。彼ら、かなり体力を消耗したのではなかったか。一日2本はきつそう。演劇集団エスキス「遠くの霧に紛れて」(作・演出嵩見凌)at表現者工房80点
う~ん、感心する。老醜もこれほど生々しいと清々しいと思えます。2時間弱、ずっと映像に目入ってしまう。人生、夢、幻、生と死のはざまにたゆとう我なる時間の怒涛。早くも今年のベストかなと思う。長塚はまさに全部吐き出し人生を刻み込む。吉田は「桐島、~」以来の傑作至れり。敵(2025/日)(吉田大八)90点
なぜか「敵」と同じく珍しくミニシアター館をにぎわせている作品。気になり見ることにする。若い方が多い、これも珍しい。そしてホラー。あまり見ない種類の映画だ。本編が経って、ホラーなれどあまり怖くなし。これがよかったかなあ。これ見よがしの怖さを売るホラーでないところが心地よし。この内容で最後まで引きつける演出、展開は褒められてよし。俳優陣も地味目が多く、新鮮であります。ラストもなかなか凝っていて、加点。新しいホラーと思う。ミッシング・チャイルド・ビデオテープ(2025近藤亮太)75点
読みやすく一気読みでした。スタイルは冒頭に出てくるように映画「グランド・ホテル」形式。だからか、一つ一つの話に人生の芳香が感じられる。最後まで読み切った感想としては、ミステリーではないということとと、実によくできた小説だが、ちょっと良すぎ。いい人たちが出過ぎ。でもこの世知辛い世の中、たまにはこんな現代の桃源郷もいいよね。いい時間をくれました。ヴィクトリアン・ホテル(2021実業之日本社)80点
深沢氏痛快な若者に対してのサジェッション。とにかく、明瞭簡単、ただぼ~~と生きてりゃいいのさ、というお強い言葉に救われる。そもそも動物なんて悩まずただただ生きているのに、人間だけが何で悩む必要があるのか、、、。そこなんだよな。「自分とは何か」から始まる哲学志向もこの深沢につかまると、いかに人類は無駄なことに時間を費やしてきたことか、となる。この深沢の人間滅病教、大好きです。人間滅亡的人生案内(深沢七郎(著))(2013河出書房新社)90点
ホ・ジノ監督の最新作。最近は力不足の映画が多いと思っていたが、取り戻した感あり。内容的に、誰もが自分に降りかかったら、どうしますか?というテーマを緊密に掘り下げていて、ラストまで一気でした。夫婦2組の俳優演技がうまく、とても印象に残る。でも最後の思いがけないシーンは成瀬巳喜男の「女の中にいる他人」で既に使っている。でもこうなるしかないよな、、。面白い作品でした。満ち足りた家族(2024/韓国)(ホ・ジノ)80点
今年は映画、96本だから、まあ良く見たと言える年でした。相変わらず自分の心に触れる映画しか評価しない僕は通常の映画評からはずいぶんブレていると思う。洋画1位哀れなるものたち(ヨルゴス・ランティモス)2位ヴェルクマイスター・ハーモニー(タル・ベーラ)3位熊は、いない(ジャファール・パナヒ)4位青いカフタンの仕立て屋(マリヤム・トゥザニ)5位憐れみの3章(ヨルゴス・ランティモス)日本映画1位悪は存在しない(濱口竜介)2位生きちゃった(石井裕也)3位ぼくのお日さま(奥山大史)4位市子(戸田彬弘)5位コットンテール(パトリック・ディキンソン)2024年映画ベストテン
好きな作家だが、でもここまでワクワクしながらページを繰る作品も最近では珍しい。ミステリーだが、本格ものではないし、犯人探しでもないのだが、文字の間から五十嵐の躍動感があふれているのがわかる。ミステリーで一気感が強いのはそれほど秀作だとお言うことだろう。最初はシリーズが続くと思った妹刑事があっけなく亡くなってしまうのがちょっとした驚きだったが、でもその後登場人物の設定も面白く、五十嵐の才能を十分知ることのできる快作でした。年の終わりがこの作品だったことは2024年が良き年だったということだ。サイレントクライシス(五十嵐貴久(著))(2023PHP研究所)85点
私のような随分と無駄に歳月を過ごして来た人間には、主人公から見据えたまなざし、音、声、人の心の襞はずしんと容易にそのまま自分に入ってくる。見出して15分ほどで私はリリー・フランキーと同化してしまった、、。夫婦愛、家族愛をテーマにした映画なんだろうけど、恐らくその底辺に流れているのは人間のささやかな営み。人は生まれては死ぬ。そのリフレインの中に、それぞれの人の想いを巡らせ、喜び、悲しみ、驚き、諦観を知る。形式はさすらうロードムービーなのだが、この作品はバックグラウンドにシューベルトのまさに「冬の旅」のような詩情をたたえている。セリフ自体は極端に少ないが、だからこそ主人公、すなわち我々にうごめく心の営みが照射される。いい映画だったのでしばらくその余韻に浸っている私だ。コットンテール(2024/日=英)(パトリック・ディキンソン)85点
確かにこういうタイムスリップものはそもそも面白い。映像も展開もよく考えられている。途中だれてくるところで、あれを使うんですね。分かる気もするが、、でも、あれは勝新太郎が使用して倫理的にもご法度ではなかったのかなあ、、。アメリカでも銃使用事件があったし、映画界で、これを題材にするとはちょっと恐々。でもだからこそ最後の文字通り真剣勝負が燃えてくるんだろうが、ね。映画の原点の面白さを現代において追求した作品といえると思います。観客を心を真芯でとらえた映画です。侍タイムスリッパー(2024/日)(安田淳一)70点
何気ない普通の男女の愛とその別れ。さりげないその瞬間を描いていてさりげなく素敵だ。こんな映画感覚はやはり日本では無理かな。西洋映画風でもある。拾い物の映画です。もしかしたら私たちは別れたかもしれない(2023/韓国)
映画の流れとしては水準を行っていると思う。ある疑問から、謎が深まり、追求してゆく人間も警察の内部(警官ではない)というミステリーではすれすれのダメダメ環境だが、でもなかなか面白い。だが、途中で、真犯人があぶり出され、え、しかしなあと思いつつ、やはりそうか、でもこれはちょっとやり過ぎ、といった感想が伴う。面白い作品にしようとすれば、もはやこういった展開しかないのか、というところにミステリーの限界があるのかなあ、、。とは言え、ミステリー好きには十分楽しめました作品でした。朽ちないサクラ(2024/日)(原廣利)80点
6年ぶり、大阪公演。東京にいたときは毎年この演劇を見て年を越すといったいわば年越しそばのような演劇でした。そしてこの演劇ももう36年経過しているという。僕は見始めてまだ15年ほど。でも結構館内は若人から実年まで様々な年齢構成。高泉淳子さんのキュートな年齢不明がそうさせているのだろう。さて、今回もロニーが客演。前半がロニーとのレストランでの会話が主体。公判が二人のライブショーとなっている。大阪を意識したのか、ずいぶんと演劇加減が薄まり、ライブショーが重点となっている。僕は、彼女の何か人生への黄昏を意識したいわばもののあわれが好きなんだけど、それは来年まで持ち越すようでもあるのか、、。でも本当に楽しいいい舞台でした。今年最後の演劇です。遊機械オフィス「ア・ラ・カルト公認レストラン「僕のフレンチ」」(作・演出高泉淳子)at近鉄アート館80点
さすが年季の入った演劇集団。多数の出演者。十分言いなれたセリフの言い回し。何より、奈良時代、天武系一族の女帝時代の歴史絵巻が楽しく面白い。あの怪しげな鶴の張本人、与兵衛が道鏡になっていくのはとてもユニークで面白かった。きらめきの奈良時代絵巻を堪能できたのは、脚本がかなり一を占めている。古代史を知っている人はなお楽しく、歴史がまったくの人はそれなりに楽しい秀逸演劇ドラマであります。八嶋智人はある意味完全主役でないところが均衡を保っていた。山崎樹範は意外と声が高く演劇向き。ドラマより骨太。カムカムミニキーナ「鶴人」(作・演出松村武)at近鉄アート館80点
今話題の三宅唱の処女作。モノクロ、北国の白い雪。札幌なのに、田舎感が色濃く出てる。青年期の3人の「18歳の今」をやさしく切り取っている。こんなに実際の人生が優しいとは思えないけど、でもいいのだ。何かを信じたい映画である。やくたたず(2010/日)(三宅唱)70点
まあとても面白い。とにかく設定がユニークで、魅入られてしまう。あっという間に読破だ。だいたいページ数も少ないし、しかもミステリー好きならではの展開で、そのまま一気です。でも、何か物足りないというか、緻密ではないですね。この感じだったら、何でも書けそう。通常のミステリー作家がトリック等で日夜研究・努力されている部分がいかにも皆無、といった感じ。でもこんなミステリーもたまにいいか、、?ラストは爽快。奇岩館の殺人(宝島社文庫)(2024高野結史)75点
コトリ会議、久々の新作。若旦那家康さんの配慮で、かなりの時間前に劇場に到着するも、ロビーにはコーヒーが用意されていたり、過去の演劇がモニターに上映されていたりと、とてもアットホームなくつろぎの空間が用意されていて、いい気分のまま演劇に入る。そして劇は、これがなんと100年後の地球の姿で、大戦に明け暮れる人類はもう8次大戦のさなかである。人間はつばめと混血し、人間部分の意識は30%に成り果てる。そしてさらに、将来魚類のサバと混血するとさらに30%になるので、9%部分の人間意識になり、これを繰り返してゆくと、人間は消滅するであろう、そんなある家族の葛藤の時間が繰り広げられてゆく。何とも、切ない哀しい、やり切れない家族劇だが、それでもそこには子孫を残す、残せない、生きてきた証の記憶をどうするのか、といった本源的...コトリ会議「おかえりなさせませんなさい」(作・演出山本正典)於アイホール85点
学生演劇で3時間もの長丁場。しかも自ら書き上げたという労作。これがまた面白い。若いっていいなあと、舞台を見ていて思う。みんな溌溂。ダンスあり、アクション有り。精一杯飛んでいる。他の演劇とは一線を画すように、セリフのしゃべりも明確。トチリもなし。すごい練習量だと思う。みんなよくやった。前半後半と分かれるが、長くは官にないまま、余裕を残してジエンド。最後もどんでん返し風で面白かった。28期生は今回で退団。全部出し尽くしたのうだろうか、泣いていた俳優もいたなあ。青春時代はこうして流れてゆく、、。何かを彼らからもらった演劇でした。関西大学劇団万絵巻「精霊のAGEHA」(作・演出モンスターまさき)at芸術創造館80点
今日一日、しかも一回だけの演劇公演、というのはおそらく僕の長い演劇経験でも初めてのこと。人気俳優、南野陽子さん、大谷亨介さんが夫婦役で、最初と最後をきりりと締める。その他、関西在住の演技派どころ18名も参加して、いぶし銀で、ポエムのようないとおしい劇を奏でてくれる。1000年の時代をつなぐ神戸。そこに生きていた人たち、その営みをまるで人生の最後に垣間見る走馬灯のように映し出す。時間は80分。あっという間に劇は終わる。それは人生という時間の長さのようにも思われるほど。人々は歴史的には1000年もの長さを、けれどもそれぞれの名もない市井の人々が生きていた。彼らにも、にじむように生きる人生の灯はしかと輝いていた、、。素晴らしい人生のオムニバス。土田のポエムに酔う。至極の時間空間。永遠たれ、、。『神戸の湊、千年の交々』(作・演出土田英生)at兵庫県立芸術センター中ホール85点
600ページもの長さ、そしてまたこの著者ならではなのか、300ページまで読んでいるのに全く殺人が行われない。以前にも同じことがあり、またかとほくそ笑む。ところが、最初の殺人が始まると次々とやはり前と同じく連続殺人が続く、しかも突拍子もないトリックで行われるものだから、とても現実感がなく、それでもかなり面白いからページを繰る動作は続く。途中、丁寧に犯行の記述が紙面を割きこれは読者にはとても親切ではある。著者がかなりミステリー愛に満ちているのがわかる。驚くべき真犯人はやはりそうであると面白いと思っていたが、でもこの殺人操作設定にはかなり物理学的にも無理があるように思えてしまう。まあ、面白いけれども、ちょっと手放しで喜べるものではない。著者のミステリー愛に加点。黄土館の殺人(2024講談社文庫)(阿津川辰海著)75点
本好きの人のための、人が大好きな人のための、真実を探してやまない人のための、いつまでも自分探しの没頭している人のための、愛すべき映画だと思います。あまりにフラットに描き過ぎているので、映画的盛り上がりにはいまいちだが、敢えてそうすることによって誰をもこの映画に参加できるよう、この映画の本質をつかみ取れるようににしている気もします。たまにはこんな素朴な映画もあっていいですなあ、、。いい時間帯でした。丘の上の本屋さん(2021クラウディオクラウディオ・ロッシ・マッシミ)75点
もう冒頭から食い入るように見てしまった。それは見てはいけないものを見るようなどこか邪悪の漂う内容だが、立派に一つの骨太の女性映画といっていいほどの力量を持つ、あるいは古書から大哲学に導き出されるようなトンデモナイ秀作でした。まだ、余韻に浸っております。早いけれど今年のベスト1ではないか!哀れなるものたち(2023/英)(ヨルゴス・ランティモス)90点
設定がこの世でないあの世の世界、というのがとてもユニーク。登場人物は6人。そして誰が犯人なのか、試行錯誤してゆく、、。ミステリーって、もうSFを超えて、何でもありだね。これは読まさせられます。面白いです。でも、本格ものではないから、読者に伏線も与えられず、当然真犯人の手がかりもないまま、勝手に謎ときをさせられた感もありますね。こういうところはアンフェアなんだろうけど、まあ面白ければ何でもありの今の時代だから、これは許しましょう。でもよくこんなことまで考えましたですね。クローズドサスペンスヘブン(2023新潮文庫)(五条紀夫著)80点
検閲によって欠落したフィルムを追う映画人の日々に映画への熱いオマージュが感じられた。彼女は女であることから、そのフィルムの作者に自分を同一化する、、。こういう話って好きだなあ。少しミステリーっぽい手法も見せているし、何より人生って、ただ生活してゆくのが人生ではないはず。自分の何かをその人生に投影させるのが生きることなのではないか、とさえ思える。主人公の映画へのオマージュが、自分自身の生活、家族へと混濁してゆく中でも、それでもただ一つの「芯」を追いかけてゆくその心情はすがすがしく、立派だ。あまり派手さのない主人公役の女優だが、とてもうまい。いい俳優であります。オマージュ(2021/韓国)(シン・スウォン)80点
7つの短編集。とは言いながら、それぞれ殺人事件が起こるが、ちゃんと解決しないまま、もう忘れ去られたように次の章に向かう設定。高校生たちが繰り広げられる展開で、いかにも大人のヤングたちで、年齢だけは超大人の吾輩も驚く始末。みんな大人だね。いや、そんなことを言いたいわけではない。何かいつものミステリーとは違うなあと感じつつ、最後の7章へ。ここで、度肝を抜かれるというか、え、こんなのあり、みたいな終わりで、7章をゆっくりと再読する。うーん、これはすごいわ。題名、本の表紙イラストからは考えられない本格(でもないか?)ミステリーの秀作、ここに極まり。麻耶雄嵩氏はとことんミステリーを追いかけておられます。化石少女と七つの冒険(麻耶雄嵩著)(徳間書店2023)85点
460Pもの長丁場。孤島の連続殺人。そして二人きりになった後、、。250P迄読み進むと、食っていくページ数が気になり、あれ、あと200Pも残して、後どうするんだろうと思いきや、急に第一部が終わり、第二部へ。がらりと雰囲気が変わり、珍しきや、清掃人の生活が描かれる。これは面白かった。そしてまたもや、第一発見者が殺されるというこの小説の歌いどころに読者をいざなってゆく、、。結局460Pものページを繰ることになったが、この小説は本格ミステリーとは言えないのではないか、なんて思い始めてきたり、後半の兄、妹の設定が、いかにも作りすぎてる。においます。全然解決片は意外でもなんでもなく、ばったり終わる。まあ、前半はミステリー的に読ませたり、後半は、少し妹の心情が嬉しく、読み進めたが、終わったら、460Pも読ませたられた...ちぎれた鎖と光の切れ端(荒木あかね著)(講談社2023)75点
この題名のせいで、しばらく見る気がしなかった作品です。どう生きるかなんて、道徳的です。、、でも、見ている間は、普通に宮崎映画です。導入部なんてさすがだと思います。人物の風貌、色、動き、描写力、やはりジブリだと思います。安心感が漂います。相変わらずわくわくもします。7人の老女、不気味なイキモノの描写が体を這うようになると、ああ、、。悪くはないけど、みんなが言ってるような集大成映画ではないと思います。まだまだ粗く、むしろ習作っぽく感じました。そこそこ楽しませていただいたのは事実ですが。これなら、この前見た新海の「すずめの戸締り」の方がずっとスケールが大きい。ラストがあまりにあっけらかんとして、この話をすべて「夢の中」としてしまう観客もいるのではないか、、。とは言いながら、それなりに楽しんだのも事実ですが、、。...君たちはどう生きるか(2023/日)(宮崎駿)80点
珍しや近世になる直前、豊臣氏の滅亡後の大坂のエネルギッシュな人々を描いた痛快および人情芝居です。登場人物が多く、しかもそれぞれ性格付けがきっちりしているのでわかりやすい。ど~~ンと、舞台の目の前に堀があり、それが最後まで隠したキーワードになります。俳優陣は老いも若きもみんなセリフもトチリがなく、練習十分。狭い舞台だが、全員飛び跳ねている。観客へのサービス絶大の演劇集団と見た。素晴らしい!真紅「おしてるや~君を想ふ~」(作・阿部遼子演出・諏訪誠)atZAZA80点
明治時代にオーストラリアに移住し、写真家、企業家として成功したムラカミが、太平洋戦争勃発により敵国民として収容所入りし、亡くなる。劇はそのかれの空白を埋めるかのように、彼が取り続けた写真を集め、彼の思い、夢を蘇らせてゆく、、。3人劇ですが、実に落ち着いた淡々とした描写でした。劇的な高揚を敢えて避け彼の生涯を淡々と描いてゆくそれはドキュメンタリー手法といえる。通常の演劇とは少々味わいが違うが、この作品の良さを十分生かしている。戦争の残酷さと彼の生きる思いを残像に残し、劇は終わる。いい時間でした。「ヤスキチ・ムラカミ–遠いレンズを通して」(作・金森マユ演出・山口浩章)at仲野進化芸術センター75点
これはスゴイ、、。こんなの初めて読んだ。真相は言えないけれど、吾輩もミステリーは何十年読んでるけど、またこのような空想的なトリッキー殺人はかなり読まされておるけれど、幽霊の存在をここまで真相にくっきりとはめ込んだというのは、ス、すごいです。五十嵐は天才か?いや神か?普通の人間ならこういうトリックを考えることができようか、、。感想になってないですね。とにかく度肝を抜かれました。真夜中法律事務所(五十嵐律人著)(2023講談社)85点
冒頭の殺人光景が残虐で、この作家の精神までも疑ってしまったほど、強烈だった。そしてそれから不思議な迷宮殺人事件勃発となったのだが、、。うーん、そんな解決編だったのね。どこかで読んだ気もするが、でもやはり新鮮ではありまする。引っかかってしまったのは事実だし、この際きちんと騙されましたと白状しよう。でも、あのわけの分からない左右識別障害って、なんだ?ほとんど知られていないこの病気をこのミステリーのトリックに使うなんて、ちょっと性格悪くない?と思うのだが、、、。負け惜しみではございません。しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人(早坂吝著)(2023光文社)80点
広い舞台。そこらの小劇場よりは随分と立派な舞台。。演劇を勉強している学生にはとてもいい環境だなあと思う。ところで、劇の方。どこの方言かなあと思ったら、広島だろうなあと分かる。ある家族中心の話なのだが、登場人物はみなエキセントリックな感じ。見た目は普通でも話すこと感じていること、佇まいはどこか変わってる。家の家長が水死したのは昨年。その一周忌にやってくる人々。異様な雰囲気。近くを流れる川はまるで彼らの妄想の集合体のようでもある。この世とあの世をつないでいる、又は分断している川であるかのように、、。俳優陣はとても的確でまったくとちりのない完ぺきな演技。演出もあの土橋だからこれも完璧を目指しているかのよう。演劇的には欠点がないのです。でも、何か設定が人工的過ぎるような気がしないでもない。話はラストまでそれほど救...近大演劇創作演習公園「柔らかく揺れる」(作・福名理穂・演出・土橋淳志)at大学構内D館80点
末期がんにおかされた一人の男の残された人生。それはすなわち我々自身のこととして映画と共に向きあう熾烈な時間でもあった、、。ストレートに残された時間を見つめ、病室から見える窓にくっきり浮かぶ美しい雲と空。それは死後に自分を見つめる天上からとして見て取ることも可能だ。その同じ空を20年近く会っていない見捨てられたという息子も見ていた。誰もが訪れる死というものをじっくり描いていることに好感が持てた。存在するという意味を主人公が理解したという言葉に人間の重みを感じ取る。フランス映画らしい暖かく鋭い秀作です。愛する人に伝える言葉(2021/仏=ベルギー)(エマニュエル・ベルコ)80点
2023年。映画本数76本。何かあまり見ていない感じがする。本当はベストテンをする資格がない気もするがあえて、、。1位のロウ・イエはとにかく映像の大胆さ、シャープさに目を見張る。日本映画は本数少なく、三浦大輔が浮上。洋画①「シャドウプレイ(完全版)」(ロウ・イエ)②イニシェリン島の精霊(マーティン・マクドナー)③「PERFECTDAYS」(ヴィム・ヴェンダース)④「ポトフ美食家と料理人」(トラン・アン・ユン)⑤「枯葉」(アリ・カウリスマキ)⑥「火祭り」(アスガー・ファルハディ)⑦美しい都市(アスガー・ファルハディ)⑧「砂塵にさまよう}(アスガー・ファルハディ)⑨「かもめ」(マイケル・メイヤー)⑩異端の島(ヴァーツラフ・マルホウル)日本映画①「そして僕は途方に暮れる」(三浦大輔)②正欲(岸善幸)③「怪物」(...2023年映画ベストテン
何気なく見た映画だったが、出だしから映画愛に包まれ、とてもいい展開へ。こんな映画は好きだなあ。最後までじっくり見る。久々の小出がいい。彼もいろいろあったから、この役どころは自分自身100%発揮できたのではないか。映画に戻ってきてよかったなあと思う。さすが、いい演技をしてくれている。重要どころ、吹越もいいね。もちろん宇野も素晴らしい。亡くなった渡辺裕之も出てるなあ。彼もいい演技してる。その他、劇場の女性たちも光ってたなあ。まさに城定ファミリーだ。しばらく余韻が残る素晴らしい映画でした。映画好きにはたまらん。銀平町シネマブルース(2022/日)(城定秀夫)80点
原作は読んだ。かなりユニークな発想、展開で本格ミステリーをお好きな方にはとてもお勧めできる小説でした。映画は、やはりそれらをもとに詰め込んだ感じがしましたが、、。分かりやすい実際の殺人事件を紐解く展開に、ちょっと原作からは違うかなといった感じもしたが、それでもなかなか面白いミステリー映画にはでき得たと思います。実際は証拠申請であのSDカードが認められるかとは思えないけれど、ここがミソだからね、あの展開は仕方がない。随分と多彩な俳優陣が出演し、その割にはみんなそれほど印象はないけど、やはり3人の主演に焦点を置いたからでしょうね、で、その3人ですが、杉咲は怪演だけど少々やりすぎのきらいがしました。ほかのふたりも抑えたいい演技。でも、通常にミステリー映画にすれば上出来の映画だと思います。決してアイドル映画ではな...法廷遊戯(2023/日)(深川栄洋)75点
中国映画なんだけど、内容的に外国資本で制作された映画なのだろうなかなか切ないいい映画でした。中国の農村地域の相変わらずの因習めいたもの、家族関係もよく出ている。出会いからそれぞれ環境が変わってもぐちゃぐちゃの愛の火が消えないのは、これは男と女の話だと思えば、随分古く昔から語られた物語ではある。でもこの映画には雰囲気があるので、十分見られますね。いい映画でした。マネーボーイズ(2021/オーストリア=仏=台湾=ベルギー)(C.B./Yi)80点
年末にかけて3本の映画を見る。まずカウリスマキ。僕の大好きな映画作家だ。映画作りをやめたと聞いていたから、また活動し始めたと聞いてとても喜ぶ。「枯葉」。フィンランドの市井の人々。蓄えがあるわけでもなく、仕事も最下層といえる重労働の毎日。男も女も分け隔てない。狭い小さな部屋でラジオを聴く女。いつも聞こえるのはウクライナへのロシア侵攻。チャンネルを変えると音楽が言語は不明だが、日本の懐かしい曲が流れる。貧乏だが、なけなしの金で友人と行くカラオケバー。そこで女は男と出会う。二人がただ見つめるだけ、、。二人の最初のデートはゾンビ映画。楽しんだ後、二人は次回の出会いを約束する。だが男はそのメモ書きをなくす、、。もうなにも書く必要はない。カウリスマキの世界がそこにあふれている。レトロな音楽がずっと流れている。ささやか...鮮やかなる映画作家たち(カウリスマキ、ユン、ヴェンダース)
重松の作品は久しぶり。この作品はずっと気になっていたけど、何故か読まないでいた。そして今年もいろいろあった暮れにじっくりこの作品を読む。短編集で、それぞれがいずれもどこかでつながっている。底流に流れているのは人は死んでいくということだ。これは私たち人間から、いや動物、生きとし生けるものすべてから逃げることのできない設問である。あまり本を読んで泣かない私だが、この本はじんわり泣いた。人が死んでいくこと。そのことの答えは「考えることだ」と重松は言う。考えることが、その日に死ぬことと、あと、残されたものが生きてゆくことの答えになるという。若い時からずっと、生きることと死ぬことを考えつづけてきた私にとって、この本を読んだときに、今までの文学書だの、哲学書だの、ましてや最近読み続けている宇宙関係の物理学の本さえ、単...その日のまえに(文春文庫)(2008重松清)90点
出だしからいい音楽がかかる。そうだこの映画は音楽映画なんだ。でもいい人間ばかり出てくる。人間が殻を抜け出すのにどれだけ人の助けと愛が必要なのか、というテーマが全編に音楽とともに流れている。一人で見るには最適の映画。心が洗われる。ぼくの歌が聴こえたら(2021/韓国)(ヤン・ジョンウン)75点