遠くから子供たちの声が聞こえる 運動会でもやっているんだろうか みんな揃って、アーチ状に響く あんなに大きな言葉・・・ それは、一人の巨大な少女の声にも聴こえた 声が止んでしまうと 僕は町と一緒に黙り込んだ 子供たちのその励ましの声は 晴れた空にしばらく貼り付いていた ランキング参加中詩 ランキング参加中言葉を紡ぐ人たち
夜を湖に沈める 死にたくない以外の声が 泡になり浮かんでくるのを待つ 昼間見た水鳥が二羽、水面を泳いでゆく 月が夜を追いかけ、湖に飛び込んだ はれと思って、覗き込めば 水草は青く燃え、魚たちが 待ってましたとばかりに月を啄んでいた ぼろぼろになってゆく月を見ながら 僕は焦って、通販で買った笛を吹いた 素足で、湖をちゃぷちゃぷしながら ―――やがて、月は魚の一匹に変身し 群れをすり抜け、どこかへ泳いでいった 僕の望みは眠ることじゃなかった 目を閉じても開いても、そこには詩があった 夕方、ベンチで拾った鍵を握りしめた 扉は思い出せないまま 空が端から凍り始めていた 星々が盛んに文句を言った ―――…
ここは三角形の夢の中 心も夜も一つ屋根の下 不思議な夕焼けを前に 寝床を直立させて進む ここは三角形の夢の中 どんなものもあるけど 衣服は浮いて覚束ない もの憂い唾を飲み込む ここは三角形の夢の中 管楽隊がラッパを吹く 陽光に蜜柑が笑ってる 蛙が月の方へ飛び込む ここは三角形の夢の中 お城になりたい一軒家 他人の休日から離れて 朝を寝床に押し付ける ここは三角形の夢の中 夏が大股でやってくる 棘々で軽々なサボテン 日焼け跡の芸術家たち ここは三角形の夢の中 心も夜も一つ屋根の下 不思議な夕焼けを前に 寝床を直立させて進む ランキング参加中詩 ランキング参加中言葉を紡ぐ人たち
大粒でもなく、小粒でもなく 静かに雨が降っていると 僕はふと空っぽになる 雨粒が上から下に、真っすぐ 落ちてゆくのなど見ていると、 黙り込むのも忘れ、何もかも その通りだという気がしてくる こんな時、思ったことがふいと 口を突いて出たら良いけれど、 幸せなその雨の一滴一滴は、やがて 細長い憧れと病いへ分かれて行く 大粒でもなく、小粒でもなく 静かに雨が降っていると 僕はふと空っぽになる
地球は何て ロマンチックで おっちょこちょいで 自信満々だったんだろう 今じゃ僕のような者までも 地球を批判し始めた 地球は宇宙の広さを知って 自信を失ってしまったのかもしれない 僕は地球と一緒にありたいと思う 地球は何を考えているんだろう
屋上へ行ってみようよ そこには決まって、灰色の風が吹いている そこの悩ましい地面は、まだ人間をよく知らない そこから見渡せば、遠くに電車が過ぎるのが見えるだろう 町は何故か素直に無防備な姿勢を見せるだろう そこはまるで、町が自分自身を恐れるが為にあるかのようだ そこでは、誰が誰に負けるということもないだろう 争いから忘れられた者が、そこを占領するだろう およそこの町で一番、天気に近い場所・・・ そこへ行けば、鳥たちが普段、何に満足してるかも分かるだろう 屋上へ行ってみようよ そこには決まって、灰色の風が吹いている
一体、どうやって自分を助けるのか 一体、それは一人でできることなのか ―――皿洗いをしていた 飼い猫にエサやりし、浴室のカビ取りもした 読みかけの本はまだ、残り三百ページもあった ―――こんなことじゃ、日々はあっという間だ だけど、どうやって自分を助けるのか 一体、それは一人でできることなのか ―――皿洗いをしていた
ねえねえ空よ、聞いておくれ 高層ビル達の誤解された悲しい唄を ねえねえ空よ、聞いておくれ 晩飯に四つに切られた林檎達の戸惑いを ねえねえ空よ、聞いておくれ 花びらが海へ着くまでに見つけたものを ねえねえ空よ、聞いておくれ 情熱と目的で設計されたエンジンの青春を ねえねえ空よ、聞いておくれ 鉄棒に集まる子供達の内緒話を ねえねえ空よ、聞いておくれ 静けさを灯す旅人の眠れない薄ら笑いを ねえねえ空よ、聞いておくれ 朝を知らない動物達の危険な賭けを ねえねえ空よ、聞いておくれ 愛を忘れようとする人の明るい夜を ねえねえ空よ、聞いておくれ 眠ろうと思って横たわるのじゃないひと時を ねえねえ空よ、聞いて…
僕の側を地球が通り過ぎた 地球は過去も未来もない ぎゅっと冷たい塊だから 通り過ぎる時、ひんやりする ―――いつか教室の窓際に 座っていたことを思い出した 雨が止み、窓の隙間から 何もかも止まった場所のことを あの時もきっと、僕の側に地球は来ていた 笑顔の中に戸惑いを生やしてからだ 僕が今の変わらぬ僕になったのも 想い出す先生は若過ぎて 想い出す同級生は幼過ぎて 制服の肌触りも、今は別の悩みになった 地球は僕の側を、あと何度、通り過ぎるだろう
朝の人は鈍らの武器を下げ 服の色を揃えて出かけてゆく 朝の人は俯きたくなって 高層ビルが心地よく目に入る 朝の人は電車の中で向かい合う すぐ忘れてしまう顔を突き合わせる 朝の人は通りを縦に並んで歩く 誰の背中も見られないかのように
僕は真っすぐ立っている 体中に色んな金具を付けられて 曲がってもいけないし 引っこ抜かれてもいけない 鳥たちがやってきたら 椅子を用意しなくちゃいけない 三百六十五日、三百六十度 それが僕の仕事 夕暮れ時は癒される 気持ちのいい風が吹いて 体半分、オレンジ色に光る ほらほら、今日も日が暮れた
僕の乾いた目は透き通って 晴れた空と雲を映していた 電車は夏へ向かって走っていた 通り過ぎる景色は個性がないように思えた 幸運な雑草だけが太陽を独り占めし 愚鈍な色で生い茂るようだった 駅に着くたび駅と駅の間隔を忘れ 屋根や洗濯物だけじゃなく住人も見たかった 子供が図鑑を広げたり閉じたりしていた 端に座る派手目の女は動かし難く思えた 僕は窓辺に斜めに寄りかかり・・・ 電車は夏へ向かって走っていた
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