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  • 雲の切れ間に

    www.youtube.com 足元に落ちた影を そっと踏みしめながらため息まじりの空を ひとり見上げていたどこで間違えたのかな どこへ行けばいいのかな胸の奥で問いかけるたび 涙がこぼれたでもね 雲の切れ間に 光が差すようにきっと私も いつか笑えるのかな でもね 雲の切れ間に 光が差すようにきっと私も いつか笑えるのかな 今はまだ 雨の中だけどこの涙も 無駄じゃないと信じたい何度も迷っても 遠回りしても雲の切れ間に 光を探してる 誰かの言葉にそっと 傷ついてしまうけど本当はわかっているよ 答えはこの胸に いつか 雲の切れ間に 虹が架かるようにこの痛みも きっと意味があるよね 昨日より少し強くな…

  • 未完成の地図

    www.youtube.com 描いた未来と違っても それでいいんだよ間違いも回り道も 君だけの足跡誰かの正解(こたえ)じゃなくて君のままで進めばいい 涙こぼれる日もあるさでもね 立ち止まらないで 未完成の地図を広げて まだ見ぬ明日へ行こう迷っても不安でも その道は続いてる君だけが歩ける未来(みち)を 信じて進めばいいどんなゴールも きっと君のものだから 傷ついて諦めかけても 意味のないことじゃない涙が教えてくれる 強さがそこにある 誰かの背中じゃなくて君の心が導くよ 未完成の地図を描こう 答えはまだいらない遠回りもいつか 大切な景色になる君の歩幅でいいから 自分を信じていて辿り着く場所は 君…

  • 君の負けじゃない

    www.youtube.com うまくいかない日々に ため息こぼしても誰も気づかないふりで 通り過ぎてくでも君がここまで 歩いてきたことをちゃんと見てるよ 忘れないで 泣きたくなる夜もあるけど下を向いたままじゃ 終われない 君の負けじゃない まだ終わりじゃないつまずいた傷跡も 強さに変わるよ涙を拭いたら また歩き出せるその瞳に映る未来は 消えない 投げ出したくなる日も あるかもしれないでも君が選んだ道を 信じてほしい 君の負けじゃない まだ続いてる昨日より少しでも 前に進めたら涙もその痛みも 意味を持つから君はきっと また輝ける 君の負けじゃない ほら顔を上げて君は君のままでいいんだよ にほん…

  • ボロボロの靴で

    www.youtube.com 擦り切れた靴の底 泥だらけのシャツ鏡に映る私は 少し疲れてるけど諦める理由より 踏み出す勇気をもう一歩だけ 信じてみるんだ 誰かの「無理だよ」なんて聞いてる暇はないから ボロボロの靴で 走り続けてく転んで膝を擦りむいても涙を拭いたら また歩き出せるこの道の先に 光がある 追い越された日々が 心を刺すけど比べるために 走ってるんじゃないどんなに遅くても 進むことが全て私だけのゴール きっとあるから ボロボロの靴で 夢を追いかけて何度も迷って 道を探してそれでもここまで 歩いてきたから私だけの足跡が続く 雨に打たれても 風に煽られてもこの足がまだ動くなら 進める ボ…

  • ラストページの余白

    www.youtube.com 開いたままの 古いノート君と描いた 未来の地図最後のページだけ 真っ白なまま埋める言葉が 見つからない 「ずっと一緒だよ」 そう書いた文字今は滲んで 消えていく ラストページの余白に君の名前を書けないままどんな言葉も 届かなくてただ静かに 風がめくる 二人並んだ 写真の中笑う君が 眩しすぎる今なら少しだけ わかる気がする幸せすぎた あの時間 書きかけのまま 置き去りの夢どこへ続いて いたのだろう ラストページの余白に涙の跡が 滲んでいく君が選んだ その結末私ひとり 読み続ける もしももう一度 出会えたなら違う物語 綴れるかな ラストページの余白には書かれぬままの…

  • ひとりぼっちのメロディー

    www.youtube.com 雨の音が歌うの君の声聞こえない冷たい風が触れるその影を呼ぶ夜 星が降る夢の中誰もいない場所へ孤独の中で見つけた私だけの絆 ひとりぼっち夜空にあなたの笑顔探すの心の声届かないでもまた会える日まで 鏡に映る涙消えない思い出は胸の奥深く秘めて永遠に輝く 消えてしまう前にもう一度抱きしめてぬくもりで溶かして寒さに負けぬよう ひとりぼっち夜空にあなたの笑顔探すの心の声届かないでもまた会える日まで ひとりぼっち夜空にあなたの笑顔探すの心の声届かないでもまた会える日まで にほんブログ村 音楽ランキング

  • 木漏れ日の下で

    www.youtube.com 風がそっと髪を揺らした君と歩いたこの道を変わらない景色の中で私だけが取り残される あの日の声も 笑顔もまだこの胸の奥で 色褪せないまま 木漏れ日の下で 君を探してる光の粒が 涙を隠す触れられないのに 消えもしない君の影が 心を締めつける 約束なんてしなければよかった忘れることが こんなに苦しいだけどもしも時が戻るならもう一度だけ 君に会いたい 手を伸ばしたら 届く気がしてそれでも空を掴むだけ 木漏れ日の下で 君を呼んでみる風に紛れて 消えた名前抱きしめた想いが 痛みに変わるそれでもまだ 君を想ってる 木漏れ日の下で そっと目を閉じた涙のかわりに 陽だまりが落ちた…

  • 涙の雫

    www.youtube.com 静かな夜に想いが溢れ涙の雫が頬を濡らすあなたの声が風に消えて心に残る儚い影 遠い記憶が胸を締めつけ言葉にならない悲しみを歌う星の瞬きも届かぬほどに私の気持ちは深く沈む なぜこんなにも痛いのかあなたの笑顔が忘れられない過去の夢にただ囚われて未来の光が見えない 冷たい雨が窓を叩いて思い出たちが蘇るいつかまた会えると信じて涙を拭って歩き出す 夜明けの光を探し求め新しい一日が始まるあなたのために強くなると心に誓いを立てる なぜこんなにも痛いのかあなたの笑顔が忘れられない過去の夢にただ囚われて未来の光が見えない にほんブログ村 音楽ランキング

  • 最後の手紙

    www.youtube.com 窓辺に揺れる 淡い月明かり君といた部屋 今は静かすぎて開けかけのままの 古いアルバム触れた指先が そっと震えた 「幸せでいてね」 そう書いたけど本当は今も 忘れられない 最後の手紙に 嘘を並べて君を想う気持ち 隠したまま「大丈夫だよ」って 微笑んでみせた涙が滲む 紙の上に あの日の約束 今も残るのにどうして人は 離れてしまうの? 最後の手紙を 風に預けて届くはずのない 言葉を乗せる「さよなら」じゃなくて ありがとうの声本当の気持ち 消せないまま 最後の手紙を 風に預けて届くはずのない 言葉を乗せる「さよなら」じゃなくて ありがとうの声本当の気持ち 消せないまま …

  • 孤影

    www.youtube.com 沈む夕陽が 街を染めてくひとり歩く影 伸びて消えていく君と並んだ あの帰り道今はただ 冷たい風が吹く 名前を呼べば 届く気がして振り向くけれど 誰もいない この孤影(こかげ)に 寄り添う人もなく君の温もり まだ残るのに触れた指先 静かにほどけた愛してたのに 愛されたのに 夜の静寂(しじま)に 囁く言葉「さよなら」さえも 言えなかったね この孤影に 涙を落としても君の気配は もう戻らない忘れることで 前を向けるなら今すぐすべて 消してしまいたい 沈む夕陽が 街を染めてく君のいない影 ひとり揺れていた この孤影に 寄り添う人もなく君の温もり まだ残るのに触れた指先 …

  • 復讐

    www.youtube.com 静かな部屋に 時計の針がただ淡々と 夜を刻んでる君のいない世界に 慣れたふりしてまだ心は 傷を抱いたまま 愛してたのに 裏切られて憎むことさえ できなかった この涙が 復讐になるなら君を忘れて 強くなれるの?壊れた心の痛みごと愛したことも 消せたらいいのに 優しい言葉も 温もりさえもすべて嘘だったの?泣くことさえも 悔しくて笑顔の仮面で 隠してた この孤独が 復讐になるなら君より幸せに なればいいの?愛された記憶が 消えなくてまだ心が 君を探してる この涙が 復讐になるなら君より幸せに なればいいの?愛された記憶が 消えなくてまだ心が 君を探してる にほんブログ…

  • 眠れない夜

    www.youtube.com 静かな夜の中で心の声ささやいてあの日の涙の意味今も胸に響いて 消えない過去の傷跡月の光に導かれ終わりのない夢を見て孤独の影を抱いて 眠れない夜が続くあなたの笑顔を探してどうしても消せない想い永遠に心に刻んで 風に乗って響く声あなたのぬくもりを感じてその瞬間に生きる意味を見つけた気がして 涙の川を渡って新しい朝を迎えてもう一度笑える日がくると信じている 眠れない夜が続くあなたの笑顔を探してどうしても消せない想い永遠に心に刻んで 眠れない川を挟んで にほんブログ村 音楽ランキング

  • さよならの向こう側

    www.youtube.com いつもの待ち合わせ場所君の姿を探してしまうもういないと 分かっているのに さよならの向こう側 何があるのだろう君を失った 私の世界色褪せていく 日々の中で光を探してる 初めて出会った あの日のこと昨日のことのように 思い出す君の笑顔が 忘れられない さよならの向こう側 何があるのだろう君を失った 私の世界色褪せていく 日々の中で光を探してる もしもあの時 違う選択をしていたら今も隣で 笑い合えていたのかな後悔ばかりが 胸を締め付ける さよならの向こう側 何があるのだろう君を失った 私の世界色褪せていく 日々の中で光を探してる いつかまた 会える日がくるのかなその…

  • 桜散る夜に

    www.youtube.com 風が舞う 桜並木君と見た あの日の景色今はもう 届かない 桜散る夜に 涙があふれる君を想う気持ち 止められない「さよなら」の意味を 今知る 二人の影 重ね合った帰り道 いつまでも続くと思ってたそれなのに なぜ 二人の影 重ね合った帰り道 いつまでも続くと思ってたそれなのに なぜ 桜散る夜に 涙があふれる君を想う気持ち 止められない「さよなら」の意味を 今知る もしもあの時 違う選択をしていたら今も隣で 笑い合えていたのかな 桜散る夜に 涙があふれる君を想う気持ち 止められない「さよなら」の意味を 今知る 二人の影 重ね合った帰り道 いつまでも続くと思ってたそれな…

  • 心の景色

    www.youtube.com 静かな夜に見上げた星の輝きひとりきり忘れられない記憶たち夢の中で彷徨って 君の声が風になり耳元で囁くよ遠く聞こえたあの歌今も胸に響いてる 進もう未来へと手を伸ばし光へ痛みも愛もすべて心の景色になる 涙ひとつ拭って新しい朝を迎え昨日よりもっと強く歩き出そう一歩ずつ 希望の光追いかけて何度でも立ち上がる笑顔取り戻したら世界が輝きだす 進もう未来へと手を伸ばし光へ痛みも愛もすべて心の景色になる にほんブログ村 音楽ランキング

  • 君の影を探して

    www.youtube.com 夕暮れ染まる 街を歩けば君といた日々 そっと揺れてる交わした言葉 温もりの欠片まだこの胸に 残ってるのに 冷たい風が 心を刺して君の声だけ 遠くなる 君の影を探して 彷徨う夜に触れられない 幻でもいいあの日のままの笑顔を浮かべてそっと涙を 隠しているの 君が好きだった あの歌のメロディひとり口ずさむ 声が震える「大丈夫だよ」 そう言いながらまだ君を想い 立ち止まる 時の流れに 消えてしまうの?忘れることが できなくて 君の影を探して 夜空を見上げ滲む星に そっと願いかける「もしももう一度 会えるのならば」伝えたいよ 「愛してた」と 静かな朝が 心を包み君の影だけ…

  • 純情

    www.youtube.com 君の背中を 見つめるだけで何も言えずに 時間(とき)が過ぎた隣にいるのに 遠く感じるこの想いさえ 届かなくて 風に舞う花びらが 散るようにそっと君も 離れていくの? 純情なんて 儚いものねどれだけ愛しても 届かないままこの涙も 言葉にできずただ君を想い続ける 「好きだよ」なんて 言えたらきっと何かが少し 変わったかな?でも怖くて 壊れそうで臆病なまま 立ち止まるの 夜に溶ける さよならの影君の温もり まだ消えない 純情なんて 悲しいものね叶わぬ恋ほど 美しく見えてもう戻れない 二人の時間それでも君を 忘れない ひとりきりのさよなら道心にそっと 名前を呼ぶこの涙も…

  • 孤独なピアノ

    www.youtube.com 静かな部屋で一人きり心の中は嵐のようにあなたの言葉がまだ響いて涙が止まらない夜 星の無い空を見上げて未来を探してみるけど過去の影が絡みついて一歩も進めないの 孤独なピアノが歌うあなたへの想いを込めて消えることないこのメロディー一歩も進めないの 時間が癒すと言うけれどこの胸の傷は深すぎて忘れることなどできないあの日々の輝きは 記憶の鍵をかけたまま未来に向かって歩きだす忘れることなどできないまでこの心解き放つ 孤独なピアノが奏でるあなたがくれた温もりを離れず見守っているように永遠に続く愛の音 にほんブログ村 小説ランキング

  • あの日の君はもういない

    www.youtube.com 君の声が響くたびに胸の奥が痛くなるの優しさも微笑みももう遠い記憶の中 交わした言葉 触れた指先すべてが幻のように気づけば隙間ばかりが心を埋め尽くしてた あの日の君はもういないどこで何を想ってるの?冷たい風に問いかけても答えは戻らない愛した日々も消えぬまま今もここに残っているそれでも私は歩くから涙をそっと隠して 君の好きだった歌が今もふいに街角で流れる懐かしさと寂しさが交差して立ち止まる 伸ばした手では届かない名前を呼んでも届かないそれでもまだ信じたくてひとり空を見上げた あの日の君はもういない触れられない現実(いま)だけがこの胸の奥 かき乱して優しく笑うのさよな…

  • 感情の風

    www.youtube.com 夜の静けさ 闇が広がる私の心も 深く沈む一人きりの時 君を思い涙の波に 包まれて 忘れられない あの笑顔声を聞くだけで 心ほどけた冷たい空気が 胸を刺してあの日々はもう 戻らないの 涙の歌を 君に届けたい思い出の中で 輝く君よこの空の下で 永遠に響け愛のメロディ 忘れないで 雨音に揺れて 窓を見つめ過ぎ去った日々を 想う夜君の温もりを 求めている夢の中で また逢いたい 涙の歌を 君に届けたい思い出の中で 輝く君よこの空の下で 永遠に響け愛のメロディ 忘れないで 星の瞬き 消える前にもう一度だけ 君に伝えたい愛していたこと 忘れないでこの歌に乗せて にほんブログ村…

  • 君の名前を呼ぶたびに

    www.youtube.com 静かな夜に ふとこぼれた君の名前が まだ温かくて手のひらに残る 記憶のかけら触れたくても 触れられない あの日の笑顔も 交わした言葉も時間(とき)の波にさらわれてだけど心の奥で いまもずっと君は息をしてる 君の名前を呼ぶたびに涙がこぼれそうになる遠くに消えた愛しさが胸の奥 まだ疼いてるもう届かない それでも君を想ってしまうの 街の灯りが 揺れているたび君の面影を 探してしまう繋いだ手の温もりは幻みたいに 消えてくのに 夜の隙間に こぼれた言葉「さよなら」さえ言えなくてどこかで君も今 同じように私を思い出すの? 君の名前を呼ぶたびに夜風が優しく響く心の中の微かな声…

  • キラキラ涙の夜

    キラキラ涙の夜 静かに冷たい風 涙を拭う未来が見えずに迷い込むそれでも進むことを決めた あなたの声が聞こえた気がする遠くから私を呼んでいる過去の痛みが重くて消えないそれでも光を探し続ける 涙が輝く夜 空を見上げて星が願いを叶え 救ってくれる弱さを隠さずに 涙流しそれでも強くて 生きていくよ 冷たい雨が心を打つそれでも私は立ち上がる孤独な夜を 越えていこう自分信じて 泣いてもいいから 心の奥で消えない夢が静かに輝き続けている過去の傷が癒えていく時新しい希望見つけられる 涙が輝く夜 空を見上げて星が願いを叶え 救ってくれる弱さを隠さずに 涙流しそれでも強くて 生きていくよ www.youtube.…

  • 失われた時間

    眠れない夜に君を思い出す消えない記憶が胸を締め付ける輝いてた日々よ遠くに消えたふたりの未来は儚い夢 最後の言葉が今も耳に残る「さよなら」はまだ信じたくない涙の雨が止むことなく降る心の中に君がいるから もう一度君に会いたいと願う過去の時間を巻き戻せたならどんなに強く祈っても届かない君の笑顔は思い出の中 鏡の中の自分が問いかける「未来には光があるのか」と答えはなくても歩き続ける君との約束 胸に抱えて 夜が明けても涙は乾かない君のいない朝が始まる時計の針は止まることなく進む心の傷だけ深く刻まれる もう一度君に会いたいと願う過去の時間を巻き戻せたならどんなに強く祈っても届かない君の笑顔は思い出の中 w…

  • 奇妙な隣人(完)

    シャドウ・コルドン……。 影の包囲網……。 そのような名前のゲームは今まで一度だって聞いたことがない。ただ自分が最近のゲームに疎いだけだと思っていた。だけど今になって思えば、本当に「シャドウ・コルドン」なんてゲームは存在するのだろうか。 ゲーム……。 もしかしたら、今のこの状況自体が「高橋」の仕組んだゲームなのではないのか。私は、「高橋」が交番で口にしたシャドウ・コルドンというゲームのように、「高橋」のチームに追い詰められているのではないのか。「高橋」が気まぐれのようにH駅前交番を訪れ、そこにたまたまいたという理由だけで、私がそのターゲットに選ばれたのではないのか。私は「高橋」によって、404…

  • 奇妙な隣人(22)

    篠原はスマホ画面から視線を上げる。 眼の前に机があった。大型のモニターが壁側に寄せられているように置かれている。そしてそのモニターの前には「お前は逃げられない。私はいつでもすぐそばにいる」という狂気じみた赤い文字が踊っている。 この文字は「藤岡」と名乗った隣人の女が書いたものだと思っていた。だからこそ、その「お前」とは、交番にやってきたこの部屋の住人であるあの若い男を指すものだと思った。だけどあの動画に映る女の映像が偽装なのだとしたら、映像の中の女も男とぐるである可能性が高い。 問題は、なぜ男がこのようなことをしたのか、だった。 男の目的は何なのか。なぜこのような手の込んだ事までして、交番に訪…

  • 奇妙な隣人(21)

    高橋はこの映像を見て、よくこの女が一週間前の深夜に家を訪れた「藤岡」と名乗った隣人だと分かったものだ。 高橋の話では隣人の女を見たのは引っ越しの挨拶に来た一度きりだったはずだ。しかもそれも一週間も前のことである。それから今日まではマンション入り口や通路で女を見かけたことはなかったと言っていたので、一週間前に一度見ただけということになる。いくらその深夜の出来事が印象的だったとは言え、この映像の中の影で大部分が隠れた女の顔が、隣人の女の顔だと分かるものだろうか。 篠原は動画を停止させ、静止画となった女の顔を見つめる。 交番での男の話しぶりで篠原も女が隣人の女だと思い込んでしまっていたが、冷静になっ…

  • 奇妙な隣人(20)

    5 考えてみれば、この403号室の玄関ドアの鍵が開いていたのもおかしい。 空き部屋だとしたらそもそも鍵が開いているわけがないし、もしこの部屋が「藤岡」と名乗った女が借りたものだったとしたら、その玄関ドアが開いていたことも何かしらの意図があったのではないのか。その意図が何なのかは分からない。ただ、どう考えてもその意図とは、何か薄暗い意図であることは間違いない気がした。 篠原はこの部屋に居続けるということが急に怖くなった。 もしかしたら自分は非常にまずい状態にいるのではないのか、と思った。 「も、もう、404号室に戻ろう……。 403号室については後日マンションの管理人に本当に空き部屋かどうかを確…

  • 奇妙な隣人(19)

    頭の中に、男のスマホ画面越しに見た女の姿が蘇る。 女は机の上に「お前は逃げられない。私はいつでもすぐそばにいる」と書き終えた後、自分の行為に満足したような不気味な笑みを口元に浮かべた。その笑みを見た篠原は、人間とは別の生き物を目にしたかのような異様な恐怖を感じた。 あの女は、高橋の隣人ではなかった。 少なくともこの403号室に人が住んでいる気配は一切感じられない。もしそうだとしたら、なぜあの女は「隣に引っ越してきた」と言って深夜に高橋の家を訪れたのか。 おそらく、高橋に近づくためだろう。ドア越しに高橋の顔を確認するためだったかもしれないし、あるいは、何か別の目的もあったのかもしれない。引っ越し…

  • 奇妙な隣人(18)

    部屋の中は静まり返り、インターフォンから返事が返ってくることはなかった。ドアが開かれる気配もない。 もう一度インターフォンのボタンを押してみる。やはり返事は返ってこない。 女は部屋の中にはいないのだろうか。 篠原は右手で拳を作り、ドアをノックする。ドアからはトントンという乾いた音がした。 「藤岡さん、いますか?」 部屋の中にも声が届くように、少し大きめの声で言葉をかける。そして部屋の中の音に耳を澄ませてみるが、相変わらず部屋の中からは何の物音も聞こえなかった。 部屋の中には隣人の女は本当にいないという可能性と、部屋の中に潜んでいるのだけど居留守を使っている可能性のどちらかが考えられる。ただ、こ…

  • 奇妙な隣人(17)

    女は一体どのようなトリックを使ったのか。 まるで、箱の中に入って、そして次の瞬間には姿が消えている手品師のように女の姿は消えてしまった。だけど人間が本当に消えることなんてありえない。箱の中から消える手品師にもネタがあって、そのネタを巧妙に隠しているだけなのだ。女も何かしらのトリックを使って、このクローゼットの中から消えたに決まっている。 篠原は手にしていた男のスマホを机の上に置き、クローゼットの前に歩み寄る。 手品の中には、箱の中が別の空間に繋がっていて、そこに一時的に身を隠すというトリックがあると聞く。一見開かないと思っていたものが開く。観客が持っている先入観を利用して、観客を欺くのだ。 ま…

  • 奇妙な隣人(16)

    4 篠原が居間に戻ると、机の横で、男が立ったまま真剣な表情で自分のスマホ画面を見ていた。居間に入ってきた篠原に気付き、男はその目を篠原の方に向ける。 「お巡りさん……」 男の声は微かに震えている。 「どうかしましたか?」 「おかしいです……。こんなことが……こんなことが、あるわけがない……」 篠原はその様子に何か尋常でないものを感じ、「何があったんですか?」と再び尋ねる。 「映像です……」 「映像?」 「はい。この部屋の映像です」 この部屋の映像は、女が侵入してからクローゼットの中に隠れるまでのものを篠原も交番で見ている。男はその女が侵入してくる映像の中に何かを発見したのだろうか。 「お巡りさ…

  • 奇妙な隣人(15)

    いや、待てよ。 篠原は心の中で呟く。 机の上に女が書き残した、「お前は逃げられない。私はいつでもすぐそばにいる」という言葉。その「お前は逃げられない」の中の「お前」とは高橋のことを指しているのだろう。高橋に対して何かしらの恨みを持っていると考えられる。では、その次の言葉は何を意味しているのか。 「私はいつでもすぐそばにいる……」 まさか……。 篠原は居間の中に視線を巡らせる。そして何か異常を知らせる音がどこからか聞こえてきはしていないかと耳を済ませる。 私はいつでもすぐそばにいる。その言葉は、実は女はまだこの404号室の外には出ていなくて、この部屋のどこかに潜んでいるということではないのか。そ…

  • 奇妙な隣人(14)

    男はジーンズのポケットからスマホを取り出す。 ホームボタンを押して画面を表示させると、「あっ」と声を上げた。 「届いている……。 動体検知のメッセージが一通届いています……」 「本当ですか? そのメッセージは何時に来ていますか?」 「ええと、ちょっと待ってください……。 八時十三分です。午後八時十三分に届いています」 篠原は腕時計で現在の時刻を確認する。時計の針は午後八時十五分を示している。 二分前……? 二分前と言えば、篠原がちょうどこの居間に入ったときくらいだ。その時刻に一瞬混乱する。だけどすぐにその理由について思い付く。 「おそらくその通知は、私がこの部屋に入った際に、センサーが私の動き…

  • 奇妙な隣人(13)

    あの映像の中で女が持っていたアイスピックがここにある、ということは少なくとも女はここにはいたということになる。 もしそうなら、女はどこに消えたというのか。 篠原は空っぽのクローゼットの中を見つめる。 このマンションの前に着いたとき、男は篠原に、「女が私の部屋のクローゼットの中に隠れてから、カメラからは動体検知の通知は来ていません。つまり、あの女は、まだクローゼットの中で息を潜めながら、私の帰りを待ち受けているはずです」と言った。その言葉を信じて、篠原はこのクローゼットの扉を開けたのだ。 だけどクローゼットの中に女はいなかった。 篠原は、この部屋の玄関ドアを開けたときに感じた強烈な違和感を思い出…

  • 奇妙な隣人(12)

    ドアが十センチほど開く。 右手に持ったライトの光をその隙間に差し入れる。ドアに遮られて、まだ部屋全体は見通せない。ライトの光は、暗闇に包まれた殺風景な部屋を描き出していた。ドアの隙間から見える暗闇の中に人影や、何か不審を感じさせるものは見えなかった。 さらにドアを押し開く。 白い光の輪の中に、机とゲーミングチェアが現れた。机の上には三十二インチはありそうな大型のディスプレイが置かれている。ただし篠原が立っていたドアの手前からその机まではまだ距離があって、机の上をはっきりと視認することはできなかった。その中でマウスやキーボードが机の上から落ちそうなくらい端に押しやられていることだけがかろうじて分…

  • 奇妙な隣人(11)

    篠原が通路に歩みだそうとしたとき、背後から、「お巡りさん、気を付けてください。女は凶器を持っています」という男の声が聞こえた。篠原は男を振り返ることなく、「分かっています。大丈夫です」と答える。 通路をゆっくりと進んでいく。 何か突発的な事態が起こっても対応できるように、辺りに気を配りながら歩く。男の部屋に潜んでいるという女が、凶器を手にいきなり玄関ドアから飛び出してくることもありうる。そして凶器を振り回しながらこちらに突進してくるかもしれない。様々な可能性を頭に入れながら通路を進んだ。 403号室の前にさしかかる。 玄関ドアの向こう側に聞き耳を立てる。内側からは物音一つ聞こえなかった。そもそ…

  • 奇妙な隣人(10)

    3 高橋と名乗る若い男は長い話を終えた。 男はひどく青ざめた顔で、震える自分の指先を見つめている。 交番の中には篠原と男の二人しかいない。男が口をつぐむと、交番の中は突然、地の底のような静寂に覆われた。今日は五月にしては暖かい気候だったが、男が話をし終えたこの交番の中だけ五度くらい気温が下がったように感じる。ひどく肌寒い空気が篠原の身体にまとわりついてきた。 篠原はその男の話がにわかには信じられなかった。 まるでホラー小説の中の出来事のような話だ。それに、そもそもその隣人という女が男の部屋の鍵を持っていた理由も分からない。それは男自身が言ったように、その隣人は男の部屋の前の住人で、鍵の交換が実…

  • 奇妙な隣人(9)

    なぜ彼女が私の部屋の鍵を持っていたのかは分かりません。 ですが、スマホ画面に映っている人物は間違いなく、深夜に私の部屋にやってきたあの隣人でした。その時の記憶は恐怖とともに私の頭の中にはっきりと刻み込まれていたので、間違えようがありません。 私の部屋に、あの不気味な女がいる。 私はスマホ画面に映し出された光景が信じられなくて、いや、信じたくなくて、頭は混乱して、まるでヒューズが飛んでしまったかのように完全に思考は停止してしまっていました。そしてまるでホラー映画のワンシーンを見るかのように、スマホ画面に映る女の様子をただ黙って見つめていました。 部屋の電灯を点けた女は、そのまま迷うことなく私の机…

  • 奇妙な隣人(8)

    その日も朝、ネットワークカメラの「SDカード録画スイッチ」と「モーション検知アラームスイッチ」をオンにしてから家を出ました。 その前日は結局カメラが部屋の中で動体を検知することはなかったし、家に帰ってから、私が家を空けていた時に録画されていた映像を早送りで確認してもそこには誰も姿も映ってはいませんでした。空っぽの私の部屋がまるで静止画のように映っているだけでした。 ただ、見知らぬ誰かはいつ私の部屋に侵入してくるか分かりません。数日の間隔を空けてやってくるかもしれないし、一ヶ月後にやってくるかもしれない。私は長期戦になることも覚悟していました。たとえ長期戦になったとしても、私は、「見知らぬ誰かと…

  • 奇妙な隣人(7)

    私は居間の入口に立ち、カメラをどこに設置するかを考えました。 部屋に侵入した誰かが私の机の上で何かしらの作業をしていた可能性が高いのであれば、机の上は映るようにする必要があります。ですが、その誰かはこの部屋で次に何をするのかは予想もつきません。それもあったので、部屋全体をなるべく視野に収められる位置がいいだろうと思いました。 そしてもう一つ、私はそのカメラをできるだけ外から目立ちにくい場所、そのカメラの存在そのものに気づかれないような場所に設置したいと考えました。部屋に入ってきた誰かに、私がその姿をカメラで記録しているということに気付かれたくはありませんでした。もし気付かれてしまうとその誰かを…

  • 奇妙な隣人(6)

    先ほど居間を見たときには、そこには誰もいませんでした。 あとその見知らぬ誰かが隠れている可能性があるとしたら、トイレか洗面所くらいです。 私は玄関口に立ち尽くしたまま、左手側にある二つの扉に視線を移しました。手前側の扉は洗面所と浴室に繋がっており、そして奥側の扉がトイレに繋がっています。いつもはトイレに行くときや歯を磨く時に何気なく開けている白い扉が、何だか呪われた不吉な扉のように見えました。その扉を開けるという勇気がなかなか出ませんでした。 もし開けて、そこに見知らぬ誰かの顔があったとしたら……。 そしてその見知らぬ誰かが、その扉の内側から濁った目で私を見つめていたとしたら……。 嫌な想像が…

  • 奇妙な隣人(5)

    深夜に私の部屋を訪れた「藤岡」と名乗る隣人。 その隣人を目にした時に感じた気味悪さと、未来に対して不吉なことが起こるのではないのかという嫌な予感。ですが、その予感に反して、次の日からは、いつもと変わらない日常が過ぎていきました。マンションの入口やエレベーターで、あの隣人の女と会うことはありませんでした。夜、大学から自分の部屋に帰った後に、意味もなく左隣の部屋に耳を澄ましたりもしたのですが、空室だったときと同じようにその部屋はいつもひっそりと静まり返っていて、物音一つ聞こえてきませんでした。私はいつもと変わらない日常を過ごす中で、いつかあの隣人のことは忘れていきました。 私が始めに異変に気付いた…

  • 奇妙な隣人(4)

    腹が立った私は、女に直接苦情を言ってやろうとドアに向かいました。 「あの、これ以上、チャイムを鳴らすのはやめてくれませんか? 迷惑です。何時だと思っているんですか? こんな時間に引っ越しの挨拶に来るなんて、非常識だと思わないのですか?」 ドアの外に向かって大きな声で言ったのですが、やはりチャイムの音は鳴り止みません。 ドア越しだと声は外まで届かないのだろうかと思い、私はドアを開けることにしました。と言っても、もしものときのことを考えて、チェーンロックは付けたままでドアを開けようと思ったのです。 ドアを開けようと鍵を開けたときです。突然ドアが勢い良く引っ張られ、チェーンロックで止まってガシャンと…

  • 奇妙な隣人(3)

    ゲーム音楽をミュートにして、私は息を潜めてしばらくドアを見ていました。ドアの向こう側からは何の物音も聞こえてきませんでした。 さっきのチャイムの音は、ゲームに熱中しすぎたせいで幻聴でも聞いたのだろうか。そんな気すらしました。いえ、そう自分に言い聞かせて、この非日常の状況に無理やり説明を与えようとしていただけなのかもしれません。心のどこかでは、「幻聴であってくれ」と願っていました。 だけどその願いも虚しく、再び、ピンポーンという大きな音が部屋の中に鳴り響きました。それは現実でした。「幻聴だろう」などと自分を誤魔化すことなんて、もう出来ませんでした。午前一時半という時間。そんな時間に、あのドアの向…

  • 奇妙な隣人(2)

    2 私は高橋、高橋健太と言います。 K工科大学に通っています。大学二年生です。 大学では友達は一人もいません。口下手で、生身の人間と会話をするのが苦手なのです。おそらく大学では「何を考えているのか分からない暗いやつ」と思われているのでしょう。ですが、私はそんなことは気にしていません。リアルの世界ではどこまでいっても私は孤独で暗いやつでしかなかったのですが、私にはもう一つ別の世界がありました。 私は大学から家に帰ると、いつも深夜までゲームの実況配信をしていました。お巡りさん、ゲームの実況配信って知っていますか? 知っている? そうですか。それは良かった。 自分の好きなゲームをプレイして、その様子…

  • 奇妙な隣人(1)

    1 一日は何事もなく終わろうとしていた。 篠原大輔は事務机に一人座り、ディスプレイの前で書類を作成している。同僚の松田和也は深夜の勤務に備えて、二階の仮眠室で仮眠をとっているはずだ。 篠原一人しかいない交番の中は、ひどく静かだった。交番の中が静かだというのは、逆に言うと、大きな事件が起きることもなくこの地域が平和だということを意味していた。できれば、少なくとも篠原が勤務している間は何事もなく、平穏な時間が流れて欲しいと思っていた。 警察官の中には自分の実績を上げるために、多くの事件が発生することを願っている者もいると聞く。警察官も一般企業と同じで、昇進したり希望の部署に進むためには実績が必要と…

  • 見知らぬ女(完)

    エピローグ 純は手に持っていた写真立てを机の上に戻す。 部屋の中は、自分の口から漏れる微かな呼吸音しか聞こえない。世界中の人たちが純一人を残してすべて死に絶えてしまったかのように、窓の外はしんと静まり返っていた。 夕食の前に居間のテレビで見たニュースを、純は思い出す。 ニュースでは、東京都S区内の公園内で若い女性の変死体が発見されたと報じていた。身元を示すものは身につけておらず、警察は身元の特定を急ぐとともに事件と事故の両面で捜査を進めている、とも言っていた。 純は公園を去る時に、久保田菜摘のショルダーバッグの中から真衣のノートを抜き取った。佐々木真衣の存在を示すものをその場に残すわけにはいか…

  • 見知らぬ女(86)

    その日の夜、純は再び「はくたか」に乗って東京に戻ってきた。 真衣が着ていた制服と一冊のノートをリュックサックに入れ、真衣の部屋で芽生えた血塗られた計画を胸に抱きながら。 福井に出かける前と後とでは、純に外見上の違いは何もなかった。陽一と優子も、真衣のことを気にかけながらも、いつもと変わらず純に接した。二人が心の中でどのように思っていたかはわからないが、いつもと同じように接することで、真衣が死ぬ前の前向きに生きようとしていた純に戻ってほしいと思っていたのかもしれない。そのように純と接していれば、いつか前と同じ穏やかな日々が戻って来ると信じていたのかもしれない。 純もその二人の振る舞いに付き合うよ…

  • 見知らぬ女(85)

    純はしばらくその表紙を眺めていた。 何の変哲もないノートだった。おそらく真衣が高校で使っていたノートなのだろう。純は引き出しをそのまま閉めようとする。だけどその時不意に、「なぜこのノートだけが、机の引き出しの中に入っているのか」ということが気に掛かった。高校で使っていた普通のノートであるのなら、他の科目のノートも一緒に入っていてもおかしくない。それなのにこのノートだけが一冊、何かしらの意味を込めるかのように、引き出しの一番下に入れられている。なぜ真衣は、このノートだけを引き出しの一番下にしまっていたのか。このノートは、真衣にとって何かしら重要な意味を持っていたのではないのか。このノートを引き出…

  • 見知らぬ女(84)

    壊れやすいガラス細工を扱うかのように丁寧に、純はその写真立てを棚の一番上の段に戻す。 机の周りには他に見るべきものはなさそうだ。 純は後ろを振り返る。目に入るのは、部屋の壁に沿うように置かれた空っぽのベッドくらいだった。 いや……。 純の視線は、ベッドが置かれた壁とは反対側の壁に向かう。 白い壁の中央に四枚の茶色い立板が並んでいる。何かの扉だ。純はすぐに、それがクローゼットの扉だと気付いた。そしてこの部屋にクローゼットがあるということに初めて気付いた。一ヶ月前にこの部屋を訪れた時はその扉は閉じられており、今も閉じられている。その四枚の細長い立板は純の意識の中では壁と同化しており、このときまでは…

  • 見知らぬ女(83)

    しばらくして、真衣の叔父から純のもとに、ある連絡が来た。 それは真衣の叔父から陽一に電話越しで伝えられ、そして純の部屋のドア越しに陽一から純に伝えられた。その連絡とは、「真衣の遺品の中で、何か欲しいものがあれば何でも持っていってもらって構わない」というものだった。 叔父は、純の目の前で、真衣が自らビルの屋上から飛び降りたと信じていた。なぜ真衣がわざわざ自分の弟の前でそのようなことをしたのか、その理由を彼は理解できないにしても、そのことが真衣と純の間の浅からぬ関係を示しているのだと何か感じるものがあったのだろうか。そのため、わざわざ純に連絡をくれたのだ。真衣の部屋は真衣が亡くなってからそのままに…

  • 見知らぬ女(82)

    16 真衣の背中は、純の前から消えた。 その後の記憶は断片的にしか残っていない。まるで紙芝居のように、いくつかのイメージが純の頭の中に色褪せた映像として残っているだけだった。 気がついたら純は真衣の家の門前にいた。 自分がどのようにしてそこにたどり着いたのかも分からなかった。あのビルの屋上で真衣の姿を最後に見てからどれくらいの時間が経ったのかも分からなかった。純の頭に残るイメージの中で、純は真衣の家の門の前に一人立ち尽くしていた。 家は夜の闇で覆われている。その家の玄関脇に設けられている玄関灯が灯る。玄関のドアが開き、真衣の叔父が出てくる。純はその叔父に、「ビルの屋上から……真衣が落ちた……」…

  • 見知らぬ女(81)

    真衣は突然、鉄柵に両手をかけて体を持ち上げた。 純が止める間もなかった。鉄作を乗り越え、鉄柵の外に降り立つ。そしてそのままビルの屋上の縁に立った。 「何をやってるんだよ。危ないだろ」 純は驚いて、鉄柵を挟んでその向こう側に立つ真衣に言葉をかける。だけど、その言葉は真衣には届かなかった。鉄柵を隔てて、真衣と純は全く別の世界に立っていた。 真衣はビルの外側に広がる闇を見つめていた。 「不思議だよね……」 深い海の底のような落ち着いた静かな口調で、真衣は誰にともなく呟く。純は息を飲んで、その真衣の背中を見つめた。 「この一歩先には死があって、その一歩手前側には生がある……。 その二つは、一歩分の距離…

  • 見知らぬ女(80)

    電車は無情にも福井駅に到着する。 純と真衣の二人は学生服を着た学生たちと一緒に電車を降りる。改札を抜けると、改札口の前で友だち同士と思しき二人の女子高生が笑顔を浮かべながら、「また明日」と言って手を振り合っているのが見えた。突然、真衣が足を止める。純も立ち止まって真衣を見ると、真衣は感情を失った作り物のような目でその二人を見ていた。その目は、N公園で真衣が、「高校のクラスメートが交通事故にあって……」と重い口を開くようにして話した時に純に見せた目と全く同じだった。 「真衣、僕たちも家に帰ろう」 純が真衣に静かな口調で話しかけると、真衣は我に返ったように純を見返し、「うん」と頷いた。 駅ビルの出…

  • 見知らぬ女(79)

    純と真衣が向かったのは、Sワールドという名前の、福井の北側にある遊園地だった。 福井駅から電車でA駅に向かい、そこからタクシーに乗った。交通費は全て真衣が出した。純も払うと言ったのだけど、真衣は、「私が誘ったんだから、私が出す。それに私はあなたの姉なのだから、姉らしいことを一つくらいさせて」と言って聞かなかった。真衣の家を出たのが午後三時だったので、その時間から行っても遊園地で遊ぶ時間はほとんど無いのではないのかと純は思ったが、たとえ短時間であったとしても、真衣と二人で遊べるのなら構わなかった。その短時間の中でも、真衣がつらい現実を忘れ、少しでも元気になってくれればと願った。 真衣の気を少しで…

  • 見知らぬ女(78)

    「ありがとうございます」 純が男に小さく頭を下げると、男は無言で脇に寄り、純のためにドアの前のスペースを空けた。 「真衣、入るよ」 念のためドアの向こう側に声をかける。やはり返事はなかった。 銀色に鈍く光るドアノブを握る。ドアノブはひんやりとし、純の手のひらから熱を奪っていく。ゆっくりと右手を回す。ドアノブを握る右手に力を入れて押し出すと、その閉ざされていたドアがキーという誰かの悲鳴のような音を微かに立てながら、純の前で開かれていく。 そのドアの向こう側にはどのような光景が広がっているのか。 真衣が昨日の深夜に送ってきた、「純、助けて」というメッセージを思い出す。緊張で体が固まる。純は口の中の…

  • 見知らぬ女(77)

    福井駅には十三時十五分に到着した。 ぱらぱらと新幹線から乗客が降りていく。その乗客に紛れこむように、純も新幹線を降りる。そのまま改札を抜けて、駅ビルの外に出た。外は雲一つなく晴れ渡っていて、どこまでも続く青い空の中に白い太陽が一人ぼっちで浮かんでいた。その外の世界の眩しさに純は思わず目を細める。 駅ビルのすぐ前にある、バスターミナルが目に入った。 「あ……」 純は思わず声を漏らす。 そのバスターミナルの更に奥に、異様な形をした黒々とした物体が頭を覗かせていたのだ。なんだろうと思い、近づいていく。それは、大きな恐竜のモニュメントだった。いくつかの種類の恐竜が並んでいて、ひときわ背の高い首長竜が駅…

  • 見知らぬ女(76)

    「嘘だと言われても、真衣の母親がそう言っているのだから信じるしかないだろ」 純をとりなすように陽一が言う。 それでも純は信じることは出来なかった。 何でもないのに、真衣が「純、助けて」なんてメッセージを送ってくるわけがない。真衣の身に何かが起きたのだ。純に送られてきたこのメッセージは、真衣から自分だけに発信されたSOS信号なのだ。純はそう思った。真衣の母親が何と言おうと納得できなかった。自分の目で真衣の姿を見ないと、そして真衣自身の口から真衣の言葉を聞かないと、絶対に納得なんてできるわけがなかった。真衣に会いたかった。福井まで行って、真衣の言葉を聞きたかった。 陽一は真衣の件は片付いたと言うか…

  • 見知らぬ女(75)

    15 静寂に包まれた部屋の中に純はいた。 机の上のデスクライトが、開かれたテキストの上を照らしている。自分の部屋で一人、数学の問題を解いていた。 陽一も優子も寝ているのか、家の中は怖いくらい静かだった。遠くで救急車のサイレンの音が聞こえた。それはとても小さな音だったのだけど、周りの静けさの中で強調され純の耳に聞こえてくる。純はそれでも目の前の数学の問題を解くことに集中する。明日はフリースクールの登校日になっていて、それまでにこの数学の課題を終わらせなければならなかった。 突然、机の上に置かれていたスマホが震えて、机との間でガガガッと大きな音を立てた。 静寂を切り裂くような音に純は驚き、びくっと…

  • 見知らぬ女(74)

    二人だけの写真を撮った後、再び公園の中の遊歩道を二人で歩いた。もう真衣も純も何も喋らなかった。純にはその沈黙が別に息苦しくはなかったし、気まずさを感じることも無かった。逆に、この静寂がどこか心地よかった。姉と弟が二人並んで歩いているということが、当たり前の出来事であり、ありふれた日常であり、あらかじめ決められている自然の摂理であるかのように感じていた。 途中、一つだけ、純は真衣に質問を投げかけた。 なぜ、二人が初めて合う場所をこのN公園にしたのか。陽一からは、真衣の希望で待ち合わせ場所がN公園になったのだと聞いていた。このN公園に何か思い出なり、思い入れがあるのだろうか。聞いてみたかった。 「…

  • 見知らぬ女(73)

    そしてその目は、鏡で見る自分の目に似ていた。 純が朝起きて洗面台の前に立った時、その鏡向こう側にはこの時の真衣の目と同じような目をした少年が立っていて、そしてその空虚な目で純のことを見ていた。自分の中の得体の知れない虚無感が、ブラックホールが光を吸い込んでいくかのようにその目から光を奪っていくイメージが、純の中に生々しいリアルな感覚として残っていた。過去も未来も、そして現在すらも失った空っぽな人間として、その鏡の前に立っている気がした。 「高校のクラスメートが交通事故にあって……」と呟いた時の真衣の目は、その時の純の目とよく似ていると感じたのだ。 純は、「一つ、質問してもいい?」と、隣に座る真…

  • 見知らぬ女(72)

    「ねえ、あなたのこと、純って呼んでもいい?」 真衣がいたずらっぽい笑顔を浮かべながら純に尋ねる。 「いいよ。僕は何と呼べばいいのかな……。お姉ちゃん?」 「真衣、でいいよ。今さらお姉ちゃんと呼ばれても、私は姉らしいことなんて何一つしてこなかったから……。だから、真衣って呼んで」 「分かったよ。真衣」 少しの間、二人は黙り込む。そしてお互いの目を見つめ合う。真衣はとてもきれいな目をしていた。だけどその奥底には、何か不吉な陰のようなものも微かに混じっているような気がした。 「改めて……。はじめまして、純」 真衣は純に向かって右手を差し伸べる。純はその右手の意味が分からずに戸惑う。だけどすぐに、これ…

  • 見知らぬ女(71)

    14 N公園はY道路を挟んで北側と南側に別れている。 北側には、ワールドカップの公式練習場にも指定された球技場のほかに、野球場、テニスコートなどの運動施設があった。南側には野鳥観察園があり、一年を通じてさまざまな野鳥を観察できるようになっている。南側の敷地の中央には中央広場があって、その中に草地広場や遊具広場が設けられていた。待ち合わせ場所として指定されたのは、中央広場にある噴水の前だった。 その場所も、真衣の希望によるものだった。陽一からそのことを聞いたときに、「不思議なところを待ち合わせ場所にするんだな」と思ったが、それ以上特に気に掛けることもなかった。純にとっては、自分のたった一人だけの…

  • 見知らぬ女(70)

    「この秘密によって、知らないうちに家族の中に歪みが生み出されてしまっていたのかもしれない……」 自分の中の黒い塊を吐き出すように、陽一は呟く。その声を聞いて、ダイニングテーブルの椅子に座っている優子の頭が小さくうなだれるように動くのが見えた。 「純……今まで黙っていて申し訳ない……。 いきなりこのようなことを言われても、父さんの言葉はなかなか受け入れてもらえないかもしれない。父さんを恨むのなら恨んでもらっても構わない。 だけどもしこのことが、純の不登校の何らかの原因になっているのだとしたら……。今日のこの話をきっかけにして、立ち直って欲しいんだ。他の普通の子供たちと同じように学校に通い、立派な…

  • 見知らぬ女(69)

    「何?」と純がドアの向こうに問いかけると、陽一は少しの間を空けて、「少し、純に話したいことがあるんだ」と言った。 どうせ、またありきたりな苦労話でも聞かされるのだろうと思いながらも、純はそのうんざりした思いを隠して、「うん、分かった」と答えた。純がドアを開けるのを待つこともなく、陽一がそのまま階段を降りていく音が聞こえる。どうやらこのドア越しで話をするという訳でもなさそうだ。仕方なく純は椅子から立ち上がり、閉ざされたドアを開けて、一階に繋がる階段に歩いて行った。 リビングのソファに、少し硬い表情をした陽一が座っていた。 その一方で、優子はリビングではなく、少し離れたダイニングテーブルの前の椅子…

  • 見知らぬ女(68)

    夕食の席では、純は一言も喋らずにテーブルの上にあった食事を食べ続けていた。 いつもはそれでも両親と何かしらの会話を交わしながら食べていたので、純がその日に限って視線も上げずにただ黙々と食べている姿を見て、優子が気になったのか、「高校で何かあった?」と純に尋ねた。 「え?」 純は箸を止めて、視線を上げる。 目の前に、心配そうな表情を作った優子が純のことをじっと見ている。 「どうして?」 「あ、いや。昨日、純が高校に行って家に帰ってから、少し様子がおかしかったから。高校で何かあったのかな、と思って」 「……何でもないよ」 純は慎重に答える。心の中では、「いけない。少なくともこの場では、まだ多感な十…

  • 見知らぬ女(67)

    コンコンとドアをノックする音が聞こえた。 「夕食の準備が出来たから、降りてきなさい」 ドアの向こう側から、陽一の声が聞こえる。 陽一は決して自分からこの部屋のドアを開けることはなかった。自分から息子の部屋のドアを開けないことが、息子のプライバシーを守ることであり、息子を一人の独立した人間として扱うことになるのだと信じていたのかもしれない。 純は「分かった」と返事をした。 ドアの向こう側で、一人の足音がドアの前を離れ、階段を降りていく音が聞こえる。純は手にしていたノートを閉じ、机の上に戻す。そして緩慢な動作で椅子から立ち上がった。 純は中学を不登校になってからも食事はできるだけ家族と一緒に食べる…

  • 見知らぬ女(66)

    13 四角い檻のような部屋。 秋山純は部屋で一人、椅子に座っている。 この部屋にいるといつでも息が詰まりそうになる。だけど他に行く場所なんてないから、ずっとこの部屋の中にいた。この部屋に居続けているといつか、自分が呼吸するのを忘れてしまいそうだった。そしてそのまま死に至っても、自分が死んだということにすら気づかずにそのまま時間が流れていきそうだった。 純は虚ろな目を、部屋の中に巡らせる。 六畳くらいの部屋には、机と椅子、そして寝るためのベッドくらいしか置かれていない。備え付けの物掛けのハンガーには、一着の長袖のシャツと一本のジーンズしか掛かっていない。その服も時々外出する時に着るもので、いつも…

  • 見知らぬ女(65)

    立っていたのは真衣の母親でもなかったし、もちろん佐々木真衣でもなかった。 「あなたは……誰……」 菜摘と白い影、二人しかいない公園に、菜摘の掠れた言葉が虚しくこぼれる。男は何も答えない。黙って菜摘のことを見ている。 男、というよりも、少年、というべきだったのかもしれない。長い黒髪の奥の顔は、十代半ばと思えるほど、まだあどけなさが残っていた。男は、道端に転がる小石を見るような目で菜摘のことを見ていた。 同時に菜摘も、目の前に立つ男のことを、大きく見開かれた目で見つめる。 男が着ているF高校の制服。だけどその制服は男子用のものではなく、女子用の、菜摘も高校時代に着ていた制服。体はひどく華奢で、体だ…

  • 見知らぬ女(64)

    「ねぇ、真衣なの……? 真衣なんでしょ……」 菜摘は一歩、二歩と公園の入口に近づいていく。 菜摘の目には、誰もいない夜の公園で一人ブランコの上に座っている白い影だけが映っていた。白い影だけを見つめながら、よろよろと公園の入口に向かって歩いていた。世界が小さく縮んでいき、菜摘と白い影の二人だけを包み込む。今、この瞬間において、この世界には自分と白い影しか存在しないのだと感じる。だけど菜摘にとってはそれでも構わなかった。白い影さえいれば、自分の贖罪ができる。心から謝ればきっと白い影は分かってくれる。きっと真衣は私を許してくれる。 ブランコの上の白い影は完全に動きを止めていた。だけど長い黒髪に覆われ…

  • 見知らぬ女(63)

    S駅の駅前にあるカフェを出た菜摘は、すぐに改札に向かい、自分の家の最寄り駅に繋がっている電車に乗った。多くの路線が接続してるS駅は夜になっても多くの人が行き交っており、電車の中は仕事帰りのサラリーマンや遊びから帰る若者たちで一杯だった。 最寄り駅まで三駅しかない。時間にすると十分もかからない。 菜摘はつり革につかまり、何とはなく視線を下に下ろして、眼の前の座席に座っている男を見る。皺の入った灰色のスーツを着た三十歳くらいのサラリーマンで、疲れた顔で手元のスマホ画面を見ていた。スマホ画面には菜摘の知らないアニメの映像が映っていた。 視線を上に上げると、夜の街を背景にした黒い窓ガラスに自分の顔がぼ…

  • 見知らぬ女(62)

    「久保田さん? どうかしたの?」 真理子の声が遠くで聞こえる。 菜摘の心は底なし沼に足をとられたまま、一歩も前に進めない。ただ、焦点の合わない目で、ベッドの端に座る真理子のことを見ていた。真理子は菜摘に興味を無くしたのか、再び熊のぬいぐるみとの会話を始めている。 「久保田さん、おかしいわね。急に喋らなくなっちゃった。……そんなことよりさっきの話の続きなんだけど、やはり先生に相談したほうがいいとお母さんは思うな。……え? 担任の井上先生は頼りにならない? ……そうなんだ。真衣がいじめられているのを知っていながら、見て見ぬ振りをしているんだ。……分かった。お母さんの方からも井上先生に言っておく」 …

  • 見知らぬ女(61)

    自分は何と言えばよかったのだろうか。 熊のぬいぐるみに向かって作り笑いを浮かべながら、「真衣、久しぶり。元気にしてた?」と言うべきだったのだろうか。 真理子の弟が、「もし、そのような妄想の世界の中にしか姉は自分が生きられる場所を見つけ出すことが出来ないのなら……そして、もし、それによって姉が生きることができるのなら……。私は、姉のその妄想を、私自身も受け入れようとすら思った」と菜摘に話したように、菜摘自身も真理子の妄想を受け入れるべきだったのだろうか。真理子の作り上げた架空の世界の中で、ぬいぐるみとなった「真衣」と、高校時代の思い出話をすればよかったのだろうか。 だけど菜摘には、その「真衣、久…

  • 見知らぬ女(60)

    12 真理子は傍らに立っている菜摘に構うことなく、「真衣」との会話を続けている。 「どうしたの?」 「……」 「うん。何かあった?」 「……」 「それ……先生には相談した?」 「……」 「……辛かったね、真衣」 「……」 「大丈夫。お母さんが一緒に考えるから、一人で抱え込まなくていいよ」 「……」 真理子は膝の上の熊のぬいぐるみを優しく抱きしめる。菜摘はその様子を見るともなく見ながら、真理子と「真衣」は今、どのような会話をしているのだろう、と思った。 先生に相談……。 一人で抱え込む……。 もしかしたら、熊のぬいぐるみとなった「真衣」は、真理子に自分が学校でいじめられていることを告白し、助けを…

  • 見知らぬ女(59)

    「佐々木さん……」 その背中にもう一度呼びかけてみる。 だけどやはり女性は返事をしなかったし、こちらを振り向くこともなかった。相変わらず、低く小さな声でぼそぼそと喋っている。ベッドに座るその女性と菜摘が立つ入口との間には少しの距離があり、彼女が何を喋っているのかは聞き取れない。 菜摘は覚悟を決めて、病室の中にそろりと足を踏み入れる。 ベッドの横まで歩み寄ったときに、その女性が膝の上に熊のぬいぐるみを抱いているのが見えた。使い古されたぬいぐるみなのか、手垢がついてひどく汚れている。彼女は熊の顔を自分の方に向かせ、右手で抱き、左手でその頭を優しく撫でている。彼女自身は俯くように熊に自分の顔を向けて…

  • 見知らぬ女(58)

    「患者への面会が終わりましたら、病室の中に呼び出しボタンがあるのでそれを押して下さい。看護スタッフが病室から病棟入口までご案内します」 「ありがとうございました」 菜摘は看護スタッフの女性に向かって、ここまで案内してくれたことも含めて丁寧に頭を下げる。女性は「それでは失礼します」という言葉を残して、元来た道を歩き去っていった。 菜摘は真衣の母親、真理子がいるはずの病室の前に一人取り残される。病棟の中は相変わらずしんと静まり返っている。ひどく心細かった。 病室のドアをノックしようと右手を上げる。手を握り、ドアのすぐ前でノックの形を作る。だけどそこで右手は止まった。そこから先に、右手は動いてくれな…

  • 見知らぬ女(57)

    カチャという機械音の後、ボタンの上に設けられていたスピーカーから「はい」という女性の低い声が聞こえた。 「あ、あの。H病棟の患者の面会に来たのですが」 「分かりました。スタッフがそちらに向かいますので、少々お待ち下さい」 スピーカーからの通話はそこで途切れた。女性の声は最初から最後まで、感情を全く感じられない事務的な口調だった。 すぐに一人の女性がやって来た。 上は清潔感のある白い看護服を着ていて、下は動きやすさを重視しているのだろう、グレーの作業ズボンをはいている。首には青いストラップの付けられたIDカードのようなものをぶら下げていた。年は三十代半ばだろうか。ただ、マスクの上に覗く目は、感情…

  • 見知らぬ女(56)

    突き当りを左に曲がってすぐに、通路は大きく開けた空間にぶつかった。M病院内に併設されている食堂だった。 食堂の入口にメニューが食品サンプルとともに提示されている。そこで表示しきれないメニューなのだろう、そのサンプルの上には大きなモニターも設置されていて、サラダなどのメニューが画像とともに表示されていた。 それを見て菜摘は、今日はまだ何も食べていないことを思い出す。 すでに十四時を回っていたが、朝食も昼食も食べていなかった。朝にコーヒーを一杯飲んだだけだ。それでは体に良くないと分かってはいるのだけど、不安と恐怖に埋め尽くされた心の中に、どうしても食欲というものを見つけ出すことができなかった。それ…

  • 見知らぬ女(55)

    「久保田さん。久保田菜摘さん」 「総合受付」と上に表示された窓口の前に立っていた女性事務員が、菜摘の名前を呼んだ。 M病院の制服なのだろう、女性は清潔感のある白いシャツに上から紺色のベストを着ている。感染防止のため口元は大きなマスクで覆われていて、顔はよく見えなかった。 菜摘は「はい」と言って、緑色の座席から立ち上がる。待合室を回り込むように、窓口の前に歩いていく。 待合室は広々としており、外界との隔たりは大きなガラス窓となっていたのでとても開放的な空間だった。 菜摘は精神病院と言うと排他的で、閉鎖的で、どこか退廃的な場所というイメージを持っていた。一度入ってしまうと、もう二度とは外には出られ…

  • 見知らぬ女(54)

    11 病院の待合室は、大きく設けられたガラス窓から晩秋の午後の穏やかな日差しが差し込み、明るさに溢れていた。 菜摘はその待合室に並んだ座席の一番端に座り、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。他に数人の人たちがその座席に座っていたが、彼らから離れるようにして菜摘は座っていた。 待合室の横の、病棟入口の自動ドアが開く。 無意識に入口の方に視線を向けると、高齢の男性が車椅子に乗り、その車椅子を五十歳くらいの中年の女性が後ろから押しながら病院の中に入ってきた。その男性はどこか虚ろな目をしていた。菜摘は見てはいけないものを見てしまったような気がして、すぐに視線を逸らせた。 真衣の家を訪れてから七日が経っ…

  • 見知らぬ女(53)

    菜摘に引き続いて男も部屋の外に出て、真衣の部屋のドアを閉じる。菜摘は男に導かれるように応接室に戻った。 応接室の中では、テーブルを挟んで二つのソファが並んでいた。奥側のソファの脇には菜摘のショルダーバッグがもたれ掛かるように置かれている。先ほど、この部屋で男の話を聞いていたときと何一つ変わらない。それはほんの少し前のことだったのに、何時間も前の出来事のように感じられる。菜摘は無言で部屋の中に入り、ショルダーバッグを掴み上げた。男も一言も言葉を発することもなく、応接室の入口でドアノブを掴みながら、そんな菜摘の様子を見ていた。 二人は闇に包まれた廊下をくぐり抜けるように歩き、玄関に向かう。 玄関口…

  • 見知らぬ女(52)

    「そ、それは……」 菜摘は言葉に詰まる。 その様子を見ていた男は、「まあ、いいでしょう」とあっさり引き下がった。 「でも、部屋の電灯も点けずに、こんなに暗いと部屋の中は見えないでしょう」 男が左手を壁の方に差し伸べる。すると部屋の中は、天井の蛍光灯が作り出す光に溢れた。映画のシーンが切り替わるように一瞬で、菜摘を取り巻くシーンが暗闇のシーンから光のシーンに切り替わる。光のシーンは暗闇に慣れていた目には眩しくて、思わず目を細める。ただその目には、細められて狭まった光の世界の中で男が黙ってこちらの方を見ている姿が映っていた。 「……勝手に真衣さんの部屋に入ってしまい、申し訳ありませんでした」 菜摘…

  • 見知らぬ女(51)

    菜摘はクローゼットの扉に引寄せられるように、そろりと右足を前に出す。 その扉の向こう側には何があるのか。 真衣の服があるだけなのか。真衣が着ていたコートが、ブラウスが、スカートがハンガーに掛けられてぶら下がっているだけなのか。そしてその中の一つとして、真衣が高校で着ていた白い上着と黒のスカートも、主を永遠に失って、それらの服に混じって淋しくぶら下がっているだけなのか。 それとも……。 そのクローゼットの中に掛けられていた真衣の制服をその身にまとい、その服の主のどす黒い恨みを受け継いだ誰かが立っているのか。そして息を殺し、闇の中で憎悪に目を光らせながら、外にいる菜摘の様子を扉の隙間からうかがって…

  • 見知らぬ女(50)

    菜摘は音も立てずに窓の前に歩み寄る。 窓の下には、これから本格的な夜を迎えようとして静まり返っている街並みが見えた。 その街角の一つに目が留まる。 この窓の内側に人影を見たときに、菜摘が立っていた街角だ。住宅の端に立てられている街灯の明かりを受けて、夜の闇の中に仄白く浮かび上がっている。 今から少し前、自分はあの場所に立っていた。そして何気なく顔を上げたときに、この窓の内側に、長い黒髪と白い上着の人影を見た。だけど今は自分がその白い影と全く同じ位置に立ち、あの街角を見下ろしている。まるで、自分があの白い影になったかのように。 そのことに、運命の不思議さを感じた。 あの道を歩いていたときは、この…

  • 見知らぬ女(49)

    ドアノブを握り、右方向に回していく。 鍵がかけられているわけでもなく、そのドアノブは菜摘の右手の中で抵抗することもなくゆっくりと回っていった。心臓が今にも壊れるのではないかと思ってしまうくらい、速い鼓動を刻んでいる。自分の口から漏れる息の音がやけに耳についた。 カチャ、という小さな音を残して、ドアノブは完全に回り切る。 菜摘は、改めて自分自身に問いかける。 本当に、このドアを開けてもいいんだよね……。 このドアの向こう側では、真衣の母親がドアノブが回っていくのを息を潜めて見ているに違いない。きっと、誠心誠意説明すれば、真衣の母親も、私が真衣をいじめていないことを分かってくれるよね。私を許してく…

  • 見知らぬ女(48)

    10 薄暗い闇の中に、居間が見えてくる。 家から少し離れた場所に街灯が立っているのが、窓に引かれたレースのカーテンの向こう側にぼんやり見える。その薄明かりに照らされて、居間の中は仄暗く揺らめいていた。 その居間は、先ほど菜摘がいた応接室と同じようにひどく殺風景な部屋だった。部屋の隅に五十インチはありそうな大型テレビが置かれていて、そのテレビに向き合うようにリビングテーブルとソファが並んでいる。テレビとは反対側のスペースはカウンターキッチンとなっていた。そのカウンターには木製のダイニングテーブルが横付けされていて、テーブルには二脚ずつ向き合うように椅子が置かれている。 それだけだった。 リビング…

  • 見知らぬ女(47)

    「ありがとうございます」 男に向かって小さく頭を下げ、菜摘はトイレの中に入る。そっとドアを閉めると、すぐに右耳をそのドアに近づけた。 トイレから遠ざかっていく一つの足音が小さく聞こえる。その足音はしばらくすると消え、代わりに、ドアを開いて、そして閉じる時のキーという高い音が微かに聞こえた。すると音は完全に消え、トイレのドアの向こう側には一転して無音の世界が広がっていた。 先ほど私と一緒にいた応接室に、男は戻った。 チャンスは今しかなかった。 二階から聞こえた物音によって菜摘の中に芽生えた一つの疑念。 その疑念は、この家の二階に真衣の母親が潜んでいるに違いないという確信に変わっている。それを確認…

  • 見知らぬ女(46)

    何かがおかしい……。 菜摘の頭の中にむくむくと疑念が頭をもたげていく。 この男は何かを隠している。 少なくとも、今、この家の二階から物音が聞こえたはずなのにこの男は聞こえなかった振りをした。音が聞こえない素振りの裏側には、この男が何としても私に対して隠そうとしている何かが潜んでいるのではないのか……。 菜摘の中に思い当たる答えは一つしかなかった。 やはり、この家の二階には誰かがいる。 この家に辿り着く前に、この家の二階の窓に見た一つの人影。その人影は、顔は長い黒髪で覆われていて、白い上着を着ていたように見えた。 それは、本当に人影だったのか。 その人影を見たときに菜摘が立っていた位置とその家と…

  • 見知らぬ女(45)

    「あの……差し支えなければ教えていただきたいのですが、真衣さんのお父様は、今、何をされているのでしょうか」 「……なぜ、そのようなことを聞くのですか?」 「え?」 「だって、姉に真衣のノートを渡すのに、真衣の父親のことなんて関係ないでしょう」 「すみません……ただ、真衣さんのお母様に面会に行くのにあたって、お父様のことを知っておきたいと思って……。もし、二人の間に何かトラウマになるようなことがあって、私が気付かないうちに彼女に何か言ってはいけないことを言ってしまってはいけないと思ったので……」 自分でも苦しい言い訳だなと思いつつ、菜摘は言葉を続ける。 「それで彼女を興奮させてしまい、病状に悪い…

  • 見知らぬ女(44)

    「ノート……」 菜摘は非常にゆっくりとした動作で、ソファの右側に置いてあった自分のショルダーバッグを掴む。バッグを膝の上に乗せ、中を覗き込みながら右手を中に差し入れてノートを探すふりをした。バッグの中にはノートしか入っていない。その目は、バッグの中に淋しく入れられている一冊のノートを捉えている。それでも探すふりをし続けた。続けながら、頭の中では「どうしよう、どうしよう、どうしよう」と必死になって、この場をやり過ごすための打開策を考えていた。 これ以上時間を引き伸ばすと逆に怪しまれる。 菜摘は覚悟を決めてノートを掴む。それをバッグの中から引き出そうとする。だけどその右手は途中で動きを止めた。すで…

  • 見知らぬ女(43)

    「真衣も……」 男が発した言葉に、菜摘は思わず視線を上げる。 「久保田さんのような友達がいて、良かった……」 テーブルの向こう側から、その言葉とは裏腹に感情の読み取れない冷徹な細い目がじっと菜摘のことを見つめていた。菜摘はその目に射竦められながら、「そんなことは……」と首を横に振る。 「いえ……。東京の高校で色々とあって、そして福井まで引っ越してこなければならなくなって……。その新しい高校で久保田さんのような友達に出会えて、本当に良かった……。真衣から久保田さんの話を聞くことは無かったですが、真衣も心の中ではとても感謝していたと思います」 その男の目の中には最後まで、「良かった」という感情も、…

  • 見知らぬ女(42)

    9 「真衣は……とてもおとなしい子でした」 菜摘の口は、まるで独立した人格を持ったかのように本人の意志とは別に動き出す。 「とてもおとなしい子でしたが、クラスの皆から好かれていました」 そして、記憶の中の真衣の姿を元にして、嘘で塗り固められた架空の真衣の高校での姿を語りだしていた。 菜摘自身、「こんな高校生活だったら真衣は死ぬこともなかったし、今、自分が真衣の影に怯えながら過ごすこともなかった」と思えるような希望に満ちた真衣の姿を、なぜか懸命に目の前の男に話していた。 ただ、どうしても男の目を見ることはできなかった。 テーブルの上の湯呑みを見つめながら喋り続けた。 「真衣が私たちのクラスに転入…

  • 見知らぬ女(41)

    唯一の生きる糧だった真衣を失い、狂っていく真衣の母親。 その様が、菜摘の目の前に一つのイメージとして鮮やかに浮かんでいた。男の話から作り出されたそのイメージは、不思議な現実感を伴って菜摘に迫ってくる。ついさっき写真で見たばかりの彼女の顔が恨めしそうにこちらを見つめながら、菜摘の前にゆらゆらと揺れているのが見える気がした。その顔を見続けているのが耐えられなくて、菜摘は思わず目をぎゅっと閉じる。だけど顔は、目を閉じた暗闇の中で先ほど以上の鮮明さで菜摘を見つめていた。 「どうしましたか?」 男の問いかけに菜摘は目を開ける。男は怪訝な表情を顔ににじませながら、菜摘の方を見ていた。 「いえ。何でもありま…

  • 見知らぬ女(40)

    男が語る異様な世界と、その異様な世界に生きる異様な人たち。 静かな口調で語られるその世界は、菜摘がこれまで生きてきた世界とあまりにかけ離れていて、その世界をなかなか自分の中に受け入れることが出来なかった。まるで目の前の男が空想の世界の話をしているかのような気がした。だけどその一方で、菜摘の前に現れた白い影は、そのような異様な世界にこそふさわしい住人のようにも思えた。そしてその白い影は、一つの現実として菜摘の前に何度も立ち現れていた。 「そ……それで、真衣さんのお母様はどうなられたのですか?」 男は眉間に小さな皺を寄せて、微かに首を横に振る。 「もはや私の手に負えるような状態ではなかった。私は姉…

  • 見知らぬ女(39)

    部屋の中はしんと静まり返っている。 菜摘の心の中では様々な感情が波を打って流れていた。その渦の中に身を任せながら、それと同時に、これまで目にした白い影の姿を思い返していた。公園のブランコに座っていた白い影。マンションの前の街灯の下に立っていた白い影。菜摘の部屋のドアの前に立っていた白い影。そしてF高校の校舎の前に立っていた白い影。その記憶に刻み込まれた白い影の中に、目の前に置かれた写真の中に写る中年女性の面影を必死に探した。だけどどうしても、決定的な証拠をそこに見つけ出すことはできなかった。 このままこの写真の前で立っていても仕方がない。 もともと座っていたソファに戻ろうと振り返りかけたが、最…

  • 見知らぬ女(38)

    「この写真立ての中の写真は……真衣さんと、真衣さんのお母様の写真でしょうか?」 「……そうです」 写真の中で並んでいる二人の女性。二人の女性のうちの一人は真衣であり、それならもう一人の方が真衣の母親なのだろう。だけど写真は小さく、菜摘の座っているソファからはその写真の中の顔はよく見えない。真衣の母親はどのような女性なのか。それをどうしても今ここで確認しておきたかった。 「近くで見ても、よろしいでしょうか?」 菜摘の申し出に男は特に気に掛けることもなく、「構いませんよ」と事務的な口調で答えた。 菜摘はソファから立ち上がり、背後に置かれた棚にゆっくりと近づいていった。 棚の上には三つの写真立てが横…

  • 見知らぬ女(37)

    先ほど男が口にした話について、何か心に引っかかるものがあることに菜摘は気付いた。 何だろう。何かがおかしい。 だけどそれが何なのか、分からない。 菜摘はテーブルの上に右手を伸ばし、湯呑みを掴む。再びお茶を飲む振りをして時間を稼ぎながら、男の話を思い返す。心に引っかかる違和感の正体を探した。 男は離婚して、この家に一人で住んでいたという。そこに真衣と真衣の母親が二年前に移り住んできた。そして男、真衣、真衣の母親の三人の生活が始まった。だけど真衣は、一年前の高二の冬に亡くなっている。 今、男は確かに、現在はこの家に一人で暮らしていて他には誰もいないと口にした……。 簡単な話だった。 それなら真衣の…

  • 見知らぬ女(36)

    「失礼します」 菜摘は目の前に差し出されたお茶に右手を伸ばし、湯呑みに軽く口をつける。 せっかくお茶を出してくれたのだから、少しでもいいから男に心を開いてもらおうと形の上だけでもお茶を飲むポーズを取る。だけど頭の中では、「どのように真衣の話に持っていこう。いきなり真衣の私生活や家族のことを訊いたら、男は警戒心を抱いて口を閉ざしてしまうかもしれない。どのように話を繋げれば、私の聞きたいことが聞けるのだろうか」と手元の湯呑みを見つめながら必死に考えていた。 菜摘が湯呑みをテーブルの上に置くと、狭い部屋の中は途端に静かになる。頭上の蛍光灯から発せられるジーという微かな音と、男と菜摘自身の呼吸音がやけ…

  • 見知らぬ女(35)

    8 「客が家に来ることなんて滅多になくて、こんなものしか無いですが……」 男が湯呑みに入れたお茶を、菜摘の前のテーブルの上に置く。自分の前には何も置くことはなく、お茶を乗せてきた小さなお盆を膝に抱えるようにして、男は菜摘の真正面に置かれたソファに座った。 「すみません。お気遣いなく……」 菜摘は小さく頭を下げた。 応接室のような狭い部屋で、菜摘は男と向き合って座っている。 その部屋はひどく殺風景な部屋だった。ソファが二つ、小さなテーブルを挟み込むように置かれている。他は小さな棚が部屋の隅に一つ置かれているだけだ。その棚も一番下の段にハードカバーの本が数冊置かれているだけで、他の段には何も入って…

  • 見知らぬ女(34)

    いくら待っていても、やはりインターフォンからは何の応答もなかった。 留守だろうか。家には誰にもいないのだろうか。 先ほど、この家の二階で見た人影。その人影を見たのは一瞬の出来事だった。本当に見たのかと誰かに改めて問い詰められたとしたら、菜摘には「確かに人影を見たのだ。そして窓を見ている私の視線に気付いて、窓の奥に隠れたのだ」と言えるだけの自信はすでに無くしていた。 ただ、さっきからずっと、誰かに見られているような居心地の悪さを感じる。特に何か根拠がある訳ではなかったのだが、まるで、捕殺者が獲物を狙って陰からじっと観察しているような不気味な視線を感じていた。 もしかして……。 菜摘はぱっと顔を上…

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