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  • カシミヤにたどり着けない

    冬になると毎年のようにカシミ屋さんの前には、長い長い行列ができた。厳しい冬を越すために、唯一無二と言える温もりが求められたからだ。当時の人気はそれは凄まじいものだった。家族で並んだとしても、先頭までたどり着けることは、ほんどなかった。 「本日はここまでとなります」 あと一歩のところで、完売が宣言された。旬のマフラーへの道程は思った以上に厳しかった。 「隣に行きましょう」 「イズミヤ嫌だ。カシミアがいい」 「2階のパレットにもいいのがあるかもよ」 「パレットやだ。みんなカシミアだもん」 「よそはよそ。うちはうちよ」 「何それ? 当たり前の繰り返しじゃん。意味ないじゃん」 「A=A 公式の基本よ」…

  • ライスボール(感動大一番)

    「いよいよ待ちに待ったこの時がやって参りました。今までの時間はまさにこの時のためにあったと言えるでしょう。待ちわびたほど期待はより大きく膨らみ、その向こうには生を実感する感動が約束されているのではないでしょうか。そこに感動があるならば見届けようとするのが人間だ。この大一番を待たなかった人間がいるだろうか。ここを素通りできる人間がいるのだろうか。いやそんなものはいるはずもない。私はここで自信を持って断言します。この待ちに待った大一番。いったいどんな中身のあるものが見られるか。駆け出しがあれば結びがある。それが人生の成り立ちと言っても過言ではありません。 さあ、いよいよ興奮が最高潮に達して参りまし…

  • エンドレス・チャリン

    憂鬱は時を長くする。単に時だけが引き伸ばされたとして、誰が幸せと呼ぶだろう。楽しいは時を速める。夢中になれば時を超えて未来へ進むことができるのだ。それは死への接近に等しいが、生まれるものがあることも見なければならない。駆け抜けて行くものは夢のように儚い。時は惜しいほどに楽しいものが含まれている。それは幸せと呼ぶことだってできるはずだ。未来は未知で危険なものかもしれない。だけど、時々、僕の胸は高鳴っている。現れるであろうものに期待を寄せて、僕は一歩前に進み出る。小さなコインを握りしめて、ガチャの前に立つ。 チャリン♪ 入れたコインが返ってくる。 もう一度、気を取り直して。 「チャリン♪ 今は取っ…

  • 中華ドロボー

    「アンドロイド?」「iPhoneだけど」「17?」「12」「古いんだね」「まだ新しいよ」「ちょっとみせてよ」「えっ?」「うん、やっぱりあったかいね」 少し暖を取らせてほしいと言って猫は私のアイフォーンを枕にした。 「もういい?」「もう少しゆっくりさせてくれないかな」 そう言って猫は譲らなかった。 「お客さん、何しましょうか?」「冷やし中華」 冷やし中華。その言葉を聞いて枕の上にいた猫は、目を閉じたまま身震いした。風を送ったわけではない。直接水をぶっかけたのでもない。微かに猫を動かしたもの。それこそが詩の力ではないだろうか。理屈でなく、長い説明も必要とせず、ただの一撃で遠く離れたものを結びつけ、…

  • 敗軍の将(トリプル・ショック)

    「まで。遠藤八段の勝ちとなりました」 なんと! 私はまだ自分が負けたという事実を信じられないでいた。生まれて初めての反則負け。痛恨の3手指しだった。 「いやー、ついポンポンポンと指しちゃったよー」 バカらしさ、恥ずかしさ、複雑な感情が入り交じって、私はいつになく陽気に振る舞っていた。 「ああ」 八段は、敗者のように小さく頷くだけだった。 そう。本来なら「負けました」と言って頭を下げるべきは向こうの方だろう。本当にあと少しで勝ちだった。そもそも形勢差は圧倒的で、物わかりのいい棋士ならば、とっくに投了していてもおかしくはなかったのだ。私は既に半分勝った気になってほとんど夢見心地だった。それで勢いに…

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