カシミヤにたどり着けない
冬になると毎年のようにカシミ屋さんの前には、長い長い行列ができた。厳しい冬を越すために、唯一無二と言える温もりが求められたからだ。当時の人気はそれは凄まじいものだった。家族で並んだとしても、先頭までたどり着けることは、ほんどなかった。 「本日はここまでとなります」 あと一歩のところで、完売が宣言された。旬のマフラーへの道程は思った以上に厳しかった。 「隣に行きましょう」 「イズミヤ嫌だ。カシミアがいい」 「2階のパレットにもいいのがあるかもよ」 「パレットやだ。みんなカシミアだもん」 「よそはよそ。うちはうちよ」 「何それ? 当たり前の繰り返しじゃん。意味ないじゃん」 「A=A 公式の基本よ」…
2023/12/31 18:12