恋なんて簡単ですよ。AIがそんな文字を映し出すものだから、わたしはムッとしてキーボードを叩いた。では堕としてごらんなさいな。先ほどまで異常に動いていたPCが静かになり、小さくただピッと音を鳴らした。いいですよ。古都子は三十路手前の女だ。容姿は彼女に言わせれば下の下らしいが、実際の所はもっと見目の良いものだ。何故そのような認知の歪みが出るのか?それは彼女自身のプライドのせいだろう。今も目の前のPCと...
何気ない一日だったと思う。こうして二人で歩いて、ただランチを二人で食べて。他愛ない話をして笑いあって夕方まで公園で話をしてた。恋人とは呼べない距離、二人の間にあるパーソナルスペースはお互いを拒絶してるみたいに近づくだけでビリビリと音がする。一ヶ月前に出会った。雨の日だった。その日は朝から雨で、やたらと冷たい雨が降っていた。洗濯物は乾かず室内で乾燥機だけがごうごう動いてる音がしていて、私は重い腰を上...
人型アンドロイドにも飽きてしまった。博士は目の前に寝転んでいるふわふわした毛並みの猫アンドロイドに手を伸ばすと、その毛皮に指を沈めた。不思議なことに暖かい。温度センサーがついているらしく、本物の猫と変わりはない。違うのはこの猫に必要なのは時々陽に当てることだ。陽を浴びることで充電が半永久的に可能らしい。猫の首元に指を触れさせるとゴロゴロと鳴く。今では家庭の殆どがこの猫らしい。生きている猫は殆ど皆無...
高速を車で飛ばしている、随分と走り続けているのに気持ちばかりが逸ってしまう。あの赤い車を抜かせば、そんなスピード狂のように僕は狂っている。早く君に会いたいのにハンドルを持つ手が震えている。共感、シンパシー。君が教えてくれた言葉だ。あの日は雨で僕は部屋の中で君を抱きしめていた。温もりが欲しくてたまらなくて心が飢えていたのかもしれない。手の中で柔らかい君の体が動くのをたまらずに抱きしめていた。指先が柔...
夏の空は高い。太陽はじりじり焼き付けるようにアスファルトを照らし、幼子の手を引く母親の背中を焼いていた。もう三時を過ぎているというのにまだ暑い。帽子を被っているのにだらだらと汗が流れ、繋いでいる小さな手を離したくなる。小さな娘は暑いはずなのに私の手をしっかり握り、時折顔を上げては目を合わせて嬉しそうに笑う。何がそんなに楽しいのか、暑さのせいなのか優しい気持ちすら消えうせていた。少しくらい雨が降れば...
『おっそいなあ・・・。』本多行は待ち合わせ場所の店の前で周りを見渡した。男女二人が並んで歩いている。そういえばこの辺りはデートスポットだ。彼女が選んだ場所だし華やかな雰囲気はこの季節に合っている。十二月、街は緑と赤のクリスマスカラーにキラキラした装飾が多く見られる。彼女なら好きなはずだ。ちょうど待ち合わせの店のショーウィンドウには大きなクマのぬいぐるみが飾られている。両手にはメリークリスマスとメッセ...
ロケットは随分と長く飛んでいた。位置情報が分からないようにとのことで周回をぐるぐると続けている。乗客の何割かは青ざめた顔でシートにもたれこんでいた。ロケットの窓からは何も見えない。シールドが張られていて到着するまでお楽しみといわんばかりだ。ちなみにこのロケットに乗っているのは数十人ほど。WaX7a01N0xx4i//ma、この島はそう呼ばれている。随分前からレッドリストに指定されており、世界保健機関だけが立ち入る...
暗闇に沈む一輪の花。ゆっくりと水泡に囲まれながら落ちていく。静かに音も立てず、ただゆっくりとゆっくりと。光りが差し込む場所などない。けれど花は小さな光を放ち自身を魅せつけている。暗がりからそれを見つめる者たちに。水の流れが変わったように遠くから水疱がつうと線を引く。それが渦を巻いて花に触れると、花はくるりと渦に乗って回り始めた。花びらについた水疱が回転で花から離れて周りを踊っている。岩陰で見ていた...
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恋なんて簡単ですよ。AIがそんな文字を映し出すものだから、わたしはムッとしてキーボードを叩いた。では堕としてごらんなさいな。先ほどまで異常に動いていたPCが静かになり、小さくただピッと音を鳴らした。いいですよ。古都子は三十路手前の女だ。容姿は彼女に言わせれば下の下らしいが、実際の所はもっと見目の良いものだ。何故そのような認知の歪みが出るのか?それは彼女自身のプライドのせいだろう。今も目の前のPCと...
旦那様、わたくしは言ってない事がございました。本当は言うつもりなど存在しなかったとお思いでしょうが、本当に旦那様はわたくしをよく知っておいでです。結婚式の後のことです。わたくしは朝から結婚衣装に身を包んで、昼、夜と旦那様の隣におりました。本当にクタクタで、旦那様はわたくしと目が合うたびに、大丈夫か?と心配をくださいました。ええ、大変嬉しかったのを覚えています。疲れきっておりましたから、お部屋に戻っ...
僕は毎日を生きている。朝起きて食事をして、出かける支度が済んだら家を出る。でもその前に君の部屋のドアを叩いて、行って来ますのキスをする。笑っているように見えるから機嫌がいいのだろうと、僕は仕事をして夕方には家路に着く。そしてまた食事をして眠る。僕の住む町は煉瓦の壁が続いていて、どこもかしこも赤い。高い場所から眺めると、迷路みたいだと観光客が言っていた。僕は迷路の意味がわからずに聞いたっけ。観光客は...
世界は遠回りを続けている。星がこの町を一回りしたとして、この地面には美しい影が映り、光が差し込んでは消えていく。風が吹き、全てを包み込んで、木々を揺らし、草花が揺れると小さな花びらの中から羽虫が飛んでいく。鮮やかな景色の中で瞼を閉じるだけだ。世界は遠回りをしている。夢を見る。世界の夢を、見続けている。どうしてここにいるのかも分からずに、ただここにいて夜空を見上げている。星が流れ、願い事をすれば叶う...
老人は一人小さな箱の前にいる。箱には貝殻の混じった砂と赤い土が入っている。それを時折、手に取っては捏ねて丸めてを繰り返す。老人の手元には得体の知れない形のものが転がっている。幾つかは少し壊れて歪に見えた。老人は手の平で丸めて小さな団子を作る。もう一つ小さな塊を捏ねると細長い形を幾つか作った。それを小さな団子につけていく。形を整えて手の中に包み込むとふうと息を吹き込んだ。すると手の中の団子がぴくぴく...
森を火が覆いつくし、煙を上げて燃え上がる。木々のざわめきの中で動物達は一斉に駆け出した。皆同じ方向へひたすら走っている。小さな獣は大きな獣の背に乗り、互いを助け合い、灰が降りしきる森を走る。枝葉が燃え、火がついたまま落下する。その隣の木にはルリビタキの巣があった。小さな小鳥は緑の葉を銜えてゆっくりと飛び立つ。青い羽根を広げて、動物たちの後を追った。『誰が燃した?誰が森を?』灰が降りしきる小道を道化...
戦ばかりで人が死ぬ。お触れが出る度に人々の心は枯れ果てて、遂には傭兵が街に住むようになった。町の人々は始めの頃は喜んだ、彼らのおかげで戦に出ずとも幸せに暮らせるのだと。しかしそれもすぐに終わりが来た。傭兵は当たり前の権利だといい、酒場や店で踏み倒し、道を歩く女を見つけると自分達の下へ引っ張り込んで犯してしまう。酷く暴れたために殺された者もあり、時折町の片隅に身包み剥がされて棄てられている。人々は傭...
町外れの小さな教会には誰もいない。いや、たった一人牧師だけが悔い改めている。石造の前に跪き、両手を組んで頭を垂れていた。明朝にはきっとまた多くの子供が川で見つかることだろう。耳を澄ませると今朝からの雨がまだ酷く降っている。また増水は免れない。昨日説教した言葉を思い出して牧師は顔をあげた。ふと床板がきしむ音がして牧師は振り返る。そこには一昨日酒場であった男がいた。その男は若い紳士で、神が端整を込めて...
鶫が空を飛んでいる。街を挟む石の橋を旗のかかった棺が運ばれている。橋の下は昨日の大雨で増水し川べりを削っていた。雨は長く続いている。だらだら降ったかと思うと、急に大雨になり、嵐が来る。風が酷く吹く時は、街の家々はどこかしら不具合が出た。雨漏りに屋根の欠損、それから川の増水を気にした老人が行方不明となり、その週末あたりには死体で見つかった。老人だけならまだしも子供が見つかると街は通夜のように静まり返...
愚か者どもの行進だ。パペットが奇妙で奇抜な服を着てラッパを吹きながら人々を引き連れている。ぞろぞろと歩く愚か者どもの服はボロボロで、金も家もない浮浪者だ。街の者たちはそれを屋内で眺めている。ほんの少し開けた窓の隙間から、ドアの隙間から、何も言わずただじっと見ている。パペットは時折道の端にある家々に視線を投げる。それは恐ろしい目つきで、見られたものたちは瞬時に戸を閉めた。今までも愚か者たちはこの街に...
夢は夢、まどろみの中でみる国の安寧など望んではいない。全ては奪いつくすためにあるのだと、人々は手に武器を持ち、知らない者は敵だとする。世界はゆっくりと闇に落ちていた。教会の屋根の上に何かがいる。地上では殺戮と略奪が続いているのを、それは普通の光景だというような顔で見つめている。人々はそれには気付かない。目の前にある欲望と飢えに興奮している。屋根の上のそれは足を組むと小さな声で歌い始めた。聞いたこと...
血だまりに座り込んでいたアライはその場に倒れこみ、ゆっくりとまた参加者たちのほうへリクドウは歩き出した。参加者達も今度ばかりは絶望し、中には神に祈る者までいた。雨は少し小降りになり始め、それでも狂乱は続いている。一番隅で泣いていた男をリクドウは引っ張り出す。優しい口調で宥め始めた。『君は怖くないのかい?』『こ、こ、怖いです・・・。』『正直だね、いい子だね。』そっと頭を撫でてやり、その手で男の目を突い...
恐ろしい光景に参加者たちが一斉に顔を背ける。それに気付いたのかリクドウは笑った。『なんだ、助ける気もないのか。こんなに可愛い子なのに。あ、君素敵な顔をしている。ほら、もっと怒ってごらんよ?』地面に手をついて睨みつけているアライが歯を食いしばった。何かに耐えるように拳を握る。『なんだ・・・君も駄目かい?じゃあ仕方ないね。』リクドウが彼らの目の前でソメキを弄ぶ。服を剥がされてソメキの泣き声が響いてくる。...
雨雲が広がり雨が音を立てて降り出すと、公園の中は一層暗闇に包まれた。秘密のパーティの参加者たちは大きな木の下に入り、空を見つめている。少女は隣にいる女性の手を不安から握り締めると、女性は微笑んだ。『大丈夫だよ。ねえ、まだ自己紹介してなかったね。私、アライよ。』『ソメキです。よろしくお願いします。アライさん・・・私たち大丈夫なんでしょうか?私もうずっと怖くて。』『どうだろう。私にもわからない。でもソメ...
ポリスのクレームを聞き終えてうんざりした顔で対策本部に入る。カツラギは青い顔をしてラップトップの前のタカハシを見た。『どうしましたか?』『あ、カツラギさん!』タカハシの傍に近づき彼の見ているディスプレイを確認する。『これって・・・ミライの?』『そうです。ミライ君のです。ここ見てください。』『・・・?本日二十時より秘密のパーティを開始。一緒に治しましょう?』『ここも見て下さい。』指で操作しメールを開く。メ...
照明器具の横にカメラが置いてある。女は裸の体に腕を巻きつけて、先ほど脱いだ服に手を伸ばそうとした。『何をしてる。こっちへおいで。』甘ったるい匂いが充満している。女は戸惑いながら彼の手を取った。『・・・ねえ、ここあんたの部屋なの?』『そうだよ。ほら膝にお座り。』男の膝の上に腰かける。これから多分この男に抱かれるのだろうが、体の震えが止まらない。何か異常なのだ。テーブルのワインを飲み干して男は女にキスを...
ラザロたちの捜索で、公園での黒い女の怪物に変身していた女と、路地裏で少年達を殺した黒い怪物に変身していたと思われる男を病院で保護した。二人とも嫌にリアルな恐ろしい夢を見ると精神科に通院していた。彼らの事情聴取を行い、夢のような時間として話が聞けた。女は以前あの公園で被害にあった者で、トラウマを克服すべく治療を続けていたが、あの日少女が追われているのを見てしまった。女は少女を隠れて追っていたが、柄の...
あの事件以来、繁華街は夜になると人気が少なくなっていたが、それ以外ではやけに目立つ連中が集まり始めていた。店も居酒屋などは深夜近くまで開いていたがこの頃には二十四時を回るころには閉店し客を帰していた。売春倶楽部だけが煌々と看板をつけている。その前にいるのは金持ちの頭のいかれた奴かギャングくらいだった。ポリスは彼らギャングとは交渉済みで、所場代と問題さえ起こさなければ何も関係することはない。軍にもこ...
『だから秘密のパーティか。』『ええ、意味が分かるものだけが来るでしょう、日時はラザロさんたちの結果を待って決めたいと思っています・・・駄目でしょうか?』ミライは上目遣いにカツラギを見る。『駄目って言ってもやるんだろうが・・・無茶はするなよ。』『はい!』すっと立ち上がりカツラギはドアに近づいた。『俺は一旦席を外す。戻るのは明日・・・になる。悪いがそのつもりで。』そう言い残して彼は部屋を出て行った。二人きりに...
繁華街での事件は絶望的だった。多くの人々が目撃し皆が口々に噂する。デマも何もかもを食い尽くしたかのような話が吹き荒れている。繁華街は一時的に立ち入り禁止とされ、大掛かりな清掃が行なわれた。ポリスでも何人死んだのか把握できておらず、行方不明の連絡が後を絶たない。またこれも遊びの一環として使われ、状況は酷くなる一方だった。対策本部ではカツラギの話を聞いたタカハシが大体を纏めてくれていた。しかし防ぎよう...
久しぶりに真面目にお絵かきを実施中。楽しいけど難しい。良い点は、登場人物の顔が見えることでなんとか性格が見えてきたことかな。お絵かきはツイッターで上げてます。Gdmtpt作ったばかりだから好き勝手書いています。...
『だめです!絶対だめ!』バスルームに立てこもったカイルの声がドアの前にいるシヴァの顔を曇らせる。『カイル?大丈夫だから。』『それでもだめです!』シヴァは溜息をつくとドアに手を当てて額をこつりと当てた。『わかった。でも風邪をひかないうちに出てきてくれ。』なんでこんなことになったのか。シヴァは居間の暖炉の前に座るとうなだれた。シヴァにとってはそんなに大事ではないのだが、カイルのとっては一大事のようだ。...
藍色の空が紫に変わっていく。そこから漆黒に染まる頃には星がゆったりと顔を出す。今夜の月は丸く、見上げた戦儀雨芽(そよぎあめ)は顔色をにごらせた。コートの襟を立てて視線を低くする。長い前髪と眼鏡で顔を隠すと早足に歩き始めた。まずい、まずい、まずい。こわばって足が縺れてしまう。不安からかポケットに突っ込んだ両手が小刻みに震えている。こんなことなら独りで外出するのではなかった。人通りの多いはずの道に出て...
高校二年、如月(きさらぎ)ユエ。新学期にクラス替えは少し憂鬱だった。仲の良かった友達と離れて、殆ど面識のないクラスメイトたちと馴染めるかはユエの中で問題だったが教室に入るとどこか今までと違う雰囲気に驚いた。『おはよう。今日からよろしくー。』教卓の傍にいた女子の一人がユエに笑いかけると他の子たちも同じようにする。『よろしくね。』顔を確認しながらとりあえず自分の席に着く。出席番号で振られた席は窓際の方...
メイリンシャン深夜過ぎ、小さなバックを肩からぶら下げてトウコはいつもの店のドアを開ける。バーはこの時間そこまで混み合っていない。カウンターに座って注文をすると、やってきたグラスをちびちび舐めた。舌の上で味を楽しんでからごくりと飲み干す。ふと視線の先にケイがいた。今は可愛らしい女の子と仲良く飲んでいるようでトウコが静かに手を振るとケイも同じように手を振った。ケイとは少し前にこのバーで出会った。格好良...
抱き合えるならそれでいい?彼がそう言ったので私は目の前のグラスを飲み干して彼の胸に飛び込んだ。トウコは毎夜日付が変わる頃にフラフラとバーに現れてはカウンターの椅子に座り、ブランデーを頼む。財布の中は空っぽで、このバーにはボトルが入れてあるから来ているだけでなくなれば当分来なくなる。ボーイがそろそろなくなると言っていたからあと少しの命だろうか。毎日の労働にうんざりしてカウンターに頬杖を着いて向こうに...
よく晴れた午後だ。昨日は星が落ちたとニュース番組が大慌てで、よくよく見れば僕が住んでいる家の近所の寺だった。だから朝から近辺は騒がしくTVではよく知る場所が映ってた。学校ではその事で持ちきりで、住所が近いと知った連中は僕の周りに寄ってきたけど僕の対応が悪かったのかさっさと掃けてしまった。実際星が落ちたことよりも重要な試験、新しい魔法の取得のために勉強が必要だったし、それともう一つ、引越し先を決めな...
ぴゅうと風が吹き込んで木々を揺らしている。赤い花の刺繍の着物を着た山神は小枝の上で座り遠くを見つめていた。もうこうして数年待ちわびているのに帰ってきやしない。山のふもとから嬉しそうな顔をして上がってくるのは小さな子供ばかりで待ち人は現れずだ。子供たちはりんごの頬をして山神を見上げた。『かみさま、おらんちのりんご食うか?』頬と同じ色をしたりんごを着物の胸から取り出してむんずと掴み持ち上げる。山神はふ...
文月、高良さんのお嫁さんが来た。襖越しに見た綺麗な人。私が目利きをしていたと聞いて御礼を言ってくれた。大したことなんてないのに。申し訳なさそうにして、私のほうがろくでもないのに。雪久ちゃん、可愛い。可愛い声で奨ちゃんって呼んでくれる。子は生せなかったけどできることはあるかしら。可愛い可愛い雪久ちゃん。葉月、体が痛い。嘘をつくのは得意だけど高良さんにはすぐわかってしまう。お医者も呼んでくれて、私は幸...
暗い闇の中、外灯がほんのりと照らしているだけで静寂だ。時々明かりのついた家から人の声がするが感じられるのは繋いだ手の暖かさ。大きな手に包まれている。よくみると指と指の間に重ねられている繋ぎ方はよくいう恋人同士がするものらしいけど、琥珀は緊張でそれすら何も言えずにいる。多分、気分が高揚している?見上げた彼の顔は暗くてわからないけどそんな気もしている。まだ恋人でもない女の手を繋いでいるのはいつものこと...
それは突然のことだった。珠の怪我が治った頃、琥珀は昼からずっと読書をし続けていたが、夕方ごろに帰宅した雪久に声をかけられた。返事もままならぬ状態で、家にいるよりはいいでしょう?という珠の勧めもあり、よそ行きの着物に着替えると雪久につれられて出かけることになった。運転手のいる車に乗せられて見知らぬ家に着く。表札には真舌とあり、声をかけてから玄関を開けると中には婚礼衣装を着飾った男がいた。すらりとした...
会話が途切れ、藤田が断って部屋を出て行く。どこか寂しげな顔をした瑪瑙に気付いて陽明は苦笑する。『何故、引き止めないんですか?』しゅんしゅんと鳴る薬缶からお茶を湯飲みに注ぐと瑪瑙の前に差し出し、自分の湯飲みにも注ぎ込む。暖かい湯気が昇る湯飲みに彼女は手を伸ばすと眉をひそめた。『まだ、仲直りができてなくて。』そういえば、少し前に藤田が何かしてしまい喧嘩したようなことを言っていた。『…そうですか。それは...
続木清は和室で花を活けていたが、苛立った足音に顔を上げて廊下を覗き込む。洋館の廊下は美しく陽が差し込んでいるが、向こうから歩いてくる母・美鈴の様子はそれとは正反対だった。『清さん!何をしているの!』癇癪を起こしている声に清は苦笑しながら立ち上がると美鈴を迎えた。『お花を活けていました。どうかしましたか、お義母さん。』とりあえず調子を合わせて話をすればじきに治まるだろう。『雪久の婚約者、あの垂涎寺の...
『それでどうだった?』部屋に戻るなり、小鹿は興味津々の顔で雪久に質問する。『先生…ご自分でなんとかするって話が俺に流れただけでそんなに他人事にならないでくださいよ?』『アハハ、すまんな。で?瑪瑙さんにどう話したんだ?』雪久は椅子に座ると煙草に火をつけた。『何も。実際何も言ってません、彼女は少し気付いているようでしたが、陽明さんのことも娘のことも何も言ってません。』『なるほど…瑪瑙さんはそれで納得を?...
続木の家の前、琥珀は雪久に連れられ歩いていた。垂涎寺から持ってきた荷物は雪久が片手で持ち、呆然としたままの琥珀の手を引いている。少し前から頭が整理できず目の前がぐるぐる回っているようだった。話し合いに行ったはずが、目の前の続木雪久が一言言っただけで収まってしまい、終いには琥珀を貰うと言った。和尚の父と母はそれならと送り出してくれたが、いまだ琥珀の気持ちは揺れたままだ。玄関を開けて使用人の珠に荷物を...
こんばんは、あけましておめでとうございます。今年も沢山書こうとは思っているんです。新年早々に三年前に作ったプロットの結末が降りてきまして爆笑しながら書いていました。なんでこんな悩んで書いていたのか謎ですが。けれど一つ問題なのは、現実にあるものの名前を使うかどうかでそれを入れるのが悩ましい。そして表現をもっとフラットにすべきかどうか。あまりエッジを利きすぎると危険な気もします。...