感想『或る少女の死まで〜他二篇』室生犀星著〜痕跡本のつなぐもの。リアルタイムにタイムリープする室生犀星と私と或る少女。
古本に、前の持ち主の書き込みのある本を、痕跡(こんせき)本というらしい。 店頭の100円均一で買ったこの本にも読後、巻末に書き込みのあることに気づいた。 ------------------------------------------------------------- 79 3/22 ← はとと西武にいった日 素直で きれいな 小説だ。 読みやすくて 教科書に でも取られそうだな.とか思ってたら ユリちゃん が.モギテストでみたことあるって言ってた。 或る少女の死まではちょっと たいまんしてよん だけどもっとしっかり読んだら いろいろ 意味 あるのかも。 幼年時代は ほんとに 透明で …
ポール・セロー著『極北』。 無人の店、窓ガラスはすべて割れている。ビルはもぬけの殻。手入れもされず、そもそも誰いなくなって長い。世界的に都市は廃墟となっており、おそらく電気や水道などのインフラは通っていない。道路は荒れ、人はほとんど住んでいない。そんな死滅状態になって、おそらく数十年が経っている。 主人公はメイクピースという風変わりな名前をしている。平和主義の父親がつけた名らしいが、どうやら本人は気に入っていないらしい。この終わりかけた世界のある都市で、そこの廃墟に居を構えている。名前のわりに生きるためには闘いを厭わないタフなやつだ。おそらく他に近隣一帯に住んでいるものはいないと思われる。まず…
感想『コーヒーもう一杯』山川直人著〜あなたのそばで何があっても寄り添ってくれるものそれはそうコオヒイ。
コーヒーが好きだ。 好きがこうじてカフェで6年ほど勤めていたことがある。そう言うと人は、豆やら淹れ方についてあれこれと聞いてくるのだが、実はよく知らない。 私は舌が馬鹿なので、インスタントのコーヒーの方が豆から挽いたものより美味しく感じる。ミルクと砂糖もガブガブ入れる。沸騰させると湯の成分が壊れるらしいが、猫舌のくせに鍋でグラグラ沸かした硬いお湯で淹れるコーヒーばかり飲んでいる。電気ポットで適温に調整されているお湯なぞ、心に響かない。 さらに言えば、ああ、あの店のあの不味いのが無性に飲みたい・・・。なんて時もあったりする。振り返って見ればコーヒーなるものは不思議な飲み物で、私の思い出にはどの場…
感想『わたしがいどんだ戦い1939』キンバリー・ブルベイカーブラッドリー著〜障害を持つ少女が、虐待や戦争に健気にも戦いを挑む。勇気という武器。ありったけそして唯一のもので。
1939年、第二次世界大戦のさなか。ロンドンに住む十歳の少女エイダは、母親から虐待を受けている。右足に障害を持って生まれ、彼女を人目にさらしたくない母親はエイダを監禁し、ことあるごとに暴力をふるう。そのためエイダは心に傷を負っているし、外の世界のことを何も知らない。<草>とか<木>とかそういったものも判らない。 彼女にはジェイミーという弟がいる。六歳。ジェイミーは健常者のため、外には出してもらえる。だがエイダと同様に暴力は振るわれている。十分な食事も与えらえていない。そのため外で盗みを働いている。 ある日エイダは、ジェイミーの通う学校で集団疎開があることを知る。ロンドンの爆撃が不安視されている…
感想『黒い時計の旅』スティーブ・エリクソン著〜超弩級の読書体験がここにある!歴史if&パラレルワールドものの大傑作!!
歴史の源流に突如見たこともないほどのどす黒い血が流れだす。 人がそれほどの悪を、狂気を、死を もたらすことができるなど、いったい今まで ほんの少しでも ほんの少しでも 考えてみたことがあった者などいたのだろうか? 赤毛の大男 バニング・ジェーンライト。 血塗られた出自を持ったその男。 彼がそのどす黒い血に触れたとき、世界は別の産声をあげた。 彼がその産声を聞いたとき、20世紀は二つに割れた。 彼のもとに二つの世紀から女が訪れ始める・・・。 一人目はアマンダだった。 二人目はモリー。 ローレン、ジーニン、 キャサリンにジャネットにリー。 だがドイツの兵隊が浮浪者を痛めつけている通りで 蝋燭店の上…
感想『啄木歌集』久保田正文編〜〈歴史に残る無邪気・邪気〉一度でも 我に頭を 下げさせし 人みな死ねと いのりてしこと。
石川啄木の歌は他の誰とも似ていない。 誰でも共感できる体験を歌っているのに、誰にも真似することができないというのは実はとてつもなく凄いことだ。だけども啄木は別に偉い男ではない。むしろ駄目な男だ。だがそれを歌の世界では隠そうとしていない。そこが彼のいいところだ。 途中にて ふと気が変わり つとめ先を 休みて 今日(けふ)も 河岸(かし)をさまよへり。 わが抱く 思想はすべて 金なきに 因するごとし 秋の風吹く 彼の眼はとても澄んでいて、なんというか世に言う当たり前のことを当たり前と思ったりしないところがある。そこが多分、啄木の歌がもつ輝きの秘密だと思ったりもする。 ひと夜さに 嵐来たりて 築きた…
モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫) エルネスト・チェ・ゲバラが革命家となる前。23歳の時の貧乏旅行記だ。医学生だった彼と、親友であるアルベルトは 冒険と、日常からの逃避のため、オートバイによる北米旅行を思いつく。そのときに書かれた日記をのちにゲバラ本人がものがたり風に書き改めたのが本書。 これは人を感心させるような偉業の話でもなければ、単なる「ちょっぴり皮肉な物語」でもないし、少なくともそれは僕の望むところではない。これは、願望が一致し夢が一つになったことで、ある一定の期間を共有することになったそのときの、二つの人生のひとかけらである。人間というものは、一生のうちの九か月間の間に、最…
スローターハウス5 「われわれにしたって同じことさ、ピルグリムくん。この瞬間という琥珀に閉じ込められている。<なぜ>というものはないのだ。」 <時の試練>を乗り越えた本だ。 不朽の名作でもあるし、主人公の人生においてもそうだ。普通の人の千倍も時に翻弄されている。読み始めてしばらくは、しょっちゅう文面に出てくる「そういうことだ」という決め文句が、村上春樹の「僕」みたいで嫌だなあと思っていたが、これは別にスカシテルわけではない。自分の誕生と死を飽きるほど繰り返してきた男の偉大な諦念からくるものだ。 ビリー・ピルグリムは自分の意志とは無関係に自分の過去・現在・未来を行き来する痙攣的時間旅行者だ。いつ…
感想『死の蔵書』ジョン・ダニング著〜本好きにはたまらない‼️古書収集家の刑事が主人公のハードボイルド&ミステリー!!私の脳内映画館では殿堂入りの大ヒット作!!
ミステリーを読むときは自分流の決めごとがある。 脳内で、映画館を開くか否かだ。 本読みの人は、誰しも一度はやっているとおもうのだが、要するに登場人物に配役をふりわけて、脳内のスクリーンで映像化するかどうかである。上映するかどうかの決め手は主人公に好感がもてるかどうかが大きい。 本書主人公クリフォード・ジェーンウェイはデンヴァ―警察殺人課の巡査部長。36歳。腕ききの刑事である彼は、こよなく本を愛する蔵書家でもある。本に関する知識は古書店の店主たちも舌を巻くほどで、プロである彼らからDr J(ドクター・ジェイ)とあだ名されるほどだ。 『ニック・オブ・ザ・タイム』『ナインス・ゲート』のころのジョニー…
感想『久生十蘭ジュラネスク珠玉傑作集』久生十蘭著〜幻想的で、硬質で、軽妙洒脱で、残酷。著者最大の問題作『美国横断鉄路』、構成の巧みさが光る『南部の鼻曲がり』、幻想の一つの極地『生霊』収録。
幻想的で、硬質で、軽妙洒脱で、残酷。 その作風は多岐にわたり、そのどれもが超高圧にして練磨されつくしている。自然描写は美しく、情感に溢れ、語りやセリフは弾むようなリズムがある。著者の持つ特異な経歴が遺憾なくその作品に反映され、他のどの作家とも異なる久生十蘭だけの華がある。 一癖も二癖もある海千山千の人間が、ポンコツばかりの祟り神が支配するネジの足りない町や世界で、自分の気分や哲学にしたがって手足バタバタわーわー騒ぎ、泣けや笑えやの孤軍奮闘。その結果が栄達であれ、無残な死であれ、太く、短く、パッと咲き散るのが十蘭の描く物語世界の特徴だ。 本書収録作品、幻想の一つの極地『生霊』・ニヒルと友情の名短…
感想『悪魔の涎・追い求める男他八編』フリオ・コルタサル著〜短編小説でこれほどの傑作を私は他に知らない。日常から神話へ。孤高の傑作『南部高速道路』収録。
そして彼らはある時期になると、敵の男たちを狩りに出るが、それを花の戦いと呼んでいた。~『夜、あおむけにされて』より抜粋。 現実と異界が何の前触れもなしに入り乱れ交錯する。 第三者の目から俯瞰する現地報告のような無駄のない乾いた筆致が、妙なリアリティをもって読み手を作品世界に引きずり込む。優れた状況描写に反して、二つの世界をつなげる説明が著者の意図に基づき徹底して省かれていることで、コルタサルのつむぐ物語は極度に謎めき、到達した場所は他の作家の生み出すものから遠く離れた位置にある。好みが判れることは承知の上で『南部高速道路』だけは読むべきだとオススメする。 文章はとてもさりげなく、簡易な言葉で書…
原題は『Down and Out in Paris and London』。文字通り直訳すると『パリ・ロンドン貧乏記』だとか『パリ・ロンドンどん底生活』などのほうが正しいようで、オーウェル自身の体験した底辺生活を悲喜こもごもに書き記したルポルタージュ(現地報告)のような内容。 20世紀初頭のパリは失業者や浮浪者で溢れ、著者が体験する皿洗いや浮浪者体験は奴隷のような勤務体系に不潔極まりない安宿体験の連続である。つまりは<貧乏>と<人間>と<友情>の物語で、彼らは頻繁に失業する、食い詰める。 著者オーウェルはそれらを客観的に受け止め、冷静に分析し、正統に悲嘆にくれる。彼は貧に落ちても誠実な人柄で、…
感想『春にして君を離れ』アガサ・クリスティ著〜ミステリーの女王アガサ・クリスティーによる非ミステリーの傑作。+愛と哀しみのコペルニクス+
娘・バーバラの看病を終えた帰路の途中、主人公ジョーン・スカダモアは砂漠の中の寂れたレストハウス(鉄道宿泊所)で雨による足止めを食らってしまう。 アラフィフなのにしわの一本もなく、白いものの混じらない栗色の髪、愛嬌のある碧い瞳、ほっそりとしたシルエット、要するにかなりの美人であるジョーンは、読みさしの本もなく、することと言えば散歩しかないそのレストハウスで、何日にもわたってもの思いにふけることになる。 弁護士である優しい夫・ロドニーとすでに自立した三人の子供たち。自分のことは後回しにし、いつでも子供と、夫のことを優先にして力を尽くしてきたことが彼女にとっての誇りと喜びだった。充実感と幸福感に包ま…
敗戦後、石原吉郎はソ連の収容所で反ソ・スパイ行為の罪で重労働25年の判決を受ける。俗にいう<シベリア抑留>の被害者の一人だ。厳寒のシベリヤで粗末な衣服しか与えられず、足取りが遅れればすぐに死が待ち受ける死の労働を彼らは強いられた。 第二次世界大戦が終わって十年の後、石原吉郎は突如あらわれた。それまでも戦時体験を背景として詩作する詩人はいたのだが、石原は彼らとは一線を画していた。石原には戦争を、収容体験をすぎたこととしてみてはいなかった。彼はいまだに収容所から抜け出てはいなかった。いや、むしろ抜け出ることを拒絶していたかのような感じを受ける。まるで殉教者のようなその姿勢は、本書収録の散文『ペシミ…
-本書収録『心理の谷』について- とにかく楽しい!の一言だ。久生十蘭の数多い短編のなかでも特にお気に入りの作品だ。 七日ほど前にJ・K・ユイスマンの『さかしま』を読んだあたりから、どうも鬱がちにどんより落ち込んでいたのだが、以前TVでオードリーの若林が重たい内容の本を読むときは、仕事に支障がでないよう、ワンピースと交互に読むと言っていたのを思い出し本書を再読したところ、見事に気分が回復した。私はいま、上機嫌だ。 主人公 山座次郎。32歳。六井信託社員。学生時代にはどうにかなりそうな気配もあったが、今は、まるっきりそんなものを持ち合わしていない。波風は真っ平ごめん。無理は一切しない。温室の中のメ…
感想『反絵、触れる、けだもののフラボン』福山知佐子著〜泥土の様な現象の海から、絵を、言葉を感応する。絵画写真映像批評エッセイストは絵を描くように文章を書く。
反絵、触れる、けだもののフラボン―見ることと絵画をめぐる断片 極度に詩的で哲学的なため、私にできるのは陶酔だけだ。 著者が鋭すぎる感性の持ち主のため、通常ABCDの順序で理解していくはずの世界の美しさや悲しさ、その他哲学的命題をABCをすっ飛ばしてDだけ感得して直観的に理解して書いてしまう。そのため、文章は論理的であるにもかかわらず、なかなか理解しがたい。感性の哲学、そして絵画論なのだ。 本書の著者、福山知佐子は画家であるが、本書のように絵画論も書けばエッセイ・批評も書く。亡き師毛利武彦との交感を記した文章は感動的だ。 誰かが死んだとき、そのとき、その人の眼の中の絵は、長い時間の記憶はどこへい…
感想『青と緑』ヴァージニア・ウルフ著・西崎憲編・訳〜ヴァージニア・ウルフの入門書として最適。これはもうVRでは⁉️傑作『ボンド通りのダロウェイ夫人』。
『ボンド通りのダロウェイ夫人』 ※引用はすべて本作より抜粋したものです。 この作品は傑作だ。正直タイトルはなんの面白みもない。なんの期待もしていなかった。内容もほとんどない。アラフィフのダロウェイ夫人がただ手袋を買いに行くだけの話。〈つまらない〉そうなるだろうと思っていた。 しかし読みすすめるうちに、戦慄しだす。人の意識がそのままにタレ流れている。終始いけないものを読まされている。おそろしく明け透けで、ある意味おそろしく誠実。このようなものを人に読ませようとする作家はあまり知らない。物を語ってない。人間のこころをただ見せられている。拒むことはできない。ナマの人間の思惑を、伺い知ることは通常でき…
感想『塚本邦雄』島内景二著〜『十二神将変』の復刊で話題の塚本邦雄。麻薬のような歌多数。錐・蠍・旱・雁・掏摸・檻・囮・森・橇・二人・鎖・百合・塵(左記短歌。読みは記事内にて)。
<少年時代、私は一通の手紙で彼と出会い、彼の「楽園」に案内されたのだった。塚本邦雄は、実際に逢うまでは実在の人物かどうか、私たち愛読者にさえ謎であった。〜本書より抜粋。 上記は塚本と15年の間友人とも師弟ともいえる関係にあった寺山修司の言葉。寺山はまた次のような言葉を残し、二人が組する前衛短歌の立ち位置を明確にしている。 短歌を始めてからの僕は、このジャンルを小市民の信仰的な日常のつぶやきから、もっと社会性を持つ文学表現にしたいと思い立った。作意の回復と様式の再認識が必要なのだ。〜本書より抜粋 与謝野晶子にしろ啄木にしろ短歌は歌人の人生から湧き出る泉とも血液ともいえる。歌人の傷口についた血で書…
これで貴方もジュウラニアン。作家たちがこぞって絶賛する久生十蘭とは一体何ものなのか。変幻自在〈小説の魔術師〉久生十蘭のおすすめ短編小説10選。
その百科全書的知識、博覧強記の作風で〈小説の魔術師〉とまで言われた作家が、かつて日本にいました。久生十蘭という名前の作家です。 年季の入った読書家や作家の間に熱狂的なファンが多く、そんな彼らは〈ジュウラニアン〉と呼ばれています。 そんな久生十蘭の魅力あふれる作品を、ジュウラニアンを自称する私の視点からランキング形式でご紹介。膨大な作品の中から本当にすばらしいものだけを記載していきます。たまたまハズレをひいて、読まなくなるのはもったいなさすぎる!その思いからこの記事を書かせていただきます。よろしくお願いいたします。 目次 久生十蘭とは。 久生十蘭おすすめ短編小説ランキング10選。 作家たちの声。…
感想『粋に暮らす言葉』杉浦日向子著〜かわいくもかわいそうな私たちよ。くだらないからおもしろおかしい生をありがとう。
杉浦日向子(すぎうら・ひなこ) 1958年11月30日、東京生まれ。1980年「ガロ」で漫画家としてデビュ―。江戸の風俗を生き生きと描くことに定評がある。1993年、漫画家引退を宣言。「隠居生活」をスタート。江戸風俗研究家として多くの作品を残す。2005年7月22日、下喉頭癌のため46歳で逝去。 杉浦日向子、生前の言葉集。彼女のリズム、江戸っ子の息遣いに溢れている。 面白うてやがて悲しき鵜飼かな 芭蕉のこの句を思い出すたび、私の中に江戸が浮かび上がる。華やかで、悲しい。馬鹿馬鹿しいけど愛おしいのだ。 ざっくり言うと江戸は、武家の町(山の手)と庶民の町(下町)に分けられ、本書は主に、庶民(下町)…
感想『夜の果てへの旅 下』セリーヌ著〜エリ、エリ、レマ、サバクタニ!素晴らしきこの世界を怪物セリーヌと共にこき下ろす。
『夜の果てへの旅』は「明確な目的のある本」であって、その目的とは現代の人生の-いや、むしろ人生そのものの恐ろしさ、意味のなさに対して抗議することである。 上記はジョージ・オーウェルの評論『鯨の腹の中で』からの引用で、ある意味ではその通りであるが、この一文だけ読むと多少誤解を受けやすい。『夜の果てへの旅』を言葉でまとめようとすると、上記の引用文は非常に的を得ている。本書は世界への呪詛で満たされているからだ。 下巻ではバルダミュは苦学の末、医師免許を取得。放浪癖はなりを潜め、スラム街のようなところで場末の開業医として安住を目指している。医者としてのバルダミュは、善人になりきれない悪人のような雰囲気…
感想『夜の果てへの旅』セリーヌ著〜最低が最高になる不思議。愛すべき愚痴の天才セリーヌの傑作長編小説。
悲劇的ピエロ気質でうっかり戦争に参加したことから、果てのない地獄を遍歴することになるバルダミュ。 彼の「語り」で物語は綴られる。戦争、放浪、病気、失恋。バルダミュの遍歴はまるで血の巡りの悪いオデュッセウスよろしく辛酸を嘗め尽くす。ところが不思議なことに、本書の印象はどちらかと言えば明るい。辛くなる部分もあるが、曲の印象が歌詞よりも曲調に影響されることと同様に、天才的なまでに彼の悪態が冴えていて、つい笑ってしまう。 彼の悪態の素晴らしいのは、表現が面白く、基準が全て自分の生理的快不快を拠りどころとしているところだ。宗教や道徳はほとんど何の関係も持たない。強いていえば、趣味の問題はあるかもしれない…
大人が楽しめるとびきり上質の絵本です。悲しみと向き合う「私」の物語。 悲しみがとても大きいときがある。どこもかしこも悲しい。からだじゅうが、悲しい。 「私」は悲しみをだれかに話したい。たとえば私のママに。 「私」は悲しみをだれにも話したくない。だって私の悲しみは私のものだから。 悲しみは「私」にいろんなことをさせる。 むちゃくちゃに叫んだり、スプーンでテーブル叩いてみたり、人に言えないひどいことしたり。 わけもなく悲しい時がある。悲しみの雲が来て「私」をすっぽり包み込む。 いろいろなことが何年か前とはちがっていて、それはもう戻らない。 前とおなじでなくなったせいで、わたしのどこかに悲しみが住み…
感想『ツァラトゥストラはこう言った』フリードリヒ・ ニーチェ著〜深夜高速とニイチェ。神は死に人間は生きるの巻。
どの国、どの時代にも起爆的役割をになう思想がある。美術や伝統、革命や戦争、果ては迫害など表出手段は様々だが、本書『ツァラトゥストラはこう言った』は幸福にも散文詩のような物語形式において発表された。 そのまま通読しても、正直よく判らない。攻略本がないとクリアー出来ないRPGと同じである。ニーチェに関する本は無数に出版されているので、併行して読み進めると理解が深まり、いたく感動する。 あらすじとしては、30歳にして10年間山にこもったツァラトゥストラ(聖者、預言者にニュアンス近い)が、山を降り民衆に教えを広める物語。 まず彼は、当時の世界観では地球的規模の問題提起をする。「神は死んだ」である。ルサ…
本書の著者アンディ・ウィアーは、初めて書いた小説『火星の人』が世界的なベストセラーとなり、2015年にはマット・デイモン主演で映画化(映画化名オデッセイ)もされ、こちらまた大ヒットとなっている。 本書『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はそんな著者の第3作目。記憶を失い、どこかもわからない場所に閉じ込められている男が、記憶を取り戻しながら科学的思考を使い、宇宙規模の災厄に立ち向かっていくストーリーとなっている。 2021年にアメリカで刊行されると、すぐにベストセラーとなり、ライアン・ゴズリング主演でハリウッド映画化が進行している。 〜あらすじ&感想 楕円形のベッドの上、真っ白く円筒状の部屋で、2…
感想『うつむく青年』谷川俊太郎著〜読まず嫌いの俊太郎+〈k 。〉と嫉妬とお弁当。
<K。>の本って驚くほど内容がないの。読む価値なんてないよ。 君はたしかそんなことを言っていたね。 <K。>っておもしろいの?ってぼくが聞くと、きみはそう言って、いつもふくれっ面になるんだ。初めてきみの部屋に行って、あの完璧な仕上がりの本棚を見た時、なんだか神聖な気持ちになったんだけど、彼の全集があるもんだから、ぼくはてっきり好きだと思って聞いてみたんだけど・・・。 嫌いって言っときながら全集をもってるなんて、おかしなひとだなと僕はおもったんだ。けど、よく考えたら僕だって、嫌いだったはずの谷川俊太郎の詩集を何冊も持ってる。しかも最近はちょっと・・・・・・・いや・・・そんなことは・・・どうでも・…
感想『デカメロンプロジェクト〜パンデミックから生まれた29の物語』マーガレット・アトウッド他−著〜コロナVS文学。29人の小説家が未曾有のパンデミックを物語へと昇華させる。
二〇二〇年三月、あちこちの書店で売り切れになっていく十四世紀の本があった。ジョヴァンニ・ボッカチオの『デカメロン』、ペストが猛威を振るうフィレンツェから避難してきた男女の一団が互いに語って聞かせる入れ子状の物語集である。アメリカ合衆国にいる私たちがロックダウンに入り、隔離生活とはどのようなものなのかを知りつつあったとき、多くの読者はこの古典を道しるべにしようとしたのだ。〜中略〜それならいっそのこと、隔離中に書かれた新作小説を詰め込んだ、私たちなりの『デカメロン』を作ってみてはどうか?〜ケイトリン・ローパー 現実を根本から変えてしまうような重要な物語が進行中のときに、架空のお話に目を向ける理由は…
感想『氷』アンナ・カヴァン著〜地球が氷におおわれてゆく終末の世界で、男は少女を追って狂気の旅を続ける。
世界が氷に覆われていく終末の世界で、男はそんなことにはお構いなく、ただひたすら少女を追いかけます。美しく、狂おしいヒリヒリした物語です。
本書には二通りの読み方があります。 一章から五十六章までで完結する順番どおりの読み方。 そしてもう一つは著者の指定した順に読み進めていくもの。 73章から読みはじめ、1章→2章→116→3→84→・・・・の順番に読んでいきます。 2段組み557ページからなる本書は章数だけで言うと155章もある大ボリュームの鈍器本です。武器として使えます。 全体は3部構成となっており、<向こう側から><こちら側から><その他もろもろの側から>と題が打たれています。 私は結局のところ第一と第二の読み方を一度ずつ、そして最後にだらだらと<向こう側から>を一度通読しました。計3度読み通したことになります。 結果的に私…
トレヴァーの小説は、物悲しいと同時に美しい。そして常に変わらず誠実である。 〜サンフランシスコ・クロニクル紙 ウィリアム・トレヴァーについて。 〜1928年アイルランドのコーク州にて生まれる。アイルランドの最高学府トリニティ・カレッジ・ダブリンを卒業後、教師、彫刻家、コピーライターなどの職歴の後、60年代より作家活動に入る。65年、第二作『同窓』がホーソンデン賞を受賞。以降すぐれた長編、短編を発表し続け、数多くの賞を受賞している(ホイットブレッド賞は3回受賞)。短編の評価は極めて高く、初期からの短編集7冊を合わせた短編全集(92年)はベストセラー。当時現役最高の短編作家と称される。2016年1…
感想『 龍の刻(新定番コナン全集6)』ロバート・E・ハワード著〜そうだ!!「「筋肉」」を鍛えよう!!!→小説を読むことで筋トレのモチベーションを挙げるには。
未来少年ではない。見ためは子ども、中身は大人の名探偵でもない。コナン三兄弟の長男?凶悪マッチョ戦士のコナンである。 なんたら洋画劇場(TV・再放送)で何度となく見たアーノルド・シュワルツェネッガー主演『コナン・ザ・グレート』の原作。な、な、懐かしい。 ならず者、傭兵、海賊、一国の王。 名前がコナンなんて、可愛らしくさえあるのにその経歴は恐ろしい。 とにかくでかい、こわい、つよい。戦わされる敵役がかわいそうなほどだ。 本書は国王になってからのコナンが活躍する冒険譚だが、コナンは国王になってもその兇暴性は薄れていない。部下からは尊敬される立派なカリスマだが、キンメリア人(蛮族)である彼の個性は同時…
あなたの人生の物語 『あなたの人生の物語』 突飛な状況に現実感を持たすため物理学?系の説明があまりに過多で、理解できない箇所も多かったのだが、その反面主人公が自分の娘に対して語りかける並行部分の文章の方は、埋め合わせのように情感に満ち満ちているようで感動を呼び起こす。まさに、『あなたの人生の物語』なのだ。 『地獄とは神の不在なり』 仮にもし、私が極度の金持ちで、単純に自分の好きな作品だけで何かアンソロジー的なものを編むとしたならば、多分本書からはこの一作だけを大金を投じてねじ込みます。それくらいに気に入りました。SFという括りに著者はいるようだけれど、この作品は彼のSF作家としての特異性を顕著…
〜劉慈欣について。 1963年山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短編を執筆。『三体』が2006年から中国のSF雑誌〈科幻世界〉に連載され、2008年に単行本として刊行されると、人気が爆発。アジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。『三体』三部作は全世界で2900万部以上を売り上げた。日本でも『三体』三部作は合計58万部を売り上げる大ヒットシリーズとなった。今もっとも注目すべき作家のひとりである。〜本書より抜粋。 めっさ面白かった。 ひさしぶりに発売日当日に本を購入した。『三体』三部作でそれはそれは度肝を抜かれたのだけれど、本作も短編集ながら超弩級の…
感想『傷跡』ファン・ホセ・サエール著〜傷は人間を変質させる。彼らがこの世界で暮らすには、自らの異質を世界に無理に馴染ませていくしかない。
『傷跡』を読んでまず目を引かれるのは、いずれの登場人物もどこかしら【変】だということだ。彼らはみな常識的な規範から少しずつ(あるいはかなり)ズレている。このズレはなんの変哲もない日常的な光景を〈異化〉することによって、読者の脳裏に忘れがたい印象を残すことになる。 本書は四章で構成されていて、いずれの章もそれぞれ異なる人物を主人公とする独白形式で描かれている。ひとつの事件を軸にその4人が章を追うごとに交錯していくのだが、あと書きによると、それぞれの登場人物たちの背景には1955年にアルゼンチンで失脚した※ペロン政権側についていた人々の、埋める事の出来ない心の傷がほのめかされている、とある。 ※フ…
本好きのあなたへオススメするAmazonプライムの無料体験。1000冊の本がタダで読めるうえ、読書時間まで確保出来る。小説原作の映画も沢山見れる!メリット、デメリットとその具体例書きます。
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感想『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ著〜+カオス畸形児無秩序老婆+
冒頭。ブリヒダという老婆が死んだことについて、何の断りもなく大勢の人間が現れて、入れ替わり立ち代わり喋っている。 しばらくして、ベニータという名のシスターが、一人の男に自転車を運ぶよう指示をだす。ムディートと呼ばれているその男は聾唖者であり喋れない。 亡くなったブリヒダは晩年は修道院に入っており、彼女をめぐる今までの語りのすべては、修道女やもとの主人、そして老婆のものだった。 しかし突如そこに「俺」から始まる一人語りが混じり始める。 この「俺」を一人称として用いている語りは、唖のムディートのものなのである。ムディートはどうやら小男で、周りからは従順に働きはするが少し頭の弱い者として位置づけられ…
感想『一文物語集』飯田茂実著〜同僚たちと花見の席で大騒ぎをしている最中にふと、自分が前世でこの樹のしたへ誰かを殺して埋めたことを想い出した。(本文より抜粋)
1行から4行ほどの文章で、一つの物語が始まり、完結する。文字数が少ないので、つかわれる一文字一文字の硬度は高くなり、ひとつの文節が持つイメージ量は必然それなりの大きさが必要となってくる。足りない情報は、読者が勝手にイメージすることで埋め、物語をなかば共犯的に作り上げていく楽しみを感じるようになる。 休日に家族を連れて入った映画館で偶然、若いころ同棲していた少女が女優として出演している映画を見て以来、毎日会社をさぼって映画館へ行き、ぼんやりとその映画ばかり観ている。 立派に物語になっている。時代は多分現代にほど近く、子供連れで映画に行く年代20代後半以降の男性か。以前同棲していたその女性に想いが…
感想『ランボー詩集』堀口大学訳。〜永遠と太陽をつがわせる文学の非道。
文学こそがすべてなのだ、最も偉大な、最も非道な、運命的なもの。そしてそうと知った以上、他になすべきことはなかった。 上記は、『悲しみよこんにちは』で19歳にして時の人となるフランソワーズ・サガンの言葉。 彼女はランボー詩集『イリュミナシオン』を読み上記の言葉を残す。作家となる決意を固める。 翻訳者は数名おり、小林秀雄、中原中也などそうそうたるメンツだが、私のひいきは堀口大学。 それというのもある一つの詩のある一文の訳し方に大きな相違点があり、私は堀口訳でしかしっくり来ない。 ある日曜日、小田急の鵠沼海岸駅でおり、江の島まで散歩していた。時間にして15分くらい。 やけに天気のいい日で、陽射しが気…
感想『一九八四年』ジョージ・オーウェル著〜蟻のウインストン・海のオブライエン
彼のやろうとしてしていること、それは日記を始めることだった。違法行為ではなかったが、しかしもしその行為が発覚すれば、死刑か最低二十五年の強制労働収容所送りになることはまず間違いない。~中略~ペン先をインクにつけた彼は一瞬たじろいだ。戦慄が体内を走ったのだ。紙に文字を残すということは運命を決めるような行為だった。ちいさくぎこちない文字で彼は書いた-一九八四年四月四日-椅子の背に身体をもたせる。どうしようもない無力感に襲われていた。まず何より、今年がはたして一九八四年なのかどうか、まったく定かではない。(本書より抜粋) ビッグプラザーが支配するこの世界では、人々は厳しく管理されている。ウインストン…
感想『ユービック』フィリップKディック著~どんでん返しありの傑作SFサスペンス。無類の面白さ&無一文で世界を救う男ジョー・チップのハードボイルド(サイキック)ワンダーランド。
まず結論からいうと、相当面白かった。 著書の『アンドロイドは電気羊の夢をみるのか』を読んだときにも、そのあまりの面白さにぶっ飛んだ記憶があるのだが、今回はそれ以上にぶっ飛んだ。 主人公のジョー・チップは、不活性者(反超能力者)側の検査技師で、知人のスカウトマンがつれてきたある能力者と知り合うことで、物語が急転していく。彼女の不活性の能力はプレコグ(未来予知者)の能力を無効にできるもので、それはある意味過去を変える能力でもあった。 この破格の能力を持った若く美しい女性パット・コンリーがこの素晴らしい物語に強烈なサスペンスの要素を持ち込んでいる。それと、ジョー・チップたち反超能力者集団の精鋭メンバ…
幻想文学の名手フリオ・コルタサルのおすすめ短編小説ランキング 10選。
幻想文学の名手フリオ・コルタサルのおすすめ短編小説ランキングです。個人的な選出ですが傑作ぞろいです。ぜひご覧ください。
私のなかにある少ない言葉で、本書の魅力を伝えることは非常に困難だ。だけどもこのように素晴らしい本を縁あって読んで、それによって何かを感じることが出来たのだから、曲がりなりにもそのことを、文字として残すことに何かしら意味はあると思いたい。 スティーブン・ミルハウザー著『ナイフ投げ師』は十二の物語の収録された短編集。印象に残ったものをいくつかご紹介。 『ナイフ投げ師』 つまらなそうな表情で、たんたんとナイフを投げる男、ヘンシュ。神業とも言える彼のナイフ投げだが、それを見守る観客のなかにうごめいている暗い興奮状態にはある一つの理由があった・・・・。 『ある訪問』 妻をもらった。訪ねて来い。長く連絡の…
感想『精霊たちの家』イザベル・アジェンデ著〜まず三つ。闇の中の光の痰壺。
まず三つ。 ①本書は金銭を目的として書かれたものではない。 ❷わたしたち、読者の身の安全は確保されている。 ③傑作である。 上記の①〜③について、順をおって記載していく。 ①に関しては著者の経歴をみて、本書を読めば明らかである。本書『精霊たちの家』は、著者の母国であるチリをモデルとして展開される女系3代と強烈なエゴの持主である一人の男を軸として繰り広げられる壮大な血の物語だ。本の分厚さやでたらめな重さに反して案外詠みやすい。登場人物は多いが理解はたやすい。精霊や、予知や、テレパスなどがさらりとでてくる。ラテンアメリカの風土なのだろうか。 序盤、中盤と読み進めても読中の印象はせいぜい秀作といった…
感想『騎士団長殺し』村上春樹著〜注意。村上春樹ファンの方は読まないでください。個人的な村上春樹氏に関するくだらない思い出話です。
※この文章は書評というより私個人の思い出話です。あらすじなど詳しく知りたい方は先行書評に素晴らしいものが多いのでそちらをお読みください。そして本文はあくまで個人的に感じた内容が書かれています。失礼なもの言いや、見当違いのことが書かれていても愚か者の書いたことだと笑ってお許しいただけたら幸いです。 ~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~ はじめて村上春樹を読んだのは、おそらく10代の半ばだったと思う。『羊をめぐる冒険』という、一風変わったタイトルの小説だった。衝撃を受けた。面白過ぎる。この著者は、何故このような独特な文章をかけるのだろうと不思議に…
あらすじ(本書より抜粋) 1970年の夏、海辺の街に帰省した(僕)は友人の(鼠)とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。 二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、(僕)の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。 青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。 感想 今の人の言葉でいったら、『エモい』というのかも知れない。全体をとおして乾いているような、もの悲しいような世界感のなかで、(僕)だけが何か悟ったように超然としている。それはクールをよそおっているようにも見えるし、ただの変わり者を演じているだけのようにも見える。まるで地面から…
感想『ホテルニューハンプシャー上・下』ジョン・アーヴィング著〜記憶の余命。おれアイオワ・ボブみたいな爺さんになるよ。
わたしの記憶は、誕生した瞬間にすでに晩年である。 まるでカゲロウ。哀れなものだ。 読んだ本にしても同じことで、 もうすでに本書の記憶は死のうとしている。 よってこのおぼろげな雑文は弔辞である。 ホテル・ニューハンプシャーと 生きとし生けるすべての変人たちへ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・絶句された。 ジョン=アーヴィングをまだ読んでいないなんて!! わたしがボケーッとしていると、 これからあの楽しさを味わえるのがうらやましいと言う。 なるほど・・この人がいうのならそうなのだろうと読み始めた。・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・…
感想『世界文学全集、失踪者・カッサンドラ』フランツ・カフカ著〜それは夢の世界であった。
青年の放浪と成長の物語といえば一見よくありそうな設定なのだが、カフカの書くそれはやっぱりなんだか異質なものとなっている。突如現れるそのひずみに虚をつかれ思わず二度読みしてしまう。 別段、文章じたいに変わった印象は受けない。とても簡素で読みやすい。飾り立てた感じはないし、気どりも、優雅さも、斬新さも、別にない。多分。 おかしい。でもやっぱり変だ。カールの偏った正義感とか、賢いのか馬鹿なのかよくわからないところは、若さゆえのバランスの悪さと理解することはできるとしても。 物語の冒頭、16歳のカール・ロスマンは移民船に乗ってニューヨークへやってくる。年上の女から誘惑され関係を持ってしまったがゆえ、世…
中央アメリカの小国ニカラグアは1937年~1979年の間、アメリカの武力干渉を受けた国家警備隊を背景とした親米政権の独裁を受けていた。 ソモサ王朝と呼ばれたその政権はソモサ一家3代にわたる世襲政権でニカラグアの国内総生産の約半分を一家の系列企業で独占し、反対勢力は革命軍(サンディニスタ)は虐殺、拷問し、批判的なジャーナリストは妻子もろとも誘拐した。 1972年のマグアナ大地震において首都が壊滅状態になった際には、世界中から贈られた支援物資を自身の系列企業と懐に着服し、なおかつ被災者を保護するはずの軍隊(国家警備隊)は略奪を行った。 1961年海をまたいだ隣国キューバの革命に影響を受け、サンディ…
感想『愛しのグレンダ』フリオ・コルタサル著〜1日過ぎちゃったけど、8月26日バースデー記念書評。コルタサル読みはじめの幸福。
優しいけれどちょっと馬鹿。 そんな男の語る倒錯したラブストーリーってやつがあるとしたら、それは個人的にとても好きなジャンルの小説だ。いちいち主人公の言うことが共感できて、こころがリズミカルに弾みだす感覚が味わえる。 本書『グラフィティ』『自分に話す物語』の二編にそんな雰囲気を感じ取り、ウキウキと読み始めたが、出だしに反して物語は二転三転し、幻想、ミステリ、暴力、政治、ホラー、ドキュメント・・etc、と一筋縄ではいかないコルタサルの魔術的秀作短編集であった。 まさに再読ありきの味わい深さ。特にコルタサルの作品は書き出しに良いものが多く、本書では『自分に話す物語』の<それ↓ >がわたしは好きだ。引…
あなたの人生の物語 『あなたの人生の物語』 突飛な状況に現実感を持たすためとはいえ、物理学?系の説明があまりに過多で、わたしのようなド文系かつボンクラの人間にはなんのこっちゃ判らない記述がかなり多かった。そのためすっ飛ばしながら読むことも多かったのだけど(反省)、その反面、主人公が自分の娘に対して語りかける並行部分の文章の方は、埋め合わせのように情感に満ち満ちているようで感動を呼び起こす。まさに、『あなたの人生の物語』なのだ。 『地獄とは神の不在なり』 仮にもし、私が極度の金持ちで、単純に自分の好きな作品だけで何かアンソロジー的なものを編むとしたならば、多分本書からはこの一作だけを大金を投じて…
感想『三十歳』インゲボルグ・バッハマン著〜私たちは全てを欺いている。そしてそれを社会から、人生から侮辱され続ける。
インゲボルク・バッハマン(1926~1973)。オーストリアの詩人、小説家。 1949年、23歳の時マルティン・ハイデッガーに関する論文で哲学の博士号を取得する。 学生時代パウル・ツェランと恋仲にあったことでも有名。二人の往復書簡は2008年に公表され、『バッハマン/ツェラン往復書簡 心の詩』として青土社から出版されている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 私が最初にバッハマンを知ったのも、パウル・ツェランを通してだった。 ツェランの詩は極度に硬質で圧倒的な存在感を持っていた。当時の私にはバッハマンの名は覚えていることすら叶わなかった。 昨年になり…
17年前に刊行された第一作品集、『あなたの人生の物語』を読んだときも、衝撃を受けたのを覚えている。当時の印象は、とにかく知的だということだ。ひどく洗練されている。SFというジャンルは、出版された時点での社会のテクノロジーの進み具合によって、小説のなかで描かれる世界観や未来像がどこかぎこちなくなってしまうことがどうしても目立ってしまう分野だ。 しかし、『あなたの人生の物語』の中の、どのストーリーを読んでみても、そのような違和感は一切感じなかったのを覚えている。もちろんアイディア、心理描写、ストーリーテリングなどにおいても全く文句のつけようのない素晴らしいもので、わたしは一気に彼の大ファンになって…
感想『ランボー詩集』〜酔いどれ詩人永遠をカタる。ある日曜日の海辺にて。
文学こそがすべてなのだ、最も偉大な、最も非道な、運命的なもの。そしてそうと知った以上、他になすべきことはなかった。 上記は、『悲しみよこんにちは』で19歳にして時の人となるフランソワーズ・サガンの言葉。 彼女はランボー詩集『イリュミナシオン』を読み上記の言葉を残す。作家となる決意を固める。 翻訳者は数名おり、小林秀雄、中原中也などそうそうたるメンツだが、私のひいきは堀口大学。 それというのもある一つの詩のある一文の訳し方に大きな相違点があり、私は堀口訳でしかしっくり来ない。 ある日曜日、小田急の鵠沼海岸駅でおり、江の島まで散歩していた。時間にして15分くらいかな。 やけに天気のいい日で、陽射し…
感想『北回帰線』ヘンリー・ミラー著〜<百色の語彙>原始の太陽は安宿に泊まる。
もしかしてこれは・・(ページをめくる手を止める) まさかね。う~ん・・(思い出したり考えを巡らす) いや、すごいけど・・・(3ページほどさかのぼる) いやいやいやいや・・・(深呼吸) やっぱりそうか。・・・(気づき) ああ、すげえ。・・・(おしよせる感動味わってます) すごいのにあたっちゃったな。ああ、すごい。 すごいなあ、これ。 上記が本書を初めて読んだときのkon吉です。 めぐりあったが運の尽き。悪友が欲しい方にお勧めの本です。 根元的な現実へのわれわれの嗜欲(しよく)を取り戻す。-もしそういうことが可能だとすれば-そういう力のある小説がここにある。~中略~ そして、この書で我々に与えられ…
感想『人間この劇的なるもの』福田恒存著〜ハムレットになる方法。
A:福田恆存にあった?小林秀雄の跡取りは福田恆存という奴だ。これは偉いよ。 B:福田恆存という人はいっぺん何かの用で家へ来たことがある。あんたという人は実に邪魔になる人だと言っていた。 A:あいつは立派だな、小林秀雄から脱出するのを、もっぱら心がけたようだ。 B:福田という人は痩せた鳥みたいな人でね、いい人相をしている。良心を持った鳥の様な感じだ。 A:あの野郎一人だ、批評が生き方だという人は。 上記は、昭和23年「作品」創刊号に掲載された対談で、Aが坂口安吾、Bが小林秀雄。気のおけない二人はそれぞれの文学感について遠慮会釈もなく語り合っているが、福田恆存に関しては上記のように二人とも好感を示…
A 自分の人生の主役は自分だ。となると、他人の人生においては、誰もが脇役でしかない。 B 小説にしても映画にしても、敵役が強力でなければヒーローも輝かない まるで箴言のように印象的な書き出しでエッセイは始まる。 ほうっと思う間もなくあらすじの説明が来る。込み入った事情でもすっと理解できてしまう整理されつくした書き方。著者がそれぞれの映画の世界観を深く理解しているのがわかるし、印象的なシーンを切り取る視点の良さと語り口の面白さにセンスを感じさせる。 C 断崖絶壁の上に、あぶなっかしく立つ電話ボックス。案の定、車に当てられただけでいとも簡単に、ぽーんとはじき飛ばされる。そのまま、のどかに宙を舞い、…
本書には二通りの読み方があります。 一章から五十六章までで完結する順番どおりの読み方。 そしてもう一つは著者の指定した順に読み進めていくもの。 七十三章から読みはじめ、1章→2章→116→3→84→・・・・。 2段組み557ページからなる本書は章数だけで言うと百五十五章あります。 全体は3部構成となっており、<向こう側から><こちら側から><その他もろもろの側から>と題が打たれています。 私は結局のところ第一と第二の読み方を一度ずつ、そして最後にだらだらと<向こう側から>を一度通読しました。 結果的に私のささやかな読書人生のなかで最も手ごわいものの一つであったことは間違いありません。 文量の多…
感想『三体Ⅲ』死神永生・上下~人類VS三体人。超絶スケールの大SFここに完結する。
あらすじ 全作において一時的に三体文明をしりぞけることに成功した人類。その一方で、極秘のプランが進行していた。 『階梯計画』といわれるこの計画は、三体文明に人間のスパイを一人送り込むという奇想天外なものだった。この不可能とも思えるプロジェクトの鍵をにぎるのが、第三部の主人公、若き航空エンジニアの程心(チェン・シン)。 そして『階梯計画』のスパイ候補として浮上したのが、彼女の学生時代の友人。孤独な男、雲天明(ユン・ティエンミン)だった。この二人の関係性がやがて全宇宙の運命を巻き込む壮大な鍵となっていく・・・。 始めに冬眠ありき。 第三部における最重要事項のひとつは、人類は冬眠技術を確立していると…
書評『三体Ⅱ~黒暗森林上・下』劉慈欣著~傑作!!SF好きなら、いやそうでなくても 読んでおいた方がいい!圧倒的エンターテイメント!特にこの2部!黒暗森林編!!
~あらすじ 四百数十年後に地球に到達する三体人の大艦隊。 一方人類は、ソフォンによる監視と妨害により、対抗するための科学的発展もままならない。 起死回生の一手をさぐるべく、面壁計画を実行する人類。 計画を託された4人の面壁者のメンバーに葉文傑により宇宙社会学の公理を話された人物 ルオ・ジーがいた・・・。 ~三部作のなかでもこの二作目、黒暗森林編が圧倒的に面白い!! 二作目では、面壁者の一人であるルオ・ジーが主人公となっている。彼は知性もそこそこ、責任感も希薄な人物だが、あまり物事に頓着しない楽観的なところのある人物。他の面壁者が元大統領とか、それぞれの科学分野のトップだったりするところを考慮す…
書評『三体Ⅰ』劉慈欣著 ~ 現実を忘れたいなら三体を読もう!SF界のオールタイムベスト確実!
あらすじ(物語冒頭部分) 1967年、文化大革命の糾弾集会で、目の前で父を殺された天体物理学者の葉文傑(よう・ぶんけつ)。自身も迫害を受ける過程のなかで、ひとつの信念がこころのなかに芽生える。 ~人類はみずからを修正できない。外部からの手助けがいる。~ やがて、自らの経歴を買われ、軍の研究所で働くこととなった彼女。過去を忘れるために研究に没頭するうち、彼女はそこで信頼を勝ち取り、研究所の本当の目的についてしらされることとなる。 施設にある巨大なパラボラアンテナ。それを使用した他国の宇宙空間にある衛生の破壊。そう教えられた目的に加え、実は地球外にすむであろう知的生命体へのメッセージの送受信もその…
書評『インスマスの影・クトゥルー神話傑作選』H・P・ラヴクリフト著~ こころのなかに魚顔の悪魔を飼う。
以前から、興味はあったのだ。 悪魔だの地球外生命だの、そんなものはうさんくさい。どうせよくあるような話だろうなと思いつつ、神話とまで呼ばれるこのクトゥルーの一連の物語を読まずに済ませてきた。 べつに、こんなものに手を出さなくても、世の中には面白い小説がごまんとあるからだ。わたしは別に読むのが早くもないし、もうそこまで若くもない。これから読める本の数は限られている。本当に面白そうなものでしか読む暇はないのだ、そう思っていたから・・・ 後悔した。もっと早くに読んでおくべきだった。これだから私は・・・。 新潮文庫より新訳版がでたのをきっかけに、何気なく読んでみたら、この物語群のもつ不穏な空気感に魅了…
書評『本当の自由を手に入れるお金の大学』両学長著 ~「国語・算数・理科・社会・お金」日本の教育がこうなった時にはじめて本当に豊かな社会が出来上がる。そして「お金」の教科書は本書がふさわしい。
あなたは、 「俺(わたし)はこの会社であと何年働いていかなきゃならないんだろうか(疑)?」とか 「週5ってどう考えても働きすぎだろ(怒)!俺は週2くらいがちょうどいいんだ(怒)!」とか 「そもそもなんで働かなきゃいけないんだよ(哀)。おれの仕事は主に二度寝だ(願)!」とか 思ったことはありませんか? (胸をはり誇らしげな態度で)私はあります!! (突然偉そうな態度で)そもそも週5で一日8時間も働かなきゃいけないなんて、これがほんとうに文明的な社会ってよべるのかなあ? もっと言えば私(コン吉)は自分にも他人にも甘いタイプだから、その影響で同じく週5で保育園なり小学校なりにいかなければならない乳幼…
こうして話を始めるとなると、君はまず最初に、僕がどこで生まれたかとか、どんなみっともない子ども時代を送ったかとか、ぼくが生まれる前に両親が何をしていたかとか、その手のデイヴィッド・カッパーフィールド的なしょうもないことあれこれを知りたがるかもしれない。でもはっきり言ってね、その手の話をする気になれないんだよ。(本文より抜粋) 1984年に白水Uブックスからでた初版の野崎孝訳では上記の文章は以下のようになっている。 もしも君が、ほんとにこの話を聞きたいんならだな、まず、僕がどこで生まれたとか、チャチな幼年時代はどんなだったのかとか、僕が生まれる前に両親は何をやってたとか、そういった(デイヴィッド…
例えばあなたは職場で、学校で、家庭で、だれかに嫌なことを言われて、 「あ~、イライラする!あのときこう言ってやれば良かったなあ」なんて思うことはありませんか? 私はしょっちゅうあります! 言われたその場では、ずいぶんおかしなことを言っているなあ、とか問題はそこじゃないんだよなあ、とかそれって俺にいうことじゃないんじゃないの?とか、漠然とした違和感は感じるものの、自分のなかで反論するための論拠が、すぐに思いつかなかったり、まあ一理あるかもしれないし、この人も言いたくていってるんじゃないかもしれない、と思ってその場でなにかいうようなことはしないんですけど、その日一日イライラして、その事ばかり考えて…
書評『科学的にラクして達成する方法』永谷研一著 ほんとうの三日坊主の治し方。
三日坊主は治せる。 そんなことを言われたらあなたはすぐに信じられるだろうか。 明日からダイエットするぞ! 明日から毎日一時間勉強するぞ! 明日から早起きするぞ! そんな決意をわたしたちは一体なんど繰り返してきただろう。 ご多分にもれず私も同じ。いままで何度となく決意しては挫折してきた。 英語教室に通ってはすぐに挫折、入学金をどぶに捨て、 大学受験では毎日の勉強がおっくうで一浪を経験している。 早起きに関しては二度寝が大好きすぎて実行できた試しがない。 そんな私にも、なんとなく読んだ本書のおかげで驚くほどのことが起きた! 私の場合、 30分~1時間の資格のための勉強。 筋トレ。 翌日のための主…
書評『ノア・ノア〜タヒチ紀行』ゴーギャン著 書かれているが、書かれていない。書かれていないが、書かれている。
素晴らしく薄い本だ。 「これは紛れもなく、旅本だな。」そんな気がして、ジーパンの尻ポケットに入れて先月一人、長野県上高地へ旅行に行った。大正池の脇の遊歩道をぶらぶら歩いていると、目の前を流れる大正池の澄んだ水が、本の中の小川と重なり合う。 私の心は平静に帰った。そして、小川の冷たい水の中へ飛び込んだ時には、精神的にも、肉体的にも、限りない喜びを感じた。「冷たいだろう」と彼は言った。「いいや、ちっとも!」私は答えた。この叫び声は、今私が、私自身のうちに、あらゆる腐敗した文明と戦って、断然勝利を収めた争いの終結を告げるように思われた。 ~Paul・Gauguinポール・ゴーギャン~ ~~~~~~~…
落語とは、つまるところ一人芝居だ。 すべての登場人物を、噺家はたった一人で演じ分ける。 ひとつの物語に主人公と、主要人物2~3人。 その他ゆかいな脇役たちが数名。多くて10名ほどの 人物を15分から30分くらいの間で演じ分けることになる。 噺家の個性は、千差万別百花繚乱。 生きざまそのまま、背負い込んで座布団の上にチョコンと座る。 落語は究極のシンプル芸であって必要なものは扇子(センスではない)と 手拭い、座布団とお茶ぐらいなものである。 だが、噺家が巧者であればあるほど。 何もないはずの噺家の周囲に、長屋が見えてくる。吉原が見えてくる。 満開の桜が見えてくる。お化けも、美人も。若さも。老いも…
R3.6.25 yama『versus the night 0.0』を見て、甚く感動した話。
歌手のYamaさんがたった今、YouTubeでライヴの無料配信をされていた。 素晴らしかった。ほんとうに素晴らしかった。 歌のうまさと声の良さが他のどの歌手よりも 頭抜けている。もはやもう神ですか。貴女は。 胸になにかをつめこまれてしまったようだ。 そしてそれが生あたたかい温度を持っている。 身体が浮遊している感じ。 いまだに歌声につつまれている。 生きているのは素晴らしいことだ。 これからも彼女の歌声を聴けるんだから。 (function(b,c,f,g,a,d,e){b.MoshimoAffiliateObject=a; b[a]=b[a] function(){arguments.cu…
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