会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。
さて、一息ついたら、我々二人はえっちらおっちらと建造物の斜面をよじ登り始めた。途中からはロッククライミングの様相を呈してくる。何しろ目の前に壁のような段差がせり出しているのだ。 最初はいいのだが、中腹から突然勾配が急になる。 不揃いの段差たちに、翻ろうされながら一気に登る。 エセキエルと一緒に上るが、すでに建造物1で体力を消耗しているので、逆にゆっくり上ると疲れそうだ。何段か上ってから、休憩なしで一気に駆け上がることにして、頂上までたどりついたが、息はあがっている。 途中ジャガーの顔が形どられたところで、エセキエルの説明を聞く。 向かい側には建造物1が見える。それ以外は、とにかくジャングルだ。…
プルプルと小気味よいけいれんを時折起こす太もものまま地面に降り立ったら、歩くときに少しよれよれとした。でも人に気付かれるのが嫌なので、顔だけでも平然とするよう心がけてみた。他のガイドと談笑していたエセキエルを見つけ、上での気持ちの良さをあれこれ伝えた。 「そうだろう。でももう1つの方はもっと高い。今度は俺も一緒に登るわ」 向かいにある建造物1まで二人で5分ほど歩いたが、途中でカサ・カーンで宿泊中のオランダ人家族に会った。おっ、お前もか、みたいな感じで挨拶をしただけだが、やはり目当てはカラクムル遺跡だった。相変わらず、彼らは子供が周りでパタパタと騒がしく動き回っていた。レストランでは別の席だった…
ばらばらと並ぶ石碑のラインを通り抜け、ピラミッドの下で待つエセキエルをしり目に、僕は靴が3分の2ぐらいしか踏めない狭い石段を登り始めた。 どのメキシコの遺跡もそうだが、勾配は急で、体力に自信がなかったり、脚力が弱いと思っている人は上らない方がいい。こんなところで「階段落ち」なんか演じている場合ではない。そもそも人が少ないから、よく海岸の観光地でいるライフガードもいない。 勾配の角度は最初は体感でしかないが45度ぐらいあるはずだ。そして途中からもっと急になる。一段に靴は縦に普通に段差にのせるとかかとがはみ出すこともあるので、余裕をみて30㎝として、高さは膝のちょっと下ぐらいだった。僕の膝までの高…
ウヨウヨと生える石碑とややこしいマヤのカレンダーの巻(第14話)
なぜかカラクムルの遺跡には、石にレリーフで人物像が掘られたエステラと呼ばれる石碑がたくさんある。その数はマヤの遺跡の中でも突出して多い。その数は117本だという。「本」を単位として数えていいのか分からないが、とにかくあちこちに立っている。 「これは王様」、「これは捕えられ、囚人になった他の都市の王様」などと一つ一つ説明を受けた。不思議なことにエセキエルは石碑の左側面に記されたマヤ文字を解読し、ときに本を見ながら数字を確認した。しっかりと年号が記録されているらしいのだ。 マヤ文字はしっかり読める文字として機能していたみたいだ。ただし、現代社会のように識字率が90%を超えるような状況ではなく、一部…
駐車場はとにかく工事中だった。 というか、この旅では行くところ行くところ、工事中だったという印象だ。 道路も駐車場も拡張したり、補修したり。 カラクムル遺跡の入り口駐車場は、拡張工事中。トラックが通るからと言って、交通整備のお兄さんに、一度停めかけたトヨタを移動するように言われ、エセキエルは面倒くせえなあという表情を隠さずに、工事車両が来ない場所を選んだ。 さっきの村人税のような保護区への入場料も、遺跡への入場料も僕は自分の分だけ払った。ガイドのエセキエルは首からかけたIDカードを見せれば無料だ。何せほぼ毎日来ているのだから、係員も顔見知りだ。 「だいたい4時間ぐらいいるからね」 と、森の中の…
今回、ガイドとの話題で何度も繰り返されたのが「マヤの古代文化の知性」と「鉄道施設による自然破壊」だ。 我らがベテランガイド、エセキエルはこの地で15年以上ガイドをしている、カラクムル案内専門家の第1世代だ。彼がガイドを始めた頃、道はそれほど整備されていなかったし、カラクムル遺跡にはきれいな駐車場や水洗トイレもなかった。なぜならやっと今、工事が完了しようとしているぐらい、最近本格的に観光に力を入れ始めたからだ。 それが、田中角栄ばりの剛腕オブラドール元大統領により、マヤ鉄道(スペイン語ではTren Maya)が建設され、広大なユカタン半島のジャングルを真っ直ぐに横切ってしまう線路が忽然と現れた。…
Yo Publico!というメキシコの出版社から、スペイン語版で出版です。 今回は、編集者が入って、オリジナルのイラストがふんだんに入ってます。 結構気に入っています。 期せずしてかわいくなったのは、僕の趣味というよりは編集者の好みです。 メキシコのAmazonで発売開始しましたが、El Zotanoという本屋さんにも置かれるみたいです。 www.amazon.com.mx 挿し絵とカラー写真入りです。 日本では買えないかもしれませんので、欲しい方がいたら、連絡ください。 今度帰国するときに持って帰りますので、お送りしますよ。 お知らせでした!
カラクルム生物保護区 7000ヘクタールってどんだけ?の巻(第11話)
カラクルムの生物保護区はエセキエルによると7000ヘクタールらしい。 でも、畑や田んぼを持つ農家でもない限り、ヘクタールという面積をイメージするのは難しい。日本人なら、ここでよく引き合いに出てくるのが「東京ドーム」だ。 東京ドームは4.6ヘクタールらしいので、7000÷4.6=1521個分だ。 やっぱりよくわからないね。 要するに、ブラジルのアマゾンの熱帯雨林の保護区の次に世界で2番目に大きくて、グーグルマップでみたら、世界地図レベルで俯瞰しても緑だらけだという広さだ。 生物保護区というだけあって、トリップアドバイザーのコメントを見ても「猿を見た、けどジャガーは見られなかった」、というなかなか…
こぼれないのか、こぼれるのか、ブラックコーヒーの巻 (第10話)
再生紙の紙袋の中身はこんなだった。 ・バナナ ・りんご ・シリアルバー ・1リットルの水(PETボトル) ・オレンジジュース(ブリックタイプ) ・サンドウィッチ 前夜のうちに、ホテルのスタッフからのおすすめ通り、サンドウィッチは木の壁に埋め込まれた冷蔵庫に入れておいた。その時に袋の中身を全部、ワインやコーヒーメーカーが置いてある台に広げておいた。ただ単純に起きてバタバタしているうちに食べ忘れないようにしたかっただけだが、その朝バナナの異変に気づいた。 ちょうど手で持つあたり、下4分の1あたりのところに見覚えがない穴が空いている。0.5ミリ程度の穴は分厚い皮を貫通し、身のところまで届いていた。確…
ジャングルの中で寝るのはこんなに寒いんですか?の巻 (第9話)
荷物もほどき終わって、コーヒーで一服したら、もう夕方の6時だった。 受付に併設されたレストランは半屋外になっていて、テントの延長みたいな骨組みだ。人懐っこい白と黒のまあまあ大きめの犬が二匹ウロウロと歩いている。どうやら食事のおこぼれに預かりたいのか、僕のところにもやってきたが、食事中だから撫でてあげられないし、餌もあげない。もちろん周りは木だらけで、知らない鳥がたまに枝から枝へ飛び移っていたりする。 受付兼レストランのカウンターの内側に陣取るメガネの女性に、明日紹介してもらったエセキエルというガイドが朝6時に迎えにくる旨を伝えた。小柄でショートヘアの彼女は、きっとこのホテルの事務作業をすべて取…
自然の中に放り出されて宿泊するとき、個人的に2種類のスタイルがあると思っている。 ひとつは、デジタル接続なしのスタイル。つまりWifiもない、携帯電波もない、前回の旅行で泊まったエバーグリーン牧場がそれだ。母屋以外からはWifiがつながらないし、携帯を見てもアンテナのバーは1本も立たないから、諦めがついて潔い。 だけど今回は、小屋の横にWifiのアンテナが各棟にそびえたっている。専用なので混み合って速度が遅くなることもない。 ガラスの大きな扉を開けてデッキに出ると、鳥のさえずりが聞こえる。幹が白い細い木がたくさん並んでいて、視界はやがて緑にさえぎられるが、匂いがいい。たぶん草だったり、葉っぱだ…
前にも書いたが、旅の行き先を決める時、トリップアドバイザーを頼りにすることが多い。 今回のホテルも、探した時の流れはいつもと同じだ。とにかくあまり迷って時間を無駄にしたくない。迷うことこそが楽しみだという考え方もあるが、僕の場合は単純にその時間の余裕がない。会社には行き先と日程を事前に伝えるというルールがある。 そこで何度も使っているうちに編み出したトリップアドバイザーの使い方が下に記した1から5のステップだ。 1.目的地にあるホテルすべてを評価が高い順に並べ替える。 2.5点満点で極力5つ丸がついているホテルを上から眺める。最低で4.5。 3.コメント欄は、ヨーロッパ人のものを中心に本音を言…
Ixpujil なんて読めばいいのか想像がつかないの巻 (第6話)
イシュプヒルの町は、ベリーズとの国境の町チェトゥマルから、内陸に向かって西に進んで2時間のところにある、人口3千人程度の小さな町だ。途中キンタナロー州とカンペチェ州の州境を超えるが、そこで1時間の時差が発生する。実はホテルに着くまでどの時間が正しいのか分からないまましばらく過ごしていた。 カラクムルがあるカンペチェ州は、若干メキシコシティに向かって西に戻る位置にあるため、また1時間時計を巻き戻さなくてはならない。携帯電話は電波がつながりさえすれば勝手に現地時間を変更してくれるが、僕が愛用しているアディダスの腕時計は自分で針を戻さなくてはならない。腕時計が正しいのか、携帯電話が正しいのか、結局ホ…
乗り合いタクシーは、4名の乗客が集まらない限り、絶対に出発しない。 僕が市場でダラダラ歩き回っているうちに、1台出発してしまったらしい。 もう何時に着こうが、今日中にホテルにさえつければいいわけだから、多少遅れても構わない。ファティマによると少しずつ人が集まるから、気長に待ってなさいとのことだった。 イシュプヒルまでは直行で2時間かかる。だからタクシーに乗り込む前にトイレに行くことにした。実は社長然としてデスクを構えていたチョンボさんは、トイレの代金回収担当だった。 「10ペソもらうよ。そこのバケツに水があるだろ、それ持って入りな」 小さなバケツに水がくまれていて、多少のサイズの違いはあれ5つ…
途中、メキシコならいたる所にある市場を通り過ぎ、角を曲がると乗り場らしきところについた。全く持ってこじんまりとしていて、路駐のタクシーが4台ほどあるからそれだとわかる程度だった。 「イシュプヒル行きはこっちだぜ」 と運転手の兄さんたちに誘(いざな)われるままに、70歳ぐらいのおっちゃんが待つ机に通された。そこできっとチケットを買うのだろうと思っていたが、ただの待合所で、料金はタクシーの運ちゃんに降りる時に払うシステムだそうだ。 「どこからきたの?」 待合室に座っていた、陽気な事務社員風の女性が話しかけてきた。 「日本さ」 「チェトゥマルは初めてかい」 「いやそうでもないよ。今回はカラクムルに行…
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