なんだがねぇ、さっぱりわがんねの、と母が手提げから出してみせたのは、スマホだった。「SMS、送ろうと思うんだけど、表示がごじゃごじゃ出てきてや」 泉ピン子に似た顔で、しんや、おしえて、という。 ホームヘルプサービスを利用しながらひとり暮らしをしている脳性まひの息子のようすをみに、地下鉄とバスを乗り継いで、昼ごろ母がきていたのだ。 使いなれていたスマホが不調になり、買いかえたばかりだった。必要な連絡がうまくできなくて、困っていたらしい。 母は八十代で耳が遠くなっていても、言語障害のあるぼくと会話が成り立つのは、聞きなれているおかげである。二人して画面をのぞき、「かあさん、プラスメッセージって、青…