41.センテッドゼラニウム

41.センテッドゼラニウム

「やあ。」 後ろから声がする。穏やかで、甘くて優しいテノール。 地声で喋る“貴族”は中々居ない。 (あいつか。) ゼニスは振り向いたが、やはり誰も居ない。 ただ、明るい黄緑色の光の粒が、キラキラと零れて消えていくのが見える。 「悩み事かい。」 (なんだ?知らない臭いがする) また後ろから声が聞こえたので振り向くと、今度こそ“彼”が居た。 あの日見た微笑みと袴姿のまま、焦茶に縁取られた透明な翅に黄緑色の光を乗せてくるりと回る。そうしてまた後ろへ回り込む様に飛翔し、翅を振るわせて宙に留まるのをゼニスは見送った。 「顔は浮かないし覇気が無い。」 「ちっ、どっかの誰かの所為で悩んでんだよ。」