筒井筒図縁頭夏雄恋物語である『伊勢物語』に取材した一首。幼馴染の恋歌だが・・・男「筒井筒井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに]女「比べ来し振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずして誰か上ぐべき」金工作品としては余りにも有名であることから、敢えて説明しないでおこう。筒井筒図縁頭夏雄
桜に雉図小柄堀江興成藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。花鳥十二ヶ月図揃い小柄より四月花「かざしをる道行く人のたもとまで桜に匂うきさらぎの空」鳥「かり人のかすみにたどる春の日をつまどふ雉のこゑにたるらん」桜に雉図小柄堀江興成
藤壺に雲雀図小柄堀江興成藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。花鳥十二ヶ月図揃い小柄より三月花「ゆく春のかたみとやさく藤の花そをだに後の色のゆかりに」鳥「すみれさくひばりの床にやどかりて野をなつかしみくらす春かな」藤壺に雲雀図小柄堀江興成
三夕図小柄『新古今和歌集』に取材した、夕暮れ時を描いた小柄。寂蓮「さびしさは其の色としもなかりけりまき立つ山の秋の夕暮」西行「心なき身にもあはれはしられけり鴫立つ沢の秋の夕暮」藤原定家「み渡せば花ももみぢもなかりけり浦の苫屋の秋の夕ぐれ」三夕図小柄
江ノ島図縁頭江戸時代には観光地として隆盛した江ノ島。古くは鴨長明も詠んでいる。「浦近き砥上ヶ原に駒止めて固瀬の川の潮干をぞ待」『鴨長明集』今はビルが建ち並んで見えないが、龍口寺門前の砂丘辺りから眺めた江ノ島。江ノ島図縁頭二題
柿本人麻呂図目貫「ほのぼのとあかしの浦の朝霧に島がくれゆく舟をしぞ思ふ」柿本人麻呂作と伝える和歌の一つで、装剣小道具では好んで採られた画題。絵画にも採られて有名。多くが人麻呂像と明石の海原を対比の構成とする。柿本人麻呂図目貫
武蔵野図鐔三題『続古今和歌集』に、源通方の「武蔵野は月の入るべき峯もなし尾花が末にかかる白雲」がある。これを本歌とりに、江戸時代につくられたのが「武蔵野は月の入るべき山もなし草より出でて草にこそ入れ」すすき野に沈む月を描いた作品が間々みられ、この図が大いに好まれたことが判る。古くからの東国の印象を、江戸時代においてもこのように表現していたのは面白い。起伏のないススキ原といった景色を想定しているようだ。朧銀地に銀の平象嵌で三日月を描き、ススキは片切彫。図の下端に月を描いている。亀眼の鐔は鉄地高彫、満月を同様に下方に描いている。友直の鐔はススキのみの描写のようだが、鐔の外形が満月。耳に金覆輪を施して月の印象を高めている。武蔵野図鐔三題
富士見業平図鐔『伊勢物語』の東下りから。富岳を越えると異国。富士を眺める貴人(業平)の都への想い。「時しらぬ山は富士のねいつとてか鹿の子まだらに雪のふるらん」『伊勢物語』は悲恋物語。壊れたハートを癒すために出た東国への旅だが、業平は都への想いをいっそう深めている。この図もあまりにも有名であり、幾つかの作品を見ている。富士見業平図鐔額川保則
蔦の細道図鐔鵜飼清好『伊勢物語』より。「駿河なる宇津の山辺の現にも夢にも人に逢はぬなりけり」東国へと向かう在原業平が、宇津ノ谷峠(蔦の細道)を越える際に詠んだ歌。蔦藪の茂る寂しい道を東国へと向かう。京への思いを深める作者だが、後の武士がなぜこの図を装剣小道具に採ったのだろう。人物が描かれていない留守模様とされているのが気持ちいい。蔦の細道図鐔鵜飼清好
八橋図鐔京透「唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」『伊勢物語』より、在原業平が詠んだとされる和歌。この「かきつばた」を詠み込んだ、あまりにも有名な図。様々な文様にも表現されている。ここでは写実味のある彫口の小柄と、簡潔な文様表現とされた京透の鐔を紹介する。文様表現ながら八ッ橋が描かれている。赤銅魚子地高彫金銀色絵の技法で写実味のある表現。ただし八ッ橋は描かれていない。八橋図鐔京透
芥川図目貫むかし男ありけり・・・と始まる『伊勢物語』。在原業平が昔を思い出して歌に詠んだものであろうか。喪失感の漂う一首である。「白玉か何ぞと人の問ひし時露と答へて消えなましものを」目貫の図は、男が女を奪って逃げる場面。後に捕らえられてしまうのだが・・・なぜこの図を装剣小道具の図に採ったのであろうか、こちらの方も興味深い。芥川図目貫
塩山千鳥図縁頭義胤松に千鳥の図を塩山(しおのやま)図と呼んでいる。蒔絵の文箱などの作例もある。「しほの山のさしでの磯にすむ千鳥君がみよをばやちよとぞなく」の和歌も良く知られている。詠まれた地は現在の山梨県山梨市。笛吹川の畔にある差出磯大嶽山神社の辺り。義胤鉄地高彫奈良利治鉄地高彫塩山千鳥図縁頭義胤
卯花に郭公(ほととぎす)図小柄堀江興成藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。花鳥十二ヶ月図揃い小柄より四月花白妙のころもほすてふ夏のきてかきねもたわにさける卯花鳥郭公しのぶの里にさとねれよまだ卯の花のさ月待つ比卯花に郭公(ほととぎす)図小柄堀江興成
紅葉に鹿図鐔正阿弥詠み人知らずながら、遍く知られている和歌であり、装剣小道具にも良く採られている。「奥山に紅棄ふみわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」正阿弥鉄地に古風な素銅と赤銅の色合いを活かした象嵌。保存10万円加賀金工この深まった秋の風情を、赤銅地に平象嵌と表面の腐らかしで、表現している。紅葉に鹿図鐔正阿弥
龍田川図鐔平安城象嵌文様化された龍田川の図。遍く知られている在原業平の和歌「千早ぶる神代もきかず龍田川からくれなゐに水くくるとは」を表現したもの。龍田川図鐔平安城象嵌
和歌の浦図二所春明法眼歌枕として遍く知られる和歌の浦。万葉歌人山部赤人の「若の浦に潮満ちくれば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴きわたる」を琳派の美観で表現したもの。裏板の描写もとても緻密。平象嵌と毛彫が活きている。和歌の浦図二所春明法眼
野々宮図鐔山崎派光源氏に別れを告げる六条御息所。『賢木』から取材している。象徴的な人気のない質素な鳥居と源氏の車のみを描いて留守模様。『源氏物語』でも装剣小道具に好まれて採られている場面。光源氏「暁の別れはいつも露けきをこは世に知らぬ秋の空かな」六条御息所「おほかたの秋の別れも悲しきに鳴く音な添へそ野辺の松虫」赤銅魚子地に綺麗な高彫色絵表現。野々宮図鐔山崎派
住吉図鐔西垣勘平松、鳥居、波、三つの要素で住吉大社。この松は雌雄一体となった相生の松。古くから知られており、住之江は歌枕とされている。住吉では定家の次の歌が有名。これを意匠化したのが肥後の西垣。肥後西垣派らしい簡潔な鉄地毛彫地透。藤原定家「あいおいのひさしき色も常磐にて君が世まもる住吉の松」住吉図鐔西垣勘平
秋草図小柄笄(目貫と三所物)信壽金無垢魚子地高彫に置金だろう。贅沢な造り込み。夏から秋にかけての華やかな植物を題に得ている。素材の持つ風合いも加わっていかにも夏の熱気が感じられる。裏面にも薄手ながら高彫が施されている。秋草図小柄笄(目貫と三所物)信壽
群馬図小柄古川常珍片切彫を得意とした常珍による、激しい動きが表現された馬の図。表はもちろん裏面まで、同じ調子の片切彫で表現されている。これも表裏関係ないほどに精巧に描写されている。群馬図小柄古川常珍
牡丹に獅子図小柄濃密な金無垢地高彫表現の牡丹獅子の背景には銀地に片切彫で牡丹図。同じ彫口で裏面にまで牡丹を彫り表わしている。表の金を活かすような巧みな構成。牡丹に獅子図小柄
盆踊り図小柄浜野矩随夏の夜の一場面。裏面には回り灯籠(回り提灯・走馬灯)。季節感が良く示されている。朧銀時に毛彫と赤銅の平象嵌。表の喧騒とは異なる、静けさが感じられる描写とされている。盆踊り図小柄浜野矩随
豆撒き図小柄仲上元次節分行事として知られる豆撒き。鬼が御福の面をつけて豆を食おうとしている。退治される側の鬼が、福豆を食おうとしているのだ。巧みな彫口で滑稽な場面を活写している。裏面はしめ飾りを、これも片切彫。豆撒き図小柄仲上元次
二雅図小柄堀江興成梅に椿の採り合わせで二雅。正確できれいな彫口からなる。裏面は簡潔な片切彫で御簾。『源氏物語』の一場面を思わせるような構図。二雅図小柄堀江興成
水辺風景図小柄加賀金工多彩な色金をもちいて平象嵌と毛彫で彫り表わすを得意としたのが加賀金工。先に紹介した小柄よりも、より濃密な平象嵌と言えよう。裏面は片切彫による水辺の風景。これも充分に表の図柄として通用する。水辺風景図小柄加賀金工
月に臥龍松図小柄加賀金工加賀金工による平象嵌の表現は特段に優れている。繊細な線描写と平面の組み合わせは、拡大鏡を使っての鑑賞にも耐え得る。加賀金工の高彫表現は比較すると少ないが、優れた作品もある。さてこの小柄は裏面に平象嵌を用いている。ここまで描くと裏面とは思えない。充分に小柄の表の図柄である。月に臥龍松図小柄加賀金工
蓬莱図小柄上杉有恒鳥の図を得意とした金工。表には亀の棲む島を描いて、裏に鶴。即ち蓬莱島。表は魚子地高彫仕立てで、裏にも精密な片切彫。裏の鶴は、これだけでも一つの作品になるほどの出来と言えよう。裏板の装飾にとどまらない。蓬莱図小柄上杉有恒
立鶴図小柄安達幽斎片切彫平象嵌の技法が得意な金工。特に激しい動きのある人物図に優れた技術を示している。その技法を鶴の生態に会した作。裏面下方に描かれているのは何だろう。立鶴図小柄安達幽斎
長坂坡図小柄熊谷義之劉備を逃すため、追跡してくる曹操を趙雲が長坂坡で迎え撃つ、といった場面か。主題の表の図を背後に連続させているのだが・・・こんな表現もありか。敢えて裏を左右においてみた。長坂坡図小柄熊谷義之
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